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- 2024/11/16
オール・ローズウッド・ギター
いろいろな意味で、今年1年どっぷりハマってしまったローズウッド。年の瀬も押し迫った某日、前回オーダーしたギター2本がいよいよ完成しました。木取りからフィニッシュまでふたりの製作家が精魂込め形にしてくれたものです。今宵、カスタム&オンリーワン楽器として世に放ちます。後世まで受け継がれること間違いないこれらの名器は、黄色いボタンをポチリとしていただければ、瞬時にあなたのものになります(もちろんお代はいただきますが)。それでは、究極マッチポンプ的企画、木フェチによる木フェチのための木フェチ・カスタム・ギター製作ストーリー完結編をお届けします。
お正月、箱根駅伝の号砲から遡ること数時間前(要するに1月2日)に施行されたワシントン条約・ローズウッド全種の輸出入規制。木材業者はもとより楽器メーカー、ショップ、ひいてはエンドユーザーにまで、「面倒くせっ~」状況を作り出しました。今までと同じように取引するには、しかるべき書類申請、認可などのプロセスが不可欠になったのであります。
製品メーカーからは、輸入製品におけるデリバリー遅延、差戻しなどのトラブル発生事例を方々で聞きました。零細木材業者でもある筆者においては、昨年暮れに仮注文した材が、輸出側による書類作成の遅れからつい先日(ほぼ一年遅れ)入荷したケースもありました。事務作業の煩雑さゆえ、条約該当素材の輸出自体を避けるサプライヤーも増えてきました。事務手数料をとったとしても見合わないビジネスということなのでしょう。
幸い、過去に輸入された材までは規制の網にかからず、国内であれば自由に使えたので、この企画も完遂することができました。カスタム・ギターにふさわしい素材探しのエピソードについては前回にも詳しく書きましたが、今さらながら、この時代に40年以上も前の材がよく残っていたものだと思います。企画の趣旨にご賛同いただき、お宝材を快く放出していただいた大盤の元オーナーさん、引き合わせてくれた知人木工家氏に改めてこの場を借りて御礼申し上げます。
それでは、昭和のローズウッド大盤を使ったギターをお披露目させていただきます。2本はもちろん同じ板=共木を使ったものですが、意図せずまったく違う個性を持つギターに仕上がりました。まずは両モデルの全体像と木になる(?)価格をご確認ください。
それではまず、山崎ギター工房の山崎俊氏の手になるオールローズ・モデルからご紹介いたしましょう。
FW(筆者) 本器のフォルムやスペックについて基本的なコンセプトをご紹介ください。
YGK(製作家・山崎俊氏) “自分が欲しくなるようなもの”を作って構わないとおっしゃっていただいたので、とにかく持った時にサマになるギターを作りたいと思いました。ローズウッドは割と地味な見た目なので、ボディ・シェイプを少し派手めなデザインにしてみました。
FW ボディの構造について教えてください。
YGK トップ、バックの真ん中にメイプルを挟み、それぞれ別のくり抜きを施してあります。完成時に4kg以内が目標だったのですが、それは達成できました。トップ、バックは共木ですが、トップには鮮やかな赤紫がかった変態杢が現われました。荒木の時には見えなかったので、製材しながら思わず見とれてしまったほどです。今まで使ったインドローズの中でも最高レベルの材だったと思います。
FW ネックも、もちろんソリッド・ローズウッドですね。
YGK 指板を貼らない1ピース・ネック仕様です。トラスロッドは裏から仕込み、カーリー・メイプルで埋め木しました。トラスロッドはβチタンを採用しています。演奏性を考えネック裏の仕上げはマットに仕上げ、メインテナンスのことを考えて、指板面の塗装はせずにオイル・フィニッシュとしてあります。
FW ピックアップは?
YGK PUは普段からお世話になっているGRINNING DOG® studioさんにギターのコンセプトを伝え、これ専用に巻いてもらったソープバー・タイプのシングルコイルです。6wayスイッチを使い、いろんな組み合わせの音が出せるようにしてあります。
FW 金属パーツへのこだわりは?
YGK ペグはGOTOHです。渋い仕上げのXニッケル・カラーが好きでローズウッドにも良く映えていると思います。ブリッジはチタン・プレートにブラス・サドルを使っています。テレキャスター用に僕がデザインしたアイディアをtatsuta Titanium Partsさんが形にしてくれたものです。サドルは他にもチタン、銅、アルミなどもあり、将来、お好みに応じて換えていただくこともできます。あっ、トラスロッドも同社製です。
FW 他にもPRポイントがありましたらご紹介ください。
YGK ボディは極薄オールラッカーでグロスに仕上げています。今回は素晴らしい素材を提供していただきありがとうございました。超YGKなギターに仕上がったと思います。
続きまして、Y.O.S.ギター工房、吉田友樹氏謹製のオールローズも見ていきましょう。
FW 本器のフォルムやスペックについて基本的なコンセプトをご紹介ください。
Y.O.S.(製作家・吉田友樹氏) ローズウッド・ギターに対するイメージは、ひと言で言えば“アダルト”。ややもすると基音ばかり豊富で地味にまとまってしまう傾向があるように思います。そこで、パーツ選定で現代的かつジャンルレスなサウンド・キャラクターを得るとともに、構造改良で演奏性を高めることを主眼として設計にあたりました。ローエンドに厚く、サステイン豊かなローズウッド・ギターの特徴を失うことなく、より実用性の高い楽器製作を目指したとも言えます。ボディ・フォルムはローズウッド・ギターの定番であるテレキャスターをオマージュしつつ、私が敬愛するストラトキャスターを強く意識しています。ボディ下部はオフセットしつつ独特の丸みを持たせることで、ギター全体のウェイト・バランスにも気をつかいました。
FW ボディはトップ、バックともセンター2ピースで構成されていますね。
Y.O.S. 支給された材の中で1ヵ所だけ、ローズには珍しいキレイな杢が出ている部分がありましたので、そこを狙ってブックマッチで挽いてトップ材に使いました。あまりにキレイなので逆にローズに見えないかもしれませんが、この木の魅力がすべて詰まっていると思います。遠目には濃い紫色ですが、見る角度によってはゴールドがかったローズブラウンにも見えます。バック材はソリッドのままでは重過ぎるので、チェンバー加工をして700g程軽量化しています。ただし、サウンド的にはソリッド・ローズの良さも残しておきたいので、ホロー感が出ない形状、位置を狙って抜いています。トップとバックの間には薄いメイプル材を挟み、単一色のボディに少しアクセントを加えてみました。もちろん伝統的なオールローズ・ギターへのオマージュ的な意味もあります。
FW ネックも、もちろんソリッド・ローズですね。
Y.O.S. ネックとしてまず大切なのは安定性ですから、狂いの少なそうな部位を選びました。貼り指板構造を採用し、トラスロッドに加え、チタンのサポート・ロッドも組み込んでいます。ネックの安定性を高めるだけでなく、チタンは音響特性も優れています。クリスピーなサウンドが魅力のステンレス・フレットを使いましたので、チタン・ロッドと合わせて“鳴る”ローズ・ネックができたと思います。仕上げはサテン・フィニッシュでグリップもさらさら、キモティ良く仕上げました。
FW ピックアップはオリジナルでしょうか?
Y.O.S. はい、オリジナルのシングルコイルを使っています。基本的には伝統的なシングルコイル・サウンドを意識していますが、ビンテージ・ピックアップの復刻を目指すのではなく、現代のギターに合わせてマグネットやコイルの選定、ポールピースの高さの調整などを行なっています。現代のモダンなスペックのギターやハイファイな機材と組み合わせても決して耳に痛くない、弾きやすく、1〜6弦までバランスの良いサウンドに仕上げています。個人的に、伝統的なリア・ピックアップのシングルコイル・サウンドはちょっとヒステリックで、あまり使い勝手が良いものとは思えません。そこでリアのみさらにパーツを追加し、従来のものより重心の低いタイトなサウンドに仕上げています。
FW 金属パーツへのこだわりをお聞かせください。
Y.O.S. ペグはGOTOH社製のSD91-MG-Tをチョイスしました。ネックの鳴りを損なわない軽量なペグでありながら、ロック式であることもポイントです。ブリッジはカラハム社製のシンクロナイズド・トレモロです。
FW ノブもオリジナルですか?
Y.O.S. デジマートでもお馴染み、畑精密工業さんのHATAブランド、ヒラメ・ローレットハット・ノブに、当工房別注のカラーでアルマイト加工をしていただきました。ゴールドとシルバーの中間を狙ったこだわりの色味です。ノブの文字刻印は濃いゴールドなのですが、これはダブル・アルマイトという贅沢な工法で仕上げていただきました。セレクター・スイッチ・カバーも同じカラーです。
FW 他にもPRポイントがありましたらご紹介ください。
Y.O.S. ボディ塗装のグロス仕上げは快心の出来栄えです。ローズウッドの細かい杢理まではっきりと見える、高級感のある薄い塗膜に仕上げることができました。せっかくのオールローズ・ギターなので、ピックガードもローズウッドで作りました。ただ、単板のピックガードは強度的に不安で、また見た目も意外と地味なので、ボディと同じくメイプル材を間に挟んだ3P構造にしてみました。補強の意味合いとともに、メイプルの色味がピックガードの輪郭をはっきりとさせてくれるので、ピックガードらしく仕上げられたのではないかと思います。こちらはサテンで仕上げたので、ボディとのコントラストがこのギターの良いアクセントにもなっていると思います。
おふたりそれぞれに、自身の手になるローズウッド・ギターを語ってもらいました。楽器職人 VS. ギター・エンジニアといった感のある好対照なおふたりのギターは、いずれも見事な出来栄えだと思います。今回は、ローズウッドをメインに使うこと以外、一切の制約なしでお願いしたことで結果的に、製作家の“今”が集約されたモデルになりました。パーツについても、本器にとって最良、最適なものを採算度外視で搭載してもらい、素材の良さを引き出すことに成功しています。
製作家の繁忙な日々を考えると、いつでもお代わりOK!というわけにはいかないのが難点ですが、しかるべき素材さえ調達できれば、今後も継続したいプロジェクトであることに変わりありません。今回の2本、見れば見るほど名残惜しくなってきました。ということで、ギターは筆者が後生大事に……というのはウソウソ、全世界に向けて発売します。いや、お伝えしたとおり輸出は(面倒なので)できないので日本国内でお使いください。先着各1名様限りとなりますが、ご注文をお待ち申し上げております!
本連載ではローズウッド関係のさまざまなコンテンツを展開してきました。改めて下よりお楽しみください!
突然ですが、当木材連載「知られざるトーンウッドの世界」は今回でいったん終了となります。木材自体はもとより、“木ネタ”資源の枯渇も深刻で、なおかつ編集部側の諸事情もあり、この度自由契約となった次第です。そのうちスピンオフ企画などで蘇るかもしれませんが、ひとまず閉店ガラガラ、ゥワオッ!といった感じです。長年にわたり稚拙な文章をご高覧いただきありがとうございました。
最後にひと言だけ、「連載は終わっても、デジマートは嫌いにならないでくだキャイ!」
森 芳樹(FINEWOOD)
1965年、京都府生まれ。趣味で木材を購入したのが運の尽き、すっかりその魅力に取り憑かれ、2009年にレア材のウェブ・ショップ、FINEWOODを始める。ウクレレ/アコースティック・ギター材を中心に、王道から逸れたレア・ウッドをセレクトすることから、“珍樹ハンター”との異名をとる。2012年からアマチュア・ウクレレ・ビルダーに向けた製作コンテスト“ウクレレ総選挙”を主催するなど、木材にまつわる仕掛け人としても知られる。