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- 2024/11/16
DENON / AH-D7200、AH-C820
スマートフォンの普及や高音質なハイレゾ音源の登場で、イヤフォンやヘッドフォンにこだわって音楽を視聴する人が増えている現代。その視聴環境の変化は、音楽を生み出すプレイヤー側にも大きな影響を与えているという。今回は100年以上の歴史を持つ日本屈指のオーディオ・メーカー=DENONへ、世界を飛び回るドラマー、BOBOと共に来訪。同社が誇るフラッグシップ・モデルのヘッドフォンを通して、あらためて“良い音で聴く”ということについて考察していきたい。
まずは“音とのつき合い方”についてBOBOにインタビュー。ここではDENON営業企画室マーケティング・グループの宮原利温氏も交えて、プレイヤー、メーカー両サイドから、音へのこだわりを語ってもらった。
BOBO ハイレゾの影響なのか、最近は周りのミュージシャン仲間とも“音質”の話になることが多くて。くるりの岸田 繁は“ハイレゾ推進委員長”って言えるくらい熱を入れていて。彼が「自分達がスタジオで聴いてる音、表現したい音はCDに落とし込むことが難しい」と言っていたんですけど、確かにスタジオの方がよく鳴っているように聴こえるんです。それは海外にレコーディングへ行くとより顕著にわかるというか。日本は電圧が100Vだけど、韓国はヨーロッパ標準の240Vだっていうことで、くるりのレコーディングをしに行ったことがあるんです。実際ドラムを録ってみると、スタジオのシステム自体の電圧が高いから太い感じに聴こえました。だから電圧が高い海外の人達は、太い音に慣れてるし、そういった環境で録った音を聴くと、ハイレゾでちゃんと聴いてほしいっていう気持ちもわかりますね。
──そういった経験をすると、音の聴き方が変わってきますよね。
BOBO やっぱり盤には、ミュージシャンの意思が込められているから、聴くときにはそこを絶対に汲みたいんですよね。例えば、iPhoneの内蔵スピーカーで聴いても、だいたいの情報はわかるじゃないですか。でも僕らミュージシャンはこだわって作っているし、中途半端に聴かれたくないっていう気持ちはあります。その一方で広く聴いてもらいたいっていう気持ちもあって、せめぎ合ってるんでしょうね。
宮原 いろんなメーカーがありますが、どこも目指すところは“原音再生”なんです。つまり聴いている音がそのまま家で楽しめるということで、その目標に対するアプローチにはメーカーごとに違いがあって、それが各社の音になると思っています。DENONの場合は、ディスク(ソース)が持っている音源に収録されたサウンド・クオリティを引き出し、さらには演奏者の熱意やパッションを伝えたいというのが根底にあります。一方で、弊社はマランツも手がけているのですが、ディスクに収録された音源を1つの作品として敬意を払い、“何もたさず、何もひかず”、再生することを目指しています。それぞれそういう“ものづくり”をフィロソフィーとして持って取り組んでいるんです。
BOBO その気持ちを汲み取ってくれるのは、演奏している側にとってものすごくありがたいですね。個人的にDENONさんには昔から硬派なイメージがあるんです。硬派で情熱を一本化しているところに好感が持てるし、今、話を聞いて、そう感じていたのは間違いじゃなかったんだなって改めて思いました。
──BOBOさんは“良い音で聴く”ことが演奏の上達につながると思いますか?
BOBO それはつながると思いますよ。やっぱり音楽がどうなっているかっていうのは、ちゃんとした環境で聴かないとわからないと思うんです。普段から良いもので聴いていると、実際に演奏しているときも周りの音をしっかり聴けるし、そうじゃないと周りの演奏を聴こうっていう意識にはならないでしょうしね。
続いてDENONが誇るフラッグシップのオーバー・ヘッドフォンであるAH-D7200と、インナーイヤー・ヘッドフォンのAH-C820をBOBOがチェック!
DENONヘッドフォン50周年を記念し、昨年発表となったフラッグシップ・モデル。08年発売の“7000シリーズ”を踏襲したもので、ハウジングに外観と耐久性に優れた天然のアメリカン・ウォルナット材を採用。サウンドを決定づけるドライバーには、50mm径のナノファイバー振動板を導入。エッジを作り、振動板をスピーカーのように動かすことで、無駄のない均一な振幅を実現。特徴である量感豊かな低域を生かしつつ、現代の音楽にフィットする解像度の高いサウンドを作り上げたという。視聴はBOBOの愛聴盤をヘッドフォン・アンプDA-310USBに接続して行なった。
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■『DANGEROUS』Michael Jackson / drums:ジェフ・ポーカロ、他
オーディオを選ぶときの基準にしている作品の1つが『DANGEROUS』で、「Jam」のイントロで微かにタンバリンと鈴が鳴ってるんですけど、意外と聴こえないものも多いんです(と言ってヘッドフォンを装着して試聴)……すごい! この音はマイケルが聴いたら喜びますよ!! 目を開ける瞬間まで、(DENONのある)川崎にいることを忘れていました(笑)。つけ心地も何もつけてないみたいに自然で、人間って耳から音を聴くけど、耳から音を聴いている感じがしないというか。密閉型とは思えない広がりがありますね。硬いところも全部聴こえてくるんだけど、ちゃんとまとまっていて、イントロの振り物も音の発生源が見えるくらいリアルですね。バック・ビートとのコントラストがハッキリしていて、プロデューサーがこのビートに込めた意図が伝わってきました。
■『Now That Everything's Been Said』The City / drums:ジム・ゴードン
ザ・シティのこのアルバムはもう何度聴いてきたかわからないほど、僕にとっての永遠の愛聴盤なんですけど、初めてレコーディング風景が見えました。スタジオ内でのメンバーの位置関係や息遣い、演奏のニュアンスが想像できるというか、この音の解像度は衝撃的ですね。タムの響きをこんなにリアルに感じたのは初めてだし、クローズド・リム・ショットにこんなにリヴァーブがかかっていたんだ、とか新しい発見がたくさんありました。これは音楽を聴くのが楽しくなりますね。ヨイショじゃなくて、AH-D7200で音楽を聴くと、演奏がうまくなりますよ。音を聴いていると映像が浮かんでくるから、ドラマーのタッチが見えるし、どういう関係性で音楽が成り立っているのかがわかる。没頭しますね、このヘッドフォンは!
■『PHYSICAL GRAFFITI』LED ZEPPELIN / drums:ジョン・ボーナム
このアルバムの「Ten Years Gone」は僕がツェッペリンで一番好きな曲なんです。ギター・ソロに入るところが劇的にズレているんですけど、それをAH-D7200で聴いたらどうなるんだろうと思って聴いたんですけど、そんなことが吹っ飛ぶくらいジョン・ボーナムのドラムに耳を奪われましたね。これも数え切れないくらい聴いてきましたけど、こんなにリアルにジョン・ボーナムの息遣いを感じたのは初めてです。彼のクセも見えるというか、単純なところだと、オカズに行くときも左足を動かしているんだけど、それがすっごいよく聴こえる。これも映像で見えますね。あとはジミー・ペイジのギター愛も伝わってきました(笑)。職業柄なのか、音楽を聴いてゾクゾクする機会はほとんどないんですけど、久しぶりにゾクゾクしましたね。
低音再生の究極を目指して開発されたという、インイヤー・タイプ・ヘッドフォンの最上級モデル。2つのダイナミック型ドライバーを向かい合うように配置することで、2倍の振動板面積を確保。超低音もクリアかつ圧倒的な量感での再生を実現している。ハウジングにはアルミダイキャストとABS樹脂を用いたハイブリッド構造を採用。さらに振動板のピストン・モーションを最適化するアコースティック・オプティマイザーを搭載するなど、細部にまでこだわり抜き、純度&透明度の高いサウンドを具現化。AH-C820は用途を考慮し、スマートフォンで試聴。BOBOが参加した音源をチェックした。
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■『逆輸入〜航空局〜』椎名林檎 /『white noise』TK from 凛として時雨
とても優秀なイヤフォンで、iPhoneで聴くとものすごい戦闘力を発揮しますね(笑)。良い具合いに角が取れて、ロー感もあって、しかもすごくまとまっている。音数の多い、今の日本の音楽を聴くならこれが最適だと思います。AH-D7200とも聴き比べましたけど、(椎名)林檎ちゃんの作品は(井上)雨迩さんのミックスもあってか、AH-C820で聴いた方が良かったですね。TK(from 凛として時雨)は『white noise』を聴いてみましたけど、かなり細かい部分まで聴き取れます。TKの重ねたギターの音まで聴こえましたね、こんなリフ重ねてたんだって初めて認識しました(笑)。TKは全然やってなかった曲を突然ライヴでやろうって言い出すから、慌てて聴き返すことがあるんですけど、アレンジが細か過ぎてよくわからないこともあって……自分がレコーディングで叩いた曲なのに(笑)。でもこのC820は解像度が高くて、バッチリ聴き取ることができましたね。今夜から使いたいくらい。値段もそこまでじゃないので、今の若い子達にぜひ使ってほしいですね。音源で何をやってるか聴き取れると思うし、コピー用としても最適です。ただ全部聴こえるんですが、少し音が狭い感じで、それはインイヤーの宿命なんでしょうか? こっちのAH-D7200は、スタジオのブースに入っちゃった気になるくらいすごいです。
どちらの製品からもDENONさんの強い信念を感じましたね。それがないと道具はただの“物”でしかなくなるけど、信念を感じると一気に“相棒”になりますよね。(2機種に統一したサウンドを感じますか?)……やっぱりありますね。特に感じたのは音の解像度の高さ。圧倒的な解像度なんだけど、目がチカチカしない感じというか。リアリティを追求した結果の高解像度だから、変にいやらしいデジタルさを感じなかったです。あとはナチュラルさとのバランスが良くて、高い技術力でそれが融合されているように思いますね。
最初に“良い音で聴くと演奏の上達につながると思いますか?”って質問されて、“つながると思いますよ”って言いましたけど、“思います”じゃなくて、“確信”に変わりましたね。その“良い音”を定義するのは難しいんですけど、少なくとも腰を据えて音楽を聴くっていうことが、どれだけ自分の演奏にプラスの要素をもたらすのかがわかりましたね。この数時間だけで、演奏うまくなったんじゃないかな(笑)。本当に自分のレベルが上がったのを実感しています。あらためて思ったのは、アメリカにすごいミュージシャンがたくさんいるのは、目の前の演奏をいっぱい聴いているからなんだろうなって。どういう関係性で音楽が成り立っているのかを目と耳で覚えるからうまくなる。日本はそういう機会が少ないから、最近ますますガラパゴス化しているように感じるんですけど、AH-D7200は音を聴いて映像が浮かぶから、それを解消してくれるんじゃないかって思いましたね。
本記事は、リットーミュージック刊『リズム&ドラム・マガジン 2018年2月号』の特集記事を転載したものです。本誌創刊35周年イヤーのラストを飾るのはロバート・グラスパー、アデル、ディアンジェロ、宇多田ヒカルなど、トップ・クリエイター達から引っ張りダコのドラマー、クリス・デイヴ。そのクリス率いるプロジェクト=“DRUMHEDZ(ドラムヘッズ)”が2018年1月にデビュー・アルバムを発表、この好機に彼のサウンド&グルーヴに迫る総力特集を敢行しました。またclose up!では「時代に即した“耳の環境” ドラマーとイヤモニ」と題して、シーンの最前線で活躍するミュージシャンのイヤモニ事情や最新イヤモニ・レビュー、カスタムIEM製作の体験レポートなど、本誌初となる"イヤモニ"の大型企画をお届けします。本記事と併せて是非お楽しみください!
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