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- 2024/11/16
VOX/TONE BENDER MKIII
「真実の音」を追い求めるミュージシャンに送る「DEEPER’S VIEW〜経験と考察〜」。第8回に引き続き、今回もTONE BENDER MKIIIをフィーチャーします。今回はゲルマニウム・トランジスタを使用したモデルの前期/後期(リバース・ボードとノーマル・ボード)に加えて、ある意味では非常にレアなシリコン・トランジスタ搭載の最終モデルも登場。同じような見た目なのにここまで音が違っていいのか? まぁいいよね……ということで、実際のサウンドだけでなく、使用に関するヒントも後半でご紹介。最後までお見逃しなく!
前回ご紹介した、SOLA SOUNDがOEMして製作したTONEBENDER MKIIIはチェックしていただけましたか? 今回のDEEPER’S VIEWではさらにディープに、VOXブランドのTONE BENDER MKIIIだけに注目してみます。
そもそも、ほとんど同じ見た目、同じ回路構成なのに、サウンドに微妙な違いがあるということは前回のDEEPER’Sでもご紹介しました。ところが、実際には基板構成がまったく異なるTONE BENDER MKIIIが存在するのです。調べてみると、極めて初期のTONE BENDER MKIII(以下:TB MK3)は、ROTO SOUNDとVOXブランドにOEM製作(original equipment manufacturer/委託者の商標による受託製造)されたようです。仕様的にはパーツ類がその後のモデルと逆面に配置された、通称「リバース・ボード」と呼ばれるものがVersion1(以下:V1)となります。実際にはV1の中にも「最初期型」が存在しますが、それはまた別の機会に。この初期モデルはROTO SOUND名義のものをジミー・ペイジが使用していたことでも知られています(極々短期間、というか一瞬だけですが)。
その後、一般的な仕様となるV2が登場。このモデルが前回DEEPER’Sでご紹介したモデルです。この仕様はPARKブランドやVOXブランド、CARLSBROブランド、そして自社であるSOLA SOUND名義で発売されました。このことからも当時の人気や、いかにミュージシャンに望まれていたサウンドだったかがよくわかります。その後、サウンドの要となるトランジスタが「ゲルマニウム・トランジスタ」から「シリコン・トランジスタ」に移行するにあたり、基板回路が見直されます。こうして登場するのが、V3仕様となる「シリコン・モデル」。今回はこの3機種の音を順に聴いてみることで、その違いをチェックしてみましょう。うーん、マニアック……。
通称「リバース・ボード・モデル」を今回はV1とします。このモデルの特徴はサウンドの荒々しさです。基板パターンの引き回しの影響もあってか、動作の安定感ではV2モデルに軍配が上がると思いますが、このファズらしいサウンドはTONE BENDER MKIIにも似た、ザラッとした質感を持っています。出力は低めで、クリーン・アンプとの相性が良い印象。いろいろな意味でビッグなサウンドが持ち味で、トーンのセッティング次第で出力と音色にかなりの変化が生まれます。
最も一般的なMKIIIを今回はV2とします。「まるでクランクアップした真空管アンプのような」ドライブ感は、それまでのファズ・サウンドとは異なり、かなり使いやすい印象。トーンをBASS側に振り切って使用しても音がコモらず、倍音も豊か。これはブリティッシュ・ロック・バンドのサウンドそのもの。出力もある程度ありますが、TONEをトレブル側に振り切ると、かなり「しょぼい」サウンドになります。これがMKⅢ全般の特徴だと言えます。しかしながら常に安定したサウンドで、ゲルマニウム・ファズの中でも使いやすさはピカイチでしょう。
V2までのイメージで弾くと「全然違う音」に感じますが、それも当然で、トランジスタがゲルマからシリコンに変わっただけでなく、回路的にも安定感を重視してか複雑化しています。当然、回路が複雑になれば出音の倍音感も整理され、ストレートな印象を与えます。今回はこのシリコン・モデルをV3とします。当時としてはMKⅢ V2を進化させ、さらに幅広いサウンドメイクを目的としたはずですが、結果的にV1/V2的なサウンドを求めると、使えるセッティング/ポイントは極狭い範囲になると言えます。
こうして見ると、たった数年間で多くの仕様変更が確認できます。技術の進歩とともに、テレビやラジオだけでなく、楽器にもどんどんトランジスタが採用されていきました。これらのペダルが生まれた60年代から70年代初頭にかけてはトランジスタのコストも下がり、省スペース、省電力で動作的にも安定したシリコン・トランジスタが市場に受け入れられていた、ということでしょう。ただ、さまざまなシリコン・ファズを見ると、製造初期はあくまで「ゲルマニウム・トランジスタの代わり」にシリコンを置き換えただけ、という印象も否めません。
FUZZ FACEならBC183Lのモデルは動作が安定しないものが多い、という印象。TONE BENDER MKIIIも同じく、ゲルマからシリコンへの移行期は動作が不安定なものが多く感じられます。 しかしその数年後、70年代中期にはシリコン・トランジスタを搭載しながらも動作の安定した良質なペダルが続々と登場してきます。SOLA SOUNDが「COLOR SOUND」というブランド名を付けて発表した数々の名作……“POWER BOOST”や“OVERDRIVER”。そして、新しく生まれた“JUMBO TONE BENEDER”。さらにトランジスタを4個搭載した発展系の“SUPA TONE BENDER”(英国版ビッグマフとも言われるシリコン・トランジスタを使用したペダル)などなどは、シリコン・トランジスタを非常にうまく回路に生かしている印象があります。
なお、TONE BENDER には“TONE BENDER MKIV”というモデルもあるのですが、これが非常に厄介(MKIIIのあとに登場するはずなのに、なぜかリバース・ボードを搭載したTONE BENDER MKII最初期のV1仕様が存在したり)…...。その話を始めると長くなりそうなので、今回はスルーしています。ご了承ください。
動画の後半ではほかのペダルとの相性をチェックしています。それ以前のTB MKIIはハイ・インピーダンス入力でないと動作が期待できないものでしたが、TB MKIIIは随分とほかのペダルとの相性も良いと思います。そういった意味でも、このTB MKIIIは多くの皆さんに試していただきたいペダルだと感じます。
これらの接続順は
* -GUITAR
* -Way Huge / RED LLAMA
* -VOX / TONE BENDER MKIII-V2
* -Keeley / KATANA BOOST
* -strymon / FLINT(Reverbモードのみ)
* -VOX / AC30 C2
という流れです。
※Way Huge / RED LLAMAのサウンドに関して「ロー・カット」と発言していますが、これはRED LLAMAで「ロー・カット」を行なうわけではなく、「RED LLAMAが余分な低域をカットしてくれている」という意味で使用しています。同じくBOSS / OD-1なども不要な低域がカットされるという意味では同系列としています。
ということで、今回のDEEPER’S VIEWもお楽しみいただけましたでしょうか? 次回はさらに、ちょっと濃い目の記事を予定しております。どうぞお楽しみに!
村田善行(むらた・よしゆき)
ある時は楽器店に勤務し、またある時は楽器メーカーに勤務している。その傍らデジマートや専門誌にてライター業や製品デモンストレーションを行なう職業不明のファズマニア。国産〜海外製、ビンテージ〜ニュー・モデルを問わず、ギター、エフェクト、アンプに関する圧倒的な知識と経験に基づいた楽器・機材レビューの的確さは当代随一との評価が高い。覆面ネームにて機材の試奏レポ/製品レビュー多数。
【使用機材】
ギター:Gibson Custom Shop / Les Paul Standard Histric Collection
:Fender / 1965 Jaguar(Bridge PU replaced by K&T)
アンプ:VOX / AC30 C2 Combo
ペダル:strymon / FLINT
:Keeley / KATANA BOOST
:Way Huge / RED LLAMA
マイク:ROYER LABS / R-121