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- 2024/11/16
「デジマート地下実験室、終わるらしいね」
「俺、休載って聞いたけど」
「ま、どっちでもいいけどな」
「だな」
いや、よくないだろ? 困りますよ(私が)。
ということで地下実験室は今後どうなるのか、過去の実験を振り返りつつ考察してみます。
なんだかすっかり、寒くなりましたね。ぬるめの燗酒が美味しい季節になりましたが、空気が乾燥してきたからビールもやっぱりうまいんだよなぁなどとしょうもないことを考えていた時のことです。
たららぁー、ららら・らら・らららぁー♪
む、着信しましたよ。あ、デジマート地下実験室・初代ディレクターの赤鬼だ! なんだよ、鬼ヶ島に帰ったんじゃないのかよ、出るのよそうかな──と思いつつ出ました。
私 「しもしも」
赤鬼 「ご無沙汰しております、赤鬼です。急な話で申し訳ありませんが、室長、一度ウチにきてくれませんか? 至急打ち合わせたいことがありまして」
よ、呼び出しかぁ。何がバレたんだろう……。思い当たるフシばかりで、逆に見当がつきません。どちらにしても、返事はハイかイエスの一択です。
私 「はい、わかりましたー。明日伺います」
赤鬼 「では●時にお待ちしております」
ふうう……。これはきっと、ロクなことじゃねえな……。翌日。場所は赤鬼のウチ、つまりリットーミュージックさんです。
私 「こんにちは。お元気そうですね」
赤鬼 「はい、おかげさまで。ところで今回、社内の急な組織変更がありましてデジマートの連載企画にリソースを割くことが現状難しくなってしまいました。つきましては心苦しいのですが、当面実験室を休止にさせていただけませんか」
ふうう……、やっぱりロクなことじゃねえな……。しかも、どストレートに切り込んできやがった。で、リソースって、なんだっけ?
私 「きゅ、きゅ、きゅ、急なお話ですね」
赤鬼 「そうなんです。実験室はたくさんの読者の方が楽しみにしてくれていますので、できれば続けたいんですけど。こうなるとよく言われるのが、『デジマガも不調で終わりなの?』なんて噂話ですが、うははは、全然そんな話ではなくてね」
私 「そうなんですね(知らんがな)。で、12月の公開は、なしと?」
赤鬼 「いやいや、ところで室長、デジマート地下実験室をなんで始めたか、そしてどうして続けてきたか、おわかりですか?」
私 「よくわかりません(いろいろと、な)。……うーん、それなりにPVやら動画の再生数もあるからですかね? 皆さんがおもしろがってくれるから」
赤鬼 「もちろんそれは大きいですよね。何をか言わんや、企画初段については井戸沼室長のアイディアあったればこそのスタートでした。次第に読者に恵まれ、特にミュージシャン諸氏や業界関係者からの反応が大きくなっていきました。シガラミを廃するのに、実験で使用する楽器は基本購入して行なうことを旨としてきましたが、実はメーカーさんからクレームをいただくこともありました……室長がひよったらおもしろくなくなるので言いませんでしたが」
いや、ずいぶんひよって、まぁーるくまぁーるく収めようとしていたんですが、それでもクレームあったんですね。まぁ、あるか。あるよな。好き勝手やったからな。
赤鬼 「私としてはですね、当然ビジネスの観点で運営してきたんですよ。まずは実験室を入口としてデジマガを知っていただく、多くの流入でサイト・パワーを蓄え、室長のタレント/キャラクター化を促して別の企画に繋げていってチャリンチャリ〜ン♪」
私 「さすが、悪どいですね」
赤鬼 「うわっはっはっは!」
いや、褒めてない! 褒めてないよ?
赤鬼 「しかしながら、ミイラとりがミイラになるというのか、やっぱ、おもしろいんですよ、実験室は。仕事ではなんでもストレスが付いてまわりますが、実験室の撮影にはカタルシスがあるんです。それはですね、デジマート編集部のスタッフ全員が同じ向きにあったと思います。もしかしたらそういったピュアネスが“伝わった”んですかねぇ」
ピュアネスかぁ……そろそろ、ウチに帰りたい。
赤鬼 「そこで今回はいい機会ですので、実験室を一度総括しておきたくお呼び出ししたわけです。一緒に過去の記事を見ながら、室長の観点で振り返っていただけませんか」
あ、そういうこと? ふうん。じゃあやってみましょうかね。では振り返り、始めるよー!
■使用機材
◎赤鬼(人)
◎私(井戸沼尚也/人)
◎過去記事(デジマート地下実験室)
※動画再生はヘッドフォンでの視聴を推奨しておりますが、それ以外はお好きにどうぞ。
赤鬼からの最初のお題は、最も辛かった実験です。からかった、じゃないですよ、つらかった、ね。そらーもう決まってますよ、地下8階の『ギターの塗装を剥がすと音は変わるのか?』実験です。
この時は、確か徹夜明けで収録に行ったんですよ。あ、記事に「三徹明け」って書いてある……よく死ななかったなホントに。で、朝からすでに死にそうだったんですが、塗装が全然剥がれなくて、とても大変だったことを覚えています。収録は、たしか午前11時から23時までかかりました。今、改めて動画を見直すと、私、途中で寝てますね(笑)。ちなみに赤鬼によると、今回を除く全45回中、私が収録中に寝たのは3回だそうです。……なんでもデータ取ってるなぁ。
で、塗装ですが、結局途中で剥がすのを断念して、ギターがひどい有様になりました。それでも剥がした塗装の重さが180gって、いろいろすごくないですか? 塗料って結構重い、全部きっちり剥がしたら、一体何gになったんだろう……そりゃ、鳴りも変わりますよね。
赤鬼によると、この塗装剥がし実験は地下実験室のブレイクスルーでもあるそうで、動画の再生回数は歴代2位だそうです。へええー。
お題その2は、「最もやりたかった実験は?」です。うーん、初期の頃の実験(2014年末くらいまで)は、全部やりたかったものなんですよね。地味ですけど、第2回の『ストラトのネジの締め具合で音は変わるのか?』とか。
これ、記事中でも明かしていませんが、もともとはギタリストの土屋昌巳さんが仰っていたことを確かめて、きちんと動画で残したいと思ったんですよね。土屋さんにはぜひ一度地下実験室に出ていただきたかったなぁ。もうチャンスはないのかなぁ。
それから第13回の『レス・ポールの音は重量によって変わるのか?』。
加えて第43回の『ネックの太さでギターの音はどう変わるのか?』。
これらは個人では絶対に出来ない実験なので、やれて良かったと思っています。このあたりは実際に反響もすごかったみたいで、とりあえずレス・ポール実験に登場したギターは全部売れたみたいです。良かった、良かった。
この先やってみたかった実験と言えば、ピックアップに関するものです。ピックアップって、買ってみないとわからないじゃないですか? でも、その割にお値段しますよね……。けっこう闇なんで、そこに光をバシッと当てたかったです。で、ビシッとクレームがくる、と(笑)。
ちなみに、全45回中、動画へのゲスト登場回は12回だそうです。何度も出ていただいた方もいるので、12名というわけではなさそうですが……。第34回の利きエフェクター実験のように、複数のゲストにお越しいただいた回もありますし……。
ここは全員の名を挙げるべきところですが、中でも特に……ということで順不同で3名の名前を挙げさせていただきます。
まずは、超絶ギタリストのケリー・サイモンさん。以下2回に登場いただきました。
第15回の『スキャロップ加工でギターの音と演奏性はどう変わるのか?』。
第29回の『ストラトのトレモロ・スプリング(裏バネ)のかけ方で音質や操作性はどう変わるのか?』。
とにかく、あれだけの方が一緒になってバカやってくれるありがたさ……。実力に裏打ちされた自信があるからこそ、ふざけたこともできるのだと思います。ちなみに、素顔のケリーさんはとてもジェントル、かつ真っ直ぐな方で、その点でもすごく印象に残っています。
何度も何度も助けていただいたESPギタークラフト・アカデミー東京校さんからご登場いただいた皆さんはそれぞれものすごいプロフェッショナルでした。高山昌宣先生、水島亮二先生、それにESP開発セクションの林宏樹さん……中でも最も多くの回で助けていただいた水島先生はやはりディープ・インパクトでした。
第25回の『ナットを交換するとギターの音はどう変わるのか?』。
第27回の『ストラトのキャビティ内をシールディングすると音はどう変わるのか?』。
第31回の『弦の巻き方・巻き数でギターの音はどう変わるのか?』。
第33回の『コンデンサーを交換するとギターの音はどう変わるのか?』。
第43回の『ネックの太さでギターの音はどう変わるのか?』。
第44回の『ケーブルのプラグを替えるとギターの音はどう変わるのか?』。
動画出演のない企画協力を含めて6回も助けていただいたんですね! 水島先生は、間違いなく凝り性で、なんでも徹底して追求しないと気が済まない方なんだと思います。あれだけの知識、技術、経験を持っていて、なおも音に対して貪欲な点が凄まじい。なにしろ、コンデンサー実験が終わってから(もうやらなくていいんですよ?)、自作のコンデンサーを大量に作り、しかも弾かせていただいたところ、そのどれもが良い音だったという後日談があるくらいです。
印象に残るゲストの3人目は、エフェクター研究で知られる細川雄一郎さんです。
第26回の『配線材を変えるとギターの音はどう変わるのか?』。
第33回の『コンデンサーを交換するとギターの音はどう変わるのか?』。
第37回の『ストラトキャスターのサドルを交換するとギターの音はどう変わるのか?』。
第40回の『ヒューズを替えるとアンプの音はどう変わるのか?』。
第42回の『入力電圧を変えるとアンプの音はどう変わるのか?』。
第45回の『オペアンプを変えるとオーバードライブの音はどう変わるのか?』。
水島先生と同じく、協力のみを含めて6回も参加いただきました。細川さんは、今ではとても親しくさせていただいているのですが、それも地下実験室で最初にお会いしたのが縁で、という感じです。知識や経験がすごいのはもちろんなんですが、なんでも実際に自分で試している点に信頼が置けますし、それととても耳がいい方だなという印象です。本当に、何度も何度も助けていただきました。
いやぁ、こうしてみると、途中からはゲストあっての実験室という感じになっていたことがよくわかりますね。本当に、これまでご登場いただいたゲストの皆様、ありがとうございました!
【動画出演ゲスト・リスト(敬称略)】
◎第11回 森芳樹(FINEWOOD)
◎第13回 藤川忠宏(黒澤楽器 G-CLUB TOKYO)
◎第14回 ジェイク・E・岡見(ベース・マガジン編集部)
◎第15回 Kelly SIMONZ、高山昌宜(ESPギタークラフト・アカデミー)
◎第21回 耳マン、近藤隆久(ベース・マガジン編集長)
◎第25回 水島亮二(ESPギタークラフト・アカデミー)
◎第26回 細川雄一郎
◎第29回 Kelly SIMONZ、林宏樹(ESP)
◎第33回 細川雄一郎、水島亮二(ESPギタークラフト・アカデミー)
◎第34回 下総淳哉(THE EFFECTOR BOOK編集部)、ジム小林(ギター・マガジン編集部:当時)
◎第43回 水島亮二(ESPギタークラフト・アカデミー)
◎第45回 細川雄一郎
赤鬼からの最後のお題はこちらです。これはですね、記念すべき第1回なんですよ。ちなみに赤鬼も同様だそうです。
第1回の『電池交換実験〜9V電池の違いでエフェクターの音が変わるのか?』。
まさか、最後のエレハモ電池があんな音だとは思ってもみませんでした。あの一発で、その後の実験室の方向が決まったように思います。これは2014年の5月19日に公開されたものですが、この年のゴールデンウィーク期間中、良い具合まで電池を使っておく仕込みで大変だったことを覚えています。あれから約3年半、地下実験室を続けながら、その間に私は結婚し、子どもが産まれ、その子どもがギターを見ては「ジター」と言うまでになりました。いろいろなことが変わっていく中で、よく実験室は続いたなと思います。当初は、10回も続かないだろうと思っていましたから。
第1回を観ると、白衣を着ていない、声を張っていない、顔を出していないなど、まだまだ設定ができていなかった感じがします。とても完成度は低いですが、とにかくここから始まったんですね……。
最後に、地下実験室の動画再生回数とPVランキングのデータ(※2017年12月時点)も載せておきます。私としては、結構意外な感じもするのですが、皆さんはいかがですか?
1位 第35回 3万円チャレンジ実験
2位 第8回 塗装剥がし実験
3位 第33回 コンデンサー実験
※ワースト・ランク
3位 第6回 エフェクター筐体実験
2位 第20回 電源周波数実験
1位 第40回 ヒューズ交換実験
1位 第16回 ギター弦実験
2位 第21回 ベース弦実験
3位 第8回 塗装剥がし実験
※ワースト・ランク
3位 第45回 オペアンプ実験
2位 第40回 ヒューズ交換実験
1位 第28回 エフェクター筐体リターンズ実験
累計の動画再生回数は、もうすぐ200万回だそうです。なんだか他人事のようにすごいなぁと思います。PVは記事SEOが強いものが高いそうです(赤鬼談)。とにもかくにも実験室を楽しみに見てくださった方、応援してくださった方、本当にありがとうございました!
結論:デジマート地下実験室は打ち切りではない! ただし、このまま一度休載、再開については未定!
とりあえず、今回でいったん区切り。再開するかどうかはよくわからないということが、わかりました。赤鬼を始め、デジマート・マガジンの方々は再開したいと思ってくれているようですが、果たして。というわけで、これで最後かもしれないので、私が地下実験室を通して伝えたかったことを書いておきますね。
1. “実験”なんてブチ上げてやってきましたが、材やパーツによって音が変わるのは実は当たり前。でも本当に大事なのはそこじゃない(そこも含みますが)。もっと大きな“バランス”とか“ハーモニー”についてきちんと考える必要があるのでは?
2. 上を踏まえて、世界中のギタリストの音がもっともっとカッコ良くなればいいのに! そのために、私や皆さんは、何ができるのかな?
深くは説明しませんが、とにかく、そのことだけをずっと考えていましたし、皆さんに伝えたかったのです。伝わったでしょうか……? それではひとまず、今までありがとうございました。またいつか地下深くでお会いしましょう!
※デジマート地下実験室、及び井戸沼室長が出演する企画/イベントについては、2018年公開に向け現在も複数進行しております。引き続き「実験室」を応援いただけましたら幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。(赤鬼より)
井戸沼尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジン・チャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。