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- 2024/11/16
DALLAS ARBITER / TREBLE and BASS FACE & TREM FACE
世界的に有名なファズのひとつがFUZZ FACE(ファズフェイス)だと思います。これはサウンド云々というよりはアイコン的な存在として、そのルックスのインパクト(もちろんヘンドリクスのギアとしてのアイコンも含めて)が強いという事に間違いはないでしょう。しかし、ファズフェイスには同様のシェイプの兄弟が存在することは、意外なほど知られていません。今回はそんなファズフェイス・ファミリー(僕は円顔倶楽部と呼んでいますが)から、ブースターとトレモロをご紹介しようと思います。
最初のファズフェイスであるARBITER ENGLANDブランドのファズフェイス(ゲルマのファズフェイス)が登場したのと同じく1966年頃、まったく同じ筐体に納められた「三つ目のペダル」が存在します。それがこのTREBLE AND BASS FACE(トレブル・アンド・ベース・フェイス、以下TnB)です。“SOUND ELECTRONIC!”という見出しが目に入る当時の広告には、マイクロフォン(その名もCUSTOM MIKE!)、そしてマイク・スタンドと共にFUZZ FACEとこのTnBが掲載されています。もともと、ファズフェイスはステージで転がらない様に当時のマイク・スタンドの土台の形状を模してデザインされたという逸話がありますが、広告に掲載されたマイク・スタンド足の形状は見事に現代的な3本足スタイルというのがシブいですね。
このTnBペダルはファズフェイスとはまったく異なるアプローチでデザインされています。動画でも触れていますが、まだベース・アンプやギター・アンプといったカテゴライズが現代ほど明確でなかった時代に、サウンドのキャラクターを決めるアタッチメントとして発売されたのでは? と私は推測しています。かなり突き抜ける様な高域がブーストされるTREBLEと、心地良い低域をブーストするBASS、そしてゲイン・アップというよりも音量を加味するPLUSというコントロールは、それぞれがまるでアンプのコントロールのそれと同じ様に動作します。回路的にもファズフェイスに比べると複雑で、当時の英国製ペダルでここまで複雑なものはそれほど多くなかったと思います(と言っても「その他」というのは、ほとんどがファズやブースターなのですが)。
サウンドの傾向はかなり極端な音色変化が楽しめ、例えばギタリストとベーシストが、それぞれの機材でこのTnBを使用しても、まったく異なるサウンドになると言えるくらい極端で、しかも自然な(アンプライクな)音色の特徴を持っています。と言っても1960年代のお話⋯⋯このペダルはかなり地味な存在と捉えられたとみえて、それほどのセールスには結びつかなかった様です。それでも初期型と後期型が存在するので数ロットは生産されたのでしょう。初期型はPLUSノブがTREBLE/BASSのノブから一段低い位置に配置されていますが、後期型は全てのつまみが横一列に配置されています。基盤の構成はほぼ同一でした。
このサウンドは現代でも十分通用するものだと思います。むしろ今欲しいブースターかも⋯⋯とは言え、かなりノイジーな音色の個体も多く見られます。どなたか腕に自信のあるペダル・ビルダーが、このサウンドのままでロー・ノイズなペダルを作ってくれるとありがたいのですが(笑)。
余談ですが70年代になるとCOLORSOUNDからこのTnBに近い質感のPOWER BOOSTペダルが登場します。こちらは18V駆動で、その名の通りにさらに「パワー」を持っています。ノイズも控えられ、ブースト量もさらに強力。しかしながら、このTnBの様にRazorなトレブル、Wooferをドライブさせる低域なサウンドではなく、さらにアンプライクで、よりROCKなサウンドを持っています。それでも、このTnBの音色は魅力的で、むしろ現代だからこそ足下に置いて使いたいと思わせてくれる強力なブースト・ペダルです。有名ミュージシャンの足下にこのTnBが配置されていたというデータはほとんど見ることがありませんが、マニアはその音色の素晴らしさを見逃しません。
TREM FACE(トレムフェイス)はDALLAS ARBITER ENGLAND名義となった1970年代初期に登場しました。当時のSOUND CITY(英国の楽器店でありブランド)の広告ではFUZZ FACEと共にこのTREM FACEの存在を確認することができます。
このペダルは独特のメロウなトレモロ効果が特徴で、60年代から70年代のトレモロ・ペダルを色々試しても、ここまで音楽的なトレモロ・ペダルは多くないと思います。回路的には比較的シンプル(とは言え、FUZZFACEよりは複雑です 笑)でありながら、他のダラス/アービター・ペダルとは異なる独自の基盤構成/パーツ群を見て取れます。これは個人的な推測でしかありませんが、この回路はおそらく他のアンプや機材の基盤(もしくは回路)をそのまま移植(コピー)したのではないか? という様な印象を受けます。また、抵抗の雰囲気等はイタリア系ブランドの機材を連想させます。
トレモロ・エフェクトは単純に音量を上げ下げする「だけ」の様に思われるかもしれません。しかし、どの帯域に音色のピークを持たせるかで、その効果が異なってきます。こちらのペダルも同じく、後年発売されるCOLORSOUNDのトレモロ・ペダルと比較されることが多いのですが、基本的に回路が異なる事と、RATE(スピード)の可変幅がこのペダルの方が幅広いという事が言えます。アンプに搭載されたトレモロ/ヴィヴラートと同じく、揺れのスピードをかなりスローからファストへ可変させる事ができます。現代的な音楽で使用される「トレモロ効果」は比較的でスローでメロウな楽曲に採用されることが多いと思いますが、このTREM FACEが発売された当時は数少ない「効果的な」エフェクトだったのでしょう。今よりも、もっと「攻撃的なサウンド」と捉えられていたと考えられます。余談ですがトレモロの「揺れ」のスピードを最大値にするとレズリー・スピーカーが回転する際の最速スピードと近い印象もありました。オルガンで効果的なレズリーの揺れと、同じ様な効果を狙ったとも考えられますね。
このTREM FACE、残念ながら当時はあまり市場に受け入れられなかった様で、未だに箱付きのデットストックや、傷の少ない状態の良い個体が発見できます。生産ロットも少なかったとみえて、私が知る限りではカラフルなファズフェイス・ファミリーの中では唯一赤く塗装されたボディが存在するのみです。いずれにせよノイズも少なく動作も安定しており、現代の(現行の)トレモロ・ペダル・ラインナップと比べても遜色なく、むしろ優れた質感を持った高い品質のペダルだと思います。みなさんも入手できる機会があればぜひ試してみてください。
という訳で、今回は FUZZ FACEやこれまでのDEEPES’S VIEWに比べると「やや地味な」ペダルだったかもしれません、しかしながらこう言った時代を感じさせるペダルには、なんとも言えない魅力があります。また、発売された当時とは違った環境(使い方)を研究してみると、なかなか深みにハマってしまう魔力も秘めています。
今回は昨今の「ロー・ノイズでハイファイ」「ハイクオリティ」なペダルたちが忘れてしまった魅力的な音の質感や雰囲気、ノイズの心地良さを感じさせてくれるファニー・フェイスをご紹介しました。まだまだネタは尽きません。次回のDEEPER’S VIEWもお楽しみに。
村田善行(むらた・よしゆき)
ある時は楽器店に勤務し、またある時は楽器メーカーに勤務している。その傍らデジマートや専門誌にてライター業や製品デモンストレーションを行なう職業不明のファズマニア。国産〜海外製、ビンテージ〜ニュー・モデルを問わず、ギター、エフェクト、アンプに関する圧倒的な知識と経験に基づいた楽器・機材レビューの的確さは当代随一との評価が高い。覆面ネームにて機材の試奏レポ/製品レビュー多数。