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- 2024/11/16
Line 6 / HELIX LT
オールイン・ワン・タイプの高性能マルチ・エフェクターが群雄割拠する現在。その筆頭候補となるのが、モデリング技術のパイオニアとも言えるLine 6が6年の歳月をかけて開発したHelixシリーズだ。今回紹介するHelix LTは、同社の技術力の粋を集めた上位機種のサウンドはそのままに、価格を抑えた新モデル。まさに新時代と言える無限の可能性を秘めた本機の魅力を、日向秀和(Nothing's Carved In Stone, ストレイテナー, etc)による試奏レポートとともにお伝えしていこう。
Helix Nativeは、Helix RackやHelix Floor、そしてHelix LTなどで好評を得るハイクオリティなサウンドを実現した、DAWソフト用のプラグイン・ソフトウェアだ。すでにHelix Floorなどハードウェアを所有している場合は、もちろんスタジオで作り込んだプリセットをハードと同期して、ステージなどでもまったく同じサウンドを鳴らすことができる。なお、通常価格では$399.99だが、すでにHelix Floorなどハードウェアを所有している場合は特別価格にて購入可能だ。動作環境はAAX/AU/VST3の64bit。Line 6オンライン・ストアでの購入や対応ソフトなどは以下webサイトをチェック。
◎製品情報:http://line6.jp/helix/helixnative.html
◎システム要件など:http://www.line6.jp/news/844/
2017年8月28日追記
Helix LTには、62タイプのアンプ・モデリング(内ベース用は12)、37タイプのキャビネット(ベース用は8)、16タイプのマイク、104タイプのエフェクトを内蔵。アンプやエフェクターは、構成回路の動作をひとつずつモデリングしていった念の入りようで、例えばアンプなら電圧変化に伴う反応、エフェクターなら使用されているダイオードやBBD素子の特性などもリアルに再現している。また、ベースの場合アンプ以上に重要なキャビネットのモデリングも同様で、新たなモデリング技術を用いることで従来以上の反応や低域の再生を実現。これら詳細なサウンド情報を、弾き手のタッチなどを生かしたまま処理することを可能としたのが心臓部であるデュアルDSPで、従来のモデリングを凌駕するリアルなサウンドを生み出している。
1プリセット・パッチにつきABというふたつの信号経路を持ったふたつのパス(シグナル・チェーン)が用意されており、最大計4つのシグナル・チェーンを構成することができる(逆にすべてを直列接続することも可能)。例えばパス1を並列にし、異なるアンプやエフェクターをセットしたり、アンプ用とライン用で独立したセッティングを作ったりすることもでき、イメージするサウンドやアウトプットのシステムに合わせた柔軟な音作りを実現してくれる。また、同一パッチ内でエフェクターなどのパラメーターを変えたい場合、任意の設定や状態を最大8種類まで記憶/リコールするスナップショットという機能もあり、パートや奏法の変化に合わせて切り替えることもできる。これはプリセットの移動と異なりDSPを介さないため、処理上の音切れがないというのも大きなメリットだ。それらパス構成やエフェクトの並べ替えなどは、ディスプレイ右のジョイ・スティックとACTIONボタンで簡単に行なえるので、デジタル機器の操作に慣れていない人でもすぐに扱えるようになるだろう。
足下の操作は基本的にA〜D計8つのフット・スイッチで行ない、プリセット・モードではプリセットの選択を、ストンプ・モードではパス内に配置された各エフェクターを実際のエフェクター・ボードのように個別にオン/オフすることができる。このフット・スイッチはタッチ・センサーにもなっており、触れることで任意のエフェクト・ブロックを選択したり、ふたつのブロックを入れ替えたりすることも可能。また、ペダル・エディット・モードではこの8つのフット・スイッチでパラメーターを選択し、エクスプレッション・ペダルで値を調整することもできるため、手を使わずにリアルタイムな音の調整が可能なわけだ。
バック・パネルには2系統のセンド&リターン端子があり、お気に入りの実機エフェクターをHelix LTに組み込むことも可能だ。また、XLRアウトでPAに直接信号を送れるほか、USB端子のオーディオ・インターフェース機能を用いDAW機器に接続して宅録にも活用することができる。USBの入出力を設定すればリアンプも可能なので、音作りの追求に重宝する。
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よくぞここまで真空管らしさを再現したなと感動しました。
アンプのモデリング具合は、各アンプの特徴がすごく忠実に再現されていると思いました。アンプによってこれだけ変わるんだというのがよくわかりますね。
今回デモ演奏で選んだ4モデルだと、[Cali 400 ch1]は一番気に入ったモデルで、リハーサルなどで聴くラインの音にものすごく近いです。そのうえで良いエアー感もあって、そのバランスが良かったですね。[G Cougar 800]はローがものすごくブッとく、歪みも嫌らしくない。アンプにマイクを立てたときのサウンドに近いですね。[Busy One Ch2]はラインとコンプのみという感じでパキパキなんですが、それがすごくエフェクティブで、曲作りにも刺激を与えてくれるんじゃないかなと思いました。[SV Beast Nrm]は半端じゃないぐらいローが出て、低音祭りです(笑)。ただ、あくまでもアンプっぽいロー感で、よくぞここまで真空管らしさを再現したなと感動しました。
マルチっぽくない、実機に近い暴れる歪み方がします。
歪みエフェクターも、オーバードライブ、ディストーション、ファズなどが数多く入っていて、もちろんそれぞれのキャラクターも全然違う。ギター用もあるんですけど、試奏した印象ではナチュラルでしたしどれも使えましたね。今回は、[Industrial Fuzz][Scream 808][Obsidian7000]を使いました。
僕のイメージでは、リアルなエフェクターは踏めばかなり歪むのに、こういうマルチ・エフェクターに入っている歪みってすごくキレイに鳴るという感じがあって、マルチのなかでコントロールされているというか、キレイに聴かせることを優先しているという印象があったんですよ。ところが、このHelix LTではそういうところがまったくない。この本体内にリアルなエフェクターがいくつも入っているというイメージです。
それと、例えば歪みと空間系を同時に踏んだときも、マルチだとキレイにまとめてしまったり、逆に抜けてこなかったりっていう印象でしたが、この点も問題ないです。実機と同じような作用、新しいサウンドを生み出してくれていると思いました。
オケ中でも全然違和感がなくグルーヴできる。
Helix LTにはものすごくたくさんのエフェクターが入っているんですけど、歪み系以外のその他のエフェクターの感触も、全体的に素晴らしかったです。
デジタルのエフェクターというところだと、例えば僕は、レコーディングではプラグイン・エフェクターなども使うんですが、耳につくところが変化していたり、抜けてこなかったりすることもあるんです。でも、Helix LTのエフェクターはそういうことはなかったですね。それに、センド/リターンを使って実機を絡ませることもできるんで、自分のエフェクト・ボードとの組み合わせなども試してみたいと思いました。
今回の試奏でオリジナル・パッチを作成するにあたって、[Deluxe Phaser](フェイザー)、[PlastiChorus](コーラス)、[Dual Pitch](ピッチ・シフター)、[Autofilter](オートワウ)の4つを使いましたが、これは僕がNothing's Carved In Stoneで実際にプレイしているようなエフェクターをチョイスしたものです。オケ中でも全然違和感がなくグルーヴできたので、プレイしていて楽しかったですね。
新しいことをやってみようという意欲が湧くし、
これまでアプローチできなかった部分に届く可能性を感じる。
今まで、僕はマルチ・エフェクターっていうものは全然使ってきませんでした。というのも、高校生のときに買ったマルチが歪まないしノイズもひどいしで、良い印象がなかったからですね。ところが今回このHelix LTを試奏したところ……ものすごいです。ビックリしました。まず驚いたのが、例えばアンプをマイク録りで弾いたときって、若干ローが遅れてきたりするんですね。そのロー感、レスポンスが空気的に影響されている感じも、このHelix LTでは表現されているんですよ。もちろん、機材的にはまったくノイズもないんですけど、実機を弾いたときのノイズを、あえて少し乗っけているんじゃないかっていうぐらい、リアルだと感じました。
操作性も、マルチ・エフェクターを使ってこなかった僕ですけど、実際に触ってみるとある程度エフェクターを知っていたら迷わずにすぐ使えるという印象でした。それに、エフェクターは置く場所によって効果が変わってきたりもするわけですけど、実際のエフェクターでボードを組むとエフェクターの入れ替えなどはなかなか難しかったりするんです。その点Helix LTは簡単な操作で接続順を変えることができますし、これぐらいの感じでいろいろ試せたら便利だなと思いますね。
普段僕が使っているエフェクター・ボードはものすごくでかくて、ひとりで運ぶのが難しいぐらい重いんです。その点Helix LTは持ち運びしやすいサイズですし、エフェクターもたくさん入っている。普段の僕のシステムではアプローチできない場所、例えば海外などでも、あらかじめHelix LTでサウンドを構築しておけばエアーを鳴らさなくても問題ないクオリティに持っていけるというのは武器になると思いますね。それと、小さな会場や動画配信などでソロで演奏する場合、コンパクトなレコーディングやデモ制作などでも役立ってくれそうです。新しいことをやってみようという意欲が湧きますし、可能性を感じます。デジタルでシンプルに帰るときが来たという感じですね。
特集:カトウタロウ meets Line 6 Helix LT
本記事は、リットーミュージック刊『ベース・マガジン 2017年9月号』の特集記事を転載したものです。表紙巻頭では、『NO MORE MUSIC』をリリースしたハマ・オカモト(OKAMOTO'S)を大特集。そのほかにもリーズナブルかつ実践的な入門用5弦ベースを特集した『15万円以内で買える「初めての」5弦ベース』、2ビートや4ビートといった“ビート”という観点から奏法ノウハウを提示する『リズムまる見え! ◯◯ビート特捜部』などを収録した注目の1冊となっています。ぜひチェックしてみてください!
日向秀和
ひなたひでかず●1976年12月4日、東京都出身。02年にART-SCHOOLでメジャー・デビュー。以後、ZAZEN BOYS、ストレイテナー、FULLARMOR、Entity Of Rude、Nothing's Carved In Stone、killing Boyなどのバンド活動を並行して行なう。Nothing's Carved In Stoneは10月に2マン・ツアー「Hand In Hand Tour 2017」を高松、熊本、新潟で3公演を開催し、11月15日(水)に豊洲PITにてワンマン・ライブ“Live on November 15th 2017”を開催する。