AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
オール・イースト・インディアン・ローズウッド・ギター
忘れた頃にやってくる木材連載、今回は夏休み特別企画として自らセレクトした素材による木フェチ・ギターをカスタム・オーダーしてみました。筆者ならではの素材調達ルートと製作工房人脈を生かして、憧れのギターを得るべく果敢に挑戦した次第です。自らお題にすえた素材はイースト・インディアン・ローズウッド(以下インドローズ)。もはや、ありそうでなさそうでウッフン的素材の最右翼。完成後にはFINEWOODデジマート店で読者の皆さまに販売する予定です。夢の「カスタム木フェチ・ギター」、Part.1は素材調達からオーダーまでの道のりをお話しします。
よく知られたところですが、ローズウッド類はインドローズに限らず、何年も前から丸太での輸入がほとんどなくなり、現在の国内在庫は産地で細かく製材された後、輸入されたものがほとんどとなっています。
今回のオーダーはせっかくの機会なので、なるべく寄せ集め材ではなく、同じ木から取りたく思い、できるだけ大きな板、盤を探してみることにします。かつてはアジアや中南米からまさにゴロゴロと丸太で輸入されていた時代もあったわけですから、そんな時代のブツが今でもどこかに残っているのではないかと簡単に思っていたのが間違いでした。
捜索は地方の銘木店、建具・造作家具店、個人収集家など、できるだけ楽器業界とは縁のなさそうな場所から探してみることにします。結果は⋯⋯素材として各所に存在はしているのですが、こちらが所望するようなサイズ、品質を持つ材は残念ながら非売品扱いか、価格を聞いても“売りたくない価格”、つまり楽器類にはとても使えないような破格提示されるものがほとんどというありさま。売ってしまえば、恐らく二度と手に入らないであろう代物ですから、そう簡単に放出してくれるわけありませんよね。
時が経過し、この企画も半ばあきらめていたところ、偶然にも知人木工家より大盤の売り物があるとの情報がもたらされました。なんでも昭和時代に輸入された丸太を厚み2寸(約60mm)に製材したまま保管されているとか。いてもたってもいられず、7月某日、保管場所を訪れることにしました。
待望のビッグサイズ、インドローズは長さ約1.8m × 幅1.3 m × 厚み60mmという、私の予想以上の大きさで出迎えてくれました。ローズ種の中では比較的大径木が育つインドローズとはいえ、最大級の丸太であったことは間違いありません。ただしこの世界、プレミアムな大きさ(材積)=価格の高騰につながります。そのバランスが悪いと、とても手が出せないのですが、幸い、欠点箇所や今プロジェクトの意味合いを十二分に考慮いただき、適価でお譲りいただくことに相成りました。
所有権が移ると同時に、すべてのリスクも背負いながら早速木取りに取り掛かります。木肌に近い両耳部分は杢っ気が強く、芯周辺には大きなワレを持っています。さらに注意しなければならないのは、今回のような厚みの板ですと、表と裏の状態が全く異なることがあります。どうしても避けられない欠点もありますが、なるべくロスなく使えるよう無難、大き目に荒切りしてもらいました。肉や魚と一緒で最高部位はごく一部ですが、身も骨もしゃぶりつくす勢いで隅から隅まで活かすことが木に対する努めと思い、切り粉以外はすべて持ち帰ります。
今回の材を見つけてくれた知人と元オーナーさんにサンプル材を残すことも忘れません。元オーナーさんによるとご自身が物心ついた頃にはこの盤が存在しており、購入者である今は亡き父上からこの木の簡単なエピソード(昭和40年代に輸入された最大級丸太を博打気味に購入したものの身が詰まっていてホっとしたなど)を聞かされていたとの事。そんな思い入れのある木を快く放出いただいたのですから、こちらとしては記憶だけでなく現物をわずかでも手元に留めておいていただきたいと思った次第なのでありました。
さてと、荒切りした材を車に積み込み、そのままギター工房に向かいます。今回は大き目の材が手に入ったということで、2人の製作家にそれぞれ1本ずつオーダーすることにしました。
まずは、デジマートでもおなじみのY.O.Sギター工房さん。オーナー/ビルダーである吉田友樹氏のご自宅に隣接する新工房に初めておじゃましました。高速インターチェンジからも近く、のどかな茶畑環境の中に現れたのは、筆者が訪れた楽器工房史上、最も美しいワーク・スペースでした。カウンター受付もありまるで併設ショップを思わせるおされな空間です。その技術と高い人間力ゆえ、移転前も移転後も多忙で、カスタム・ギター製作は請けていない旨、オフィシャルサイト等でアナウンスされていましたので、門前払いかと思いきや、完全お任せ仕様なら気分転換にやってみてもいいよ! とのご回答。はい、メイン素材にコレを使っていただければ後は好きなようにしてください、ということでオーダー即完了! 久しくその手の作業にご無沙汰だったのと、インドローズの塊が製作家意欲に火をつけてしまったようです。「最近開発したオリジナル・ピックアップや実家近くの突板工場から発掘した秘蔵材なんかも使ってやってみます!」。明るい笑顔から、この後おとずれる苦闘への道はご本人も想像していなかったに違いありません。(Part.2へ続く)
日を改めて、今度は別の工房に向かいます。2人目はY.G.K印でお馴染みの山崎ギター工房さん。ローズウッドのギターをオーダーするにあたって、この方の存在は絶対に外せませんでした。というのも、かつて製作されたオール・ココボロ(ボディ&ネック一体、通称一本〇ソ仕様・某有名アーティスト所有)やオール・インドローズのTLタイプの出来があまりに美しくかったのです。ぜひ自分でも同様のオールものを頼んでみたいと長年考えており、素材が見つかるまでオーダー枠(?)だけは確保してもらっていました。
シャビーシックなアコ楽器製作にも定評があるビルダーさんですが、今回はご本人が最も得意かつ好むのはTLタイプということで、迷わずそれを頼みます。完成品を実際にプレイすることを考えるとソリッドではなくセミ・ホロウ構造が良いのでは、とのアドバイスも受け、それもその通りに。何しろ、気持ち良く仕事していただきたいので、今回はパーツ選定含めてヤマザキ夏のローズ祭りにてよろしくお願いいたします。(こちらもPart.2へ続く)
今回、国内に眠るローズウッド材を探すうちに、ある方から面白い情報をいただきました。
昭和40年代頃に輸入された古いローズウッド材を持ってるよ、とのことでした。その時代のローズウッドというと、アジアの本紫檀や手違い紫檀、マダガスカルのパリサンダーなどが思い浮かびます。しかし残っていたのは、あのブラジリアン・ローズウッドでした。たまたま、区画整理で解体された商家から出たもので実際に柱として使用されていたということでした。当時はブラジリアン・ローズウッドに限らず、中南米から様々な木が持ち込まれており、和風建築の装飾用途に使われたそうです。
産出国で建材に使われていたことは、本連載の創刊号でもご紹介しましたが、まさか日本国内でもそんな使われ方をしていたとは、全く知らず、驚きでした。柱など大きなサイズのまま使われたおかげで、リクレイムした後でも、楽器材として存分に使えるのは有難い話です。
12月公開予定の次号では、ビルダーおふたりの製作プロセスを追いかけ、板材が完成形に近づく様子、木フェチギターの魅力をお届け。そして完成したオールローズ・モデルのお披露目と販売も実施予定です。さて、無事完遂することができるでしょうか、どうぞお楽しみに。
本連載ではローズウッド関係のさまざまなコンテンツを展開してきました。改めて下よりお楽しみください!
森 芳樹(FINEWOOD)
1965年、京都府生まれ。趣味で木材を購入したのが運の尽き、すっかりその魅力に取り憑かれ、2009年にレア材のウェブ・ショップ、FINEWOODを始める。ウクレレ/アコースティック・ギター材を中心に、王道から逸れたレア・ウッドをセレクトすることから、“珍樹ハンター”との異名をとる。2012年からアマチュア・ウクレレ・ビルダーに向けた製作コンテスト“ウクレレ総選挙”を主催するなど、木材にまつわる仕掛け人としても知られる。