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ポットを替えるとギターの音はどう変わるのか?

〜ポット交換実験/トーン編〜

エレクトリック・ギターのボリュームやトーンを調整するポット。よくシングルコイル・ピックアップには250kΩ、ハムバッカーには500kΩのものを使えと言いますが、本当にその値じゃないとダメなんでしょうか? よくわからないので、試してみました。

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【実験テーマ】ポットを交換するとギターの音が変わるのか?

 今回のお題は、ポットです。

 我が家ではポットと言えば魔法瓶ですが、これは和製英語(つかそれはもう単なる日本語では?)みたいですね。今回扱うポットはポテンションメーター(Potentionmeter)の略で、「可変抵抗」のことです。エレクトリック・ギターでは、ボリュームやトーンを変えるために使われています。ちなみに、ボリューム専用のポット、トーン専用のポットというのはありません。同じ規格のものが使い回されています。

 このポットが、うんざりするほど面倒くさいんですわ……。まず、インチ規格とミリ規格ではサイズが違いますから、そこを確認せずに意気揚々と買ってきても、インチのポットのシャフトがミリ用の穴に入らないなんてことが起こります。「俺のシャフトが、大きすぎて穴に入らない!」……言ってみたいですか? いいから先に進め? 了解しました!

 ポットには他にも、ロング・シャフトだショート・シャフトだ、ローレット・シャフト(ギザギザ&スリットあり)だソリッド・シャフトだ(ギザギザ&スリットなし)、AカーブだBカーブだと確認すべきことがたくさんあります。

 最後が極め付け、抵抗値ですね。これは「シングルコイル・ピックアップには250kΩ、ハムバッカーには500kΩを使え」というのが常識になっています。メンテナンス関係の記事を読んでいても、「他の値の音も面白いから、暇な人は付け替えてみて」なんて書いてあるのは見たことがありません。まったくよー、無難なところでまとめやがって。試してみたことあるのかよ? ……私はないです。というわけで、自分で試してみないと人様に毒付くこともできませんからね、ポット交換実験、始めるよー!

【実験環境】

■使用機材
フェンダージャパン / ストラトキャスター ST62-500 ローズ指板(ギター)
フェンダー 68 Custom Deluxe Reverb(アンプ)
ベルデン / 9778(ケーブル)
ヴェムラム ジャンレイ(オーバードライブ)
ギブソン / ティアドロップ・シン(ピック)
アーニーボール / レギュラースリンキー(弦)
CTS A 250kΩ、CTS A 500kΩ、CTS A 1MΩ、CTS A 25kΩ(ポット各種)

※セッティングについて
■ポットはCTS社製のAカーブで統一しました。
■ポットを交換する以外、アンプ、ペダルのセッティングは一切変えていません。
■今回はギター本体に改造をして音を出すため、ルーパーを使った比較はできません。極力近いニュアンスで演奏するよう心がけましたが、各演奏の間にはポットの交換作業が入るため、どうしても多少のブレが出てしまうことはご了承ください。
■下実験の結果、違いがわかりやすそうだったクランチ・サウンドで本番に臨んでいます。
■交換するポットは、フェンダージャパンのストラトのポットで最もはんだ付けがしやすそうだったセンターのトーン・ポットを交換しています。
■本企画では動画再生の際、ヘッドフォンでの視聴を推奨しております。

実験1 トーン10で比較してみよう

①ST62純正

ST62純正

 それでは、まずフェンダージャパン・ストラトキャスター ST62-500に付いていた、純正のポットから試してみましょう。ミリ規格なので、国産のポットでしょうか。全体にちょっと小さくて、なんだか頼りない感じです。これをクランチで、簡単なコードを弾いてみました。

 サウンドは……まぁ、いつも通りストラトのセンター+薄めのヴェムラム・ジャンレイ+フェンダー68カスタム・デラックス・リバーブの音です。特に問題ない気がします。強いて言えば、「ストラトのセンターピックアップの音、いいじゃん。みんな、もっと使おう!」ってことくらいでしょうか。

 あ、それと「トーン・ポットを交換する実験なのに、なんでトーン10で弾くんだよ!」という方もいるかもしれませんね。えーっと、それはトーン10でも音に影響があるからです。トーンを絞ったパターンは後で別にやるので、ちょっと待っててください。……そういえばナット交換実験の時に、「ナット交換実験なのに、なんで開放弦でチェックしないんだ、このド素人が」という方もいましたが……。ナットを交換すると、押弦した音まで変わるというところがミソなので、あれには相当がっくりきました。……息子よ、いつかお前が地下実験室を見る日が来たら、とうちゃんは幾多の罵詈雑言に耐えつつ頑張っていることを知ってくれ。では、次に行きます。

②CTS A 250kΩ

CTS A 250kΩ

 続いては、ポットをリプレイスメントする際の定番中の定番、CTS社の同じ値のものに交換してみましょう。新品のギターでも、ある程度の価格以上のギターは、仕様書に大抵CTSポットと書いてありますね。当然、他にもポットを作っているメーカーはあるのですが、CTSは入手が楽だったので、今回デフォルト以外はCTSで統一しています。型番のAは、Aカーブのことです。

 さて、そのサウンドは……あ、こっちの方が音が太いですね。ロー〜ミッドが充実して、押し出しが強くなった感じです。わからないという人は純正に戻ってみてください。ね? スカスカで、安っぽいでしょう? 私は、安っぽい音も嫌いではないですが、一般的にはこっちの方が良い音という感じでしょうね。

③CTS A 500kΩ

CTS A 500kΩ

 さあ、次はハムバッカーに最適と言われている500kΩのポットに付け替えてみましょう。

 あ、これは②のロー〜ミッドの押し出しに、ハイも加わりましたね。総じてパワフルな印象です。好みは人それぞれですが、悪くないんじゃないでしょうか、シングルコイルに500kΩ。

④CTS A 1MΩ

CTS A 1MΩ

 続いては、1MΩ(いちメグオームと読みます)のポットです。68年頃のテレキャスターが、確かこの値ですよね? そのことと、ここまでの流れを見ると、もっとハイが出るのかな? 早速音を聴いてみましょう。

 あれ……トーン10の状態だと、500kΩと大きく違う感じはしませんね。シャラッとはしていますが、特別ギラギラしている感じはしません。うーん、難しいなぁ。

⑤CTS A 25kΩ

CTS A 25kΩ

 ここで、おまけです。25kΩという、かなり特殊な値のポットを見つけたので、これも付けてみました。普通のストラトのポットが250kΩですから、桁が違いますね。

 で、そのサウンドは……うわああ、こもりにこもっとる! もっこもこじゃないですか! うーん、ここまで試してみて、やっぱり値が小さくなるほどハイが出にくい傾向にあるということは、言っていいのかなと思いました。1MΩだけ、ちょっと引っかかっていますが……では、次にトーンを絞って試してみます。

実験2 トーン6で比較してみよう

⑥ST62純正

ST62純正

 ギターのトーンって、絞らない人が多いですよね。いつも10ですって人。私は逆に、ほとんど10で弾くことがないです。10だと「張り切りすぎ」な感じがするんですよ。楽器によって異なりますが、9.5くらいの場合もあれば、6くらいまで絞ることもあります。特殊効果を狙ってではなく、それで平常運転ということです。このストラトの場合、ギリギリ6までが使える感じで、5まで絞るとこもり過ぎて実際には使えない音という感じでしたので、トーンを絞った時のサウンドは「6」で比較していくことにしました。ただ、このあたりはポットのカーブやなんかも影響するので、皆さんの楽器とはちょっと違うかもしれません。

 で、純正の6。まぁ、ギリギリ使えるという判断をした音なので、悪くないですよね。これはこれで、ストラトのクランチ・トーンとして成立していると思います。

⑦CTS A 250kΩ

CTS A 250kΩ

 次は同じ値の250kΩで、CTS製のトーン6の音です。トーン10の時は厚みがあっていい感じでしたが……。

 ああ、こうなるのか。ここでもロー〜ミッドが出ていて音の厚みは純正よりありますね。でもその分、こもっているように聴こえます。CTSのAカーブの場合は、トーンを7か7.5まで戻すと、いい感じになる気がしますよ。

⑧CTS A 500kΩ

CTS A 500kΩ

 続いてCTSの500kΩのトーン6です。一般的にはハムバッカー用と言われているやつですね。トーン10ではいい感じでしたが、絞るとどうなるでしょう?

 あれ、いい感じ! トーン6でも250kΩよりこもり過ぎない(ハイが出ている)で、使える感じです。

 シングルコイルに500kΩ、アリじゃないの?

⑨CTS A 1MΩ

CTS A 1MΩ

 トーン10の時には500kΩとイマイチ違いがわかりにくかった、1MΩ。トーンを絞るとどうでしょうか?

 ああ、やっぱりわかりにくいですね。よく聴けば、ハイというかミッド・ハイあたりが500kΩより出ているようですが、期待したような劇的なキラキラ感は得られませんでした。

 もしかすると、もっと大きくトーンを絞った時に、ぐっと違いが出るのかもしれません。

⑩CTS A 25kΩ

CTS A 25kΩ

 最後は25kΩです。トーン6。むふふ。期待を裏切らないもっこもこ振りです。他と全然違いますね。良かった、これをラインナップに入れておいて。

実験結果

結論:ポットの値でギターの音は変わる! ぜひ好きなのを使ってください!

 今回は、結構わかりやすく変わりましたね。最後に参考までにトリルしながらトーンをゼロまで絞る映像も付けましたので、それもご参考にどうぞ。

 それから、最後の最後の演奏は、センターに25kΩ、フロントにはデフォルトの国産250kΩのポットが付いた状態で弾いています。フロントの方がジャキジャキして、センターがこもっているのが、なんかおかしいですよね。ポットの違いだけで、こんなに変わるという例です。

 で、ただ変わって良かった良かったというだけではなく、個人的には常識とされている「シングルには250kΩ!」という説に、「いやいや、自分が好きなのを着ければいいんじゃないの」と皆さんの選択肢を広げられたなら嬉しいです。例えば、ストラトのフロントをメインで使う人が、もうほんの少し、抜けが欲しいという場合、ポットを500kΩにするというのもアリかもしれませんよ? もちろん、ケーブルを変えるとかピックを変えるとか、アンプのトレブルの目盛りを上げるとか、抜けを良くする方法はいろいろありますが……。でも選べるってことは豊かだってことですからね。皆さんのギター・ライフが豊かでありますように。

 個人的にはダメダメだった、25kΩ、あのままではさすがにキツイですが、リアにシングル1発のエスクワイヤに、50kΩか100kΩを付けてみたら、ちょっとレス・ポール・ジュニア的なニュアンスが出るんじゃないかなんて妄想しています。付けてみようかな。むひひ。

 それでは、次回、地下42階でお会いしましょう!

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プロフィール

井戸沼尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジン・チャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。

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