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カトウタロウ meets Line 6 Helix LT

Line 6 / Helix LT

圧倒的なサウンドの良さ、画期的なインターフェースでギター・プロセッサーの新時代を切り拓いたHelix Floor。その機能はそのままに、値段を抑えた新モデルのHelix LTを紹介しよう。これまで多数のLine 6製品を使用していた経験のあるカトウタロウを試奏者に招き、その実力を確かめていこう。

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Helix Nativeリリースのお知らせ

 Helix Nativeは、Helix RackやHelix Floor、そしてHelix LTなどで好評を得るハイクオリティなサウンドを実現した、DAWソフト用のプラグイン・ソフトウェアだ。すでにHelix Floorなどハードウェアを所有している場合は、もちろんスタジオで作り込んだプリセットをハードと同期して、ステージなどでもまったく同じサウンドを鳴らすことができる。なお、通常価格では$399.99だが、すでにHelix Floorなどハードウェアを所有している場合は特別価格にて購入可能だ。動作環境はAAX/AU/VST3の64bit。Line 6オンライン・ストアでの購入や対応ソフトなどは以下webサイトをチェック。

◎製品情報:http://line6.jp/helix/helixnative.html
◎システム要件など:http://www.line6.jp/news/844/

2017年8月28日追記

Helix LTにカトウタロウが挑む!

Line 6 Helix LT

 Helixシリーズが高い評価を受けているのにはいくつか理由があるが、まずは圧倒的にサウンドが良いことが挙げられる。このHelix LT(以下LT)は価格を抑えたモデルながら、Helix Floor(以下Floor)の最重要部分を確実に受け継いでいる点が特筆モノだ。ポイントは、同じパワフルなデュアルDSPで処理されたHXモデリング・サウンドを搭載している点。例えば、ビンテージ・アンプやブティック・アンプ、ビンテージ・エフェクターなどの独特のサウンドを再現しているのはもちろん、プレイ自体やギター側のボリューム・コントロールに追従してさまざまな反応を見せる“そのモデルならではの挙動”といった多くの情報量を必要とする部分まで、完璧に再現する。

 しかも、その良い音をどんな環境下でもきちんと再現できる点は、実機のアンプ/エフェクター以上だと評価されているのだ。実機はデリケートで環境の変化やほかの機器とのマッチングによって音が変わってしまうことがある。それをなんとかして克服し、ギタリストが高価なアンプやエフェクトを使ってどんなに良い音を作っても、アンプで鳴らした音をスタジオできちんと録音することは、実は至難の技だということはギタリスト諸君ならご存知のとおりだろう。しかし、LTを使えばレコーディングはもちろん、ライブでも“最高の音を安定して”出力できる。この魅力は自宅での使用であっても変わらない。本機を使えば、真夜中に小音量で、真空管アンプのボリュームをフルにした時の最高の音質で練習することもできる。

Line 6 / Helix LT

充実したリア・パネル。こだわりの実機をシステムに組み込める2系統のループ、PCやMIDI機器と連携できるUSB端子とMIDI端子、Line 6製Variaxを接続するVariaxインプット、Line 6製StageSourceモニターなどと接続できるデジタルアウト/ L6 LINK、スタジオ機器やライブハウスのミキサーに直接信号を送れるXLRアウトなど、十分な拡張性を誇る。

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 LTは、操作感の部分でFloorと多少異なる部分がある。しかし、それはどちらが良い/悪いというよりは、好みと慣れの問題であり、LTが高いユーザビリティを誇っていることはまぎれもない事実だ。例えば、Floorでは、フット・スイッチごとに小さなディスプレイが設置されており、“そのスイッチが何のエフェクトを表わしているか”がひと目でわかった。LTでは、フット・スイッチまわりはスッキリとしたレイアウトになり、画面表示については800x480ピクセル6.2インチの大型LCDディスプレイに集約された。LTもFloor同様に、フット・スイッチがエフェクトの系統に合わせて光るので(歪みはオレンジ、モジュレーションは青など)、今踏んでいるエフェクトが何系のペダルなのかすぐに視認することができる。

 例えば、プリセットを自分で行なっていれば、演奏中に“歪みペダルが何だったか”よりは“このスイッチは歪み系なのか、空間系なのか”のほうが重要であり、その意味では現場感覚はそのままに、よりシンプルになったということだ。深い階層に入らなくてもボタンからすぐにコントロール画面に入れてシグナル・チェーン全体を見渡せること、フット・スイッチにタッチするだけで即座にどのブロックにも移動でき、パラメーター調整やコントローラーのアサインが可能なキャパシティブ・タッチ・フット・スイッチを搭載していること、ペダル・エディット・モードでは、完全に足だけでパラメーターの調整が可能なことなど、操作性の良さもFloor譲りだ。

 またFloorとの相違点として、最大3個使えたエクスプレッション・ペダルが2個になった点、CVアウトがなくなった点など機能面で抑えられた部分はあるが、これによってHelixのサウンド、快適さに手が届きやすくなっており、また筐体の素材を変更したことで強度は保ちつつ重量が約1kg軽くなった点などは、大いに歓迎されるところだ。

【SPECIFICATIONS】
●プリセット・ロケーション:1024 ●アンプ数:62 ●エフェクト数:104 ●キャビネット数:37 ●マイク数:16(※以上ファームウェア・バージョン:v2.20の場合)●コントロール:プリセット、セーブ、メニュー、ホーム、アンプ、ジョイ・スティック、バイパス、アクション、ページ×2、ノブ×6、ボリューム、フット・スイッチ×12、エクスプレッション・ペダル、グラウンド/リフト・スイッチ●入出力端子:ギター・イン、アウト×2、XLRアウト×2、エクスプレッション・ペダル/ EXTアンプ、センド/リターン×2、ヘッドフォン・アウト、Variaxインプット、MIDIイン、MIDIアウト/スルー、AES / EBU-L6 LINKアウト、USB ●電源:内蔵 ●外形寸法:530(W)×303(D)×93(H)mm ●重量;5.7kg

すべてのサウンドを一発調整するグローバルEQ!
グローバルEQは、例えばライブ会場やスタジオに合わせて全セットリスト/プリセット共通で、サウンドを微調整したい場合などに使用する。3つの完全なパラメーター・バンドに加え、可変ロー/ハイカット・フィルターが備えられている。

パラメーター表示で簡単設定できるEQノブ
大型のディスプレイには、信号の流れ、アンプの種類、アナログ的に操作できるツマミに連動したアンプのコントロールとその数値が映し出されている。写真ではベースが6.6と小数点以下まで表示されており、シビアな音の作り込みが可能だ。

アナログ機器との相性も良いセンド/リターンをふたつ装備
エフェクターなどをHelix LTのエフェクト・チェーンのどの位置にでも設定し、内蔵エフェクトと連結して使うことができる。アナログのペダルを使う場合は“Instrument”、ライン・レベルのラック・タイプやドラム・マシンなどをつなぐ場合は“Line”を選択する。

TAPフット・スイッチ長押しで視認性に優れたチューナー画面を表示!
視認性と精度に優れたチューナー。プラス/マイナス50セントの大きな目盛りと、プラス/マイナス3セントの小さな目盛りを備え、ざっくりとペグを回してからシビアに追い込むチューニングが可能。アウトプットのオン/ミュートや基準のピッチを選べる。

徹底試奏! Helix LTにカトウタロウが挑む!

 ここからは、さまざまなアーティストのサポート・ギタリストを務め、Line 6製品も多数使用経験のあるカトウタロウによるHelix LTの試奏インプレッションをお届けしよう。事前にカトウにHelix LTを貸し出し、操作などを把握してもらったのだが、その多彩すぎる機能やリアルなサウンドに衝撃を受けたそうだ。果たしてその実力は!?

AMP
凝ったマイキングの必要がなく良い音を録れるのが最高です

 62種類のギター用アンプ・モデルと37種類のキャビネット・モデルを備えており、お気に入りのアンプとキャビネットを自由自在に組み合わせることが可能だ。ハイゲイン系のモデルでザクザクとミュートを刻んだり、ツイード系のモデルでカッティングをキメていたカトウに話を聞こう。

──アンプ・モデリングの音にはこだわる人が多いと思うのですが、Helix LTのアンプ・モデルはいかがでしたか?
 結局、“歪みはアンプじゃなきゃ嫌だ”っていう人は多いですよね。正直、僕もそういうところはあったんですが、Helix LTをフルレンジ・スピーカー(Line 6製Stage Source L3t)に直接つないで内蔵されているアンプ・サウンドを鳴らしたら、“あれ? アンプの歪みがそのまま鳴ってる!?”と感じました。アンプでの音作りは難しくて、自分がどんなに最高だと思える音を作っても、例えばレコーディング・スタジオでブースに入って録り始めた途端に“あれ?”ってなることが多いんです。マイキングひとつで音がまったく変わってしまうので、そこをエンジニアさんとお互いにストレスを抱えながら詰めていく作業って、けっこう大変なんですよ。アンプから鳴っている音と録音された音の違いには、たびたび悩まされます。Helix LTは直接ラインやスピーカーに出力できるので、自分が作った本当に気持ちが良い音をそのまま演奏できて、そのまま録音できるのが良いですよね。凝ったマイキングの必要がなく、良い音を録れるというのが最高です。

──巨大なスタック・アンプの音が、そのまま小音量で鳴っていることにも驚きました。
 そうなんですよ。深夜でも練習できるくらいの小さな音でも、ちゃんとそのアンプ特有のニュアンスやダイナミクスが損なわれないんです。レイテンシーの問題もまったく感じないですし、ピッキングのタッチや左手のスピードにも完璧に付いてきますね。先ほども言いましたが、これを使って練習すればギターがうまくなると思いますよ。アンプで弾かないとわからない“鳴るべきでない音”があるんです。それをきちんとミュートする技術は、生音でいくら練習しても身につきません。このHelix LTを使えば、鳴らしちゃいけない音がちゃんとわかるし、アンプで鳴らすよりはるかに小さい音で、いつでも練習できますから。

──レコーディングや練習でも使えますけど、ライブでも使えますよね?
 もちろん! 最近はステージ上の音量をあまり大きくしない現場が増えていて、そんな時はアンプの音量を下げるんですけど、音量を下げることでアンプが持っている良い部分まで削がれちゃったりするんですね。これは、そういう現象が起きないのが良いです。逆に、ステージで思っていたより音量を上げなきゃいけない場合もあって。その時は、出てほしくない帯域が膨らんでくる、フィードバック・ポイントが変わるといったことが発生しますが、それもHelix LTならきちんとコントロールできます。家で作り込んだアンプの音が、どこに行ってもすぐに使えるし、その音が会場によって調整が必要な場合でも、その場ですぐに調整できる──この感じが、“作った人は現場をわかってるなぁ”と思いました。

──お気に入りのアンプ・モデルは?
 某ハイゲイン・アンプをベースにしたSolo Lead ODという名のモデルは、すごく良かったです。それとTweed Blues〜、US Deluxe〜というモデル名のアメリカン・コンボをベースにしたモデルも良かったですね。それとモデリング・アンプは歪みの良し悪しで語られがちなんですが、クリーン・アンプのモデリングも良かったですよ! クリーン・トーンで音量を下げると音がペラペラになってしまうことがありますよね? でも、このクリーン・トーンはふくよかなんです。クリーン・トーンのほうがむしろ情報量は必要なくらいで、良いサウンドを出すのは難しいんですが、これはペラッとしていないクリーンが出せますし、音の減衰の仕方も自然で良いですね。

──例えばチューブ・アンプのクリーンって、どクリーンではなくて若干の歪み成分が入っていたりして、聴きやすいし、弾きやすいじゃないですか? その感じが出ているんでしょうか?
 そうですね、バッチリ出ています。良いクリーンを安定して出すのは、むしろ実機のほうが難しいですよ。その良いクリーンを出すために、ある程度音量を上げなければならないので。例えばフェンダー・アンプなんかは、ボリューム5くらいが良い音なんですけど“ちょっと下げて”と言われることもあるんです。そうすると、もうあの音が出なくなってしまいますから。でも、これなら音量をすっと下げて、それでも良い音なので、本当に使いやすいです。とにかく、ギタリストが大事にしているタッチをちゃんと出せるところが良いですよ!

Solo Lead Crunchというアンプ・タイプの設定画面。ボリュームやドライブ、各EQがパラメーターと数値で表示されており、実機のアンプと同じ感覚で使えるほか、実機以上の細かい調整ができる。

OVERDRIVE/DISTORTION/FUZZ
ビンテージ・ペダルを使ってきたプレイヤーにこそ弾いてほしいです

 MinotaurやScream 808、Triangle Fuzzなど、コンパクト・エフェクターの名機を彷彿とさせるネーミングのモデリングを始め、合計19種類のドライブ・サウンドを用意している。実機のような細かいニュアンスまで再現した音色を、カトウはどう感じたのだろうか?

──Helix LTに内蔵されているエフェクトを触ってみて、何か発見はありましたか?
 僕はもともとコンパクト・エフェクターを使うことが多いということもあって、マルチの便利さは認めつつ、リアルタイムの直感的な操作ができないことがちょっと……っていう苦手意識が以前はあったんです。もちろん現場によってコンパクトでは対応できないことがあるので、Line 6のPOD HD500Xを使ったりして、そういう意識は随分なくなったんですが、このHelix LTは本当に操作しやすく直感的に扱えるので、すごく良かったですね。それはパラメーターの調整とかだけの話ではなく、ギターのタッチに対する反応の良さや、ステージング上での操作も含めて、扱いやすいという意味です。そして、何が良いってとにかくサウンドが良い。これが最高です!

──デジタル・エフェクターのサウンド面でギタリストが気になるのは、歪みのクオリティだと思うのですが、その点はいかがでしたか?
 Helix LTには12種類のディストーション・モデルが搭載されているんですが、どれもびっくりするくらい良かったですね。むしろ実機のエフェクターより良かったかもしれません。かつてレコードやCD、あるいは実機をとおして聴いたことのある“あの音”が、そのまま鳴るんです。僕らの体の中に遺伝子として組み込まれているようなロックな音が入っていて、それをストレスなく使えるというのが素晴らしいですよ。昔のエフェクターの音を現代の音楽環境の中でちゃんと使えるのも良いですね。

──具体的には、どのあたりが実機より優れていると感じましたか?
 イメージした実機の音が、そのまま出てくるところです。そう聞くと“単純に実機を使えばいいのでは?”と思うかもしれませんが、実機は現場でほかのペダルと組み合わせて使う時に、干渉し合ってしまうことがあるんです。例えば、損なわれる帯域があったり、ノイズが乗ったりして破綻してしまう部分があるんですね。なので、本来持っている良い音が出せないケースがあるんです。その点Helix LTは、どんな使い方をしても“想像を超えた良くないこと”が起こらずに、“ちゃんとイメージしていたものがイメージどおりに出てくる”んですね。組み合わせによっては“イメージしていた以上のコントロール”ができたりもします。これは実機を超えた部分ですね。

──ただ、やっぱり実機を使いたいという人もいますよね。
 だからこそ、これは長い間ビンテージ・ペダルを使ってきたベテランのプレイヤーで“いやいや、実機と同じ音がするわけないだろう”と思っている人にこそ弾いてみてほしいですね。サウンドだけでなく、タッチやギターのボリュームに対する追従性や挙動までそっくりですからね。それでいてトラブルがなく、使いやすく、ノイズの面でも有利ですから、僕はむしろ実機ではなくこれがいいなと思いました。

──歪みのモデルは、オーバードライブからディストーション、ファズまで広いカテゴリーをカバーしています。
 ファズが特に良かったです! ファズは歪みの中でも多くのプレイヤーが気にする部分であり、沼にハマっちゃう部分でもありますよね? それが、これだけのラインナップがそろっていて、音も良いというのはたまらないんじゃないですかね。本物の実機をそろえたら金額的に大変なことになりますし、そもそもコンディションの良い個体も少ないですから。

──ちなみに、特に好みのモデルは何ですか?
 ファズ系だとTriangle Fuzzですね。コントロールが使いやすいし、単純に音が良い。とにかくぶっとい音です。それとオーバードライブ系はMinotaurとか素晴らしかったですよ。ディストーションも“ネズミ”系のVermin Diastとか、すごく良かったです。とにかく、使える音ばかりが詰まっているのがいいですよね。いくらモデル数が多くても、使えない音ばっかり入っていても仕方がないじゃないですか。Helix LTは、そのあたりがほかのマルチとは全然違う印象です。

──使える歪みが満載されているのは、ギタリストにとってうれしいポイントですね。
 本当にそうだと思います。歪みのサウンド自体が良いというのも素晴らしいんですが、ピッキングやギターのボリュームで音がどう変わるのかという部分まで完璧に追い込まれていますので、これでサウンドや音作りを知ることができますし、弾き方が変わって、ギターがうまくなりますよ!

各スイッチにアサインされているエフェクトがひと目でわかる画面表示。カトウのお気に入りであるTriangle Fuzzはフット・スイッチBの下にアサインされており、コンパクト・エフェクターを踏む感覚で操作が可能だ。

EFFECTS
空間系の“奥行き”を出せているのがすごいです

 22種類のモジュレーション、17種類のディレイ、12種類のリバーブを始め、フィルターやワウなども含めると104種類ものエフェクトが選択できるHelix LT。カトウは試奏時、コーラスやフェイザー、ディレイなどを巧みに操り、幻想的なサウンドを奏でていた。

──空間系やモジュレーション系などのエフェクトの使い心地や音質はいかがでしたか?
 すごく使いやすかったですね。エフェクト効果のパラメーターがすごくわかりやすいのと、“どこをどう動かすとどう作用するのか”を液晶に表示されたパラメーターと数値の両方で確認することができるので、簡単にセッティングできます。音質に関しては、例えば空間系って、線や面ではなくて、“幅、高さ、奥行き”の3次元で感じられるじゃないですか。特に奥行きが大事なんですけど、それをちゃんと出せているのがすごいです。これまでも良いエフェクターはいっぱいあったと思いますが、Helix LTのエフェクトは、それらを超えている感じがあります。

──モジュレーション系のエフェクトも素晴らしい音でした。
 ツマミが多く、自分でいじれる帯域が多いマルチ・エフェクターのモジュレーション系のピッチ調整は難しいんですけど、Helix LTは“そうそう、そこ!”っていうところにうまくとどまっているから、トータルでの音作りがすごく楽ですね。これは、ひとつひとつのエフェクトの開発段階でのチューニングが絶妙なんだと思います。で、僕はいつも思っているんですけど、名機の音を聴くというのは大事なんですよ。聴いたことがある音がきちんと存在するからそれを再現できるし、そこから新しい音を作ることができるんですね。だから名機と呼ばれるエフェクターの音は、できれば体験しておくべきなんです。でも、それは実際にはなかなか難しいですよね? この中には、歴史的なエフェクターのモデリング・サウンドが何台も入っていて、それが本当に全部良いんですよ。これは、ギタリストにとっては本当にうれしいところですよね。だって、全部を実機で買ったら人生が崩壊する金額になりますから(笑)。それを考えるとHelix LTのコストパフォーマンスはすごいですよね。皆さんにも、ぜひあの音を体験してほしいです。

──たしかに、聴き覚えのある音がHelix LTで簡単に作ることができましたね。
 音源で聴いた音をもとに、いろいろな実験もできますよ。有名な機材の組み合わせや、あこがれのギタリストのセッティングを再現することもできますし、さらに試したことのない機材同士の組み合わせや接続順の入れ替えなど、踏み込んだ実験をしていけば、必ず自分だけの音を作ることができると思います。

──なるほど。実機のエフェクターと比較して、音質や操作性はいかがですか?
 まず、音は実機に比べてまったく聴き劣りありません。それでいて、メインテナンスも不要だし、単体での音色は良いんだけどS/N比(信号とノイズの比率)が良くないからボードに組めないなということもないし。例えば、さっき動画用のデモ演奏でも使ったんですけど、曲中でアンプ・モデルを変えて音色をチェンジした時に、前のアンプ・モデルで使っていたディレイの残響音はバイパスする設定にしたんですが、トレイル機能を使ってディレイの残響音が消えないで残るようにしました。もちろん、消す設定にもできます。ここまでの音色の変化と細やかな作り込みは、コンパクト・エフェクターではなかなかできる機種は少ないですよね。

──使いやすさという部分ではいかがですか?
 まず操作性については、このボタンとスイッチの数で、よくこれだけの操作ができるなっていうくらい、うまくシンプルにまとめられていますね。それぞれのコントローラーの感度が良くて反応も早いし、深い階層に入らずに操作できるので、本当にコンパクト・エフェクターを使う感覚で操作できますよ。これだけ簡単だと、操作ミスも少ないと思います。それと、視認性がいいですね。画面の確認やパラメーターの調整をライブ中に足でできるのも助かります。あと、Line 6製品の良いところは、例えば歪み系はオレンジ色、揺れもの系は青色という感じで、各エフェクターの系統ごとに色分けされているので、ステージで完全に暗転しても安心なんですよ。これはたぶん、多くのギタリストがイメージする色になっているんですね、“コーラスだったら青”とか。コンパクト・エフェクターのLEDの色って基本的に一緒ですよね。で、“曲が始まるまで暗転しっぱなしで、曲始まりと同時に照明が点く”ような時に、歪みとクリーンを間違えたらアウトじゃないですか。でも、コンパクト・エフェクターのLEDの色だけだと、やっぱりわからないんですよ。Helix LTのスイッチは色分けされて光っているんですが、オフでも弱く、オンにするとハッキリと光るので、ステージングの邪魔にならずにミスを防いでくれます。Line 6製品は、そのあたりも考えて現場主義で作られているのがよくわかります。

プリセットされているエフェクトの接続順が表示されており、写真では緑色のディレイを選択。ハイ/ローの調整もできるので、好みの音色に設定ができる。また、緑色のアイコンと文字がリンクしているのもわかりやすい。

TOTAL IMPRESSION
Helix LTの素晴らしい部分は“音楽がより身近になる”ところ

──Helix LTを試奏していただきましたが、ずばり、どんなプレイヤーにオススメですか?
 もちろんギタリスト全員にオススメできるんですけど……最近の音楽、例えばアニソンとかを演奏する場合には、絶対にこれを使うべきです! 最近のアニソンは、ものすごく展開が多いんですよ。当然、パートごとにさまざまな音を作り込んで、瞬時にプリセットを呼び出して、次々と音色をチェンジしていかなければならないので、これくらい音が良くて、使いやすくて、操作ミスが起きないシステムを使わないと、ついていけないでしょうね。それから、ダウン・チューニングを使うようなヘヴィな音を出したい人にもオススメです。深く歪ませても濁りがなく、気持ち良く聴かせてくれますから。それに裏技的な使い方で、ピッチ・シフターをうまく使えばHelix LT自体でチューニングを下げたり、キーを変えることができるんですよ。テンション感を変えずに演奏できるので、プレイに集中できますからね。ライブ中にいちいちギターを持ち替えたりチューニングを直したくないっていう人にはものすごく便利です。

──そうすると、比較的若手のプレイヤーでしょうか。
 いや、ベテランのクラシックなロックをやりたい人にもオススメしたいです。それくらいオールジャンルに使える音ですよ! 日本の住環境では自宅でアンプを大音量で鳴らすことができない人がほとんどだと思うんです。でも、これを使えば最高のチューブ・アンプの音色を小さな音量で鳴らせることもできますし、Helix LTのアウトから外部のデバイスのAUX INにつなげて、好きな音源とセッションなんてこともできますから、とにかく楽しいんですよ。

──使い方に関して、気をつけるといいことはありますか?
 気をつけることは、“眠れなくなる”ことくらいですね(笑)。設定は簡単だけど奥が深いし、音が良いから毎日触りたくなるし、これを買ったらまず間違いなく眠れませんよ(笑)。実際、僕もこれを触っていたら、おもしろくて気づいたら朝の7時になっていました(笑)。

──試奏時、カトウさんがHelix LTのレイアウトについて褒めていたのが印象的でした。スイッチのふたつ同時踏みもしていましたよね。
 これはプレイヤー目線で作られたレイアウトです! 1アクションで複数の効果を切り替えることはもちろん簡単にできるんですが、それとは別に“スイッチ2個踏み”でできることもあるんですね。Helix LTは“踏み間違いがなく、かつ2個踏みもできるスイッチ間の距離”が絶妙なんですよ。で、チューナーもすごく使いやすいんです。見やすくて、感度も良いです。マルチ・エフェクターのチューナーの中には感度があまり良くないのもあって、どうしてもそういうのを使う必要があった時にはチューナーだけ外付けするようなこともあったんですけど、これはまったく問題なく使えますね。

──最後に、Helix LTが気になっている人へ改めてその魅力をお願いします
 とにかく、これを開発した人は相当すごい人だと思いますよ。良い意味でオタク気質じゃないかな。そうでないと、ここまで作り込めないと思います。いろんな意味で音楽的だし、人間的な機材ですね。Helix LTを使うことで一番良いのは、生活の中で“音楽がより身近になる”ことです。音が良くて、組み合わせが自由で、操作性が良くて、持ち歩きが楽で……と良いことはたくさんあるんですが、それによってギターをもっともっと楽しめて、生活の中でギターや音楽がより身近になるんですよ。そこが素晴らしいところだと思いました。

ギター・マガジン 2017年7月号発売中!

ギター・マガジン 2017年7月号 本記事は、リットーミュージック刊『ギター・マガジン 2017年7月号』の特集記事「The Instruments 時代を変えるイノベーター Line 6のすべて」を一部抜粋流用したものです。誌面では、30ページもの紙幅を割いてLine 6のヒストリー、音楽業界に大きな影響を与えてきた数多くの製品群を一挙に紹介。ここでは紹介できなかったカトウのHelix LTインプレッションも4ページにわたり掲載しています。Helix LTの魅力がより深く伝わる内容となっていますので、ぜひチェックしてみてください!

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関連記事:Helix LT製品レビュー

 Helix LTのより具体的な使い方や機能レビューなどについては、こちらも併せてご覧ください。

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製品情報

Line 6 / Helix LT

【スペック】
●プリセット・ロケーション:1024 ●アンプ数:62 ●エフェクト数:104 ●キャビネット数:37 ●マイク数:16(※以上ファームウェア・バージョン:v2.20の場合)●コントロール:プリセット、セーブ、メニュー、ホーム、アンプ、ジョイ・スティック、バイパス、アクション、ページ×2、ノブ×6、ボリューム、フット・スイッチ×12、エクスプレッション・ペダル、グラウンド/リフト・スイッチ●入出力端子:ギター・イン、アウト×2、XLRアウト×2、エクスプレッション・ペダル/EXTアンプ、センド/リターン×2、ヘッドフォン・アウト、Variaxインプット、MIDIイン、MIDIアウト/スルー、AES/EBU-L6 LINKアウト、USB ●電源:内蔵 ●外形寸法:530(W)×303(D)×93(H)mm ●重量;5.7kg
【問い合わせ】
株式会社ヤマハミュージックジャパン Line 6インフォメーションセンター TEL:0570-062-808 http://jp.yamaha.com/support/other_brands/line6
HELIX専用HP→ http://line6.jp/helix/
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プロフィール

カトウタロウ(かとう・たろう)
千葉県出身。覆面ロック・バンド、BEAT CRUSADERSのギタリストとして活躍。2010年のバンド散開後は、中田裕二やZIGGYの森重樹一など多くのアーティストのライブ/レコーディングなどに参加している。本誌で連載していた人気コラム“面(Men)On A Mission”を書籍化した『タロウ、楽器屋、寄るってよ。ツアーの合間に47都道府県の楽器店を訪ねたギタリスト』が好評発売中!

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