AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Marshall / 1959 SUPER LEAD “BLACK FLAG”(1967年)
DEEPER’S VEIW第4回! 今回は第1回「Dumble Amp Overdrive Special」に続き⋯⋯またしても禁断のビンテージ·アンプをご紹介します。ビンテージ·アンプと言えば無視できないのが60年代後半のモデル、通称「プレキシ・アンプ」ですね。昨今プレキシという言葉はビンテージ·アンプ・マニア以外の皆さんにも広く認知され、本家マーシャルのプレキシ・リイシューはもちろん、多くのブランドがプレキシ・タイプのアンプを発売しています。さらにペダル界でもドライブ・サウンドの質感を表す言葉としてプレキシ/PLEXIというキーワードが氾濫している状況。うーむ……ところでプレキシ·サウンドってどんな音を指すの? というツッコミを交えながら今回は迫っていきたいと思います。
ビンテージ・マーシャル・アンプで「プレキシ」と呼ばれるモデルは、一般的には1960年代中頃から1970年頃まで生産されたアンプの事を指す、というイメージだろう。50年近くも経つビンテージ・アンプゆえ、オリジナルのプレキシ・アンプを鳴らしたことがない人が多いと思う。しかし少なからず皆さんはその「プレキシ」から連想する「音のイメージ」を持っているのではないだろうか。その音色は一様ではないが、プレキシ・アンプで名演を奏でたミュージシャンは多い。すぐに思いつくだけでも67年頃までのWHO(そもそも、マーシャルに100Wアンプを作らせた張本人がピート・タウンゼンドとジョン・エントウィッスルだった)、ジェフ・ベック(50Wヘッドを長年愛用した)、ジミ・ヘンドリクス、ポール・コゾフ、ジミー・ペイジといった70年代ブルース・ロック/ハード・ロックを代表する面々が浮かぶ。中でもその音色を広く世に知らしめたのは、やはりエリック・クラプトンだろう。
そして70年代後半には、ハードにドライブしながらもタイトに仕上がった極上のオーバードライブ・サウンド、通称「ブラウン・サウンド」と共にエディ・ヴァン・ヘイレンが登場した。エディは特定の年代(1968年)のプレキシをVARIAC(電圧スライダー)を使用する事で電圧を下げ、ゲインを増やしながらボトムのレスポンスを少々ルーズにし、ウォームでありながらもマーシャルらしいトレブルの抜け感/存在感を持つドライブ・サウンドを生み出した。さらにアンプの手前に微調整されたEQペダル、そしてエコープレックス・ユニットを通過させる事で生まれるサウンド(これはある意味ジミー・ペイジ的なセットアップだ)とその卓越したプレイ・スタイル/テクニック、もちろんサウンドメイクといった全ての面で、80年代以降のロック・ギター・サウンドを次のレベルに押し上げた。
これら名手の名演で聴ける音色の全てを、単純に「プレキシの音」で片付けてしまって良いものか? 上述のミュージシャンが愛用した1967年から1970年頃までのマーシャル・プレキシは、短期間に幾度となく仕様変更を繰り返している。それはほんの微妙な変化ながら、音色を聴くと別モデルなのでは? と思える変化もあり、各々の仕様に特徴がある。そのため「プレキシ・マーシャルの音」というくくりは実は的確なくくりではないと思う。マニアの世界では「ビンテージ・マーシャル」その中に「プレキシ期」があり、そこから年代別にその特徴を分類するという研究家がほとんどだと思う。……と、ここでプレキシ・アンプの遍歴をすべて紹介するにはあまりにも時間とスペースが足りない。今後このDEEPER’S VEIWでさらに多くのプレキシ・モデルを紹介する中で徐々に明らかにしていくことにしたい。今回はそのプレキシ/ビンテージ・マーシャルの中から1967年製の1959 SUPER LEAD “BLACK FLAG / JTM100”をご紹介しようと思う。
このアンプは1967年頃、ほんの一時期のみ製作されたレアなバージョンだ。フロント・パネルにはJTMのリバース・ロゴが配置されており、この特徴的なルックスが「BLACK FLAG」の名称につながっている。それまでのアルミ製シャーシからスティール製の剛健なシャーシに生まれ変わった初のアンプとしても知られている。大型のトランスを搭載する100Wアンプは、この時代のアルミ・シャーシでは対応できず、シャーシが歪んでしまっていることが多い。スティール製シャーシへの変更は実用性の高い仕様変更だったと言えるだろう。
プリアンプ回路はそれ以前のJTM45の回路によく似ている。BLACK FLAGには50Wのモデルも存在するが、そちらも同じくJTM45の回路に似たものだった。これが意味するところは、後期(といっても1968〜69年頃)のSUPER LEADに比べると、67年モデル前期〜中期の特徴はゲインがそれほど高くなく、ウォームなサウンドだと言える。サウンドのイメージはモンタレーのヘンドリクス、そしてBBCセッションのサウンドだ。有名な動画でクリーム時代のエリック・クラプトンがウーマン・トーンの説明をしているサウンドにもよく似ている。ポール・コゾフもFREEのキャリアのごく初期でこのアンプを使用していたという。当然、当時彼らがこの「BLACK FLAG」を意識していたとは思えない。たまたま入手した音の大きなマーシャルがそれだっただけかもしれない。しかしながら、残された音源を聴く限り、このアンプは偉大なるブルース・ロック・サウンドとその名演に大きく貢献したことがよく分かる。また、50W/100Wの違いのほかに、SUPER LEADとLEAD BASSという種類も存在する。さらに、整流部の回路も基本的に2本のソリッドステート回路でありながら、その取り回しや配置方法も様々だった。1967年後半までこの仕様と似ているものの、BLACK FLAGロゴでないアンプも存在する。67年のJMPアンプは同じ傾向の音色を持ったものだと言えるかもしれない。
これ以降のSUPER LEADはインプットのロー・カットも激しくなり、さらにゲインもアップ。これにより、アンプからのレンスポンス感が異なってくる。音楽やプレイ・スタイルがゆったりしたサウンドから激しくキレの良いサウンドに変化するのに合わせて、マーシャル・アンプも微妙にチューニングを変えていったということになるだろう。BLACK FLAGはインプットのロー・カットがそれほど激しくないので、トレブリーなINPUT 1はその後のモデルよりも低域が豊かだ。これにより、いわゆるチャンネル・リンクを行なわなくとも良く、そのぶんストレートなサウンドが得られる。この後、67年の後半になるとフロント・パネルのパワー・スイッチ、スタンバイ・スイッチに並んで、極性スイッチ(ポラリティー・スイッチ)が搭載され、BLACK FLAGのJTMのロゴもJMPに変更となる。
このプレキシ期の遍歴は『THE HISTORY OF MARSHALL』というマーシャル・ブックによると大まかに10段階に分けられ、さらに7Aや7Bという種類に分けられる⋯⋯たった3〜4年の間にだ! これこそが常にミュージシャンの要求に耳を傾けてきたマーシャルというブランドの姿勢を物語っているのではないだろうか。そして、さらにレスポンス良く、ドライブの効いたロック・ギター・サウンドの幕開けにつながっていく。
プレキシというと単に「プレキシグラスのフロント・パネル」「レイダウン・トランス」「ロー・カットされたレスポンスの良い歪み」等のキーワードで語られることが多かったが、近年マニアの飽くなき追求とインターネットの恩恵により、今までわからなかった謎も随分と解明されてきた。もっとも喜ぶべきは、まともな個体(音)の回路図が入手できる様になったことだろう。それでも世の中の多くのプレキシ・モデルは、何かしらのパーツ交換(乗数違い)や間違ったメンテナンスが行なわれている可能性が高いということも忘れてはならない。今回の動画に収録したサウンドが「プレキシの音」の一つのサンプル/目安となれば幸いだ。
今回のDEEPER’S VIEWとも連動するビンテージ・アンプとそのサウンドを体験するイベントが、6月23日(金)に新代田FEVERにて急遽開催する事となった。DEEPER’S VIEW担当の村田氏、そして貴重なビンテージ・マーシャルのオーナーであり、そのサウンドをこよなく愛する魚頭圭氏(OSRUM)によるコンディションの良いビンテージ・マーシャルの音を体験できるイベントだ。魚頭氏が実際にライブやレコーディングで使い、メンテナンス/モディファイまで行なっている現役のビンテージ・アンプ、JTM45/BASS、65年製SUPER100 AMPLIFIER "LEAD"をはじめ、今回紹介した1959 SUPER LEAD “BLACK FLAG / JTM100”、70年代のNARB SUPER TREMOLO等を用意し、そのサウンドをチェックする。他にも貴重なブリティッシュ・アンプやビンテージ・ペダルが並ぶことになる? という噂もあるので、フリークは見逃さないでほしい。
◎日時:2017年6月23日(金)
◎会場:LIVE HOUSE FEVER(新代田)
◎オープン:18:30
◎参加費用:1,000円+ワンドリンク(入場時にお支払いただきます)
◎当イベントは予約制となります。当日までにリンク先の当日までにリンク先のアンプサミット参加予約までご連絡ください。
*いただいたメールに、当日のイベントに関するご連絡を行なう可能性がございます。あらかじめご了承ください。
そしてプレキシ・マーシャル、プレキシ系ペダルを特集した『THE EFFECTOR book VOL.36』でも、本稿の著者、村田氏がプレキシ・マーシャルについて健筆をふるっている。村田氏と魚頭圭氏の超マニアックな対談も収録。ぜひこちらもご覧あれ!
◎『THE EFFECTOR book VOL.36 SUPER LEAD SUMMER 2017 ISSUE』の購入はこちらから!
村田善行(むらた・よしゆき)
ある時は楽器店に勤務し、またある時は楽器メーカーに勤務している。その傍らデジマートや専門誌にてライター業や製品デモンストレーションを行なう職業不明のファズマニア。国産〜海外製、ビンテージ〜ニュー・モデルを問わず、ギター、エフェクト、アンプに関する圧倒的な知識と経験に基づいた楽器・機材レビューの的確さは当代随一との評価が高い。覆面ネームにて機材の試奏レポ/製品レビュー多数。