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- 2024/11/16
MOOG / Minimoog Model D
オリジナルのMinimoog Model Dが完全復刻! そのニュースは、多くのシンセ好きたちを興奮させた。自他ともにMinimoog好きを認めるABEDONも、もちろんそのうちの1人。そんなABEDONがいち早く本機を入手したという情報がキーボード・マガジン編集部に届いた。すでに現場でも使用しているという。そこで気になるのは、復刻版は本当にオリジナルと同じなのだろうか?ということ。多くのキーボーディストたちの疑問に答えるため、ABEDONが試奏者として登場。本人が所有する初期型、後期型のモデルと最新型Minimoog Model Dを比較しながら試奏し、そのサウンドを検証してくれた。また現在発売中のキーボード・マガジン 2017年7月号 SUMMERでは比較検証を詳細に解説、Minimoogの音作りの秘訣など4ページにわたるインタビューを掲載しているので、ぜひ動画と併せてチェックしていただきたい。
LFOを独立搭載
MIDIなどの端子類も充実
“電気の通った無人島にたった1台のシンセを持って行くとしたら?” これは私のスタジオに遊びに来たすべてのミュージシャンに必ず質問する事項だが、100%全員が口をそろえて“Minimoog”と答える。あのモジュリストのリチャード・ディヴァインさえ。当然、私自身も同じ答えだ。シーケンシャル・サーキットProphet-5を世に出したデイヴ・スミスも、自身が明らかにMinimoogから影響を受けたことを公言している。軍用パーツが使用されたMinimoogは、最近のデジタル・タイプのシンセサイザーとは違い、ほとんどのパーツが入手できる。アナログ・リバイバルが始まって久しく、そしてユーロラック・モジュラー・シンセサイザーが全盛の現在、“キング・オブ・シンセサイザー”の名に相応しいモーグMinimoogが再び生産されたのだ。
新品のMinimoogは後期型のギザギザホイールを搭載し、いくつかの進化を成し遂げている。最も驚くべき点はLFOの独立搭載だ。オリジナルのビンテージMinimoogの場合、モジュレーションをかけるために3つあるオシレーターの1つをLFOとして使用するため、実質2VCO仕様となる(それだけでも、あの異常に太いサウンドが得られるのだが)。新たに発売されたMinimoogは3VCOをフルに使用しながらモジュレーションを使うことができるので、さらに分厚い音色を得ることができるのだ。しかも、程良いトルク感も相まって、ファイン・デチューンから和音に至るまで、まるでモノフォニック・シンセとは思えぬほどのボイシング・プレイが可能。このデチューン操作に関しては、故モーグ博士が他のどのノブより大きいものを採用したことによる恩恵だ。彼はフィジカル・コントロールの重要さを、シンセサイザー黎明期からすでに一番重要なポイントとして考えていたのだ。さらには3つのオシレーターを同時に使用できるため、アナログ・シンセサイザーが苦手とする金属的な尖った音色をもリング・モジュレーターなしで作り出すことができる。
次に注目すべきはMIDIの搭載である。当然オリジナルのMinimoog発売当時にはなかったMIDI規格を標準搭載している。しかも従来どおりにLOUDNESS、FILTER、OSCILLATORの3つのエクスターナル・ボルテージ・コントロールが可能でMOD SRCも搭載。そして何より、独自の形状をしていたV-TRIGが標準端子になっていることも嬉しい限りだ。またAFTER PRESSURE、PITCH、V-TRIGそしてVELOCITYの出力端子が新たにリア・パネルに搭載され、例えばVELOCITYアウトを自己のLOUDNESSインプップトにパッチングすることにより、ベロシティの効くMinimoogという、まさに能動的な音色バリエーションが得られる仕様になっている。もちろん、Minimoogのループ・パッチングによる定番の温かなオーバードライブ・サウンドも容易に作り出すことができる。
CONTROLLERSセクションではメインTUNEの下に本来どおりのGLIDEとMODULATION MIXが搭載されているが、特筆すべきはその両下段に用意された2つのスイッチだ。これはオリジナルにない仕様で、通常のLFOによるビブラートのほかに、スイッチを切り替えるとフィルター・エンベロープをピッチ・エンベロープとして使用できるのだ。モジュラー・タイプのモーグや手弾きの玄人しかできなかったことが、オートマチックでできるようになった革命的機能と言ってもいいだろう。
オリジナル同様の完成度を誇る
オシレーター&フィルター
3波形同時使用可能なOSCILLATORセクションには後期型のノブが採用され、チューニングのトルク感、そしてフィート・レンジとWAVEFORMの硬めのクリック感は現代のシンセサイザーではあり得ないほどの心地良さをもたらす。6つの波形は、長年Minimoogを愛用してきた私でさえビンテージとの違いを聴き分けることができないくらいの完成度であり、モーグそのものの少しいびつな特徴のある波形を見事に再生させている。またMIXERセクションに搭載されている太いホワイト/ピンク・ノイズも健在だ。
Minimoogの心臓部とも言われるFILTERセクションでは、オシレーター同様の心地良いトルク感、そして素直でダイレクトに追従する音色変化はやはりシンセの王様Minimoogと言わざるを得ない。異常にキレの良いローパス・フィルター、エンファシスとカットオフ、そして3ポイント(アタック、ディケイ、サステイン)のフィルター・エンベロープ、またアマウントの調整により、温かさを残しながらもアタッキーで野太いキックからザップ音まで、幅広いシンセ・パーカッションが容易に生成できる。そして、OSCILLATORセクションには搭載されていない、フィルターの自己発振により発生させるサイン波は、やはり右に出るものがいないほどの重低音から、甲高い口笛のような柔らかな音までを自由自在に作り出すことができる。FILTER MODULATIONスイッチをONにすれば、オシレーターのレンジ、チューン、WAVEFORMの設定により、デジタル・シンセのようなバタツキ(頭打ち)のない、突き抜けたモジュレーションSEがいくつでも飛び出す。アンプ・エンベロープもADSの3基しかないが、ADSRの4基に慣れたユーザーでも、1分もあれば3基で十分な表現ができることを知るだろう。
現代の小型化されたシンセサイザーから比べると“Mini”という名前は完全にミスマッチなほどの大きさと重量を持つMinimoog。モーグ・モジュラーから必要な機能を抜き出し、ステージで使用できるように考えつくされたユーザー・インターフェースには、すべての操作子が前面に並び、無階層であるため、暗闇でも眼をつぶっても大きなノブで微細なコントロールができる。この大きさはアメリカ生まれだからという理由だけではなく、微細かつ大胆に音色を変化させるためには、必要なサイズなのだということを再認識させられる。
もちろん、音色メモリー、サンプル&ホールドやオシレーター・シンクなどは搭載されていないが、これこそがMinimoogであり、揺らぎ、温かさ、粘りを見事に調和させたサウンドは、すべての減算式シンセサイザーのもとになるシンセサイザーの王者たる所以だろう。念のため記しておくが、Minimoogは3VCOを使えるが、基本的にはモノフォニック(1音)しか発音しないシンセサイザーだ。もし、このままの仕様でポリフォニック化したとしたら、太過ぎるため飽和して、まともな音にはならないだろう。たった1音しか出ないアナログ・シンセサイザーで、しかも小さい音でもバンド・アンサンブルの中でもこれだけ存在感を全面に出せるシンセサイザーを私はほかには知らない。また、最初に発売された時期がプログレッシブ・ミュージック全盛の時代であり、ボディも木目調のため“オルガン的”なイメージを持つ若い世代の方々に知ってもらいたい。これは間違いなく、最先端の電子音楽に必要な野蛮な音からプラスティッキーな音色まで、縦横無尽に音色作りのできる世界最高の電子楽器だということを。
本記事は、リットーミュージック刊『キーボード・マガジン 2017年7月号 SUMMER』の特集記事「ABEDONが弾くMinimoog Model D」を一部抜粋流用したものです。誌面では、ここでは紹介できなかったABEDONへのインタビューを4ページにわたり掲載。ABEDONとMinimoogの出会いや、ABEDONならではの音作りの秘訣、そして動画でもご紹介した復刻モデルとビンテージ・モデルの比較検証をより詳細に解説しています。シンセ好きにはたまらない、Minimoog Model Dの魅力がより深く伝わる内容となっていますので、ぜひチェックしてみてください!
価格:¥460,000 (税別)
ABEDON(阿部義晴)
現在は、2009年より再始動したユニコーンと、ABEDONとしてのソロ活動を並行して活躍中。アーティストのプロデュース、CMソングや映画音楽を手がける一方、最新作では映像総監督としての新たな分野へ進出。2017年6月28日には、ユニコーン全国ツアー“第三パラダイス”の模様を収めた、ライブBlue-ray & DVD『D3P.UC』とアルバム『D3P.LIVE CD』が同時リリースされる。
齋藤久師(製品レビュー)
1991年アルバム『GULT DEP』でデビュー。galcidのプロデューサーかつ奏者として国内外の公演に参加。著書『DTMテクニック99』(リットーミュージック刊)やCM、映画音楽のほか、シンセサイザーをはじめとする電子楽器の知識を生かし、機材の開発などにも携わる。