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- 2024/11/16
〜アンプ・ヒューズ交換実験〜
アンプに付いているヒューズって、いざという時に過電流から回路を保護するためのものですが、普段は黙って電流を通しているわけですよね? 電流を通すパーツということは、交換すると音が変わったりするんでしょうか? 軽い気持ちで実験してみました。
今回のお題は、ヒューズです。
えー、皆さんは、デジマート・マガジンの新連載「DEEPER’S VIEW 〜経験と考察〜」を見ていますか? 私は見ています。あれの第1回は、ダンブル・アンプが3台集まるという超豪華企画でしたね? 連載開始前に、デジマガ担当者から「ダンブル・アンプが集合する」と聞いた私はいても立ってもいられず、当日はビル清掃員になりすまし、弾き比べが行なわれるフロアのみを念入りに清掃していました。
で、ダンブル・アンプが咆哮を上げたその時、私は見たんです! 1台のダンブル・アンプのヒューズが飛ぶのを! そして、村田善行さんがヒューズを変えて一言「あ、音変わったね」と言ったのを聞き逃しませんでした。実際、そのダンブルは、ヒューズ交換前よりハイがくっきりしたというか、解像度が上がったように聴こえたんです。
この時点ですでに軽く失禁していた私ですが、巧みなモップさばきで尿漏れ跡を消しながら、そばに立っていた細川雄一郎さん(シンコーミュージック『THE EFFECTOR book』の「マニアの極北」執筆者、地下実験室でも何度もご協力いただき、もはやお馴染みですよね)に聞いてみたんです。
「あー、ちょっと伺いたいんじゃが、ヒュ、ヒューズを変えると、お、音は変わるのかのう?」
「ヒューズも電流が通っている部分ですから、僅かですが変わりますね。実は一口にヒューズといってもいろいろな構造のものがあって、自分もずいぶん試しました。今はほとんど処分して、少ししか手元に残っていませんが……」
「その少し、貸してください! ませんかのう」
というわけで、人の企画でネタを拾い(村田善行様、申し訳ございません)、人のパーツを借りる(細川雄一郎様、申し訳ございません)というおんぶに抱っこぶりですが、なんとか実験ができる目星がつきました。それじゃ、実験、始めるよー!
■使用機材
◎フェンダー 68 Custom Deluxe Reverb(アンプ)
◎t.c.エレクトロニック / DITTO X2 Looper(ルーパー)
◎フェンダージャパン / ストラトキャスター ST54-500 メイプル指板(ギター)
◎ベルデン / 9778(ケーブル)
◎ヴェムラム ジャンレイ(オーバードライブ)
◎フェンダー / ティアドロップ・ミディアム(ピック)
◎アーニーボール / レギュラースリンキー(弦)
◎ヒューズ各種(全て2A、スローブロー、30mm〜32mmのガラスorセラミック管タイプ)
※セッティングについて
■ヒューズを交換する以外、アンプのセッティングは一切変えていません。クランチさせた場合のペダルのセッティングも、同様に変えていません。
■手弾きによってニュアンスの差が出ることを防ぐため、あらかじめフレーズをルーパーに入れておき、「再生(録音)→ヒューズ交換」を繰り返しました。
■本企画では動画再生の際、ヘッドフォンでの視聴を推奨しております。
■実験の最後に、ダイジェスト版を収録しております。サウンド・チェックのみに集中したい場合は、そちらをご確認ください。
冒頭で、DEEPER’S VIEWでの実体験を紹介しましたが、その後調べてみると、どうやらオーディオの世界では音質向上のためにヒューズ交換をしている猛者が結構いるようです。オーディオの世界は恐ろしいなぁ。ギターの世界では試している人は少なそうなので、とりあえずやってみますよ。
それでは、まずフェンダー68カスタム・デラックス・リバーブに付いている、純正のヒューズからチェックしていきます。
サウンドはお聴きの通り、ストラト+デラリバのクリーン・トーン。以上。という感じです。これを基準に、ヒューズを変えていきますね。
こちらは一般的な国産のガラス管ですね。これに替えてみます。ギター・アンプのヒューズの交換は、特別な器具が必要ないのがいいですね。楽ちん。
で、サウンドは……あ、あら? 現場では、①に比べて少しボリュームが小さくなったのと、高域が落ちて張りがなくなったように感じたのですが、こうして動画でチェックすると、音の違いがわかにくいですね……動画の動いているアナライザーを見てもわかりにくいと思うので、記事の方に掲載しているピークをホールドしたアナライザーを見てください。これで見ると、250Hzのあたりの山や、2kHzあたりの山はやはり①の方が高くなっています。
で、これコードはオープンのEでジャカジャーン、Dでジャッ・ジャーン、そして次がAでまたジャカジャーンと続くのですが、どアタマは無視してこのAのジャカジャーンの部分を①と比べると、弱々しいと言った意味がわかると思うのですが……iPhoneで見ている方や、PCで外付けのモニターを付けていてもYouTubeで見ている方はわからないかも……それぐらい、微妙な違いです。
……次に行ってみます。
続いては少し古い、国産のガラス管です。現場で感じた音の印象は、①と②の間といった感じでしたが、これまた動画ではスーパーわかりにくいですね……。①よりほんの少しハイが落ちている印象です。
波形は、②よりも①に近いですね。①の10kHz以上をばっさり切ったような感じになっています。
次にいってみましょう。
続いては米国製のガラス管、BUSSMANNです。といってもヒューズの知識に乏しい私にはどんな素性なのかイマイチわかりません。ただ、見る限り、構造が③までとは全く異なっているのがわかります。全然違いますよね?
音の印象は、①よりこなれた(角がとれた)感じですが、②や③のような弱々しさは感じない──といったところで、悪くないですね。私は今のところ、デフォルトの①か、この④が好印象です。
……ただ、これ、現場にもいた私自身が、今モニターの前でもの凄く集中して聴き返した印象ですので、全然違いがわからんという方が多いかも……。現場では、もう少しはっきり違いが出ていたんですが。
アナライザーでは、①と比べて600Hzあたりの谷のくぼみが少ないのと、3〜4kHzの山のピークが①より少し低い位置にきているようです。
こちらは、FIVE〜というのがブランド名なのかもよくわかりませんが、④までのガラス管と違って、セラミック管です。
これは、パワフルですね。ボリュームが上がったように感じます。Aの部分のコードの響きが、まったく違います。……わかりますかね? 「まったく違う」というのは、言い過ぎました。でも、違います。伝わるかなぁ?
アナライザーでは、3kHzを超えたあたりと、10kHzあたりの山の感じがこれまでのものと違うようです。
最後はオーディオ・ヒューズという触れ込みの、FURUTECH TF-2A、セラミック管です。ヒューズは元々が回路を守る目的のものなので、調べても遮断性能がどうこうといったことしか出てこないですし、音を念頭に作ってはいないと思うのですが、これはオーディオ好きの人のために作られたもののようで、「キャップ部には銅合金にダイレクト・ロジウムメッキ処理を施した」ということです。価格も1本4000円超と、ヒューズとしては非常に高額なものなので、期待が高まります。
さて、そのサウンドは? ……なるほど、パワフルだし、レンジも過不足なく出ているようです。感覚としては、エフェクターの電池をマンガンからアルカリに変えたようなニュアンスというか、確かにいわゆる「オーディオ的な感じ」がします。
ただ、これも非常に微妙な範囲での話なので、皆さんが視聴している環境でどこまでうまく伝わるか、自信がありません。アナライザーで見ると、2〜4kHzの山が、これまでのものの中で最も高いようです。
さて、ここまでクリーンで聴いてみて、いかがでしたか?
私は、意外と①のデフォルトが良かったように感じました。フェンダーがマッチング的なことまで考えているのか、たまたまなのかはわかりません。④、⑤、⑥も、それぞれニュアンスは異なりますが、良かったです。
皆さんは好みのものがあったでしょうか? 全部同じに聴こえた? そんな方のために、動画の最後にはダイジェスト版を用意していますので、そちらで改めて聴き比べてみてください。では、次にいってみましょう!
ここからは、クランチ・サウンドで聴き比べていきます。まずはデフォルトのヒューズです。
むうう、いい音してるなぁ。歪みは、ヴェムラムのジャンレイで作りました。
リットーミュージック所有の68カスタム・デラックス・リバーブは、取材で立ち会った数々のアーティストが「これいい!」、「これ欲しい!」と言った折り紙付きのアンプですが、それとのマッチングもいいですね! この音をベースに、聴き比べていきます。
さて、ヒューズを変えましたよ。それで音はどうでしょう?
やっぱ、いい音してる。でも、違いがよくわかりません……。すこーし、弱々しい気もしますが……これは、現場での感覚が残っているせいでしょう。波形も3kHzあたりがちょっと違いますが、音として聴くとよくわかりません。
これもいい音ですが、やはり少し弱々しく感じます。で、波形で見るとクリーンの時と同様に、⑦と⑧の間のように見えます。具体的には、2〜3kHzの間が、そう見えます。
う、うーん。クランチの方がわかりにくいかもしれませんね。アンプでクランチさせればまた違ったのでしょうが、デラリバは1ボリュームなので、そこまでボリュームを上げられませんでした。ペダルの歪みを足したことで、余計な要素が加わってしまったか……。
これは、音の消え際を聴くと、他よりパワフルなことがわかります。1.3kHzあたりが、どんと持ち上がっていますね。
これも、音の消え際を聴いてください。これが一番わかりやすいかもしれません。パワフルで、ハリがありますね。波形を見てもわかりませんが、音のニュアンスは、ブティック系アンプの臭いがします。実際に、その手のアンプを使っている人は、これを使ってみるのもいいかもしれません。
結論:変わるといえば、変わる。が……。
今回の実験ですが、現場で聴いた感覚では、結構変わりました。まずモノによって、ボリューム(音量)が変わります。音のニュアンス、方向性も違います(ビンテージ系か、ハイファイ系か)。そのことが私だけの妄想ではないことは、記事冒頭のエピソードでもご理解いただけるかと思います。
ただ、録音してみると、かなりわかりにくかったですよね……。前回の実験記事の締めで、「次回は、さらにニッチなところを攻める予定です。違いが伝わるかどうか、やってみないとわかりませんので、やってみます」と書きましたが、やってみた結果、わかりにくいということがわかりました。すいません。
わかりにくい中でも、例えばFURUTECH TF-2Aのハイファイな感じは、まだわかりやすかったのではないでしょうか? 特に、ダイジェスト版のクリーンでよく聴くと、違いがまだわかりやすいかと思いますが、いかがでしょう? もし、わかったという方がいたら、ヒューズ交換をやってみる価値はあると思います。高いといってもヒューズは数千円程度ですし、交換作業も楽なので、他のパーツ交換よりは手を出しやすいのでは? 特にハイエンド系の機材で揃えている人は、この部分も手を抜かずに試してみてるのはアリかと思います。
では、次回は久しぶりに「わっかりやすーい!」ってとこを狙ってみます。懲りずにやるよ! それでは次回、地下41階でお会いしましょう。
井戸沼尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジン・チャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。