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  • Dr.Dの機材ラビリンス 第34回

ベース専用シールド・ケーブル〜80Hzの遡行

ベース用シールド・ケーブル

第27回でパッチ・ケーブルを取り上げたDr.Dの機材ラビリンス。久しぶりのケーブル/シールド企画として、今回はベース専用シールド・ケーブルに注目してみた。ギター用のシールド・ケーブルの充実ぶりを追うように、ベースの音質・帯域の再生に特化したベース専用(またはベース向け)ケーブルも徐々にそのラインナップを充実させてきている。ベースの表現力を高める重要なパーツとしてぜひ着目してほしい。

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プロローグ

 シールドは川。音は水。

 川が汚れれば水が濁るように、望まない雑味を孕んだシールドは音を濁らせる。濁った音は楽曲という流れの中を悪臭を放って下り、予想もしない疫病を撒き散らしたり、ヘドロのように溜まって澱んだりして音楽を殺す。だからこそ、シールドは最もピュアであって欲しいと、プレイヤーは本能的に願うのである。

 しかし、流れる水に個性があるように、音だって様々だ。水かさの多い川は川底が深くなければならないし、流れの速い川には高い堤防も必要だろう。それがルールであり、そこで生きる人の営みにとって欠くべからざる必然であることは言うまでもない。

 だが、はたして楽器用シールドという存在は、今まで、音や楽器に対して最適であっただろうか? 答えは、「否」である。それはいつも曖昧なまま見過ごされてきた、エレクトリック・ギター/ベースの最も滑稽で、根元的な過失だ。

 いつも言うように、システムとは出音が全てだ。シグナルが通る過程にあるプラグひとつ、抵抗ひとつに手抜かりがあっても、そこで欲するギター・サウンドは成立しない。例え、何百万もするビンテージ・ギターを手にしようが、レジェンダリーなアンプを爆音で鳴らせるステージがあろうが、それは同じである。途中を通るシールド1本の適性を無視して、一体、いつ、誰が、“良い音”を語ると言うのか。通常の6弦ギター(22フレット)の基音は、レギュラー・チューニングならば82Hz〜1.17kHz程度。倍音も含めるともっと上まであるだろう。それに対して、4弦ベースの下は聴覚の限界に近い41Hzをカバーしなければならない。弦の特性もプレイ・スタイルも異なるというのに、両者の帯域をカバーし、なおかつそれぞれの楽器の特性を最大限に引き出せるシールドなど、これまでに存在していたという話は聞いたことがない。

 そう、過去約半世紀に渡るシールドの歴史のほとんどは、あってはならない「欺瞞」の上に成り立っている。そして、そうした無知と妥協が、ギターやベースの性能を頭打ちにしてきたことも否定できない。実に悲しいことだ。

 一方で、オーディオの世界には“S/N比”という考え方がある。これは、信号の中にノイズがどれほどあるかを示す比率のことだが、基本的な考え方を言えば、何がなんでも上から下までワイドレンジに再生してしまうよりは、ある程度必要な帯域を限ったほうが当然ノイズの比率は下がる。だとすれば、本当にギターもベースもその双方にかかる帯域を全てカバーするようなフルレンジなシールド・ケーブルがあったにしても、それはS/N比の理論から言えば理想的とは言えないに違いない。

 では、どうすれば良いのか? 答えは簡単だ。ギターはギター、ベースはベースの必要とする帯域だけを理想の音色で再生する「専用シールド」を発明すればいいだけだ。そうすれば、それぞれの特有のプレイも、音色の性質も飲み込んで、高いS/Nを実現しつつ楽器のポテンシャルを一層引き出すことができるようになるはずなのである。かつて中国の思想家・老子は「各々をそのように為らしめたのは道である」と説いた。その言葉を借りれば、ギターをギター、ベースをベースたらしめるのは、道──すなわち、“そうあるべきサウンド”を通すための必然たる存在である専用のシールド(川)ということになる。

 振り返れば、つい先日までは、ソリッド・ベースのシールドは所詮ギター製品の代替品でしかなかった。つまり、エレクトリック・ベースは、今までの歴史の中で、正しくベースたり得ていなかったのである。だが、今は違う。これほどまでにベースも、その専用のシールドを選べる時代になった。もちろん、プレシジョン・ベースが量産を開始した50年代からの長い年月で蓄積された欲求に全て答えるほどその市場は成熟してはいないが、ようやくエレウトリック・ベースという楽器は、混じり気のないベースだけの音に向かっての一歩を踏み出したと言えるだろう。

 ギターはギターのため。ベースはベースのため。楽器の世界に、真のピュア・サウンドが溢れ始めている。

商品の選定・紹介にあたって

 今回は、『ベース専用シールド・ケーブル』を特集する。ほんの10年前には数えるほどしかなかった“ベース用”を掲げたシールドが、今やこうして並べて比較できるほどに増えた。しかし、それらの製品の何が“ベース用”たらしめているのかを正確に説明できる人が、どれほどいるというのだろうか? また、同じく増えた“ギター専用”や、ギター/ベース両対応のシールドと比べて一体何が違うというのか? そして、今でも根強く言われる「ギターで良い音がするケーブルは、ベースでも良い音がする」との定説は本当に正しいのか? 確かにエレクトリック・ベースがこの世に登場して何十年もの間、そのほとんどのベーシストは、シールドの選択をギター用とされるもので賄ってきた。果たしてそれは本当に正しかったのか? ではなぜ、今になって“ベース用”をうたった製品が増えてきているのだろうか? そうしたベース用シールドにまつわる数多くの謎を一気に解決するために、今回は体当たりで現行の『ベース専用シールド・ケーブル』を検証してみることにしたというわけだ。

 リストはいつも通りできる限りデジマートに在庫があるものを優先して選出しているが、今回は傾向の偏る商品なだけに、現在在庫がなくとも今後デジマートに追加されそうなものはあえて差別せず載せることにした。選定の基準としては、メーカー側で「ベース専用」、もしくは「ベースに最適」をうたっているものをメインにラインナップを構成してある。その他に、おまけとして、ギター兼用でありながら、ベース専用と言われているものに匹敵、もしくはそれ以上にエレクトリック・ベースと相性が良いと思われる製品を独断と偏見で3つばかり選んでみた。こちらとの対比も楽しんでもらえたら嬉しい。ただし、セットの付属品などでよく目にするCanareのGS-6 Professionalなど、ベーシストなら誰もが初心者のうちに一度は手にするであろう簡易なクラスのものはあえて避け(ただし、Canare GS-6はあまりにも有名なシールドなので、音質のリファレンスとしては使用させていただいている)、あくまでも、買い替えや音質のステップアップを目的とするユーザーの視点で選んでみた。ベースがよりベースらしいサウンドを発揮するために、本当に『ベース専用シールド』は必要なのか否か。皆さんもそれぞれで考えながら楽しんでもらえたら幸いである。

※注:(*)マークがモデル名の後につくものは、レビューをしながらもこのコンテンツの公開時にデジマートに在庫がなくなってしまった商品だ。データ・ベースとして利用する方のためにそのままリスト上に残しておくので、後日、気になった時にリンクをクリックしてもらえば、出品されている可能性もある。興味を持たれた方はこまめにチェックしてみよう!

ベース専用シールド・ケーブル

[Monster Bass(M BASS2)]

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01 Monster Cable [Monster Bass(M BASS2)]

 ハードロックに傾倒した80年代を境に、重低音をコントロールする独自のシグナル・ロケーションを確立することで不動の地位を築いた楽器シールドの大手Monster Cable。レンジ特性に応じた複数のコンダクターをケーブル内に並走させ、帯域間の聴感スピードの差……特に低域の“遅れ”を補正する「タイム・コレクト(マルチゲージ・ワイヤー・ネットワーク)構造」──同社のパテントとしてあまりにも有名なそのテクノロジーは、むしろギターなどよりも、アンサンブルの中で鳴り物の隙間を縫って常に一定の存在感を維持し続けなければならないベース・ラインにとってこそ有効であることは容易に予想できる。

 何をおいても、音の容積が巨大である、という評価をこのシールドには与えたい。とにかく音量以上に音が“強い”。ベースの厚みを構成する100Hz前後の音圧がやたらに高く、基音全体が平均的に底上げされている感覚がある。重低音なイメージが世間ではあるようだが、ロー・エンドはそこまでがっしりしていない。その代わりに、ベースの抜け感の強化に欠かすことのできない300Hz〜400Hzあたりにもうひとつ密集したピークが感じられる。これはマルチ・ゲージに採用されているコンダクターが2wayで、それぞれがよく通す帯域をナチュラルにフォーカスしていることを示しているが、この強い主張のあるローとハイ・ミッドがベースの太い弦特有のゴロゴロとしたタッチを抑え、実にスマートな質感を形成している。一見、中域が極端に凹んだサウンドのようにも聴こえるかもしれないが、スペクトラム上ではきちんとミッドもその上下と同等の厚みで計測されているので、実際には巷で言われるほどドンシャリではない。大音量で鳴らしたり、レンジの奥行きがしっかりあるプロ仕様のH.Aを経由してレコーディングすれば明白なのだが、Monster Cableの中域は非常に繊細で、誇張された前後の帯域の下でクリアな音圧をしっかり保っている。これは、ゴリゴリとした中域を持つモダンなベースの音に比べればやや“古い”バランスなのかもしれないが、実際にはギターの下にうまく滑り込むような深みのある音色であり、ベース・ラインばかりが浮き上がって聴こえがちな今のバンド形態へのアンチテーゼとして「ギターに寄り添うベース音」という定義を現代に伝えるひとつの教科書的音質に位置する製品と言えるだろう。

 ただし、上記で示した両帯域、特に低域側への引力は想像以上に強力で、特にピック弾きなどの場合には生半可なプレイではのっぺりした表現になってしまいがちなので注意が必要だ。アタックの明瞭さを左右する1.5kHzより上は出にくい構造なので、メイプル指板のベース等を活用することで程良い輪郭を得られることも覚えておこう。ケーブルの持つ音に操られず、むしろ、その“音の流れに乗る”ことのできるベーシストにこそ重用されるべき逸品だ。
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[Master’s Choice for Bass(MC B)]

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02 Custom Audio Japan(CAJ)  [Master’s Choice for Bass(MC B)]

 シグナル・エンフォースメントの先駆者であるボブ・ブラッドショウ(CAE)から多くのノウハウを引き継ぎ、現在も国内を中心にプロフェッショナルなギター・システムの管理、運営に携わりつつも、さらなるハイ・エンド・プロダクトの研究にも余念がないCAJ。彼らが提供するMaster’s Choiceと呼ばれる楽器ケーブルのシリーズは、今まさにミュージック・シーンの中心を支える実力派ミュージシャンから支持を得ていることを宣言する製品で、ラインナップには彼らがベース専用と定めるMaster’s Choice for Bassが存在する。

 ケーブルの品質を評価しようとする時、まず人は、何よりもそのサウンド特性や導体そのものの柔軟性を含む取り回しなど、具体的な実用面にばかり注目しがちである。もちろんそれはとても重要なことなのだが、CAEからCAJへと連なる同社のブランド・ケーブルを手にとって常に学ぶのは、その「オーバー・スペックに頼らない適性能」についてだ。それは、数値的なワイド・レンジや原音の保持力とは全く別の膂力(りょりょく)によって支えられるバランスのステータス、とでも言えば良いだろうか? その出音は、ジャンルを問わず音楽的な感性を常にプレイヤーに要求しつつも、システムの中で決して埋もれることがない。よくある高級なハンドメイド・ケーブル・メーカーにありがちな、ダイレクトでは素晴らしいがエフェクターひとつ間に入れるだけで音が死んでしまう、または、最上のプレイヤーが使わないと効果を発揮できない、というような間口の狭い音とは違い、導体そのものの音質にそれほど気を配らなくとも、プレイ自体が楽になる“通り道”をすぐに探し当てることができるのが最大の魅力だ。

 その使い勝手や音質を達成するのに、ドイツのKLOTZ社製ケーブルとCAJのオリジナル・プラグを組み合わせるというアイディアも実に理にかなっている。中でも、このMaster’s Choice for Bassに使われているケーブルがギター用のMaster’s Choiceシールドのそれとは全く異なった専用の構造を持っていることに着目したい。ベース用のケーブルは圧倒的に外周のPCV(ポリ塩化ビニル)皮膜の厚みがあり、シールド線の直径もギター用のものに比べて狭く作られている。その結果、表層のキャパシタンスが200Hzよりやや上の中域全体に適度なコンプ感を発生させ、バンドで演奏するならバスドラの上にきっちり映えるような音質で太くパンチの効いた定位を形成してくれるのだ。ギター用の製品がかなりオープン目のサウンドだっただけに、このMaster’s Choice for Bassの思い切ったチューニングはいささか衝撃的だったが、皮膜が増えてより確実にマイクロフォニックを制御できている分スッキリした音像にまとまっており、ロー・エンドも実にタイトで、現代的なベースらしい音色に収まっていた。この音ならば、ギター用のMaster’s Choiceシールドが持つ明瞭なキャラクターとの対比で“ベース用”として指定されているのも頷けるというものだ。それは、折しもベースにはより健全なベース・サウンドを構築するのためのケーブル構造があることを実証し、「良いギター・ケーブルならばベースにも合う」などという科学的根拠のない通説に対し、強力な皮肉を投げかけている。

 また、シールド径が短縮されるとインダクタンスが降下してアタックが平坦になりがちだが、ここまでタッチのメリハリが素直に出るのはオリジナル・プラグによるグラウンドの取り回しが非常に効率的に行なわれている証しだろう。ジャックへの嵌合も申し分なく、長いケーブルを引き回すことでジョイント部に負荷がかかりやすいベース・シールドとしてはこの信頼性は何にも代えがたいアドバンテージとなるはずだ。確かな目的の音を供給可能なコンポーネントで適正に選び出す匠において、価格を含め、このケーブル以上に練磨された製品はそうは見つからない。機材と人を正しく結びつける、その不動の“安心”こそが、プロの現場でも好まれる最大の理由に違いない。
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[VA III Cobalt α(CAVAIII)/VA III(VA3)]

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03 Vital Audio [VA III Cobalt α(CAVAIII)/VA III(VA3)]

 プロ・エンジニア御用達のスタジオ機器を数多く取り扱う株式会社フックアップが、1991年にギター用インストゥルメント・ケーブルの開発を目的として立ち上げたブランド、Vital Audio。ここのケーブル製品が一貫して掲げるポリシーの素晴らしさは、線材や製造工程における品質水準が全てハイエンド・オーディオの精神に準拠していながら、その出来上がった製品は決してハイファイな理想論ばかりに傾倒することがなく、実にユーザー目線を第一に考え、地に足のついた高い音楽性を維持することに重きを置いている点にある。特に、ギター系のケーブルというものが、常にリニアかつフラットな音質を求めてはいるわけではないということをきちんと理解した上で、前後を挟み込む機材の再生能力がどんなに高かろうが低かろうがその「間」をきちんと取り持つことを第一の使命として、それらは設計されている。一言で言うならば、“クッション”のような存在──音質というものの構成をプレイヤーが深く考えることなく、機材間に起こる意図しないミスマッチを補正する能力に長けているケーブルを作ることができるメーカーなのである。

 ベース専用として開発されたこのVA III(VA3)ケーブルも例外ではなく、例えば、高価なビンテージのベースを数千円で叩き売られている廃棄寸前のボロアンプに繋いでみた時、または、入門用のカチカチの音しか出ない竿を一線級のNEVEの卓にダイレクト・インした時のことを想像してみるとわかりやすい。一般のケーブルではおそらく、そのような前後を挟む機材の「格差」を埋めるような効果は望むべくもないに違いない。必ずどちらか低い方のキャパに引っ張られ、多くの場合、より高い性能を持った機材の性能を引き出しきれないで終わるはずである。しかし、このVA III(VA3)ケーブルであれば、その平均値とは言わないまでも、少なくとも最大公約数以上の効果の音質的な着地点を見出しやすくしてくれる。これは、エフェクターなどを使うことが少なく、ライブ、レコーディングに関わらず音源に対して直差しされることの多いエレクトリック・ベースにとって、非常に大きな武器になるであろうことは言うまでもない。ましてや、小屋によってアンプ直出しなのかD.I経由なのかすら当日現場に行くまでわからないとなれば、なおさらである。最近は高性能なフロア・プリが普及しているとはいえ、そのせっかく作ったプリアンプの音をアンプやH.Aに送るのに、そこに生ずる音質のギャップをうまく埋めてくれるケーブルは貴重だ。

 音的にはハイ側の伸びが全体的に良く、凹んだ帯域もほとんど目立たない。そして、何よりも、あざといレンジ感はそれほど感じないのに、ピーキーなピックアップを使用してもゲート的な損失があまりないところが好印象だ。さすがはレコーディング製品を多く扱うHOOK UPの製品といったところか。実にバランスの良い音色を持っている。ギター用VA II(VA2)の「0518 OFC」ケーブルに比べると、このVA III(VA3)で使用されている「2302B OFC」ケーブルは、より線の本数を抑えてその分シースを厚くしたことで静電容量を下げているため、スペック上は硬い音質のように見えるかもしれないが、実際鳴らしてみるとパワーの集中する支点がギターよりもはるかに下の周波数帯域にきちんと平行にシフトしており、ベース弦のカバーする帯域にピタリとくる。まさにベース専用の名に恥じない、ベースで使うことで最大限に力を発揮できるケーブルと言えよう。あえて難点を言えば、他の製品に比べてややケーブル自体が硬いところなどをあげることができるが、それを補って有り余る幅広い適応力を持った製品と言えよう。

 そして、忘れてはいけないのが、Vital Audioのフラッグシップとも言える、プラグ部分にパラジウム・コバルト合金のメッキを施した「CAVA Cobalt-a」シリーズの中にもVA III(VA3)がラインナップされている事実だ。ハイエンド・オーディオ用に開発された高精度な接点確保に用いられる技術を応用したこの特殊メッキのプラグにより、ベースの音質は通常のMS-40Gゴールドプラグを用いたVA III(VA3)よりも遥かに上のクラスのダイレクト感を保証するだろう。とにかく、本当に一皮剥いたように生音が“立つ”のがわかる。ミュートの音すら生き生きとしてくるのだ。特に高品質なベースを直差ししてレコーディングで使う時などに試してもらいたい。やや高価ではあるが、そのベース本体が持つ偽らざる「本当の音」を呼び出すのに一役買ってくれることだろう。
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[BI-12]

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04 Phil Jones Bass(PJB) [BI-12]

 巨大なエンクロージャーとハイ・パワーの中でしか生み出せないとされてきたベース・アンプ特有の重低音の世界に、真の意味で実用的な「小型化」の概念を定着させることに大きく貢献したPhil Jones Bass(PJB)。特に、その母体であり、家庭用においては模範ともなるべき非常に優れたオーディオ・スピーカーの生産元として知られるAmerican Acoustic Development社が20年近くにも渡って積み上げた音作りのノウハウこそが、PJBの製品に大きな指針を与えていることは今更言うには及ぶまい。そのラインナップを見渡すと、ブランドの売りであるアンプやスピーカー・キャビネットはもちろん、はっきり「ベース用(もしくは、「PJBアンプに最適」)」と銘打たれたケーブル類や、他ではあまり例を見ないヘッドフォン・アンプ機能に重点を置いたインターフェイスやコンパクトD.I、さらには、ベース・サウンドの試聴に特化した密閉型ヘッドフォンまでが製品化されて並んでいる。

 そういったアンプ以外のPJB製アクセサリーのサウンドを聴き並べると、“ある一定の特性”を強く捉える、もしくは創出することに特化した性能付けがされていることに気づかされる。スピーカー・キャビネットに到達する前の音声信号を処理するパートが必然的に持ち得ない「エアー感」……アナログ・スピーカーを大電力によって駆動させた時にのみ発生するあの底知れない立体的なエネルギーの移動をエミュレートする能力──。さすがに純粋な電動媒体であるベース用シールド・ケーブルであるBI-12には、そういったエミュレーション機能は付加されてはいないようであるが、本来「エアー感」を持つ外部機器(具体的にはベース・アンプ)への接続に対して最適化しようとするベクトルがその中で確かに働いており、それが一定の利得をもたらしているように感じられるのである。つまりは、径の大きいスピーカー・ユニットを要するアンプでの音出しや最終的にモニター出力される場合にのみ、その鳴りの空間的な奥行きを強調するようなシールド、ということだ。逆に、レコーディングなどでD.Iなどを通して、何の工夫もなく普通のヘッドフォンでモニターするだけだとほぼその特徴は発揮されない。実際、高純度な無酸素銅とPTFE(四フッ化エチレン樹脂)の絶縁体で構成された三層にも及ぶシールド構造と、太いハウジングを有するオリジナルのプラグが構成するチューニングは、20Hz〜60Hzあたりのロー・エンドに密度を集中させている。なるほど、確かにこれではもともと低域の再生に適した“石”を持つベース・アンプや、カット・オフ周波数帯を持つようなウーファー、サブ・ウーファーを備えた3way以上のパラ構造を持つモニター・スピーカーでなければ、そのせっかくの“エアー感の素”を再生しきれないのがよくわかる。一方で、アンプに通さないと、だらしなく横に広がった音質になるかと思いきや、単体でもちゃんと「形」のある分厚い低域の脈動をきちんと持ち合わせているのには驚かされた。

 面白いのは、今時のソフトのアンプ・シミュレーターや、Sansamp、EBSといったフロア型プリアンプに搭載されている簡易的なスピーカー・エミュレーション機能をオンにした時にも、想像以上にこのシールドが持つ「エアー感」を感じることができたことだ。ともすれば小音量の中でつぶれてしまいがちなレイキング時の弦の分離感、スラップ時の弦同士の距離感などが音の多い楽曲の中でもまざまざと浮かび上がってくる。EQを加えてバスドラと被る80〜90Hzくらいの帯域を調整してやれば、リスナーにバンドの中にある楽器ひとつひとつからの距離感をイメージさせることも可能だ。ケーブル自体に重量感がかなりあることと、仕様が12フィート(3.65m)/SSプラグ固定というラインナップしか選べない点は残念だが、これにしか出し得ないパースの効いた音像を使いこなすことで、かなり他との差をつけた音作りが可能になるだろう。
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[VBC] 写真:chuya-online.com FUKUOKA

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05 VOX [VBC]

 英国の老舗ブランドVOXが提供する楽器シールドと言えば伝統的なカール・コードが有名だが、近年、同社では、出力の大きなギターやダイナミクスを重視したいプレイヤー向けに仕様を改めたハイ・エンド製品をリリースしたりもしている。Class A Cablesシリーズは帯域に特化した複数の芯線を持つマルチ・ゲージ設計と独自の2重シールド構造により、ワイド・レンジな再生力を売りにしたケーブルで、ベース専用シールドであるVBCはその規格上にラインナップされている。

 各帯域の立ち上がりはまずまずで、やはりVOX特有のミッド・レンジに意図的に音を集めるようなディレクションが目を引く。マルチ・ゲージの特徴なのか、ロー・ミッド側の厚みを司る100Hz前後にいくつもの特徴のあるピークが重なっていて、小音量で弾いてもその色気のあるコントラストが弦のキラキラしたテイストを押し上げる感覚があり、プレイしていて楽なシールドだ。だが、一方で、ライブで使うほどの音量になると、そのいくつも折り重なるミドルの突っ込みが仇となって、実際に出ているほどにはベースとしてオイシイ200Hzより上の抜けが感じられなくなってしまうのが残念だ。そのため、手なりのままではややアタックが物足りなく感じるかもしれない。大音量の中でこのシールドが持つ本来のきらびやかな音質を再現するためには、プリ/パワー共に本物の真空管を搭載したアンプの使用をオススメする。D.Iとの相性も同様で、特にロックのジャンルで使いたいならば、真空菅が引き出すラウドな高次倍音によって初めてバランスの良い音色になることを予め知っておくと音作りには格段にやりやすくなるだろう。とはいえ、ナチュラルに重心をミッド・レンジにまとめるこの音質は、ベース・ワウなどで主張のある音色を得るのには最適であることは言うまでもなく、また、特にロー・アクションな弦設定のスラッパーでサムピングのキレを限界まで引き出したいという場合にも重宝する。余韻にも独特のイナタさがあって、その他のメーカーにはない夕闇のビンテージ・テイストを好ましく思う人も多いことだろう。入り口は少し気難しいところはあるものの、使い所さえ間違わなければ欲しい音の最短距離をいけるケーブルだ。

 一方で、個人的にはこのシールドのハードとしての総合的な耐久性の高さにも一票を投じたい。ケーブル自体の柔軟性という意味では他社に一歩劣るものの、とにかく引き回しによるマイクロフォニックに強く、物理ノイズへの対策には大メーカーとしてのプライドを確かに感じることができた。試しに演奏しながらスタジオの扉でシールドを挟んだりブーツの底で踏みつけてみたりしたが、プレーテッド・クロスの表皮ジャケットが割れることはあっても、特段、致命的なノイズが入ることはなかった。台形に成型されたダイキャスト製L字プラグ(ベースにはあまりないが、ストラト・タイプのジャックには当然入らないので注意が必要)の強度も素晴らしく、根元からプラグが折れたりしない限りは緩むことすらなさそうだ。そして、その全てを低価格なパフォーマンスで達成してしまうというさりげなさにも脱帽だ。ともあれ、そのルックスも含め、手にするだけで長い歴史に裏打ちされたシンプルな「カッコ良さ」に通じる何かを思い出させてくれる……そんな製品だ。
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[PHC-White/PHC-Green] 写真:chuya-online.com FUKUOKA

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06 Phoenix [PHC-White/PHC-Green]

 国産オリジナル・ベースの草分け的存在として80年代から活動し、多弦、副弦、多フレットに、アーム付きベースの開発やフェノリック指板の採用、さらには名門Alembicとのコラボなど、既成の枠を超えた自由かつ独創的なラインナップを多数発表してきた老舗メーカー、Tune Guitar Maniac(前Tune Guitar Technology)。そのカスタマイズ・ブランドの銘である「Phoenix」を冠した製品群の中に、PHC-WhiteとPHC-Greenという2つのベース専用ケーブルが存在する。クライオ処理のスペシャリストとして、今、巷の音響メーカーの間でも頻繁にその名を聞くようになったSound Quality Iと共同開発されたというふれ込みのこれらのシールドは、そのどちらもがずば抜けた「スピード感」と、それに伴う「臨場感」を併せ持った逸品だった。正味の話、初心者には値段の面からしても敷居の高い製品と言わざるを得ないが、それを差し引いてもこの弾いてから音が出るまでの“ゼロ距離”特性はとにかく凄い。

 決して頑なな原理主義的音質ではない……しかし、補正を受けているイメージも全く受けない。そこには、どんなハイ・クオリティなシールドでも必ず生ずるはずの物理的なタイム・ラグさえも全く存在していないかのように錯覚する本物の「近さ」のみがあるのだ。音が加速する感覚すらない。1音1音にしっかり絡みつくタイトな低域の厚み、そして程良い分離感──ベースのグレードだけが数段上がったかのように心地良くプレイさせてくれるベーシックとともに、ただ静謐な定位だけがそこにある。レスポンスがどうのとかニュアンスがどうのとかいう話ではなく、それこそ、アンプやPA卓の中に体の一部が入り込んで弾いているような音源との一体感。そして、さらに衝撃を受けたのは、その音質の有効領域の広さである。ベースに限らず「専用」をうたう製品は、ほとんどの場合その通常使う帯域内を安定させることに専心するあまり、規定外の領域のバランスは汎用品よりも偏っていたりするものだが、このブランドの製品に関しては、6弦ベースを使用しても、まだ上にも下にも全然余裕を感じるのである。横(クリーン〜歪み)にもだだっ広く、さらに上下(帯域)の霞んだ階段の上でプレイするような、孤立し、尚それでいてベース本来の帯域に確かに留まろうとする強い存在性能。例えSound Quality Iの新技術「EXC-BASIC-T(エクセレント・クライオ=ガスを用いた超ゼロサブ処理によって、対象物に対して分子の再生列と不純物の除去を行なう)」がいかに優れていたにせよ、このチューニングには、長く実験的なベース・サウンドの模索と練磨を続けてきたTuneというメーカーのみが勝ち得た、ベース・サンドそのものの可能性に対する、含蓄を超えた孤高の“願い”が込められているように感じてならない。

 製品説明によるとPHC-Whiteはロック向きということで、確かに真ん中に向かって密度が盛り上がっていて、エッジもしっかり立つ中で、AmpegやEDENといったアンプならば軒並み相性の良さを見せた。ピック弾きでも押しの強いサウンドが得られる点も好印象だった。一方で、PHC-Greenはプレーンな鳴りで、倍音感はあるのに歪み自体はそれほど収束してこない。テクニカルで、バランスの良いプレイが信条ならこちらを選択するのも良いだろう。おそらく、ジャズからロックまで幅広く対応するが、竿やアンプのクオリティにかなり左右される。このシールドの音質を飼いならすためには、少なくとも上から下までムラなく音の出る水準の高いベースをつなぐのは必須だ。アンプ選びはさらに難しく、個人的には、こちらはAguilarのような陰性の音を持つ甘くてストレートな鳴りのものに広く適応するように思えた。こういう音は、欲を言えば英国製時代のAshdownで鳴らしてみたいと思う人も多いことだろう。

 そして、そのどちらのモデルにも「Standard(標準モデル。灰色のスリーブ。方向性があり、「EXC Basic」のシールがある方をベースに刺すとワイドなレンジ性能を確保できる。ロック・ユーザーなどはあえて逆に使って、コンプ感のあるバキバキ・サウンドを作るのも良い)」と「Premium(上位モデル。スリーブの色は黒、赤、青がある。方向性なし)」があり、音楽的なニュアンスの出方には若干の違いがある。特に高域のエネルギーをロスしないビビッドなタッチを追求したいならば、Premiumを試すのも良いだろう。いずれにせよ、使用するアンプやベース本体はおろか、プレイそのものにも高い水準が要求されるケーブルなので、腕に覚えのあるプレイヤーにこそ選んで使って欲しい。そのサウンドは、世の中に数多くいる、「アンチ・クライオ処理」派の人もその認識を180度変えかねないクオリティに達していることだけは言及しておこう。
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[B202]

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07 Providence [B202]

 旧世代のアナログ・サウンドと進化著しいデジタル機器が混在し、益々複雑さを極めるギター業界において、時代時代におけるシグナル・ルーティングの進化を見守り続けてきたProvidence。その製品群の中にもベース・サウンドに適応した局地仕様のシールド、B202が存在する。通称“Bottomfreq'er”と命名されたこの製品はもちろん低域の発声を重視して独自にプロデュースされたものであることは言うまでもないが、それよりも、「ベース用」を称した国産ケーブルとして基準となるケーブル・スペックを古くから選び抜き、使用してきた、その確かな選定眼こそが高く評価されるべきであろう。だが、Providenceというメーカーのケーブルが本当に素晴らしいのは、0.08mmOFC線を50本撚り合せた芯線と分厚いPVCジャケットという、今ではさして珍しくもない組み合わせから予測されるケーブル準拠の音質を、さらに一歩踏み越えたステージをどこよりも先んじて確立してきた点にある。

 実際のサウンドは、ケーブル・スペック通り実にくっきりとした高域が特徴には違いないのだが、とにかくハイ上がりでコシが強い。具体的に言うならば、フラットなイメージはあえて目指してはおらず、もっとエネルギッシュで泥臭い響きを持っているのである。自らが繋がれた機材やプレイの音に“寄せていく”ようなこの有機的なニュアンスを「音楽的」と表現するならば、B202はまさにその評価に当てはまるシールドと言えるはずだ。ボトム・エンドに関しても同様で、そのレギュレーションそのものはプレイヤーに多くをゆだねながら、自身はサウンドの中で激しく呼吸を繰り返すようにその生命力を主張し、プレイとケーブルの最小公倍数的な相乗効果を発揮するように働くのである。しかも、同じようなスペックのハイエンド・ケーブルにありがちな、やたらとレンジが広くオープンなだけのイメージとは程遠く、きちんとベースに必要な帯域全体で適度なコンプ感が乗ってくる感じが好ましい。これこそが、Providenceが、現場のプレイヤーとの交流の中でギター・システムを専門にノウハウを積み重ねてきた純然たる“楽器メーカー”であるという証に相違ない。オリジナルのプラグや内部で使用しているハンダがトータル的なサウンドに影響を与えているのは自明とはいえ、ユーザーによるブランドへの傾倒がはっきりとその音質の違いに現れているのは実に興味深い。B202こそ、弾きやすさと手ナリの叙情性を両立させる、真にライブ的な音像表現を得意とするベース・シールドであると言えるだろう。

 一方で、入力される信号がロー・インピーダンス・サウンドの場合には、空間系エフェクトが濃くかかっている場合を除いて、他社製のものよりもB202の方がエレクトリック・ベースのサウンド特有の旨味が出やすいように感じられた。当然、Vitalizer系のアクティブな補正とも相性が良く、ベーシストでも歪みに拘ったり、常に巨大なエフェクト・ボードを持ち歩くようなプレイヤーには良い選択肢となるに違いない。高機能なベース・エフェクターが多様化する中、このいつの時代でもシステム内にあって埋もれない品質は今後も一層重宝されることだろう。また、長いケーブルを引き回しがちなベーシストにとって、同ブランド特有の90度越えのアングルを持つL字プラグによる手元側での取り扱いのしやすさ……特に、ベースのジャックへのわずかとはいえ感じる確かな負担の軽さや、その差し替えのしやすさも、目立たないながら長く使えば差を感じるハード・ウェア面でのポイントであることは付け加えておきたい。
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[ELECTRIC BASS Cable(K-BC)]

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08 KAMINARI [ELECTRIC BASS Cable(K-BC)]

 こだわりのリプレイスメント・パーツ・ブランドとしてスタートし、現在では良質な国産コンポーネント・ギターやハイエンド・シールドの開発元として存在感を発揮しているKAMINARI(神鳴)GUITARS。ブランドを統括する株式会社音響商会は業務用音響設備の施工、販売や、PA関連のシステム・プランニングを請け負う会社であり、シグナル・ルーティングに関する品質管理では常にプロ・クオリティを要求されている。

 それゆえに、そこで作られるシールドの仕様も一様に実質本意。ツルッとしたPVCのシースとノイトリックのゴールド・プラグを用いたビンテージ・ライクなルックスではあるが、国産のOFC芯線を用いたケーブルはしっかりした量感が感じられる丁度良い太さと容量を守っており、取り回しが実に楽。柔らか過ぎて垂れて下に引っ張られるような感触もなく、ベース本体の動きにちゃんと着いてくる。こういった、目立たないが、シールドを引き回すことでプレイヤーに伝わる僅かな違和感さえも意識させないマテリアルのバランスは貴重だ。ケーブルの表皮には適度に張りもあるので、巻きグセがつきにくいのも嬉しい。

 サウンドは、ハイ側のピークの頭を薙いだような、丸身を帯びたダイナミクスが前面に押し出される印象だ。かといってエッジが立たないわけではなく、ボディがしっかりとしていて光沢があり、音の立ち上がりは素直だ。100Hz前後に印象的ながっしりとしたピークがあるにも関わらず耳あたりが良く、低域もどちらかと言えばタイトで不自然なブースト域も全くなく、非常にプレーンな響きを持っている。ケーブルを通して「失われるべくして失われる音域」を隠すことなく、その自然な減退感に思わず聴き惚れてしまうような滑らかな音像は、50年代〜60年代の音をリスペクトする同ブランドならではの絶妙な配色と言えよう。「プレイが侵食されない」「音に邪魔されない」という意味において、このシールドは非常に高い水準に仕上がっている。

 アンサンブルの中心を黙々と支えたい職人プレイヤー達ならば、ナチュラルな中高域のまとまりがバンドの輪郭をいとも容易く浮かび上がらせるこのシンプルなチューニングに、プロの現場でのみ培われる虚飾を排した実践ノウハウの重みを感じ取ることができるだろう。スペック重視の現代的なシールドによる硬質な出音に納得できないベーシストにも、安心してお勧めできる。かねてから“そうあるべき”と信じてきた音質を裏切らない、間違いなくトラディショナルなものの延長線上にある出音が魅力のシールドだ。
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[CWB] 写真:島村楽器 札幌パルコ店

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09 Comawhite Custom Cable(C.C.C) [CWB]

 都下で配線業に従事するタケダ氏が個人で運営するハンドメイド・ケーブルのブランド、こまほケーブル(Comawhite Custom Cable)。ギター・システム理論の体系化に貢献した先駆者にしてシグナル・テック界の巨人でもある、あのピート・コーニッシュが作ったシールド・ケーブルの音質に感銘を受け、製作者自らが一からシールド、プラグの選別からハンダに至るまで独自に解析を進め完成させたその信念のケーブル群に、業界からの視線が熱い。

 CWB_01はベース向けにチューニングされた専用シールドで、漆黒のプラグ&ケーブルにホワイトのブランド・タグという、その見た目はなかなかインパクトがある。だが、弦に触れた瞬間からビシビシと感じる、このとてつもなく広角なレンジを宿した音質の方がより衝撃的だ。通常は、低い弦ほどアタック時に呼び戻された低域がダブついて“ダマ”になりがちだが、このシールドだと1弦から4弦まで全く同じ感覚でプレイすることができる。しかも、ただハイファイなケーブルを下に向かって拡張したというテイストでもなく、ガツンと立ち上がって、きちんと一度底に触れると、あとは潔いほどスッキリとした余韻となって消える……何でもかんでも再生してしまう訳ではなく、きちんとロー・エンドの到達点に向かって狙った音だけを引き上げてくれるので、無駄にやかましい印象は一切なく、抑揚だけがはっきりと現れるのだ。ゆえに、「広域」ではなく「広角」。感性を先行させるプレイを信条とするソロイストに支持される理由がよくわかる。だが、逆に言えば、プレイのムラもはっきりと出るので、正直、全くごまかしがきかないケーブルだとも言える。

 かなり“試される”系のこのロケーションではあるが、実は、音色自体は明るめでカラッとしており、ファンクやR&Bよりも、むしろロックなプレイに適性があるというのも面白い特徴のひとつだ。とりわけゴーストノートなどを多用する弾き手には有効で、右手のインパクトが発声のつなぎ目にある“音にならない音”にしっかりと作用しているのを感じながら演奏できるのが素晴らしい。もちろん歪みにも適性は十分に高いのだが、個人的にはペダル等の後段に置くよりもむしろ楽器により近い場所で使用し、ベース弦だけが持つ直進性の高いマトリクスをシステムの中で最大限引き立たせるような使い方をした方が、よりこのケーブルの良さを引き出せるような気がした。プレイのイメージと実際のサウンドを限りなく近づけるようなこのアプローチは、今後、ベース・シールドの新しいトレンドとなるかもしれない。……ちなみに、こまほケーブルでは、音にうるさいユーザーの欲求を満たすべく本格的なカスタム・シールドの制作にも力を入れている。さらに一歩踏み込んだ自分だけの音質を目指すなら、卓抜の創意を持つこの匠にコンタクトを試みるのも面白いかもしれない。
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[TYPE-B]

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10 The Nude Cable [TYPE-B](*)

 長年スタジオ業務に携わったエンジニアの池田佳則氏が、2009年に立ち上げたハンドメイド楽器ケーブルのブランド、The Nude Cable。ケーブルのマテリアルとして使用されるのは、楽器界ではもはやおなじみのBelden8412。プラグはなんの変哲もない市販のノイトリック製で、それだけを聞くと一見なんの変哲もないシールドのようにも見えるが、そこに加えられるブランド独自の加工を組み合わせたこだわりのチューニングにより、明らかに音にこだわる耳の肥えたユーザーの琴線を刺激する音質を生み出すという。

 セミ・バランス接続による方向性の付加、オリジナル配合のハンダの使用、独自のハウジング・シェル、ケーブル・スタビライザーの装備、ケーブル・エイジング、そして音質の最終調整をマグネットで行なう独自の「マグネット・チューニング」……実際にそれぞれの効果がサウンドのどの部分に影響を与えているのか厳密には断定できないが、こういうものは全て、トータルとして作用させた場合の結果だけが全てを語り得るのだと考える。ひとつひとつの信ぴょう性に関しては個人の見解に任せるとしても、私が試した限り、その音はBelden8412とノイトリック製プラグという個々が持つポテンシャルからは確実に逸脱した音色を備えていたということだけは言える。

 まず8412特有の“ダマ”感をまるで感じない。このNudeのTYPE-Bと呼ばれるベース専用ケーブルを弾いて、最初に感じたのは「爽快さ」。出音の重心は8412らしい低さを感じるが、同時に、圧倒的な疾走感もそこにはある。無駄がない──というよりは、“使い切っている”というイメージで、決してフルレンジでもないしフラットな特性でもないのだが、気がつけばスルスルとプレイに馴染んでしまっている。弦に触れるたびに必要な帯域を必要なだけきちんと発声する感じがあり、ベースそのものをパッシブからアクティブなものに持ち替えた感覚に近い高揚、そして元気がそこにはある。音はどちらかというと明るめで、60〜70Hzあたりのピークが一番濃く、数値だけからするとジャズやフュージョンに適性があるように思えるが、実際は、欲しい部分にきちんとパワーが集中しているのでアタックの色彩にはきちんとメリハリが出ているので、ロックでも十分にイケそうだ。弾き方にもよるが、そうしたアタックの立ち上がりにかかるコンプ感が常に薄いのも特徴のひとつだ。低域は、ミッド、もしくはロー・ミッドから伸びたピークの山が重なってかなり複雑な倍音を形成しているようが、全体としては引き締まっていてタイトで良い。素材の足し引きによって狙った帯域にピン・ポイントで干渉する近代的なアプローチとは全く異なる、何かひとつを動かすことで全体のバランスが崩れるような……連鎖的な、それでいて決して代わりの効かない音質全体の入り組んだ“カラー”を、何度も何度も練り直して行く果てしない工程を経なければこうした音質には決してたどり着かないに違いない。

 素材だけを見て批判するのは簡単だ。しかし、こうしたきちんと整理され、研ぎ澄まされた“手の届いた”音質を目の当たりにすると、オーディオのように数値上に現れる全ての音をワイドに持ち上げることが、決して楽器として「正しい再生」の到達点ではないことをまざまざと見せつけられる思いだ。このケーブルは、楽器をひたすらシンプルに捉えることを手助けする。プレイ中のベーシストにさえ、音楽や楽曲そのものに改めて向き合う余裕を与えてくれる、そんな“自分に還る音”を最終的に見つけるためのデバイスという認識でほぼ間違いないように思う。
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[HES B] 写真:島村楽器オンラインストア

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11  HISTORY [HES B]

 島村楽器のオリジナル・ブランドであるHistoryにおいても、ギターとベースのシグナル伝達能の違いに着目し、それぞれに最適の導電性能を引き出しつつ非常に高いコストパフォーマンスを実現したケーブル群──「Elite」シリーズがラインナップされている。HES-Bは、セオリー通り、ギター用のHES-Gよりも径の細いOFC芯線を用いることによって表皮効果(胴体の表層に近い部分に高い周波数帯が集中して流れること)を適切にコントロールし、より低域に音のパワーを収束させることを達成するベース専用シールドである。内側の絶縁体も剛性の高いEVA樹脂(HES-Gでは弾力のあるエラストマーを採用)をこのシールド用に組み入れるなど細かなこだわりが随所にあり、それらの違いが着実に音質に結びつくように堅実なチューニングを研究された良品である。

 出音は、バスドラが強く出る100Hzあたりの帯域をあえて外すような形でその前後に丸みのあるピークがあり、さらに、1kHzやや手前にもベース特有の巻弦のジャリっとした音質をよく拾う鋭角な突出が感じられる。それでも耳に痛い部分は皆無で、ミッドの一部がやや広めに落ち窪んでしまっている部分を除いて、かなりバランスの良い発声を持っており、現代的な音色という意味ではレンジの広い中級クラス以上のベースにも十分に対応できるだけのポテンシャルを持っていると感じた。適性を限定し過ぎて繋ぐ楽器を選んだり、聴覚上のフラットさにこだわるあまりベース本来の美味しい帯域の出方を制限してしまうような高級シールドもある中、こういった程良い音楽的な柔軟性を持ちつつも、ノイズ、音質の両面で平均点以上を綺麗に揃えてくる製品は少ない。価格帯的に見ても、VOXほどの強い個性を持つケーブルでは初心者にはやや取っ付きづらい面もあるため、HES-Bのような製品の存在は、初めてのベース専用ケーブルを探しているユーザーにとっても頼もしい限りだ。当然、プレシジョン・ベース等で手なりのニュアンスを大事にしたいと考えるベテラン・プレイヤーたちにも、無理なくお勧めできる。

 内部の接触パーツにまで24金メッキを施したオリジナル・プラグは、低域のレンジ感を増幅させるのと同時に、抜け感の底を支えるはずの200Hzあたりの音に少し過剰なコンプ感を与えてしまうが、それはそれで繊細過ぎる音に一定のまとまり感を加えることにも同時に成功しているので、トータルでは良しとしたい。何よりも、この価格帯においてオリジナル・プラグで勝負しようというブランドの心意気は買いたい。あえて苦言を呈すならば、特にLプラグを採用しているモデルのハンダは、強度の面から考えてももう少し密にしてほしいと思うくらいか。5年保証があっても、やはりシールドのトラブルは起こらないに越したことがないからだ。とはいえ、このブランドのベース専用ケーブルの実力はもっと高く評価されても良いはずだ。ブランドの知名度や価格帯性能への思い込みを特に気にしないベーシストならば、CanareやMogamiを離れて初めて手にするケーブルとしても最適だろう。もしかすると、そのまま気に入ってしまって長期にわたって使い続けることになったとしても、このシールドの実力を認める人達から見ればそれは至極納得のいく話に違いない。
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[8412/8428 ベースカスタム] 写真:山野楽器 ロックイン新宿 A館

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12 Belden [8412/8428 ベースカスタム]

 山野楽器ロックイン新宿店オリジナルの、ベース専用カスタム・ケーブル。米国で1世紀も前からケーブルを作っている大定番ブランドBelden……その中でもとりわけギター/ベース用シールドとして長い間絶対的なリファレンスとされてきたBelden 8412に、これまた米国の大メジャーであるSwitch Craft社のプラグを合わせるという、かつて歴史上、数え切れないほど既存のコンポーネント・メーカーによって繰り返し商品化された構成をそこに見ることができる。それゆえに、チューニングの決め手となるのは、やはりそれらのマテリアルをつなぐハンダの特性に必然的にウエイトがかかることは今更語らずとも良いだろう。

 8412ケーブル自体はピークが少なく、ギターで使うとロー・ミッド、ベースだとミッド・レンジ全体に広く密度が集中する山なりなアライメントと、どこから弾いてもアタックに適度なパンチが乗るのが特徴で、繋いだアンプや竿の得意とする帯域を測るのに適しているとされるが、ベースで使うとそのままでは80Hz以下の落ち込みが顕著で、あまり重心の低いサウンドにならないのはよく知られている。また、高域の出方も、ギターだとピッタリくるところが、4弦ベースではそれほど美味しい部分に引っかかることがなく、ややおとなしい印象になる。同じ8412を使っていた上記のNudeが、がっしりとした低い重心とアタックの深く切れ込むようなメリハリの効いた音色を持っていることを考えると、そこに使われているハンダを含め、いかに独自の意匠によって手を加えられているのかがわかる。

 音を出してみると、実に良い意味で期待を裏切ってくれた。まず、高域がすっと抜け、一皮剥いだように輝く倍音が溢れるようになった。8412とSwitch Craftの組み合わせでは、高域に再生能のあるビンテージ・ハンダや、現行モノでも銀を含まないハンダで加工することが言わば常識となっているが、この8412ベース・カスタムに使用されたハンダもそれに倣った傾向を押さえたものを惜しみなく使用しているようだ。しかも、低域にもベースに必要な重みが自然に追加され、ブライトな輪郭を伴って、それがきちんとタイトに組まれたまま前へ前へと飛んでくるようになっていた。近年のクリア過ぎてベースの音がケーブル自体のチューニングに引っ張られるようなあの感覚が嫌いな人にとっては、このバランスはしっくりくるに違いない。この製品の場合、その恩恵を受けるためにはある程度の大音量で使うことが前提になってくるが、8412の弱点をきっちり最短距離で補正するようなこのシンプルな構成には唸らされる。そこに使用される“ベース用ハンダ”が何を示すのかは企業秘密なので残念ながら公表してはもらえなかったが、それよりも、ベースという楽器がどんなサウンドを必要しているかをよく理解しているという意味において、このシールドは実に完成されている。しかも、過去に誰もがよく聴き馴染んだBelden 8412の傾向を無視することなく、きっちりと既存の発声を踏襲していながら……というのがまた素晴らしい。

 擦り過ぎてもう音質的なインパクトもすっかり薄れてしまったケーブルとプラグの組み合わせの中に、まだまだ現代に通用する新たな力が眠っていることを教えてくれた飽くなき「模索」の哲学に、惜しみない一票を投じたい。ちなみに、同列の製品にはBelden 8428で作られているベース・カスタム・ケーブルも存在する。8428は8412よりも太いシールドを採用した耐久力のあるケーブルだが、キャパシタンスの上昇からややダーティなコンプ感を持ち合わせている。本来は何十メートルも引き回しのきくケーブルなだけに、数メートル程度ではやや勿体ない気もするが、ベース・カスタムでは方向性を与えるためにプラグとの接続を一部バランス化しているので、音質自体はマイナスに作用はしてない。8412よりもさらにラウドで底を打つようなダークな音色が欲しい人はこちらを試すのも面白いだろう。
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ベースに対し適応力の高い定番汎用ケーブル

[Z-LNC01W J]

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13  REQST [Z-LNC01W J]

 音声伝達時の振動コントロールにおける研究で知られるReqstが供給する、純国産ハイ・グレード・シールド・ケーブル。世界的ベーシストのアンソニー・ジャクソンが使用しているケーブルとして宣伝されたことでベーシストの間に一気に広まったが、近年リニューアルし、やや音の傾向が現代的に変更された。コンダクターが古河電工のPCOCCから日立のHiFC(高純度銅に極微量のチタンを添加した新素材)に変更になったため、パワー感がよりストレートになり、以前のようなやや苔むしたような鈍い光沢は少なくなった。だが、タッチへの反応を含むトータルのダイナミクスは、リニューアル後の方が圧倒的に増したようだ。その恩恵か、ゴーストノートなどのニュアンスも良い具合に浮き上がるようになった気がする。ミッド・レンジ周りの帯域も概ねフラットな特性を維持しており、どっしりと腰を割ったR&Bやソウルにぴったりだ。プラグも継ぎ目のない導電部を持つ新型オリジナル・プラグに改変され、高域の天井が旧モデルよりも高くなったことを見ても、ロスのないシグナルの送電が確実に実行されていることがうかがえる。ハウジング部も、あのレゾナンス・チップのスタビライザー技術を応用しているためより肉厚になり、その振動制御の効果か、実に明瞭なサステインを宿すようになった。取り回しに関しても、ケーブル本体の柔軟性が増し、取り回しが楽になったという声が多いようだ。
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[BASS OVAL] 写真:イシバシ楽器 デジマート店 WEBSHOP

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14 Analysis Plus [BASS OVAL]

 電流伝送の宿命とも言うべき表皮効果と近接効果によるロスを最小限にし、低インピーダンスなケーブル・コンディションを作り出す「ホロウ・オーバル」構造のパテントを有するAnalysis Plusのシールド。プラグにはG&Hの専用モールド・プラグを採用している。“BASS”と名が付くモデルだが、公式には特にベース特化のモデルではない扱いになっているため、それだけで、適応性能の高いモデルであることが予測できる。特徴的な楕円構造の導体の中心部に入れる芯材を排除し、その分、コンダクターのゲージ自体を太くして、低域の再生能力に特化したロケートを構築している。サウンドは期待通り低域全体を満遍なく強化する音質で、特にベースで使用すると音量そのもの大きさもさることながら、空間を満たす整った音圧に圧倒される。特に120Hzあたりのロー・ミッドから下に余裕が感じられ、どんな激しいプレイをしても窮屈な印象にならないのは素晴らしい。かと言って、平坦な音色というわけでなく、まるでクラスAアンプのパワー管のじりじりと張り詰めた熱源が間近にあるような、押し上げるような緊迫感に満ち満ちている。音もモダンで淀みがないので、ゴリゴリのハード・コア・パンクやジェント系にも向いている。立ち上がりは音が速過ぎて弾きにくくなることもなく、アタックに追従してロー・エンドが引っ張り上げられるように収束した分厚いハーモニクスを放出するため、常に安定したピークの押し上げを背中に感じながらプレイできる。嫌味のないコンプ感の中で、粒立ちの良いピークが揃う感じも好印象だ。ケーブルの構造上、シースが柔らかく、一見、曲げに強そうに見えるが、この製品はコンダクターの芯材を入れていないことでオーバル導体が変形しやすく、捻れや二重芯線構造の横からの負荷に対して極端に弱い。特に硬い靴底で踏みつけたりドアに挟んだりするだけで簡単に音が変わってしまうので、現場での取り扱いには注意したい。
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[ZGT]

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15  ZAOLLA [ZGT]

 カリフォルニア州ブエナパークに拠点を置く問答無用のプロ用ケーブル・メーカー、Zaolla Silverline(元Hosa Pro)。優れた導電率を誇る純銀のコンダクターに、プラグは接触部にフォスファー・ブロンズを使ったオヤイデ製……スペックだけでも他社製品を寄せ付けないその高級感への憧れもあってか、一時期は国内の、特にベーシストたちがこぞって買い求めたという人気機種。確かに、標準的な銅の芯線を採用している製品とは明らかに一聴しただけでわかるほどに音が違う。クリーンというか、音の鮮度が異様にくっきりとしていて、ガラスのような透明感のある高域が「ジャキーン」と立つ。テレキャスなどで使えばさぞや耳に痛いような気もするが、ベースとなるとこれはそこまで極端ではなく、スラップ時にプルした場合にのみその帯域に少し触れるくらい。一瞬の飛び道具としてプラッキングに輝くような効果を乗せたい時には、そのギャップが程良い光沢の爆発を作ることだろう。これは確かに癖になる。一方で、ベースで中心となる500Hz以下の帯域はというと、むしろピークは抑えめで、淡白と言っても良いくらい静かだ。全体的に解像度が高く、目立った谷もない。肉厚でジューシーな音が好みのプレイヤーにはお気に召さないかもしれないが、この削り出したばかりの氷の上で音を滑らすような硬質のダイナミクスは、音響理論上では確かに“フラット”と呼ぶにふさわしいかもしれない。当然、どの帯域を巡っても圧倒的なヘッドルームを感じることができ、右手の自由度は半端ないのだが、ただの楽器用と考えるとここまでやるのはいささかオーバー・スペックで面白みに欠ける気がしないでもない。しかし、これにしか出せない表現、音が確かに存在する限りその需要は失われないだろう。この世界を知ってしまうと、他のケーブルに戻れない人がいるのもわかる気がする。これは、麻薬だ。
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エピローグ

 『ベース専用シールド・ケーブル』、いかがだっただろうか?

 予想以上の個性と洗練されたサウンド・クオリティに、正直、リサーチ中も目から鱗の連続だった。やはり専用のシールドを使うと、いざアンサンブルになった時に、ベースの音が埋もれなくなる傾向がきちんと付加されていたのが印象的だった。特に、バスドラの聴こえ方が弾いている本人にも全く違ってくる。

 価格の面ではまだまだこなれる必要がありそうだが、少なくとも今回使ったものでは、費用に見合わない音というのはほとんどなかったように思う。もちろんジャンルを跨げばまた新たな適性や齟齬が現れるかもしれないが、ともかく今の段階ではそこまで局地的なチューニングの製品はなく、どれも間口の広い手応えだった。つまり、それはもっと製品の数が増え、趣向が細分化されたモデルが出てくると、さらにベースそのもののポテンシャルを引き出せる余地があるということに他ならない。

 ただし、個人的には、ギターと兼用のシールドの使用を全面否定するものでないことだけは申し伝えておく。フラットな特性さえ求めようとしなければ、あえて欠損した周波数の中でプレイすることで違った発見があるかもしれないし、何よりも、趣向の異なるサウンドを自分のプレイや外部のエフェクトを用いてねじ伏せていくのも、正しい楽器との関わり方だと思うからだ。専用シールドは確かに簡単で便利かもしれないが、そんなベース的に“正常”な方向を向いたサウンドばかりが決して正解の音とは限らないということを肝に命じておいてほしい。

 今回の企画では、おまけとしてあえてベースにも適合する汎用シールドも探してみた。実はリサーチはこちらの方が大変で、実際に試したシールドは、あの3本を選び出すまでに、プラグ違いなどのバリエーション・モデルも合わせると100本近くは試したことになると思う。

 そんな中、ふと、昔自宅にあったボロいベース用に、もう今では売っていないPro-coのDefenderというギター用ケーブルを使っていたのを思い出した。もう手元には残っていないが、それが自分にとっての最初のベースの音だったというのを今更ながらに認識して、不思議な気分だった。たまにはそうした原点の音に立ち返って今の優れた機材と何が違うのかを確認する機会があると、より一層音への理解が深まるだろう。ぜひ皆さんもそういう音をいつまでも大切にしてほしいものだ。

 それでは、次回の『Dr.Dの機材ラビリンス』もお楽しみに。

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製品情報

ベース用シールド

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プロフィール

今井 靖(いまい・やすし)
フリーライター。数々のスタジオや楽器店での勤務を経て、フロリダへ単身レコーディング・エンジニア修行を敢行。帰国後、ギター・システムの製作請負やスタジオ・プランナーとして従事する一方、自ら立ち上げた海外向けインディーズ・レーベルの代表に就任。上京後は、現場で培った楽器、機材全般の知識を生かして、プロ音楽ライターとして独立。徹底した現場主義、実践主義に基づいて書かれる文章の説得力は高い評価を受けている。

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