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- 2024/11/16
ローズウッド代替材楽器
ローズウッドを取巻く新たな規制と楽器業界に与えた大きな衝撃を、前号第31回および前々号第30回で特集してきました。米大手メーカーがローズ使用を止めるなどといったフェイク情報?が飛び交うなど、まだその余波が残る中、すでに代替材への転換を積極的に進めているメーカーも多く存在します。今回は“新しいガム食べたくな~い⤵”ということで、地球上に存在する35億(実際は1兆本らしい)の木の中から可能性を持つ素材を細胞レベルでピックアップするとともに、ヴァージン材に頼らない生き方を模索する製作家をご紹介します。
本連載でポスト“ブラジリアン”を特集したのは2年前の第6回「早くブラジリアンになりた〜い! 次代のエースを狙え、ポスト材」でした。その当時、こんな急展開事態になるとは想像もしていませんでした。これからも規制は厳しくなることさえあれど緩和されることは、まず望めません。残念ですが、木を取り直してローズウッド代替材をピックアップし、その特徴的な容姿をご覧いただくことにします。ほかにも様々な似寄り樹種が存在しますが、ここでは比較的入手しやすい材であることを念頭に選んでみました。
CITES緊急アンケートでも代替材として推すメーカーが最も多かったのがこの材です。別名ボリビアン・ローズウッド。その風貌、色、質感はローズというよりはエボニー類に近い感触です。従来から指板やネック、アコギのサイド&バック材などとして流通していましたが、ますますその需要が高まる勢いとなっています。どの程度資源があるのかわかりませんが、早晩規制対象になる可能性が高い材No.1かもしれません。国内でもわずかながら流通していますが、楽器材向けとしてはサイズ、品質共に専門業者に頼った方が無難です。
【パーフェロー使用楽器をデジマートで検索】
指板を中心に、アコースティック楽器のボディ材にも採用されています。例によって、リンク切れ御免、早々にご確認ください。
以前、この素材をローズ類だと紹介してしまいましたが、幸い、中南米産の非ローズで安堵しました。なぜか比較的古くから輸入されており、国内の市や銘木店などでもよく見かけます。濃紫から赤茶を帯びた色合いとともに杢っ気の強さは半端ローズよりもローズらしい一面さえ見せます。ちなみにグラナディラという木も存在しますが、そちらは既に規制対象の英名:アフリカン・ブラックウッドです。
【グラナディーロ使用楽器をデジマートで検索】
今回ピックアップした素材の中では、最も杢っ気があり、色合いや比重もローズに近いのがこの種です。
別名カリビアン・ローズウッド、ホンジュラス・ウォルナット、ブラックポイズン・ウッドなど、時と場合によって名前を使い分ける女逃走犯のような樹種です。多くの個体を見たわけではありませんが、ベタ無地傾向が強く、まれにフレイム調のフィギャードありといった感じでしょうか。ポスト材と呼ぶにはまだまだ主張が足りませんが、用途によっては武装勢力として活躍の場が出てきそうな素材です。
【チェチェン使用楽器をデジマートで検索】
トーンウッドとしては、まだまだポピュラーな素材ではありませんが、すでに先駆的楽器が存在します。
アコギのサイド&バック材としてすでに知られた南米ペルー産の材です。見た目、現物の質感とも、上質なウォルナットやマホガニーにも通じています。鮮やかなカラー・グラデーションや縄網のような縞はとても魅力的な存在に写ります。海外ハイエンド・メーカーや国内でも個人製作家に重用されるのも納得の素材でしょう。サプライヤーが限られるのが難です。
【サチャ・ローズウッド使用楽器をデジマートで検索】
ハイエンド・メーカーにとどまらず、ハイエンド個人製作家にも浸透しています。
地元ではマリンバの鍵盤材料やギターのサイド&バックにも使われる、リアル・ハードウッドです。色はのっペラなサンドベージュから褐色の縞が入ったエキゾチックなものまで個体差、部位差が激しい材です。荘厳ともいえる重厚なタップトーンは、ローズ代替というよりは独自の世界観を持ち合わせています。ローカル・ウッドにとどまらず、さらなる飛躍が期待される材です。
これもローズウッドと呼ばれていますが、やはりなんちゃっての類です。現地名ワマラ、南米産のハードウッドです。心材辺材の色差がくっきり鮮やかで丸太の断面は、まるで鉛筆の芯に見えます。大変重厚な材で薄板のタップトーンは鉄板を思わせます。堅い竹のような質感で扱いは難しそうですが、日本人好みの栗の皮を思わせる秋色はあまり見かけないカラートーンです。
これは新種のトーンウッドではありません。カナダの学者が開発した技術をノルウェーの企業が実用化し、加工された人工ハードウッドを総称したものです。驚くべきその加工方法は、針葉樹に植物由来の成分を高圧含侵することにより、物性、外観ともに広葉樹と同等もしくはそれ以上に優良化させようというものです。従来のローステッドやケミカル加工などとは全く異なるアプローチで木の変成を求めているわけです。ヨーロッパのパインを加工したものは、すでに建材やエクステリア向けに販売されており、日本の杉や桧も可能性を求めて比較検証中とのことです。トーンウッドとしても見逃すわけにはいかない、と思ったらすでにデンマークのショップがギターを作っていました。この材が広まれば、熱帯産ハードウッドを伐採しなくても、成長の早い針葉樹がその代替となるかもしれない、そんなとてつもない可能性を秘めたケボニーちゃんでした。
特定大手メーカー御用達の「天然木の繊維と樹脂を合成した非多孔性の素材」です。天然材では絶対に得られない物性の安定度は魅力的です。出始めの頃は再生紙を圧縮し樹脂で固めたものというフレコミでしたが、言い回しが微妙にスマート化してきました。まっ、主たる原材料は木であることに変わりなく、進化系ウッドとして指板のみならず幅広い活躍を期待したいところです。最近では写真のブラックタイプだけでなくウッディなナチュラル・タイプもあるもよう。写真はリアル・エボニー(マダガスカル産)と比較しています。
【リッチライト使用楽器をデジマートで検索】
製品化されると、見た目だけでは判別がつきにくくなっています。もはや大メーカー御用達素材ですが、素材お試し用にはカッティングボードをリクレイム?するのもおすすめです。
ベニア、プライウッド、レイヤードなどとも称され、いくつかの木を積層、接着加工した材です。表面・裏面層となる材を、1mm以下のシート状の突板(つきいた)などを用いて作られています。突板は製造工程で全くロス(木屑)が出ないので、材の表面積を多く得ようとするには最適の方法といえます。ただし、あくまで“張りぼて”であることに違いなく、単板志向の強い楽器業界ではあくまで廉価品向けの素材と位置付けられてきました。ところが近年、サンドイッチの具になる中間層(従来はシナ材など)にまで表面と同一もしくは類する材を使用する場合もあるそうで、そうなれば、これもやはり進化系ウッドと呼びたいところです。強度など単板の弱点を補うとともに、見た目の均質性を求める場合、合板も選択肢の一つでしょう。楽器スペック表示では“単板”表示があっても“合板”表示はスルーされる傾向がありますが、今後はモノによっては堂々とうたってほしいものです。
お歳暮のド定番である新巻鮭の木箱を使い、暮らしを豊かにするものづくりをするプロジェクトが北海道に存在します。名付けて「ARAMAKI」。このプロジェクトの楽器部門を担当するのが鹿川慎也氏(Shikagawa Musical Instruments主宰)です。都内楽器製作学校で教鞭をふるったのち、故郷恵庭に戻り楽器製作・リペア工房を構えられました。
これまで「ARAMAKI」ではウクレレ、ギター、ベース、カホンなど商品化されています。加えて、このプロジェクトの発端ともなった宮大工、村上智彦氏(Gen&Co.)の手によるバッグ(キャリング・ケースからショルダー、アタッシュなど)や家具、インテリア小物なども幅広く展開されています。
全てに共通する素材は地元北海道産のトドマツ。発泡スチロール製の勢いに圧倒されつつも、やはり上等は木製(しかも単板!)でないといけません。しかしながら上等な木箱も中身を食された後は、ごく一部を除いて活用されていませんでした。「ARAMAKI」プロジェクトでは、そんな木資源をレスキューし解体、洗浄、そして楽器材に適するまで乾燥させるなど、ヴァージン材よりはるかに多い工程を経た後、様々なアイテムへと生まれ変わらせ放流しています。
この「ARAMAKI」プロジェクト楽器は、5月20日〜21日に開催される東京ハンドクラフトギターフェス2017のShikagawa Musical Instrumentsブースに出展されますので、ぜひお立ちよりください。
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元家具職人ならではのソースを見出した製作家も存在します。アコギやウクレレなど箱モノを中心に製作するクラフトムジカ・高山康夫氏です。ヴァージン材では味わえないシャビーシックな魅力を、氏ならではの感性で新たな楽器へと昇華させます。家具材にありがちな、とんでも板目やらフシ、釘穴、塗装痕なども木柄のひとつとして活かされているのが特徴です。
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別のマホガニー・テーブルからもウクレレが産み出されていました。
本連載ではローズウッド関係のさまざまなコンテンツを展開してきました。改めて下よりお楽しみください!
今回は、天然木にこだわらず非天然材、加工材もクローズアップしてみました。それらだけを特集する日がこないよう、今ある貴重な天然木資源を大切に保護しつつ、有難く使っていきたいものです。
次号は8月下旬公開予定(季刊ペースでの公開となりました)、木になるテーマをお届けします。
森 芳樹(FINEWOOD)
1965年、京都府生まれ。趣味で木材を購入したのが運の尽き、すっかりその魅力に取り憑かれ、2009年にレア材のウェブ・ショップ、FINEWOODを始める。ウクレレ/アコースティック・ギター材を中心に、王道から逸れたレア・ウッドをセレクトすることから、“珍樹ハンター”との異名をとる。2012年からアマチュア・ウクレレ・ビルダーに向けた製作コンテスト“ウクレレ総選挙”を主催するなど、木材にまつわる仕掛け人としても知られる。