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- 2024/11/16
〜エフェクター・エイジング実験〜
スピーカーやヘッドフォンは、買ってしばらく「慣らす」と本来の音が出るって言いますよね? ギターは弾きこむと音が良くなると言われています。エフェクターはどうなんでしょう? エイジングによって何か変わるんですかね? というわけで、地下実験室で試してみました。
今回のお題は、エイジングです。
弾きこんでいくうちにギターの音が良くなったという経験がある人は、いると思います。私自身もそんな経験はありますが、正直、次のどれが本当の理由なのか、よくわかりません。
1:本当に、ギター自体の鳴りや音が良くなった
2:無意識のうちにギターが一番鳴るような弾き方に変わっていた(鳴らし方を身体が覚えた)
3:そもそもギターを買った当初とセッティングが違う(一番美味しいセッティングに少しずつ変わっていった)
どうでしょう? 1〜3のミックスの結果ですかね? でも大手ギター・メーカーでは材のエイジングによる音の伝導の仕方なんかを研究し、成果も出ているようですから、1の部分も間違いなくあるんでしょうね。
では、アンプはどうか。これはスピーカーも関係しますから、間違いなくエイジングの効果はあると思います。
で、いよいよ本題。エフェクターは、どうなんでしょう? これ、気になっていたんですよ。エイジングによる変化はありそうだなとは思っていましたが、ギターと違ってはっきり経験したことがありませんし、知識も乏しいので「ある」とも「ない」とも言い切れません。モヤモヤしていることは試すに限るので、やってみることにしましたが……地獄の日々でした。どう地獄だったかはおいおい説明するとして……とりあえず実験、始めるよー!
■使用機材
◎フェンダージャパン / ストラトキャスター ST54-500 メイプル指板(ギター)
◎フェンダー / 68 Custom Deluxe Reverb(アンプ)
◎アイバニーズ / チューブスクリーマーTS9(オーバードライブ、2台)
◎t.c.エレクトロニック / DITTO X2 Looper(ルーパー)
◎ベルデン / 9778(ケーブル)
◎フェンダー / ティアドロップ・ミディアム(ピック)
◎アーニーボール / レギュラースリンキー(弦)
※セッティングについて
■エフェクターは、皆に馴染みがあって、違いが分かりやすそうなオーバードライブを選びました。中でも一般的なモデルとして、現行のチューブスクリーマーTS9を2台用意しました。
■TS9はできるだけシリアルの近いものを購入し(1643860と1643891)、一度開封してサウンド・チェックし、その時点で個体差がないことを確認。1台は編集部が保管し、もう1台を自宅に持ち帰り、エイジングしました。
■エイジング作業は、まずギターの音をルーパーに入れ、あとはルーパーからの音を延々とTS9〜アンプに流すという形で進めました。
■エイジング期間は2017年3月22日から4月17日までの27日間で、のべ210時間行ないました。
■実験当日は、視聴用のフレーズをルーパーに入れ、その音をほぼ新品のTS9と210時間使用したTS9にそれぞれ流し、サウンドをチェックしました。
■エイジング有無以外のセッティングは、すべて同一です。
■本企画では動画再生の際、ヘッドフォンでの視聴を推奨しております。
今回の実験でキツかったのは、自宅でのエイジング作業です。
私にとって自宅は生活の場ですが、仕事の場でもあります。そんな環境で、ずーっとルーパーから面白くもないフレーズが流れ続けるのは、本当にストレスが溜まりました。
「面白いフレーズを弾けばいいじゃん」って思うかもしれませんが、良いフレーズやかっこいいリフは耳が奪われてしまい、それはそれで生活に差しさわりが出てしまいます。もっとも良いのは「できるだけ耳が反応しない、つまらないフレーズ」。これが意外と難しく、研究しました。ポイントは次の通りです。
●なるべくインテンポで弾かない(リズミカルだと、音楽として認識してしまうため)。
●クロマチックから任意の音を選ぶ感じで、なんとなーく鳴らす(フレーズっぽくならないように)。
●チョーキングやピッキング・ハーモニックスのようなギターらしい表現は避ける!
●でもチューニングだけはビシッと合わす(ズレてると気になって聴いてしまう)!
さらにアンプ側でトレモロをかけ、それもぼかす──これで、かなり耳に入ってこないフレーズができ、ストレスを軽減できました。「だったらTSのレベルを0にするとか、アンプにつながないとか、ただ信号を入れるだけにすればいいのでは?」と思うかもしれませんが、それではTS9に魂が入らないだろうという実験の割に全く科学的ではない態度と信念で、ストレス&電気代高騰の恐怖に打ち勝ちました。ひー。
それでは、まずフェンダージャパンのストラトで、コードを弾いた音をルーパーに入れ、それを各TS9に入れてみましょう。トーンとレベルは7です。
まずは新品ゲイン0。ふむふむ。なるほどね。次にエイジングのゲイン0。……どうですか? たぶん、違いが全然わからないかもしれません。でも、弾いた本人(ルーパーですが)には、もう既に違いがはっきりしました! 以下、ギターを手にして音を確かめながら解説を読んでもらうと、違いがわかりやすいかと思います。
この部分のコードワークは、誰でも弾くEのオープン・コードをベースに、その形のまま3フレットG、5フレットAと上がり、Gへ戻るのを1パターンとして、2回繰り返しています。エイジングした個体は、なぜか“4弦の音がやたら前に出てきている”んですよ(特にGとAのコードの時)。新品は全部がバランス良く鳴っています。ギターを持って確かめてみてください。ルートのオクターブ上、4弦5フレットのG音、7フレットのA音です。そこを意識してもう一度動画を見ると……ね?
単純に音色が変わったというより、和音のバランスが変わっていますよね。個人的には「手弾きした別テイクで、エイジングの方はピックの当たり方が変わっちゃった」みたいな感じがします。なんでこうなるのか、理由はわかりません。不思議だー! 一応アナライザーのピークの写真も付けます。違うっちゃ違いますが、聴こえ方との関連は見えません。
次にゲインを5に上げて、新品、エイジングでコード弾き。これは相当わかりにくいですが、エイジングした方が少しまろやかに聴こえます。でも、アナライザーのピーク写真では、エイジング個体の、頂上のあたり(10kHzあたり)がピコッと立ってますね。うーん……。
コード編、最後はゲイン10です。これも新品よりエイジングの方が若干まろやか&やはりGとAのコードの響きが少し違って聴こえます。まろやかといっても、アナライザーでは3.5kHzあたりはエイジングした方が出ているように見えますね。むむー、わっかんね。
単音編、まずは新品のドライブ0、次にエイジングした個体のドライブ0です。わ、わかりにくい……。ヘッドフォンで聴くとわずかにハイ落ちしたように感じますが、ホールドした波形ではエイジングした個体の、超上の方(10kHzあたり)に新品にはない山がありますね。どういうことだ?
次にドライブ5。ほんのすこーしエイジングした方がハイ落ちしてる感じがします。新品の方がいい音に感じるくらいですね。波形もほとんど変わりません。
最後にドライブ10。……これもほとんどわかりませんね。2弦15フレットのダウン・チョーキングを繰り返すところがあるじゃないですか? ここ、あえてアップ・ピッキングにして、ピッキングと同時に親指の皮の先をほんの少し当てて倍音を多めに出す(ピッキング・ハーモニックスほどはっきりはさせない)という、超誰も気づかない細かい技を使って、倍音で判別しやすいようにしてルーパーに録音したんですが、残念ながらわかりにくいですね……。その部分をよーく聴くと、新品の方が倍音がはっきり出ていて、エイジングした方は倍音の出方がまろやかになっているのがわかるかと思うんですが……わかんないか。そこわかるの、宇宙で俺だけか……さみしいのぅ。波形では、2kHz以降の様子が少し違うのがわかると思います。やはり、高域になんらかの影響があったようですね。
結論:エイジング、まぁ変わらないわけではないが、どうでもいいわ! 弦でも張り替えましょう
えー、我ながらずいぶんとひどい結論ですね(笑)。返せ、200時間(と電気代)! という気持ちでいっぱいです。
真面目な話、多少変わりましたが、200時間程度のエイジングでは誰でもわかるはっきりとした差が出るには至りませんでした。TS9が、それだけしっかりした製品だということでもあります。おそらく1000時間とかやれば、もう少し違う結果になった気もしますが、今回はこの程度の結果となりました。無念です。
エイジングって、要は劣化ですよね? で、劣化=良くないことというイメージを持っている人が多いと思います。私は、必ずしも劣化は悪ではないと伝えたかったんですよねー。気に入った機材を長く使えば、そりゃ電気的には劣化もするでしょうけど、変わった音も含めて好きだっていうことがあっていいはずですよね? だからこそ劣化してるけどかっこいい音、出したかったんだよなー。くそう。
次回は、さらにニッチなところを攻める予定です。違いが伝わるかどうか、やってみないとわかりませんので、やってみます。それでは、次回地下40階でお会いしましょう。
井戸沼尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジン・チャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。