VOX / MV50
ザ・ビートルズやクイーンのブライアン・メイらが愛した老舗ブランドVOXから、手のひらサイズのアンプ・ヘッド、MV50シリーズが登場した。太いクリーン・サウンドを生み出す“CLEAN”、VOXならではのパンチ力がある“AC”、そしてハードロックにまで対応できる“ROCK”がラインナップ。これら3機種には、新開発の真空管=Nutube（ニューチューブ）が搭載されているのも大きなトピックだ。今回は試奏者に稲葉政裕を招き、3機種の実力を確かめてみよう！
※使用ギター：1963 Fender Stratocaster、1961 Gibson SG
VOX MV50 CLEAN
VOXのMV50 CLEANは、その名のとおりクリーン・サウンドに特化したモデル。Nutubeが生み出すチューブならではのコンプレッション感を持ち、“とても弾きやすく、温かで心地良いクリーン”が堪能できる。超小型／軽量設計で可搬性が良く、なおかつ50Wのチューブ・クリーン・アンプというのは今までありそうでなかったため、自宅での使用はもちろん、歪みエフェクターと合わせてリハスタなどに持ち込んでも楽しめる。ボリューム・ツマミは、11時くらいまでは味付けがほとんどない素直なクリーン、そこから2時くらいまではコンプレッションが強くなったクリーン、それ以上は少量の歪み成分を含み始め、その挙動はまさにチューブ・アンプそのものだ。本機にはほかの2機種に搭載されているゲイン・ツマミはないが、その分トーンがトレブルとベースに分かれているため、より細やかなサウンドメイクが可能。
SPECIFICATIONS
●出力：50W RMS@4Ω、25W RMS@8Ω、12.5W RMS@16Ω ●チャンネル：1 ●コントロール：トレブル、ベース、ボリューム、エコ、スタンバイ、EQスイッチ、アッテネーター ●入出力端子：インプット、ヘッドフォン／ライン・アウト、スピーカー・アウト ●外形寸法：135（W）×75（D）×100（H）mm ●重量：0.54kg
●価格：25,000円 （税別）
チューブ・アンプの魅力である
コンプレッションが心地良いですね
すごくクリーンな音なんですけど、ボリュームを上げると少しクリップするところがチューブ・アンプらしいです。もちろんそのまま弾いても気持ち良いですし、エフェクターとの相性も良いですね。それから、大型の真空管アンプでクリーンを出そうとすると音圧で疲れてしまうことがあるんですが、これは音圧がちょうどいいので弾きやすいです。
トレブルとベースに分かれたEQもすごく使いやすいですね！ 基本的に変なピークはないアンプですが、それでも音作りの過程でちょっと削りたいところや上げたいところを、ふたつのコントロールでうまく調整できます。バック・パネルのEQスイッチを“ディープ”にすると低音がグッと出てきますから、例えばクリーンでジャズを演奏する時には使いやすいと思いますよ。
チューブ・アンプの魅力は“コンプレッション感”です。このCLEANもコンプレッサーのような音のつぶれ方ではなく、チューブ・アンプらしいコンプレッションが心地良いですね。逆にダイレクトにタッチに反応してほしいという人は、ボリュームを絞ってやるとそういう音が作れますから、ひと口にクリーン・サウンドといっても、いろいろな音を作れるのが魅力ですね。
VOX MV50 AC
VOXアンプを代表する機種であり、ロックの歴史を作ってきた名機AC30の血統を感じさせるクランチ・サウンドに特化したモデル。使用ギターを問わず極上クランチを堪能できるが、特にシングルコイルを搭載したギターでのきらびやかな高音弦の響きは、まさにACサウンド！ この小さな筐体から発せられていることが信じられないほどのリアルさだ。それを成立させているのは、本機がシミュレーターなどではなく、ACサウンドを出力するために回路の設計、パーツの選定などが行なわれ、プリ部にNutubeを搭載した完全アナログのリアル・チューブ・アンプだからだと言える。音量的にも50Wと十分で、キャビネットの選定次第でバンドで十分に使えるのもうれしいポイント。コントロールはゲイン、トーン、ボリュームの3つとシンプルだが、スウィート・スポットが広いので、どこにセッティングしてもグッド・サウンドを楽しめる。
SPECIFICATIONS
●出力：50W RMS@4Ω、25W RMS@8Ω、12.5W RMS@16Ω ●チャンネル：1 ●コントロール：ゲイン、トーン、ボリューム、エコ、スタンバイ、EQスイッチ、インピーダンス ●入出力端子：インプット、ヘッドフォン／ライン・アウト、スピーカー・アウト ●外形寸法：135（W）×75（D）×100（H）mm ●重量：0.54kg
●価格：25,000円 （税別）
小さいけれどチープじゃない
ドライブ・サウンドがいい感じです
これはまさにAC30のような音が出ますね。数々の名演を残しているビートルズやクイーンのファンはもちろん、そうでない人が使っても十分楽しめるアンプです。このアンプだけでもかなりの音作りができるようになっていて、ゲインを下げればクリーンからドライブ・サウンドまでいけますが、アンプでちょっとクリップさせた音を作って、そこにオーバードライブを加えるような人には特にオススメです。
このアンプは小さいんですけど、チープじゃないんですよね。私の印象だと小型アンプはどうしてもチープな音になりがちなんですが、クリーンもドライブさせた音もとても弾きやすく、いい感じですよ。特に強弱をしっかりつけられるので、弾いていて気持ちが良いですし、表情豊かな音を出せるアンプだと思います。小型アンプの宿命でもある“耳に痛いジリジリした成分”はないですね。50Wの出力があり、低音もしっかり出るので、外観は小さいですが音のバランスがいいです。倍音の出方もキレイで、コーラスがかかったような倍音がふわーっと乗る感じもすごくいいですね！
VOX MV50 ROCK
ROCKは、アグレッシブなディストーション・サウンドに特化したモデル。ブリティッシュ・スタック・アンプにブースターを加えたような、張りがあって深い歪みが持ち味だ。コントロールはACと同じゲイン、トーン、ボリュームの3つ。ゲインは12時でもよく歪み、パワーが低めのシングルコイル・ギターをダイレクトでつないでも、60〜70年代クラシック・ロックのような深さの歪みは余裕で作り出せる。また特筆すべきは、歪みを深く設定してもピッキングのニュアンスやダイナミクスが失われない点。これはプリ部にNutube、パワー部に真空管パワー・アンプの負荷変動特性までも再現した回路（ACも共通）を搭載していることによる。全機種の背面に搭載されたEQスイッチのディープ・モードは、小型のキャビネットを使用する際の低音を補正するもの。どの機種でも効果的だが、特にこのROCKでは迫力ある歪みを作るうえで重宝するだろう。
SPECIFICATIONS
●出力：50W RMS@4Ω、25W RMS@8Ω、12.5W RMS@16Ω ●チャンネル：1 ●コントロール：ゲイン、トーン、ボリューム、エコ、スタンバイ、EQスイッチ、インピーダンス ●入出力端子：インプット、ヘッドフォン／ライン・アウト、スピーカー・アウト ●外形寸法：135（W）×75（D）×100（H）mm ●重量：0.54kg
●価格：25,000円 （税別）
歪んでいても右手のタッチが良く出るので
弾いていて楽しい！
これは驚くべきディストーション・サウンドが出ますね。バック・パネルのディープ・スイッチを入れると、本当にスタック・アンプみたいです。最近は小型アンプでもそれなりに良い音が出るモデルもありますが、どれも音が小さいんですよ。これは“その良い音をなんとかデカイ音で出せないかな”と、誰もが思うことを簡単に解消できるアンプですね。歪んでいても右手のタッチが良く出るので、弾いていて楽しいです！ もうちょっとゲインを上げてやろうって気持ちになりますね。
ストラトキャスターを使った場合、このアンプはゲイン・ツマミが12時でも十分にディストーションがかかります。もっとサステインが欲しければ、もっとゲインを上げればいいだけなので、操作が簡単ですね。
EQはトーン・ツマミしかないんですけど、おいしいポイントが集約されていますから、誰でも好きなポイントを簡単に見つけられると思います。
【CLEAN】MV50シリーズはフロント・パネルがすっきりしているのに対して、バック・パネルが充実しているのが特徴。エコ・スイッチ、スタンバイ・スイッチのほか、EQスイッチやアッテネーター・スイッチも搭載。また、各モデルともヘッドフォン／ライン・アウトを備えており、深夜の練習やレコーディングに活用できる。
【AC & ROCK】右端のインピーダンス・スイッチは、使用するキャビネットに合わせて切り替えることによって最適な音色が得られるようになっている（各機種共通50W @4Ω、25W @8Ω、12.5W @16Ω）。左端のエコ・スイッチは、15分間大きな入力がないと自動で電源が切れる仕組みだ。
フロント・パネルでひときわ目立つレトロなVUメーター。MV50を象徴するデザインであり、実は出力に応じて針が振れる仕組みになっている。ギタリストならアガってしまう、遊びのある演出だ。
バック・パネルのヘッドフォン／ライン・アウトには、キャビネット・エミュレーター回路を搭載。マイキングも含めたエミュレートがされており、本格的なサウンドを簡単に録音できる。
フラット／ディープの切り替えができるEQスイッチ。例えば8インチの小型キャビネットBC108を使う場合は、ディープにすると低域の補正ができる。12インチのBC112の場合はフラットと相性が良い。
新世代の真空管「Nutube」
ウォームな音、コンプ感、サチュレーション──これらは、ギタリストがチューブ・アンプについて語る時によく出てくるキーワードだ。このように形容される独自の音を持つからこそ真空管は愛されている。しかし、一方では耐久性が低い、ノイズが大きい、個体差が大きい、手に入りにくい……など、デメリットは数多い。こうしたデメリットのない、新しい真空管。それがコルグとノリタケ伊勢電子の共同開発により誕生した新真空管=Nutube（ニューチューブ）だ。
45（W）×16（D）×4.5（H）mmというサイズ感ながら、従来の真空管と同じくアノード・グリッド・フィラメントの構造を持ち、完全な3極真空管として動作。また従来の真空管と同様、豊かな倍音を生み出す。ノリタケ伊勢電子の“蛍光表示管の技術”を応用することにより、その構造を工夫し、従来の真空管と比べて大幅な省電力化、小型化、品質向上に成功。こうしたNutubeの特性を最大限に生かすことにより、このサイズ感で50W出力というヘッド・アンプが実現した。
サウンドについては、真空管アンプを弾いたことがあるプレイヤーであれば、1音ヒットしただけで納得がいくはずだ。ちなみにNutubeの連続期待寿命は約30,000時間。1日に2〜3時間程度しか弾かないプレイヤーであれば、まず交換は不要だろう。
VOX BC108 ／ 背面：独自のセミ・オープン・バック構造がひと目でわかる。インプット端子をふたつ装備。
低音再生の限界を決める要素のエフゼロを極力低くした新型8インチ・スピーカーを搭載したモデル。小型で3.9kgと軽量ながら独自のセミ・オープン・バック構造を施し、このサイズからは考えられない音量を生み出す。MV50の各モデルとセット販売もされており、相性抜群のスタックとして使える。25W@8Ωまでの出力となるが、カスケード接続して2台つなげば50W@4Ωで使用可能（BC112と共通）。
SPECIFICATIONS
●スピーカー：8 VOXオリジナル8Ω×1 ●入出力端子：インプット×2 ●外形寸法：260（W）×280（D）×200（H）mm ●重量：3.9kg ●付属品：スピーカー・ケーブル
●価格：10,000円 （税別）
VOX BC112 ／ 背面：オーバル・ポート採用のセミ・オープン・バック構造。本機もインプット端子をふたつ搭載。
余裕の70W入力の、セレッションVタイプ12インチ・スピーカーを搭載したオリジナル・モデル。スピーカーをフロントからマウントし、サウンドをよりクリアに放出。オーバル・ポート採用のセミ・オープン・バック構造により、豊かで歯切れの良い中〜低音が得られる。また、ヘッドやラックが置きやすいフラットな上面、彫り込みがあって握りやすいハンドルなど、デザインも秀逸だ。
SPECIFICATIONS
●スピーカー：12セレッションVタイプ8Ω×1 ●入出力端子：インプット×2 ●外形寸法：520（W）×445（D）×260（H）mm ●重量：13.6kg ●付属品：スピーカー・ケーブル
●価格：27,500円 （税別）
今日は3種類のMV50を弾かせていただいて、本当に楽しかったです。大型のチューブ・アンプらしいサウンドがこのサイズから出てくることが驚きでしたし、それぞれにキャラクターがあって、楽しんで演奏できました。3機種とも新開発の真空管Nutubeを搭載しているんですけど、従来のような温かく、反応の良いチューブ・サウンドを楽しめましたね。
個人的に特に良いなと思ったのはROCKです。最初に弾いた瞬間、“これはヴァン・ヘイレンもいけちゃうな”と感じるくらいしっかり歪んだので、すごく楽しめました。本当にROCKのディストーションは良いですよ！ 好きで楽器をやっている人は、音色が良ければ何時間でも弾けちゃうと思うんです。飽きないようにサウンドメイクができたら、もう止まらなくなりますよね。MV50は3種類あるので、これを順番に試していったら、ずーっと弾いていられますね。
ツイン・ギターのバンドなんかは、ふたりでこのアンプを持ってリハーサル・スタジオに行くと、バンドの音決めがしやすいでしょうね。リハスタは片やマーシャル、片やJC-120というパターンが多いじゃないですか。そういう時に同じ音色のアンプをそれぞれ持ち寄って音作りをすれば、アンサンブルも決めやすいですよね。本当に持ち運びが楽なので、この使い方はオススメです。それから、この大きさ、このデザインでこの価格でしょ？ プレゼントに贈ったら絶対に喜ばれますよね！ ギタリストでこれをもらって喜ばない人はいないでしょう。若い人は難しいかもしれないですけど、大人が買って、若い人に贈ってあげればいいじゃないですか（笑）。これは流行ると思いますよ。
本記事は、リットーミュージック刊『ギター・マガジン 2017年5月号』の特集記事「手のひらサイズのアンプ・ヘッドVOX MV50を稲葉政裕が弾き倒す！」を一部抜粋流用したものです。誌面では、ここでは紹介できなかったMV50の使い方に加え、稲葉氏のMV50音作りのポイントや詳細なレビュー、そしてMV50の開発に携わったコルグの開発者インタビューも掲載。MV50の魅力がより深く伝わる内容となっていますので、ぜひチェックしてみてください！
価格：￥25,000 （税別）
価格：￥25,000 （税別）
価格：￥25,000 （税別）
価格：￥10,000 （税別）
価格：￥27,500 （税別）
稲葉政裕
いなば・まさひろ。1960年生まれ。大分県出身。86年に上京し、その後は吉田拓郎、山崎まさよし、森高千里、中島美嘉らのライブ／レコーディングに参加。また、小田和正のバック・バンドFar East Club Bandでも活動している。ブルース・フィールに溢れた情熱的なプレイ・スタイルが特徴。
