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- 2024/11/16
Fender
フェンダーのエレキ・ギターをネジ1本単位まで分解し、ギターの構造と製作の美学に迫るギター・マガジンのムック『フェンダー解体新書 バラして納得! 量産型エレキ・ギターの構造と美学』が発売。今回、デジマート・マガジンではこの『フェンダー解体新書』と連動して中身をちょこっと紹介! デジマートに訪れるギターオタクのあなた。パーツオタクのあなた。ビンテージオタクのあなた。フェンダーオタクのあなた。さあ、このバラバラ具合にどうぞしびれてください。
フェンダーのエレキ・ギターが最も画期的だったのは、ボディとネックをたった4本のボルトで組み上げ、量産化に成功した点でしょう。各パーツの組み込みも、基本的に長短・大小のネジを使っているだけ。この男心をくすぐるプラモデル感覚こそが、フェンダーの醍醐味かもしれません。逆を言えばドライバーさえあれば、そのギターが生まれる前の姿に出会えるかもしれない。そんな出来心から生まれたのが、『フェンダー解体新書』です。
本書では、テレキャスターやストラトキャスターといった歴史的モデルから、定番のジャズマスターやムスタング、さらにはスインガーやブロンコといった初心者向けモデルまで、20種類以上のフェンダー・ギターをネジ1本単位まで分解。各モデルの構造や使用パーツを分析するとともに、そこに込められたギター製作の美学に迫ります。
【解体ギター・ラインナップ】
・テレキャスター(1954年製)
・カスタム・テレキャスター(1962年製)
・テレキャスターwithビグスビー(1969年製)
・ストラトキャスター(1955年製)
・ストラトキャスター(1961年製)
・ストラトキャスター(1971年製)
・ストラトキャスター(1979年製)
・エレクトリック・マンドリン(1964年製)
・ミュージックマスター(1958年製)
・デュオ・ソニック(1963年製)
・ブロンコ(1978年製)
・スウィンガー(1969年製)
・ジャズマスター(1964年製)
・ジャガー(1964年製)
・ムスタング(1966年製)
・エレクトリックXII(1965年製)
・コロナドII(1967年製)
・テレキャスター・シンライン(1975年製)
・テレキャスター・カスタム(1973年製)
・テレキャスター・デラックス(1973年製)
・スターキャスター(2016年製)
・リードI(1980年製)
・ブレットS3(1983年製)
・マローダー(2012年製)
・フレイム・スタンダード(1984年製)
・パフォーマー(1985年製)
・ジャグ・スタング(1998年製)
・サイクロン(2001年製)
・トルネード(2004年製)
コラム:シリアル・ナンバー完全版、共通パーツ小辞典、他
◎定価2,700円[本体2,500円+税]
◎A4変型判/208ページ
71年頃のトレモロ・ブロックはスチール製セパレート型で間違いないのだが、69年頃からはブロックの側面が角張っているのが一般的だ。しかし、本器は丸みを帯びていることから古い年式の可能性が高い。ブリッジ・サドルのオクターブ調整及び弦高調整ネジはサビの進行による固着により一部取りはずせなかった。その弦高調整ネジやオクターブ・ネジ部のスプリングは交換品。コントロール・ノブも違和感ない外観に黄変しているのだが、77年頃までのものよりも外周部の数字の大きい81年以降のバージョンに交換済み。トレモロ・スプリング・カバーは黄変しにくい素材(硬質プラスティック製白1プライ)のため、比較的白さを保っている。ジョイント・プレートには、過去のオーナーの手でイニシャルなどの文字が掘り込まれている。
オプションのビグスビー製フェンダー特注トレモロ・ユニット仕様では、ブリッジ部にジャズマスター/ジャガーと共通のブリッジ・アッセンブリーが使用されていることもあり、通常のテレキャスターよりも部品点数が多くなっている。トレモロ・ユニットのテイルピース部分には、本来弦のボール・エンドを引っ掛けるピンがあるが、本器は弦交換の利便性のためピンを除去して穴を空けて、そこに弦を通す方式に改造している。ブリッジ・サドルの弦高調整ネジやスイッチ取り付けネジはサビによる固着があったため、一部分解ができなかった。フロント・ピックアップ本体は交換品。この時期、ボリューム・ポットの2~3番端子間にはハイ・パス・フィルター用のコンデンサ(0.001μファラッド)が取り付けられているのがオリジナル仕様だが、本器は欠品。69年という過渡期は、コットン被膜とビニール被膜の配線材が混在している。
当時の最上級モデルということもあり、ジャズマスターを上回る部品点数。ブリッジ・サドル部のオクターブ調整ネジの一部とすべての弦高調整ネジは、サビによる固着で取りはずすことができなかった。ピックガード裏側にはアルミ製のシールド・プレートが貼り付けられているのだが、それは都合により剥がしていない。メイン・スイッチ・プレートの下に敷かれたバルカン・ファイバー製のスペーサーは、ピックガードとプレートの高さをそろえるためのもの。ミュート・プレートの左横のスプリング付き円柱状パーツは、プレートの下側に垂直に埋め込まれているパーツだ。プレートにはボルトが垂直に取り付けられているのだが(ナットによる固定)、それは欠品。キャビティ内のブラス・シールドは、すべてプレート状だ。
『フェンダー解体新書』では、今回紹介した3機種を含む計29点ものギターをバラバラに解体しています。さらに、ビンテージはもちろん、日本製やメキシコ製のフェンダー製品を含むシリアル・ナンバーのリスト、ポットやコントロール・ノブなどの共通パーツを一覧にした「フェンダー・パーツ小辞典」など、ギターマニアをくすぐるコラムも掲載しました。その中身を少しご紹介しましょう。
ギター・マガジンからの再掲載分を含め、全部で29本ものフェンダー・ギターをバラしていますが、今回の企画で一番大変だったのは、肝心なバラしOKの個体を見つけてくることでした。ビンテージ・ギターの世界では、一度ハンダをはずしただけでもフル・オリジナルとは見なされなくなりますし、特に50~60年代の高価なビンテージを気前よくバラさせてくれるギター・ショップなんてあるわけないのです。万が一お借りして、元に戻す途中でピックアップが断線したり、プラスチック・パーツが割れてしまったら大事件。やっぱりこの本のコンセプトには無理があったのか? 止めちゃおうかな? やだな~、こわいな~。そう思ったことは一度や二度じゃなかったのですが、幸運にも職場はリットーミュージック/ギター・マガジン編集部。会社内にはたくさんのギター好きが集まっており、特に歴代のギタマガOBたちはビンテージ・フェンダーを隠し持っていたのです。灯台もと暗し。
例えば上記で紹介している69年製のビグスビー付きテレキャスター、これはデジマート・マガジン編集長Wさんの所有物。ちょうどショップに売り出そうとしているタイミングだったので、ここぞとばかりに土下座して頼み込みました(バラしの最中、ピックアップやポットが交換品と発覚したことはWさんには内緒です)。71年製のストラトキャスターはアコースティック・ギター・マガジン編集長Aさん秘蔵の1本。プロ・ギタリストを目指していたフリーター時代に買ったそうですが、思わず借りパクしたくなるほどの良い音がします。隣席のギタマガ副編集長Sさんは73年製テレキャスター・カスタムを貸してくれました。ストーンズ・フリークらしく、ボディには大きくロン・ウッドのサインが入っています。他にも、弊社で一番ギターが上手な元ベース・マガジン編集長Sさんの66年製ムスタング、元アコースティック・ギター・マガジン/現ビンテージTシャツ店HELLO//TEXASを営むMさん所有の58年製ミュージックマスターなど、お陰様で数々の貴重なビンテージのバラしに成功。今回は諸先輩方の寛容な心に本当に助けられました。この場を借りて御礼を申し上げます。ありがとうございました。ちなみに64年製ジャガーは、僕が18歳の時に初めてローンを組んで買った思い出の1本。あの時、無理して買っといて良かったです。
主要モデルは何とか集められたものの、もうちょっとマニアックなモデルも解体したい。ここまで来たら目指すは全機種制覇! そこで相談に乗ってくれたのが、大のギター好きで知られるヨッちゃんこと野村義男さん。この企画の趣旨を伝えたところ、それならば一肌脱ぐよとエレクトリック・マンドリンやスインガー、パフォーマーなどを提供してくれました。ギターに魅せられた男は話が早かった。300本以上の愛器を掲載した『野村義男の“思わず検索したくなる"ギター・コレクション』でも紹介していますが、スインガーだけで8本も持っているそう。おそろしい人です。
また、表紙のテレキャスターは、なんとフジファブリック山内総一郎さんの所有物。2016年11月頃に入手したという54年製なのですが、ダメ元でお願いしたところ、“どうせツアー前に調整に出すからいいよー”とのうれしい返事が返ってきました。この時期のテレキャスターを分解する機会はそうそうないでしょうから、いざバラしの作業を行なう時、著者の今井康雅さんの額にはうっすらと汗が滲んでいました。真冬なのに。ちなみに、ギターをバラし、ネジ1本まで並べて撮影し、組み込みが終わるまでの作業には平均4時間ほどかかります。このギターを組み込み終わった時の今井さんの安堵感は、全作業を通して間違いなく一番だったと思います。撮影現場を包んだあの時の異様な緊張感は、まるでオペに近いものがありましたね。
そんなこんなでいろいろな方々に協力してもらって本書は完成したわけですが、改めて思うのはネックとボディをネジだけでつなぎ止めたレオ・フェンダーさんの発想力のすごさ! 当たり前のことですが、弦高やピックアップ高の調整、ネックの仕込み角度(マイクロ・ティルト・ディスク)なども、実際にはネジ1本の回し具合で決まるわけです。知れば知るほどにアナログな楽器なんだなーと痛感しますが、誕生から半世紀以上がたった今もエレキ・ギターの構造は大きく変わっていないことが再確認できました。そして、その中でも試行錯誤をくり返して新しいパーツを開発し、新製品を発表してきたフェンダーの歴史、量産型エレキ・ギターの美学が本書には詰まっているのです。(ギター・マガジン書籍編集部/坂口和樹)
2,700 円(本体2,500円+税) 仕様 A4変型判/208ページ
価格:¥2,500 (税別)
今井康雅(HISTORIQUE GUITARS)
東京都杉並区出身。大手楽器店に入社し、フェンダー製品のリペア、アフター・サービス部門に配属。89年からビンテージ・ギター専門業に携わり、94年に9月にヒストリーク ギターズを開業。以来、フェンダーを中心としたビンテージ・ギターの研究を重ねており、『ストラトキャスター・オーソリティ』、『テレキャスター・オーソリティ』などの著書を上梓。近年はHGTオリジナル・アンプの製作にも積極的に取り組んでいる。