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  • デジマート地下実験室〜地下37階

ストラトキャスターのサドルを交換するとギターの音はどう変わるのか?

〜ストラト・サドル実験〜

  • 文:井戸沼尚也(室長)
  • 動画撮影・編集:川村健司 協力:細川雄一郎、モリダイラ楽器

ストラトキャスターのサドルって、弦が乗っているところだから、交換したら絶対音が変わると思うんですよ。でも実際に試すのは意外と面倒だと思うんですよね。というわけで、地下実験室で試してみました。

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【実験テーマ】サドルを交換するとギターの音はどう変わるのか?

 今回の実験対象は、ストラトのサドルです。

 実験にあたって、「実際にストラトのサドルを交換する人」っているのかなと思って調べてみたら、いましたよ! あの大物、ストラトのトーンを語る時に絶対に外せないギタリスト、スティーヴィー・レイ・ヴォーンが通称“No.1”のサドルを交換していました。キャリアの途中で、折り曲げのプレス・タイプからブロック・タイプのサドルに交換しています。でも、レイ・ヴォーンは1弦のサドルだけなんですよ……。うーん、これは、1弦の音だけ変えたくて交換したというよりは、弦切れ対策でテックが交換したものをそのまま使っている、に1票ですね……。

 誰か、音質の変化を求めてサドルを交換した人はいないのでしょうか!?
 「あ、ボクやりましたよ。ボクのストラト、サドルは63年のビンテージです」
 きたー、『配線材実験』の時以来お世話になっている、日本を代表するエフェクター・マニアのひとり、細川雄一郎さん! 使用するギターにもこだわりを持っていて、自身のストラトに魔改造を施していることは知る人ぞ知る、です。

私「それは、音質の変化を求めて……ですか?」
細「もちろんです。ボクのストラト、サドルの音しかしてないくらいですよ」

 まじかキタこれ!

私「はひはひ、そ、そのサドル、貸していただけませんか?」
細「いいですよ」

 わー、交渉時間3秒! というわけでビンテージ・サドルも交え、実際にどの程度音が変わるのか、サドルを交換してみます。それじゃ実験、始めるよー!

【実験環境】

■使用機材
フェンダー・アメリカン・ビンテージ・ストラトキャスター(1982年製)(ギター)
フェンダー 68 Custom Deluxe Reverb(アンプ)
ベルデン9778(ケーブル)
フェンダー・ティアドロップ・ミディアム(ピック)
アーニーボール レギュラースリンキー(弦)
◎以下のブリッジ・サドル
01. Fender 純正
02. KTS Stratocaster Style Saddles PR-11
03. Raw Vintage RVS-112
04. GOTOH S102
05. GraphTech String Saver Classic PG-8000-FC
06. GraphTech String Saver Original PS-8000-FO
07. Fender 1973年製
08. Fender 1963年製

※セッティングについて
■音の違いがわかりやすかったクリーン・トーンで、コード弾き、単音弾きをそれぞれ収録しています。ストラトのピックアップはセンターを使い、アンプのEQはほぼ12時です。
■今回使用したサドルは、デジマート、楽器店で入手しやすいものを中心に集め、参考用にビンテージのサドルを細川氏より借りて加えました。
■デフォルトの状態の弦高を記録し、サドル交換の際にはデフォルトの高さと同じに揃えています。
■今回の実験は交換箇所がギターそのものに関わるため、ルーパーを使用することはできず手弾きとなります。極力、同じ強さ、同じテンポでの演奏を心がけましたが、どうしても多少の差異が出てしまうことをご了承ください。
■本企画では動画再生の際、ヘッドフォンでの視聴を推奨しております。

実験1 現行販売サドル編

 では、早速純正サドルの音を確かめてから、現行品のリプレイスメント・サドルと交換して音を確かめていきます。もし皆さんが同じことをやる場合は、サドルのピッチに注意してくださいね。現行のフェンダー製や国産ギターの場合は10.5mmや10.8mmのものが多く、ビンテージや年代の古いのものは11.3mmが多いのですが(誤差やメーカーによる微妙な違いはあります)、1個あたり0.8mm〜0.5mmの差でも6個分になると4.8mm〜3mm変わります。最悪の場合、せっかく買ったサドルが使えない(弦を通す穴とずれる、サドル同士が密着しすぎる or 離れすぎる、適切な弦間隔が保てないetc.)ということもありえますので、まずは自分のサドルのピッチを把握して、同じピッチのものを買うことをお勧めします。

01. Fender 純正

Fender 純正

 最初はFenderの純正品です。今回使用した82年頃のフェンダー・アメリカン・ビンテージ・ストラトキャスターに付いていた、純正のサドルです。スチール素材をプレスしたタイプの非常に一般的なもので、ピッチは11mm、重量は6個合わせて27gです。しかし、こうして見ると、よく言えば貫禄があるんですが、なんというか、結構汚れや錆がひどい感じです……。

 サウンドについては、最初のものですので「フェンダーの音だ」というしかありません。これを基準に、次のものを聴いてみましょう。

02. KTS Stratocaster Style Saddles PR-11

KTS Stratocaster Style Saddles PR-11

 次はチタン製のKTSのサドルです。ピッチは11.2mm、プレス・タイプで、重量は6個合わせて20g。純正と比べると軽いですし、チタン製なので強度があるはずです。

 で、その音は……おお、かなり違いますね。音の芯がしっかりとしていて、ミドル〜ミッド・ローあたりが充実している感じです。ただ、その帯域が出たため相対的に引っ込んで聴こえるのか、ハイの成分は01よりも出ていないように感じます。ビンテージ系のストラトというより、ハイエンド系のモデルに寄ったような印象です。今回使用したストラトがビンテージ系モデルなので、それとの相性は(私は)もう一つかなと思いました。もっとモダンな音、あるいは歪ませた音との相性が良いのかもしれません。それから、ちょっとコンプ感があるので、こちらの方が好きという人も多いかもしれませんね。

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03. Raw Vintage RVS-112

Raw Vintage RVS-112

 続いては、Raw Vintageのサドルです。ピッチは11.2mm、プレス・タイプで、重量は25g。重さ的には01の純正に近いです。メーカーの情報によると「Raw Vintage Pure Steel Saddleは、現在得られる中で最もビンテージに近い素材を使用することで硬度のバラツキを解消し、ニッケル・メッキを直に施してよりビンテージのサドルに近づけました」ということです。

 音については、01と非常に近く、02とは異なる個性を持っていますね。私はこれは、このギターに合っていると思います。02ほどパワフルではないですが、01よりはパワーがあって、01同様の高域のキラキラしたところもしっかり残り、サステインも綺麗です。私はこのサドル、好きですねー。

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04. GOTOH S102

GOTOH S102

 ここにきて、形状というかタイプが変わります。このGOTOH S102はスチール製なのですが、見ての通りスチール折り曲げのプレス・タイプではなく、ブロック・タイプになっています。ピッチは11.3mm、重さは54gです。54って、01のちょうど倍の重さですね。

 これは、ハイがしっかり出て、パワフルで、サステインもすごく長いです。動画には収録されていませんが、フロントで低音弦をゴンゴン弾いても、ローがだぶつくこともありませんでした。ブロック・タイプからくるイメージかもしれませんが、「身が詰まっている」イメージそのままという感じです。ちなみに、現場にいた実験室スタッフは「弾きやすくなった」と言っていました。なるほどねえ。このサドルも好印象ですね。

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05. GraphTech String Saver Classic PG-8000-FC

GraphTech String Saver Classic PG-8000-FC

 続いては、同じブロック・タイプのスチール素材ですが、弦が当たる部分のみ、String Saverを使って弦を切れにくくしているサドルです。String Saverとは何なのか、詳しくはわかりませんが、しばらく弾くことで作られるテフロンの膜がポイントの素材のようです。このサドルのピッチは11.2mm、重さは51gです。これもかなり重いですね。本体のほとんどがスチールですから、04に近い重さになるのでしょう。

 音ですが……ものすごく正直なことをいえば、思ったより普通だったので驚きました。弦が切れにくいString Saverって、感覚的には柔らかそうなイメージを持っていて、出音も若干詰まったり、腰がなかったりするんじゃないだろうか⋯⋯と勝手な予測をしていたわけです。でも、実際には真っ当な音でした。これで弦が切れにくいんだったら、弦をよく切る人にとってはアリですよね。

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06. GraphTech String Saver Original PS-8000-FO

GraphTech String Saver Original PS-8000-FO

 これは、先ほどの謎素材String Saverで、ブロック丸ごと作りましたというサドルです。ピッチは11.2mm、重量は25g! 05の半分以下で、01のデフォルトに近い重さです。あとは、今回のサンプルの中で、このサドルだけ、色が黒です。そこが好きな人、苦手な人、分かれそうですね。

 出音は……こうして動画の音を聴くと、ちょっと弱々しいですね。収録当日も、最初はちょっと使いにくいかな……と思ったのですが!! 現場ではミラクルが起きましたよ! しばらく弾いていたら、みるみる音が変わっていったんです。よりパワフルで、ハイがはっきりと出て来ました。やはりしばらく弾いてテフロンの膜を作り、馴染ませることが重要な素材なのかもしれませんね。あくまでも実験ですから条件を揃える必要があるので、この動画では交換してすぐの音を収録しており、このサドルにはちょっと不利だったのかもしれません。ちなみに現場で弾いたといっても10分か20分程度ですので、このサドルの真価は1ヵ月とか慣らし弾きした後で発揮されるのかもしれませんね。

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実験2 ビンテージ・サドル編

 ここからは、ふたつだけですがビンテージのサドルを試してみます。

07. Fender 1973年製

Fender 1973年製

 これは、70年代のフェンダーに使われていた亜鉛ダイキャスト・タイプのサドルです。実はこのタイプ、よく見ていただくとブロックともまた形状が違うことがわかると思います。で、素材が亜鉛というのは、実は今では生産されていないので、地味に貴重なサドルです(70年代のビンテージ/中古フェンダーには普通に載っていますが)。幅は11mm、重さは31gです。

 音を聴いてみると……あー、“この音知ってる”って感じですね。アタックが速いフェンダーの音です、昔持っていた70年代のシンラインと同じ感じだ。KTSやGOTOH、GraphTechに比べると個性がないような気もしますが、当たり前のフェンダーの音ってこんな感じですよね。63年のプレス・タイプと比べてみたいと思います。

08. Fender 1963年製

Fender 1963年製

 1963年製のストラトのサドルです。幅は11mm、重さは27g。基準のサドルと同じ数値ですね。その音は……うわー、これはいいですね。枯れたニュアンスのビンテージ・トーンなのに、パワーもあります。反応も速いし、バランスもいい。このギターとの相性も良いのでしょう。生で弾いても、むちゃくちゃ気持ち良かったです。生で弾いた時の響き方が、以前持っていた61年のストラトと同じ感じがして、やっぱりサドルの音ってあるんだなと思いました。

実験結果

結論:サドルによって、ストラトキャスターの音は大きく変わる

 サドル、大事ですねー! 結構音が変わりましたよ。私の好みは01のデフォルト(いろいろ比べると、ちょっと弱々しいですが)、03のRaw Vintage、08の63年製です。完全にビンテージ系が好みなんですね。でも動画で改めてチェックしてみたら、04のGOTOHのパワフルな音も非常にいいなと思いました。モダンな音が好みの方は、私とは全く違うものを選ぶんだろうなと思います。どちらがいい/悪いではありませんので、人の意見はあまり気にせず、自分が好きなものを選ぶのが正解だと思います。

 ひとつ言っておきたいのは、サドルを変えると、アンプに通さなくても生音も全然変わるということです。この点が例えばピックアップ交換とは違うところで、家で生で弾いても全然違いますし、サドルの場合はそこまで高価ではありませんから(モノにもよりますが)、サドル交換、オススメです! 絶対楽しめますよ!

 それでは、次回、地下38階でお会いしましょう。

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製品情報

エレキギター用パーツ ブリッジ/テールピース/サドル

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プロフィール

井戸沼尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジン・チャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。

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