AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Martin / SP Acoustic、SP Lifespan
斎藤誠氏と共にマーティン・ギターの魅力を伝えていく本企画。今回から「MARTIN TIMES〜It’s A Beautiful Day」としてマンスリーの連載コンテンツとなりました! それを記念して(?)、今回は弦の分野でもスタンダードとして広く愛用される「マーティン弦」にフォーカス。アコースティック・ギターの標準器と言えるD-28を用い、スタンダード弦の代表格SP Acousticと、トリートメント弦のSP Lifespanのブロンズ/フォスファー・ブロンズを徹底検証してみました。トーン、音圧、プレイアビリティ、両手に感じる感触⋯⋯斎藤氏が各弦の違い、個性を深く掘り下げていきます!
弦は消耗品であり、値段もギター本体に比べればはるかに安い。しかしながら、どんなに高級なギターでも、弦が無ければ本来の機能も魅力も発揮できない。また、弦はその材質やゲージ(太さ)の違いによって、弾き心地やサウンドといったギターの根幹をなす要素に少なからず影響を及ぼす。マーティン社が1971年にダルコ社(Darco String Company)を買収し、マーティン弦を自社生産するようになったのも、弦のそうした重要性を認識していたからに他ならない。
アコースティック・ギター用の弦で最もポピュラーなのはブロンズ弦とフォスファー・ブロンズ弦で、どの弦メーカーもこれら2種類をラインナップしている。今回、試奏動画と共にメインで紹介するマーティンのSP AcousticとSP Lifespanの両シリーズも、これら2種類の様々なゲージが用意されている。ブロンズやフォスファー・ブロンズという名称は、スティールの芯線に巻きつける「巻線」の材質を指す。ブロンズは80/20ブロンズとも呼ばれる銅80%と亜鉛20%の合金で、一般的には真鍮と呼ばれる。歯切れ良さと深みを持ち合わせたサウンドが特徴とされ、色は明るい金色である。フォスファー・ブロンズは銅92%とスズ8%の合金で、わずかにリンも含むことからリン青銅とも呼ばれる。温かみのある明るいサウンドが特徴とされ、色は明るい銅色である。
SP Lifespanはその名の通り、SP Acousticの寿命をさらに延ばすために特殊な加工(トリートメント)を施した弦である。弦の外側を特殊な樹脂でコーティングしたり、あらかじめコーティングした巻線を芯線に巻き付けたりしたものとは違い、SP Lifespanは完成した弦に特殊な樹脂を含侵させている。これによって、巻弦と芯線の両方が汗や汚れから保護されているのが大きな特徴だ。なお、1、2弦のプレーン弦に関してはブロンズもフォスファーも同じだが、Lifespanシリーズのものにはトリートメントが施されている。
ブロンズとフォスファーの違いには微妙な部分もあり、試奏動画ではその違いを引き出すために、可能な限り理想的な環境を整えた。楽器はスタンダード・シリーズのD-28を4本用意し、これらにSP AcousticとSP Lifespanそれぞれのブロンズとフォスファーのミディアム・ゲージ(.013〜.056)を張った。ピックは全てマーティンのトライアングル型/ヘビーで、マイクはいつもと同じオーディオテクニカのAT5045。楽曲は、それぞれの弦についてピック弾きのストローク、アルペジオ、リードプレイおよび指弾き用の4種類を用意した。もちろん、シビアなスタジオ経験も豊富な斎藤氏の安定したテクニックも、今回の試奏には欠かせない要素である。
マーティンのブロンズ弦の基準となる弦。巻弦となる3~6弦の芯線にブロンズのメッキが施されているのはスタンダードな「Acoustic」と同じだが、SPでは1、2弦用のプレーン弦にもブロンズのメッキが施されている点が異なっている。これにより、プレーン弦の耐腐食性も高められている。1弦〜6弦まで、明るい金色なのが特徴だ。
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【80/20 Bronze Lineup】
●エクストラ・ライト(10、14、23、30、39、47):MSP-3000 ●カスタム・ライト(11、15、23、32、42、52):MSP-3050 ●ライト(12、16、25、32、42、54):MSP-3100 ●ミディアム(13、17、26、35、45、56):MSP-3200 ●12弦(10/10、14/14、23/10、30/12、39/18、47/27):MSP-3600
SPのブロンズを使ったのは初めてですが、SPじゃないAcousticのブロンズよりも“シャリーン”という倍音が良く出ますね。SPじゃないフォスファー・ブロンズとの差も少ない印象で、これはSPの特徴なのかもしれません。ブロンズのメッキを施したプレーン弦のキャラクターが出ているのかもしれませんね。そんなわけで、違いは微妙になりますが、フォスファー・ブロンズに比べて3、4弦の音圧があって、ダイナミック・レンジを満たしている感じがします。音の塊がドーンと前に出てくる感じを求めるなら、やはりブロンズのほうが良いでしょうね。単音でメロディやソロを弾く場合には、特に3弦の音圧をどう感じるかで好みが分かれるでしょう。
SPブロンズと同様、フォスファー・ブロンズの基準となる弦。「Acoustic」のフォスファーでは巻弦にスズをメッキした芯線を使用しているが、本品ではブロンズと同様、ブロンズをメッキした芯線が使用されている。プレーン弦ももちろん、ブロンズのメッキが施されて、明るい金色に輝いている。巻弦の色は明るい銅色である。
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【92/8 Phosphor Bronze Lineup】
●エクストラ・ライト(10、14、23、30、39、47):MSP-4000 ●カスタム・ライト(11、15、23、32、42、52):MSP-4050 ●ライト(12、16、25、32、42、54):MSP-4100 ●ライト/ミディアム(12.5、16.5、25.5、33.5、43.5、55):MSP-4150 ●ミディアム(13、17、26、35、45、56):MSP-4200 ●ブルーグラス(13、17、26、36、46、56):MSP-4250 ●ハイ・チューニング(10、12、8、13、17、25):MSP-HT10 ●12弦(10/10、14/14、23/10、30/12、39/18、47/27):MSP-4600
僕は普段、SPじゃないAcousticのフォスファー・ブロンズを使っていて、ブロンズよりも伸びやかな音という印象を持っていますが、このSPについても同じことが言えますね。3、4弦の音圧が少し引っ込む分、プレーン弦のシャリーンという倍音が引き立って、きれいで伸びやかな響きです。ストロークを弾いても、全体を包み込むような感じになりますね。周波数のレンジも広い感じで、フィンガーピッキングで低音弦のベース・ラインと高音弦のメロディの違いを明瞭に出すには、フォスファー・ブロンズのほうがコントロールしやすいでしょう。ブルージーなリードなら、個人的には3弦の音圧が出過ぎないフォスファー・ブロンズのほうが素直に弾けますね。
弦が劣化する要因である汗や汚れから弦を保護するため、SP Acoustic弦にエヴァリー・ミュージック・カンパニーが開発した技術で、Cleartoneブランド(現在はCleartone社として独立している)弦に採用されていた「トリートメント」処理を施した製品。エヴァリー・ミュージック・カンパニーは、1950年代から60年代にかけて一世を風靡したエヴァリー・ブラザーズの弟であるフィル・エヴァリーが設立した会社。Cleartoneは、ギターとギター音楽を知り尽したアーティストならではの技術というわけだ。
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【80/20 Bronze Lineup】
●エクストラ・ライト(10、14、23、30、39、47):MSP-6000 ●カスタム・ライト(11、15、23、32、42、52):MSP-6050 ●ライト(12、16、25、32、42、54):MSP-6100 ●ミディアム(13、17、26、35、45、56):MSP-6200
まず、SP Acousticとの比較で言うと、ブロンズもフォスファー・ブロンズも今回のように直接比較すれば違いははっきりわかりますが、目隠しテストだとわからないんじゃないでしょうか(笑)。以前のコーティング弦は、もっとベタッとした音でしたよね。トリートメントの影響で、Lifespanのほうがわずかに抑制が効いて、音量も少し小さい感じですが、それは必ずしも悪いことではなく、むしろ1~6弦の音がきれいに並んで、すごくバランス良く聴こえます。生音で弾くなら、マーティン独特のシャリーンという倍音は、むしろLifespanのほうが味わえる感じです。6本の弦全てに音圧があるというブロンズの特徴も、Lifespanのほうが明確に出ますね。
SP Lifespanブロンズと同様、SP Acousticフォスファー・ブロンズ弦にCleartoneの「トリートメント」処理を施した製品。弦や巻線に特殊な樹脂をコーティングするのではなく、完成した巻弦に樹脂を含侵させることで、巻弦の芯線と巻線の両方を保護しているのが特徴だ。同じ加工はプレーン弦にも施されているので、1~6弦の全ての寿命が長くなっている。
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【92/8 Phosphor Bronze Lineup】
●エクストラ・ライト(10、14、23、30、39、47):MSP-7000 ●カスタム・ライト(11、15、23、32、42、52):MSP-7050 ●ライト(12、16、25、32、42、54):MSP-7100 ●ミディアム(13、17、26、35、45、56):MSP-7200 ●12弦(10/10、14/14、23/10、30/12、39/18、47/27):MSP-7600
ブロンズと比べて中域が少し引っ込んだ音がするというフォスファー・ブロンズの特徴は、Lifespanのほうがはっきりと出る印象です。ブロンズとの音量差が小さくなっているせいかもしれません。あと、通常の弦を張ってから2時間ぐらい弾いて落ち着かせたような音が最初から出たり、弦がフレットに当たってビビった時の雑音がやや抑えられていたりするのも良いと思います。ポジションを移動した時に出るキュッ、キュッというフィンガー・ノイズも、目立ちにくくなっていますね。僕は全く気にしていませんが(笑)、レコーディングでは場合によってノイズの出た部分の音量を下げることもありますし、気になる人はLifespanのほうが良いでしょう。
ブロンズとフォスファー・ブロンズの音の違いは、むしろいちばん基本的なトラディショナル弦(Acousticシリーズ)のほうがわかりやすくて、ブロンズのほうが丸い感じなんです。フォスファー・ブロンズはドンシャリの感じで、僕はそこが気に入ってAcousticのフォスファー・ブロンズを使っているんですよ。それがSP弦だと、いちばん響く帯域に違いが出るという印象で、単純にフォスファー・ブロンズよりもブロンズのほうが大人しいというわけではないみたいですね。ブロンズが平らな台地のような周波数特性だとすると、フォスファー・ブロンズは中音域が少しくぼんだような特性で、3、4弦の音が少し大人しいという印象です。プレーン弦の“シャリーン”という倍音はフォスファー・ブロンズのほうがより引き立つ感じで、ブロンズの方はプレーン弦も含めた全体が締まった感じの音になりますね。こうして4種類弾き比べてみると、メーカーの意図とは別に、音の違いだけで選ぶのもアリだと思います。たとえば、響きの多い部屋で弾くなら、抑制の効いたLifespanのほうが扱いやすいかもしれません。あと、個人的に“ニール・ヤング弾き”と言っている、親指の付け根でミュートするストロークは、弦の暴れが抑え気味になるLifespanがやりやすいですね。
マーティンでは、これら4種類の他にも、ギターの種類や音色などに応じて様々なタイプの弦を用意している。もっとも基本的なAcousticのボールエンド部分にシルクを巻き付け、弦によるブリッジやブリッジ・プレートの摩耗を抑えたMarquis、SP Acousticの芯線を細くして柔軟性を高めるいっぽう、巻線を太くすることで同じゲージに仕上げたSP Flexible Core、Acousticの芯線と巻線の間にシルクを挟み、巻線にはクラシック・ギター弦と同様の銀メッキの銅を使用したSilk & Steel Folk、000C Nylonなどのガット・ギター用のClassical、Acousticのトラディショナルなフォスファー・ブロンズ弦にしなやかさを加えてベンド奏法をしやすくしたEric Clapton Signature、1930年代に製造されていた、モネルと呼ばれる銅とニッケルの合金を巻線に使用する弦を再現したRetroなどがそれである。さらには2017年の新製品として、柔軟で耐食性に優れたチタンを芯線、同じく耐食性の高いニッケルを巻線にそれぞれ使用し、プレーン弦にはクライオ処理を施したステンレスを使用した、Titanium Coreがラインナップに加わり、近日中に日本でも発売予定となっている。
また補足だが、今回はスタンダードなD-28に合わせてミディアム・ゲージで試奏したが、ギターのタイプによってはライト・ゲージ指定で、それよりもテンションの強いミディアム以上のゲージが適さないものもある。マーティンのギターの場合は、ギターの中に貼られたラベルにその旨が記されている。弦を選ぶ際には、この点にも注意すると良いだろう。
1月にアメリカで開催されたNAMMショー2017。マーティンももちろん出展し、様々なショー・モデル、ニュー・モデルを数多く展示していた。ブース内には弦専門のエリアもあり、マーティン弦のラインナップをずらりと展示していた。ここではその一部をご紹介しよう。
価格:¥1,900 (税別)
価格:¥2,100 (税別)
価格:オープン
価格:オープン
斎藤誠(さいとう・まこと)
1958年東京生まれ。青山学院大学在学中の1980年、西慎嗣にシングル曲「Don’t Worry Mama」を提供したのをきっかけに音楽界デビューを果たす。1983年にアルバム『LA-LA-LU』を発表し、シンガー・ソング・ライターとしてデビュー。ソロ・アーティストとしての活動はもちろん、サザンオールスターズのサポートギターをはじめ、数多くのトップ・アーティストの作品への楽曲提供やプロデュース活動、レコーディングも精力的に行なっている。2013年12枚目のオリジナル・フルアルバム『PARADISE SOUL』、2015年にはアルバム「Put Your Hands Together!斎藤誠の嬉し恥ずかしセルフカバー集」と「Put Your Hands Together!斎藤誠の幸せを呼ぶ洋楽カバー集」の2タイトル同時リリース。また、本人名義のライブ活動の他、マーティン・ギターの良質なアコースティック・サウンドを聴かせることを目的として開催されている“Rebirth Tour”のホスト役を長年に渡って務め、日本を代表するマーティン・ギタリストとしてもあまりにも有名。そのマーティン・サウンド、卓越したギター・プレイを堪能できる最新ライブ情報はこちらから!