AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Analogue Synthesizer
多彩な製品が続々とリリースされている近年のキーボード・シーン。個性豊かで魅力的な機種たちの登場に、心を躍らせている読者も多いのでは? 本特集は『キーボード・マガジン 2017年1月号 WINTER』に掲載されている“キーボード・バイヤーズ・ガイド2017”から一部を抜粋、注目機種をプロ・ミュージシャンによる試奏やレビューを通して4回に渡り紹介していきます。最終回のPart 4は、アナログ・シンセサイザーをフィーチャー。名機の構造やサウンドを踏襲し、現代的に蘇らせた復刻系アナログ・シンセサイザーと、名機の影響を受けつつも未来のシンセを形にしたモジュラー・アナログ・シンセサイザーをご紹介します。
あの伝説のアナログ・モノシンセ、Minimoog Model Dがついに復刻された。キース・エマーソンなどスーパーキーボーディストらのアドバイスも取り入れられ、モーグ博士の手によって1970年に生まれたこのシンセ、これがなければ現在のシンセはなかったと言っても過言ではない。1981年に生産中止となり、今なおビンテージ・シンセの代表機種として愛され続けている魅惑の逸品、その復刻ぶりやいかなるものか。
そもそもMinimoogとはこのModel Dを指すのだが、2002年にモーグ博士の遺作となったMinimoog Voyagerが発売されたので、それとの識別のため、1970年当時のプロトタイプA〜C型を経て製品化されたD型が今回の復刻機の名称となったと思われる。一見した限りでは、当時のMinimoog Model D(以下Minimoog)と見分けがつかず、“うそ、こんな新品みたいにキレイなMinimoogがまだあったのか!”“こんな上物60万は下らないんじゃ……?”とビックリしてしまうことだろう。よくよく見てみると若干スイッチやツマミが追加されているが、それでもまだ“おや、改造モノ?”などと思ってしまう。それもそのはず、本機で新たに追加された幾つかの新機能以外は、外観から内部回路に至るまでほぼオリジナルと同じなのだから。1台ずつハンドメイドで生産されるがゆえ、毎月台数限定での販売というこのMinimoog、気になる新機能から紹介したい。
Minimoogを熟知した人ならすぐに気が付くのが、当時のオリジナルModel D(以下オリジナル機)にはないピッチベンド上部のツマミ(追加LFOのRATE)や、パネル左部CONTROLLERSエリアのスイッチだろう。これらが新たに追加されたアナログLFOやモジュレーション関連のもの。オリジナル機では、ビブラートやグロウルをかけるにはVCOのオシレーター3をモジュレーション用に潰さねばならなかったが、今機でのLFOの追加により3つのオシレーターを音源としてフルに使える(もちろん従来の使用法も可)。追加LFOのRATEツマミは(隠れ機能的に)上下スイッチになっており、これで三角波と矩形波を選択できる。また、フィルター・エンベロープをピッチEGとして使用することも可能になっている。
鍵盤はMinimoog Voyager同様ベロシティ、アフタータッチに対応。非常に上質な鍵盤だ。ベロシティやアフタータッチはそのままでは本機の音源には効かないが、コントロール・パネル上部(OUTPUTやMIDI端子の並び)にある端子(標準ジャック)をケーブルでパッチングすることによって機能する。それぞれの効き具合はパッチング端子の隣にあるトリム・ツマミで調整できる。そしてもちろんMIDI端子(IN/OUT/THRU)搭載。
さて、肝心の音であるが、これはもう文句なくまさしくあのMinimoogの音。特にフィルターを少し閉じ気味にした太くて埃っぽい音は唯一無二である。そしてどうも……オリジナル機よりさらに音が厚いのだ。資料を見ると、ミキサー部に改良が施されており、独特の歪みによる倍音が増している模様。外部入力チャンネルのフィードバックを内部接続した機能も追加されており、極悪なオーバー・ロード・サウンドも出せる。アナログ・シンセ泣きどころのピッチも非常に安定しており、ライブで使うにも古いオリジナル機よりはるかに安心感がある。
もう惚れ惚れするほど美しい機能美、憧れのMinimoog。オリジナル機(中古)の、いわゆる“前期型”(音は太いが不安定?)、“後期型”(ピッチは安定しているが音に押しがなくなった?)、そして 今回の“復刻版”、今どれを選ぶ?と言われたら、サウンド、コンディション、価格、信頼性どれを取っても筆者は迷わずこの“復刻版”を選ぶだろう。少数生産ゆえ手に入れば……だが。
シンセサイザー界の重鎮、デイヴ・スミスはシーケンシャル・サーキット社で70〜80年代、アナログ・シンセサイザーの名機を数々発売し、その後デイヴ・スミス・インストゥルメンツ社を設立してアナログ・シンセProphetシリーズを現代の技術で進化させ発売してきた。2015年、それまでヤマハが所有していた“SEQUENTIAL”の名を譲り受け、そのSEQUENTIALの文字も入ったProphetとして発売されたのがProphet-6だ。ちょうど70年代、人気商品だったProphet-5の蘇り……いや、さらに進化させた製品と言える。
デザインも完全にProphet-5の流れを汲むもので、パネルを見ただけでもワクワクする。音源の特徴を見ていくと、内部はディスクリート回路のフルアナログ・シンセサイザーで6音ポリフォニック。Prophet-5にインスパイアされたアナログ回路で、フィルターは4Poleのローパス・フィルターに加え、2Poleのハイパス・フィルターも搭載する。もちろんProphetらしいサウンドを作り出すのに大きく貢献しているポリモジュレーション・セクションも装備している。
Prophet-5になかった機能としては、まずポリフォニックのステップ・シーケンサーが挙げられる。RECORDボタンを押して鍵盤を演奏していくだけで簡単にシーケンス・フレーズを作り上げることができる。休符やタイもボタンを使って入力可能だ。テンポはクロック・セクションで設定するのだが、タップ・テンポまたはツマミでテンポを指定した上で、2分音符から32分音符までのノート・バリューを変更できる。このクロックはモードが5種類、3オクターブ・レンジのアルペジエーターでも使用可能。そして、先述したハイパス・フィルターだが、ローパス・フィルターと全く同じツマミ構成でレゾナンス付き、エンベロープ、ベロシティ対応、キーボード・トラッキングが設定できる。さらに、ポリモジュレーションのデスティネーションにハイパス・フィルターを設定できるので、今までにないサウンドも作り出せそうだ。
高品質なデジタル・エフェクトも2系統搭載されている。BBDディレイ、デジタル・ディレイ、コーラス、フェイザー1〜3、リングモジュレーター、フランジャー1〜2を選択できる上、適切なパラメーターが2つとドライ/ウェットのミックスのツマミが用意されている。これとは別にアナログ・ディストーションを搭載しているので荒々しいサウンドにも威力を発揮する。そのほか、アナログ的なピッチの揺らぎを与えるスロップ・ツマミがあり、ユニゾン・モードで各オシレーターの音のズレ具合も調整可能だ。
プリセット音は500プログラム、中にはジョン・ボーエン氏が制作したProphet-5のオリジナル・プリセット・サウンドも再現されている。当時有名なアーティストが使用していたサウンドがきっと思い浮かぶだろう。なおユーザー・プリセットも500あり、合計1,000プログラムが記憶できる。
Prophet-5以上にツマミが多く搭載されているが、ツマミ自体は小さく、間隔も狭くレイアウトされているので実物はコンパクトでちょうどいいサイズにまとめられている。木製のサイド・パネルも装備、作りもしっかりしているのでビンテージ感と高級感を漂わせるが、手で持てる10kg以下の重さ。理想的な形と言えるだろう。鍵盤は気持ちのいいタッチだし、ホイール、ベンドもとても操作しやすい印象だ。入出力は一般的な出力に加え、USB、ローパス・フィルターのカットオフ用と、ボリューム用の2つのエクスプレッション・イン、サステイン/フットスイッチ・イン、シーケンサー・スタート/ストップ・スイッチ・インといった入力も用意されさまざまな操作が可能。また、もう1台のProphet-6やテーブルトップ音源のProphet-6 ModuleとのPoly Chain接続により12ボイスへ拡張することもできる。
決して安い価格ではないが、アナログ・シンセとして理想的で文句のつけようのない内容の1台だ。一生ものとして購入を夢見て、頑張っていつか手に入れたいと思える憧れの製品ではないだろうか。
マリオン・システムズ社からリリースされたTwo Voice Pro Synthesizer。オーバーハイムの生みの親トム・オーバーハイム氏自身が1975年発売の名機Two Voiceを現代に甦らせ、いくつかの機能や音作りへの可能性には大幅な進化が加えられている。とはいえ、トム氏はあくまでシンセサイザーの原音の良さと、ノブをいじりながらパフォーマンスするということを念頭に、全くブレを感じさせない見事な塩梅のアップデートを施しているのがポイント。完全アナログ回路による耳に張り付くようなサウンドと、シンセサイズ時のダイレクト感、演奏家やクリエーター目線の操作性の良さなど、これらすべての点において氏の理念が貫かれた1台であり近年のシンセの中で傑作機と言える。
サウンドを生み出す心臓部は1974年に出されたSEM(シンセサイザー・エキスパンダー・モジュール)をほぼオリジナルどおりに再現したSEM PRO2基。オリジナルと違うのは2つのVCAが追加されたことだ。もちろん現代版ならではのチューニングの精度の良さや鍵盤にモジュールが反応するスピードの速さなどオリジナルから格段と進化しているのだが、出音はアナログ特有のパワフルかつ極上の滑らかさで、決してバーチャルやデジアナ・ハイブリッドでは真似のできない真のアナログ・サウンドと言える。完全アナログ回路恐るべし。
Two Voice Pro Synthesizerの構成を見ていこう。上述のサウンド・モジュールSEMを2基(AとB)、ミニシーケンサー2基、ベロシティ、アフタータッチ(プレッシャー)対応の37鍵盤(ベロシティ、アフタータッチもノブで可変)、ミキサー的に使えるSEM A、BのボリュームとPAN設定ができるボリューム・セクション、SEM A・B別々にノブで用意されたポルタメントを搭載。加えて、独立したLFO、オクターブのトランスポーズ(上下2オクターブ、こちらもA、B別々に設定可)、ピッチベンドとモジュレーション・ホイール、鍵盤のベロシティ・カーブの設定やMIDIの設定を行うキーボード&MIDIセクションになっている。
SEM自体はVCO2基を持ち、それぞれノコギリ波と矩形波から選択、パルスワイズ可変で、VCFはハイパス、ローパス、バンドパス、ノッチ・フィルターを装備する。キレのあるフィルターでレゾナンスの効きも抜群。単体ではいたってシンプルなSEMだが、独立したSEM AとBの2基あるところがミソ。別々にサウンド・メイキングしたAとBをユニゾン、あるいはスプリット、さらには方向性の違うサウンド設定で2音ポリにしたりとさまざまな表現が可能。
また、最大16ポジションのノブでシーケンスを作れるミニシーケンサーも2基備えている。異なる2つのシーケンスでSEM A、Bを同時に走らせたり、AかBどちらかを鍵盤にアサインすればシーケンス・フレーズとともに鍵盤での演奏も可能だ。フラッシュ・メモリーにシーケンスの保存もでき、シーケンスを並べてソングとして保存もできる。シーケンサーはもちろんMIDIクロックに同期可能だ。
以上のように全体のモジュール構成もシンプルではあるが、それぞれのモジュールにミニジャックのパッチ・ポイントが用意されており、本機の中でのパッチングのみならず外部とのパッチングでその可能性は無限に広がる。まさにシンセサイザーは実験の場なのだと認識させてくれる。
さて最後に、本機を試奏してつくづく思うのは最上級のアナログ・サウンドは病みつきになるほど心地良いということ。極上サウンドを抜群の安定性で操ることがいかに快感であるか。プラス現代の音楽シーンにもマッチするスピード感やソリッドさも併せ持つ。やはり本機はただの復刻ではなく今だからこそ作り得たシンセなのだと実感させられた。アナログの良さとシンセサイザーのあるべき姿。トム氏からのメッセージが隅々まで詰まったプレミアムな1台である。
東海岸で生まれたモーグ、そして西海岸で誕生したブックラ/サージ/ワイアード。その対極に位置するもの同士の血統を継承しつつも、全く新しいどこにも属すことのない未来のサウンドを実現化させたメイク・ノイズ0-Coast(ノー・コースト)。メイク・ノイズ初となるコンパクトなテーブルトップタイプの0-Coastはパッチングの自由度に加え、さらにセミモジュール化を図ることでノー・パッチでのサウンド・クリエイトをも可能にしている。このコンパクト化はデスクトップ上だけではなく、可搬性を考えるツアー・ミュージシャンにとって最高のサイズ感と言えるだろう。まず驚かされるのが、その本体の薄さ。そして、バランス良く並んだユーザー・インターフェースの使い勝手を意識したデザイン。これにはモジュラー・シンセサイザーに興味のない音楽家も触ってみたい衝動にかられるであろう。またスティール製エンクロージャーも耐久性、そして演奏時の振動の面で非常に心強い。
鍵盤のない0-Coastを発音させるには3つの方法がある。まず1つはMIDI端子によるコントロール。そしてもちろんユーロラック・シリーズとの互換のあるCV/GATEによるコントロール。そしてもう1つ、自己発音によるドローンまで行うことができるのだ。
オシレーター・セクション(三角波とパルス波)では、大きなノブで大まかなレンジを動かし、下段に用意された小さいツマミでファイン・ピッチを操作することができる。そして音色加工セクションでは、カットオフとレゾナンスという概念を打ち破る“Overtone”と“Multiply”という機能が用意されている。周期セクションに関しては、言うことのないほどのレンジの幅を持ち、その回転速度をカラーLEDで確認することができる。そして最後にキレの良いエンベロープは4つのツマミからなるが、動作が非常にユニークにできている。“ON SET”はアタック、“SUSTAIN”はサステイン・レベル、そして“DECAY”はディレイ・タイムとリリース・タイムの両方の操作を兼ね備え、“EXP”はエンベロープ・カーブの形状を変えるという非常に珍しい仕様だ。
一見すると一般的なシンセのストラクチャーが並んでいるようだが、通常のアナログ・シンセサイザーをイメージして触ると度肝を抜かされることは間違いないだろう。そこにはメイク・ノイズがユーロラック・シーンで培ってきた膨大なオリジナル・センスが満載されている。予定調和を破壊する無限のサウンド・バリエーションはまさに未来のシンセサイザーと言えるだろう。
ランダムやVoltage MathなどのCVユーティリティ・セクションでは破壊的な変調を生成でき、ノイズ・ジェネレーターがなくともそれ以上の周期変調やランダム・セクションによる突き抜けたノイズ・サウンドを容易に作り出せる。パネル上の金色のラインは、内部結線のディスティネーションを示しており、例えばオシレーター基音はOvertoneに直結し、倍音を付加することができる。さらにはMultiplyを通せば複雑な波形変化を楽しめるのだ。
13出力、14入力パッチ・ポイントを使えば、さらなる自由度の高いオリジナル・サウンドを次々に生み出すことが可能だ。演奏面において、すべての操作子がパネル上に並んだ0-Coastは瞬時の音色変化に対応できるユーザー・インターフェースを実現しているが、もちろんプログラム・ページに入ればさまざまな内部設定をカスタマイズできる。例えばアルベジオのモードを変えられたり、2段階のレガート設定、MIDIラーン機能などあらゆる設定を調整可能である。
メイク・ノイズのモジュールと言えば、非常にオリジナリティの高い操作子名がプリントされているのが特徴。0-COASTについても同様で、それらの名前のとおりユニークで、縦横無尽、非常に幅の広い自由なシンセサイズが可能なとても楽しいシンセサイザーだ。
本記事はリットーミュージック刊『キーボード・マガジン 2017年1月号 WINTER』の特集「Keyboard Buyers Guide 2017」から一部抜粋して掲載しています。本誌記事では、ここでは紹介できなかった注目製品約40機種のカタログに加え、ヨコタ シンノスケ(キュウソネコカミ)、成田ハネダ(パスピエ)、Kan Sanoのスペシャル・インタビューも掲載。さらに付録CDには、ここで紹介した一部機種のデモ・サウンドも収録! ぜひ本誌を参考にして、理想のキーボードを見つけてください。
■特集:ミュージシャンにとって理想の鍵盤とは? 100人を超えるプロたちに聞く!
■Keyboard Buyers Guide 2017(CD連動)
■堀江博久のキーボーディスト考察:金澤ダイスケ(フジファブリック)
■特別企画:浅倉大介のSynthesizer Wonderland Special Edition
■インタビュー:冨田ラボ / 葉山拓亮(Tourbillon)/ ミッキー吉野
and more……
■キーボード・マガジン 2017年1月号 WINTERの購入はこちら!
■キーボード・マガジン最新号はこちら!
価格:¥460,000
価格:オープン
価格:¥424,074
価格:オープン