AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
High Grade Synthesizer
多彩な製品が続々とリリースされている近年のキーボード・シーン。個性豊かで魅力的な機種たちの登場に、心を躍らせている読者も多いのでは? 本特集は『キーボード・マガジン 2017年1月号 WINTER』に掲載されている“キーボード・バイヤーズ・ガイド2017”から一部を抜粋、注目機種をプロ・ミュージシャンによる試奏やレビューを通して4回に渡り紹介していきます。Part 3となる今回は、メーカー/開発者の技術の粋を結集したハイグレード・シンセサイザーにフォーカスして、各機種の機能とそのサウンドに迫ります。
ローランドSYSTEM-8は、全く新しいポリフォニック・シンセサイザー。美しいグリーンのLEDが示すように、AIRAシリーズの最新モデルでもある。ローランドのシンセサイザー技術の集大成とも言えるSYSTEM-8、さっそく詳しく見ていこう。
SYSTEM-8は、デジタル技術によってアナログ・シンセサイザーを再現したアナログ・モデリング・シンセサイザー。ローランド独自のACB技術で、極めて精密にアナログ・シンセの挙動を再現している。従来のアナログ・モデリングとは一線を画すクオリティなので、ぜひ実際に音を聴き、ツマミを動かしてみてほしい。
アナログ・シンセシスの音作りの出発点になるのが、オシレーター。ノコギリ波、矩形波、三角波といったアナログ基本波形に加えて、ローランドお家芸の1オシレーターで多数のオシレーターをユニゾン・デチューンした効果が得られるスーパー・ソウなども搭載。いずれも、ローランドらしい、明るくザクっとした質感、帯域の広い波形なのでさまざまなサウンドに加工できる。また、デジタル・シンセらしく、オシレーター波形自体の音色をCOLORツマミで調整できるのも良い。
さらに、波形バリエーションを2にすると、拡張波形を使用できる。COLORツマミによって、ノコギリ波にノイズを混入したり、FM変調をかけたり、デジタル演算による倍音の付加が行なえる。また、あいうえおの母音に変化できる波形や、TR-808のカウベルのような波形もあり、ほかの機種にはない音作りが楽しい。
オシレーター1と2は、これらの波形を使って、クロス/リング/シンク・モジュレーションが可能。可変幅が広く、ノイジーで攻撃的なサウンドも作成できる。FM波形でクロス・モジュレーションをかけるといった大胆なセッティングも可能だ。これらに併せて、シンプルなサブオシレーターも装備。サイン波、または三角波を、オクターブ下や2オクターブ下に足すだけでなく、同オクターブにも設定でき、さまざまな方法でサウンドの重心を下げられる。
アナログ・タイプのシンセシスのキーになるのは、なんといってもフィルター。SYSTEM-8では、ローパスとハイパス・フィルターに切り替えられる強力なフィルターを装備。いずれも3種類のスロープを装備する。明るいサウンドの-12db/octと、鋭い切れ味の-24db/octだけでなく、その中間的な-18db/octがユニークで使い勝手もいい。カットオフ・ツマミを操作したときの変化はとてもスムーズで高級アナログ・シンセと遜色ない。またレゾナンスも、気持ち良く発振し、ツマミを回すに従って、いい感じの歪みが加わり、音やせが少なく、迫力のあるスイープ・サウンドが出せる。フィルターにもバリエーション2があり、さまざまな特性のサイドバンド・フィルターに切り替えられる。サイドバンド・フィルターは、同社のV-Synthにも搭載されていたフィルターで、久々の復活。といっても、ローパス・フィルターなどと併用するのが前提のV-Synthとは効き味が異なり、これだけでフランジャーのような強烈な効果が得られる。これらのフィルターとは別に、固定ハイパス・フィルターとトーン・コントロールを装備。簡単な音色の調節に便利だ。
フィルターとアンプには、それぞれ専用のADSRタイプのエンベロープを、さらにピッチ(オシレーター)にもADタイプのエンベロープを装備する。エンベロープの反応は十分早く、すべてをゼロにすると、アナログ・シンセ同様にクリック音が発生する。また、それぞれLFOによるモジュレーションも可能。LFOも三角波や矩形波、ランダム波といった基本波形のほか、バリエーション2と3も装備。定期的に速度が変わる波形など複雑な変化が可能だ。
SYSTEM-8は、MIDIのほか、CV/Gate OUT端子も装備。これを使って、同社のSYSTEM-500をはじめ、さまざまなモジュラー・シンセサイザーをコントロールできる。また外部インプットも装備し、ボコーダー機能を使って、声や外部オーディオ信号をユニークなサウンドに変化させることも可能だ。
また、既存製品のSYSTEM-1/1mと同様に、USB端子を使ってパソコンと接続し、同社から発売されているソフトウエア・シンセサイザーを使用することができる(現状SYSTEM-8には未対応だが、SH-101やPromarsなどがすでに発売されており、順次SYSTEM-8に対応する予定とのこと)。面白いのはそれらのソフト・シンセをSYSTEM-8と共有しライブに持ち出すこともできる点で、これをローランドではPlug-Outと名付けている。Plug-Outを使うと、SYSTEM-8をほかのシンセサイザーに変身させることができる。SYSTEM-8では、なんと同社の歴史的名機JUPITER-8がプリロード搭載されている。しかも、バージョン・アップにてJUNO-106もプリロード搭載されることがアナウンスされている。JUPITER-8への変更は、ボタン1つで簡単に行なえる。その際、使用可能なツマミだけがLED点灯し、無効なツマミは消灯するのが分かりやすい。
筆者は個人的にも、JUPITER-8をはじめ歴代のモデルを愛用していて、思い入れも深いのだが、このPlug-Outは本当に良くできていて感心した。特徴である滲んだような高域や、ふくらみのある低域、さらにエンベロープやモジュレーションの挙動もよく再現されている。フィルターのエンベロープ・モジュレーションの可変域の狭さまで再現されているのが、なんともマニアック。また、オリジナルにはない、-18db/octの設定ができるのも好印象だ。なお、SYSTEM-8では最大2パートのレイヤーやスプリットが可能。JUPITER-8とオリジナルSYSTEM-8のサウンドを組み合わせて用いることもできる。
アウトプットには、3系統のエフェクトを装備し、JUPITER-8でも使用できる。ディストーションやファズ、フェイザーといったストンプ系、コーラスとしても使用できるディレイ系、ルームやホールなど定番を装備したリバーブ系と網羅しているので、ライブなどエフェクト込みのサウンド・メイキングに便利だ。また、アルペジエーターとは別に、ステップ・シーケンサーも装備、キレの良いエンベロープ操作と組み合わせるととても気持ちいい。音程だけでなく、音色パラメーターのシーケンスも可能、逆走やランダムなど変化に富んだ再生方法も搭載しており、さまざまなパフォーマンスで威力を発揮するだろう。
SYSTEM-8は、すべての音色パラメーターにツマミが割り当てられているので、とても操作がしやすい。しかも、ツマミに対する変化は滑らかで、ローランドらしく素直な動作が特長。音作りがしやすく、狙ったサウンドにまっすぐにたどり着ける。音色は十分に厚みがあり、ソリッドな魅力はこの機種ならでは、ビンテージの名機に変身するのも楽しい。初心者から上級者まで、シンセサイザーが欲しい人には広くお薦めできる機種だ。
(高山博)
コンセプトからして新しい! MONTAGE(モンタージュ)は、まさに満を持して登場した“真打ち”と呼ばれるにふさわしい、ヤマハ・シンセサイザーの新しいフラッグシップ・モデルだ。2001年に初代MOTIFが登場して以来の、ゼロから開発された超高音質+超高機能マシンである。
その音源システムはMotion Control Synthesis Engineと名付けられ、最新のサンプリング音源であるAWM2と、進化した純粋デジタル・シンセシス方式であるFM-Xによるハイブリッド音源、そしてそれらをダイナミックに変調するMotion Controlを組み合わせたものだ。基本的にサンプリングした波形を再生する仕組みのPCM音源メインのシンセサイザーでは、時間軸に沿って音色を変化させていくのにも限界があるわけだが、FM-X音源とMotion Controlを搭載したMONTAGEは逆にそのコントロールを徹底させ、それによって得られる“多次元の音変化” “リズミカルな音変化”をコンセプトにしているのだ。
電源を入れると中央の巨大なタッチパネル・ディスプレイと、その左横で青く美しく点滅する巨大な“Super Knob(スーパーノブ)”がまず目に入る。単音でもコードでもいいので片手で鍵盤を弾きつつ、このSuper Knobを回してみると、その左側の8つのロータリーノブも(それぞれの最大値と最小値の間を)連動して動いていることが、ノブ周辺のステップLEDにより表示され、音色がスムーズかつダイナミックに変化していく。
そして位相や倍音の再現まで考慮し、練りに練られた最上のオーディオ出力回路“Pure Analog Circuit”から得られるサウンドは、中高域の抜けがとても良くコントラストが効いた印象で、非常に気持ちがいい。複合的な音色のプリセットも多く、現代のポップスやEDM、R&B、アンビエント・ハウスなど、弾いているとどんどんイメージが広がっていくのだ。
このダイナミックかつスムーズなサウンドを可能にしている音源システムを見てみよう。まず現代の主流と言えるサンプリング音源系のAWM2。ユニゾンさせてコードを弾いても余裕の128音ポリだ。心臓部にあるのはこの機種のために大部分を新録音した5.67GBのウェーブ・メモリー。この大容量を利用して、リアルタイム・コントロールを受けたときに従来以上にスムーズに音色変化できるよう、強弱高低のさまざまなレベルで細かくサンプリング。ヤマハ最高峰のグランド・ピアノCFXも丹念にサンプリングされている。加えてユーザー・メモリーも別に1.75GB用意されているので、新規の音色を加えたり、生演奏の長尺トラックを入れたり、それを後述するEnvelope FollowerによってMotion Controlの変調元としたりと、さまざまな使い方が考えられる。
そしてAWM2と並ぶヤマハ伝統のFM-X音源。FM音源においては通常のオシレーター(発振器、VCOなどとも呼ぶ)にあたるものを“オペレーター”と呼び、その接続や組み合わせ方を“アルゴリズム”と呼ぶ。かつての名機DX7は6オペレーター/32アルゴリズムだったが、最新のMONTAGEは8オペレーター/88アルゴリズムで、これは“究極の進化”と呼ばれたFM音源モジュールFS1Rと一緒だ。しかもMONTAGEは(FS1Rも)DX7などとは違って1オペレーターの中だけでも基本波形を変えていくことができるので、その音作りの可能性(より細やかな設定や、プレイヤーやプログラマーの音の作り方の個性を生かしていけるということでもある)と言ったら比較にならないほどだろう。
そして何よりFM-X音源は、楽器などの現実音のリアルさではAWM2に一歩譲るものの、楽音的な整数次倍音や、ノイジーな非整数次倍音をゼロから生み出していく音源方式なので、原理的にその音色変化は継ぎ目がなく非常にスムーズなものとなる。ヤマハ製のクオリティが高い鍵盤によるタッチ・コントロールや、MONTAGEのMotion Controlとの相性の良さは抜群で、まさに生き生きとした音楽表現が可能になるのだ。音色エディットが難しいとも言われた音源だが、初期FM音源とは違ってフィルターやエフェクターも後段に装備されているし、豊富なプリセットもあり非常に使いやすいものに仕上がっている。
そしてこのハイブリッドな音源をリアルタイムでコントロールして、有機的なサウンドとするのがSuper Knob、Motion Sequence、Envelope Followerからなる“Motion Control”だ。Super Knobは前述のとおり、8つのコントロールノブ、8つ以上の複数パラメーターを一度に動かすものだ。複数音色のクロスフェード、ストリングス・パッドなどのフェードイン、パンポットのド派手な移動、エフェクトの深さ……もうなんでもござれなのである(笑)。右手で鍵盤を弾いているときに左手で回しやすい位置にあるが、両手がふさがっているときはフット・コントローラーで同じ効果を得ることもできる。
Motion Sequenceは言わばコントロール・データ用16ステップ・シーケンス・パターンのことだ。自動再生用の同時8トラックとSuper Knobによる手動用1トラックが使用でき、各トラックには曲のシーンに合わせた8パターンを用意しておき切り替えていくことができる。そして各パターンは最大16ステップからなるわけだが、各ステップ内のデータの変化カーブをプリセット18種類(加えてユーザーバンクから32種類、ライブラリー追加時には8種類)から設定することができる。
Envelope Followerは任意のパートの出力によって別のパートのパラメーターを変調する機能で、内部16パート以外にA/Dインプットからのオーディオ信号も使用できるので、生ドラムなどをコントロール・ソースとすることも可能だろう。
多機能なエフェクトはこのクラスのシンセサイザーのお家芸になっているとも言えそうだが、MONTAGEにはビンテージ・エフェクトのモデリングであるVCMエフェクトに加えて、Beat RepeatやVinyl Breakなどの、“音の動き”をさらに効果的に演出できる新エフェクトや、EDMなど用のサイドチェイン効果をもたらすVCM Compressor 376などが搭載されていて、最新のサウンドメイクが可能になっている。
高品位な鍵盤や、ライブ用に音色をピックアップしたリストから一発でアクセスできるLIVE SET機能、音色チェンジ時に音切れしないSSS(Seamless Sound Switching)機能などもライブ演奏時にはとても嬉しい機能だ。内蔵USBオーディオ・インターフェース(24ビット/44.1kHz時、ステレオ16ch送信、ステレオ3ch受信)はMacやPCだけではなくiOSデバイスとも送受信できるし、これら外部機器とはUSB(MIDI)接続で16パート・マルチ音源としてコントロールできる。ヤマハ歴代シンセとの互換性も高いので、買い替えにも非常に適しているのではないだろうか。
リアル・アナログ・シンセサイザーはその特徴的な音色もさることながら、スムーズな音色変化やそのパラメーターの自由さが魅力的で、近年に新製品や復刻版が続々とリリースされているのはキーボード・プレイヤーにとって歓迎すべき状況である。しかし、MONTAGEはそれ以上の多彩な音色や、複合音色のスムーズでダイナミックな音変化、そして曲やプレイに合わせやすいコントロール性能の徹底的な追求で、多くの場面でリアル・アナログを凌駕する可能性さえ持つ。現代の新たなドリーム・マシンの登場と言えるだろう。
(堀越昭宏)
デイヴ・スミス・インストゥルメンツのオーバーハイムOB-6(冒頭からややこしいが)。筆者が今年最も気になっていた楽器である。デイヴ・スミスと言えば、言わずと知れたシーケンシャル・サーキットProphet-5の生みの親。最近ではロジャー・リンと共同でリズム・マシン“Tempest”を開発したり、Prophet-6の発表に際しヤマハが所持していた“SEQUENTIAL”の商標を返してもらったりと、シンセサイザー・マニアの心を揺さぶる話が相次いでいたが、ここへ来てなんとトム・オーバーハイムとコラボレート!
オリジナルSEMの回路をベースとしたアナログのポリフォニック・シンセを現代に蘇らせる、という話を聞いただけでワクワクするが、いざ実機を目の前にすると、サイドのウッド・ボード、パネルに引かれたブルーのストライプ、ツマミのパラメーターに書かれたレタリングのフォントまでがオリジナルOB-Xa/OB-8を思わせ、ベテランの涙腺を刺激する。さらに、NAMMショー現地に行った知り合いの楽器店スタッフさんから“アレは良いですよ〜!”と聞かされており、じっくり試す機会を待っていたが、その甲斐は充分あった。
アナログ・シンセサイザーとしては非常に多機能で、そのすべてに触れるほどの余裕はないのだが、ざっと構成を説明しておくと6ボイスのリアル・アナログ(エフェクトはデジタル2系統)・ポリフォニック・シンセサイザーで、49鍵、メモリーは1,000プログラム(うち500は書き換え不可のプリセット)。ポリフォニック・シーケンサー、アルペジエーターを搭載する。そしてベロシティ、アフタータッチに対応。もちろんMIDIにもフル対応、現代のシンセサイザーとして全く死角のない構成になっている。また、もう1台のOB-6やテーブルトップ音源のOB-6 ModuleとのPoly Chain接続により12ボイスへ拡張が可能。
2VCO、1VCF、1VCA、2EGという非常に王道な成り立ちだが、2つのVCOは波形の連続可変、シンク、パルスワイズなど豊富なパラメーターを持ち、OSC2は鍵盤コントロールと切り離すこともできる。また、別にデチューンのセクションがあり、ちょっとした揺らぎから完全な調子っ外れまで自由自在に設定可能。ちなみにオシレーターは大変安定しており、電源を入れてしばらくしてからキャリブレーション(いわゆるオートチューン。環境の温度とかも学習するらしい!30秒ほどかかる)操作を行なっておけば、全くもって狂わない。へそ曲がりなアナログ・マニアには“らしくないね〜”と憎まれ口を叩かれてしまいそうだ。また、オシレーターとは関係ないが、Pan Spread機能を搭載しており、ゼロではモノラル音場、広げていくとトリガーする度に左右交互に定位するようにステレオ感が強くなる。広がりのあるパッドなどにとても有効。これはMatrix12を思い出させる。
フィルター・セクションは、何と言ってもオーバーハイムの伝家の宝刀、ノッチ・フィルターの存在が光る。ノッチ・フィルターはあまり馴染みのない人も多いと思うが、カットオフ周波数近辺をカットするフィルター。レゾナンスを上げていけば当然カットする谷間が急な傾斜になって、クセの強い音色になる。エンベロープを効かせて動かすと、ほかのシンセではちょっと真似のできない表情を出すことができる。また、そのフィルターのモードもローパスからノッチ・フィルターを経てハイパスに至る連続可変になっていて、特性を微妙に調整できるのもSEM譲り。またバンドパスも搭載しており、こちらはボタン・スイッチ1つでバンドパス・モードになる。
変調のメインになるLFOセクションだが、波形の多彩さ(サイン、正・逆ノコギリ、矩形、ランダム、さらにランダムを選んで周波数を最大にするとホワイト・ノイズになる!)、ルーティングの分かりやすさはさすがといった感じ。ほかのシンセと波形は大して変わらないはずなのに、なぜかオーバーハイムだと“ユルユル”とか“ウルウル”という微妙なニュアンスがサマになるのが不思議と言えば不思議だ。また、Xモジュレーションのセクションがあり、フィルター用のEGとVCO2をソースにしてさまざまな変調をかけることができる。
シーケンサーは、ステップ入力によるシンプルなもの。もちろん鍵盤によるプレイと併用もできるので、ちょっとしたリフやベース・ラインの打ち込みでパフォーマンスの幅を出すことができるだろう。ただ、アルペジエーターとの同時使用は不可。
また、ポリフォニックのアナログ・シンセサイザーとして非常に地味だがキチンとしているなと唸らされた点が2つ。1つは、ボイスのアサインが好みのタイプにできること。低音優先、高音優先、そして後着優先の3タイプがそれぞれシングル・トリガー/マルチ・トリガーで選べる。つまり6タイプのトリガーが好みに応じて設定できるのだ。そしてもう1つは、パネルのツマミ、つまりポットの位置をどうパラメーターに反映させるかのモードを3つ選べるようになっている点。これはメモリーから呼び出した音色をエディットするときはちょっと問題になるのだが、ここまできめ細かい設定ができるのは楽器作りに対する真摯な姿勢を思わせて感慨深いものがある。
エフェクトにも触れておく。2系統を1つずつ呼び出して、タイプ/ミックス、それに主要パラメーターを2つエンコード/デコードできるというだけの非常にシンプルなものだが、よく考えられていて大変使いやすい。また、表示も液晶ではなく7セグ3桁の赤色LEDなのが逆に分かりやすく、暗いステージでも全く問題ない。内容はコーラス、フェイザー、フランジャーなどの変調系からアナログ/デジタル・ディレイ、リバーブ、ディストーションからリング・モジュレーターに至るまで多彩だが、パラメーターの数が絞られているのでとてもイージーかつスピーディーにエディットできる。トータルのオン/オフ・スイッチも付いているので、一気にバイパスしてピュアなアナログらしい響きを味わうのも容易だ。
とにかく、現代のシンセサイザーとして全く恥ずかしくない機能と安定性、それと本物のアナログの音楽的響き、温かみを見事に両立しているという点でお見事だ。4オクターブしかないのを嘆く人もいたが、個人的にはこのサイズを良しとしたい。軽さも魅力だからだ。同門のProphet-6とどちらを選ぶかは好みの分かれるところだろう。月並みな言葉ではあるがシンク/リードのProphetに対してパッド/ブラスのオーバーハイムという色合いの違いはあるかもしれない。決してその逆が不得意ということでもないのだが……。
今回、自宅に届いて喜んでイジり倒しながらSNSでチラ見せしたら、周りのプロの鍵盤奏者の反応が大きくてちょっとびっくり。実は今1番気になってる、欲しい、という話が多く聞かれた。みんな良いものは分かるんだなぁと思う。さらに、本機をお借りしてる間にFLYING KIDSデビュー前に並行して活動していたバンドの30年ぶりの同窓会セッションの場に持ち出したのだが、素晴らしい空気感と彩りをバンド・サウンドに見事に添えてくれ、メンバー一同から絶賛と羨望の嵐だったことを付け加えておこう。
(飯野竜彦)
本記事はリットーミュージック刊『キーボード・マガジン 2017年1月号 WINTER』の特集「Keyboard Buyers Guide 2017」から一部抜粋して掲載しています。本誌記事では、ここでは紹介できなかった注目製品約40機種のカタログに加え、ヨコタ シンノスケ(キュウソネコカミ)、成田ハネダ(パスピエ)、Kan Sanoのスペシャル・インタビューも掲載。さらに付録CDには、ここで紹介した一部機種のデモ・サウンドも収録! ぜひ本誌を参考にして、理想のキーボードを見つけてください。
■特集:ミュージシャンにとって理想の鍵盤とは? 100人を超えるプロたちに聞く!
■Keyboard Buyers Guide 2017(CD連動)
■堀江博久のキーボーディスト考察:金澤ダイスケ(フジファブリック)
■特別企画:浅倉大介のSynthesizer Wonderland Special Edition
■インタビュー:冨田ラボ / 葉山拓亮(Tourbillon)/ ミッキー吉野
and more……
■キーボード・マガジン 2017年1月号 WINTERの購入はこちら!
■キーボード・マガジン最新号はこちら!
価格:オープン
価格:オープン
価格:オープン