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- 2024/11/16
ローズウッド楽器
楽器に使われる木を“トーンウッド”と呼びます、今さらですが。それらは長年にわたって中南米やアジア、アフリカなど世界中で伐採され湯水のように消費されてきました。おかげで多くの種が絶滅の危機に瀕しているのはよく知られたところです。代替材と呼ばれた種でさえ今や貴重な存在に。今、私たちとしては消費するだけでなく、なんらかのアクションを起こす必要がある時とも言えます。そこでひらめきました。国内でトーンウッドを育ててみよう! それが可能か否かの答えが出るのは世代を超えてずいぶん先のことになりそうですが、決して夢物語ではありません。そうです、話題のやばいヤツでなく、トーンウッドを自ら育ててみましょう!
2016年9月24日(土)から10月4日(火)まで、ヨハネスブルグ(
つまり、世界中に約150種以上存在するツルサイカチ属 Dalbergia 全体ということは、これでローズウッドすべてが取引制限下におかれたということです。 もっとも、附属書Ⅱというのは将来にわたって資源の永続性をキープするための国際間の規制ですから、今すぐその使用や取引自体を禁止するものではありません。必要書類を揃えれば国際取引も可能ですし、既に国内に存在する流通在庫に対しては規制の対象外です。なお、本決定の効力が生ずるのは2017年1月2日(月)とのこと。
ただ、心配なのは許可証等書類取得の煩雑さを避けるため国際間取引が敬遠され、縮小すると、一気に需給バランスが崩れ価格高騰を招く可能性があることです。
ツルサイカチ属 Dalbergia のうち規制対象となる主な楽器関連材(従来からの規制材も含む)
Dalbergia nigra 通称:ブラジリアン・ローズウッド、ハカランダ、ジャカランダ
Dalbergia latifolia 通称:イースト・インディアン・ローズウッド、ソノケリン、インドネシア・ローズウッド
Dalbergia spruceana 通称:アマゾン・ローズウッド
Dalbergia cearensis 通称:キングウッド
Dalbergia decipularis 通称:チューリップウッド
Dalbergia frutescens 通称:ブラジリアン・チューリップウッド
Dalbergia stevensonii 通称:ホンジュラス・ローズウッド、ニュー・ハカランダ
Dalbergia retusa 通称:ココボロ、サザン・アメリカン・ローズウッド
Dalbergia tucurensis 通称:ユカタン・ローズウッド、パナマ・ローズウッド、ニカラグアン・ローズウッド
Dalbergia melanoxylon 通称:アフリカン・ブラックウッド、グラナディラ
Dalbergia baronii 通称:マダガスカル・ローズウッド、パリサンダー
Dalbergia maritima 通称:ボア・ド・ローズ、マダガスカル・ローズウッド
Dalbergia sissoo 通称:ノースインディアン・ローズウッド
Dalbergia oliveri 通称:ビルマ・ローズウッド、手違紫檀、チンチャン
Dalbergia cochinchinensis 通称:本紫檀
Dalbergia cultrata 通称:カムピー・ローズウッド、ラオス・ローズウッド、ビルマ・ブラックウッド、インダイク
ワシントン条約とは資源が限られた植物や動物たちを守るための国際間のお約束であり、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」というのが正式名です。楽器材にとっても、この条約により多くの樹種が国際間の流通を規制し、継続的な取引が続くよう守られています。今では世界162ヵ国が批准し、種ごとの喫緊レベルに応じてIからⅢまで分類分けされ附属書として記されています。その基準と規制内容は以下のとおり。
■附属書Ⅰ
◎記載基準
・絶滅のおそれのある種で取引による影響を受けている又は受けるおそれのあるもの
◎規制内容
・学術研究を目的とした取引は可能
・輸出国・輸入国双方の許可書が必要
◎対象種
ブラジリアン・ローズウッド、アレルセなど
■附属書Ⅱ
◎記載基準
・現在は必ずしも絶滅のおそれはないが、取引を規制しなければ絶滅のおそれのあるもの
◎規制内容
・商業目的の取引は可能
・輸出国政府の発行する輸出許可書等が必要
◎対象種
ホンジュラス・マホガニー、キューバン・マホガニー、ホンジュラス・ローズウッド、ココボロ・ローズウッド、紫檀など
■附属書Ⅲ
◎記載基準
・締約国が自国内の保護のため、他の締約国
・地域の協力を必要とするもの
◎規制内容
・商業目的の取引は可能
・輸出国政府の発行する輸出許可書又は原産地証明書等が必要
にわかにざわつき始めたトーンウッド業界ですが、資源枯渇を見据えていち早く行動を起こした人物がいました。滋賀県湖南市のMTプラント竹内雅人氏です。氏は現在、マホガニーからローズウッド、スプルース類まで多種にわたるトーンウッド種子を保有され、それらの栽培を試みています。本格的な冬の訪れを前に、熱い話を聞くことができました。
FW トーンウッドを種から育て始めたのはいつ頃ですか、またそのきっかけは?
MT きっかけは2000年頃に近所の花屋さんで、ジャカランダを売っているのを見て驚き、500円くらいで買ってきたことです。ネットで検索したら、当時は観賞木のジャカランダがブラジリアン・ローズウッドです、という誤情報が氾濫していました。感動しましたね500円! 熱帯樹とかよくわからず庭で越冬させて枯らせてしまいましたが、あの時の興奮というか、ホンジュラス・マホガニーも欲しいなあ、などと考えているうちに、海外の種子販売業者を探しているとココボロやらキューバンやら欲しいのがどんどん出てきて、ええ!? 普通に売ってるじゃん!って感じでどんどんのめり込んでしまい、京都の国立図書館にも何度も行って、トーンウッドの学名を片っ端からコピーして研究しました。実際に輸入して種まきをはじめたのは2004年ですね。ホンジュラス・マホガニー、キューバン・マホガニー、ココボロ、ハワイアン・コアの種子を輸入して種まきをしました。
FW トーンウッド栽培に関して留意する点は?
MT 普通の観葉植物と特に違う点があるとするならば、暖地で大きな鉢に植え替えると思ったより背が高くなります。ついつい大きな木になって欲しいと願うことで、上にヒョロヒョロと伸ばしてしまい、結果支柱に頼らないと自立できない状態になって、何かのショックで折れたりしてと……こまめに剪定をして幹を太らせることをオススメしますね。
その他は普通の熱帯植物と同じになりますが、春~秋の直射日光に0〜1歳苗は弱いです。特にDalbergia属の苗の葉にうっすらと黒い斑点のようなモノが出てきたら、早めに半日陰へ移してあげてください。冬場の注意点は都道府県、または栽培環境によりけりですが、寒い環境でしたらまず根が休眠しているので肥料を与えないでください。肥料焼けを起こすと枯れる可能性が高いです。また冬場は水遣りも控えたほうが良いのですが、葉や苗全体が乾燥しているようでしたら葉水(温水が理想的)をしてあげるだけで元気になります。
逆の話になりますが、冬場がやや温暖で湿度が高い環境でしたらカビに注意してください。苗や葉に綿のようなものがついていたら間違いなくカビです。ホームセンターに数百円で水溶性防カビ剤がありますので、そちらを霧吹きの水に溶かしてかければカビを除去できます。1袋に粉がど~んと入っているタイプはオトク用ですが、趣味で20鉢前後を育てられる方でしたら10包み300円ほどのタイプで数年使えると思います。
FW 種の入手で苦労する(した)ことは?
MT 発芽しない種子が混入していることはしょっちゅうあります。特にI国とC国の業者には泣かされますね。発芽しない種子を送ってくる業者の中には、過去に新鮮な種子を買ったことがある業者さんまで混じっておりますので油断ならないです。もしかして不安定化している世界情勢も関係しているのかもしれません。その他では、交雑マホガニーの種子をキューバン・マホガニーの種子と称して販売する業者がいることでしょうか。彼らが単に無知なのか、それとも悪意ある無責任なのかはわかりませんが、この経験からほかの品種でも初めて入手する種子の場合は、発芽後に苗を海外データベースの写真と比較して本物か判断するようになりました。
他には以前存在した品種が今は扱っていないケースですね。黒檀などは種子まで流通が減りました、15年前でしたら本黒檀(Diospyros ebenum)やガボン・エボニー(Diospyros crassiflora)も売っている業者があったのですが、当時予算や時間の制約上2〜3年先でもいいや、と思っていたらどこを探しても業者すら見つからない状態になってしまいました。現在扱っている品種の中でそういう品種があるとしたらインダイクですね。インダイクは偶然業者を見つけましたが、何度メールを出しても返信を頂けませんでした。やむなくその国の輸入代行業者さんを通して購入しましたが、今は代行業者さんのページがなくなっております。今後7~8年は取り扱えるだけの種子のストックがありますが、それまでの間にまた入手できるかどうかもわからない状態です。
FW すでに地植えされているものはありますか? またその状況は?
MT 庭にあるハワイアン・コアは2004年の秋に生まれた苗です、種子が欲しいので開花させるためにこまめに剪定をしており高さは2.5mほどでしょうか? 幹の太さはモップの柄と同じくらいです。他にはホンジュラス・マホガニー、キューバン・マホガニー、インディアン・ローズウッド、ココボロ、カラマンドル・エボニーなども地植えをしたことがあります。しかし当時は知識不足で地植えの苗の周囲にハウスパイプを組み立て、一重のビニールハウスにして越冬させましたが、ハワイアン・コア以外はすべて落葉して枯れてしまいました。
FW これから育ててみたい種はありますか?
MT ローズウッド類ではDalbergia sissoo(ノースインディアン・ローズウッド)ですね、紫檀類でありながら亜熱帯域にも生息している品種なので、日本の気候でもいけるのではないかと思っております。音色もハカランダのような煌びやかな音とネット上のどこかで書いてあったのを見たことがあるので、一番有望な品種ではないかと期待しております。あとは、エレキ関連の品種や、冬に強い品種ですね。オールシーズン販売したいので、メイプルやアッシュ、アルダー、ウォルナットもチャレンジしていきたいと思っています。
FW トーンウッドを国内で生産、供給できる可能性は?
MT 最低気温が0度以下にならない地域は、当方が扱う熱帯樹の全品種の栽培が可能だと思います。47都道府県中33都府県が該当しておりますので、その中で年間平均気温が暖かい順に有望でしょう。最初の数年間は、鉢植えにて室内で越冬させてあげて下さい。大きくなればなるほど寒さには強くなりますので、地植えの成功率も高まります。また、0度以下になる地域でも、積雪状態が継続する地域でなければ、木の根もとの周囲に敷き藁(根を冷やさないために行ないます)や2重被服(ハウス用フィルムを2層に覆って空気の層を作り、外側の空気の層が寒い外気温を遮断する役割を果たして内側の層の空気を暖かく保たせる)のような寒さ対策をすれば越冬可能かもしれません。木が大きくなるほどに耐寒性がついて参りますので、徐々に手間がかからなくなると思います。
私の近所でも冬場に寒冷紗で覆われた木や、幹に不織布が撒きつけてある木を見かけます。こういった手間は熱帯樹全般に必要なことであり、トーンウッドに限定されたことではありません。今後も有望な品種の地植え試験を実施して適種を見つけ出したいと思っています。現時点ではコアは可能性が高いと思います。同じ品種を栽培した場合、熱帯産よりも冬がある地域産の方が、引き締まった良材が産出されるそうですので、日本産のトーンウッドは収穫まで時間はかかると思いますが、十分期待できると思います。
FW 木フェチの皆さんにメッセージをお願いします。
MT ここ数十年で日本国内の平均気温は1度以上上昇しております。枯渇する楽器用の木材を日本で自給する夢、これにはより多くの方の情熱が必要だと思います。私はすでに多くの情熱を感じていますので、いつか成し得るであろうと確信しております。私が露天で売っている時に「こんなの売ってるの!」と目を輝かせるお客様がおられます。その感動の表情を毎回見るのが私の幸せであるのと同時に、今の私も初めてジャカランダの苗を見てはしゃぎ、感動した頃の延長上にいるような気がします。私もここに至るまでにたくさんの失敗をして参りましたが、今でも私を突き動かす原動力はそこにあると思います。
当店のお客様方より、多くの熱いメッセージをいただいております。鉢植えで一生かわいがっていきたいという楽器ファンの方、自宅にトーンウッドの森を作りたいという方、プレイヤーや製作家の夢をあきらめた方が苗を見て久々に若い頃を思い出し是非庭に植えてみたいなどなど、夢をもって育てたいとお考えの方々からたくさんの想いを教えていただきました。
今はまだ、私たちのやっていることは小さな一歩に過ぎませんが、多くの方の情熱がいくつも集まり、年月を重ねることによって、いつか○○県産マホガニーや○○県産グラナディラで作られた楽器が、お店に並ぶ時代が来る予感がします。生きてそれらを見ることができるかどうかはわかりませんが(笑)。
ご存知、キング・オブ・ローズウッド。1960年代まで楽器業界でローズウッドと言えばこの種のことだった。公民館の折畳みテーブルは必ずこの木の柄(プリント)である。
別名マルバシタンのとおり、葉は丸みを帯びている。ブラジリアンの後継種として君臨してきたが、ついにこの種も規制の対象になる。流通在庫が比較的豊富なため、しばらくは安泰か。
カラフルかつオイリーな肉食系材。種の段階ですでに赤味を帯びている典型的なラテン材。ローズウッドの中でも一二を争うスパイシーな香りを持つ。
パナマ、ニカラグアあたりに生育する比較的シックな色目をしたローズウッド。トーンウッドとしては後発で、国内で十分流通する前に規制対象になってしまった。
古くから楽器用途以外にも輸入されてきた。本場タイ産以外にも近隣各国に生育している。これからは昔の床柱や座卓などからリクレイムする方法もおすすめ。
材としての流通はほとんどないが、希少な紫檀類として要注目種。
木管楽器材としても有名で、その場合は「グラナディラ」の方がとおりは良い。真っ黒いエボニー類が少なくなった今、その代替材としても注目を浴びている。
当コラムでも何度も取り上げた幻のマホガニー。最も確実な入手方法は19世紀前半以前のアンティーク家具からリクレイムする方法。
時代、産地によって比重、色など大きく異なる。近年は戦後に植林されたミクロネシア産なども輸入されている。
それぞれの良さを受け継いだ個体もあれば、残念なハーフ、クォーター、それ以下も存在する。おしなべて色が淡いが、着色すればジェニュイン・キューバンに見えなくもない。
材としてはキューバン・マホガニー以上にレア。写真は針葉樹並みに比重が低い個体だった。
取材協力・苗、種提供:MTプラント
サイト内でトーンウッド苗の購入が可能。栽培方法や関連アイテムの紹介はブログでも随時紹介されています。
ローズウッド種をたくさん紹介しています本コラムVol.25(指板材特集)も併せてお楽しみください。
筆者も以前からトーンウッドを育てたいと思い、2~3種試してみたことがありましたが、いずれも志半ばで頓挫しておりました。MTプラントさんのお話を聞き、日本各地で同じような思いを持っている方の存在が判明しましたので、間違いなく近未来に誰かが一花、いや一木咲かせてくれるのではないかと思っております(いつも他人任せ)。
次回はたぶん2017年1月末頃に、さらに突き抜けた内容でお目にかかりたいと思います。
森 芳樹(FINEWOOD)
1965年、京都府生まれ。趣味で木材を購入したのが運の尽き、すっかりその魅力に取り憑かれ、2009年にレア材のウェブ・ショップ、FINEWOODを始める。ウクレレ/アコースティック・ギター材を中心に、王道から逸れたレア・ウッドをセレクトすることから、“珍樹ハンター”との異名をとる。2012年からアマチュア・ウクレレ・ビルダーに向けた製作コンテスト“ウクレレ総選挙”を主催するなど、木材にまつわる仕掛け人としても知られる。