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- 2024/11/25
Kz Guitar Works / Kz One Standard
「現代的でバーサタイル(多才)なギター」──このキーワードから連想するギターはどう言うものだろうか? いわゆるモディファイドST系のトラッドなボルトオン・タイプを連想する方が多いのではないだろうか。今回ご紹介するこのKz One Standardはその系統とはまったく異なるギターだ。それでも幅広い音楽にフィットする「現代的でバーサタイルなギター」であることには変わりがない。シングルコイル・ピックアップの利点であるワイド・レンジ&クリアなサウンド、セミ・ホロー構造のホンジュラス・マホガニーが持つ上質な響きと芯のあるトーンなど、他には無いオリジナルなサウンドとパフォーマンスを生み出してくれる。ひと言で言えば「格好良い音の出る、とても弾きやすいギター」であり、他のギターでは得られないトーン、そしてサウンド・バリエーションを持っている。
Kz One Standardのネック・シェイプは50年代後半のLPモデルを連想させるミディアム・ファット・グリップ。635mm(25インチ)スケールを採用することで、これまでSTやLP系ギターを愛用してきたプレイヤーでも違和感なく手に馴染む感覚があるだろう。セットネック構造で、ネック材にはホンジュラス・マホガニー柾目の1ピースをセレクト。トーンと弾きやすさを両立したファット・グリップ・ネックは安定感があり、サウンドはミッドとローがしっかりと感じられる。2ウェイ・アクション・トラスロッドを採用することで順反り・逆反り両方向のネック調整が可能だ。また、ペグからナットまで弦の通り道が真っ直ぐなヘッド・デザインと、10度のヘッド角がナットでの摩擦を極限まで抑えてくれるので、ハードなアーミングでもチューニングの狂いは最小限だ。ネックは丁寧に処理されたラウンド・エッジと12インチ・アールの指板面に加工された、22フレット仕様。指板幅は、ごく一般的なサイズ(ナット43mm、指板エンド57mm)で、他のギターからの持ち替えも容易だと言える。
ボディ内部はセミ・ホロー構造を持つ。トップ材はメイプル、バック材はホンジュラス・マホガニーをセレクト。ボディの生音が大きく、エア感溢れる倍音豊かでスウィートな音色。ボディが軽く、小ぶりなサイズで取り回しが良いだけでなく、立って弾いても座って弾いてもバランス良く安定している。フィニッシュにもこだわりが隠されている。この圧倒的に薄いギターの仕上げはウレタン系塗装なのだが、触れた感触やトーンはまるでラッカー仕上げの様だ。この仕上げは非常に高度な技術を要す「薄塗り」と「丁寧な研磨」から生まれており、とても手間のかかる仕様だ。鳴りの良さを活かしながらもラッカー仕上げの製品より取り扱いやすく、塗装自体の硬度に関してもウレタン系を採用することで長期にわたり安定し、より気軽に愛用できる。良いギターの条件として相応しい仕上りだ。
最も特徴的なポイントは3つのスイッチが並んだコントロール部分だが、操作は非常にシンプル。各ピックアップのON/OFFとボリュームとトーン、この基本さえ理解すれば悩むことはない。各ピックアップは一般的な並列接続ではなく、直列接続を採用している。ふたつのピックアップをONにしたコンビネーションや、全てのピックアップをONにした状態では3ピックアップの出力がプラスされ、シングルコイルのギターとは思えない力強いサウンドを生み出す。また、非常に魅力的なフェイズ・サウンドも見逃せない。ボリューム・ポットとトーン・ポットにプッシュ/プル・スイッチが搭載され、ボリューム・ポット側でネック・ピックアップ、トーン・ポット側でセンター・ピックアップのイン・フェイズ/アウト・フェイズの切り替えを行なう。ハムバッカーをフェイズさせた様なピーキーなサウンドではなく、とてもふくよかな音色はとにかく格好良い。英国アデソン製の特徴的なドームタイプ・ピックアップはレンジ感があり、驚くほどロー・ノイズ。かなりハードにドライブした環境でもノイズに悩まされることは少ないだろう。むしろほとんどのギタリストはハード・ドライブさせると顔を出す倍音(これはホロー構造のボディ自体が生む音色も関係する)にハマってしまうことだろう。
本当に音楽的なギターで、特にブリティッシュ・ロックには完璧にハマる。 ロックのお手本の様なサウンドで、クラシカルなフレーズばかりでなく、2000年代以降の力強いドライブ・サウンドでもその本領を発揮するだろう。もちろん、クリーン・サウンドにもそのテイストは表われており、各ピックアップ単体で十分にスウィートなサウンドが得られる。とにかく、ジャンルを選ばない。そしてロック・ギターの「格好良いサウンド」が全て引き出せると言っても過言ではないだろう。弾きやすく、他のギターでは絶対に得られない音色。かといって、ギター自体が個性を主張しすぎることもない。この絶妙のバランスがMADE IN JAPANならではなのかもしれない。貴方が「ミュージシャン」ならば、チェックするべき1本だ。
価格:¥380,000 (税別)
村田善行(むらた・よしゆき)
株式会社クルーズにてエフェクト・ペダル全般のデザイン担当、同経営の楽器店フーチーズ(東京都渋谷区)のマネージャーを兼任。ファズ関連・エフェクター全般へのこだわりから専門誌にてコラムを担当する他、覆面ネームにて機材の試奏レポ/製品レビュー多数。