アコースティックエンジニアリングが手がけた“理想の音楽制作を実現する”環境
- 2024/11/25
DigiTech / Whammy Ricochet
1989年、センセーショナルに登場したDigiTech Whammyは、オクターブ・ピッチをコントロールする画期的なエフェクターだ。発表当時、ピッチシフト系エフェクトはラック・ユニットが大半を占め、そのワーミー効果(アーミングに近い効果やラップ・スティールの様に無段階でピッチ・チェンジを行なうこと)をコントロールするメリットに、多くのミュージシャンは気づいておらず、その効果とサウンドの素晴らしさを甘く見ていた。そのため爆発的なヒットにこそならなかったが、後にスティーヴ・ヴァイ、ダイムバッグ・ダレル(パンテラ)、ジ・エッジ(U2)が非常に効果的にその独特の音色を奏法/楽曲に取り入れてみせた。そして1992年にはあのレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンが鮮烈なデビュー・アルバムを発売。続く2ndアルバムでもトム・モレノのトリッキーかつ大胆なワーミー奏法は生き生きと楽曲を彩り、ギタリスト達の耳から鱗を削ぎ落とした。日本でもLUNA SEAのSUGIZO氏が類い稀な天才的センスでワーミーをコントロールし、一聴しただけで「SUGIZOの音だ」と認識できるシグネチャー・サウンドを生み出している。
そんなメタル/ハード・ロック界でのユーザーが多く「飛び道具」のイメージが強いワーミー・ペダルだが、デヴィッド・ギルモア(ピンク・フロイド)が1994年発表の『対/TSUI』に収録された「孤立(Marooned)」で静かに、それでいて今までにない摩訶不思議なサウンドを生み出し、これがカントリーなどロック以外のミュージシャンにもそのアイディアを広めていくきっかけになったと言う説もある。もはやハード系に限らず幅広いジャンルのギタリストから支持されるエフェクトと言えるだろう。
このWhammy Ricochetは、そんなワーミー・ペダルの機能を可変式ペダルではなく、ON/OFFのスイッチで再現するコンパクト・サイズの最新モデルだ。ワーミー・ワウンドをシミュレートしたプラグイン・エフェクト等からのフィードバックとも言えるこの機能は、これまでの大型で操作が難しかったワーミーをペダルボード・フレンドリーに仕上げただけでなく、新しい直感的な操作性も含ませた点が興味深い。
基本的な操作法はふたつ。ひとつはフット・スイッチをON/OFFしてピッチシフトの音階を切り替えるラッチ方式。もうひとつはスイッチを踏んでいる間だけ音階が変化するモーメンタリー方式だ。これはMOMENTARYスイッチで切り換えることができる。表現方法と演奏性を考慮し、好みのスタイルを選択すれば良いだろう。面白いのが同軸2連のBALLISTICSノブで、このツマミをコントロールすれば、ターゲットとするピッチまでの到達時間と、その逆の原音までの復帰時間を好みのスピードに調整することができる。その際も、TRAJECTORY LEDにはピッチの軌跡が示されるため、Ricochet(ピッチ)の状態を確認する事も簡単だ。
さらに、応答速度の速い単音に特化したクラシック(オリジナル・ワーミー)モードか、和音を保ったままベンド可能なコード・モードのアルゴリズムを選択することができる。リフもので使う場合はコード・モード、ソロで使う場合はクラシック・モードがセオリーだが、あえてそこを外してみるのも面白いだろう。レイテンシーの違いやバグ感もワーミーの面白さ。ぜひ色々なフレーズと組わせてサウンド・メイクに挑戦して欲しい。
コンパクト・サイズでありながら従来のワーミー・サウンドはもちろん、全く新しいワーミー・プレイの創造までもが可能になったこのWhammy Ricochetは全てのギタリストがチェックすべき「魔法の箱」だと言える。このペダルで新しいサウンドをクリエイトしてほしい。
価格:¥23,000 (税別)
村田善行(むらた・よしゆき)
株式会社クルーズにてエフェクト・ペダル全般のデザイン担当、同経営の楽器店フーチーズ(東京都渋谷区)のマネージャーを兼任。ファズ関連・エフェクター全般へのこだわりから専門誌にてコラムを担当する他、覆面ネームにて機材の試奏レポ/製品レビュー多数。