AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Epiphone 2016 Models
高い品質とリーズナブルな価格を両立させ、多くのギター・ファンに愛されているブランド、エピフォン。その圧倒的なまでのコストパフォーマンスの高さの秘密は、中国は山東省・青島(チンタオ)を拠点とする工場での徹底した効率化と品質管理にあります。今回、我々デジマート・マガジン取材班は「デジマート地下実験室」の井戸沼尚也室長とともに青島にあるふたつの生産拠点に潜入、エピフォン・ギターの製作工程からコスパ&品質の高さの秘訣をつぶさにチェックしてきました。
東京から飛行機で約2時間半の距離にある中国・青島には、エピフォンGQファクトリーとEQファクトリーというふたつの生産拠点があります。GQファクトリーはカジノ、レス・ポールなどの主力製品を作る工場で、従業員数500名、1日700本の生産が可能な大規模工場。一方、EQファクトリーはエクスプローラーやファイヤーバード、アーティスト・シグネチャーなどを生産し、従業員数は約200名、1日あたりの規模は250本とGQファクトリーに比べると規模の小さい工場です。が、実際に行ってみた感想は、決して小さくありません。GQファクトリーが、大き過ぎるのです!
両工場とも最新の設備や、後述するQCという品質管理の仕組みを持つ素晴らしい工場なのですが、まずここで覚えておいていただきたいポイントは、両方とも自社工場だということ。リーズナブルな価格帯のギターは東南アジアでOEM生産されることも多いのですが、エピフォンは自社工場で生産しています。自社工場の良いところは品質管理を徹底できることです。効率化を追い求めつつ(これによりコストダウンが可能で、リーズナブルな価格で製品を提供できます)、品質管理に抜かりはないというところに老舗の矜持を感じました! それでは早速ですが、工場の様子を動画と画像でお楽しみください!
──ギブソン・チャイナの体制について教えて下さい。
中国における総責任者はロイド・ウィリアムズ(Lloyd Williams/Director of Oreration - China)で、私の役職はゼネラル・マネージャーです。私は運用管理だけではなく、製品管理も受け持っています。ですから、技術面の管理もしますし、さまざまなセクションの責任者やQCなど、工場のすべての人たちに良い仕事をしてもらえるように目を配っています。
──GQファクトリーとEQファクトリーの沿革について教えて下さい。
GQファクトリーは2002年に、韓国からの移転という形で創業しました。ロイドと私は2005年に赴任し、もとはアコースティック・ギターの工場だったGQを、何年もかけてエレクトリック専門の工場に転換しました。現在はレス・ポールやカジノといったモデルを製造しています。EQファクトリーは、2009年から創業しています。EQの規模はGQの半分ほどですが、デザイナー・モデル……エクスプローラーやB’zのTak Matsumotoモデルといった、製造が難しいモデルを手がけています。エピフォン版のミニ・カスタムショップのようなものですね。GQファクトリーはEQファクトリーの2倍の規模があり、製造本数は1日あたり700~800本で、従業員数は約500名です。一方のEQの生産本数は1日250本ほどですが、これは工場の規模による違いで、従業員数も200名ほどです。それと先ほど述べたように、それぞれの工場では生産しているモデルが異なります。
──ここ数年で、生産工程上見直したポイントはありますか?
例えば、新しいコンベア・ラインは2〜3ヵ月前に導入したばかりですが、これによって作業数を減らすことに成功しました。製品を車に積んだり降ろしたり、外へ運び出したりする必要もなく、ひとつのまとまった環境の中で次の工程に送ることができるようになったのです。また、工場で起きた変化の中で最も恩恵が大きかったのは、塗装工程の変化でしょう。塗装ロボットを導入して静電塗装の技術を取り入れた利点は、廃棄物の削減や労力の削減、人件費の削減、品質の向上、生産性の向上など、枚挙に暇がありません。さらに最近では、新たに設計した梱包用の箱が大きな効果を上げました。輸送時の破損は私たちの側でコントロールしきれない問題ですが、梱包用の箱を改良することで、製品がより安全に届けられるようになりました。
──高いクオリティとリーズナブルな価格を両立するためのポイントは?
お求めやすい価格を実現するには、効率性を向上させるしかありません。私たちはリーン生産方式を導入してあらゆる無駄を省き、自分たちの時間を管理するなどしてコストを管理しています。コストを管理することによって、低価格でも素晴らしい品質の製品が作れるのです。
──職人の教育、育成についてはどのように行なっていますか?
ここでの仕事の多くは手作業で、全工程の80%は手作業で行なっています。その80%のうちの約半数の作業については、だいたい1週間ぐらいで訓練が可能です。その他、例えば塗装、ABS樹脂(バインディング)のスクレイピング、バフがけといった作業については、訓練に半年はかかるものです。ただし幸いなことに、この工場の職人は平均10年の経験を持っています。離職率が低いので、職人を常に訓練する必要がありません。どうしても訓練が必要な場合は、バディ・システムでやっています。新しい工程を導入する際などには、それについて経験のある職人と経験の浅い職人がペアを組み、3ヵ月間一緒に作業をした後で、それぞれ単独作業に移ってもらいます。
──ギブソンUSA工場との連携について教えて下さい。
私自身、中国に赴任する以前はギブソンUSAに17年間勤務し、工場管理責任者の仕事をしていました。USA工場の従業員とも親しい関係にあるので、エンジニアとの意見交換もしますし、先方からの問い合わせもよく来ます。本社の研究開発やマーケティングの部門からの支援もありますから、共同で作業を行なっていることになりますね。ギブソンUSAの社員がこちらに来る機会もあるので、アイディアの交換や、作業工程の検討、工作機械の吟味など、共同作業を積極的に行なって、私たちと良好な関係を維持しています。
──両ファクトリーにいるQCについて教えて下さい。
GQファクトリーのQCは約70人です。ここEQファクトリーは30人程で、QCの数も約半数ですが、どの工程にも黄色いシャツを着たQCがいるのがおわかりいただけるでしょう。QCを中心に個々の工程で品質を管理することで、問題の発生をできるだけ早く察知して、あらゆるレベルで品質管理を徹底させる努力をしています。QCは雇い入れるのではなく、社内で能力があり、勤務態度が良好で、きちんと仕事をするスタッフを昇格させます。ここで長年働いてきた人ですから、製品や工程についてよく理解しています。QCは名誉な仕事であり、外部から新たに雇い入れるということはしていません。
──使用される木材の入手先と管理方法について教えて下さい。
ボディ材やネック材、マホガニーやコリーナ、合板など、複数の業者を選んで仕入れています。彼らは私たちと長く取り引きしていて、私たちが求める材の仕様やグレードもわかっていますし、私たちの仕様を満たさない材は返品しています。木材の在庫はそれほど多くありません。リーン生産方式の一環で、仕入れた材はなるべく早く加工に入るようにしています。木材を溜め込まなければ、品質の問題も起こりにくくなるので、在庫を抱え過ぎないようにしています。“JIT”すなわち“カンバン方式” (トヨタ自動車が開発した有名な生産管理方式)の一環ですね。
──エピフォン・オリジナルのピックアップは、どこで生産しているのでしょうか?
ピックアップのいくつかは、ギブソンUSA内の部門が製造したものです。その他、ハムバッカーの中には韓国のメーカーから仕入れているものもありますし、中国で製造しているピックアップもあります。あとはセイモア・ダンカンや、EMGも使います。あらゆるスタイルのピックアップを使用していますが、多くは中国国内で生産されたものです。
──製品の主な出荷先と、中国のマーケットについて教えて下さい。
製品の出荷先はいくつかあって、中国国内にももちろん出荷していますが、それよりもアメリカ合衆国のマーケットがはるかに大きいです。あとはEUと日本ですね。とはいえ、中国国内の売り上げも今年は大幅に増えています。私が赴任した2005年当時に比べれば、中国の市場規模は大きく拡大し、そのペースも加速しているように思います。最初の頃は中国国内で月に200本も売れれば上々でしたが、今では1,000本ぐらい売れますからね。ただ、これはエレクトリック・ギターの数字で、今はアコースティック・ギターのマーケットを拡大させようとしています。
──今後の両工場の展望について教えて下さい。
今のところは両工場の操業を並行させていく予定ですが、ゆくゆくは両者を統合する可能性もあります。GQファクトリーは規模が大きいので、ここ(EQ)にある資材を向こうに移せば、1日あたり1000本の生産が可能になるでしょう。こちらには余剰生産能力がありますから。そうすれば、より低価格でお求めやすい製品が作れるようになります。経営の点でも効率化が図れますしね。ただし、当面はEQファクトリーでもこれまで通り操業を続けますし、GQファクトリーではレス・ポールなどの製造を続けます。将来的にはどうなるかはまだ何とも言えませんが、どういった形をとるにしろ、製品が良くなるのは確かでしょう。私たちは品質の高いギターを作るために、本当に多くの努力を費やしています。私たちは品質と演奏性を何よりも大切にしているからです。楽器というものは第一印象がとても重要で、最初にギターを手にした時の印象が悪ければ、それを将来良い印象に変えるのはとても難しくなります。だからこそ、第一印象が大切なんです。品質の良いギターを手にすれば、将来にわたって良い印象が持続します。ですから、私たちはとにかく品質にこだわるのです。
──最後に日本のエピフォン・ファンにメッセージをお願いします。
今回のファクトリー・ツアーをお楽しみください! 皆さんにはきっと楽しんでいただけるはずです。見どころもたくさんありますし、手作業の工程もたくさんあります。どうぞお楽しみに!
実際の製作工程については上の動画と写真を見ていただければ早いと思いますが、各工程を見学した中で気がついたことは、効率化、合理化を徹底して行なっているということです。例えば、両工場に見られるボディとネックのラインを並行して走らせるレイアウト。これにより、監督者のチェックが各工程に行き届きやすくなり、占有面積を抑えることが可能になります。また、米国ギブソンと同様のCNCルーターや、新しいフレッティング・マシン、カジノ専用プレス機、工場棟をまたぐゴンドラなど最新の設備と、静電塗装のような新しい技術を次々と導入している点も印象的でした。こうした企業努力があるからこそ、リーズナブルな価格を実現できるわけです。ありがたい話です。
一方で、手作業による工程もたくさん見かけました。実は、全工程の約80%が手作業によるものだそうです。これには驚きました。結局、ギターは人の手で作るしかないんですね。では、その人の手による工程の品質をいかに高めるか。その仕組みが次に紹介するQCです。
工場内を歩いていると、たびたび出会うのが黄色いユニフォームを着た人たち。彼女たち(女性がほとんどでした)がQC(クオリティ・コントロール)です。QCは工場内の各工程で厳しいチェックを行なう品質管理者で、工程ごとに異なる“基準QCチェック・リスト”をもとに、見て、触れて、また工程ごとに異なる専用器具を使って基準をクリアしているかをチェック。時には一般の職人の指導も行ないます。さらに最終工程では各工程でのチェック項目をすべて再チェックし、これをクリアして初めて出荷できるんだとか。つまり、市場に出ているすべてのエピフォン製品は、ダブル・チェックをクリアした製品ということになります。エピフォン・ギターの品質を守り、高めているのがこのQCなんですね。
余談ですが、最終工程でQCチェックしていた女性は毎日全弦&全フレットでの音出しチェックをしているおかげで、クロマティック・スケールを弾くのが恐ろしくうまかったところにも、目と耳を奪われてしまいました。
最後に、今まさにラインの最終工程でのチェックを受けたばかりという出来たてホヤホヤのカジノを弾かせていただきました。受け取って、チューニングして弾いただけですが、もちろんプレイアビリティは良好で何の問題もありません。カジノの魅力は、なんといってもセンターブロックなしのホロー構造とP-90が生み出すカラッとした鳴りです。特にコードやリフは本当に気持ちがいいのですが、このカジノも良かったですよ! 弾いていて楽しかったことが動画から伝われば幸いです。エピフォンは、弾き手をワクワクさせてくれるブランドだと実感しました。