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- 2024/11/16
BadCat / USA Player Series
メイドインUSAのハンドメイド・アンプの持つ音色。その素晴らしさをもっと多くのプレーヤーと共有したいという思いから生まれたのが、このBadCat USAプレイヤー・シリーズだ。ハンド・ワイヤリングで製作されるアンプは非常にピュアな音色を生み出し、選択された各パーツの持つ個性を上手くマッチングさせることで極上の音色を生み出す。しかしながら、その製作は非常に難しく、目指す音を明確に持ったセンスあるビルダーでなければ絶対に「良い音」は作れない。よって、製作に非常に長い時間が必要とされ、価格も当然高価になってしまう。しかしBadCatはこの問題に正面から向き合い、クラスA回路やオリジナルスピーカーなどの要素はそのままに配線方法にプリント基板を採用。品質と音色をキープしながら「BadCatのトップラインの音色」を手頃な価格帯で製品化することに成功した。ハンドルや電源を投入すると光るロゴパネルの生むラグジュアリーな質感やイメージも損なわれていない。見るからにメイドインUSAの雰囲気が漂っており、その音色も期待させてくれる仕上がりだ。
今回のレビューでは、ブリティッシュ・アンプ・スタイルをベースに持ちながらも、現代的な解釈を加えることでアメリカン・ロックの王道にもフィットするサウンドを持つ15WのコンボタイプCub 15R 112と、出力をさらにパワフルな40Wに設定したCub 40R HD(ヘッドタイプ)をそれぞれチェックした。ちなみに15R/40Rの「R」はリバーブ搭載モデルを表わしている。
ポイント・トゥ・ポイント配線(以下PTP)で仕上げたアンプと、プリント基盤(以下PCB)を採用したアンプでは、やはり音色の良さでPTPアンプに軍配が上がることが多い。PTPとPCBの音色を比べた場合、PTPの方が音のスピード感があり、音色に「余計な色づけ」成分が感じられない。その違いは多くの場合、ミッド・レンジのすっきり感にあると思う。ミッド・レンジがリッチでありながら主張しすぎない⋯⋯単に「音が太い/細い」のではなく「太い所は太く、細い所は細く」出力してくれるのだ。
しかし今回USAプレイヤー・シリーズを試奏して驚いたのは、PCBのアンプにある成分を一切感じないということだ。本当はPTPでワイヤリングしているのでは? と思うぐらいに出音がスッキリとして、不要なレゾナンスを感じさせない。ソリッドでありながらリッチなハーモニックスを多く含んでいる。また、マスター・ボリューム付きのアンプならではのパワー・アンプ部分での音色のロス感も、ほとんどないと言えるだろう。15Wでこの音量、そしてこれだけの艶感が得られるのは驚異的だと言える。まるでモディファイされて使いやすくなったビンテージ・アンプを弾いている様だ。
これには秘密がある。従来のマスター・ボリューム機構では、パワー・アンプ・チューブをドライブさせるためにプリアンプ・チューブのドライブ回路に依存する必要があった。その結果、音量(出力)を上げるとプリアンプ・チューブ同様にゲインが上がるために、いわゆる「飽和状態」となってしまい、音色に歪みが発生していた。そこでCubシリーズは「K MASTERボリューム」という特別な回路をデザイン。プリアンプ・チューブとパワー・アンプ・チューブを回路的に独立させている。これにより、プリアンプ・チューブで作ったピュアなクリーン・サウンドを維持しながら、パワー・アンプ部ではプリアンプ部の音色に影響を与えずに、音量をコントロールすることが可能になっている。そのため“フルテン”時においても音色の芯はしっかりと残り、一般的なマスター・ボリューム搭載アンプにありがちな「音色の頭打ち感」を排除している。
また、プリアンプ回路にもこだわりが隠されている。回路初段のチューブを、BadCatアンプの個性とも言えるEF86と、よりクリーンでパンチのある12AX7にスイッチ切り替えで選択できるのだ。12AX7は甘くレンジ感のあるクリーン/クランチ・サウンドを生み出し、EF86はゲインが高くリッチなハーモニックスを持ったアンプ・ドライブを生み出す。これにより、音作りの幅がぐっと広がった。たとえばドライブ・ペダルで歪みを作りたい場合は12AX7をセレクトし、歪みはアンプで作りたい時はEF86を使用するといいだろう。同時にFATスイッチを使えば、EQ部のゲインをブーストしてくれるので、さらに力強く押し出しの強い音色も作り出せる。
高品質なリバーブもクラス・トップレベルのニュアンスを持っている。特にヘッド・タイプでリバーブを搭載しているアンプは少ないので重宝するだろう。パワー管にEL34を用いた40WのCub 40Rは出力も十分なので、ラウドなロック・バンドの皆さんにもぜひお勧めしたい。そしてヘッド・タイプを使う際はキャビネットにも注目してほしい。コンボ・タイプでは出せない音圧とボトムのパワー感はBadCatならではのモノだ。ハムバッカー搭載のギターでパワフルなコード・プレイをしても音像はしっかりとしているし、シングルコイルでジャキジャキのクランチ・サウンドを作っても耳アタリが良いサウンドを出力してくれるだろう。
価格:¥198,000 (税別)
価格:¥178,000 (税別)
村田善行(むらた・よしゆき)
株式会社クルーズにてエフェクト・ペダル全般のデザイン担当、同経営の楽器店フーチーズ(東京都渋谷区)のマネージャーを兼任。ファズ関連・エフェクター全般へのこだわりから専門誌にてコラムを担当する他、覆面ネームにて機材の試奏レポ/製品レビュー多数。