アコースティックエンジニアリングが手がけた“理想の音楽制作を実現する”環境
- 2024/11/25
Crews Maniac Sound / Vegas V2.
ギター・メーカー「クルーズ」の製作する「クルーズマニアックサウンド」というブランドの製品ラインナップは、ちょっと特殊だ。一見すると「普通」のギターに見えるが、細部に「弾き手が好む/求める音と弾き心地へのこだわり」を備えている。それは楽器店での試奏時にはひょっとしたら発見できないことかもしれない。「マニアックって、どこが?」と感じる方も多いかもしれない。はっきり言って、スペック的なマニアックさは、それほど重要ではないと思っているらしい。どちらかと言えば、録音時の録り音がどういう風に聴こえるか? ライブでのプレイアビリティは? 楽器本来の音色がちゃんと出ているか? そういうことを意識している。つまり、クルーズの「マニアック」には、多くのミュージシャンとのリレーションシップから生まれた「こだわり」が込められていると言えるだろう。
ブランド立ち上げ初期からラインナップされているモデルのVEGAS V2.は様々なバージョン違いが存在するが、基本コンセプトは変わっていない。1ピース・マホガニーのボディ、ローズ指板のメイプル・ネック、そしてソープバー・スタイルのピックアップを搭載している点だ。フラット・トップ&セット・ネックのオール・マホガニー・ギターの音色は素晴らしい。 一般的にマホガニーの音色は「暖かみのある」「中域の太い」という表現で語られることが多いが、実際にビンテージのJr.系マホガニー・ギターを弾くと、鳴りの良さと音ヌケの良さに驚く。そこには「暖かみのある音」とか「中域の云々」といったイメージよりも、音としての存在感と格好良さをまず感じる。その音に、メイプル・ボルトオン・ネックの音。つまり、音の立ち上がりのスピード感とハネ感、そして若干高域のキャラクターをブレンドしたギターが、このVEGASシリーズだと言える。
話が飛ぶが、ギターの音はドラム(スネア等)で想像するとわかりやすい。マホガニー・ボディは例えばスネアで言う所のシェル(胴)の部分にあたる。ここでサウンドの余韻や倍音を生成するイメージを持ってほしい。ローズ指板のメイプル・ネックはスネアのヘッド(打面と裏面)だ。ローズの打面の反対側面はメイプル。打面は若干柔らかい音色で裏面はメイプルの明るくて張りのある音色と言うことになる。スナッピーはフレットやペグの生む金属音を想像してほしい。VEGASはそういったバランスをうまくまとめることで、楽器の持つ高域・中域・低域の各周波数帯をバランス良く含みながら、なおかつビンテージにはない弾きやすさを持たせているのだ。
その楽器の音を拾い上げる「マイク」はクルーズ・オリジナルのVEGASピックアップだ。ソープバー・スタイルのピックアップは各ピックアップに2枚のマグネット・バー(ハムバッカー2個分)を備えており、音の立ち上がり、音像が非常にクッキリしている。加えて、横幅の広いソープバーならではのピックアップ形状のおかげで、シングルコイル・ピックアップでありながら直線的になり過ぎない、ふくよかな音色も生み出している。ロー・ノイズな点も見逃せないだろう。シングルコイル構造のソープバー・ピックアップ+マホガニーのボディは、50年代から続く鉄板のコンビネーションだと言える。そこにボルトオン構造ならではのパンチ感を加え、さらにローズ指板/メイプル・ネックの生み出す音のキレを加えることで絶妙なバランスを持った「シンプルでマニアックな」エレクトリック・ギターに仕上がっている。
弾き手の個性がそのまま楽器の個性に直結する様な楽器のデザインは、正にクルーズマニアックサウンドの真骨頂だと言えるだろう。このギターに触れることで「良い音の出し方」が理解できる様な感覚すら覚える1本だ。
価格:¥220,000 (税別)
村田善行(むらた・よしゆき)
株式会社クルーズにてエフェクト・ペダル全般のデザイン担当、同経営の楽器店フーチーズ(東京都渋谷区)のマネージャーを兼任。ファズ関連・エフェクター全般へのこだわりから専門誌にてコラムを担当する他、覆面ネームにて機材の試奏レポ/製品レビュー多数。