AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
ギター用ケア/メンテナンス・グッズ
ギターは弾くものである。弾けばネック、指板、ボディは手汗や皮脂で汚れ、弦やフレット、ナット、サドルは少しずつではあれ消耗していく。当たり前のことであるが、そうして汚れや傷みをかかえたギターをそのままにしておいていいものなのか? しっかりと汚れを落とし傷みを鎮めてやることがギターを良好な状態に保つためにいかに大切なことか。メンテナンスの基本中の基本、“ケア”の重要性を改めて見直してみたい。
“ギター・アクセサリー”という言葉に昔から違和感を持っていた。ここが英語圏でないからだろうか? それにしても、意味がわからない。『アクセサリー(Accessory)』──もちろん、辞書で引くまでもなく、それがおおまかに「付属品」や「装飾品」といった意味を持つ言葉であることは知っている。だが、やはり、わからない。
例えば、毎日使うこのセームのクロス。もう10年以上も使っている。単純に経年という尺度で見れば、家に置いてあるギターの何本かよりは確実に“アニキ”である。こいつが「付属品」と言われると、やはり疑問しか湧かない。いつもギターを磨いてきた。雨だろうが、晴れだろうが。仕事に煮詰まった日も、競馬で大負けした日も、新車が納車された日も……それこそ、何週間も秘蔵のギターに手を触れなかったとしても、そのクロスを手に取らない日はないというくらいに。家に帰らない時以外は、毎日、毎日、毎日、それでギターを磨いていた。
ひとつ、はっきりとわかっていることがある。それは、このクロスが決してギターの“ふろく”ではない、ということ。一番使う。毎日使う。何度でも使う。ギターより、使う。絶対に「付属品」なんかじゃない。むしろ、このクロスこそが自分が所有する全てのギターのコンディションを支えているという確信がある。これがアクセサリー? フザケちゃいけない。
ギターを買った時に付いてくるクロスは“おまけ”じゃない。楽器に携わる者たちからの、そのギターを大切にして欲しいという願い、心意気のかたちなのだ。付属なのではない──それは「必要なもの」なのだ。だからこそ、ギターには常にクロスが傍にいなければならないのである。そして、託された職人の魂を汚さぬ様に、それを使っていつもケアをするべきものなのだ。人間が風呂に入らないとどことなくヤサグレていく様に、楽器も手入れをしなければ、その見た目も音もいつかはくすんでしまう。
楽器を大切にするということは、使わないことじゃない。使いたおして、なお、それを慈しむことを言う。そこにしみ込んだ汗、刻まれたキズをいつか誇らしく思えるように、ギターは日々、運命共同体であるクロスによって磨かれるべきなのである。
だから、多少の気恥ずかしさはあるが、こう呼ばせて欲しい。ギターに寄り添うもの──それはきっと、『ギター・アクセサリー』ではなく、『ギター・ネセシティ(Guitar Necessity)』なのだ、と。
今回は、ギタリストにとって最も身近なグッズである、楽器の『ケア』に必要な品を集めてみた。毎日ギターを弾く人、また、そうでない人にとっても、クリーニングや保全に関わるアイテムは常に手の届くところにあって欲しいはずだ。店に行けば、入ってすぐの場所にうずたかく積まれるオイルやクロスの数々を誰もが目にしていることだろう。だが、意外にもそうした“必需品”について、まとまった情報が少ないように思えてならない。自分の所有するギターには、一体何が対応していて、その中でも最適なのはどれなのか。特定の場合に使ってはいけないものとは? それぞれの品質は? そして、そもそも何故それが必要なのか? 改めて見渡してみれば、必要と感じながらも我々は漠然とした噂話の域を出ない又聞きの知識を鵜呑みにしたまま、“知ったかぶり”で過ごしてはいないだろうか? 「常識」と言えばそうなのかもしれないが、本職のリペアマンやギター・テクニシャンでもない限り、そうしたグッズの全てを自分で試したりする機会もないように思える。そこで、改めてギター・ケアに関する基本グッズの効果や使い分けについておさらいし、環境に合ったケア用品を正しく選び出す手がかりにしてもらうためにこの企画を立ち上げてみた。
グッズの選定は、いつも通りデジマートの在庫に準拠している。溶剤系も全て可能な限り多くのギターで試し、長期にわたって収集したデータを元にその効果を実証・確認できた情報のみを記事にしている。ただし塗装等への反応は、全メーカーの全ての塗装に試すことは実質不可能であることから、例外も存在することを常に考慮し、その使用に関しては自己責任で行なってもらいたい。ギター『ケア』グッズ──それは、多くの人が憧れ、また、所有する数々の高価で素晴らしいギターからすれば、話にならないほど低価格な製品ばかりかもしれない。しかし、それは使い方次第で、その楽器の価値を高め、ギターを弾く楽しみを加速させてくれるものばかりだ。大切な愛器のため、そして、より快適なギター・ライフのために、少しでも今より多くその重要さを知っていただければ幸いである。
木製弦楽器の日常的なケア用品として欠くべからざる必須アイテムと言えば、やはりギター・クロス(ウエス)だ。しかし、その種類は星の数ほどもあり、素材や適性、効能もバラバラで一体どのクロスが自分のギターに最適な製品か迷うことは、ギタリストならば1度や2度は経験しているに違いない。使い捨てと割り切って、安価なサービス品やギター専用でないものを流用して、大切な楽器に取り返しのつかないダメージを与えてしまうことも少なくない。そんな、必需品だからこそ悩ましいクロス選びに、自信を持ってお勧めできる品質を持つのが、このFREEDOM CUSTOM GUITAR RESEARCHのSP-P-10ポリッシュ・クロスである。
国産のハイエンド規格としても知られる同社のギターに標準で付属するクロスとしても、よく知られている。使い勝手は、ひと言で言ってしまえば「万能」で、ボディ、指板、弦、金属パーツ等あらゆる場所、そしてあらゆる塗装(もしくは無塗装)に対応する。単体の価格としてもかなり上等な部類に入る、いわゆる高級品だ。しかし、使ってみれば違いは一目瞭然。まず、そのしなやかな手応えが素晴らしい。力を入れても折り目に硬い角が出ず、凸面に当たって撚れた布地がパーツやボディに傷をつけることがないので手のひらいっぱいに広げて使うことができ、実に作業効率が良い。柔らかいウエスは他にもたくさんあるが、この常に丸い力のかかり方のする布の柔軟性は特筆に値する。拭面の繊維も実に細かく、ポリッシュや、最近流行りの粘り気のあるオイル等を拭き残りなく仕上げるのに非常に適している。繊維の目が詰まっているわりにはそれなりに薬剤をしみ込ませることもできるので汚れ落とし用にももちろん使えなくはないが、それはこのクロスの使い方としては少々もったいない。やはり宣伝通り、「拭き取り」「乾拭き」にこそ力を発揮するクロスであろう。
布自体に帯電防止処理もされているので、静電気によって吸い付けられたホコリが楽器を再び汚してしまうような事態を防止するだけでなく、意外にクロス清掃の盲点となる、コーティング弦の破片等細かな金属片を拾ったまま拭いてしまって、塗膜に予想外のキズを付けてしまうような事故を避けることができる。弦を何度拭いても毛羽立つことがなく、余計なカスが落ちないのも良い。洗濯機で丸洗い(拭き取った油が出るので、他の衣類等とは一緒に洗わない方が賢明)もできるので、用途別に、さらには持ち出し用にと、常に複数枚を用意して長く使っていきたい品だ。ギター用クロスとしてこれ以上の品質を求めるのならば、もはや本物のセーム革以外ない……そのクラスの製品だと思って間違いない。
[この商品をデジマートで探す]
定番の楽器用クロスとして最近よく見かける、MORRISのクリーニング・クロスMCC-2。馴染みのギター・ショップで店員に勧められた方もいるのではないだろうか? 異なる性質のポリマーを1本の繊維の中に織り込む複合紡糸技術により誕生した、高密度、軽量な超極細繊維「ベリーマX」素材で編まれている。通常のマイクロファイバー製クロスよりやや毛足の長い布面を持つため、非常に高いクリーニング効果が見込めるのが特徴だ。
ソフトで微細な起毛はオイルやポリッシュの「乗り」が良いにもかかわらず、それとは逆に地布には適度な厚みがあり自然な透湿防止効果を持ち合わせているため、多少のことでは布全体で薬剤を過剰に吸収してズクズクになってしまう様なことがない。それゆえに、適量を見極めにくい液状のクリーニング剤と抜群に相性が良い。高密度でサラサラなクロスは得てして液が「乗り」にくく乾拭き専用になってしまいがちだが、このMCC-2はどんな粘度の液体や泡もしっかりと馴染ませて使うことができるので、頑固な指板の汚れを取るのにもってこいだ。また、どんな角度で拭いても毛玉ができにくい素材なので、練習後の弦やフレットの乾拭きにも問題なく使っていける。
ただし、クロスが新品時に使用する時のみ、やや注意が必要だ。開封したばかりの状態で巻き弦などを強く拭くと、少し屑の様なものが落ちることがあるからだ。これは、安物のクロスの様に繊維が解けてクズが出ているわけではなく、ベリーマ素材特有の科学処理されたコンジュゲート繊維が“開繊(かいせん=放射状に編まれた原布繊維の先端が解けて、さらに細かなポリマー糸に分割されること)”する時の高分子のチリなので、まずギター本体の塗装を傷つけることはないが、それが気になる人もいるだろう。なので、このクロスの場合、一度洗うことによって毛先を完全に解放してから使えば良い。そうすれば、その後はハードに使っても全く繊維が崩れることなく、当然カスも出ないので、ギター・クリーニングの最前線で長く使っていける。価格も比較的安く、初めて買うクロスとしてもオススメだ。
[この商品をデジマートで探す]
鹿の皮をなめしたものをセーム革と呼ぶが、その中でも最もしなやかで高級なものとされるのが、キョン(小型の鹿)の皮を使用したキョン・セームである。このクロスは、原皮を石灰乳等のアルカリ浸漬により膨潤(皮のコラーゲン繊維をほぐす=“なめす”こと)させ、さらに魚油還元、乾燥、ピッキング(繊維を揉みほぐすこと)を繰り返して作られる非常に手間のかかった製品で、本革ならではの抜群にきめの細かい自然繊維により、デリケートな楽器の塗装に一切傷をつけることなく汚れや水分を拭き取ることができる。広げてみると正方形ではなく、鹿の個体形状に准じたいびつな形を保っているのが見て取れるだろう。これこそがキョン1頭分の皮を無駄なく切り取った本物の1枚革のクロスである証だ。
皮面には当然の様に表と裏があり、表側の「吟面(ぎんめん = 鹿の革の一番外側の部分のこと)」と呼ばれる革クロス特有の“粘り”が、ギター・クリーニングにおいては肝となる。触ってみるとわかるが、吟面はしっとりとした手触りとともに、拭く時に少し引っかかる様な僅かにグリップする感触があるのが特徴だ。試しに、ギターのボディをさっと軽く拭いてみるとその効果がわかるだろう。普段使っている人工繊維のクロスでは、力を入れて何度も擦らなければならなかった指垢や指紋のくすみが、あっという間に綺麗になっていくのがわかるはずだ。吟面は、特に油分を含んだ汚れを拭き取る効果が強く、薄いラッカーやセラック塗膜の上からでも安全にボディをケアできる。また、セーム革そのものに含まれる天然コラーゲン成分が、塗装の表面に柔らかいツヤを与えるのもその効用のひとつだ(ただし、同じセーム・クロスでも、布面が着色されているものはコラーゲン成分が脱落してしまっていることが多いので、あまりその効果は期待できないことも憶えておこう)。わざわざポリッシュ等を使わずとも、ライブの後にこの布でさっと一拭きするだけで楽器の寿命を延ばすことができると言っても過言ではない。
指板に使ってももちろんそのクリーニング効果は頼もしいのだが、材がローズウッドやエボニーの様な場合、吟面では油分を吸着し過ぎるきらいがあるので、乾拭きをした後にしっかりと保湿剤を使うか、裏面のさらっとした方で軽く拭き取るだけに留めると良いだろう。逆に、メイプル指板のケアには吟面を積極的に使用してもらいたい。一度使えば、他のクロスでは拭き取りきれなかった汚れで、すぐに布面が真っ黒になることに驚くはずだ。水や石鹸で手洗いすることで、何年も自分好みにその布を育てていくことができるのもセーム革の良いところだ。正しく手入れをした10年選手のキョン・セームの滑らかな拭き心地は完全に別格だ。極度に乾燥させない等(ケースや車の中に放置するのはもってのほか)普段の管理にも気をつかう反面、長く愛用すればするほどギターのケアをやりやすくしてくれる最も身近なグッズとして、新しいギターを買うたびにそれ専用のキョン・セーム・クロスを買い足すのも良い。高級ギターを扱う上級者ほど最低1枚は持っていて欲しい逸品である。
[この商品をデジマートで探す]
プロ・リペアマンから絶大な信頼を集めている、米国のベース・メーカーKenSmithのポリッシュ2種。両方とも、近年流行っている研磨剤の含まれない液状タイプで、それぞれ対応するフィニッシュに合わせた天然素材を配合しており、楽器の塗装を傷めないよう成分レベルで最大限配慮されているのが特徴だ。使う時には、どちらも薬剤が混ざらない様にそれ専用にしたクロスに広く馴染ませてから、少しずつ塗り広げる様に使用することをお勧めする。
Pro Formula Polishは通常のポリ/ラッカー塗装に向いた溶液で、表層に固まった汗汚れ等もよく分解してくれる。少量でかなり深みのあるツヤが出るので、塗膜の厚いギターほど美しく魅せることができる。乾拭きメンテが基本のサテン・フィニッシュのネック等に使うと余計なツヤが出てしまう可能性はあるが、塗装がポリであるならば薄くてもほとんど塗膜を浸食する様なことはないので、まずは目立たない部分で試してから少しずつ使用すれば安心だ。ただし、トップコートが柔らかくなっているオールドのギターの場合は、塗面が白く曇る可能性もゼロではないので、その点のみ注意して欲しい。
一方、Classic Wax Polishはオイル・フィニッシュやナチュラル・フィニッシュといった塗装に向いたワックス・タイプ。液状とはいえかなり粘度が高く、メンテナンス時に液ダレしないのは嬉しい。蜜蝋やレモン・オイル、その他数種類の天然成分を配合していて、クリーニング効果が高いにもかかわらず油脂成分がきちんと残るので、オイル・フィニッシュの塗膜に対して専用のオイル・ワックスを塗布する様な効果を一度の拭き取りで得ることができるのは素晴らしい。また、塗り広げてしまうとレモン・オイルほどベタ付く印象がなく、意外にサラサラとした仕上がりなので、ギター本体だけでなく、本来はあまり柑橘系のオイルとは相性の良くないはずのナチュラル・フィニッシュされているメイプル指板などのケアにも使っていける(ただし、メイプル指板へのオイル・フィニッシュの成分はメーカーによっても異なるので、100%安全とは言い切れない)。こちらは塗り過ぎると滑りやすくなるため、座ってギターを弾く頻度の高い人はボディ・サイドへの使用は程々に。
[この商品をデジマートで探す]
旧来からよくある研磨剤入りのタイプ。そもそも、ポリッシュ(Polish)=「磨く」という意味なので、このghsのGuitar Glossはその性能から見ても本来のギター・ポリッシュの効果が得られる製品と言っても間違いはないだろう。液をクロスにとってから塗り広げる様に使用すれば、ポリウレタンの塗膜は新品の時以来のピカピカの輝きを取り戻すことができる。その光沢は顔がしっかり映り込むほどで、やはり研磨剤を含まないものとは比べ物にならない容赦のないツヤ具合だ。
研磨剤、つまり塗膜表面をクレンジングするための粒子を含んでいるということは、塗装表面をごく薄くではあるが削り取っているのに等しい行為だということをまず知っておいてもらいたい。それでも、汚れの頻度、経年でこびりつき固まったくすみ等に対しては実に有効なクリーニング手段となる。溶剤で汚れ成分を分解するのではなく物理的に塗装ごと削って排除するということは、別の視点で見れば、塗装に沈着、浸透する成分にあまり頼らなくて済むので逆に安全だと考えることもできる。要は使い方次第である。例えラッカー塗装であっても、クロスが引っかかるほど硬い汚れの場合、クリーニング効果の薄いポリッシュや力任せな乾拭きよりも、こういった研磨剤入りのクリーニング溶液で素早く除去してしまう方が結果的に塗装にダメージが少なくて済む場合がある。
特に、このGuitar Glossの場合はノン・ワックス・タイプなので、グロス・フィニッシュ(ツヤあり)されたメイプル指板の汚れがひどい場合には、少量を使用する分には十分に試す価値がある。実際の指板への使用に関してはもちろん自己責任となるが、ギターの塗装コンディションをよく考慮し、最速、最短のボディ・クリーニング手段としてこういった製品の存在も常に頭に入れておこう。ちなみに、Guitar Glossは金属パーツも恐ろしくピカピカに磨き上げる効果を持つが、金などのメッキ部分はこれで擦ると禿げてしまうことがあるため注意して使用する様にして欲しい。
[この商品をデジマートで探す]
皮脂汚れの大敵と言えば、マット・フィニッシュ等のクリア・コーティングのないギターであることは、皆さんもご存知の通り。フェイデッド(Faded)加工されたもの等、通常のクリーナーやポリッシュを使うと塗装ハゲに直結するこの厄介なフィニッシュに対しては、今までは基本的に乾拭きしかクリーニングの方法が無かった。しかし、このDoc SimonsのMIRACLE GUITAR POLISHであればマット感を損なうことなく皮脂汚れを除去できる。
溶液はスプレーでクロスに吹き付けてから使うタイプで、それほど粘りはないので塗装の上で塗り広げる必要があまりなく、ほぼ乾拭きと同じ要領で汚れた部分を拭き取ることができてしまう。実際使ってみると、マット・フィニッシュの表面が削り取られてツヤが出てしまうこともなく、指垢や汗の汚れが綺麗に落ちていく印象だった。拭き終わった後を手で触るとサラサラとしており、フィニッシュも無事だった。やはり、あまり力を入れて擦るのは禁物だが、汚れている部分をこじる様に集中的にクリーニングした後、全体を軽く拭いてやると美しく馴染むようだ。このポリッシュのユニークさは、ツヤのない塗装に使えば完全にマットな艶消しのまま、艶のあるクリア・コートの塗膜に使えばつるりとした輝きを得られる対応力の広さにある。試しに、サテン(ツヤ無し)のメイプル指板を軽く撫でてみたが、目立つツヤは全く出なかった。
オーガニック成分で構成されているポリッシュなので有毒な揮発性もなく、試した限り研磨剤も含まれている感じも無かったので(成分は未確認)、安全性も思った以上に高そうだ。さすがに浸透性の高そうなガンストック・オイル・フィニッシュのネックや指板等にダイレクトに使うには勇気のいるところだが(こちらに関しては、DEVISERの[ギター職人のオイルワックス]のようなもので保湿することが可能。ただし、クリーニング効果はポリッシュほどは望めない)、ひとまずマット・ボディのケアに関しては一石を投じる可能性のあるこのポリッシュについて、今後もケース・スタディを積み上げるメリットがあることだけは申し述べておく。
[この商品をデジマートで探す]
指板ケアの製品として柑橘系オイルの使用には賛否が分かれるのは皆さんのよく知るところではあるが、適切な容量、用途を把握して使うことにより、非常に便利な製品であることは言うまでもない。ギターの定番ケア剤として有名な指板オイル類は、専用の「指板クリーナー(TRICK [Fretboard Cleaner]など)」と「保湿オイル(ROCHE THOMAS [Premium Fingerboard Oil]など)」の効果を合体させた様な効果を持つ製品が多く、それぞれの専用液単体の効果には及ぶべくもないが、ギター・オーナーによる日常のクリーニング&保湿においては2つの行程を1回で済ませられることによる手間と時間の軽減、そして、高価な専用液を複数揃える必要がないというランニング・コストの観点から見ても、使用するメリットは非常に大きい。
レモン・オイルは、そういったものの中でも特に“クリーニング効果”に重点を置いた製品で、比較的粘度の低いサラサラとした溶液のものが多く、クロスで伸ばしやすく、広範囲に素早く効果を得ることができるのが特徴だ。FREEDOM CUSTOM GUITAR RESEARCHのLemon oil SP-P-11は、汚れを浮かして拭き取りやすくするクリーニングに適した効果はもちろん、天然素材のワックス系蜜蝋を含有した独特のとろみにより、普通のレモン・オイルの様にすぐに指板に吸収されて乾いてしまうことがなく、比較的長い時間、実用範囲の保湿力を維持できるという、ちょっと欲張りな高級レモン・オイルだ。
また、その他多くのメーカーから出されている製品と異なり、ラッカー塗装に反応しない成分で作られているため、グロス・フィニッシュを施されたメイプル指板の汚れ落としにも対応する(早めの拭き取りは必須)という優れものだ。ただ、やはりあまり色の濃い指板に使うとレモン・オイル特有の白みがかった色合いが目立ってしまう場合もあるので、薄めの色のウエンジ指板や、Rickenbackerの様に塗装されたローズ指板のクリーニングにうまく使うとよりその恩恵を受けやすいだろう。
[この商品をデジマートで探す]
アンティーク家具の手入れ用ワックス等で実績のあるHOWARD社の柑橘系オイルの定番品だが、その木材に優しい品質が評価され、ギターの指板メンテナンス溶剤としても多用されるようになった製品。先述した通り、指板用の複合用途オイルの役割は「クリーニング」と「保湿」の比率によって使い分けがなされるが、通常のレモン・オイルの効能をその割合で言うところの9:1、もしくは8:2あたりと想定するならば、このOrange Oilは5:5……つまり、「クリーニング」と「保湿」のバランスが非常によく取れていて、どちらの効果も期待できる製品であると言って良い。
レモン・オイルよりも粘りがあるが、伸ばすとスッと材に馴染む浸透性があり、長期間指板のウェット効果が持続するのが特徴だ。シリコンは全く含まれていないので、弦や指が触れた時のキシキシとした不自然な突っ張り感は皆無で、自然な運指を助けてくれる。さらに、安価なレモン・オイルみたいにオイルをつける濃度に斑があると指板がまだらになったり全体が白っぽくなるようなこともないので、色の濃いローズ指板等にも安心して使っていける。また、油を分解するD-リモネンが主成分であるため、汗汚れ等に対するクリーニング効果は抜群だ。
しかし、このD-リモネン、シールはがし等の溶媒としても知られるだけあり、特定の接着剤を分解する可能性も少なからずあるので、派手なインレイを施した盤面に使用するのはあまりお勧めできない。Orange Oilは一般のレモン・オイルよりもラッカー塗装等に影響が少ないとされることからよく確認もせず安易に使用される例も多く見られるが、デリケートな指板に用いる限り、その使用には細心の注意を払ってもし過ぎることはないということは憶えておこう。レモン・オイルが弦交換の度にケアする最も使用頻度の高いオイルだとすれば、オレンジ・オイルはケースに長期間保存してあったギターや使い込んだオールド・モデルに潤いを呼び戻すために使うオイルとして最適と考えて良いだろう。
[この商品をデジマートで探す]
ネックの“反り”の要因はいくつもあるが、そのひとつが指板のメンテ不足からくるものであることは明白だ。季節により高湿と乾燥を繰り返すこの国では、フィニッシュで保護されていない指板は空気中の水分量に対してまさに無防備。引き起こされた変形や割れは、ギターそのものを機能不全にしてしまうことも珍しくない。異なる材と張り合わされた非常に硬い素材であるローズウッドやエボニーのメンテナンスは、ギターを購入したその日からでも始めなければならない、オーナーにとって最重要課題のひとつである。
そんな中で、FERNANDESのRose Neck Oilは強力な保湿力を持った指板専用のクリーニング・オイルとして、常駐のケア・グッズの中でも多くの層から安定して高い評価を得ている製品である。シダー(杉)系の油分を主成分とした粘度の高い溶液で、特に暗い色の木材のツヤ出し効果は柑橘系オイルの比ではない。しっとりと材に馴染み、乾きも遅く、それほどの量を付けなくとも拭き取り無しには指板に触れられないくらいの、たっぷりとした油成分によるコーティング効果が得られる。このオイルで拭き締めておけば、梅雨時のライブや、真冬の長距離輸送時にも指板コンディションに関する不安を一定の割合で軽減させることができる。「クリーニング」と「保湿」の効果の割合で言えば2:8ぐらいのイメージだが、実際に使ってみると清掃時の汚れを除去する効果もしっかりと実感できるはずだ。
このオイルは残念ながらラッカー塗装に反応してしまうため、使用の際には指板が「無塗装」であることが最低条件ではあるが、それでも薄いラウンド貼りのものなど、いったん精度に狂いが生じるとメンテナンスの難しい指板をより長く使うために、このオイルの導入は実にコストパフォーマンスに優れた現実的な選択肢だと言える。溶液の放つ防虫効果を含んだ独特の木油の香りもさることながら、行き届いたメンテナンスをされた鈍く輝く深い色のローズ指板の気高さは、プレイヤーをより“うまく”見せるものだ。
[この商品をデジマートで探す]
ギターにおいて、弦が接触するパーツというのは「サウンドが生まれる場所」であり、それは激しく接触を繰り返すことが常の「消耗品」でもある。特に、フレットという場所は音楽にとって必要不可欠なファクターである“正確なピッチ”を決定する部分でありながら、叩かれ、擦られ続けるだけでなく、指の油や汗を直接浴びるギターの中でも最も激しく酷使されるパーツのひとつである。怠け者のオーナーが所有するギターで、フレットが不細工に段々になっていたり酸化してくすんだ色になったものを見かけることがあるが、もはやそんな状態になったギターで聴ける演奏など、例えそのプレイヤーが一流のテクニックを持っていたとしても聴く価値などないと断言できる。
メンテナンスされていない凹んだフレットに弦を置くと、ひとつのフレット内で複数の接触点ができて音が汚く濁る。さらに、表面が酸化して曇ったフレットは、弦本来のきらびやかな響きを失わせ、ギターらしい高域の出音を極端に削ってしまう……。それでも、従来からフレットのメンテナンスはプロのリペアマンの仕事であるイメージが強く、素人がなかなか手を出せない箇所として良くないとは知りつつ放置されることが多かっただけに、このJPL FRET POLISHERの様な製品提示は、一般のギタリストにとってフレット・メンテナンスへの敷居の高さを何段階も下げる効果があったのは間違いない。
FRET POLISHERは、目の粗さの違う2種類(微細キズ取り・汚れ落とし用/仕上げ研磨・ツヤ出し用)のフレット専用ラバー砥石と、指板を傷付けないためのガイドがセットになった汎用の「フレット磨き」だ。セラミックの粒を埋め込んだ柔軟性のあるラバー砥石をフレットの湾曲に密着させ、自らの手で簡単にフレットを研磨・整形(目立つキズを除去する程度)することが可能だ。ピカールを付けたクロスや金属磨き用のワイヤーブラシなどでは、指板に思わぬ傷をつけてしまったり、万が一指板に余分な研磨液が流れ込んだりすると、“フレット浮き”や、悪くすれば指板を変色させてしまうことにもなりかねない。そう考えると、専用の大きさにカットされた砥石を、力の入る形の取手付きホルダーを使って偏りなく物理研磨できるこのデザインは、非常に安全かつ合理的だ。数回弦交換をする内の1回にFRET POLISHERを使用するだけで、スムーズなチョーキングと生き生きとした弦本来のサウンド、そして何よりも安定したピッチを回復できるのは素晴らしい。ちなみに、サード・パーティーのKC(KYORITSU)[PFB-500]や、HOSCO[FPR180/400/1000]等を組み合わせても同じ様なことができる。よりフレット磨きに拘りを持つ様になったら道具を選んでみるのも良いだろう。
[この商品をデジマートで探す]
チューニングが安定しない原因の大半はトレモロ・ユニットやマシンヘッドといったメカ系ギミックよりも、むしろ、ナットもしくは、その他の弦接触パーツにおける摩擦係数が大きく関わっていることをご存知だろうか? そこに弦が“引っかかる”ことで、チョーキングやトレモロ・アームを使用した時だけでなく、シンプルに押弦しただけでも弦が「戻らなくなる」からである。そんなチューニングを不安定にさせる要因を取り除くために生まれたのが、弦メーカーとして知られるDean Markleyがプロデュースするこのギター用潤滑剤Dean’s TUBA LUBAである。
主成分となっているPTFE(ポリテトラフルオロチレン=いわゆるテフロンのこと)が、弦の触れているパーツの一部分にピンポイントな簡易フッ素皮膜を作り、接触部の滑りを良くするという仕組みだ。使用方法は簡単で、スポイト状になっている抽出口から適量を目的の箇所に注すだけ。液自体に程良い粘度があるので液ダレの心配はないが、注し過ぎたらその都度拭き取る様に心がけよう。とはいえ、非石油系の100%化学合成オイルなので、万が一液をこぼしても指板などにすぐにダメージを与えてしまう可能性はまずない。当然、ナットの材質が牛骨であろうとカーボンであろうと、はたまた金属やプラスチックであろうとも、パーツを一切浸食することなくその効果だけを確実に得ることができる。他にもDean’s TUBA LUBAは、サドルの溝、ブリッジのガイド、ストリング・リテーナー、ゼロ・フレット等、弦が通るあらゆる場所に注すことで、もはやほぼ物理的に弦が“伸びる”以外に、理論上──少なくとも弦に起因して起こるチューニング変化の要因の一切を取り払えるのである。当然、ブリッジのコマ上などで発生する“引っかかり”による弦切れを防止する効果についても大いに期待して良い。溶剤の効果を様々なギターで試した結果、やはり裏通しやヘッド角をキツく取っているテンションの高いギターの方が効果が顕著であった。
ただ、ひとつ注意して欲しいのは、やはりナットやブリッジに注す場合、皮膜によって音が多少なりとも変化することは否めない点だ。これは接触部のパーツの材質にも寄るが、基本的に宣伝されている通り全体的にブライトになり、特にブリッジが金属だとハイ・ミッドのレンジが広がると共にローは逆にタイトになる印象だ。もし、その音の変化が気に入らない場合は、ナットに限ってだがSuper-Vee[Super Glide Nut Evolution]の様な製品に頼る手もある。こちらは固形グリスに近い粘度を持ったナット専用潤滑油で、特に牛骨やプラスチックの素材が使われているナットでは音質変化が少なく、潤滑効果もDean’s TUBA LUBAより長く持続させることができる。どちらにせよ、もうナットに鉛筆やリップ・クリームを塗りたくるといった時代が終わったことだけは確かなようだ。
[この商品をデジマートで探す]
半世紀にも渡る販売実績を誇る、TONEの大定番商品Finger Ease。正しく使用することで弦の汚れやサビを除去し、さらに、正確なフィンガリングの大敵である金属弦特有のあの指やピックに引っかかる様な嫌な摩擦を抑えることのできるこのギター弦専用の潤滑油を、すでに愛用しているユーザーも多いのではないだろうか。とにかく、弦のコンディションがおかしければ何でもかんでもFinger Ease! とされるほどにギタリストから絶大な信頼を置かれ、特に湿度の高い日本で弦の寿命を延ばすのに、その使用はもはや「義務」とさえ言われている。だが、それほどまでに高性能なアイテムにもかかわらず、実のところ、ユーザー側の“使用環境”の方があまり芳しくない。まさかとは思うが、Finger Easeを何も保護していないギターの上から、弦に向かって大量に吹き付けたりしてはいないだろうか? 最初に言っておくが、そんな使い方は絶対に厳禁である! この製品に使われている油はあくまで金属専用であり、木材……特に塗装のされてない指板にとっては有害であることをまず認識しよう。
正しい使い方は、あくまでも手に持ったクロスに数回吹き付けて、そのクロスで弦を上下から優しく挟む様に包んで1本1本まんべんなく塗着させていくのが本流だ。理想を言えば、ギターが弦から離れている状態──つまり、新品の段階でFinger Easeを含んだクロスで弦を拭き上げ、その後、それをギターに装着して使用して欲しい。弦を張った後は、どうしてもサビや汚れで指の滑りがスムーズに行かない時のみ、しっかりと弦を緩めた状態で、クロスがなるべく指板に触れない様にしながら、こちらも1本ずつ丁寧に磨き上げていくに限る。間違っても、張った弦の上から指板に向かってブシュー! などは言語道断。もし、Finger Easeで指板をベタベタにしたまま放置する様なことがあれば、それはフレット浮きの原因になったり、悪くすれば、指板そのもののゆがみ、割れ、剥がれといった重篤なトラブルを引き起こしたりする可能性すらある。ライブで汚れた弦にすぐに使用したい気持ちはわかるが、すでにFinger Easeが施されている弦ならば使用後は乾拭きで十分だ。使うタイミングは必ずギターを弾く直前に限定し、ハード・ケース等に保管する前のギターに張ったままの弦には決して使用しないことが肝要だ。そうやって正しい使い方さえ守れば、通常の弦はおろか、すでに高品質なコーティング弦すらその性能を向上させることが可能であり、これほどギタリストにとって直接的に利益をもたらすケア・グッズは他にはない。
ここで、ひとつリペアマンがよくやるFinger Easeのオススメの使い方を紹介しておく。それは新品の弦を100円ショップ等で売られているジップ付きのビニールに入れ、その中にFinger Easeをひと噴きしてから保存する方法。弦交換の時にはそれを取り出して、ギターに装填する直前に乾いたクロスでその弦をさっと拭うだけ。たったそれだけで、新品の弦を腐食から守れるし、面倒な手間をかけずにFinger Easeを弦全体に行き渡らせることができるだけでなく、指板に余分な液が付着することも防止できる。また、あちこちでFinger Easeを吹き散らして、自宅の床がボーリング場のようにツルツルになってしまっているユーザーにとっても、この方法は実に有効なはずだ。
[この商品をデジマートで探す]
プレイヤーが直接触れる消耗品だからこそ、弦の正しいメンテナンスは常に心がけたいものである。だが、液状のコンディショナーは必ずクロスが必要になるし、持ち運んでいる最中に万が一ハードケースの中で液漏れを起こしたら……と考えると気が気でない部分も確かにある。だが、このPlanet Waves(D’Addario)のString Lubricant and Cleanerがあればそうした問題は一気に解決するだろう。
製品は専用の乾燥防止カンの中に、取手の付いたスポンジがひとつ入っているだけというシンプルなもの。スポンジは、見た目はドライに見えるが、触ってみるとしっとりと溶液を含んでいるのがわかる。使い方は簡単で、ギターを使う前にこのスポンジ面で弦を上から軽くひと拭きしてやるだけ。たったそれだけで、Finger Easeを使用したのとほぼ同等の弦の滑らかなスベリを手にすることができるのだ。最初から液とスポンジが一体化しているので、わざわざクロスを用意する必要もなく、また、余分な液ダレで指板や塗装にダメージを与えてしまう心配もない。強めに塗布するにはやはり弦と指板の隙間にクロス的なものを挟み込むのがよりベストではあるが、緊急的に使用するならば、弦の下に指を置いてその上から撫で付けるだけでもOK。
とにかく省スペースの上、溶液も弦の上でグリス状に固形化したりしないので実に扱いやすい。ただし、こちらはFinger Easeとは異なり、弦の上面にしか貼塗されないので、指の触れない弦の裏側における錆び止めやクリーニングの効果までは期待できない。練習やライブ直前に塗るなど、持ち出し用として場面場面で使い分けると良いだろう。
[この商品をデジマートで探す]
新品の弦に入れ替えるたびに起こる、弦そのものの“伸び”によるチューニングの狂い。ギタリストならば誰しも通るこの難問に、ひとつの解法を示したアイディア商品がこのString Stretchaである。使い方は、ガイドの溝に弦を通して、「ゆっくり」「均一な速度」で1本1本その弦を軽く引きながらスライド往復させるだけ。作業をひと通り終えれば見事にピッチの狂わない弦が完成する。
新弦を使う時の、あの長時間の「均し」作業ほど人を苛つかせる行程はない。伸ばし過ぎて弦が切れる恐怖と常に戦いながら、痛くなる指であちこちをつまみ上げたりしていると、いくら丁寧にやっても指にかかる力で弦全体にムラや捻れができる。アーム・アップして強引にストレッチしたりすれば、ブリッジの力がかかる付近に妙な“折れグセ”が付いてしまい、アームを戻した時に弦のサドルへの張り付きが悪くなる。この理不尽な行程はギタリストを大いに萎えさせ、結果、もういっそこのピッチの安定は諦めて、弾きながら何十回ものチューニングのやり直しを行なう愚行を受け入れようと考えさせたり、あげくは某ギタリストよろしく弦を熱湯で茹でたりするオカルト的な方法に走る者まで現れる始末だ。それを鑑みると、この僅かな投資で指先を痛めることなく弦を安全に、短時間で均一に伸ばすことのできるこのアイテムの存在は実に頼もしい。プレーン弦……特に1弦や2弦といた細いものほどその効果は明白だ。
もちろん、力加減を掴めないうちは、弦を伸ばし過ぎていわゆる弦が“死んだ”状態になってしまい音を殺してしまうといった可能もないではないが、コーディング弦以外の生弦であれば個体差はあっても基本的にコツは変わらない。一度正確なやり方を掴んでしまえば、弦交換にかかる時間を恐ろしく短縮することができ、新しい弦を使うこと自体が楽しくて仕方なくなるはずだ。使いこなすほど長く使える品なので、弦交換直後のチューニングにひと言あるユーザーならば、初心者〜ベテラン問わず一度は試して欲しい逸品である。
[この商品をデジマートで探す]
弦のペグ・ポストへ巻き付け具合によって出音が変化するという事実は、実はあまり知られていない。だが、ただでさえ面倒な弦交換の折、実際に巻き数や、巻き終わりの位置が生む音色の違いまで気を回せるユーザーがどれほどいるというのだろうか? とはいえ、弦の終端であるポストの巻き数を意図的にコントロールして、実際にナットにかかる負荷に応じた音質の違いを引き出したり、弦同士のテンションのばらつきを揃えることができれば、それは等しくプレイアビリティの向上に繋がるに違いない。そんな時、プレイヤーを助けてくれるのが、このESP STRINGERである。
要するに、弦を切断する長さを均等にできる専用のスケールというわけだ。線上に書かれている数字は実際の巻き数で、ベースの場合はポストの径に応じて3種類、そしてギターは上から弦を挿す「TOP HOLE」と、横から穴に通す「SIDE HOLE」の代表的な2つの支柱のタイプに対応する。あらかじめポストへの巻き数を決めて弦を切断しておき、それを巻き付けるだけというシンプルな構造だが、これを全て勘でやろうとすると、ギターの場合6本の弦を全て同じ長さ、巻き数で揃えるのは至難の業だ。いつかはこのスケールがなくてもできる様になるかもしれないが、まずはアバウトな感覚に頼ろうとする安易な考えを捨て、その効果を実感して欲しい。
最初はペグのメーカーによって多少の誤差が出たり、チューニング時の弦の伸びによって巻き数に狂いが生じたりするかもしれないが、いずれも数回弦を交換する間にその適性が正確に掴める様になる。これは決して重箱の隅をつつくレア・ケースでも、雲を掴む様な都市伝説でもない。全てのギター、ベースに応用の効く、最も原始的でありながら確実なストリング・メカニズムの正法なのである。この仕組みを正しくマスターすることは、最終的にギターという楽器の出音の本質を理解するのに必ず役に立ってくれるはずだ。
ちなみに、『デジマート地下実験室〜地下31階』では、この巻き数と音質の関係について取り組んだ興味深い実験結果を公開している。そちらも参考にしながら、STRINGERの重要性について今一度考えてみると良いだろう。
[この商品をデジマートで探す]
ギターの弦交換に欠かせない必需品と言えば、ストリング・ワインダーをおいて他にはないだろう。新しい弦に入れ替える度に、ギア比の低いものだと何十回転させなければならないペグを、早く巻けるワインダーの存在は確かに便利なのだが、手動のものには意外に欠点も多い。その最たるものは、やはり手回しゆえの軌道の不安定さからくる事故で、回しているうちにワインダー本体がヘッドに当たって傷をつけたり、悪くすると、古いクルーソン・タイプなどではペグ・シャフトに無理な角度で力を加えて軸を折ってしまうことさえある。また、指でペグを回すよりは効率的とはいえ、手動のワインダーでも連続で何本もの弦を交換すれば腕は間違いなく疲労するし、やはり時間もそれなりにかかってしまう。
そこで活躍するのがこのERNIEBALL Power Pegのような電動式のワインダーである。これは電池で駆動するタイプのペグ回し専用マシンで、トリガーを引くだけで自動的に弦を巻いたり緩めたり(逆回転可能)してくれる。当然、何本弦を替えても腕が疲労することは全くないし、何と言っても、どんな角度からでも正確な軌道でペグを回すことのできる機動力の高さが光る。トルクは万が一のことがあってもペグを破損するほどの力がかからない様に調整されているし、巻き取りの速度も程良くゆっくりなので、急激に弦を張って切ってしまう様なこともない。サイズも小型軽量で手首に負担がかからない上に、これは実際に使ってみて気がついたのだが、ギターを置く場所やスタンドが1本もないところで弦交換が必要になった時などに、手動で交換するのに比べて、このアイテムを使った交換は楽過ぎて恐ろしいほどであった。ギターを毎日弾く人ほど、ひとつ持っていて決して後悔しないアイテムだ。
もし、電池交換が面倒で、自宅に汎用の充電式(コード式はギターに電源コードが絡まったりするので、あまりオススメはしない)のドライバーがある人ならば、ビット・タイプのペグ・ワインダー・ヘッドPlanet Waves[PW-DBPW-01]を試してみると良い。これならば6.35mm軸が使えるハンド・ドリル等にも装着して使えるので経済的だし、ERNIEBALL Power Pegでは対応していない幅の広いベース用ペグ・ツマミも回すことができる。ただ、こちらはきちんとトルクを調節しないと巻き過ぎで思いのほかペグに負荷をかけてしまうこともあるので、十分にハードウェアの安全に配慮しながら使って欲しい。
[この商品をデジマートで探す]
わずらわしいロック式フローティング・トレモロの弦交換をスムーズにしてくれる便利グッズ、SHRED NECKのTremBlock。その名の通り、フロイドローズ等の後方に挟み込んで強制的に“アーム・ダウン”状態を作り出すための樹脂製のスペーサーである。
いわゆるアーム・アップできない「ベタ付け」タイプならまだしも、弦の張力とバネの力で釣り合いながら平衡を保つフル・フローティング・トレモロの場合、通常、そうした機構を搭載したギターの弦を入れ替えるには、弦を外してプレート全体が起き上がってしまわない様に、1本ずつ弦交換を行なうのが定石であった。しかし、それだと常に何本かの弦が張られている状態が続いてしまうので、指板やロック・ナットの手入れができないというデメリットが付きまとうことになる。そこで、このTremBlockをユニットの下に差し入れることにより、スプリングをいちいち外すことなく全ての弦を外すことができる様になり、その隙に、好きなだけ指板まわりの掃除やメンテナンスできるようになるというわけだ。
本体は硬質なプラスチックでできており、ユニットのロック・スクリュー側の尻を受け止める箇所は、設定された弦高に応じて多少プレート位置が低目でも対応できる様に傾斜が付けられている。裏側はクッションが付いていてギターの表面を傷つける様なことはない。いかにも自作のスペーサーで代用できそうに見えるシンプルな形状だが、実際に代用品を見つけようと思うと、この薄さと強度──そして軽量且つ安全という条件を満たす素材はすぐには見つからない。ひとつあれば半永久的に使える今まで有りそうで無かったこのグッズ。大した投資でもないので、ロック式トレモロ搭載ギターのオーナーならば、すぐに手に入れて今日からでも使ってみて欲しい。弦交換でいつも感じていたストレスの大半がなくなると同時に、それにかかるスピードそのものも絶対的に速くなるはずだ。ただし、ザグリにトレモロ・ユニットが沈んだ状態のものや、スタッド・スクリューを下げ切ってしまっている様な場合、アーム・ダウンしきっても後方にTremBlockを入れるスペースが生まれない場合もあるので、実際に自分のギターで使用可能かどうか、まずはきちんと見極めて使うことが大切だ。
[この商品をデジマートで探す]
フロイドローズ搭載ギターを所有しているギタリストにとって、「オクターブ調整」は、その言葉がトラウマになってもおかしくないほど彼等を苦しめている作業のひとつのはずだ。弦をロックするタイプのトレモロゆえの悲劇とでも言おうか……フロイドローズで正確なオクターブをとるためには、まず、対象となる弦のチューニングを合わせなければならない。弦のチューニングを合わせるためには、サドルの固定は必須である。そして当然ながら、サドルを固定した状態でオクターブが合っていなければもう一度サドルを適当な位置に動かし直さなければならないが、フロイドローズが厄介なのは、このサドルを固定するボルトを緩めた瞬間にサドルが弦に引っ張られてしまうところである。そのため、もう一度サドルの位置決めからやり直すためには、完全に弦を緩めなければならないのである。これが実に面倒くさい。そして、それを6本の弦で全て行なった後、フローティングや弦高調節した時に生じる狂いに合わせ、また最初からチューニングとオクターブ調整を繰り返さなければならない……。まさに賽の河原で石を積むがごとく、永遠に続く地獄のループだ。
だが、MontreuxのThe Key Intonation Toolを使えば、ファイン・チューナー部分を後ろから支えることができるため、サドルを解放しても弦に引っ張られることがなくなり、弦の張力を保ったまま作業ができるというわけだ。しかも、The Key Intonation Toolのツマミを回せば、そのままサドル位置を微調整できる。トレモロを採用したギター・メーカーによる付属のコンポーネント・パーツとしては、たまに似た機能のものを見かけることはあるが、単体で一般に販売されているものはそれほど多くなく、それがすぐに手に入る環境があるというのは有り難い限りだ。ただ、残念なことに、この製品は純正のフロイドローズにのみ適応するため、他社のロック式トレモロには基本的に使用できない。それでも、フロイドローズ限定とはいえ、その気の遠くなる様なオクターブ調整の手間をぐっと短縮してくれるこの便利なグッズの存在は、ロック式トレモロの普及そのものを大きく後押しするに違いない。
[この商品をデジマートで探す]
今回は、身近で使うことの多いギター用のケア・グッズを集めてみたが、いかがだっただろうか。時代が移っていくたびにケア製品の世界もどんどん変化しているが、今回のラインナップを見ていただくとわかる通り、定番と呼ばれる商品は意外と昔からあるロングセラーな商品が多いことには驚かされた。Finger Easeなどは間違いなく30年以上前からあったのを憶えている。まだ10代だった頃に、よく通っていたスタジオのバイト君が、客の忘れていったFinger Easeを休憩室で押しつぶしてしまい、その後何年もずっとその床がツルツルだった思い出がある。
あと、今回はデジマートの在庫の関係でラインナップとして紹介はできなかったが、『指板オイル/クリーナー』の項で少し触れた、TRICK[Fretboard Cleaner]、ROCHE THOMAS[Premium Fingerboard Oil]といった私も自宅で愛用しているリペアマンも御用達の指板用溶剤についてもここに検索リンクを載せておくので、気になる人はデジマートに在庫が上がるかどうかをこまめにチェックしてみるのも良いだろう。「クリーナー」や「保湿」にそれぞれ特化した製品なので、きちんと用途で使い分けていけば手間はかかるがレモン・オイル等より効果的に指板をケアできるはずだ。また、こちらは掲載スペースの関係で省くことになったが、ナットの潤滑油としては、Lizard Spit[Slick Nutz]なども今回試していて非常に有能だと感じた。
何十年も前からある製品の信頼性と、新しく加わった製品の安全性と使いやすさ……ギター・ケア・グッズの世界も新旧が入り交じって良い競争関係が生まれ、近年、その品質がとみに高まって来ているように感じる。それは、まるでギターの新旧市場の間でせめぎあうトレンドと全く同じ様な関係性にあるように思えて、共に時代を経る中でギタリストの傍らにあった両者の不思議な因縁について想いを馳せずにはいられない。
それでは、次回の『Dr.Dの機材ラビリンス』もお楽しみに。
今井 靖(いまい・やすし)
フリーライター。数々のスタジオや楽器店での勤務を経て、フロリダへ単身レコーディング・エンジニア修行を敢行。帰国後、ギター・システムの製作請負やスタジオ・プランナーとして従事する一方、自ら立ち上げた海外向けインディーズ・レーベルの代表に就任。上京後は、現場で培った楽器、機材全般の知識を生かして、プロ音楽ライターとして独立。徹底した現場主義、実践主義に基づいて書かれる文章の説得力は高い評価を受けている。