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- 2024/11/16
iOS対応オーディオ・インターフェース
iOSデバイスを活用しているミュージシャンやクリエーターの紹介は今回で一区切り。トリを飾るのは多くのレコーディングに参加し、音楽制作や執筆活動もこなされるプロ・ギタリストの鈴木健治さんです。果たして鈴木さんはiPadをどのように活用されているでしょうか?さっそく伺ってみましょう!
今回のゲスト 鈴木健治さん(ギタリスト)
── 音楽アプリはいつ頃から興味を持ちましたか?
音楽アプリは、オンライン・ショップやiTunesなどで楽曲配信を始めた2011年頃、iPadの音楽制作に興味を持って触ったのがきっかけです。使っていくうちに、全てこれだけで作品ができてしまうのでは? と感じ、2013年頃から本格的に使い始めるようになりました。当時のアプリは、チップチューン・サウンドのようなガジェット的なアプローチが多かったですが、一般的な楽曲制作にも十分対応できるものも徐々に登場していましたね。ソフトウェアがコンピューターの進化と共に普及したように、iPadの性能はもちろんですが、音楽アプリもこれから進化していくのだろうという期待感がありました。それからたった数年で、マイキングから録音、ミックスダウン、そしてマスタリングまでがiPadで完結するとは想像できませんでしたけどね。
── 音楽アプリはどのように活用されていますか?
普段はMacを制作のメインにしていますので、iPadはモバイル・ツールとして外出中にアイデアを書きとどめる時などに重宝していますが、あえてiPadだけで音楽制作することもあります。そうするとギターや鍵盤の演奏技術に頼らず、新しい発想で音楽できるからです。例えばパッド・サンプラー・アプリと言うべきUVI BeatHawkは、まさに演奏技術に頼らない制作ツールとしてドンピシャです。音が好みで最近一番多く使っています。
アンプ/エフェクト・シミュレーターはPOSITIVE GRID Bias FXを使用してます。Mac版も持っているのですが、ミニ・ライブやセミナーでは手軽なiPad版が便利ですね。エフェクトの並べ方を考える時にも重宝します。ハードでは難しい無謀な接続もバーチャルだと安心してできますので。
これだけあればアンプもエフェクターも十分ですね。ハードウェアの特性をかなりリアルに再現しているので、本物のアンプから出た音をマイクで拾ってスピーカーで聴き比べてもほとんど分からないと思いますよ。アンプのヘッドルームを下げた時のひずみ方など、本当に良くできています。同じメーカーのBias Ampは、アンプの内部構造を自分でデザインしてオリジナル・サウンドを作ることができるアプリです。普通、実機のトランスを入れ替えたりなんて絶対できませんよね。内部開けて触れませんから(笑)。それが指1本でできて、好みのサウンドが作れてしまう。良くできてますよ。
BeatHawkを導入する前は、楽曲構築にSTEINBERG Cubasisをメインで使用していました。音源アプリもたくさん所有していますが、その中でもIK MULTIMEDIA Sampletank for iPad、ICEWORKS Xenon Synthesizer、PROPELLERHEAD Thor Polysonic Synthesizer、STEINBERG Cubasisの内蔵音源をよく使用します。
少し変わった音楽アプリとしてはONE GROOVE Final Guitar Pro。これは音楽理論的なことが目と耳で確認できるギター・アプリ。コード進行も打ち込めるのでアドリブ演奏が楽しめます。ギターの指板を理解するためにもとても便利なアプリですね。
── 周辺機器は何を使ってますか?
オーディオ・インターフェースとしてZOOM U-44をメインで使用しています。多機能なのに簡単で音も良く、電池駆動も可能。ヘッドフォン・アウトの音量や音質もバッチリなので言うことないです(笑)。また、APOGEE Jam 96Kもギター・アプリとの相性が良いので使っています。MIDIキーボードはMacと兼用でKORG MicroKey 2を使ってますが、あえて鍵盤を使わないという意味でもiPadの画面だけでなんとか済ませる場合もあります。
ギターをオーディオ・インターフェースにつなぐ時、必ず使うのがOVALTONE Moment(生産完了品)。ハイインピーダンス信号をローインピーダンス信号に変換するバッファーで、ハードのアンプの時に使っています。アンプ・シミュレーターの場合もこれを通すと音作りしやすいです。
── 音楽制作においてハードやソフトはどのように使い分けていらっしゃいますか?
モバイル環境で言えばアプリが圧倒的に有利ですが、ハードだからアプリだから、ということにはあまりこだわっていないんです。むしろどっちでもいいと言うか…… それよりも、その音楽はどういう目的で作られたのか、その目的は実現されているか、というところに一番興味がありますし、それがモノづくりの魅力だとも思うんです。例えば、OVALTONE Q.O.O. Blue edition(オーバー・ドライブ)からZOOM G5N(マルチ・エフェクター)へ、それをさらにBias Ampに通してそれをBeatHawkで仕上げるといった「何でそんな接続をするのか?」と思われるようなことも、私にとってはとても自然で、良い音で記録するための手段としてごく普通の事。自分にとって楽器の良し悪しを決めるのは、「ずっと弾いていたくなるか、ずっといじっていたくなるか」なので、ハードかソフトで判断することはないんです。
── 昨今の音楽制作環境についてどのような考えていらっしゃいますか?
20年前なら数千万単位の費用が必要だったことが、今では10万もあれば…いや、もっと少なくてもできてしまうんですよね。そして演奏能力がなくてもテクノロジーによって形にできるようになった。つまり演奏技術の限界=音楽制作の限界では無くなったということですね。しかしさまざまなシチュエーションにおいて、高い経験値が必要とされる目的をテクノロジーでサクッと再現できるようになるには、機能や機材のチョイスも含めまだ時間がかかるでしょう。また生演奏は私にとって何よりも重要なことですし、そこを捨てることはありません。テクノロジーの恩恵は受けてますが、それらに使われないようにしないという気持ちでいます。そういった意味でも自分もまだまだ日々勉強です。僕にとってiPadはアイコンをタッチするだけで音楽出来る素敵なおもちゃであり、作業の手助けもしてくれる良きツール。質の高い音源は作れますし、世界中に届ける手段も今やいくらでもあります。上手に付き合いながら自分も成長していきたいですね。
オンライン・マガジン鈴木健治の「週刊宅録ギター」 https://note.mu/kenjisuzuki/m/m88ca3dd824d5
鈴木健治オフィシャル・サイト
http://kenjisuzuki.net/
<次回2016年10月13日(木)更新予定>
いっちー(市原 泰介)
サウンド&レコーディング・マガジン編集部WEBディレクター。学生のころから作曲やDJ活動、バンド活動などの経験を積む。某楽器販売店を経てリットーミュージックに入社。前職では楽天市場内の店長Blogを毎日10年以上更新し、2008年ブログ・オブ・ザ・イヤーを受賞。得意ジャンルはクラブ・ミュージック。日々試行錯誤中。