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- 2024/11/25
Paul Reed Smith / McCarty 594
2000年頃だろうか? それまでマニアックなギター・ファンが知るアメリカ製のハイエンド・ギター、という印象だったポール・リード・スミス(以下PRS)が、テクニカルで新しいスタイルを確立した個性的なギタリスト……例えばリンプ・ビズキットのウェス・ボーランドやリンキン・パークのブラッド・デルソン、クリードのマイク・トレモンティ、そしてインキュバスのマイク・アインジガー等が使用したことで、楽器としてのクオリティのみならず「ラウド・ロックに最適なギター」として市場を席巻することになった。この功績がPRSギターのブランド・バリューを一気に加速させ、広く「PRSは憧れのギター」というイメージを定着させた。しかし、CEOであるポール・リード・スミス氏はこのPRSに対するイメージに対して「PRSは何もヘヴィ・ロックだけのギターではない」という思いを強く持っていた様で、その後はポール氏自身のルーツであるアメリカン・ロック・サウンドを思わせるビンテージ・テイストのギターを多くデザインしている。自社でデザイン/製作されるピックアップもロー・ワウンドでロー〜ミドル・パワーのものが多くなっていく。
そんなPRSが発表した最新のモデルが、このMcCarty 594だ。ビンテージ・ギターからヒントを得つつも、親しみやすく、高いプレイアビリティも同時に兼ね備えた、まさに最新のPRSギターを体現したモデルだと言える。オールド・セットネック・モデルを連想させる、好評の“パターン”ネック・グリップをさらにブラッシュアップし、ビンテージ・テイストを加えた“パターン・ビンテージ”ネック・シェイプを採用。モデル名の由来ともなった24.594インチの絶妙なスケールも見逃せない。さらにマニアックなこだわりとして、ギアの滑りを防止することでチューナーでの弦振動ロスを抑え、振動を可能な限りボディへ伝える新開発チューナー「Tweaked Phase III」を搭載。信頼性の高さだけでなく、トーンまでコントロールしようというPRSらしさが垣間見える。
リッチでオーセンティック、ビンテージ・テイストのハムバッキング・トーンと甘いシングルコイル・サウンドの両方を求めるギタリストにとって、コイルの巻き数を抑え暖かくクリアなトーンを実現した58/15 LTピックアップと、プッシュ/プル・タイプのコイルタップ付きトーン・コントロールから引き出される全てのトーンは、リアルで実用的なものだ。左ホーンに配されたトグル・スイッチと2ボリューム/2トーンのレイアウトや、いくつかのキーになるスペック、そしてPRS独自のクラフツマンシップがひとつになり、どのポジションでも正確なチューニング、イントネーションで演奏できるという基本的なPRSイズムを継承しながら、さらに長年弾き込んできたギターの様なフィールも兼ね備えている。
McCarty 594はジョン・メイヤーとのリレーションシップもかなりフィードバックされている様で、PRSらしさとジョン・メイヤーの様なギタリストが求めるトーンと弾き心地に関しての意見が取り入れられている。ジョン・メイヤーは「ビンテージ・ギターの様な音色とスピリットを持ちながらテクニカル面でも優れているギターである」とコメントしており、例えばフレッティングやピッチ感の素晴らしさだけでなく「ギター愛好家/ギター・マニア」の求める、古き良きビンテージ・トーンが同居している、と語っている。それは、これまでもPRSが目指していたギターのスタイルでもあるが、さらにそのクラシックな音色と、抜群のプレイアビリティのバランスに磨きがかかっていると言えるだろう。
間違いなく「PRSギターの音色」を持つモデルだが、どこか懐かく慣れ親しんだオールド・ロックのテイスト、つまり「あの時代のギターが持つ音色」も、これまでより強く感じられるギターだ。木の鳴りとエレクトリックのバランスが素晴らしい意欲的なモデルと言えるだろう。ぜひ手にとって確かめてほしい。
価格:¥580,000 (税別)
村田善行(むらた・よしゆき)
株式会社クルーズにてエフェクト・ペダル全般のデザイン担当、同経営の楽器店フーチーズ(東京都渋谷区)のマネージャーを兼任。ファズ関連・エフェクター全般へのこだわりから専門誌にてコラムを担当する他、覆面ネームにて機材の試奏レポ/製品レビュー多数。