AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
HIKASIRA equipment / 3301 “True Drive”
日本製、アメリカ製、イギリス製、イタリア製……さまざまな国で製作されるペダルがあるが、例えば同じ回路を組み込んでも、その音色には違いが生じると思う。その理由にはいくつもの要因が挙げられるが、例えば湿度や気温、そして電源に加えて、ビルダーの耳が重要になってくる。例えば、ヨーロッパは滑らかでピークが無く、日本はそれに近いが、もう少しフラットな特性。アメリカはハイ上がりで、イギリス人はミッドレンジにフォーカスした印象……といった分類ができるのではないだろうか。
日本製のオーバードライブであるこのHIKASHIRA equipmentの3301“True Drive”は、日本人の耳ならではのフラットでそれほどクセの無いチューニングを、高品質なブラス素材のシャーシに収めることで、独自のトーンを作り出している。1台1台、丁寧に調整して組み付け、ハンド・ワイヤードで仕上げられたサーキット自体は、レスポンスを重視したチューブ・ライクな音色を作り出しており、弾き手によってかなり多彩なトーンが引き出せるだろう。「何々系」というくくりを持たせていないが、印象としては本当に「フラットなオーバードライブ」だと思う。しかし「フラット」なペダルは実に音作り(サウンド・デザイン)が難しい。フラット過ぎると「すっぽ抜けた」音色になるし、特定のポイントにピークをつけると、音楽やミュージシャンを限定してしまう。そういった意味では、この「フラットなチューニング」と「ブラスの筐体」は良い効果を生み出しているだろう。ブラスのシャーシが持つ、重心の低い倍音(変な言い回しだが)が歪みに腰の強さを生み、高域倍音の散らかりを抑えている。
トーン・コントロールはまさに日本的で、いろいろなアンプで使いやすくチューニングされている。動画でもそのあたりを確認して欲しいが、トランジスタ・アンプでもチューブ・アンプでも使える音色になっている。個体からの主張が強くない分、手持ちのシステムに組み込みやすいのも嬉しい。
また、大手メーカーでは実現が難しいこだわりはシャーシだけでなく、商品を納める専用の桐箱ケースにも表れている。商品自体の魅せ方の意識も非常に高く、愛着を持って製品を末永く使って欲しいという意向が見てとれる。真鍮製品は時間の経過と共に風合いを変化させるので、ギターのように「エイジング」していってはいかがだろうか。これは予想だが、経年変化で音色にも変化が生まれるだろう。もしこの真鍮のシャーシが経年変化で黒ずんできた場合、磨き上げてしまう前に、ぜひそのトーンをチェックして欲しい。きっと倍音にかなりの変化が生まれているはずだ。
※使用ギター:Crews Maniac Sound / Bottom's Up
※使用アンプ:Fender 68' Custom Twin Reverb
価格:オープン
村田善行(むらた・よしゆき)
株式会社クルーズにてエフェクト・ペダル全般のデザイン担当、同経営の楽器店フーチーズ(東京都渋谷区)のマネージャーを兼任。ファズ関連・エフェクター全般へのこだわりから専門誌にてコラムを担当する他、覆面ネームにて機材の試奏レポ/製品レビュー多数。