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- 2024/11/16
FISHMAN
1985年よりリレーションが始まったマーティン・ギターとアコースティック楽器用ピックアップの代表格フィッシュマン。この両メーカーはアコースティック・ギターのアンプリファイドの分野において、ともに成長してきた存在であり、現代の音楽シーンを支えていると言っても過言ではない。アコースティック・ギター・マガジン2016年9月号と連動した前回の「Martin Factory Tour Report」特集のパート2として、本記事では1981年創業のフィッシュマンのマサチューセッツ州ボストン工場を紹介したい。多くの製品を作り出す工場の様子だけでなく、メーカーの歴史や生産体制、マーティンとの交流などを代表のラリー・フィッシュマンにたっぷり語ってもらった。さらに現在のエレクトリック・アコースティックの主軸となったフィッシュマンAuraシステムについて、どのようにマーティン社がとらえて導入しているかについて、マーティン社のチーフ・プロダクト・オフィサー、フレッド・グリーンのインタビューも収録したので、そちらもぜひご覧いただきたい。
現在アコースティック楽器のアンプリファイドに関するアイテムを豊富に取りそろえるフィッシュマン社は1981年にマサチューセッツ州ボストンで創業を開始した。地元でジャズ・ベーシストとして活動していたラリー・フィッシュマンは当時流通していたピックアップに満足できず、自身で考案したピックアップを開発。そのサウンドが話題を呼び、界隈のベーシストから注文が殺到した。これを機に会社を立ち上げ、ウッド・ベース用の貼り付け型ピエゾ・ピックアップBP-100を生産し始めた。
1984年にギルドからアコースティック・ギター用のアンダーサドル・ピックアップの発注を受けて開発し、成功を収める。その翌年の1985 年にマーティンと契約すると生産数は飛躍的に上昇した。5,000平方フィートの敷地を誇る工場へ移り、数々のアコースティック・ギター・メーカーからOEMを受けるようになる。かつてのギブソンやテイラーもフィッシュマン時代はかなり長い(現在は両社とも変更している)。自社製品もアコースティック・ギター用のアンダーサドル、貼り付け型、マグネティックだけでなく、クラシック・ギター、アーチトップ・ギター、バイオリン、マンドリン、バンジョーなどさまざまなアコースティック楽器のピックアップをラインナップ。同時に多様なオンボード・プリアンプも開発し、1990年には現在の定番Matrixシリーズをリリースする。時代はMTVアンプラグド・ブーム真っ最中。L.R. バッグスやB-Bandなど後続のピックアップ・メーカーも続々と新製品をリリースし、アコースティック・ギター用ピックアップ市場は発展の一途をたどることになった。
ピックアップ/内蔵プリアンプだけでなく、外部プリアンプ/D.I.やLoudboxに代表されるアコースティック楽器用アンプ、簡易PAのSA220からシールドAsteropeと音の入り口から出口までラインナップしているのは、もともとミュージシャンであったラリー・フィッシュマンの感性がそうさせるのだろう。現在のアコースティッ
ク・イメージングという概念のAura関連製品の充実ぶり、そして新製品のエレキ用ピックアップFluence、ワイアレスMIDIコントローラーのTriplePlayなどは、アコースティックの枠を超えて、フィッシュマンが次世代を見据えて、ますます発展しているのがわかる。
フィッシュマン工場はボストン郊外の町アンドーバーの一角の新社屋で緑に囲まれた清潔な空間だ。現在80名程度の社員が働いている。本社でデザインした細かいパーツや基盤は中国工場で大量生産されているが、必ず本社に戻して生産・チェックをしてから世界中に流通される。ピックアップは繊細で生産においてもフィッシュマン社のオリジナルなノウハウがあるので、本社生産にこだわるのは情報漏洩させないという意味合いもあるのだという。実際に手作業で大量のピックアップと配線をハンダ付けする工程を続ける工員がズラリ。
ラリー・フィッシュマンが提唱するアコースティック・イメージングという概念のAuraシリーズ。アコースティック楽器の音響に精通したラリーは、ボディ・シェイプや、楽器の材質による音質、倍音の出方、ピッキングのタッチなどさまざまな要因で異なる音色を再現するために、実際にレコーディングしてギターとマイクの種類を変えながら、データを収集していった。ギター・シンセAxonの開発者/デジタル音響技術の鬼才アンドラス・サレイはハンガリー・ブダペスト在住ながらフィッシュマンのデジタル製品のプログラムに関わっており、高次元の探求が行なわれている。
そのAuraをマーティン・ギター専用にチューニングし、新しいスタンダード・シリーズのカッタウェイ・モデルに採用されたシステムがオーラVTエンハンスだ。動画ではラリー・フッシュマンとスタッフのボブによるデモ演奏を交えたシステム解説、マーティンのチーフ・プロダクト・オフィサーであるフレッド・グリーンのインタビューでじっくりと語られているので、ぜひご視聴を。
ネオジム・マグネット構造により、優れた弦間バランスとクリアなアコースティック・サウンドを実現するパッシブ・タイプのマグネティック・ピックアップ。シングルコイルならではの輝きとピッキング・レスポンスに優れたD01と、ウォームで低ノイズなハムバッカーのD02がある。
ネオジム・マグネットを使用したアクティブ・タイプのマグネティック・ピックアップ。楽器アンプやPA、DIボックスに直接プラグインが可能だ。低電力設計で約300時間の使用が可能(Rare Earth Blendは約150時間)。電源のボタン電池はピックアップの底面に取りつける便利なデザインとなっている。シングルコイル(PRO-REP-101)とハムバッカー(PRO-REP-102)、位置調整が容易なコンデンサー・マイクとセットになったRare Earth Blend(PRO-REP-103)がある。
サウンドホールに取り付けることで、自然な演奏姿勢を保ったまま各コントロールを調整できる、低ノイズのオンボード型プリアンプ。写真のエリプス・マトリックス・ブレンドは、アンダーサドル・ピックアップのアコースティック・マトリックスと人気のエリプス・ブレンドを組み合わせたもの。柔軟性のあるグースネック型コンデンサー・マイクとの組み合わせで、輝くようなクリアなサウンドとコントロールのしやすさ、マイク特有の豊かな表現力を併せ持っている。Ellipse Auraはアコースティック・イメージング・テクノロジーを搭載し、スタジオでマイキングした楽器のマイクを正確に再現できるオンボード・プリアンプだ。
フィッシュマン伝統の透明感あふれるアンダーサドル・パッシブ・ピックアップ。サドル幅と弦間隔に合わせたモデルをラインナップしており、6弦から12弦、クラシック、ウクレレまでさまざまな楽器に搭載が可能だ。パッシブのためバッテリーは不要だが、エンドピン・ジャック一体型プリアンプのパワージャック、マトリックス・インフィニティなどと併用することで、より質の高いサウンドを得ることも可能だ。
世界的ベストセラー、アコースティック・マトリックスのアンダー・サドル・ピックアップと、エンドピン一体型プリアンプによるマトリックス・インフィニティ。サウンドホールに加工無しで取付けられるボリューム&トーン・コントロールも付属している。トレブル&ベースのブースト時はミドル・カットが働くトーン・コントロール、ギターのボディ・サイズとプレイ・スタイルに合わせ、ノーマル/ベース・ブーストが切替可能なプリアンプのボイシングを装備するなど、音作りの対応幅は非常に広い。また、ギター用、ウクレレ用の2タイプがあり、ギター用はサドル溝の幅に合わせ、2.3mmのナロー・タイプ、3.2mmのワイド・タイプがラインナップされている。
アコースティック楽器に取り付けたピックアップの信号を、トップ・スタジオのコンデンサー・マイクで集音されたサウンドへ変換するAuraイメージング・テクノロジー。それをもっとも手軽に体感できるAuraプリアンプ。ドレッドノートや000、12弦など16パターンのプリセット・ノブを回すことで、入力されたピックアップ・サウンドを瞬時にマイキングのサウンドへ変化させてくれる。また、付属のCD-ROMから自分のギターに合ったサウンド・イメージを手軽にダウンロードすることもできる。
Auraイメージング・テクノロジーを搭載した、アコースティック・ミュージシャンのための高品位プリアンプ/DI。堅牢性に優れたメタル・シャーシに内蔵された機能はAuraプリアンプのトップ・モデルにふさわしく、基本性能である高品位なXLR出力や3バンドEQ、クロマチック・チューナー、3点の周波数を設定可能なアンチ・フィードバック機能、フィードバックの抑制に有効なフェイズ・スイッチ、エフェクト・ループ、コンプレッサーなど多彩な機能を搭載。また人気の高い7タイプ計128のAuraイメージをあらかじめ内蔵しているだけではなく、付属のAuraイメージ・ギャラリー・ソフトウェアを使用しPCと接続することで、さまざまなタイプのギターやウクレレ、マンドリンなどのカスタム・イメージの再現が可能だ。
コンパクトなボディながら出力60Wのパワー・アンプ、6.5インチ・ウーハー&1インチ・ツイーターのスピーカーシステムにより、クリーンなアコースティック・サウンドを出力するアコースティック用アンプ。
フィッシュマン伝統のプリアンプとトーン・コントロールを搭載した2つのチャンネルは、それぞれ楽器とマイクの入力に対応。楽器チャンネルには3バンドEQとデジタル・リバーブ、コーラス、フィードバック制御のためのフェイズ・スイッチ、マイク・チャンネルには2バンドEQとリバーブを搭載。CDやMP3プレイヤーなどライン・レベルのステレオ音源を接続するAUX入力(1/4" & 1/8")と、バランスXLR出力も搭載し、音源とのセッションや演奏の録音までも可能にしている。
PAとミキサーとアンプがひとつになった、高音質・高出力・多機能な一体型アンプ。220Wのハイパワーに加え、優れた音響特性を持つネオジム・マグネットを搭載した6台の4インチ・ウーファーと1インチ・ソフトドーム・ツイーターをラインアレイに配置。幅広い左右への音の拡散と遠方への音の到達性を高めていることで、上下左右にデッドスポットを作ることなく、中規模会場までのオーディエンスにステージ上と同様の均一なサウンドを届けることが可能。また、2ch入力ミキサーを装備したコントロール・セクションには、3バンドEQ、アンチフィード・バック、フェイズなど、アコースティック楽器の再生に特化した十分なコントロールを装備している。なお、SA220はモデル・チェンジが決定しており、後継機種が開発中なのでそちらも楽しみだ。
オーラVTエンハンスを搭載したマーティン・スタンダード・シリーズは、以下の9モデルがラインナップされている。そのサウンド、プレイアビリティ、スペックについては「斎藤誠が弾く!マーティン・スタンダード・シリーズ」をぜひご覧下さい。
本記事はリットーミュージック刊『アコースティック・ギター・マガジン2016年9月号』の特集「MARTIN & FISHMAN」の中でより詳しく紹介されています。ここでは掲載されていないラリー・フィッシュマンへのロング・インタビューや写真、またエレクトリック・アコースティックの分野でフィッシュマンと親密な関係を築いているマーティン社への取材も掲載されるなど、盛りだくさんの内容となっています。興味のある人はぜひ読んでみてください。