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  • Dr.Dの機材ラビリンス 第31回

“アルカイック” ディストーション〜逆説的ローゲイン・サウンドの美学

ディストーション

当コラムで何度か取り上げてきた歪み系ペダル。今回のテーマはディストーションだが、Dr.Dが焦点を当てたのはハイゲイン・サウンドではなく、ローゲイン設定が導くディストーション・サウンドだ。ディストーションの歪みをわざわざ下げて使おうというのがイレギュラーなことは百も承知。だからこそ、そこには今まで認知されなかった予想外のトーンが眠っていることに目を向けて欲しい。

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プロローグ

 ディストーションは、孤独なエフェクターだ。いわゆる“歪み”と呼ばれるジャンルの中で最も守備範囲の広いドライビング・エッセンスを内包しながら、それは何ものにも混ざることがない。常に、たった1台で完結することを、要求されるペダルなのである。

 ファズはアンプのサウンドに擬似的な倍音とサステインを「足す」。オーバードライブはプレイのニュアンスに1段階上の深みを得るためにアンプのナチュラル・ゲインを適切な位置まで「引き上げる」。だが、ディストーションの最終的な役割は、アンプそのものの理想とされる歪みに「成る」こと──それはつまり、極論を言えば、ギター・サウンドにおける増幅因子として、その後段にシンプルな音量以外の何も必要としない状態を作り出すためのデバイスだと言える。だが、この現代にあって、アンプそのものがよく歪み立体的な音色を出す様になって、その歪みエフェクターとしての価値が下がったかと問われれば、答えは、ノー、だ。ディストーションは、オーバードライブとファズの狭間を埋める存在として年月を経る中で、もはやプリアンプのトーン・スタックやクリッピング素子のキャラクターだけでは量り得ない独自の音像を確立するに至っているからだ。

 “剛性”という言葉がある。それが歪みの世界に持ち込まれた時、まずその領域に到達することを許されたのが、他ならぬディストーションのサウンドである。同じ高さでただ単純に混ざりあって平らに潰れてしまうコシのないドライブとは異なり、複数に重なり合う定位の歪みを意図的に組み直した「重力」を持った歪み。その内在する自己再生のインテリジェンスを導く現象こそ、ハイゲインという領域を初めて実用段階に押し上げたディストーションという名のエフェクターの功績と言って良い。少なくとも、新しい世代のオーバードライブを中心に爆発的ムーブメントとなった「トランスペアレント」なドライブが世に現れるまでは、その価値は揺らいでいないはずである。その後さらに時代が進み、オーバードライブだけでなくファズの歪みに対しても、ボリューム・ゲインの変化によって生まれる華やかな音色のバリエーションや、半世紀前にはなかったオーガニック・ドライブそのものを万人がたしなむような風潮が蔓延する中にあっても、何故か、不思議なことにディストーションの価値は下がらなかった。それを助けたのが、ディストーションがエフェクターというスタンスの中で独自に磨き上げた能力──“剛性”である。

 サウンドにおける“剛性”とは、根本的な音の強さと同義である。混ざらない。他の歪みにへりくだらない。オーバードライブがオーバードライブ同士と、そしてファズがアンプの飽和と協調するのに対し、ディストーションはその“剛性”ゆえに、直列に繋いでいても音を後から“被せる”ことができる。システムの前段にあっても後段にあっても、単独でオン/オフするのと変わらず同質量の主張を音の中に何の予備動作もなく出現させることができるのである。もちろんその後段にある増幅は、ディストーションそのもののプッシング・ゲインによるブースト効果を得るが、それでもその加算されたドライブを楽々と乗り越えて存在感を示すことができるのが、ディストーションというエフェクターなのである。ギターのボリュームを下げたことで現れる、ローゲインにおけるエモーショナルなクリーン領域の世界においても、それは同様である。ファズなどにはない独特の金属質なサチュレーションは、他のナチュラルなクリーンはおろか、外部の歪みに対してもそれらを整然とはじき返すエゴイスティックな気概がある。それは、まるで電気を流さない金属の様な存在だ。

 異端。何ものにも……そう、エレキ・ギター・サウンドの終着地であるアンプとさえも心を通わすことなく、独りで立っている。反骨というにはあまりにも無謀。だが、その孤高のスピリットが持つ恐るべき磁力に、我々はいつだって心を揺り動かされる。それがいつだって変わらない、ディストーションの荒ぶる野心──“最強の歪み”の証だからだ。

商品の選定・紹介にあたって

 今回は、ディストーション・ペダルの中から、ローゲイン設定でも素晴らしい効果を得られる『“アルカイック”・ディストーション』を特集する。アルカイックとは「古拙(こせつ)」のことであり、芸術用語では「素朴だが生命力にあふれた様」を意味する言葉である。本来は、力強さ、荒々しさを象徴する歪みであるディストーション・サウンドを持つエフェクターの中から、ゲインを下げた時に“微笑”のような峻厳さを提示するキャラクターを探し出した。暴風の様な飽和とコンプレッションの一方で、本来は歪ませてナンボの濃密な歪みの全く反対側にある、奇跡の様なスウィート・スポットを備える意匠のパラドックスを衝き、その素晴らしい効果を世に知らしめるのが狙いだ。ファズやオーバードライブならともかく、ディストーションの歪みをわざわざ下げて使おうと考えることの方がイレギュラーなことは承知しているが、だからこそ、そこには今まで認知されなかった予想外のトーンが眠っていることを認識するべきだ。例え、それが製作者の本来意図していなかった偶然の産物だったとしても、である。
 リストの選別は、いつも通りデジマート内の在庫及び表示履歴に準拠している。現行のペダルの中から、あくまでも本来のディストーションとして標準以上のハイ・クオリティなサウンドを備えたモデルであることを前提とし、そのさらに上流にあるエクストラ・サウンドとしての“アルカイック”なトーンを持つ製品だけをチョイスしている。また、それはスタンダードなセッティングからギターのボリュームを下げた時のナローなクリーン(近年の高品位なディストーションは、すでにギター・ボリュームへの反応の良さを織り込んでトーン・バリエーションを構築しているものも多い)のことではなく、あくまでもエフェクター本体の「ゲイン」に相当するノブを下げていった時にのみ浮き上がってくる、その新たな音色にフォーカスする。ハイゲインが許されたペダルであろうとも、何でもかんでもゲインを上げれば良いというものではない。ある意味、歪みの極致とも言えるディストーション・ペダルが導くもうひとつの音質──その盲点とも言うべき領域に秘められた新たなニュアンスやタッチについて学び、プレイの幅を広げる手助けにしていただければ嬉しい。

“アルカイック” ディストーション

[IRON HORSE]

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01 WALRUS AUDIO [IRON HORSE]

 米国オクラホマ州に居を構えるWALRUS AUDIOは、繊細なトーン・アレンジが主流を占める現代のペダル・シーンにおいて、地に足の着いた骨太なローファイ・サウンドを武器に、創業から僅か数年で頭角を現した新星のエフェクター・メーカーである。IRON HORSEはその名の通り金属質なエッジ感と有機的な暴れっぷりを強く印象づける、パワフルなディストーションだ。オペアンプにはLM308Nが選択されているものの、RAT系オマージュにありがちな頭を抑えられた様なダークで粘りのあるサウンドとは異なり、出足からかなり縦方向に奥行きを感じることのできる力強いピークが持ち味だ。“distortion”ノブが12時付近での叩き付ける様な荒っぽい振幅が巻き上げる鈍い光沢は、まさに巨馬の蹄鉄が砂地を抉るがごとしだ。硬質のインパクトと共に空間に穿たれる陰影は濃く、ピッキングを緩めれば簡単にプレイヤーの意志など外へはじき出してしまわんばかりの泥臭い主張も持ち合わせている。それでいて、アタックへの反応は速過ぎもせず遅過ぎもせず、ミッド・レンジの豊かな十分なゲインを維持しながらも押し引きをしっかり付けられるバランスが持たされているところは、ミュージシャンとして長いキャリアを持つ同ブランドのエンジニアの意匠がよく現れている部分でもある。

 だが、今回特に注目したいのはその類い稀なるローゲイン時の音質で、“distortion”ノブを9時以下……できれば、8時近くまで下げた場合に生まれる素晴らしいスウィート・スポットについてだ。まず、歪みを下げても、このペダルはファズの様な枯れた音質や、現代のレンジ特性の強いオーバードライブの様にまどろんだクリーンになることはなく、きちんと「ディストーション」としてのエッジ感を維持したまま不思議な明瞭さを持ったナロー・ドライブヘと変化していくという点が挙げられる。不細工なフラップ感やピークを間引く様な印象もなく、張りつめた静かな「胴鳴り」だけが表面に浮かび上がり、歪みのパワー感を包み込んでしまう様なイメージだ。

 しかも、その段階でさらにギターのボリュームが明確に効く。それを絞っていくと、水面下のドライブのヤマをなだらかに削っていく様なトーンが現れる。だが、それに反比例して弦の反応はより細分化されていき、ピックを入れる深度によって呼び出されるピークの波形が驚くほど多様性を増す。サステインは光沢のあるサラッとしたクリーン、しかし、ピッキングの瞬間だけは金属質で表情豊かなモーフィング・ドライブに変化するという一風変わった音色を味わえるのだ。それは、アンプのクランチとも全く違う、どこか人工的なクールさを持つ歪みだ。その効果はクリッピング・ダイオードを選択できるトグル・スイッチの3モード全てにも追随し、特にセンター位置のコンプ感の少ないモードでの「ラウドなクリーン」は必聴ものだ。新進気鋭の暴れ馬を乗りこなす術は、何も襲歩(ギャロップ)ばかりじゃない。その大地を掴むようなアンブルなサウンドにも目を向けることで、既存の歪みともクリーンとも全く異なる新しい次元のトーンに出合うことができるだろう。
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[Holy Mountain]

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02 Midnight Amplification Devices [Holy Mountain]

 オーストラリアはメルボルン在住の現役ミュージシャン、ニック・ベラーによるハンドメイドが売りのプライベート・ブランド──それがMidnight Amplification Devicesである。Holy Mountainは、あの英国Orangeアンプの創成期(1968〜1970年のわずかな期間のみ)にマット・マシアスが製造した、いわゆる「Orange MATAMP」のサウンドを再現したとされる歪みペダルだ。実物の「Orange MATAMP」を見たことがある人ならば、そのルックスにピンと来る人もいるだろう。トップ・ロゴのフォント、さらには2バンドのミニ・ノブEQを挟んだツマミの配置等……オリジナルとは“ASCEND(プレゼンス)”と“GUIDE(ゲイン)”の配置が逆など細かな違いはあるものの、マニア心をくすぐる要素が確かにある。

 音はさらに衝撃的で、ロング・トーンを一発入れただけで、さすがは70年代のストーナー・サウンドの中心にあっただけはある、あの破れ鐘のようなグリッジ感と、ぐろぐろとした得体の知れないパワー感に圧倒される。しかも、歪みの先端は乾いていて、弾力のある強い質感を常に保ちながらもプレーン弦の微細な揺れも逃さない解像度の高さも持ち合わせている。だが、当然の様に、歪みそのものは現代のアンプ・サウンドほど扱いやすくはなく、ゲインが上がるほどにロー側のハーモニクスばかりが強まり、基音が立ち上がってこない。ブーミーというわけでもないのだが、表層の乖離感が激しく、いくらピッキングで幅を持たせても芯のあるサウンドにならず、凶悪なまでにダークなスローヴに沈み込んでいくイメージが拭えない。それでも、ギターのボリュームに対してのレスポンスはどのように極端なセッティングの中でも失われることがなく、リアルなチューブを搭載しないエフェクターにはどうしても起こりがちな、クリーン・サウンドに伴う「音量の底抜け」がほとんど起こらない点は見事だ。むしろ、ギターのボリュームは5以下で操作しなければこのサウンドのキモは得られないだろう。

 そして、さらに“GUIDE”を9時以下にした時の“鳴り”の存在感たるや別格と言って良い。煙る様な白銀のエッジの中に溶ける、殷々(いんいん)とした異形の太さ。枯れていくフィードバックと引き換えに、圧倒的に奥行きを増すダイナミクス。かつてのPartridge製の大容量トランスを積んだ同世代の英国製高級アンプたちに共通したローゲイン──その破綻する寸前の表面張力の様な甘美なストレスにすら例えられる深淵のサウンドを、小音量の中でいとも容易く再現するこのエフェクターのポテンシャルは計り知れない。70年代のOR120によるハイゲインこそがOrangeアンプの真髄と信じて止まないプレイヤー達にも、この始祖のドライブが受け継ぐ、垂線のさらに下に隠された荒ぶるトーンの美しさを体感して欲しい。
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[DistoZoid 01]

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03 SviSound [DistoZoid 01]

 無塗装のダイキャスト筐体に、鉄板や削り出しのノブなどを組み合わせたスチーム・パンクな味付けの装飾でお馴染みの、ブルガリアのハンドメイド工房SviSound。DistoZoidは、同ラインナップのハイゲイン・タイプであるMetalZoidとは一線を画したバーサタイルな用途を持たされた、適応性能の高いディストーションだ。立ち上がりはシャープ。クリッピングの到達点が近いタイプで、一旦火が入ってしまえば完全にミュートされない限り常に高い密度のままフィードバックを維持することができる、実に扱いやすいサウンドだ。輪郭も程々にあり、サステインに追従する自然なコンプ感といい、フレーズを問わず常にイメージに近いトーンをピッキングで操ることができるのが特徴だ。モダンなディストーションらしく、撫でたピッキングだと途端にいなたいサウンドに変化するところも好感触だ。トータルのレスポンスは「アンプ・ライク」と言えなくもないが、むしろあまり小難しく考えないで、ギターのボリュームを固定したままタイトなミドルゲインで押しまくっていくタイプのプレイヤーに好感触を得られそうな歪みだ。

 “Gain”を下げていくと、9時前後からゆっくりと磁力が剥がれ落ちていく様に音の芯にブレーキがかかり、少し独特な歪みが現れてくる。ふわりとした半透明なドライブに、音を乱反射させる複雑な気泡を含んだ響き。白かと思えば黒、熱いかと思えば急に冷める……音質と呼ぶほど明瞭でなく、音量やピッチとも違った微細な“たわみ”がそこにはある。揺れる波間に1枚の和紙を浮かべるがごとき綿密に計算された“不穏”。それが弦の振動と重なって、底の見えない奥行きを呼ぶ。なんというのか……音がちょうど良い具合に「跳ねない」のである。8時まで歪みを絞ると、底を打たない、エネルギーを吸い込む様なプレーンで荒涼とした気配のまま波が収まっていき、凛とした空気が沸き上がる。帯域をカットすることによって生まれるエレキ・ギター特有の“クリーン”とは異なり、ハイも、ミッドも、ローも、きっちりと聴こえながら着地するロー・ドライブ。これは既存のファズやオーバードライブ、ましてやアンプの歪みを下げただけでは決して得られなかった質感だ。

 モダンなディストーションの中にはこれとよく似たローゲインを持つものもいくつかあるが、そういうタイプはゲインを下げると音圧そのものがぺらぺらになりがちだったが、DistoZoidの様にここまで厚みと奥行きを残したままプレーンな世界を押し出せるスタイルを持つものは珍しい。プレゼンス的に歪みに干渉する“Tone”も、低域全体をブーストできるモード・セレクトも、まさにあつらえた様にこの完成度の高いローゲインの中で幅広く力を発揮する。安直な波形カットに依存せず、ゲインが降り切る際まで責任を持って全ての帯域を均すことのできる、本当の意味でのコントロール・ディストーションが欲しいなら、この選択肢は面白い。
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[Riot Distortion]

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04 Suhr [Riot Distortion]

 西海岸カリフォルニアにおいて、ギターからアンプ、エフェクター、パーツ類までを総合的な見地からプロデュースすることで知られるハイエンド・ブランド、Suhr。JS Technologies社内に置けるジョン・サー直轄のプライベートなカスタム・ショップという側面からもわかる通り、そのラインは一貫してプロ・クオリティによるトップ・グレードな製品群が占めることでも知られており手を出し辛く感じる人もいると思うが、このRiot Distortionならば、Suhr製品初心者にも手の届く価格で、そのサウンドのコンセプトを存分に堪能できること請け合いだ。

 Riot Distortionの市場での評価は「アンプ・ライク」か否かという点に終始されがちだが、実はその歪みの真価はそんな程度で語り尽くせるほどに浅くはない。その功績の最たるものは、やはり、「ディストーション」というカテゴリーを、単なるドライブの感触や歪み量で語るのではなく、明確に“原音を「成形」するもの”であることを世間に認識させたことだろう。ピッキングの出し入れによる、とりわけアタックの表情を重視するプレイヤーにとって、原音をブーストするオーバードライブの様なアプローチとは全く異なる人工的なチューニング……「再構築」が、これほど手元のニュアンスにとって効果的であることを示した例は、それまでほとんどなかったと言って良い。中域のコシのある粘り、表面を撫でるばかりでなく音の芯から振幅する深い谷間を持つダーティなサグ、巨大システムの中で使用した時にも埋もれることのない独特のエッジ感、そして、アンプに負けないダイナミック・レンジ。それら全ての均衡を保ったまま達成されるSuhrの歪みが、ディストーションの世界を大きく押し広げたといっても過言ではあるまい。そして、Landgraff MODなどにはなかった、あえてサステインの減衰を自然なまま放置する巧みなローゲイン・ドライブの存在がある。ゲインがゼロにならない限り、音量さえ十分にあればほとんどそのディストーションとしてのきめ細やかさや低域のヌケが実用範囲内に留まるという、実に筋肉質な歪みを持つ。歪みが少なくなると重心はややロー側に寄るが、それを耳で認識できるようになってからでも、“TONE”やヴォイシングのセレクトで十分に補正が効く。

 特にオススメなのは、許容電源である18V駆動時の8時前後の歪みだ。マットというわけでもなく、アタックのメリハリがきちんと効くのに、サステインは控えめ。むしろ弦からピックをリリースする時の方が色彩が豊かに出るようなテイストさえある。そして、ゲインを上げた時と変わらない、強く、主張のあるミッド。だが、芯ばかりが強いわけではなく、むしろ柔らかな“木”のようなしなりで、弦が生む過剰な歪みを押し返してくる。出口は相応にハイ・パワーなチューブ・アンプであるという条件は必須だが、そのポイントに入った時の、一瞬息が詰まる様な歪みとも言えない音そのものの“静止”には、もの凄い中毒性がある。カントリーやジャズのプレイヤーがRiot Distortionを使うことがあるという噂を眉唾だと思っていたが、もしかしたら、彼等はこういったこの機種特有の希有なフィールをすでに使いこなしていたのかもしれない。まだまだ噛めば味の出そうなペダル、Riot Distortion。定番なだけに、固定観念に縛られた使い方以外にも可能性が広がっていることを、改めて再認識して欲しいエフェクターである。
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[BURNLEY]

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05 Bogner [BURNLEY]

 ハイエンドなスタジオ・コンソールやH.A(ヘッド・アンプ)の設計者としてレジェンドとも言えるルパート・ニーヴ氏が、エフェクター専用のカスタム・トランスを提供したことで完成したBogner謹製の汎用ディストーション、BURNLEY。裏蓋を開ければ、絶縁されたミニ・トランスが基板のブラック・ボックスの外にすっぽりと収まっているのを見ることができる。磁界を発生させるトランスそのものを基板上に配置することは、ノイズ、重量の観点から見ても通常はデメリットの方が目立ったりするものだが、やはりその拘りは外部電源に左右されない音質維持のために理想的な「電力」を得るという一点に集約され、出音を確認する限りこのトランスに関してはその二極を完璧に制御下に置いていることが伺える。結果として、この個体は間違いなく、軽量コンパクトでノイズレス、かつ、素直に現場レベルで「使える音」を出してくれる歪みペダルとして完成されていた。

 歴代のNeveサウンドよろしく、ピークのエッジをうまく抑制した暖かみのある出音が特徴で、どんな弾き方をしてもパッシヴな雰囲気のあるゴツい歪みを得られる。さすがに専用トランスを積んでいるだけのことはある。底支え感のある圧巻のヘッドルームは、ピックアップの出力に左右されることもなくミッド付近の食いつきに常に“上”に余裕をもたらしている。低域はハイの倍音よりも少し遅れてやってくる感じでチューニングされており、ほんのちょっぴり「舌ったらず」なそのトーンは、むしろジャスト過ぎる現代の歪みより良い意味での余裕があり、耳に優しい印象だ。しかも、4発キャビで鳴らすとその低域の塩梅がハイ側の主張に追いつくようになり、背筋にピンと芯が通ったサウンドになる。特に、P-90タイプのピックアップで、キャビの容量が増した時に感じる「ハイ・ミッドの中抜け感」をきちんと補ってくれる様に働くので重宝する。ただ、ピークが柔らかい分、ハムバッカーのフロントでリードを弾くのにはそれなりにシビアなピッキングが要求されるので注意が必要だ。それを除けば、ギター側のトーンもボリュームも演奏中にどれだけ動かしても「使える音」の領域を外さない、ある意味Bognerアンプよりもアンプらしい良い意味での“鈍さ”が武器のペダルである。さらに、“Gain”はきつめのBカーブ気味な設定なので、12時より前は効きが緩やかで、細かくローゲインの調整ができるのも嬉しい。

 このドライブ、不思議なことにゲイン指数を下げれば下げるほどボヤっとしていたピークが透明感を帯び、音に力強さが増し、程良くコンプ感も乗ってくる。ハイ・ミッドのバイト感は“Gain”を8時まで下げてもばらけることはなく、むしろ血の巡りの良いトーンの様に聴こえる。従来の歪みペダルとはエレメントの指向がほぼ逆の効き方になっているのだ。チューニングの妙と言えばそれまでだが、それはやはりこのエフェクターならではのトランスの性能に大きく依存した特性であると感じる。Marinair、Carnhill等のトランスの音を知り尽くした齢90に迫ろうという賢者の耳──それは未だ楽器の世界で一線級の音質を発揮するデザインを生み、またプロフェッショナル・オーディオからの新たな刺客として存在感を示している。我々は同じ時代に生きる者として、ニーヴ本人が手がけたサウンドに触れ得る幸運を噛み締め、そこに誕生した新たな可能性をひとつでも多く未来へ語り継ぎたいと思う次第である。
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[THE MYSTICAL SUSTAINER]

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06 EC Custom Shop [THE MYSTICAL SUSTAINER]

 中東のエフェクター・シーンを牽引するイスラエル──その首都テルアビブで2011年に誕生し、丁寧な仕事ぶりでたちまち人気のブランドのひとつとなったEC Custom Shop。その目を惹くアバンギャルドな外観のデザインとは対照的に、内包するサウンドは、現代的な反応性能ばかりを追い求めるニーズの狭間で忘れ去られた“先祖がえり”とも言うべきベーシックな素養を常に匂わせている。

 THE MYSTICAL SUSTAINERはブランドの中でもリード・サウンドに特化した、密集したスクリームが魅力の古典的なディストーションだ。サステインが教科書通りに深く、弦そのものの分離感も悪くないのだが、基本的な歪み量が倍音の中でもたっぷりと増幅されているので、アタックが減衰する前に隣の弦のフィードバックが交差して長い周期を伴った複雑なうねりの中に溶ける。そのフィーリングは、明らかに現代的な歪みとは逆行している印象がある。だが、そのダーティで暗いハイゲインはともすればミッドばかりが主張するオープンなモダン・ドライブの中にあって、非常に「音の出しやすい」リード・トーンとして揺るぎないスタンスを持つに至っている。細かいパッセージでピークのエッジが崩れてしまうこともなく、スウィープやタッピングも綺麗に出る。そして、何よりも、こういった横に広がる歪みにありがちな反応の鈍さが全くないのがこの歪みの特異性を高めている。鋼鉄系のユーザーのみならず、何でもかんでもチューブといった妄信が生む、特にリード時のズブい反応に辟易しているプレイヤーには、この切れ込む様な歪み方は病み付きになる爽快さだ。

 そしてもうひとつ、この個体が持つ“GAIN”を8時程度に絞った時の弾力のあるナロー・ドライブも忘れてはならない。10時以降であっという間に密度を増すその歪みが、それより下では、丸く固まった皮膚の上に僅かにピリつくシビレの様な……サステインとも呼べない奇妙な残響を残したまま、まるで自重で潰れる様に内側に収縮していく。ピックで弾くとどうやっても不細工に散らばるその歪みだが……指で爪弾いた時には、驚くほど瑞々しい響きを帯びるという一面が顔をのぞかせる。さらに、プレゼンスに近い効きを持つ“FINE”ノブを大幅に下げて負帰還(フィードバック)部分のクリップ要素を指の硬さに合わせて調整してやると、弦に触れた瞬間、粒立った綿帽子の様な光沢をもったサウンドがほろほろとこぼれ落ちてくるようになる。これは想像以上に使えるサウンドで、センド回路を持つディレイにかましてやや残響の明度を調整したり、エレアコで2本以上の弦を同時に鳴らす時に叙情的なインパクトを与えたりと、むしろ単体で歪んでいる時とは正反対のシーンで応用が利く。ある面ではオールド・スクールなバイブスに興じ、またある面では歪みを歪みとして正直に使うことばかりが能ではないことを教えてくれる……研ぎすまされた“典型”の進化の未来の姿がこのペダルにはあるのかもしれない。
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[Sonic Titan]

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07 D.A.M(Differential Audio Manifestationz) [Sonic Titan]

 英国ファズ研究の第一人者にして、とりわけTone Bender系レプリカの製作において別次元の手腕を発揮する鬼才デヴィッド・アンドリュー・メイン。その彼が主宰するハイエンド・ブランドが、D.A.M(Differential Audio Manifestationz)だ。Sonic Titanは、ゲインに対するプリ・ブーストを目的とした通常の歪みペダルとは異なり、アンプ側のサチュレーションにダイレクトに反応する歪みを生じる、「Power Amp Distortion」と称する独自のアプローチにより達成された異端の高密度ドライバーである。モダンな歪みに慣れ切ってしまったプレイヤーには、一見“もたつく”様なそのワン・テンポ間を置いてから立ち上がってくる歪み成分の質に戸惑うことだろう。そしてそれとは別に、初速のある強い芯を持った音がスピーカーから飛んでくるのがわかるはずだ。それは明るい光沢を持った音で、中心域まできっちり歪み切っているのでそれとは気付きにくいが、ダイレクトなアタックに伴う飽和の圧縮であり、耳あたりの良い輪郭など皆無の気難しい歪みだ。

 軟弱なピッキングだとその速い部分の歪みばかりが抑えがきかずに飛び出すばかりで、後ろのから追いついてくる分厚い歪み成分の恩恵を受ける前に、エッジが霧散してしまう。しっかりと垂直に深く入れたピッキングで、弦離れのタイミングを常に意識したエッジ・ワークができないと、この歪みは本来の力を一切発揮しないのである。それはまさに、ダイレクトに接続したアンプの終段に配置されたパワー管に蓄積された重厚で鈍いエネルギーの渦から、澄んだ天井の高い“サチり”感を呼び出すためのタッチとよく似ている。常に大音量のチューブ・アンプのレスポンスでプレイする環境を持っているユーザーほど、その感覚は掴みやすいだろう。そういったチューニングの意図を理解しさえすれば、その瞬間からSonic Titanは全く異なる歪みへと昇華する。この歪みは、我々が思っているプリアンプ的な密集した帯域のドライブよりも、もっと大きな外枠の部分を歪ませるためのディストーションなのだ。単体だと分厚い歪みの割には芯の置き所に迷うこの異端の個性は、チューブ・アンプ特有のヘッドルームの高い音圧にさらされると、歪みの“環”が外側に収束し、重厚なシェルの様なインパクトを生む。この歪みの中でギターのボリュームを絞った時に生まれるクリーンは、アンプ自身が元々持っていた入力に対する反応であり、実はSonic Titan自体の歪みはそこまで減衰していないのである。ただ、クリーン成分が外殻の歪みを薄く引き延ばしてしまい目立たなくなるだけなのだ。

 そして、さらに素晴らしいのは、Sonic Titanを使うことでその反応を擬似的にJCなどのソリッド・アンプにも宿すことが可能になる点だ。まさに、JCのさらに後ろにチューブのパワー・セクションが出現したかの様な反応を得ることができる。その場合でも“DRIVE”の設定によって歪みの応答性が変わらないのと同様に、その変化はツマミを大きく動かしても歪み自体にはむしろあまり大きくバランスを崩されるようなことはなく、仮に“DRIVE”がゼロに設定されたとしても、ほぼコンプ感に伴う二次的なサステインの量だけにしか影響がない。これはかなり斬新なディレクションの歪みだと言って良い。確かにタイトなリフを揃えるのには難しい部分もある音質かもしれないが、単音を生かしたフレーズ・ワークでは、サウンドの芯にまで届く力強い歪みを思いのままに操ることのできる無類のポテンシャルを秘めたペダルだという認識で間違いないだろう。

 ちなみにSonic Titanはバージョンによって音色が異なることでも知られている。今現在、本国の現行品はVer.08だが、国内に流通している個体はエッジの効いた初期型の音色に近いとされるVer.07が主流。原点に立ち返ってこのサウンドを試すには、ちょうど良い時期ともいえる。初期型とVer.07の間には、少し歪みにくいものやハイ上がりな設定のものも確認されているので、現行品の歪みが合わないならばそちらを探してみるのも良いだろう。
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[Starlight]

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08 Crazy Tube Circuits [Starlight]

 飾らない機能美と使用範囲を見極めた音質バランスに秀でた、ギリシャはアテナにあるペダル・ブランド、Crazy Tube Circuits。全方位に分離がよく滑らかな歪みを持つこのStarlight……入力感度のステージが驚くほど広く取られており、ラフなピッキングに追従しながら1音1音の輪郭を再構築する能力に長けた、少し変わったセンスを有するディストーション/ファズ・ペダルである。

 帰還回路内ではなく、直列に繋いだJFETとMOSFETにダイレクトに電圧をかけて歪ませることにより、アンプ側の重厚な鳴りに負けない自然な音圧と強力なサステインを稼ぎ出しているのがよくわかる。MOSFETが基板上にあることでピークが歪み出すタイミングはやや緩慢になっているが、常にブライトに発声する基音がハイ・ミッドに存在感のある太いピークを生むことでうまく“つじつま”が合っている印象だ。先述の通り荒っぽいピッキングにも主張を崩さないので、泥臭いコード・ワークで派手なスマイトを効かせたプレイをするのにもってこいだ。ひと言で言うなら、「安定」した歪みというのか。適性自体はシングルコイルのピックアップの方にありそうだが、ハムバッカーでもそれ相応のインパクトの強いラウドな音域を提示してくる。チューブ・アンプをソリッドのものに変えても、トランジスタの独特な倍音をうまくまとめ取り、抜けの良い歪みを作ってしまう。実際にはそれほど極端なものではないが、まるで、エフェクター自体がその環境に応じた最適な音を探して自身のカラーを変化させている様に感じるほどに、この歪みのチューニングには音質の破綻を防止することに特化した特別な“知性”の様なものを感じることができるのだ。

 そして、ゲインを絞っていくと、ファジーなきらびやかさを残してディストーションらしい成分は極少量に収まっていく。この減衰時の黄金比が絶妙で、ギターのボリュームを下げてももちろん洗練されたクリーンを作るのに申し分ない反応を持ち合わせながら、一方では、ピッキングの強弱だけでディストーションがわずかに効いた金属質なクランチと滑らかなファズ系のクリーンの間を1音単位で往復することも可能という、この機種でしか味わえないプリズムの様な七色の表情を持つリードを生み出すことができるようになる。ボイシングで意図的にハイ・ミッドに重心を移して、深く切れ込むタイプのトランスペアレントなドライブを設定することも可能なので、メロディ・ラインとカッティングが複雑に交差する様なプレイにも最適だ。どんなジャンルからでも取っ付きやすいので、手に入れたその日から使いこなして、表現力の幅を引き上げる切り札にすると良いだろう。
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[GARGOYLE]

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09 Barbarossa [GARGOYLE]

 高密度な無垢のアルミから削り出したオリジナル筐体、アルマイト処理を施された無骨な外装、物理的に区分けされたパーツ・セグメント、ポイント・トゥ・ポイント配線、クライオ処理……考えつく限りハード・レベルから音質向上に取り組む拘りの仕様で知られる、高級エフェクト/イクイップメント・ブランド、Barbarossa。中でも、GARGOYLEは、「国内最高峰のディストーション」という話題になると、その評価の正当性はさておき、必ず各所から名前の挙がることでも知られる問答無用のハイエンド・ペダルである。市場での流通数も限られており、取扱店も限定されることから、なかなか実物を手にすることもないかもしれないが、その音は歪みに勤しむプレイヤーならば一度は触れておく価値のある製品である、ということだけは最初に申し述べておこう。

 まず、音圧、抜け感、ノイズ特性のいずれも素晴らしい水準にあることは言うまでもない。空間を断ち割りあふれ出るガツンとした獰猛さの中に常に宿る、一滴の冷水を落とした様などこかクールな響き。「上品」というのとも「大人」というのとも違う──ピッキングの度に、何か大きなエネルギーが遠くでゆっくりと瞼を開けていくイメージ、というのだろうか。とにかく、失われない。帯域も、パワーも、レスポンスも、このエフェクターの中から出てくる音は明らかに自分の中から生まれたものの延長線上の音であることがすぐにわかる。どこまで歪ませても、また、どれほどゲインを削っていっても、自分のスタンスが無尽蔵にプレイの中に溶け出して、360°全方向へ流れ出す様な錯覚さえ憶えるほどだ。あらゆるプレイのニュアンスを、100%、歪みの中で昇華することができるのだ。特に、ゲインを最小付近にした時の、呻く様な色彩の飽和は異常と言えるレベルだ。オーバードライブならばともかく、ディストーションとしてこの領域に踏み込むペダルがあることがまず驚きだ。ただし、このどの方向にも手をつくことが許されない、ある意味何ものにも混ざらない歪みが、果たして原音に「歪(いびつ)」さをもたらすはずのドライブ・ペダルの素養として理にかなっているかは、別である。そこには、常に相対した矛盾に喘ぐかの様に、均衡の取れ過ぎた歪みだからこそ起こり得る、不思議な“反発”とも“不安”とも呼べない動揺を誘う何かがあることは確かだ。少なくともこのペダルに限っては、「ペダルに選ばれた者」しかその恩恵を受けられないような気がするのは気のせいだろうか。とにかく、使えば使うほどまわりの騒音の中から自身が切り離されて研ぎすまされていく感覚がやってくるのだ。そう、まるで巨大な台風の目の中に、息を殺してただ一人佇むかのように……。

 値段も破格のため、試すチャンスもそうそうないかもしれないが、デジマートならば今後も新品を含めたこいつの出物に出合える可能性は十分にある。腕に覚えがあるならば、ぜひ、一度その音を肌で感じるために在庫のある店に足を運んでみてはいかがだろうか。個人の価値観や使用環境に関することは別にして、こと「音質」に関して言えば、もしかするとディストーションの終着点に出合えるかもしれない。
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[ModernRaven]

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10 Vivie [ModernRaven]

 昨年、埼玉で本格始動した新星エフェクター・ブランドVivie。開発段階からブラインド・テストとプロ・ギタリストによる監修を積極的に取り入れることによって達成される彼等のディレクションは、あらゆる環境や機材のマッチングに柔軟性を持たせ、プレイヤーの表現力を束縛しない“開放感”を演出する。

 ModernRavenは単体で十二分な歪みを有する「使いやすい」ハイゲイン・ディストーションとして、国内のペダル・ジャンキー達から密かに高評価を得ている今注目のペダルである。スクープ系の歪みにありがちな先細り感は皆無で、ゲインの深度に比例して音の芯が歪みよりも先に聴こえてくるようにチューニングされているのがコードを弾いただけで伝わってくる。近年のオープンなだけの貧弱なドライブとは一線を画した、正統派な「爆発力」が引き立つ、自立したパワー感が素直に好印象なペダルだ。歪みの頭は揃っているがむしろアタックにかかるコンプ感は薄く、タイトに引き締まった身の詰まったロー・エンドとのバランスで、少しピッキングを緩めればローのタイトさと共に高域の“頭”が良い感じにバラけ、ラウドなレイジ・ドライブに変化するのも有り難い。歪みそのものというよりは、もっと音質を形成する根源的な膂力(りょりょく)に呼応してシームレスにパワーを解放していくタイプの歪みのようだ。サステインやフィードバックもあざとさがなくて、欲しい分だけ伸びてくれる。搭載された3バンドEQの効きは抜群で想像以上に幅広い音作りが可能だが、上記の様な力学の働く音域にこの秀逸なドライブを維持したいならば、ミッドのEQだけはあまり極端なセッティングにすることはお勧めできない。

 そして、このハイゲインな歪みには、もうひとつ、ほとんどのプレイヤーの予想の外にある素晴らしい音質が隠されている。それが“Gain”がほぼゼロ状態の時の、立ち枯れた美しいクランチ・サウンドである。乾いてバリッとした通常の歪みとは全く異なり、そのポイントのみでふわっと煙る様なビロードのサチュレーションの艶かしさだけが香る。そこでギターのボリュームを絞り込んでいくと、さらにマットな素地が現れて、やがて穏やかにドライブ成分のみが閉じていき、じりじりとした褐色のクリーンに変化する。それを、60年代のVOXやTweed期のFender DELUXEなどのアンプと組み合わせると、ゲルマ・ファズとはまた違った熱量をほとんど感じない鮮やかなサンド・トーンを呼び出すことができる。あるいは、そのセッティングのまま筐体の横にあるプレゼンスのセレクターを入れ、さらに朧な光を放つ荒野のトーンに浸るのも実に贅沢なチョイスだ。モダンな歪みの副産物ともいえるローゲインに隠されたもうひとつの音色で、半世紀前の極上のクランチを磨き上げる……こんなことができるペダルはそうあるものじゃない。元の歪みが素直なだけに、使えば使うほど今後もその「裏」の音が導くサウンドに創造力を刺激されるプレイヤーが増えそうな予感がする、そんなペダルである。
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[Redemptionist]

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11 Leqtique [Redemptionist]

 独創的なコンポーネントの取り合わせを常に模索し、一切の妥協を省いた回路設計の中で理想のサウンドを錬磨する──。国内最先端のペダル・デザイナーとして名を馳せる俊英シュン・ノキナ氏によって運営されるLeqtiqueの、達観した歪みにおける“積極的バランス力”を、ある意味もっとも体現し続けているペダルとも言えるRedemptionist。ブランドの前身であるSND(Shun Nokina Design)時代にも同名、同レイアウトのディストーションが存在している通り、それはまさに彼自身の当時の歪みに対して持っていた内示的欲求が生み出した身を削る様な「構築」が結晶化した逸品と称して良い。目の醒める様なスムーズさと、フォーカスの合ったガッツの出し方。そして、何よりもアンプ出力の延長線上にあるオーバードライブのようなエフェクターとは明らかに意匠が異なり、ドライブのチューニングに明確な“意志”が介在していることを隠さない「ディストーションらしいディストーション」になっている点が素晴らしい。確かに歪みの量的にはミドルゲインの領域かもしれないが、この歪みの“骨組みが浮き立つ”様なセンスを前にして、アンプ・ライクだとかオーバードライブ的だとかいう曖昧な枠組みで例えようとするのは、このプロダクトに対しての理解が不足しているとしか言えない。

 Redemptionistの歪みの特徴としては、明瞭なコンプ感があるにも関わらず、歪みの先端がパワー負けして裏返ったりしないことがまず上げられる。ピッキングをしたイメージから出る音は確かに柔らかく厚みがあるのに、耳に残るのはサステインの中で最も早く減衰するはずの高域の突出感であることが、それを示している。粘りがあるのではなく、基音の出方そのものに継ぎ目がないのだ。非常に人工的な安定感を感じると共に、前に押し出す力が恐ろしくシンプルなので、バッキングなどで複数の音を同時に出すと、そのあまりに直情的な歪みの質に、うるさくなり過ぎないかと手が縮こまるほどだ。それは“Gain”を9時以下に下げた時も同一の反応で、歪みの量がシンプルに下がるだけで、矍鑠(かくしゃく)とした各弦の主張はそのまま残る。高域の方がオープンな帯域があるのでプレーン弦の芯が強調されるが、ハーモニクスの性質は整然と維持されていて、ピッキングの深さを変えるだけですぐにリードが弾けてしまえるほどニュアンスの自由度だけが拡大するイメージだ。

 逆に、12時以上にすると上のハリ感がなくなってミュート時のぶん回す様な突っ込み感が増すことを考えると、この歪みに限っては“Gain”量は、歪みの主張を全く変えないまま、プレイヤーがコントロールできる要素を入れ替えているだけの様にすら感じる。実際にはもっと帯域のアライメントは複雑に変化しているのだが、それを感じさせない作者の老獪な音作りのセンスが光る。ジリっとした底側の効きから、解放に向かって伸びやかに帯域を押し上げる様に新たにバランスされた“Treble”や、機材との相性でダブついた帯域のみをピンポイントで抑制してくれる“Low Cut”の効きが、歪みのキャラクターを全く崩さないのも嬉しい。若干前に出過ぎなロー・ミッド寄りの重心に好き嫌いは分かれるかもしれないが、ちゃんと使いやすくまとまった歪みの中でこういったハイセンスな才覚を見せつけられると、腕のあるギタリストほどそのポテンシャルの先にあるものを探ってみたくなるに違いない。決して万能ではないが、歪みでありながらプレイの質を自然と浮き彫りにするほどの音楽的な磐石さ……それがこのペダルの最たる存在意義なのだろう。
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[IRON FOREST (IF-1D)]

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12 Free The Tone [IRON FOREST (IF-1D)]

 ギター・システムにおけるオーディオ・ルーティング技術で、常に国内最先端を行く精鋭集団Free The Tone。その創始者・林 幸宏氏が考える包括的な音質アプローチを助長する提案が、この万能なディストーションIRON FORESTにはある。極めてフラットな聴感を持つ歪みで、澄み切ったダイレクト・レンジの広がり、“面”で接する様な有機的なパンチ、スピード感、それら全てが一貫したベクトルで構成されているのがわかる。一方で、淡白というか、やや優等生過ぎるその帯域の整い方に、ディストーションとしての破滅的アドバンテージに対する物足りなさを感じるプレイヤーもいるかもしれないが、その程度の見立てではこの歪みの質を半分も理解していないと言わざるを得ない。

 IRON FORESTの真の性能を引き出すには、JCに単独で繋いだ後、実戦で使うペダルボードの中に置いてみるとよくわかる。まず、繋いだだけでアンプのサウンドが引き立つ。歪みが増すのに、音が細くなるどころかアタックが太く、鮮やかに感じるはずだ。さらに、ギターのボリューム、トーンの効きも、複雑なペダル・システムを通過しているとは思えないほどに“むき出し”の効果を得られる様になり、本体の“GAIN”を上げていくほどにピックアップそのもののサウンドに“芯”が通る様になり、中心の光沢が明瞭になる。その、およそディストーションという概念からはかけ離れた、システム全体の機能を底上げする様に働く歪みの性質は、Free The Tone独自のトーン・メカニズム「HTS(Holistic Tonal Solution)」サーキットの搭載と決して無関係ではないだろうが、それでも、歪みペダルであるという性質上、不可避とも言えるエッジやささくれたピークに、いくつも繋いだエフェクターや長いケーブルに埋もれることもなくニュアンスの向上を促進するエッセンスを見出し、さらに実戦配備にまで至ったチューニング・センスはさすがという他はない。

 ローゲインにした時の自然なコンプ感の中で、弦の出力が溶け合う感触も見事だ。巻き弦を含んだカッティングでもやたらに分離せず滑らかな余韻を残し、普通は真っ先に減退するはずのハイ寄りの輪郭も鮮やかに主張し続ける。特に、ストラトのフロントなどと組み合わせた時の、金属質な高次倍音による明るく伸び上がる音色は絶品だ。少なくともそのローゲインなサウンドならば、巷にある高品位なクリーン・ブースターよりもさらに一歩踏み込んだラディカルなゲインを稼ぐ手段として踏みっぱなしにもできるだろう。誰にでもわかる様なミッドの太さではなく、システムの深い位置に“浸透”することで力を発揮するカンフル的なディストーション、IRON FOREST。手に入れやすい価格に反して、システム全体を見通す力に長けたユーザーにこそ重宝される、実に“通”好みな逸品だ。
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[FINE Distortion] 写真:イケベ楽器店 ギターズステーション

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13 Human Gear [FINE Distortion]

 すでに30周年も間近となった老舗の風格も著しい、八木浩氏のプライベート・ブランドHuman Gear。FINE(フィーネと読む)Distortionは、その哲学的とも称される指向性のある同ブランドによる歪みの最も典型的な効果を地でいく“エリート”ドライバーだ。噛み付く様なエッジ感こそないものの、歪みは硬質で“弛み”が一切なく、常に鋼線を束ねた様な「ギャリ」っとした鳴りがどの帯域からもまんべんなく飛び出してくる。低音は実用範囲ギリギリにタイト目なチューニングであるにも関わらず、この骨太な剛性感はどこから来るのか。ミッドは潰れることも出過ぎることもなく適度に張っていて、程良い“空腹感”が絶妙なフットワークの良さを生んでいる。ただ、全体の音量を左右する“VOL”は動かすと歪みの重心をずらすので、一度良い音を見つけても常に“DIST”と“TONE”で微調整をしながら上げて行く必要がある。

 それでも、ある程度ハイゲイン上のスウィート・スポットを見極めてから、一気に“DIST”を下げてやると得られるグラマーな音色は感動的ですらある。ディストーション特有の枠のある箱モノ感というか、どこかで頭を抑えられている様な伸び切らない感覚が消え去り、サステインとはまた違うアタックそのものの主張の到達距離が拡大するイメージだ。むしろ、歪みの強い設定よりも8時から9時程度に“DIST”を落とした方がレガートなどの美しさが際立つ。基音の立ち上がりも良く、十分にソロでも勝負できる音質だと言って良い。ギターのボリュームへの反応も悪くないのだが、やはりそちらも本体の“VOL”と同様にミッド域のキャラクターの変化が気になるので、この歪みに限っては“DIST”の方をライブ中にEXペダルなどで動かせたら……と思うほどだ。

 そもそも、高級ブティック・アンプ並みに中域の倍音が豊かなのは、このペダルがローゲインで使うことの方が本流であると暗示している様にも思える。クリッピングの対称/非対称や、プレゼンスのセレクターもローゲイン設定の時の方が明らかに効果的に働くのも自明である。同社のもうひとつの代表的なディストーションであるANIMATOの少しフィルター臭い歪みが苦手という人には、最適だろう。モダンな歪みの様にゴリゴリとした鳴動こそ味わえないが、よりハイセンスにアンプとギターから歪みを引き出したいならば、この媒体にしか掴み得ないサウンドがあることを知っておくべきである。
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[Sweet Finger (MSF-1)]

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14 M.I.J Pedals [Sweet Finger (MSF-1)]

 ギタリストが作る、ギタリストのための歪み──真に現場で使えるサウンドの探究に執念を燃やす高円寺のエフェクター・ブランド、M.I.J Pedals。新星ブティック・ペダルにありがちなスペック優先で“あえて”かわす様な音作りはせず、堂々と正面から王道サウンドを磨き上げ、イメージしやすいディレクションをさらに地に足の着いた目線でひとつひとつ積み上げていく同ブランド手法に賛同の声は多い。

 Sweet Fingerは、太さとシャギーなスクリームを兼ね備えた力強いディストーション・サウンドが魅力の逸品だ。とにかくよく歪む上に、チューブ・アンプ特有のスクープされがちなミッド・レンジにうまくハマってくるようなピークの味付けがされており、アンプそのものがモダンな音色でそれが大音量の中でかなり強く歪んでいても、Sweet Finger自体の個性が埋もれることがないのは凄い。アタックに伴うピークはリリース側がなだらかになる様な設定で、最低限の歯切れの良さは確保しつつも、音と音の繋がりを意識したチューニングになっている印象だ。総じて倍音の飽和が独特の乾いたサグにも出口を狭められることがないので、サステインには厚みがあり、どんな弾き方をしてもフィードバックが小気味よく立ち上がってくる。3バンドEQも美味しい帯域を外さない設計なので、ディストーション初心者でも理屈抜きで良い音に辿り着けるだろう。久しくこういった骨太なペダルはなかった様に思う。筐体の小型化と、コンデンサーなどの選択肢が増えたことの弊害で、技術力の追いつかない狭量なサーキット・レイアウトによってコントロール類の使い難さばかりが目立つ最近のエフェクター群の中で、このサイズの筐体に横並びのEQレイアウトは、暗く狭いステージの上でもスイッチングや音の微調節時に、他では得難い「安心」を与えてくれるはずだ。

 また、特筆すべきは“Gain”を下げ切った地点の音色で、非常に落ち着いたクランチの下に、さらに頭を削られた柔らかなバイト感を伴ったもうひとつの「ドゥーミー」な層が走っているのを感じることができる。あまり聴いたことのない、暗く、しかし高域の鮮烈な抜け感だけが耳残りする不思議なドライブがそこにはある。ギターのトーンを硬目にして、ヘッドルームのあるコーラスでアルペジオなどを弾くと、音粒の表層の疾走感と低域の鈍さが混濁とし、凪(なぎ)の日の漁り火の様な幻想的な響きを帯びる。そのサウンドが、まさにギタリストの琴線にそっと触れる「Sweet Finger」の名が示す通りの暗喩だとしても、誰も驚きはしないだろう。表裏共に実用的なスポットの多さ、ストレートな操作性、そして見た目と音像の「近さ」……一回りして辿り着いた、真打ちを担うだけの一貫性がこのペダルにはきちんと備わっている。なんとも頼もしいペダルだ。
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[Q.O.O. Blue Edition] 写真:クロサワ楽器 デジマート店

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15 OVAL TONE(Ovaltone) [Q.O.O. Blue Edition]

 自ら築き上げたブランドのイメージにすら縛られない柔軟な思想で、懐の深いサウンドの構築に日々取り組む実力派工房、OVAL TONE。Q.O.O. Blue Editionは、ギター用ラック・プリアンプの名器として名高いCAE(CAA)3+SEをモチーフにしたシリーズのプロット・シンボルとして製作された初めての量産プロダクトで、前回のNAMMショーでお披露目され、世界のレベルで注目を集める全く新しいスタイルの歪みペダルである。

 OVAL TONEがこのエフェクターで表現したいものは3+SEそのもののサウンドではない。もちろんあの90年代のスタジオ・サウンドを象徴する、独特の粘りと太いエッジを持つ均整のとれた深いハイゲインをイメージさせることも忘れはしないが、その歪みカーブはむしろ飽和し切る前の領域が拡張されており、柔らかい音の芯を残したビッグなクランチの中に多くの“使える”ポイントを残すように調整されている。その結果、それは、密度のある強いゲインの中でも全く崩れることのないオープンなタッチという、ある意味過去のハイゲイン・サウンドがほとんど克服し得なかった“ジレンマ”からプレイヤーを解き放つ、ひとつの答えであるとも言って良い。OVAL TONEのデザイナーである田中祐輔氏は、そのレスポンスのことを、独特なコンプ感や分厚いハーモニクスを持つチューブ的な音に対して「ピッキングが擦り抜ける」と表現している。目指したのは、ハイ・クオリティな真空管プリアンプだけが持つクリーン・ベースのトーン・スタックによる整合性を保ったまま、たっぷりとしたコンプレッションの中でも自在にコントロール可能な“ジャスト”なニュアンス。そして、それはクロスオーバーな動きをする“TONE”に連動する、フィルターで分けられた低域側の一部を効果的にカットできる“MIDDLE”の存在により、ピッキングの空洞化を生むいわゆる“バタつき”を排除することもでき、より磨きのかかったサウンドに仕上げられた。

 常に万人が立ち止まる“困難”から目を背けず、斬新な意匠で定石を多角的に崩しにいく同社の英知が生み出した傑作歪み、Q.O.O. Blue Edition。これぞまさに、エフェクター群雄割拠の関東で今後話題の中心となっていくであろうトップ・ブランドが手がける、新しい時代の歪みの形なのだ。……ちなみに、先行予約が開始されたばかりのQ.O.O. Blue Editionだが、すでにファースト・ロット分は、耳聡いユーザーたちによって即時完売してしまっている。だが、8月以降には順次追加ロットが店頭に補充される手筈となっている。デジマートで入荷状態を常にチェックして、この先伝説のペダルとなる可能性を秘めたこの1台を手にするチャンスを伺って欲しい。
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エピローグ

 今回は、ディストーション……しかも、その本領とは真反対にある逆説的ローゲイン・サウンドに焦点を当ててみた。こういったひねくれた(?)視線で機材をいじくるのも、長く楽器を楽しむためのコツのひとつである。ディストーションという、歪みの中では取っ付きづらく、また歪みの探究が進むほど触手が動かなくなると言われるこのジャンルに、新たな視線でもって上級者さえもグビグビくるようなまだ知られていない使い勝手を掘り起こせたならば幸いである。

 ちなみに、『アルカイック・ディストーション』などという言葉は存在しない。ただの造語だ。だが、かつて先人たちが“マイク”を“ピックアップ”と言い換えてみたり、クラシック・スタイルのギターを“アコースティック・ギター”と呼んでみたように、今回は“その音”にふさわしネーミングを与えたつもりだ。言葉、名称というのは大切なもので、それは音に対するイメージすらもがらりと変えてしまう力がある。そもそも、「ディストーション」という言葉自体が、アンプへの過負荷=オーバーロード(オーバードライブ)状態を置き換えた言葉から来ており、本来、オーディオの世界ではネガティブな意味で使われる“歪み”の意味が、ディストーションという言葉の誕生によって、より積極的な音作りのビジョンに生まれ変わったものなのである。

 実際のサウンドにインスピレーションを得て我々がその音を言葉で表現するのと同様に、逆に新しい言葉から生まれるトーンや機材の括りがあってもおかしくないはずである。その“センス”については保証の限りではないが、少なくとも機材ライターの特権として、たまにはそういった知らない言い回しを用いることも許して欲しいものだ。

 それでは、次回9/14(水)の『Dr.Dの機材ラビリンス』もお楽しみに。

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製品情報

ディストーション

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プロフィール

今井 靖(いまい・やすし)
フリーライター。数々のスタジオや楽器店での勤務を経て、フロリダへ単身レコーディング・エンジニア修行を敢行。帰国後、ギター・システムの製作請負やスタジオ・プランナーとして従事する一方、自ら立ち上げた海外向けインディーズ・レーベルの代表に就任。上京後は、現場で培った楽器、機材全般の知識を生かして、プロ音楽ライターとして独立。徹底した現場主義、実践主義に基づいて書かれる文章の説得力は高い評価を受けている。

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