楽器探しのアシスト・メディア デジマート・マガジン

  • 連載
  • いっちーのデジタル・デジマート 〜第15回〜

iPadで音楽制作を楽しむ人たち 〜トラック・メイカー編〜

iOS対応オーディオ・インターフェース

前回からiOSデバイスを音楽制作に活かしている方にお話をお伺いしています! 今回のゲストは、音楽ユニット「天誅(てんちゅう)」のトラック・メイカー、どぶ大根さん。2015年にリリースしたニュー・アルバム「寿」の制作ではiOSデバイスが大活躍したとのこと。さっそくお話を伺いましょう!

このエントリーをはてなブックマークに追加

今回のゲスト 天誅・どぶ大根さん(トラック・メイカー)

▲魔王源、三味線熊、インコ(2015年に加入)とのユニット“天誅”のトラック・メイカー。90年代末から自らの音楽を“オタポップ”と称し、当時まだ一般的にはマイノリティであったインターネットを中心に音楽活動を開始。巨大掲示板サイト2ちゃんねるをテーマにした曲「頭狂アンダーグラウンド」は、当時ブームだったフラッシュ・アニメーションが何者かによって制作され大ブレイク。 時代ごとのITインフラを取り入れ、新しい音楽表現のあり方を体現してきた。オタク音楽文化の黎明期を支えたと言っても過言ではない。最近はインコとの新インスト・ユニット“HMBG”のトラック・メイカーとしても活動している

iPhoneの音楽アプリが、音楽活動再開のきっかけに

── 10年ぶりのアルバム・リリースとなりましたが、その間、音楽制作の環境はどのように変わりましたか?

 天誅は同じ大学に通う学生同士で始めたユニットでした。始めた当時はSTEINBERG Cubase VSTを使い、音源はハードウェアが中心でした。学生マンションの一室で作曲からボーカル録音までこなし、学生ならではの贅沢な時間の使い方をしていた時代です(笑)。社会人なってからペースは緩やかながらも音楽活動は続けていました。DAWはCubase SXにアップグレードし、ソフトウェア音源中心の音楽制作も経験しましたが、結婚して子供が生まれてからは音楽活動が全くできない状態に……自分の時間が取れるのは片道1時間の通勤中と昼休みぐらいしか無くなってしまったんです。その少ない自分の時間で何かできないかな?と考えたのがiPhoneでの打ち込みでした。iPhoneアプリを調べてみると、さまざまなシーケンサーや音源がアプリで販売されていて、Cubase SXから時が止まっていた私にとっては、まさに浦島太郎状態でした(汗)。

── iPhoneでの音楽制作環境へはスムーズに移行できましたか?

 最初に試しにいくつかのアプリを購入しました。iPhoneは小さな画面でもピンチ・イン/ピンチ・アウトに慣れたら問題ありませんでしたね。そうこうしているうちに何曲か出来上がったのでネットに公開したところ、疎遠だった他のメンバーが勝手に歌詞を付け始めたんです。iPhoneの内蔵マイクを使ってボーカル録音したりと、今思えばメチャクチャですが(笑)、何とか1曲仕上げることができました。そのやりとりがすごく楽しくて、こういうのは久しぶりだなと思ったことを覚えています。結果的にそれが天誅を再始動するきっかけになったんです。 iPhoneでの楽曲制作に手応えを感じたので、iPadも購入しました。画面の大きさに感動しまして(笑)、作業効率も一気に向上しましたね。

▲空いた時間を有効活用し、思い付いたアイデアをすぐ形にできるのがiPadを使うメリットと語るどぶ大根さん。ちなみに使用しているデバイスはiPad Air 2 128GB

作曲、素材作り、ミックス・ダウン/マスタリングによって
3つのDAWアプリを使い分ける

── 楽曲制作で使用しているアプリを教えてください。

 メインで使っているDAWアプリはINTUA BeatMaker 2です。iPhoneで曲作りを始めたときから使っています。使用できるトラック数が無制限で、サンプラー機能が充実しているところと、タッチパネルでMIDI入力が簡単に行なえる所が気に入っています。ミックス・ダウンは各トラックをWAVで書き出して、WAVEMACHINE LABS Auria Proで行ないます。これはPro ToolsのようなDAWアプリですが、サード・パーティー製のエフェクトが充実していて音も良いんです。アプリ内課金で購入したFABFILTERのエフェクトは、ミックス・ダウンやマスタリングで使用しています。ニュー・アルバムはすべてAuria Pro上でマスタリングを行ないました。

BeatMaker 2のメイン画面。iPhoneで曲作りを始めるにあって、いくつかのアプリを試した結果、これが一番良かったとのこと。iPadを導入してからも作曲のメイン・シーケンサーとして使用している

▲ミックス・ダウンやマスタリングで使用しているAuria Pro。FABFILTERのイコライザーPro-C2、コンプレッサーPro-Q2はミックス・ダウンで、Pro-L、Pro-MBはマスタリングでよく使用するとのこと。これらのエフェクトはアプリ内課金で購入できる

▲どぶ大根さんのiPadのホーム画面。一番下のDockエリアにはよく使用するDAWと音声管理アプリAudioshareが並んでいる。上から二列目中央のSUGARBYTES Egoistは、波形を切り刻んでランダムに並び替えることができるアプリ。「いろんな曲を取り込んでBeatMaker 2のパッドに並べるだけで思いもよらないフレーズを作ることができるところが気に入っている」という

MOOG Animoog。「視覚的にも楽しいシンセでMOOGっぽいベースやギラギラしたデジタル・シンセ音が気に入っている」と、どぶ大根さん

 よく使用する音源アプリはMOOG AnimoogARTURIA IminiIK MULTIMEDIA Sampletank For iPadKORG ModuleWALDORF Naveです。これらのアプリはBeatMaker 2だとAudioBusやInter-App Audio経由でうまく動作しないことがあるので、回避策としてDAWアプリのSTEINBERG CubasisにMIDIデータを渡し、そこで鳴らしたものをWAVに書き出してAuria Proに張り付けて使っています。

 アプリ間のデータやりとりは、BeatMaker 2から他のアプリにMIDIデータを送るときだけDropbox使っていて、音声データは、管理アプリKYMATICA Audioshareを経由して他のアプリに移すことが多いです。音声データの管理はこれが無いとすごい厳しいです(笑)。

Auria Proの画面。ほとんどのトラックでAudioshareからAudioCopy機能を使ってペーストされているのが分かる

メンバーとのやりとりはLINEとDropBox

── 現在使用しているiOSデバイス周辺機器を教えてください。

 通勤時間での作業はiPadとヘッドフォンのみです。電車やバスの中でマスタリングをやらざるを得ないこともあるので、ノイズ・キャンセリング機能を搭載しているBOSE Quietcomfort 25を使用しています。会社の昼休みにはMIDIキーボードのKORG Nano Key 2を使っていて、普段から引き出しの中に忍ばせています(笑)。自宅ではオーディオ・インターフェースRoland UA-22 DUO-CAPTURE EXを使っていて、ハード・シンセをサンプリングするときに使っています。あと重宝しているのがIK MULTIMEDIA IKlip StudioというiPad用のデスクトップ・スタンドです。傾斜角度と安定性が素晴らしいです。何でもっと早く買わなかったのか(笑)。

▲どぶ大根さんのメインのモバイル制作環境。「iPadで楽曲制作するならスタイラス・ペンは必須!」と、どぶ大根さん。METAMOJI Su-Penを使用。軽くて感度が良いとのこと

▲自宅での音楽制作環境。以前からの使用しているROLNAD JV-90、JD-8080などのシンセサイザーやコンピューター環境も残されているが、iPadが音楽制作の中心になっている

── メンバーとのやりとりはどのように行っているのでしょうか?

 会議はオン・ラインでLINEのグループ・トークを利用しています。 今回のニュー・アルバムの制作にかかった1年のうち、他のメンバーとは実際に2回くらいしか会っていません(笑)。制作工程は、まず私が仮オケを作りDropboxでメンバーに共有します。メンバーは詞を書き、各自でボーカル・パートをレコーディング。この時使用する機材もiPhoneで、マイクとしてLINE 6 Sonicport VXを使っています。このようにデータをDropBoxで共有してLINEで会議を繰り返すことで曲作りが進行していきます。このやり方で1ヵ月で1曲ぐらいのペースで作っていきました。

▲天誅のライブ・パフォーマンス(写真左から魔王源、インコ、三味線熊)の様子。現在どぶ大根さんはライブには出演していないが、今後の復帰を検討しているという

── 今使ってみたい機材はありますか?

 オーディオ・インターフェースのRME Fireface UCXです。iPadだけでもマスタリングまで行なえますが、やはりもっと音質を良くしたい欲が出てきまして……昔はミックス・ダウンのとき、音の分離を良くするために、各トラックをパラで出力して外部ミキサーでまとめてもう一度コンピューターに戻すということをやっていたので、同じようなことをiPadでもやってみたいと思っています。次のアルバムを作る際は導入するかもしれません。

▲RME Fireface UCX

── 今後またコンピューター中心の音楽制作環境に戻る可能性はありますか?

 家で落ち着いて制作できる時間が取れるようになれば、PCも使いたいとは思いますが、 やはりメインはiPadですね。時間が有効活用できて、いつでもどこでも曲作りができるというメリットは捨てがたいです。人によるかもしれませんが、アイディアはPCの前でアレコレ考えるよりも、歩きながらの方が絶対にわきやすいと思います。 電車中で打ち込み、乗り継ぎ移動中にそれを聞きながら構成を考えるといったことが自然とできるのも、このスタイルの強みです。 通勤時間は会社に勤めてる限り無くなりませんからね(笑)。

▼天誅5th アルバム「寿」試聴版 (※12曲目以降は他アーティストのリミックスで制作環境は異なる)

▼どぶ大根さんの別ユニット「HMBG」の楽曲。こちらもすべてiPadで制作されています。

HMBG - Mixed Grill

関連リンク

天誅5thアルバム「寿」
UNK records UNK-005/定価2,000円
[Amazon]

天誅ホームページ
http://10chu.web.fc2.com/

このエントリーをはてなブックマークに追加

製品情報

iOS対応オーディオ・インターフェース

デジマートでこの商品を探す

iOS対応MIDIコントローラー

デジマートでこの商品を探す

プロフィール

いっちー(市原 泰介)
サウンド&レコーディング・マガジン編集部WEBディレクター。学生のころから作曲やDJ活動、バンド活動などの経験を積む。某楽器販売店を経てリットーミュージックに入社。前職では楽天市場内の店長Blogを毎日10年以上更新し、2008年ブログ・オブ・ザ・イヤーを受賞。得意ジャンルはクラブ・ミュージック。日々試行錯誤中。

製品レビューREVIEW

製品ニュースPROUCTS