AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
CONISIS / Elegant Beast BA001
バッファー・アンプは1980年台に登場し、現在に至るまで多くのモデルが発表されてきました。しかしながら、非常に難しい「エフェクト」でもあります。なぜなら「音を変えない。でも信号は強くする」というシロモノで、しかも「アンプ」なのに「アンプ」ではない……では一体バッファー・アンプってなんなの? 長年にわたってそうギタリスト/ベーシストを悩ませてきました。
バッファー・アンプはギターやベースの信号を強化、もしくは他の機材とのマッチングを良くする為に存在します。楽器のパッシブ・ピックアップは、一部を除いて非常にアナログなデザインで、良くも悪くも1950年代から変化していません。現代の様ように電気製品が溢れかえっていない時代のデザイン。音色自体は良くとも、周辺機材の発生させるノイズ(モニター画面やトランスを積んだ製品、生活家電や携帯電話も)がこれほどまでに世に溢れるとは、当時の誰が思いましょうか。
そんな微弱で「か弱い」信号は直に外部からの影響で姿を変えます。つまりサウンドが変化してしまいます。ケーブルが3mから6mに変わっただけで、高域は明らかにロスしますし、シングルコイルのギターで10mのケーブルを使用すれば、場合よってはゲインすらも落ちてしまいます。そんな微弱な信号と現代的な機材とのマッチングを取るという意味でも、バッファー・アンプを使用するメリットはかなりあります。音の大きさ(電圧)を変えずに電流だけを増幅し、電気的にマッチョにしてやる事で、外来ノイズやケーブル等の抵抗を通過する際のロスを抑える力を与えてくれます。音量も音色も変わりません。でもフレッシュでみずみずしいサウンドになる、もしくは本来の音に蘇るわけです。
今回ご紹介するこのBA001は純然たるバッファー・アンプでありながら、ただのバッファーには収まらない存在感を持っています。本機は何と電流を元の3万倍に増幅するパワーを持っています。多くのエフェクターや長いシールド・ケーブルを経ても、信号の劣化を防いでくれるだけでなく、むしろそのピュアな「質」を高めてくれる印象があります。これはICオペアンプ(集積回路=小さなチップに複雑な回路を落とし込んだパーツ部品)では実現不可能なレベルのもので、オペアンプで構成されたディスクリート・サーキット(個々のパーツを組み上げるチューブ・アンプのように原始的な回路構成)ならではのもの。リッチで美しく、そしてパワフルなサウンドは、Elegant Beastのネーミングの通り、まさにエレガントで繊細な音色と、野獣のようにパワフルな迫力を兼ね備えていると言えます。
動画の音色、特にアタックの瞬間の音像をチェックして欲しいのですが、BA001を通過した信号はいずれも艶やかで、奥行き感が感じられると思います。そして、音の「芯」はそのままでありながら、その音の周りに厚い倍音の膜がある様なイメージに聴こえるはずです。実際に演奏している側は、さらにそれを感じる事ができました。とにかく弾き心地が良くなり、Kemperのサウンドをモニターしていても音の潤いが全然違って聴こえます。アンサンブルに入ればさらに差が出る事でしょう。また、BA001はFractal Audio/Axe-FxやKemperなどに代表されるデジタル・アンプ/モデリング・アンプ用に開発されたバッファー・アンプとはいえ、ペダルボードやチューブ・アンプの手前に置いても効果を発揮します。動画後半ではペダルボードの手前に配置してみましたが、場合によってはペダルボードの最終段に置いてみても良い効果を発揮するでしょう。
レコーディングにおけるギター・サウンドの質をとことん追求しているギタリストにとっては無視できないバッファー・アンプ。そんなバッファーに拘り抜いてカスタム・デザインされたメイドイン・ジャパンならではの逸品。KemperやAxe-Fxユーザーの皆さんはもちろん、バンドマンの皆さんにもぜひお勧めしたいアイテム。ライブやレコーディングの場面では特に、絶対に、音に差が出るアイテムです。
※使用ギター:Crews Maniac Sound / solution R6
※使用アンプ:Kemper PROFILER RACK、 Fender '68 Custom Deluxe Reverb
村田善行(むらた・よしゆき)
株式会社クルーズにてエフェクト・ペダル全般のデザイン担当、同経営の楽器店フーチーズ(東京都渋谷区)のマネージャーを兼任。ファズ関連・エフェクター全般へのこだわりから専門誌にてコラムを担当する他、覆面ネームにて機材の試奏レポ/製品レビュー多数。