アコースティックエンジニアリングが手がけた“理想の音楽制作を実現する”環境
- 2024/11/25
VOX / Starstream Type 1
ギター/アンプのブランドとして長い歴史と伝統を誇るVOXが、フレーム構造を採用したモデリング・ギター、Starstream Type 1を発表した。今年1月にカリフォルニア州アナハイムで開催された“NAMM Show 2016”でその存在が明らかになり、革新的なルックスで世界中に鮮烈なインパクトを与えたこのギター。内蔵する27種類の多彩なサウンドを実際にはどのように使い分けたらよいのか、今回はボカロPとして活躍し、自身のバンドであるヒトリエでギター・ボーカルを務めるwowakaにStarstream Type 1をプレイしてもらい、その音色や弾き心地を探ってもらった。
まずは本器の基本的なスペックを確認していこう。モデリング・システムである“AREOS-D”はもちろんのこと、人間工学に基づいてデザインされたボディ形状も要チェックだ。
“ファントム”や“ティアドロップ”など、革新的な形状のギターを多く世に送り出してきたVOX社。このたびリリースされたStarstream Type 1も、そんな同社らしいオリジナリティを持ったギターに仕上がっている。最新の人間工学を取り入れた鋳造フレームを採用した本器は、マンゴー材のボディにミニサイズ・ハムバッカー(VOX製XLM)を2基とインブリッジ・ピエゾを搭載した3ピックアップ仕様となっており、これらを含めたハードウェア・システム“AREOS-D”によりギターはもちろんシタール、シンセサイザーなど計27種のサウンドを内蔵するモデリング・ギターとして活用することができる。
インストゥルメンタル・バンクには計9つのモデリングがインストールされている。内訳はエレキ・ギターが5種、アコースティック・ギターが2種、それにバンジョーやシタール、リゾネイターなどの弦楽器のサウンドを楽しむことができる“UNIQUE”、そしてシンセ系の“SPECIAL”となっており、それぞれでトグル・スイッチを“NECK”、“MIDDLE”、“BRIDGE”と切り替えることで、ひとつのバンクにつき3つのトーン・バリエーションが得られる。また、AREOS-Dシステムにはエフェクトも搭載されており、エレキ・ギター系ではオーバードライブが、そのほかではリバーブを適宜加味することも可能だ。
多種多様なサウンドが得られるStarstream Type 1は楽器の持ち替えの手間を省けるという利便性の高さのほか、ユーザー・プリセットをふたつ内蔵しているので、好みのインストゥルメンタルをメモリーしておけば演奏中に素早く音色を変えることもできる。また、付属のトレモロ・ユニットを併用すれば、例えば12弦ギターやシタールにトレモロをかけるなど、これまでになかったアプローチも可能。本器でしか得ることのできない音楽性が多分にある点も大きな魅力だと言える。
ここからは、Starstream Type 1を今回初めてプレイしたwowakaに、ギターを持ってのインプレッションから、エレキ、アコギ、ユニーク、スペシャルといった各モデリング・サウンドを弾いてみての印象まで、ライブやレコーディングを始め、幅広いシーンでギターを弾くwowakaならではの率直な感想を語ってもらった。
“抱えた時にすごく体にフィットします”
まず、ギターとしてしっかり作ってあるなというのが初めて持った時の印象です。ネックも固くて、いわゆる良いエレキ・ギターを弾いている時と同じ感触です。パッと見では弾き心地に不安を感じる人もいるかもしれませんけど、その点では良い意味で普通。それがすごく好印象でした。
それで、目を引くのはやっぱりボディのフレームですよね。これ奇抜ですけど、抱えた時にすごく体にフィットします。本当にパズルのパーツがバシッとハマッた感じで(笑)、手元にギターが吸い寄せられるような感覚。最初はちょっと不思議な感じもするんですけど、慣れてくると本当に弾きやすいです。
弾いてみた時に最初に感じたのは音の立ち上がりの速さです。どの音色を弾いてもそうなんですけど、ピッキングの意図にちゃんと反応してクッと音が立ち上がってくるっていうのは、この手のモデリング・ギターではあり得ないものだと思っていたのでビックリしました。音色に関しては、この豊富さがまず良いですよね。僕は音色にインスパイアされてフレーズが生まれてくることも多いので、こういう楽器にはすごく刺激を受けます。
“よく抜けて、独特のスピード感を持っていますね”
どの音も本当に良くできているんですけど、その中でもモデリングに留まらないこのギターならではの個性みたいなものがあっておもしろかったです。例えばSINGLEは僕が普段から使っているシングルのトーンに近いんですけど、そこに良い意味でのデジタルっぽさみたいなものが加味されているんですよね。滑舌が良くてよく抜ける音、加えて独特なスピード感もあって気持ち良かったです。ハーフトーンのB’TWEENやハム系の‘BUCKERの音は、最近ほとんど使っていなかったというのもあって、すごく新鮮で楽しいです(笑)。しっかり面積の広い音になっていて、歪みのかかり方も全帯域にかかってポーンと抜けてくる感じ。これがさっきシングルの音を出していたギターと思うと驚きです。MODERNは音の芯がありながらもちょっとカリッとしたところもあって個人的には好みの音色ですね。ブリッジ・ミュートを使ったリフとかに合いそうです。12STRINGはもう最高(笑)。12弦の手触りがちゃんと再現されていて、このオリエンタルな感じにすごく刺激を受けます。これだけでももう1曲作れそうです(笑)。
“良いアコギのサウンドが出るので、宅録にも便利だと思います”
アコースティック・ギターを弾いている気持ち良さって、やっぱりボディが鳴る感じと弦の振動やタッチの繊細さに反応してくるところだと思っているんですよ。これはそういうニュアンスがしっかりと再現されています。弾き心地はエレキ・ギターでありつつ、出てくる音が普通に良いアコースティック・サウンドなんでちょっと不思議ではあるんですけど(笑)、慣れれば本当に使いやすいと思います。僕も自分の曲でよくアコギを使いますが、その時に工夫して作っている音がほとんどそのまま出てくるので、宅録にすごく便利だなと思いました。LARGE、SMALL、12STRINGS、NYLONとそれぞれの質感もかなりうまく再現されているのでいろいろと使い分けていけそうです。
UNIQUEにはBANJO、SITAR、RESONATORの3種が入っていて、どれもすごくおもしろいです。こういう音が出るっていうのはギター弾きにとってすごく夢がありますし、可能性を感じますね。作曲に行き詰まった時とか、気分転換でこういう音を出してみるとか、そういう作曲ツールとしての側面で見てもかなり魅力的だと思いました。
“工夫次第では新しい音楽が発明できそう”
これはもう飛び道具ですね(笑)。僕はギターは変な音を出してなんぼみたいな思想も持っていたりするので、こういう音はテンションが上がります。音質的にはどれも素晴らしくて、録音でもライブでも全然使えそうです。ラインの音もクリアで使いやすそうです。あと個人的にすごく良いなと思うのは、こういう音でもピッキングのニュアンスにきちんと反応してくれるところです。シンセ系のエフェクターをかました時ってピッキングの部分がのっぺりしちゃって、しかもそれが全体を支配しちゃう感じがあるんですけど、これは本当に立体的に表現できていて素晴らしいです。
音が音だけに使いどころが難しい部分はあるかもしれないですけど、例えばひとりでの弾き語りでBASS SYNTHの音をループさせて厚みを作るとか、工夫次第では新しい音楽が発明できそう。考え方としてはシンセの音が出せるギターというよりこういう楽器としてとらえたほうが良いんでしょうね。この楽器だからこそできること、そういう風に使い道を考えていくと想像が膨らんでいくんじゃないかなと思いました。
“ただの再現じゃなく、そこを一歩超えたアイデンティティがある”
サウンドの豊富さというのはもちろん魅力なんですけど、僕としてはまず何よりもレスポンスの良さ、立ち上がりの気持ち良さの部分がすごく魅力的でした。普段ギターを探す時も重視するポイントなんですけど、このギターはそういう演奏性の部分がかなり追い込まれていて、弾いていてまったくストレスを感じないんです。ひとつの楽器としてすごく良くできているなと思いました。
音色に関してはどれをとっても“味”があるんですよね。ただの再現じゃなく、そこを一歩超えたこのギターのアイデンティティというのがしっかりあって、その部分がものすごく好印象でした。あとこの豊富さはやっぱり楽しいですね。ベーシックな音から飛び道具的な音まで、本当にいろいろと楽しめてオモチャ箱みたいな(笑)。ギター弾きにとってはすごくワクワクさせてくれますし、刺激的だなと思います。個人的には12弦やバンジョーの音が好きでしたけど、例えばそれにさらにシングルの音を組み合わせて新しいフレーズを考えたり、ステージの展開を考えたりできるっていうのはこのギターならではの大きな強みになるんじゃないかと思います。
僕は自分で音楽をやっていて、曲やフレーズを作る時にはいつもこれまでにないもの、新しい発見や驚きを体験したいなと思っているんですけど、そういう観点から見てもこの楽器は本当に魅力的ですね。今日こうやって弾いているだけでも新しいリフの着想をもらいました。ぜひ1本は手元に置いておきたいです。
今回デジマート・マガジンではwowakaのインプレッションを中心にStarstream Type 1の魅力をお届けしたが、6月13日発売のギター・マガジン7月号では、「革新と伝統の邂逅〜VOX Starstream Type 1」と題して全8ページに渡り本器を大特集している。今回紹介したwowakaのインプレッションに加え、日米開発者に聞いたStarstream Type 1製作秘話や、開発段階から関わり、実際にライブでも本器を使用しているゴダイゴの浅野孝巳によるレビュー、そして第6回ギター・マガジン・チャンピオンシップのグランプリ獲得者でもある岡聡志による本器のサウンド・サンプルCD付録など、まだまだ伝えきれない本器の魅力を是非、ギター・マガジン7月号で確かめてほしい。
wowaka(ヲワカ)
ボカロPとして「裏表ラバーズ」や「ローリンガール」などのヒット曲を手がけ、アルバムを多数リリース。さらに2012年には自身が中心となってヒトリエを結成し、作詞作曲およびギター・ボーカルを担当するなど、多彩な才能を発揮。2013年には同バンドでメジャー・デビューを果たし、多方面での活躍を見せている。