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  • Dr.Dの機材ラビリンス 第29回

“クセ者” 1ノブ・ブースター&エンハンサー〜サイクロプスの憂鬱〜

ブースター、エンハンサー

今回の機材ラビリンスは「1ノブ・オペレーションを基本とするブースト/エンハンス・ペダル」集である。その中でも音量を増幅することによって新たに加わる「音色変化」を楽しむ為に作られた、ちょっと変わったペダルたちに注目してみた。たったひとつのノブを上げ下げすることで、音量と共に何が変化するのか? それを吸収、消化しながら、積極的に自分の音を作りにいく人にこそ読んで欲しい。

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プロローグ

「ノブ」には、様々な個性が隠れている。

 触れるまでわからない。どこまで回せるのか──どこまで回して良いのか、いけないのか。そもそも、どんな機能なのか。目盛りを僅かに狂わせただけで、そこまで積み上げてきた全ての音のバランスが崩壊してしまうなんてこともザラだ。逆に、林立するノブのうちのたったひとつ、そのひと目盛り先に、自分の理想の音が待っているかもしれない。それを回す勇気を常にプレイヤーは試されている。

 正解があるのかどうか、否、正解を求めることが正しいのかどうかさえわからない音の世界で、ユーザーに与えられた“自由”……それはきっと、無制限ではない。だが、闇雲に伸ばした手の先が何かに触れるかもしれないスリルを求めることが音に向き合う近道であると本能的に感じるからこそ、プレイヤーは、ひとつのノブの隠された力を解放することで報われたいと考えるのだろう。

 おそらく、ギターのノブ、エフェクターやアンプのノブを回すことは、プレイヤーが自分自身をチューニングする行為なのだ。しかし、よく考えてみよう。ノブの動きが軽過ぎたり重過ぎたりしてちょうど良い位置で止められないことにイライラする時、ギターを始めて3日の若者でさえ、ほんのひとつまみの塩加減で味のバランスをとるシェフ(調理人)の気位のごとく鼻息を荒げる滑稽さはどうだ? それを見ると、ノブの付いた楽器や機材というのは、まだテーブルに塩コショウがフルセットで並べられていた昔のラーメン屋よろしく野卑で曖昧なだけの、意識の低い世界のツールなのかもしれない。だが、あれほど奥行きのある音の世界が、それほど「精度」にルーズであるわけもない。もし、どのような個性がノブに隠されていても、それを受け入れ、ほんの少しで良いから自らの創造力を動かす推進力に変えなければならないとするならば、熟年のプロフェッショナルも冷やかし半分のファッション・ギタリストも全く区別無く同じノブに触れることのできるこの不条理を、どう説明せよというのか。

 そもそも、プレイヤーが、プレイ以外のノブの操作に熟達しなければならないわけとは何なのだろうか?

 ふと、思うことがある。たったひとつしかノブのないエフェクターを前にした時の、あの一瞬やってくるがっかり感、それがやがて沸き上がる静かなる高揚感になり、さらに抑えきれない胸の高鳴りに変わっていく──あの感情はどこから来るのだろうか、と。最初のがっかりは、操作できるパラメーターの少なさを嘆く感情などから来るものでは決してない。きっと、あれはこちらの“腕”を信用されてないことに対する不満だ。「どうせ、このくらいの操作でお前は手一杯だろう?」「こいつをまず使いこなしてから出直して来い」などと、誰かにすぐ後ろで囁かれている気がするからだ。続く高揚感は、その“挑戦”に対する反発心の表れだ。「だったら、やってやろうじゃんか」と、沸き上がる強い気持ちにまかせて、その挑発を押し返そうとする。そして、最後にやってくるドキドキは、おそらく、自分のこれまで培ったアイデンティティが、経験が、知識が、そのエフェクターのポテンシャルに適うのか……それを試される者特有の不安からくるものなのだろう。さらには、勝利し、その未知なる力を取り入れることで開かれる未来への憧れが入り交じった感情に違いない。よくよく考えてみれば、ノブがいくつに増えても、それを思考する回数が増えるだけで何も変わらないことに気付かされる。

 未知のノブに向き合う。そこには、バイオリンやピアノにはない、どこか、頑(かたくな)ではないがゆえの不思議な感情の流れの様なものが存在する。それは、“会話”なのではないだろうか? コントロールというアプローチを委ねることによる信頼関係の構築──意匠との駆け引き。そこには、プレイによる差別をコントロールするノブなど存在するはずもない。楽器の作り手とプレイヤーでひとつの音を生み出そうとする時、その間にノブがあるということは、作り手はプレイヤーの感性を信じ、プレイヤーは作り手から受け取った自由にプレイヤーならではの“操作”で応えなければならなくなる。「与えられた形のまま弾く」以外のコミュニケーションに新しい音楽の可能性を見る、不器用な、しかし、とても人間らしいおおらかな決断だと思わないか?

 厳しくもとても平等な、開かれた楽器の世界。そこにノブがあるから、心が繋がる。支えてもらえる。ゆえに、プレイヤーは安んじてその未知のサウンドに手を伸ばす。そうであれば嬉しい、と、いつも思う。

商品の選定・紹介にあたって

 今回は、1ノブ・オペレーションを基本とするブースト/エンハンス・ペダルを中心に集めてみた。中でも、音の変化をなるべく抑えるように作られている通常のクリーン・ブースター等とは異なり、音量を増幅することによって新たに加わる「音色変化」を楽しむ為に作られたちょっと変わったペダルたちに注目する。いわゆる“味付け”という言葉で曖昧に表現されがちなその効果をシステムに組み入れることの意味、そして、それを作った職人たちの意図するところを読み解き、シンプルなレイアウトに隠された機知に富んだ素性を暴き出すのが今回の目的だ。ひとつのノブしか持たないということは、直感的操作が限定されるだけでなく、機能的に干渉できない項目が意図的に設定されていると見ることもできる。そのノブが隣接したコントロールを持たないことで、ライブではキック・ノブとして使う人もいるはずだ。何故ノブがひとつなのか、そして、そこには音量以外の何が付属し、どんな複合的なサウンド成分の移動が存在するのかを正しく見極めることで、ひとつのノブから生まれる音の種類が格段に増すはずなのである。
 今回のリストの選別も、いつも通りデジマートの在庫に準拠している。明らかなドライブ系、空間系などの自立した効果のデバイスははずし、ブースターやエンハンサーといった既存の音質に加えて操作されるシンパサイズ・エフェクトを中心に選別した。また、MXRのMicro Ampのようなストレートなサウンドを目指す製品ではなく、それ自体に独自の「個性」や「クセ」、さらには「気配」のような抽象的な変化を持つ少し“気の利いた”ペダルを優先的に揃えている。ただの増幅機器としてではなく、それに加わる変化を音色のエレメントのひとつとして吸収、消化しながら、積極的に自分の音を作りにいく人にこそ読んで欲しい。きっと、自分の機材の潜在能力に呼びかける新しいアプローチを感じることができるはずだ。

1ノブ・ブースター&エンハンサー

[EP BOOSTER]

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01 Xotic [EP BOOSTER]

 今、プロアマ問わず世界で最も重用されている1ノブ・ブースターと言えば、このEP BOOSTERを思い浮かべる方も多いことだろう。今では多くのモデルが氾濫する、いわゆる“EP-3系”──ビンテージ・テープ・エコーの名機、Echoplex EP-3のプリアンプ部分の音色を抜き出したスタイルの草分け的存在とも言えるこのブースターは、その付加される効果を体感するほど、製作者によるディレクションの確かさ、そして「弾き心地」において素性の良質さが際立つ逸品である。低域をなだらかに持ち上げてアンプのロー・ミッドに絶妙なコンプレッションを引き出す感じが、まず、本物のEP-3の感触にかなり近い。EP-3は真空管構成ではなくソリッド・ステートだったこともあり、リリース時の倍音感は控えめでその分アタックはメリハリが効いているが、このEP BOOSTERの低域のロール感は実に絶妙な案配で、音粒の芯が散らばる寸前のギリギリの段階できっちりと輪郭をまとめ上げてくれるニュアンスがそっくりだ。

 高域全体にも多少人工的な丸みが加えられているため、底から太く立ち上がってくる外殻だけが主張することもなく、実際はそれほどゲイン・アップされていないミッドに鮮やかな弾力を与えるのにも貢献しているようだ。ダイナミック・レンジはアンプ直挿しよりは心持ち狭まってはいるが、それが弦のタッチを楽にし、ピッキングのがちゃがちゃしたプラークを軽減する役割もしっかりと果たしている。加えて、ジンクアロイ製のケースにグラウンドが通っていることによるロー・エンドの不思議な定位感も、少なからず出音の存在感に影響を与えているに違いない。結果として、そのチューニング・バランスは、クリーン・ブースターとしては理想的とも言える「歪んでいるのに、透き通って聴こえるサウンド」を、非常にセンス良く達成してくれるのである。ノブをどこまで上げていっても耳が痛くならず、レンジ特性をフルに保ったままツヤと甘さを真っ直ぐに足していけるこのテイストは貴重だ。ユニティ状態でその変化がしっかりと加味されるのも、万人に愛される由縁だろう。ただし、ご存知の方も多いと思うが、初期型のものはブースト・ゼロでもユニティ・ゲインが+3dBほどありコンプレッションもやや強くかかるタイプだった。特にシングルコイルのギターと組み合わせる時には押弦の感触が微妙に異なってくるため、その辺りの使い分けは意識した方が良いだろう。

 また、内部のDipスイッチは両方オフの方がEP-3のイメージに近い。「+3dBゲイン・アップ(レンジが全て平均的にブーストされるため、低域がよく聴こえ、“ベース・ブースト”とも解釈される)」も、エッジをコントロールできる「ブライト」も効きは良いが、それぞれピックの入れ具合による歪み出しのタイミングもシフトするので、音の変化以上にドライブそのものの“感度”の違いにも注意を払って使うことをお勧めしたい。回路を真似るのではなく、ひたすら効率的にEP-3を通した「気持ち良さ」のみをプラス方向にサジェストする意匠は、まさに現代を代表する傑作ブースターの名に恥じない実力を持っていると言えるだろう。
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[MB-2B Fat Control]

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02 Demeter Amplification [MB-2B Fat Control]

 ハイエンドなスタジオ機器メーカーをしても定評のあるDemeterが、独自の信号理論をストンプ・サイズの筐体に封印した新感覚ミッド・ブースター。元々は、ギター内部に埋め込むためのオンボード・ブースター(こちらはMB-2として別途販売。チューニングは違うが、同社製ブースターはJames Tylerブランドのギターに搭載された実績を持つ)としても使えるよう開発された製品であり、ミッド・ブーストとは言え、某歪み系ペダルの様に波形の上下をクリッパーでカットしてしまうタイプとは根本的に異なる、ワイドなダイナミクスが売りだ。

 しかも、MXRのMicro Ampの様にアンプのスクープ・ポイントを埋める様なフラット・ライズな効きともまた違った、「ギターらしい発声」に直結するポイントを広く押し上げる、実に鮮やかな効きを持っている。400Hzあたりから上は1kHzを越える広範囲を綺麗な丘になるように優しく盛り上げ、高域は若干減衰するがそれが上手くミッドの色調を強めるように働いてむしろ音抜けを助けている印象がある。広く強い音、とでも言おうか。パワーのあるハムバッカーの音質を少しほぐして、感度のみを上げていく感覚にそれは近い。中域が持ち上がっても決して鼻の詰まった様な濁りもなければ、パーカッシブな“中抜け”した音にもならない。常にしなやかでメロウな余韻があり、ノブを“fat”側に回していくほどに熱量のある倍音の色彩が強調されていく。完全なクリーンの中で、決して歪みの領域には入らないのに、その倍音の疾走感のみでリードが弾けるほどの広角な立体感が加算されるのは素晴らしい。

 しかも、ミッド・ブースターにありがちなコード・ストローク時に分離が抑えられる様なこともなく、特に、プレーン弦の太い響きは優雅と言う他はない。ジャズやフュージョンのプレイヤーにこのブースターが支持されているのも頷ける。また、常時バッファーを通るバイパス音も非常に優秀で、レンジ感は十分にあるのに出音が硬くなることがなく、音楽的な感度を保っていて使いやすい。従来のミッド・ブースターの粗暴でゴワゴワした音質が気に入らなかったユーザーにも、この洗練された図太い直進性は大いに活用の余地があるはずだ。……ちなみに、MB-2Bはバージョンの違いによって“Fat/Fatter”のモード・セレクトを搭載しているものがある。Fatterモードではさらに「胴鳴り」のようなロー・ミッドの目の詰まった圧力が増すので、ピーキーなテレキャスのリアなどに、ミニハムの様な暖かみを加えるのにピンポイントで使用すると効果的だろう。
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[Phat Phuk Hybrid Boost]

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03 Wren and Cuff Creations [Phat Phuk Hybrid Boost]

 稀代のBig Muff研究家のプライドが結晶した、豪奢なモダン・トーンが魅力の極太ブースター。“Hybrid”とは、JFETによるバッファーとゲルマ構成の増幅段を直列に繋いだサーキットのことを指し、同時に使うことでお互いの特性を相殺してしまいがちなそのキャラクターを、上手くプラスの方向にバランスして引き出したサウンド・メイクの巧を象徴するものだ。

 入力段のJFETは音質的に見るとやや硬い印象だが、ギター側のポッドを操作することで起こるインピーダンス可変による“ナマり”を上手く整え、音の根幹を形成しているゲルマニウム・トランジスタの駆動を安定させているのがよくわかる。派手なコンプ感は感じないのに、ピーク付近の発声がほとんど乱れない。その効果からか、増幅が加わってからの出音の伸びが実に豊かで、スピーカーのサイズに左右されない鮮烈なレンジ感が強調される味付けになっているのは見事だ。ただし、その分アタックへの反応は予想以上にシビアに感じる。少しでもピッキングが緩いと音の立ち上がりがモッサリとしてしまう。もちろん手元で表情を付けることが信条な上級プレイヤーにとっては臨むところなのであろうが、タイトなリフを多用するプレイヤーにはやや手強い印象を憶えることだろう。

 そして、最も特徴的なのがこのノブの効き方だ。ボリュームは確かにブーストとしているが、思ったほどの派手なゲインや音圧の変化は感じない。その代わり、コントロールを解放するに従って、あのゲルマニウム特有のざらっとしたフィーリングだけが自然に増すのだ。音が鮮明さを失うわけではない。やや、歪みの粒の「影」が強くなる印象だ。コーラスなどと併せた時の、音と音の間に広がる複雑で艶やかな混ざり方、奥行きのある美しさは、ただハイファイなだけのオール・レンジなクリーン・ブーストとは全く異なる効きだ。確実にサウンドの生命力が濃く放たれるようになるのである。だから音量がそれほどでなくとも、しっかりアンサンブルの中で浮き立つ音になってくる。実際、ノブ操作による音量の上下も控えめで、その分、引き出したい細かなポイントを探り出し安くセッティングされているように感じる。

 音色は重心の低いアメリカン、しかし、アタックの良い意味での“雑味”に絡むニュアンスの出し入れがしやすく、それでいてゲイン幅は決して派手ではなくむしろ必要最低限……こんな効きを持ったブースターは他にはない。低いレンジのキャラが出しにくいモダンなアンプと合わせ、次元の異なる表現力を得るのに必ず役に立つブースターだ。
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[NINETEEN 63] 写真:TONE BLUE

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04 GtrWrks [NINETEEN 63 (19Sixty3)]

 10年ほど前に一世を風靡した「味付け系ブースター」の中でも特にマニア層に人気を博した19Sixty3も、ニュー・ペイントのNINETEEN 63として再販されてすでに久しい。その回路は、ブラックフェイス期のフェンダー・アンプの入力段を参考に作られていると宣伝されている通り、シングルの増幅に僅かな数のコンデンサー類による個性で音を色付けするだけの恐ろしくシンプルな設計で、パーツも少ない。にも関わらず、この出音の奥行きはすごい。

 通すだけで確実にタッチの感度が増し、ピックが弦に触れている間の音が長く聴こえるようになる。回路が短いからかそのダイレクト感も凄まじく、ローの輪郭が減衰する前にハイ・ミッドのゲインが乗っかってくるので、常に太い輝きがピッキングに宿る印象がある。ただし、いつでもその音を出せると言うわけではなく、使いこなすにはそれなりの条件を揃えてやる必要がある。それは、ギター側のボリュームを上げ過ぎないこと。チューブ・アンプで使うならば、特に気をつけなければならないのがこれだ。デフォルトでアタックに最も奥行きが出るのは、NINETEEN 63のコントロールが12時の時に、シングルコイルならボリュームは7以下、ハムバッカーならば5以下が基本。それを越えると途端にピークが平坦になり、ミッドは潰れてジグジグした薄い歪みになってしまう。

 これは音量そのものの問題ではなく、このエフェクターがアンプと全く同じ様なハイ・インピーダンス入力を基本に設計されていることに大きく関わっている。クリーン〜僅かなクランチで使う場合にはその法則さえ知っておけば良いが、ギター側のボリュームを上げてオーバードライブ以上の歪みを作りたい場合や、アクティブ・ピックアップを搭載したギターを使いたい場合などには、内部のバイアス・トリムをいじって入力の増幅トランジスタの感度を適宜下げてやる必要がある。ただ、その場合のスイート・スポットはかなり狭いので、やはりこのモデルは、クリーンを基調としたサウンドに常に踏みっぱなしにして“いなたい”ニュアンスを追加するのが最も有益な利用法のように感じる。中でも、指弾きや撫でる様なピッキングでプレイするユーザーには、ギターのボリュームを絞っても鮮やかに浮き立つこの質感は非常に頼りになるはずだ。
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[BodyRez]

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05 t.c.electronic [BodyRez]

 BodyRezは、元々TC Heliconのギター&ボーカル用統合型プロセッサーPlay Acousticに搭載されていたライブ向けツールのひとつを、単体のエフェクターとして抜き出した製品だ。エレアコなどに搭載されるピエゾ・ピックアップをライン録りした時のあの平べったくじりじりとした音色を、きらびやかな高域と豊かな胴鳴りを擁したリアルな生鳴りサウンドに作り替えるもので、ブースターというよりはアコギ用エンハンサー的な立ち位置で使われることを基本にデザインされている。実際、プレーンな音質のアコギ用アンプやPA直挿しのライン録りなどではその効果は絶大で、“BODY”ノブによるコンプとフィルターの効きが音に圧倒的な厚みと臨場感をもたらすことは間違いない。

 では、エレキ・ギターの様なマグネティック・ピックアップの場合にそれがどんな効果になるのか気になっている人も多いかと思うが、実は、その部分にもうひとつの驚くべき効果が隠されていることはあまり知られてはいない。ただ、それは、通常のエレアコ(L.R.BaggsのM1などのマグネティック・ピックアップを搭載しているもの)+ アコギ用アンプや、エレキ・ギター + エレキ・ギター用アンプ……といった組み合わせの中では、多少の変化はあるものの、それほど有効な結果はもたらさない。その能力が最大の効果を発揮するのは、ギブソンのES-335系やグレッチ6120のようなホロウ構造のエレキ・ギターを、フェンダーなどのハイ上がりなアメリカン・タイプのチューブ・アンプに繋いだ場合のみに限定される。強力な複数段の増幅を持つ真空管アンプの倍音構成が、時にはホロウ・ボディが生む高域の鮮やかな発色を食いつぶし、せっかくの胴鳴りがもたらす有機的なデンシティを崩壊させてしまうことは、経験からご存知の方も多いはずだ。だが、そこにこのBodyRezを挟むだけで、アンプの過剰な飽和を抑えたまま透明なサチュレーションだけが引き出され、ホロウ・ギター本来の輝くようなサウンドを蘇らせてくれる。

 複雑に絡む飽和のぶつかり合いによって混濁した帯域を整理し、ホロウ・ギターと真空管アンプの両方の特性を発揮させる……そんな「デ・ブースト」的性能を持つエフェクトは、今も昔も他には見当たらない。しかも、「フェイズ・コントロール・モード」によるフィードバック抑制効果もあることから、チューブ・アンプで使う際のハウリング対策としても有効という、まさに一石二鳥の仕様だ。ES-335のようなセンター・ブロックを持つギターに対しては、ノブは9時〜10時前後、完全なホロウのものであれば11時ぐらいまで上げても大丈夫だろう。また、シンライン系のギターに対しても間違いなく効果があることがわかっている。コンプが効くほどに音量はむしろ下がったように感じるかもしれないが、そんなことは気にせず、このエフェクターを挟んで、50年前のホロウ系名器たちをたっぷりとした倍音を持つモダン・アンプでかき鳴らして欲しい。
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[KARMA BOOST]

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06 T-rex [KARMA BOOST]

 デンマークの巨匠が提案する、素晴らしくエレガントな音質をもたらす高品位バッファー/ブースター。最大16dBブーストという現代ではやや控えめな印象もあるブースト量だが、コンボ・アンプなどをプッシュするには十分なエネルギーを内包している。

 ブランドのイメージからしてもタイトでクリアな発声をイメージしがちだが、その音は解像度を高めると言うよりは、むしろギター本体に宿るいくつもの鳴り──ネックのサステイン、ボディ・トップの硬質な反射、金属ブリッジによる歯切れの良さ等を全て包み込み、ひとつの方向性をもったパワーに仕上げる効果を持っているように思える。リアルというよりはリニア。音と音を繋げ、ミュートやプリングによる「音にはならないが、確かにそこにある筋力や腕力」のようなものを、上手く引き立たせてくれる。さらに、弦ごとの微妙な音量差による出音のズレをなくし、特にアルペジオやスリー・フィンガーによるちぐはぐな凹凸感に対しては、コンプとはまた別の自然な整合感さえもたらしてくれる。こういった、滑らかに加えられる剛性は、一見すると目立たたないが、確実に音にしなやかな1本の芯を通す。システムが複雑になっても、また、強いディストーション等と組み合わせても失われないそのキャラクターは、明らかに他の多くのクリーン・ブースター系製品とは異なったベクトルを有しているように思える。

 また、宣伝通り、ユニティ状態でもエッジの立ち方が加速するフィーリングが味わえるのは素晴らしい。1.5〜1.7kHz前後にほんの少し密度の濃い部分があり、それがピックの入れ方によって生まれるメリハリを、耳に届くイメージの常に半歩前に押し出してくれる。しかも、決して“痛い”音になる様なことはなく、水面を叩く様な広がりとなって、僅かに波の先端が光を弾くようにサラサラとした飛沫の中に溶け出す……それは、ブーストすることによって自然に厚みが増すと思っていたエッジのイメージとは根本的に異なる、どこか懐の深い、静謐なドライブを呼び出す。12V駆動にすれば、クリーンに広げられたヘッドルームが、さらにそのゲインを厳かな力強さで底支えすることだろう。モダンで高密度な歪みに加えるべき最もインテリジェンスなセンスとして、この音質は今後も多くのプレイヤーに支持されるに違いない。
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[MORE] 写真:リアルスタンダード

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07 UNION TUBE & TRANSISTOR [MORE]

 知る人ぞ知るカナダのハイエンド・ブランドUNION TUBE & TRANSISTORによる、怪物1ノブ・ペダル。フルレンジ・ブースターと呼ばれるものは星の数ほどあるが、この製品に関して言えば、その評価は「規格外」以外にない。最大+40dBのゲイン到達量を指してそう言っているのではない。ノブを全く上げずに、このペダルを通した瞬間に確かに伝わる信号の桁違いの強靭さをまず味わって欲しい。積んでいるエンジンそのものが違うのだ。800馬力のレーシング・カーを法定速度内で走らせてもステアリングから得体の知れない獰猛な胎動が伝わるように……このブースターの慣性走行は、ユニティ状態でも45mAの電力を消費していることからもわかる通り、まさしくトルクの化け物と呼ぶに相応しい高純度の動力を内包している。その段階で、すでに墓石のように頑だったアッシュのストラトが、悲鳴を上げるように“鈴鳴り”の呻きを吐き出しつつあるから驚きだ。躊躇いつつもノブを9時まであげると、その凄まじさがさらにはっきりと伝わるだろう。音の取りこぼしが全くないのである。がっしりと地面を掴んで、そのまま根こそぎ持ち上げるようなその揺るぎなさは異常だ。いくらフルレンジとは言え、超高音や超低音の可聴外のレンジは切り捨てていくのが常套だ。

 しかし、このブースターのゲインは何もかもを高みに連れて行こうとする。気がつけば、まだ全く歪んでいないのに、せり上がった基音のエネルギーと、濁り無く加算されたサイン波の倍音がクッキリ浮かび上がるのがわかる。音の密集具合がもの凄く、そのままでもストラトのリアPUでリードを難なくこなすことができるだろう。12時近くまでノブを上げるとそのキャラクターがより鮮明に浮き出てくる。これだけ天井に張り付く様な張りのあるサチュレーションがあるにも関わらず、なんと耳に届く音は、丸く甘い。そこまで上げないと気付かないくらい、ハイ・ミッドが僅かに盛り上がっており、そのほんの少しのチューニングが、アンプでスクープされがちなポイントにギリギリ出足の底が着く程度に触るので、ミッドのパワーが上手くその地点から抜けてくれるのだ。しかも、その段階では鋼鉄の紙を何枚も織り込んだ様な重力を感じる歪みが乗っかってくるので、もはやリッチという言葉では追いつかないほどの躍動感のあるモーション・ドライブに変化してしまっているから凄い。

 12時から上は、ギターのボリュームを相対的に絞って400Hz付近をナチュラルにカットし、その青竹を割る様なめりめりとした歪みを上手く制御しながら使うしかない。そうして、上にも下にも突出しそうになる純粋なパワーを自分の機材に合わせて力点を収束していくうちに、ふと、まるで高速回転する駒の様な軸の揃った駆動を得られる瞬間がやって来る。“その音”を引き出すために、おそらくこのブースターは存在する。全方位の余力からあえて中心の均衡を描き出すためのカタリスト(触媒)──それが、おそらくこの化け物の正体である。
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[Little Red Trebler]

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08 BearFoot [Little Red Trebler]

 多様な個性を放つ1ノブ・ペダル群の中でも、ひときわギター・サウンドにとって有益なエフェクトであるにも関わらず、あまり単体として抜き出されることのなかった機能がある。アンプなどに搭載される「BRIGHT」スイッチがそれだ。最も古典的なものは、高域の頭を揃える役目をしていた抵抗やコンデンサーをバイパスするだけの単純な構造のものだが、それはそのアンプが元々「BRIGHT」状態をデフォルトとして設計されていたからであって、エンハンス用の増幅が内部で行なわれているわけではないのだ。

 つまりこの効果を単体のエフェクターに封入しようとする場合、まず高域を音の輪郭を保ったまま上手く持ち上げるチューニングの上に、可変抵抗で削られる帯域がギターの美味しい鳴りを消さないように差配し、さらにポットのインピーダンス可変とそれに伴う聴覚上の音量の上下を抑える良質なバッファーの設計が不可欠となる。その全てを最小限のパーツで成し遂げてしまうBJFの設計はさすがと言う他はない(元々、Little Red Treblerは、BJFE名義で少数生産されたものをBearFootが復刻したもの。組み込まれたバッファーは同社のBaby Pink Boosterのバッファーと同じものが流用されている)。オンにしてノブを上げていくと、なるほど、音量やゲインの増幅はほとんど感じずに、高域の倍音の質感が変化していく。同じ“サイズ”の音が、光沢を帯び、太く強く響くようになる感覚は実に新鮮だ。確かに、プレゼンスやトーン、トレブル・ブースターなどとは全く効き方が違う。

 この変化を小音量の中……つまりギターに近い位置で、シームレスに増減できるのは予想以上に使い勝手が良い。倍音成分に影響を与えるということは、すなわちその後に繋がる増幅を用いる全てのペダルに想定以上の音幅を持たせることになるからだ。これは、末端のアンプに装備される「BRIGHT」とは実は全く異なる存在価値をシステム内にもたらすものだ。クリーン・ブースターの直前に入れれば、ドライブが歪み出すギリギリのタイミングを見極めた最高のクランチを得ることができるようになるし、アナログ・ディレイと組み合わせれば発振のタイミングを自在に変えることもできるようになる。「バッファード・トレブル(アッパー・フリーケンシー)・エンハンサー」──Little Red Trebler。まさに目から鱗のアルケミー・ペダルとして、今後の音作りの要になりそうな逸品である。
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[Burst Boost] 写真:イケベ楽器店 ロックハウス

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09 RS Guitarworks [Burst Boost]

 材の特性を生かした堅実な組み上げと、「時を遡る」とまで表現される驚異的なエイジド加工で名を馳せるギター・メーカーRS Guitarworksが、洒落たペダルを作り上げた。見よ、このルックス! 往年のレス・ポール・ファンならずとも、ギターをかじった者であれば、その見た目だけで音の善し悪しなど二の次になってしまうことだろう。否、これで音が良くなければ嘘だ、とドキドキしながらも「ジャケ買い」したり、何故これを本家のギブソンが作らないのかと懊悩に打ちひしがれる者もいることだろう。

 だが、それは、このペダルがあまりにも「本物」であるがゆえの皮肉であることは言うまでもない。黄金に輝くひとつ眼のハット・ノブと、フット・スイッチになっている部分には本家のギターと同様のRHYTHM/TREBLEの円盤プレート。筐体はこれまた本物の木材を使用したメイプル・トップ、そしてボディ部分はマホガニーで組まれており、上面はアーチこそしていないものの美しいバーストの塗装の上からラッカー・フィニッシュされており、ご丁寧にバインディングまで施されているという念の入れ用だ。さらに、端子部分にはクリーム色のガード・プレート、裏蓋を開ければ掘り込んだキャビティには黒い導電塗装が塗られ、随所にファン心理を刺激するデコが盛りだくさんなこの製品だが、実は音も見かけ倒しではなく、「本物」の使い勝手をきちんと持っているあたりが、今をときめくギター・ブランドの仕事といったところか。

 音を通してみると、低域はタイトにまとめられており、コンプ感も適度にある。特徴的なのは、スッキリとした高域のピークの出方に比べて、ミッドにはややざらっとした色が付けられている点だ。それが歪みに絡むと粘りのあるコシを生む。特に巻き弦の感触が強く、全体的にはプレーンな感じを意識しているにも関わらずピッキングをやや強めに入れるだけで金属質なエッジが不意に顔を出すあたりがユニークだ。レス・ポール系のウォームな出音に芯のあるドライブを欲しているプレイヤーが使う、オンボード・タイプのブースターをそのままエフェクターにした様な雰囲気だ。音圧のバランスも良く、ハムバッカー・レイアウトであればギター本体の個性を損なわない、いわゆる“エフェクター臭さ”、エンハンス効果のあざとさのない音色を楽しむことができるだろう。ペダルボードの中の一服の清涼剤として、こういう機材を足下に置く心の余裕を常に持ち合わせていたいものである。ギターを楽しむことの何たるかを知るユーザーならば、問答無用でこれは「買い」だ。
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[HS-S Mastar] 写真:イケベ楽器店 リボレ秋葉原店

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10 BSM [HS-S Mastar]

 変質的なまでに「トレブル・ブースター」のサウンドを追い求めるBSMから、リッチー・ブラックモアのサウンドを目指すならば避けては通れないHornby Skewes製トレブル・ブースターを、回路から極力忠実に再現したマニアックな逸品が出ている。リッチーが「Smoke On The Water」をレコーディングした時に、このブースターとVOX AC30、そして71年製ラージ・ヘッドの4ボルト/ワンピース・ネックのストラトを使用したことはすでに周知の事実と言って良い。

 HS-Sは、Hornby Skewes製ブースターの中でもSola SoundによってOEM生産されていたシリコン・バージョン(初期のものはレンジ・マスター系と同じOC44ゲルマニウム・トランジスタを使用したものだった)のものを再現したとされるモデルで、実際に音を出してみると、なるほど、2N4061を使った実機の音にかなり迫っている。HS-Sの石は公表されてはいないが、巻き上げる様な倍音のブースト感はかなり納得のいく良質なサウンドだ。しかも、このHS-Sは“Master”と付いている通り、アウトプット・トリムが付いていたとされる御大所有の実機により近い表現力を持たされており、一般のHornby Skewes製トレブル・ブースト・コピーではなかなか味わえないゴリゴリとしたパイド・ドライブを呼び出すことも可能だ。

 しかも、かなり実用的なレベルでのロー・ノイズを達成している。マーシャルの様なアンプでも楽にシングルコイルの頭を割ることが可能だが、個人的には60年代のVOXやツイード期の一部のDELUXEのようなネガティブ・フィードバック回路を持たないアンプに通して、やや透き通った歪みの底に細かい砂利を敷き詰めた様なフィールを溜めた、あの野性味と冷たさが混在したサウンドを体感して欲しいとも思う。当時のレコーディング環境よりも現代の電源の方が優れているためか、ハイ側の切れ味や情報量の多さは明らかに当時のものよりもHS-Sの方が上回っているように感じるので、ギターのトーンはやや絞り目の方が臨場感は出るだろう。リッチー・ブラックモアのファンならずとも、70年代のサウンドには欠かせないこの厳しく力強い高域の軋みを、これほど高い水準で再現するHS-Sのペダル……世界中のペダル・ジャンキーたちが注目する理由も頷けるというものだ。
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[Little Green Emphaser]

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11 ONE CONTROL [Little Green Emphaser]

 近年、コンパクト・サイズの回路にご執心のBJFが、自らの過去の傑作ペダルをONE CONTROLのパッケージで復刻することに挑み続けた結果、またしても彼の素晴らしいアイディアが蘇ることになった。Little Green Emphaser──それは、BJFE時代の名機Dyna Red Distortionのキリ番ロットに付属していたレア・ペダルの名である。

 「音の“重心”を自在に移動できる」と宣伝される文言が正確かはさておき、たったひとつのBlendノブを操作しながらトレブル・ブースターとフルレンジ・ブースターを任意にミックスしていく感覚は、かなり独特だ。センター位置では軽いブースト感と共に、ややブライトなエッジが加わり、ロー・ミッドのパンチも出ている。この位置ですでに2種類のブースターはミックスされている状態で、心持ちフルレンジ側が強くかかっている様にも感じる。ブースト量的には大したことはなく、チューブ・アンプをダイレクトにドライブさせるほどの突っ込みはないが、ノブがどの位置であろうと真空管のサグを僅かに刺激するように涼やかなバイト感が確実に付加されてくる。コントロールは左へ回すとフルレンジ感が強くなり、音全体に張りつめた飽和感が出てローの質感が前方に流れ出てくるようになる。逆にノブを時計回りに切っていくとクラシックなトレブル・ブースター特有のレンジ収束があらわれ、明らかにピッキングにきらびやかさが増してくる。だが、どちらにフルに振り切っても、完全に単体のブースターの特性になってしまうことは無く、常に僅かに相対する効きが香るチューニングはBJFの非凡なセンスを感じざるを得ない。

 音の色彩は一定だが、歪む帯域の密度が移動するイメージ……と言うのだろうか。ノブを動かすとサチってくるポイントは確実にズレていっているのに、ピッキングのニュアンスが激しく変わることがないその独特の効きが、このエフェクターを使いこなす上でのキモになりそうだ。だが、そこまで難しく考えずとも、オンにするだけでギターが“唱い出す”のがわかるはずだ。その声を高くしたいか低くしたいか、それをコントロールしていると思えば良い。どんな歪みや深いアンビエントの中でも存在を感じることができるのに、どの設定でも一切破綻することがない。音楽のフィジカルそのものを高める「酸素の多い音」を生み出すためのブースター、そういう解釈で良いと思う。
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[Treble Master] 写真:宮地楽器 神田店

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12 Aldente Effects [Treble Master]

 現在はソロ・プロジェクトとなったママレイド・ラグを主宰する田中拡邦氏が、本物ビンテージ・サウンドを新品の品質で使用できる製品を提供することを目的に始めたプライベート・ブランドAldente-Effects。Treble Masterは、その名の通り、オリジナルのDallas社製Rangemasterの音質を再現しているエフェクターだ。心臓部には実際にOC44トランジスタを用いるという拘り様で、抵抗器類やコンデンサーもかなり厳選されているようだ。

 もちろん価格を考えてもトランジスタはMULLARDの“黒”や“銀”キャップではないだろうし、キャパシターは同じくMULLARDのマスタードということはないだろうが、かなり厳密にチューニングされており、オリジナルRangemasterの特性を良く捉えた出音に仕上がっている。このシルキーなミッドの立ち上がりと、糸を引くような褐色の“うめき”。さらに、ピッキングに絡み付く独特の弾力のある薄膜のイメージ……まさにOC44仕様のRangemasterのレスポンスそのものだ。素直に“気持ち良いサウンド”と言って良いだろう。ギターのボリュームを下げると煙る様なクリーンの中にほろほろとした光沢のある音粒がこぼれるところも実に美味しい。また、ギターのボリュームを上げ過ぎると、ミッドの倍音もかなり引き上げられてくる感覚があり、ピックアップのパワー如何では音がひしゃげてしまうのもまるっきりそのままだ。オールドスクールなブリティッシュ系アンプで弾くとその傾向はさらに顕著で、この小さなエフェクターが、あの古いアルバムで聴いた、アンプ直のみでは決して届かない領域の音をきちんと捕まえているのが感じられる。こういうサウンドを聴くと、なぜクラプトンやロリー・ギャラガーが好んでこの音を用いたのかがわかろうというものだ。

 もちろん、OC71を用いたバージョンのRangemasterに見られる様な分厚い高域と刺す様なエッジ感が欲しいプレイヤーには求める音との開きもあるかもしれないが、やはりこのOC44の包み込まれる様なマイルドな出音には他には代え難いものがある。単なるレプリカではなく、こういった質の高い現代的特性を備えたRangemasterのサウンドをワイド・レンジな現代のシステムの中に組み込むと、トレブル・ブースターが決して高域の倍音感を強調するだけの機材ではなく、ロー側のヤマが極端に削られることにより浮き上がってくるミッド・レンジの絶妙なカーブこそがギターにとって正しい発声を助けているのだと気付かされる。電源がポジティブ・グラウンド仕様なところは気をつけなければならないが、そのサウンドをボードに取り入れるメリットは大きい。
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[MEP3] 写真:(株)山野楽器 本店4Fギターフロア

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13 TBCFX [MEP3]

 Maestro Echoplex(EP-3)のプリアンプ部の音色のみを抜き出したデバイスとして、国内モノの中では特に高い人気を誇るTBCFXのMEP3。一応ブースターという括りだが、レベルを最大にしても+6dBという増幅に留まるため、効果としての目立った派手さはないものの、あえてそのナチュラルな信号特性の中で勝負してくるところにブランドのこの製品に向けた自信のようなものが垣間見える。

 まず、繋いだだけでお決まりの“良い感じ”の張りが加算され、僅かなコンプレッションと共にほんの少しだけ中高域の倍音の密度が増す。さらに、音粒には輪郭が備わり、弦のタッチへの反応にスマートな加速感が伴うようになる。だが、このブースターが本当に面白いのは、レベルのスタート地点(バイパス音量と差違のない位置)が本体コントロールの目盛りの5〜6付近にあるということにつきる。つまり、このブースターは「音量カット」ができるのだ。増幅量にばかり目が行きがちなブースター・ペダルの中で、この操作感は、ギターのシンプルなポッドのボリュームを動かした時の効果とは全く次元の違うロー・ゲイン・ステージを主張することに成功している。ツマミが4付近では、エコプレ特有のコンプ感のみがスッと消え去り、艶やかでオープンな原野に熱量のあるピッキングがダイレクトに落とし込まれるテイストが刻まれる。低域が整理されているのでタイトと言えばタイトなのだが、エッジ感ばかりを強調するわけでもなく、非常に「天井の高い」透き通った音質が得られる。レス・ポールのフロントと合わせて、ロング・トーンを生かした裏メロを奏でるには最高の音色だろう。

 さらに大胆にノブを絞っていけば、ダークなグリッジ感がアタックを被うようになり、またそれがクリーンに適度な滑らかさと厚みをもたらしていく。皮肉なことに、その最低値一歩手前のレベルの中だからこそわかる、ディスクリートで組まれたサーキットの上に配置されたオレンジドロップのロー・ミッドのくびれ感、そして、マロリーのコンデンサーのマットな芯とマイルドな底の厚み……それらの何と音楽的な響きのことか。このニュアンスも間違いなくEchoplexサウンドのひとつであることを考えると、カット域を含めた音の多様さを操れるMEP3のディレクションが、一部ではEP BOOSTER以上にリアルだと評価される由縁もその辺りにあるのかもしれない。復活を果たしたTBCFXにnature sound薫田福雄氏の意匠が加わったことで、独自の目線による優良な音質のあぶり出しにも益々磨きがかかってきており、今後もこのブランドの製品からは目が離せない。
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[B-1]

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14 TRIAL [B-1]

 “高早楽器技術”を創設した辣腕のリペアマンでありながら、TBCFXでペダルのデザインも手がけていた高早真憲氏が、自身の経験から得たサウンドを形にするために立ち上げたエフェクター・ブランドTRIAL。B-1はシンプルな1ノブ構造のバッファード・ブースターに見えがちだが、その小さな筐体には驚くべき細やかなアイデンティティが詰め込まれている。ノブを上げて音を出した瞬間に感じる、あまりに自然な音色に驚くはずだ。レベルが増加しているのだから確実に音は変わっている。だが、それがあまりにも自然過ぎて一瞬、耳がどうかなったかと疑ったほどだ。

 巷で「音質変化のない」とうたわれているバッファーやブースターの音色は、必ずどこかの帯域にこっそりと補正がかかっていて、その補正が少なければ少ないほど“クリーン”であることを主張する製品がほとんどである中、このB-1の音質はしっかりと意図を持って変化させられているのだ。大胆に変わっていつつ、実際の聴覚上には全くストレスがない……感じるのは、ほんの少しだけ“音が近くなった”印象だけだ。なぜなら、それは“補正”ではないからだ。他のメーカーがなるべく元の信号の形を崩さないように最小限の修正をかけてクリーンに見せかけているのに対し、B-1のチューニングは、変化する音色を受け入れた上で、音全体をそのレベルに応じた構造に作り替えていく“クリーン・アップ”を行なっているのだ。この違いはトータルの出音が巨大になればなるほどはっきりとする。音量によって変化する低域の膨張感はスッキリと抑えられ、高域の耳に痛い部分は柔らかく均してくれる。しかも、スピーカーのクセに沿うように並列の増幅を行なって、ギターにとって美味しくない部分が突出しないように有機的に反応してくる。ほとんどフル・アップに近い70年代のHIWATTと、スタジオのJazz Chorusを全く同一のブースターでカバーできるなど、考えたことも無かった。

 しかも、回路の構成は実にシンプルだ。魔法と言っては失礼だが、プレイヤーのフィーリングの底を擦り抜けるように力を発揮するその匠に、敬服の念を禁じ得ない。宣伝されている「音を最適化する」とは、音を変えないことではなく、常に起こり得る変化に応じて柔軟にバランスを取ることのできる懐の深いサウンドの構築を達成することだったのである。違和感をもたらさない最大限の変化──このような色の付け方がクリーン・ブースターのひとつの理想形であることを教えてくれる、そんな1台だ。ちなみに、レベル・コントロール用の外部EXペダルを装備できるB-1 EXPもラインナップされているので、ライブでのリニア・コントロール重視派にはそちらも検討すると良いだろう。
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[Fat Bottom] 写真:宮地楽器 神田店

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15 Effect Gear [Fat Bottom]

 元神田商会の技術畑で腕を磨いた職人・大須賀康宏氏が運営する老舗のカスタム・ブランドEffect Gearが、GRECOとも馴染みの深い谷川史郎氏の全面監修のもと制作した、スペシャルな有機ライン・ドライバー。このクリーン・ブースター全盛の世紀にあって、ブースターでありながら、昔のTSのようなオーバードライブ・ペダルがそうであったように、アンプの音色に加えるためのカンフル的な役割を果たすこのロケーションは貴重だ。たっぷりとしたミドルの熱量と、シャギーに弾けるハイ・ミッドの倍音。全くそのクセを隠そうともせず、ただひたすら伸びやかに、音楽的に音の構造に割り込んでくる。Fat Bottomの名に相応しく、アンプのスピーカーが軋みをあげる様な極太の鼓動を力任せに振り回すイメージだ。こんなに攻撃的で、“男臭い”ブースターは久々に見た。

 その泥諾したエネルギーの塊をちょっとヘタった感のあるビンテージ・チューブ・アンプに注ぎ込んでやると、いきなり眠っていた音圧が目を覚まし、荒っぽい歪みが暴れ出すのがわかる。その喚き散らすアンプたちの挙動を手元のプレイでねじ伏せる、それこそが本来のギタリストの仕事であったことを思い出させてくれる力強さがそこには確かにあるのだ。増幅の心臓部にゲルマニウム・トランジスタを用いているだけあり、目の粗いエモーショナルなミドルの飽和と、硝子の様なきらびやかさの中でディップしていく独特のサステインは、まるで古いファズをギターのボリュームを絞ったまま使うニュアンスを思わせる反応だ。それがそのまま、ブースター単体ではほとんど歪まずにアンプのゲインを押し上げる。本来そこまでの増幅がかかるとアタックのピークが天井を叩いてしまい不要なコンプレッションが乗っかってくるものだが、Fat Bottomは昇圧により十分なヘッドルームを保っており、音がズブくなることがない。

 しかも、内部にはミッドにのみ干渉するトリムを装備しているので、ハーモニックスの立ち上がりが高速なモダン・アンプにかませて使っても、ボーカルやベースの邪魔にならない、“うるさ過ぎない”サウンドをきちんと作ることもできる。トレブル・ブースターよりも干渉域が広く、大音量の中でも歪みペダルほど割れてこない……それでいて、味付けはワイルドな野性味を失わない。そんな欲張りで老獪なブースターをお探しなら、まずは手にして欲しい円熟の1台がこれだ。
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エピローグ

 “クセ者” 1ノブ・ブースター&エンハンサー特集、いかがだっただろうか?

 いつもエフェクターをやるとリストの絞り込みに苦労するのだが、今回も1ノブ・ペダルを探して知り合いの倉庫と近場の店を歩き回っただけでも、あるわあるわ……歪みやディレイなんかも合わせると簡単に70種類を越える数の1ノブ・ペダルに出合った。MXRのフェイザーやMicro Amp、ちょっと前のものだとLovepedalのCOT50なんかでホクホクしていた時代が懐かしい。それにしても、ブースターがいつからこんなに数が増えたのか、謎だ。まあ、元々、外国ではあまりオーバードライブという言い方はしなくて、ディストーションやファズ以外はみんな大体「ブースター」って呼んだりするし、そう考えれば、ブースターも歪みの一部としてカウントするならばその数の多さにも納得できようというものだ。

 あと、1ノブということで「ノブ」に今回は注目していた企画ではあったが、個人的にはポットの特性自体の違いも面白かった。定番のCTSだけではなく、アレンブラッドリーやボーンズ、アレッサンドロといったちょっと気の利いたものや、オーディオ機器に搭載されるようなクオリティの高いものを搭載している製品が意外にも少なくないのには驚いた。他にも年代に拘って揃えてあったり、ポットを構成するマテリアル自体が特殊だったりと当然のように「ポット自体の音」に拘りを感じるメーカーがほとんどだった。当然、シャフトの材質も音質に影響してくるだろうし、可変カーブの特性もかなりバラエティに富んでいる。エフェクターで言えばトランジスタや抵抗などもビンテージのものを探すのに苦労させられるが、ポットはオーダーものも多く、消耗品ということを考えれば、真空管などと同じように、今では作られていないものが手に入らなくなった段階で、昔と全く同じ音のデバイスは再現不可能ということもそろそろ有り得そうだ。実際に、ギターなどでもすでに状態の良い当時のスタックポールやクラロスタットは手に入りにくくなりつつある。

 たったひとつのノブ、ひとつのポットとて侮るなかれ──それはまさに一期一会の世界なのだ。

 それでは、次回7/13(水)の『Dr.Dの機材ラビリンス』もお楽しみに。

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製品情報

ブースター

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エンハンサー

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プロフィール

今井 靖(いまい・やすし)
フリーライター。数々のスタジオや楽器店での勤務を経て、フロリダへ単身レコーディング・エンジニア修行を敢行。帰国後、ギター・システムの製作請負やスタジオ・プランナーとして従事する一方、自ら立ち上げた海外向けインディーズ・レーベルの代表に就任。上京後は、現場で培った楽器、機材全般の知識を生かして、プロ音楽ライターとして独立。徹底した現場主義、実践主義に基づいて書かれる文章の説得力は高い評価を受けている。

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