AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Martin / Fishman
世界有数の老舗ギター・メーカーであり、アコースティック・ギター・ブランドの最大手としても知られるマーティン・ギター。180年以上に及ぶ歴史の中で数々の名器を世に送り出してきた同社が持つ伝統は素晴らしい魅力を放っているが、同時に時代のニーズを見極めた革新的なプロダクツも多く手がけており、その点においても現代に至るまで最高級の評価を受け続けているトップ・ブランドだ。その国内総代理店を務める黒澤楽器店が主催するツアー・イベント“Rebirth Tour”は、そんなマーティン・ギターの多様な魅力を詳しく伝えてくれる催しとしてギター・ファン/音楽ファンの間で高い人気を誇っており、今年4月2日の開催で85回目を迎えている。ここではその第85回開催となる“Rebirth Tour 2016”をスペシャル・レポート。イベント内で展示されていた有名楽器店プロデュースのカスタム・モデル(CTM)や新開発のエレクトリック・アコースティック・モデルについても詳しく紹介していきたい。
マーティン・ギターの国内総代理店を務める黒澤楽器店が主催する“リバース・ツアー(Rebirth Tour)”は、端的に言うと“マーティン・ギターの魅力を多角的に伝えてくれる”イベントである。スティール弦アコースティック・ギターの元祖であり、創業から180年を超えた現在でもトップ・ブランドとして君臨し続ける同社の奥深い魅力をいろいろな観点から伝えてくれるもので、全国津々浦々、さまざまな場所で開催されているので、楽器店の少ない地方のギター・ファンにも非常に喜ばれている。
当イベントは二部制となっており、第一部は無料で誰もが入場体験できるギター・ショー、第二部はプロ・ミュージシャンを招いたコンサート(有料)となっている。メイン・コンテンツとなるのは、プロ・ミュージシャンを招いたコンサート公演。マーティン・ギター(やウクレレ)だけを使用し、出力は基本的にマイクのみで行なうという条件のもと、マーティン・サウンドの魅力を余すところなく伝えてくれるこの公演は人気が高い。最上のアコースティック・サウンドを体感できるという点で、マーティン・ファンならずとも楽しめるコンサートである。もちろんコンサート以外のコンテンツも充実しており、ギター展示やさまざまなデモンストレーションを通じてマーティンの歴史や現況を伝えてくれるので、マーティンに興味がある人はぜひとも参加してみてほしい。
▼動画はこちらから▼
今回のリバース・ツアーは東京都・恵比寿ザ・ガーデンホールでの開催となった。昼の部で催されたギター・ショウでは、マーティン・ギターを中心的に扱う7店舗によるブース出展を中心に、限定15本で国内流通されるエリック・クラプトンのシグネチャー“000-45 ECJM”、ジョン・レノンの生誕75周年を祝した記念モデル“D-28 JOHN LENNON”などのプレミアム・ギターもお披露目。
また、長い間マーティン社のエレクトリック・システムを担ってきたフィッシュマン社と共同開発したエレクトリック・アコースティックのニュー・モデルも発表され、フィッシュマン社から訪れたデモンストレーター、スティーヴ・ファイアクロウ(Steve Fairclough)による演奏を通してその優位性もアピールしていた。詳しくは後述するが、このシステムはシンプルなセッティングながら良好なアウトプット・サウンドが得られる点から今後大きな注目を集めることになるだろう。エレアコを探している人はチェックを忘れずに。
ここからは、ギター・ショウに出展した7店舗が手がけた“マーティン CTM”を紹介していきたい。“CTM”とはマーティン社が手がけるカスタム・オーダー製品を指す。ボディ・シェイプから材構成、各種パーツや装飾まで非常に自由度の高いオーダーができることもあって、出展ディーラーもさまざまな観点からコンセプトを練ってモデルを仕上げていた。いずれもかなり魅力的なモデルになっており、一部はデジマート上で購入できる。記事冒頭の動画では各ご担当のインタビューも収録しているので、併せてお楽しみいただきたい。
富山県に店舗を構える開進堂楽器Blue Guitars。定番モデルを多く取り扱いながらも、同時に個人製作家のギターなども積極的に取り上げる柔軟なラインナップ展開で富山県外でも多くのファンを持つ名店だ。今回、同店が紹介してくれたオーダー・モデルは“CTM 00-16GT”。マーティンの廉価ラインナップのひとつである“16シリーズ”をベースに、ボディ・シェイプに小型の00(ダブル・オー)を使い、かつネックは12フレット・ジョイントというショート・スケールを採用。またソリッド・ヘッドでグリップも細めのシェイプにするなど取りまわしの良さが際立つモデルだ。
オーダー・コンセプトについて、ストア・マネージャーの山田浩幸さんは“00の12フレット・ジョイントのモデルは現行ですと高価なものが多いのですが、本来は00のショート・スケールって気軽なモデルだと思うんです。なので、今回はそういった点を特色にして、気軽にお使いいただけるように、できるだけお求めやすく、かつ弾きやすいモデルということを意識してオーダーしました”と説明してくれた。00サイズはややもすれば狭苦しいサウンドになることもあるが、ショート・スケールの余裕あるテンション感でそれを中和するという目のつけどころが素晴らしい。この点についてはやはり強く意識していたそうで“12フレット・ジョイント特有の豊かな倍音と柔らかい音色がしっかり出てますので、サイズ以上の豊かな鳴りを楽しんでいただけると思います”と語っていた。価格も比較的抑えられているので家弾き用に最適なほか、抱えやすく、ネックも細めなので小柄な人にもオススメできるモデルだ。
[CTM 00-16GTの紹介インタビュー動画はこちら]
Specifications
●ボディ・トップ:シトカ・スプルース単板 ●ボディ・サイド&バック:マホガニー単板 ●ネック:マホガニー ●指板:リッチライト ●ブリッジ:リッチライト
東京都・渋谷のハートマン・ギターズはプレイヤー目線に立った気の利いたラインナップでプロからも大きな信頼を寄せられている。ビンテージや中小規模のギター工房にも精通しており、ここでしか入手できないギターも多い。そんな同店が今回紹介してくれたMARTIN CTMは“00C-Nylon TH/Swiss Spruce”。カッタウェイ付き00ボディのナイロン弦仕様で、トップのスプルース、サイド&バックのローズウッドともに最高級グレードの木材を使用した豪華な逸品だ。オーダーのポイントについて同店のチーフである石河太陽さんに話を聞いた。
“現在マーティンがリリースしているナイロン弦ギターは比較的低価格帯のものになっておりますので、それをよりハイ・スペックなものにしたらどうなるのだろうと、そんな興味もあってこのギターをオーダーしてみました。まずはボディ・サイズですが、レギュラーでリリースされているナイロン弦モデルの000(トリプル・オー)からひとつダウン・サイジングして使い勝手を追求しているのが特徴です。使っている木材はすべてプレミアム・グレードのもの、いわゆる45グレードですね。マーティン社が在庫する最上級の木材を使っています”。
このモデルのもうひとつの特徴と言えば、エレクトリック・アコースティック仕様になっている点。ステージ・ユースにもしっかり配慮するあたりは同店らしいオーダーだ。
“ピックアップにはL.R.バッグス社のデュアル・エレメントという製品を搭載しています。ピエゾを主体としていますが、マイクもブレンドできて、モノラル/ステレオ出力の切り替え可能なモデルです。拡張性の高いシステムとしてナイロン弦では定評あるPUですね”。
マーティンのナイロン弦はクラシック・ギターともフラメンコ・ギターとも異なる質感があり、“ポップスに合う音”と言われることもある。今様の音楽性に合うナイロン弦の音を探していた人には絶好の選択肢となり得そうだ。
[CTM 00C-Nylon TH/Swiss Spruceの紹介インタビュー動画はこちら]
Specifications
●ボディ・トップ:スイス・スプルース単板 ●ボディ・サイド&バック:インディアン・ローズウッド単板 ●ネック:マホガニー ●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー ●ピックアップ・システム:L.R.バッグス・デュアル・エレメント ●コントロール:ボリューム、ミックス
ビンテージを中心としたラインナップでコアなファン層を持つギター・ラウンジがプロデュースしたオススメCTMは“OMC-45”だ。マーティンのフラッグシップ・ラインナップ“スタイル45”に定番のOMボディをかけ合わせたこのギター。サイド&バックはローズウッドではなくココボロを採用し、さらにカッタウェイを備えるなど独特な仕様が散見されるが、どんなテーマでオーダーがなされたのか。
“うちのお客さんにはビンテージ・ユーザーが多いのですが、お話をしていく中でアディロンダック・スプルースとココボロの組み合わせが、いわゆるオーセンティックな45仕様、アディロンとハカランダの組み合わせに近い音がするという話が出ていましたので、今回はそれを形にしてみました”と語るのはオーナーの林ノブユキさん。カッタウェイについてはジャズ系のプレイヤーも安心して使えるように付けてみたとのこと。装飾も一般的な45と比べて控えめになっており、そのあたりも“実用”を考えるギタリストにとっては嬉しいポイントになるはずだ。
45と言えばその豪華絢爛な仕様からコレクターズ・アイテムといったイメージも強いが、名だたるミュージシャンが愛用してきたように楽器性能の高さは折り紙つき。本格的な45サウンドと実用性をとことん追求したこのモデルは多くの人の琴線に触れるのでは?
[CTM OMC-45の紹介インタビュー動画はこちら]
Specifications
●ボディ・トップ:アディロンダック・スプルース単板 ●ボディ・サイド&バック:ココボロ単板 ●ネック:マホガニー ●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー
国内楽器店の最大手のひとつであるイシバシ楽器。その渋谷店は同地域の並み居る名店の中でも際立った存在感を見せており、レアなビンテージ・ギターから中古、新品まで“広く深い”ラインナップとアクセスの良さから多くの人に親しまれている。訪れたことがある人も多いだろう。そんな同店がイチオシしてくれたCTMは“000-45 Madagascar”。現在レギュラー・ラインナップからはずれている000-45だけに、よくぞ製作してくれたというだけで喜んでいるファンもいるだろう。オーダーのこだわりポイントについて、担当の貴田健太郎さんはこう語っていた。
“000-45が欲しいという要望はたくさんのお客さまからいただいていましたので、今回満を持してオーダーしました。せっかくですから良いものを作ろうと、使用材はすべてプレミアム・グレードになっています。トップのアディロンダック・スプルースも、サイド&バックのマダガスカル・ローズウッドも素晴らしいクオリティになっています”。
デザインは戦前仕様、1930年代後半から1940前半のスタイルをかなり忠実に踏襲しており、ビンテージ市場でもめったにお目にかかれないモデルという意味でも製作意義は非常に高かったと言えるだろう。また、戦前の000と言えば12フレット・ジョイントも有名だが、本モデルは14フレット・ジョイントを採用している点も魅力的だ。“14フレット・ジョイントなのでさまざまなプレイ・スタイルに対応できますし、フィーリングやサウンドも最高です。ぜひお試しいただければと思います”。イシバシ楽器ではこのほかにも多くのCTMをオーダーしているとのことなので、こまめにチェックしてみると良いだろう。
[CTM 000-45 Madagascar Rosewoodの紹介インタビュー動画はこちら]
Specifications
●ボディ・トップ:アディロンダック・スプルース単板 ●ボディ・サイド&バック:マダガスカル・ローズウッド単板 ●ネック:マホガニー ●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー
関西地方の大手楽器店、三木楽器の梅田店はその魅力的なラインナップときめ細やかなサービスでプロ/アマを問わず高い人気を誇っている。ビンテージについても凄まじい発掘能力を持っており、ギター・ファンの中には同店のHPを日常的にチェックしている人もいるほどだ。そんな梅田店が今回オーダーしたCTMは同店らしいマニアックな仕様を持っている。“D-18 Authentic 1940”、オーセンティックなマーティン・ギターの歴史的名器を徹底的に分析し、完全再現するというコンセプトのシリーズで、同社の最上級ラインナップである。本器はそれをベースとしているのだが、モデル名にある“Tortoise Head”とは一体なんなのか。担当の磯部壮さんにご説明いただこう。
“ベースとなっているのは1939年のオーセンティック・モデルですが、ヘッドの突き板には通常のローズウッドではなくTortoise、べっ甲柄のセルロイドを使っています。これは1940年製のマーティン・ギターに実際に存在した仕様で、おそらく数本しか作られていないものなのですが、今回オーダーするに当たって復刻をお願いしました。ですから、1939年のオーセンティック・モデルをベースにしてはいますが、モデル名には1940と付けているわけですね。なお、39年と40年は基本的には同じ仕様になっています”。
1939年のD-18と言えばボディはニカワ接着、ブレイシングはフォワード・シフテッドXが採用されており、ネックの芯材にはスティールTバーを使っている。オーセンティックではこれらすべてを忠実に再現。マーティン社でもかなりのこだわりを持って製作されているため、市場にもあまり顔を出さないシリーズだが、その中でさらにTortoise Headを採用した本器は激レアな1本だ。どうか見逃しなく!
[CTM D-18 Authentic 1940 Tortoise Headの紹介インタビュー動画はこちら]
Specifications
●ボディ・トップ:アディロンダック・スプルース単板 ●ボディ・サイド&バック:マホガニー単板 ●ネック:マホガニー ●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー
マーティンの代理店も務める黒澤楽器店が営業するG-CLUB SHIBUYA。渋谷では最大級の店舗面積を持つショップで、アコースティック・ギターにおいてマーティンと双璧をなすギブソン・ギターのラインナップにも注力した店構えが特徴的だが、もちろんマーティンの在庫もかなり豊富である(マーティンの専門フロアも有り)。さて、同店が今回の取材で紹介してくれたCTMは“D-41 1972 Reissue”だ。70年代のドレッドノートはパワフルなサウンドが特色で、70年代の国内ミュージシャンたちも多く使用してきたことから、フォーク世代を中心に熱心なファン層を持っている。このギターについて、“フォーク・ソングが好きな方には非常にオススメできるギターだと思います”と説明してくれたのは担当の新宮貴廣さん。
“1970年代前半の仕様をできる限り忠実に再現しています。例えばトラスロッドは現行製品ではアジャスタブル・ロッドですが、このギターでは70年代前半の特徴であるスクエア・ロッドを採用しております。使用材に関しては、本来70年代前半のD-41ではジャーマン・スプルースがトップに使われていましたが、現在では良質なものの入手が難しかったため、同様の特性を持つイタリアン・アルパイン・スプルースを使っています。サウンドはまさにこの年代特有の鳴りを再現できていると思いますので、ご興味のある方はお気軽に弾きに来ていただければと思います”。
マーティンの歴史をひも解くと、戦前のある時期を“ゴールデン・エラ(黄金期/1930年代後半から1940年代前半)”と呼び、ビンテージ市場でも圧倒的な人気を誇るが、マーティン自体は他の時代にもたくさんの名器を生み出している。その中で1970年代前半に目をつけるあたりに、長らく代理店を務めてきたクロサワ楽器の深いマーティン愛を感じる。なお、動画の中で新宮さんはこのD-41の音も聴かせてくれているので、併せて参照してほしい。
[CTM D-41 1972 Reissueの紹介インタビュー動画はこちら]
Specifications
●ボディ・トップ:イタリアン・アルパイン・スプルース単板 ●ボディ・サイド&バック:インディアン・ローズウッド単板 ●ネック:マホガニー ●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー
関西のアコースティック・ギター・シーンの中心的な役割を果たしているドルフィンギターズ。個人製作家のギターを積極的に取り扱い始めるなど、ギター業界に新風を吹き込んできた名店で、大阪のほか東京・恵比寿にも店舗を構えている。その恵比寿店がオーダーしたCTMはキング・オブ・アコースティック・ギターの異名をとる“D-45”のカスタム。オーダー時のポイントを担当の松下靖弘さんにご説明いただこう。
“こだわった点はまずニカワ接着をオーダーした点。それとトップ材にイタリアン・アルパイン・スプルースを使用していることも特色ですね。これはバイオリンのストラディバリにも使われている木材ですが、ジャーマンやイングルマンに通ずる柔らかいトーン、クラシック・ギターのような粒の細かい音色が魅力の木材です。D-45が持つ煌びやかなトーンがより際立つようにと思い採用しました。パーツに関してもオリジナルのD-45と異なる点がいくつかあるのですが、代表的なものはペグをクロームにしているところです。普通、スタイル45だとゴールドが多いのですが、今回はイタリアン・アルパイン・スプルースの白の強い色味に合わせてクロームを採用してみました”。
イタリアン・アルパイン・スプルースの使用によりD-45らしさを強調するというサウンド・プロデュースは、ブランド力に左右されず、多くの個人製作家を発掘してきた同店ならではアプローチ。とにかく45の音が好き、そんな人はぜひ一度お試しいただきたい。
[CTM D-45の紹介インタビュー動画はこちら]
Specifications
●ボディ・トップ:イタリアン・アルパイン・スプルース単板 ●ボディ・サイド&バック:インディアン・ローズウッド単板 ●ネック:マホガニー ●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー
ここに紹介した機種以外にも、出演していただいたディーラー各社はさまざまなCTMをカスタム・オーダーしている。興味のある人は以下からそのラインナップを確認してほしい。
■Blue GuitarsのMARTIN CTMをチェック!
■Heartman GuitarsのMARTIN CTMをチェック!
■The Guitar LoungeのMARTIN CTMをチェック!
■G-CLUB SHIBUYAのMARTIN CTMをチェック!
■ドルフィンギターズ 恵比寿店のMARTIN CTMをチェック!
さて、今回のギター・ショウでは各ショップによるCTM展示のほか、もうひとつ大きなトピックがあった。それはマーティンとフィッシュマンの共同開発によって新開発されたピックアップ・システム“オーラVTエンハンス”を搭載したニュー・モデルのお披露目である。フィッシュマン社は今やアコースティック楽器系アウトプット機器の分野において世界最大手の規模を誇るメーカーだが、マーティン社とは創業当時の1980年代から共同でシステムの開発を行なっており、今回の新モデルはその長い歩みが生んだひとつの結実だと言える。
イベントではフィッシュマン社のアンバサダー、スティーヴ・ファイアクロウ氏が来日し、デモ演奏を通じてそのサウンドを聴かせていたが、豊かな空気感と幅広いダイナミクスがきめ細やかに表現されており、感触としてはかなり良好。ボディ・トップの振動もうまく収音しており、ヒッティング奏法なども迫力あるサウンドでアウトプットされていた。一体どんな構造のシステムになっているのか。以下では黒澤楽器店の福岡司さんにその詳細をご説明いただこう。
──マーティンとフィッシュマンの共同開発によるエレクトリック・アコースティックと言えば現行でもラインナップされている“パフォーミング・アーティスト・シリーズ”がすでにありますが、これと新たに発表されたスタンダード・シリーズのエレアコは何が違うんでしょうか?
基本的なところはパフォーミング・アーティスト・シリーズと同じです。パフォーミング・アーティストはフィッシュマン製のインブリッジ・ピエゾとマイク・サウンド・テクノロジー“オーラ”を組み合わせたシステムを搭載していて、いわゆる“ピエゾ臭さ”を感じさせないナチュラルなアウトプット・サウンドで好評を得ていたものです。
──発売時は大きな反響を呼んでいましたね。
そうですね。それで今回のスタンダード・シリーズには、ここに“エンハンス”と呼ばれるピエゾ・ピックアップをもうひとつ追加したんです。このピックアップの役割はボディ・トップの振動、木の質感を拾うことです。エレクトリック・アコースティックの難点は木の質感がなかなか出せないところなんですが、今回はエンハンスでそれをうまく拾うことに成功しています。
──エンハンスはボディ・トップの裏面、ちょうどブリッジ・プレートのところに貼られていますが、これにはどんな意図があるんですか?
僕のエンジニアとしての経験から言うと、ボディ・トップにそのままピックアップを貼り付けた場合、それがどんな場所であっても基本的にはラウドで良い音が拾えるんです。ただ、そのぶんハウリング・マージンが稼げなかったり音がまわり過ぎたりと失うものも多いのが実情なんですよ。で、その中で得るものと失うものの差が最も少ないのがブリッジ・プレートなんですね。ブリッジ・プレートで拾った音はタイトな音で、板の質感、木の肌触りもしっかり出してくれます。
──なるほど。ブリッジ・プレートへの貼り付けは各コースの音量バランスをとるのが難しそうですが、そのあたりのセッティングもかなり追い込まれていますよね。
僕も感心しました。ハウリング耐性も高いですし、さすがマーティンとフィッシュマンだなと思いましたね。
──パフォーミング・アーティスト・シリーズのシステム“F1”にはオンボード・プリアンプが組み込まれていましたけど、オーラVTエンハンスのプリアンプはエンドピンに一体化されて、シンプルな操作性になっているのも魅力だと思います。
F1にはAKGやノイマンなどさまざまなマイク・イメージが搭載されていて、あれはあれで好評だったんですけど、反面では操作が煩わしいという声もあったんです。だから今回はマーティン社が理想とするアウトプット・サウンドをひとつ提案して、セッティングもそれに併せて追い込んでいるんです。それに今回はクリス・マーティン(※マーティン社のCEO)から“ボディ・サイドに穴を開けてほしくない”という条件が出ていたそうです。
──アコースティックのフィールをものすごく大事にしてきたマーティンらしい姿勢ですね。肝心のサウンドも立体感のある音像で素晴らしかったです。
僕はリバース・ツアーでマーティンのありのままのサウンドをお伝えするためにマイクでのアウトプットにこだわってきましたけど、そんな僕の耳で聴いても今回のサウンドには大満足です。“マーティンらしさ”がここまで出せるシステムは現時点では他にないと思いますよ。マーティンのエレクトリック・アコースティック・ギターとして自信をもってオススメできます。
──黒澤楽器店では今春からフィッシュマン製品の取り扱いも始めましたね。今後はどんな展開を予定されていますか?
今はエレアコというものに対する認知はあるんですけど、そのキモであるピックアップがどういうものなのかという認知が今ひとつ足りていないと思うんです。ですから、クロサワ楽器の店舗ではアコースティック売場にフィッシュマン製品を積極的に置いて、ピックアップとは何かというところをしっかりお伝えしていければと思います。また商品の説明だけではなく、本当に良質なアウトプットをするためにはどんなことが必要なのか、そういったことも含めてお伝えしたいですね。アコースティック・ギターの出力で悩んでいる方、知りたいことがある方は気軽に店舗スタッフにお声がけいただければと思います。
上記のインタビューにもある通り、オーラVTエンハンスはふたつのピエゾ・ピックアップとオーラによってアウトプット・サウンドを作り出す。まずふたつのピックアップはブリッジ周辺にまとめられており、ひとつはブリッジ・サドル直下に設置されたインブリッジ・ピエゾ。もうひとつはボディの内側でブリッジ・プレート上に貼り付けられたエンハンスPUである。コントロールは上図で見た場合、サウンド・ホールの右側にボリュームとトーン、左側にエンハンスPUのミックス具合を調整するエンハンス・ノブが設置されている。インブリッジ・ピエゾとオーラ・システムで作られたサウンドを基音とし、そこにエンハンス・サウンドを加味することで木の質感を演出していく、これがこのシステムでの音作りの基本だと言える。
オーラVTエンハンスは現在マーティン社のレギュラー・ラインナップ“スタンダード・シリーズ”にのみ搭載されている。同シリーズ内で“●●C-○○E”(例:DC-18E、OMC-28Eなど)という型番が付いたモデルに採用されているので覚えておこう。ちなみに型番内の“C”はカッタウェイ(Cutaway)を指しており、“E”は“Electric”の頭文字だ。
なお、今回マーティンとフィッシュマンが発表した新システムにはこのオーラVTエンハンスのほかに“マトリクスVTエンハンス”なるシステムも存在しており、これは廉価ラインナップの“15シリーズ”のエレアコ・モデルにのみ搭載されている。両者の違いはブリッジ・ピン付近にオーラ搭載のプリアンプがあるかないかだけ(オーラVTエンハンスはオーラ搭載、マトリクスVTエンハンスはオーラ非搭載)。ちなみにオーラ自体は外部機器(下写真)としても発売されているので、マトリクスVTをオーラVTのように拡張することは可能だ。
■FISHMAN AURA SERIESをデジマートで探したい方はこちらから!
リバース・ツアー最大のトピックとなるアコースティック・コンサート。ホストである斎藤誠を中心に、毎回さまざまなジャンルのトップ・ギタリストが参加しており、今回も高田漣、バンバンバザール、小倉博和という幅広くかつ豪華な顔ぶれが名を連ねた。斎藤が力強い弾き語りで幕を開いたステージには早速、トップバッターである高田漣が登壇。昨年は父である高田渡の逝去から10年を迎えたことで、その関連リリースも多く見られたが、この日も“今日は高田渡の曲を中心に歌わせて下さい”とのMCから「ヴァーボン・ストリート・ブルース」「系図」「コーヒーブルース」などの楽曲を披露。時に高田渡が愛用したD-12-20の改造器(1~3コースを複弦とする9弦仕様)を用いて、あのシニカルでいながら温もりある独特な世界観を淡々と表現。これに触発されたのか、この日はバンバンバザールも自作曲に加えて「仕事さがし」を演奏しており、図らずも高田渡をトリビュートするような展開になっていた。
一方、斎藤誠の盟友とも言える小倉博和は自作曲を中心としたステージを展開。1939年製のマーティン000-42を使いながら、DJを導入するという温故知新(!!)なアプローチでカントリー・ロックやハワイアン・テイスト、バラードなど幅広い曲想を提供。落ち着いていた会場に喝を入れるような迫力ある演奏で、斎藤誠とのセッションで聴かせたマイケル・フランクス「淑女の想い」でのアーバンなフレージングも冴えわたった。
コンサート終盤は出演者全員で高田渡「生活の柄」、ローリング・ストーンズ「サティスファクション」を披露して大団円。この日はアコースティックはもちろん、F-50などのマーティン・エレキやウクレレも使用されており、マーティンの多様なサウンドを直に体感できたという意味でも非常に有意義なステージであった。
[出演アーティストのインタビュー動画はこちら]