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- 2024/11/16
Pike Amplification/VULCAN XL & VULCAN
現在、数多くのベース向けプリアンプが発売されているが、一部のマニアの間で話題となっているブランドが、Pike Amplificationである。同ブランドの製品がついに日本にも上陸。ベース・マガジン編集部では、ベースのサウンドメイクに一家言を持つIKUOとともに、その全貌に迫った。ベース用プリアンプ/DI、そして歪みエフェクターの新興勢力としての潮流となるか!?
2015年11月、アメリカはワシントン州シアトルで設立されたPike Amplification。生まれてまだ数ヵ月という新興ブランドであるが、すでに各所で話題となっているのをご存知だろうか? このブランドを立ち上げたのは、エフェクト・ペダルのブランドとして数々の名機を生み出した、3Leaf Audioを率いるスペンサー・ドーレンという人物。彼は3Leaf Audioを運営して数年経った頃、ベースに特化したブランドを立ち上げたいと考えた。そこで生まれたブランドがこのPike Amplificationだ。そしてこのたび、満を持してベース用エフェクターVULCAN XLとVULCANを発表した。正直な話、その筐体、及びルックスを見た際、誰もがフィンランドのブランド、ダークグラス・エレクトロニクスを想起したかもしれない。ところがその真髄は、先述ブランドとは一線を画している。
VULCAN XL はディスクリートの並列ドライブ回路を持つ、ベースに特化したプリアンプで、4バンドEQや、キャラクターの異なる歪みを選択できるカラー・スイッチを備えるという、オーバードライブ/プリアンプ/DIを兼ねた製品だ。特筆すべきは、そのカラー・スイッチで、ミッド・レンジが豊かな歪みから、中域と高域を強調したハイゲインな歪みまで、まったく異なるサウンド・キャラクターを選ぶことができる。一方、VULCANは、シンプルなコントロールながら、先述のカラー・スイッチによるキャラクターを無段階でブレンドできるコントロールを備える。果たして、これらの実力はいかに?
SPECIFICATIONS:
●入出力:インプット、アウトプット、クリーン・アウト、バランス・アウト ●コントロール:ミックス、ヴォリューム、ゲイン、ベース(80Hz)、ロー・ミッド(500Hz)、ハイ・ミッド(1kHz)、トレブル(5kHz)、カラー・スイッチ、ファット・スイッチ、グラウンド/リフト・スイッチ ●サイズ:106(W)×52(H)×118(D)mm ●重量:386g
SPECIFICATIONS:
●入出力:インプット、アウトプット ●コントロール:ミックス、カラー、ヴォリューム、ゲイン ●サイズ:73(W)×49(H)×112(D)mm ●重量:234g
では早速、IKUOによる試奏レポートをお伝えしよう。常に究極のサウンドを求め、試行錯誤を重ねるIKUOが、本機とガチで共鳴したポイントとは?
実はこのブランド、最近気になっていたんですよ。僕が何について注目したかというと、VULCAN XLに備えられている4バンドEQなんです。音作りについて、僕がずっと研究しているなかで、重要なことを発見したんですが、そのなかで注視していたのが、まさに本機のロー・ミッドと、ハイ・ミッドにあたる、500Hzと1kHzだったんです。本当は、これは僕だけの秘密にしておきたかったんですが(笑)、まさにそのポイントを突かれた印象ですね。500Hzという設定にした開発者の意図は推測するしかないんですが、通常、この帯域を削ることによって、アンサンブルに馴染ませることができるんです。僕の場合は別の捉え方で……あえて強調するんです。あとは企業秘密ということで(笑)。
あと、カラー・スイッチが本機のポイントで、まったく異なるキャラクターの歪みを作れるのが興味深いですね。上のポジションだと、いわゆるドンシャリかつ密度の濃い、良質なディストーションという感じです。で、僕が好きだなって思ったのは、下のポジション。ミッド・レンジが濃密なサウンドで、とても説得力のあるサウンドですね。ミックスのツマミは、“原音とのミックス”という意味合いではなく、プリアンプを通過したクリーン音とのミックスなので、このプリアンプならではのツヤを生かしながら、歪みを加えていくことができます。ちなみに、電源を18Vで駆動させれば、よりクリアで高品位なサウンドになりますね。総合的に見て、めちゃくちゃ僕好みのエフェクターです。一度、自分のバンドや現場でも試してみたいですね!
このブランドを立ち上げたのは、3Leaf Audioやダークグラス・エレクトロニクスで腕を鳴らしたスペンサー・ドーレンという人物である。彼の生の言葉をお伝えしよう。
──あなたがエフェクター作りを始めた理由は?
10代の頃、私はバンドでベースをプレイしていました。同時にエフェクト・ペダルで実験を重ねることが大好きでしたが、満足するサウンドが得られることは一度もありませんでした。そこでエフェクト・ペダルをモディファイする方法を学び、いつしか独自の設計を始め、製作するようになったのです。
──あなたが3Leaf Audioやダークグラス・エレクトロニクスで培った技術を、このブランドでどのように応用しようと考えましたか?
ベーシストたちの機材に対する要求のレベルは高いですが、3Leaf Audioでの長年の経験から私が気づいたことは、パーツの選定が非常に大切だということです。新製品の開発プロセスのほとんどは抵抗、コンデンサー、オペアンプといったさまざまなパーツについて理想的なものを選び抜くことでした。あと、ダークグラス・エレクトロニクスでの製品設計や製造を行なっていた頃に、ステージやスタジオで何年も使用しうる信頼性の高い製品を実現する工法を考案しました。この方法も、このブランドで採用しています。また、私はCMOSバイパス・スイッチング・システムを特許として取得しています。このシステムは、ソフトタッチなフット・スイッチと集積回路を応用したものです。従来のフット・スイッチよりもコスト高となりますが、高い信頼性を誇っているため、このスイッチング・システムはすべての製品に使用しています。
──VULCAN XLを設計する際に考えたコンセプトとは?
VULCAN XLの背景にあったコンセプトは、どのプレイヤーのペダルボード内にもある一般的なエフェクトに取って代わるものを設計するということでした。具体的になったのは、並列のオーバードライブ回路、4バンドのイコライザー、そしてライヴやスタジオで使えるXLR出力です。結果、プリアンプ/ダイレクトボックス/オーバードライブを兼ねた製品となり、1台でさまざまな使い方が可能です。
──同じく、VULCANの開発コンセプトを教えてください。
VULCANは、VULCAN XLをシンプルかつコンパクトにさせたバージョンです。サウンドを形作るイコライザーを搭載しない代わりに、カラー・コントロールによってオーバードライブ回路のミックス具合をコントロールできます。シンプルに4つのツマミを搭載しているのみですが、これによって多様なトーンを作り出すことができるのです。
──並列のドライブ・サーキットとは、具体的にどのような技術なのでしょうか?
VULCANとVULCAN XLは、信号をまずふたつの系統に分け、のちにカラー・コントロールの段で組み合わせます。ゲインとフィルター系のコントロールは両方の信号にかかりますが、ふたつのオーバードライブが内蔵されたペダルと言えます。これは信号経路が非常に複雑であることを示しており、その結果、非常に多彩なオーバードライブのサウンドを作り出しています。実際、VULCAN XLは173個もの部品によって構成されているんですよ!
──VULCAN XLで採用した、EQの周波数の設定を決めたポイントは?
VULCAN XLのEQセクションは、ベースの周波帯を音楽的に形作るために設定しています。まず、80Hzのベースは音の輪郭を残しながらも、ベース・サウンド特有の“暴れ”を扱ううえで必要な低帯域です。500Hzのロー・ミッドは音の“ボディ”感をコントロールし、サウンドの太さを調節可能です。そして1kHzのハイ・ミッドは音の“アタック”感をコントロールし、ブーストさせることでプレイヤーのピックや指によるピッキングの存在感を押し出す一方、カットすることでトーンをソフトにして全体に馴染んだサウンドへと仕立てます。5kHzのトレブルは、ベースの帯域としてはトップエンドを担っており、音の明瞭さをコントールします。
──ブランドの今後の展望を聞かせてください。
これからもハイクオリティなベース用の製品をリリースし続けます。現在は、夏のリリースを目指してベース本体に内蔵するプリアンプのシリーズを開発しています。サウンドのクオリティとしては新たな指標となることでしょう。ファズ・ペダルについてもいくつかアイディアを温めていて、1200Wのコンパクトなベース・アンプとともに、今年後半での発売を予定しています。
本記事はリットーミュージック刊『ベース・マガジン2016年5月号』の特集「PIKE AMPLIFICATION VULCAN XL×VULCAN」でも詳しく紹介されています。今号の表紙を飾るSilent Siren あいにゃん・巻頭インタビュー&撮り下ろし写真他、盛りだくさんの内容と合わせて是非手に取ってお楽しみください!
価格:¥45,000 (税別)
価格:¥34,000 (税別)