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  • Dr.Dの機材ラビリンス 第27回

現行パッチ・ケーブル〜葉脈のマテリアル

パッチケーブル

ギターやベースからアンプ、またはペダルボードへ繋ぐケーブルの重要性については、多くのプレイヤーが理解していると思う。しかし、エフェクター間を接続するパッチ・ケーブルを、同様の視点で捉えているユーザーはどれほどいるだろうか。1本の全長は数十センチであっても10本使えば数メートル……楽器用ケーブルと変わらない長さとなるのだ。たった15cmの導電パーツにいかに各メーカーが心血を注いでチューニングを施しているのか、そしてそれがシステム全体の音質にいかなる影響をもたらすのか? 地味なパーツゆえまとまった記事になることの少ないテーマに、Dr.Dはいつもの実践スタイルで徹底検証を試み、15製品をピックアップした。ペダルを使うプレイヤーであれば、ぜひじっくりとご覧いただきたい。

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プロローグ

 機材の「音」について、考えたことがあるだろうか?

 世の中には2種類の音楽用機材がある。それは、音を出す機材と出さない機材だ──などと、ありふれた二分法で語るのも良いが、今さら言われるまでもなく、それが揺るがぬ事実であることを我々はよく知っている。

 音を出す機材……トランペットや木琴、アコースティック・ギターなどがそうだ。それひとつで出音を完結できるものを指す。逆に、エレキ・ギターやアンプ、エフェクターなどは、単体では音にならない楽器や機材達だ。音は出ないが、確かに“それが持つ音”はそこに存在している……ならば、「音を出さない機材の音」を聴くためにはどうしたら良いのだろうか。

 「原音」という言葉がある。ずいぶん都合の良い言葉だが、それが、音を出さない機材──エレクトリック・ギターそのものの音を指す時に用いられるのを聞いたことがある人は多いはずだ。しかし、ギター・システムにおける「原音」は、ただの起点を表わす単語にすぎず、我々がイメージできるエレキ・ギターそのものの音が、所詮、経験則による比較法によって導き出された『引き算の音』でしかないこともまた自明である。つまり、「音」を出さない機材達の集合体であるギター・システムの中において、エレキ・ギター単体の音を導き出すには、スピーカーという出口まで行ってしまった音から、アンプやエフェクター、シールドなどという他の音因子を全て間引いていくしか方法がない、というのである。しかし、その方法を実行する為には、全てのデバイスに対してあらゆる組み合わせや接続パターンにおける膨大な実地体験に基づいたデータの集積が不可欠であり、例えそいつがあったとしても、それは、所詮リアルな音そのものではなく、想像というフィルターの範疇を出ない“近似値”的イメージにしかなり得ないのである。その点から見ても、我々が信奉する「原音」の理屈がいかに危うい論法の上に成り立っているかを知ることが出来る。誰かの言う「原音に忠実」などという文言が、エレキ・ギターのサウンドを語る上でいかに信憑性のないものであるか、それだけでもハッキリわかるほどである。

 しかし、その「原音」の解釈が、音にならない機材の“音”を知る良いヒントを与えてくれている。それは、音が機材を通れば、そこにまた必ず新しい「原音」が生まれるのでは……という再生の法脈による。効果が足されるのではない。新たな機材を通るたびに、『連なる意志』──自ら機材の持つ“音”に生まれようとするベクトルが加わるのだとするとどうだろう。総じて、音の変化を出口から必要なだけ遡れば、その“音”がデバイスから生まれるおりに介在した「もうひとつの外的要因」の存在を浮き彫りにすることもまた不可能ではなくなる。ならば、連なることなく「通り抜けるだけの音」など決してないということもわかるだろう。また、それは、「音」が聴こえないということが、「音」を出していないということとは全く異なっていることの証明にもなっているのである。

 「原音」を生むのは機材。そして、それが意志を持った誰かの手という外的要因を介してシステムの一部となったものが“機材の音”なのだ。しっかりと憶えておくといい。音は機材が作るが、「原音」を次のデバイスへと動かす力は、必ず人のいる方からやってくるのだということを。音を生むために、そこにデバイスを置くのは、他ならぬ「人」の意志だ。よって、機材という依り代に魂を宿すのは、常にプレイヤーの責任において行なわれなければならない。そう、音を奏でる者がそれを忘れることは「罪」以外の何ものでもないのである。

 連なる音を聴き分け、それに続きがあるのならば新しいデバイスとの因果をも結ぶ……ミュージシャンがそうしたいと臨む時、いつも機材は音楽の側に寄り添い、変化をもってその道を強く照らすだろう。

 システムとは、音を重んじる者のためにではなく、音に勤しむもののために働くものなのだから。

商品の選定・紹介にあたって

 今回は『パッチ・ケーブル』を特集する。ギターとアンプ、もしくは、ギターとペダル・ボードを繋ぐ、いわゆる“シールド・ケーブル”については様々なメディアで取り上げられることもあるが、パッチ・ケーブルのみについての評価や記事は実はそれほど見かけない。しかし、よく考えてみよう。スイッチャーを介して5つのエフェクターを30cmのパッチ10本を使って繋げれば、それだけで3mのシールドに相当する距離を確実に信号が移動することになる。しかも、ボードの中には様々な機器がひしめいて経路を確保することすら難しく、パワー・サプライ等の電源も近くにあることから、ルーティングを少し間違うことが致命的なノイズを発生させてしまうケースも多々ある。そんな環境下で使われるパッチ・ケーブルに、サイズ、柔軟性、誘導ノイズ対策、耐久性等の品質全般において、通常のシールドよりも遥かにシビア且つデリケートな要求がなされていることもまた当然のことと言えるだろう。そして、音質の問題はさらに厳しく吟味されなければならないはずだが、実際のところ、何万円とする高級シールドを拘って使う様なギタリストが、パッチ・ケーブルには全く無関心なんていうこともザラだ。そこで、ギター・システムもプレイヤー自らが組む時代になってきた今だからこそ、この企画を通じ、パッチ・ケーブルの重要性を改めて見直してみようというわけだ。
 紹介するケーブルは、いつも通りデジマート内の在庫に準拠している。現行市販品で、有名ケーブル・ブランドのものや販売元のオリジナルなども含み、なるべく多様な用途を網羅するように選んでみた。プラグは極力L/Lの両ライト・アングルのものを、フィールド・テストは15cmを基準にして、その長さが市販されていないものはなるべく近い長さの製品を手に入れて試してみた。また、各パッチ・ケーブルには、「パッチ専用」に開発されたメーカー・オリジナルの規格が多数見られるように、素材や構成がバラエティに富んでいるため、音に重要な影響を与えるメーカー独自の半田のチョイスも考慮し、流行りのソルダーレス・タイプのものはあえて外している(そちらはまたいずれ特集したいと思っている)。あくまでも、メーカーの意匠が隅々まで反映されている、基準規格で完成された製品同士での比較というスタンスだ。
 たった15cmの導電パーツにいかに各メーカーが心血を注いでチューニングを施しているのか、そしてそれがシステム全体の音質にいかなる影響をもたらすのか──この記事を通じて考えるきっかけにしていただけたら幸いである。

現行パッチ・ケーブル

[M ROCK2]

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01 Monster Cable [M ROCK2]

 急速に進化を遂げた80年代以降のロック・サウンドに適応し、数多くのライブやレコーディングで確固たる実績を残してきた楽器ケーブル界の大メジャーMonster Cable。レンジ特性による伝達速度の差異をなくすため、太さや長さの異なる芯線を組み合わせる「タイム・コレクト(マルチゲージ・ワイヤー・ネットワーク)」構造は同社のパテントとして有名であり、もちろんこのM ROCK2ケーブルにも採用されている。ギター・シールドとしては業界標準とされるだけあり、そのまとまった出音とピーキーになり過ぎない特性には長年耳馴染んだ安心感があるのは間違いない。

 だが、裏を返せばそれは、90年代あたりのハイファイ世代に流行した、かなり「均された観」のある音質であることも否めない。ダイレクトさを追求する最新の音質からすると、やや奥に引っ込んだ印象で、パンチ的にも少なからず物足りない。言うなれば、やや“古い音”である。しかし、それはあくまでもギター・シールドとしての話だ。十分にロー・インピーダンス化された信号下にあるパッチ・ケーブルとして使われた時、この製品への感想は全く逆転することだろう。特に歪みエフェクターなどの後段にある時の、ただ闇雲に明瞭なだけではない、地に足の着いた力強い躍動感は目を見張るものがある。本来、パワー感が逃げがちな80Hzあたりから100Hzあたりに向かってかなり独特の押し出しがあり、巻き弦のアグレッシブなグリッヂ感に素晴らしい立体感を残す。ドライブ、コンプなどの後ろではどうしても避けられない物理ケーブルならではの帯域の収縮する感じがほとんどなく、フィードバックも図太く、張りがあった。

 今回試したケーブルは22cmのものだったが、他社の15cmサイズよりも遥かにエフェクター同士の距離が近く感じたのは収穫だった。ハムバッカーのギターで歪ませる場合に、スイッチャーや複数のエフェクターを通過するとアタックの空洞化が気になるというユーザーには、この音質は十分に効果があることだろう。システム・エンドに、ライン・ドライバー代わりにクリーン・ブースターを入れているユーザーにも、アンプまでの信号ケーブルをこれにするとミドルのガッツに良好な結果をもたらしてくれるはずだ。ただ、外皮を形成するデュラフレックス製のシースと高密度な胴網シールドは、ボード内のパッチ・ケーブルとしてはやや柔軟性に欠ける。デバイス占有率の高いボード内での使用では、コーナー・ワイヤリングの為に余裕をもったスペースを確保するようにしたい。
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[High End Products Instrument Two Midnight Blue Cable]

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02 ALESSANDRO High End Products Instrument [Two Midnight Blue Cable]

 濃厚なオールド・トーンが人気のハイエンド・アンプ・ブランドとしても知られる米国Alessandro。音声信号が物体を通過する際に起きる負荷を徹底的に解析し、最良のトータル・サウンドを生み出すために、キャビネットはもちろん、ギター本体に搭載するポットやキャパシターまでをも自社で生産する彼らが、ギター・システムにおいて最長の導電媒体であるケーブル類に着目しないわけがない。「High-End Products」と名付けられる上級ユーザー向のプロダクトのひとつとして、そのケーブル──“Instrument Two Midnight Blue Cable”は、ペンシルバニア州ハンティンドン・バレーの工場において1本1本手作業で製作されている。

 近年の高性能ケーブルによく採用されている「DNA Helix Design」構造(コンダクターを螺旋状に編み込んだ三次元成形により、外部からの負荷に対して導体の均一性を保持しやすい)を持っており、どの方向に折り曲げても程良い弾力があり、引っぱり、捻れにも強そうだ。また、芯線を被う絶縁体として採用されたComposilex 2(テフロンを含んだ誘導体素材)がコンダクター周囲の電磁場を安定させ、電子伝達の害になるノイズの混入に対して強い耐性を維持している。ケーブルそのものへの物理接触や誘導ノイズに対して、ボード内のわずかな配置の違いによって出音のレンジ特性が急に変化したりすることがないのは、実に使い勝手が良い。アダプターやパワー・サプライの近くで複雑に配線されるパッチ・ケーブルにとって、このこだわりの構造は、通常のギター・シールドとして使われている時以上に恩恵をもたらしてくれているようである。

 銀共晶半田を用いているためか出音は高域に寄っており、歪み率がかなり低く、まるで高級なオーディオ・ケーブルの様にワイドなレンジ感が備わっているのがわかる。常に“上”に余裕を感じる音質で、ギター特有の硬質なアタックを残しつつシルクのように艶やかな余韻があり、特に、深いコーラスやコムフィルター系のエフェクトでのプレーン弦の分離感は格別。クリーンなアンプとホロウ・ギターから、オーガニックな空間系を取り入れたジャジィ・サウンドを引き出したいユーザーに、まずはお勧めしたい。他にも、テレキャスターなどのきらびやかなサウンドに、さらにトレブル・ブースターで人工的な広がりを加えたい場合にも、その前後に採用すると抜群の音の伸びを体感できるだろう。一応、メーカーの仕様ではケーブル自体に「方向性」(開口部保護チューブに印刷されたメーカー名Alessandroの「A」がギター側)が持たされているので、気になる人はこれを参考にシステムを組んでみると良いだろう。試した結果、ケーブルが反対だと多少高域が引っ込んで歪みやすくなる気もするが、大音量でない限り、逆送だからと言ってノイズなどの致命的な影響はほぼない様に思える。むしろ、音色のバリエーションがあると考えれば、逆もまた使い方次第で好みのサウンドの構築に役立つだろう。
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[EP17J]

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03 DiMarzio [EP17J]

 リプレイスメント・ピックアップの老舗DiMarzioによる、汎用型ジャンパー・ケーブル。楽器用1芯シールドのコンダクターとしては標準となる20AWGの銅芯線を採用し、シースにはナイロンとポリ塩化ビニルを組み合わせたジャケットで耐久性を高めるという堅実な仕様を持ち、手馴染み感の良いワイヤリングを実現する。プラグはSwitchcraft製とのことだが、ハウジングには既製品の物とは異なる独特なモールド・タイプのものを採用しており、小型軽量であまりコンコンと響かない上、静電気にも耐性がありそうだ。

 ケーブルそのものの音は、聴覚上は中域が盛り上がったオールド・スクールな音質に聴こえるものの、実はそれほど不必要にレンジを稼ぐわけでもなく、ギター・ケーブルとして必要な帯域内をきちんとフラットに押し出すことのできる実に教科書通りな出音に特化していると感じた。さらに、その癖のなさの中でもきちんとダイレクト感を維持できるよう400Hzより少し下のあたりの情報量が多くなっているようだ。ラフなピッキングに対しても定位が乱れにくいので、システムの前段に入れて音域が暴れるのを予防する意味でパッチ・メイクをすると、コンプをかける感じとはやや異なった、ピークが次の音に対して自然な「繋がり」を発揮するようになる。結果、プレイに整合感を得ることができ、低域のふくよかな表現力が際立ってくる。現代的な再生域の高い音質とは異なるが、エフェクターの乗りは抜群で、アナログ・ディレイのような独特の太さを伴う音をシステムに溶け込ませたい場合にも重宝するだろう。

 ただ、ロー・インピーダンスからハイ・インピーダンスに移ると高域の減退が気になるので、先頭にバッファを置かないでトゥルー・バイパスのエフェクターを頻繁に切り替えるようなプレイヤーには向かない。安定した信号下で素直に機材の特性を引き出したい場合にのみ、このケーブルは最大の効果を発揮することを憶えておこう。また、ジャケットのカラーリングが多彩なので、HEXAなどのケーブルを使っていて高域の損失が気になるプレイヤーには、次のステップとしてこのパッチ・ケーブルを選択肢に入れるのもひとつの手だ。抜きん出た特性こそないものの、あらゆる面で平均点を高く設定した、質の高いアイテムだと言える。
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[BIG GREEN]

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04 Analysis Plus [BIG GREEN]

 ミシガン州フラッシングに拠点を置くAnalysis Plusは、従来のインストゥルメント伝送系における構造的欠陥を補うエポックメイキングな新設計を採用し、業界のトップ・ブランドへと躍進した新星の超高級ケーブル・ブランドである。コンピューターを用いた解析を重ねて生み出された独自の「ホロウ・オーバル(中空楕円)」構造は、長楕円形の断面を持つ単結晶無酸素銅コンダクターを対向面で組み合わせたもので、交流ケーブルが持つ表皮効果(周波数が高い信号ほど導体表面に集中して流れる特性のこと。電気の流れが集中すると抵抗値が上昇し、電磁誘導が発生しやすくなる──つまり、高域の損失が大きくなるのである)と近接効果(高域周波数ほど、隣接したケーブルに近い部分で流れようとする働きで、その偏りが抵抗値を上昇させる)を科学的に抑制する効果を伴っている。

 平たく言えば、同社のケーブルは、高域の損失と位相変化を最小限度に留めた、究極の低インピーダンス伝送を実現することに特化した製品であると言える。BIG GREENは、そうした「ホロウ・オーバル」を採用したケーブルの中でもスタンダードなPRO YELLOW OVALのシースをより曲がりに強い柔軟なものに交換し、プラグ・ケースもモールド成形された軽量な樹脂製のものを採用して取り回しの利便性に重点を置いた、まさにシステム・ケーブルとして最適化された製品である。まず、感じたのは、他社のケーブルに比べて、歪みの伝達能が桁違いに高いということ。中域から広域にかけての倍音の位相が恐ろしく安定しており、歪みエフェクター以降のケーブルを全てこれに換えたところ、生のアコースティック楽器を聴くようにドライブ成分のみを聴き分けることができるようになったのには驚いた。

 アタックはあざとく誇張されることもなく、あくまで、レスポンス重視と言った感じで、耳に心地良い響きを伝えてくる。ピークには際立ったエッジ感こそないが、コンプ感の少ないサラッとした音質なので、アンプからのダイレクト音はかなりフラットに聴こえるのに柔らかい弦タッチに対しても常に奥行きを感じさせてくれる。ビンテージ・タイプのピックアップとTS系ドライバーの間でバランスを量るのに、ブーミーにならない程度にピッキングの表現力を押し広げたい場合などには、こういったタイプのケーブルが役に立つ。懐の深い歪みのエッセンスを抜き出しコントロールできるこの音質への投資は、その後のギター・プレイをもドラスティックに進化させる可能性さえあることを憶えておこう。
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[BELDEN BDC 9778]

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05 ALLPARTS [BELDEN BDC 9778]

 創業より1世紀を越えてなお、楽器ケーブル界における品質、音質のリファレンス対象であり続け、多くの他社製ケーブルの素材として実績を残してきたBELDEN。その国内販売用の正規ライセンス商品としてALLPARTSが提供するエレクトリック・ギター用ケーブルの中から、60年代〜70年代の音質を再現できるという触れ込みの#9778を使用したパッチ・ケーブルを試してみた。

 コンダクターが18AWGの#9395と比べて、こちらは20AWGとやや細く、同じ1芯構造のケーブルとしては柔軟性を要求されるパッチ・ケーブル向きなのはアナウンスされる通り。柔らかく、捻れにもそこそこ耐えられる素材として各所の絶縁体として用いられるEPDM(エチレン・プロピレン・ジエン・モノマー・ゴム)のインシュレーションはやはり安心感があり、加工もしやすく、自作派にも重宝されるのがよくわかる。音質は、同じ高導電性錫メッキ銅の芯線を持ちながら、若干#9395よりも高域に重心があり、スタンダードな#8412よりはフラットな音質と言ったところか。ロー・エンドの張りがある#8412、ピッキング・ニュアンスが出やすいガッツのある音質の#9395と比べて今ひとつメリハリのない音にも思えるかもしれないが、この一見“無表情”な個性が、あらゆるインピーダンス特性や音量、歪み成分の増減を受け止めた時、特定の領域を突出させてしまわないための音質としてあえて平均化されていると考えると、その存在価値は大きく変わってくる。そう、この#9778こそ、「破綻しない音質」として設定された希有な導電素体なのである。

 なるほど、高域がギラつくアッパー・ドライブから、深いディレイのかかったディープなクリーンに切り替えても、全く定位は揺るがないし、ブーミーになる帯域もない。ギター側のトーンの変化にも、多少の低域の痩せ感は伴うものの、むしろワイド・レンジをうたったシールドよりもデッド・スポットが遥かに少なく感じる。ハイ・ミッドの質感は常に乾いており、システムの深い場所でもしっかりと押弦のフィーリングを残せるので、空間系の重ねがけでアタックが平たくなってしまうことがないのも嬉しい。ラック・システムの裏で1〜2mクラスのパッチを引き回す際にも、中心の揺るがない軽快感を伴ったこのチューニングは武器になる。
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[PP] 写真:(株)ワタナベ楽器店  京都本店

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06 DAVID LABOGA [PP]

 国内ではあまり見かけないが、ヨーロッパを中心に、今、世界で注目を集めているポーランド発のハイエンド・ケーブル・ブランドDAVID LABOGA。“Perfection Series”は、共振やマイクロフォニックを抑制するダブル螺旋巻きシールドを擁する直径7mmのケーブルを採用し、芯線にOFC(無酸素銅)を持つG&Hプラグ(他社製のものはブラスが多い。ブラス製のものよりも導電性能が高い)を組み合わせるというこだわりの構造を持つ同社のスタンダード・ラインで、半田にも高域特性が得やすい“4% fine Silver”をブレンドするという、楽器用ケーブルとしてはかなり贅沢な仕様を持つ。

 持ってみるとわかるが、少しキシキシする手触りで、よく曲がるが、表皮以外にそれほど弾力がなく、しなやかに編み込んだムチとでも言おうか、ちょっと独特の“鞣した”様な高級感があるのが特徴のひとつだ。出音は、かなり強烈なオープン・サウンドで、ひたすら音がデカく明瞭といった印象だ。また、ケーブルには方向性が付けられているが、かなりの大音量でクリーンの場合のみ、順送ではやや疾走感のある低域を感じる気がする……かもしれないという程度の違いしか感じられなかったので、この仕様に関してはあまり過度の期待はしない方が無難だろう。コンプ感はほぼないのでさらりとしているかと思えば、意外にも中域にワイルドな音圧が宿っており、歪みを入れてやると粘っこく丸いエッジが出てきて、カッと熱を帯びたかと思えばすぐに横に広がって消える。分離は良いのに、音自体はパワー重視でシンプル……という、なんだか不思議なバランスを持っているが、そのややオーバー・スペック気味なチューニングもしっかり使い切る形で、まとまった出足の推進力だけを集中的に稼いでいるところに、むしろ好感が湧く。エレキ・ギターにとっては、素直に良い音だと言って良いだろう。

 ずいぶん回りくどいパワーの出し方にも見えるが、このやり方でしか得られない音像というものがそこには存在しているのも確かだ。このケーブルを通すと、本来ギターのスピーカーではスポイルされてしまうであろう、ハイもしくはロー・エンドの“香り”を感じることができると言うのは、少し大げさだろうか。いつもは届かないが、何かの拍子にほんの少し顔を出す一瞬のピッキング・ニュアンスを逃がさないために、常にクリーン・ブースターを踏みっぱなしにしている様なプレイヤーには、このケーブルの価値がよくわかることだろう。
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[PW AMSPRR 105]

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07 Planet Waves [PW AMSPRR 105]

 プライベートなストラップ・メーカーとしてスタートし、後にD’Addario旗下のアクセサリー部門として数々の独想的なアイディアの実現により急成長を遂げたPlanet Waves社。現在、その主力のひとつとも言うべきフラッグシップ・ギター・シールドに“American Stage Series Instrument Cable”があるのだが、その性能をそのままパッチ・ケーブル・サイズの6インチ(15.24cm)にしたのがこの“American Stage 1/4”Patch Cable,6 inch”である。

 キャパシタンス(静電容量=この場合、絶縁体などによってケーブル内に電気を蓄えてしまう度合いのことを指す。理論上ではこの値が低ければ低いほど高域を保つ割合が強いと言えるが、それが必ずしもギター・シグナルにとって「美味しい」音になるかどうかは別である。この値の設定がケーブル・チューニングにおけるひとつのポイントとなる)が28 pF/ftという、エレキ・ギターにとってその特性を生かしやすい導電能力(同社はこれを「トーンのスウィート・スポット」と呼ぶ)を持つこのケーブルは、プレゼンスを最大限に引き出しながら、中域が高域のレンジに埋もれてしまわない絶妙なトーン・バランスを発揮する。

 パワー感と繊細さの両立が際立つその音は、パッチ・ケーブルのみの長さだとやや悪目立ちしてしまいがちだが、一旦、エフェクターや長尺のシールド・ケーブルで挟まれたシステムの中に埋もれてしまえば、特に接点や距離で失われがちなハイ側全体の躍動感を“高止まり”させるのに絶大な威力を発揮する。ロー・エンドはさすがにシステムが巨大化すればするほど多少倍音成分がマスキングされマットな音質になってしまうものの、トータルで15mを越えるような複雑なシステムにおいても、エフェクターを数個しか使わない小システムとほとんど変わらない高域の鮮烈なエッジ感を得られるのは驚異。明らかにシングルよりはハム、そして歪みものに適性のある音質で、モダンなディストーション・サウンドにありがちな1kHzをややオーバーしたあたりの帯域が非常にスッキリとしており、歪みが強くても分離の良い、どちらかと言えばハイファイな傾向が目立つ。色気はないが、ガッツがあり、痛快なサウンドといった印象か。

 Neutrik社製プラグ特有の、チップ部のくびれが長めに作られた接合部──「GEO-TIP」による信号リレーは非常に安定しており、ジャック側の受け舌が短いものにはTipが“面”で、長いものには2点で接触するという、噛み合わせに優れた機構になっている点については素直に喜びたい。また、独自の「IN-LINE Solder Joint構造(プラグとの接合にシールド線を束ねず、編み線の形状を保ったまま広く半田で固定する方法)」により、かなり引っぱりや捻れ、そして振動にも強いので、長時間のツアー移動などでも半田剥がれなどのリスクが少なく安心だ。元々はシールドなので多少シースの硬さはあるものの、このラフに扱える無骨さを、ワイルドなサウンドとともに自らのボード構築に利用したいユーザーは決して少なくないはずだ。
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[P203]

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08 Providence [P203]

 蓄積された実践データと熟練の職人による厳しいヒアリングの結果を元に、常に現場目線のニーズに合致したプロダクトを提供し続けてきたProvidence。中でも、プロフェッショナルなルーティング・システム製作に定評のある彼らのこだわりが、そのパッチ・ケーブルの品質を見るだけでいかに妥協のないものであるかを知ることができるだろう。

 Platinum Link P203は、よく一般にあるシールド・ケーブルをショート・カットして制作されるものと異なり、それ自体がボード・システム等の近接、密集した環境下におけるワイヤリングに特化した、局地的な仕様を備えた「パッチ専用」の製品であることをまず認識しておく必要がある。製品を一目で見分けるあの藤色のカラーリングを施されたシースは、他のシールドや電源ケーブルとの差別化を図り、トラブル箇所の発見や交換を素早く行なうための目印になっている。プラグも軽量コンパクトに改良されたスペシャル仕様で、特にLプラグは同社オリジナルの91度設定を採用しているため物理的にデバイスとケーブルの距離を稼ぐことができ、また、ジャックそのものにかかる負荷を大きく減らすことに貢献している。そういったリアルな“使うこと”に対する意識の高さこそ、そのクオリティをして同ブランドの製品に一貫して加味されるプロ・ユースなクオリティを保証していると言えるだろう。

 ケーブルはコンダクターを保護する絶縁体に、ノイズに強いNAP ELASTOMER材と柔軟性を追求した特殊なポレエチレンを組み合わせた積層インシュレーターを採用し、曲げやすく、誘導ノイズにも耐久性のある非常にバランスの良い取り回しを達成している。音の印象は、予想通りノイズレスもそうだが、とにかく、ストレスのない、立ち上がり重視な音と言った印象だ。ケーブルが短いからかもしれないが、800Hz付近を中心に緩やかな丘が感じられ、上は通常の1弦の音域をカバーする1kHzあたりまでかなり密度があり全体的に音量もある。過剰にレンジ感があるわけではないのに、ピッキングの強弱に反応するダイナミクスのロケートが、ビンテージ・テイストな弾力感と抜けの良いハイ・ミッドのきめ細かさの間を自由に行き来しているのが良くわかる。

 倍音があまり派手になり過ぎないので、ドライな音よりも、常にディレイがかかっている様な環境の方がその音楽的な特性が出やすい。それはすなわち、システムの後段にあっても常に“ユーザーが意図した伝達性能”を発揮するケーブルであることを意味する。決してフラットではない、そして、ハイファイ過ぎることもない。それなのに、ギター・シグナルが欲している正しい音を常にフォーカスしてくれる力学の中に性能がきちんと収まっている。そのバランスだけが、システム・ルーティング上の音質変化を、「劣化」ではなく「プラス」の要素として確実にペダル・ボードの中で積み上げることを可能にするのである。P203とは、そういったパッチング・システムによって生じたフィードを音楽的な“力”に変えることのできる、数少ないケーブルなのだろう。
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[KLOTZ Patch Cable] 写真:クロサワ楽器 デジマート店

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09 Custom Audio Japan(CAJ) [KLOTZ Patch Cable]

 ギター・サウンドにおけるシグナル・ルーティングの体系化を成し遂げた「CAE(Custom Audio Electronics)/ボブ・ブラッドショウ・システム」──その理念を日本国内でいち早く実践し、今も尚、多くのプロフェッショナルな現場で信頼を得続けるCAJ(Custom Audio Japan)。その彼らが、ドイツのメジャー・ケーブル・メーカーであるKLOTZ社のケーブルと、新たに開発したオリジナル・プラグを組み合わせて、システム用パッチ・ケーブルとして完成させたのがこの“CAJ KLOTZ Patch Cable”だ。

 このケーブル、マイクロフォニック・ノイズ対策でもあるポリ塩化ビニル(PVC)皮膜を大胆に削減したことにより、直系4mmという省スペースを達成するという優れもの。サイズ的にはGeorge L’s .155に匹敵する細さだが、その柔軟性による取り回しの良さは、圧倒的にCAJ KLOTZのほうが勝っている。元来、頑強に固定されるべきパッチ・ケーブルでは、ギター・シールドなどが動くことによる帯電が原因で誘発されるマイクロフォニックへの懸念は、ペダル・ボード上ではさほど優先されるべき課題ではないことを実証してみせた、CAJならではの英断がここにはある。

 しかもそれは、PVC素材を多用することによる副作用として知られる意図しないキャパシタンスやインダクタンスの上昇を減少させ、圧倒的なワイド・レンジ……特に高域の潤沢な再生に貢献するという二重の恩恵をもそのサウンドにもたらしている。ロー・インピーダンス下ではどの帯域も非常に抜けが良く、特に、コンプ感のないモダンな低域の直進性は今までのCAJのケーブルとは比べ物にならないくらいイキイキとした躍動感を生んでいる。しかも、アタックを中心としてかなり芯を感じることのできる音質なので、エフェクター乗りは抜群。モダン・ドライブ+オクターバーといった突っ込み系の発色は派手に稼げる一方で、ピーキーなデジタル系モジュレーションも余裕で受け止める広角なダイナミクスも持ち合わせ、システムが長くなることでいちいち感じていたフィーリングの頭打ち感……「フィルター感」のようなものが全くないのが嬉しい。

 それでも、シールド自体はしっかり密度のある編み込みがなされているようで、電源ケーブルやパワー・サプライにかなり接近させても目立ったノイズは発生しなかった。スタイリッシュなオリジナル・プラグは重量はそれなりにあるが、かなり頑丈な作りで、Switchcraft製の径を参考にしているとアナウンスされている通り、プラグの接触部はヨーロッパ製のジャックにもかなりがっちりと嵌合(かんごう)していた。また、このオリジナル・プラグ内部には強固な“かしめ”があり、半田やチューブの強度に頼らずしっかりとケーブルを固定できるのも個人的には評価したい仕様だ。システム・ケーブルとしての正しい進化により、音はもちろん、普段見過ごされがちな安全で確実なルーティングに貢献するCAJのケーブル。今後も国産スタンダードの規範として注目されることは間違いなさそうだ。
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[OPREX]

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10 Ex-pro [OPREX]

 ギター・システムまわりの信号伝達におけるソリューションに関して、コンシューマー・ユーザーが入れることのできる最高クラスのスペックを提供することに執念を燃やし続ける純国産ブランドEx-pro。元々は高品位なワイヤレスとケーブルによって業界で名を挙げたメーカーだけあり、パッチ・ケーブル市場においても、同社のトレード・マークとも言える極太ケーブルを用いた“PC”シリーズの音質が好評を得ていたことは周知の事実だろう。しかし、その“PC”シリーズが生産終了となったことを受け、次にEx-proが掲げたのは、徹底した「ハイ・コストパフォーマンス」への挑戦であった。

 これまでの製品が、クオリティを犠牲にするロー・コスト化には目もくれず、音も機能も妥協なきレベルに達するためにはコスト高もやむなし──言い換えれば、価格は高くともそれがEx-proの品質を担保する様な方針を長年貫いてきただけに、今回の挑戦は様々な意味で、同ブランドの理念が新しい段階へと踏み出す試金石となっていることは確かだ。OPREXラインは、コンダクターやシールド線の密度、絶縁体の厚み、オリジナル・プラグの成形などを極力既存のEx-pro品質から継承しつつ、音に直結しないマテリアルへの印刷やパッケージの簡略化によって生産工程を見直しコスト・ダウンをはかった同社ケーブルの新規格である。現行のOPREXパッチ・ケーブルであるOPシリーズの直径は、PCシリーズの6.8φ(68mm)にせまる6.3φを維持し、プラグ・キャップは黄銅削り出しタイプでこそなくなったものの、サイズ・ダウンに成功したことで全体として堅牢性を維持したまま柔軟性と可搬性のバランスの取れた仕様に仕上がっており、狭いボードの中で配置するには格段に扱いやすくなったことがまず上げられる。

 音質はややミドルが抑えめだがフラットな仕上がりで、むしろレンジ感はPCシリーズを上回っているように感じた。アタックがソリッド目で歯切れ良く、クリーンの和音感もよく出る。ハムバッカーでロー・ミッド感を生かしたクランチをマーシャルなどで太く聴かせたい場合や、スラップ・ベース等でコンプを効かせつつも音が“ダマ”にならない感じが欲しい人などには最適な音質だ。シースの厚みがあるので物理的な振動にも強く、スイッチャーなどを使用しているユーザーよりは、むしろ、フット・スイッチのすぐ横を走るケーブルを直接靴底でキックする可能性があるエフェクター直列派にこそ、その音質による恩恵は大きいことだろう。そして、価格は“PC”シリーズ時の約半額という破格の市場価格を達成している点からしても、クオリティ的に同ライン上の他社製ケーブルを費用対効果で凌駕していると言える。これは、消耗品として正しい“ためらわない交換”を促進させ、結果、トラブルのない真にストレス・フリーなプライベート・ギター・システム環境を構築するのに貢献している。一点に留まることを良しとしない新しいEx-pro品質の革新、OPREX。「安かろう悪かろう」でパッチ・ケーブルに失望し続けたユーザーにも、これほどの音質が手の届く範囲に来ていることを把握しておいて損はないはずだ。
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[CU-5050]

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11 Free The Tone [CU-5050]

 短期的数値計測や単体デバイスのサウンド・セレクトにとらわれず、システム全体を通じての「最終的な音質」を構築するために必要なルーティング理論を提案し続けるFree The Tone。CU-5050は、主にエフェクター間の接続を担う伝送経路において理想的なスペックを実装しながら、ただ音を素直に通すだけでなく、正しく楽器の性質が音に表れる「触媒」として機能することを目的に作られたパッチ・ケーブルである。

 「信号が変化していることを常に感じられるケーブル」とでも言おうか。通常は配線が長くなるほど埋もれがちになるピッキングのクセや弦の振動に追従する倍音の微妙な変化に対し、他の余計な音の到達点を整理することによって、真に必要な音だけを浮かび上がらせる能力がこのケーブルにはある。それは、わずかな距離ではほとんど気付くことのないほんの些細な「こもり」や「耳に痛い音質」が、システム上で何十本というパッチ・ケーブルを通過することで初めて浮き彫りになる『悪音の堆積』をしっかりと計算に入れた上で、スピーカーから音が出た瞬間やスタジオのミキサーに立ち上げた時に初めて符号が一致する様なチューニングに仕上げられているのだ。しかも、そのバランスを、アクティブなイコライジングではなく、ただのケーブルの素材の中で達成しているところにこの製品の凄さがある。極端な話をすれば、このケーブルさえあれば、ペダル・ボード程度の中で収まる様なケーブルの引き回しに対しては、ルーティングの距離やパッチング数による不容易な減退をほとんど気にせずに音を作っていけるということだ。これが、システムを俯瞰で考えるノウハウに長けたFree The Toneというブランドが求める「優れた音質」ということなのであろう。

 もちろん、システム内の全てのパッチ・ケーブルをCU-5050にすることでその恩恵を最大限に受けることができるが、予算に余裕のない人は、ボード内のギターに最も近い場所で恒久的にバッファードされた信号が来る場所のケーブルをまずこれに入れ替えてみるだけでも、その優れた効果を体感できるはずだ。その音が気に入ったら、続けてアンプのセンド/リターンやボード終端のライン・ドライバーやブースターの直前に、そしてその次に空間系まわり、最後に歪みまわりというふうに、段階を踏んでケーブルを強化するのもアリだ。CU-5050の持つ直径5mmという細身のケーブル径とその類い稀なる柔らかな構造は、そうしてすでにあるシステムのケーブルをそのレイアウトを保ったまま入れ替える際にも必ず役に立つはずだ。聴覚上フラットであったり、必要以上にオール・レンジであろうとすることには固執せず、大きなギター・システムという目線で最も有益なシグナルの構築を目指すなら、これが理想のケーブルになるのかもしれない。
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[REV 15C] 写真:chuya-online.com FUKUOKA

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12 LIVE LINE [REV 15C]

 国産ハンド・クラフト・ケーブルの老舗メーカーとして、質実剛健な耐久性に小粋な遊び心をプラスした息の長い製品群で存在感を発揮し続けるLIVE LINE。その中でも、プラグ・シャフト部に180度の範囲で任意に角度を付けられる、世界初の“P-180”プラグを採用した“REV”シリーズは、今までのパッチ・ケーブルの常識を大きく覆すアイディアが評価された、業界でも話題の逸品だ。

 パッチ用にわざわざクランク・タイプ(ケーブルを伸ばした時に、両端のLプラグの向きが逆になっているもの)のラインナップを用意しなくても済む自在プラグのアイディアは今までもいくつかあったが、やはり耐久性と絶縁の問題でなかなか大手メーカーですら実用化に至らなかった経緯がある。しかし、REVシリーズを見てみると、プラグの継手部分の動きは実にスムーズで、隙間もほとんどなく、強度的にも全く問題はなさそうに見える。稼働部の中ではわずかなりとも絶縁体がこすれるはずだが、角度を変えることによってガサゴソと余計なノイズを出すこともなく静粛だ。しかも、ジャックにかかる負担をほぼ気にすることなく最短距離の斜め配線を組めるようになるので、従来30cmほどボード上を這わす必要があったケーブルが、20cm〜25cm程度で済むこともザラだ。パッチ・ケーブル1本ならその差も大した意味を持ちはしないが、それがシステム全体に及ぶとなると、トータルで節約できるケーブルの距離も馬鹿にできないものになってくる。

 実際使ってみて、この新設計のプラグが、図らずも「伝送ケーブルは短いほど原音を維持しやすい」という物理法則に適った、より効率的なスシテム・ルーティングを達成するのに貢献していることを認識できたのは収穫だった。特に、インターフェイス部にケーブルの重みがすべてかかるラック機器の配線では、ジャックから遠い支点で垂直にかかる“テコ的負荷”により機材を傷めやすいストレート・プラグよりも、この稼働プラグによる支点の近い負荷配分が有利なことは言わずもがなである。他にもペダル・ボードなら、落とし込みタイプのボードの外枠付近での配線時や、底板の下に線を通すPedaltrain等では、ケーブルの侵入角における自由度において十分に効果を発揮してくれることだろう。

 REVシリーズに用いられる線材は、高密度なシールド構造を持つ直径6.3mmというやや太めのケーブルを採用しているが、こちらも見た目よりもかなり曲がり具合が良く高級感がある。しかも、このスリーブのキャップは同社Advanceシリーズのギター・ケーブルと同様にアルミ部分のカラー・パーツを好みで入れ替えることが出来るので、無機質なボード内にカラフルな彩色も持ち込みたいユーザーにもぴったりだ。その音はロー・ミッドに重心のあるパンチの効いた透明感が引き立つサウンドで、実に老舗らしい“真面目”な音質であるのも、アバンギャルドな見た目とのギャップが実に面白い。国産ケーブルの匠がついに辿り着いた全く新しいパッチ・ケーブルの世界……一度覗いてみれば、きっと思いもしなかったルーティング・ワークの可能性を見せつけてくれることだろう。
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[VA Patch]

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13 Vital Audio [VA Patch]

 プロフェッショナルなスタジオ機材を多く取り扱う株式会社HOOK UPが、高度な信号管理を行なうレコーディング現場で得たノウハウを楽器用ケーブルに取り入れるべくスタートした自社ブランド、それがVital Audioである。ギターの再生能力からすればもはやオーバー・スペックでしかないピュア・オーディオの最新技術を惜しげもなく投入しながら、ローファイな楽器特性に合わせた“押し出したい音”に見事にフォーカスしていく彼ら独自のディレクションは、この四半世紀の間にすっかり国内ユーザーからの支持を獲得したと言っても過言ではなかろう。

 VA-Patchは、現行のVital Audio製ギター・ケーブルの中堅層向けコストパフォーマンス・ラインであるVA-IVケーブルのサウンドを踏襲した、システム用パッチ・ケーブルだ。VA-IVは、これまで恐ろしく汎用性の高いワイド・レンジでハイファイな音質だった同社の高級フラッグシップ・ケーブル達とは異なり、最初からエレクトリック・ギターやベースの再生専用に開発されたVital Audio製2601 OFCケーブルを採用したことで、叩きノイズやマイクロフォニック対策を強化しつつ、分厚いミッド・レンジを心地良く再生するための性能を付加されたモデルである。それと全く同じケーブルを使用するVA-Patchもまた、プレゼンスが耳に痛く感じる部分を綺麗に抑え、真ん中の帯域を中心に心地良くレスポンスを強調するように働いているように感じた。

 元々、明確な意図をもって音色のニュアンスが出るようにチューニングされているケーブルなだけあり、システム内に置かれてもピッキングのフィールが埋もれてしまうことがない。それでいて、元々の同ブランド製ケーブルの広大なダイナミクスも受け継いでいることから、VCA系モジュール等による発振や位相反転によるピークの圧縮にも強いという、他社のケーブルとはまたひと味違う特性を持ち合わせている。オススメの使い方としては、ラック・エフェクターなどのWetサウンドのみを送るライン、もしくはエフェクト・リターンに対してピン・ポイントで使用する方法を試してみるとよい。そうすることによって、ミッド・レンジに特化したエレキ・ギターらしい押し出しを持つ一方で、再生能ではオーディオ・クラスの懐の深いトランジェントを維持するという、全方位的なそのポテンシャルを一端なりとも垣間見ることが出来るだろう。エフェクトの効果が多様化する現代において、こういったケーブルが存在することは非常に心強い限りである。
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[QAC 222G]

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14 NEO by OYAIDE Elec [QAC 222G]

 国内最大の電気街、秋葉原に根を下ろし、半世紀以上にも渡って電気・電線機器関連の小売を通じて成長を遂げてきたオヤイデ電気が、2008年に立ち上げたオーディオ・ケーブルの専門ブランドNEO。このブランドには、かつて、日立QAXというシールドに使われていた希少な導体「LC-OFC(線形結晶無酸素銅線)」を自社で再生産したものを使用したQAC-202という汎用ケーブルが存在した。しかし、2013年に再生版「LC-OFC」も生産が終了したことを受け、QAC-202に変わるケーブルとして生み出されたのが、より広範囲なレンジ特性と高い音圧をカバーする新線材「HC-OFC」を採用したQAC-222である。そして、その「HC-OFC」で構成されるQAC-222のコンダクターにアニール処理(電気炉で素体の応力(歪み)を除去する処理のこと)と呼ばれる特殊な熱加工を施し、ギターに必要な帯域密度の上昇と、さらに、パッチ・ケーブルとしても転用可能な柔軟性を同時に持たせたのが、今回紹介するQAC-222Gだ。

 鮮やかなスピード感と、ハイ・ミッドの豊かな情報量により、とても“据わりの良い”音がする。しかも400Hz前後に緩やかな山があり、ビンテージ・テイストな暖かいニュアンスが常に前に出てくる。半田に銀4.7%、銅1.7%を含む4Nクラス高純度錫のOYAIDE SS-47を使っているせいか、出音に艶かしい粘りと程良い“雑味”が加味された、実に有機的な色彩を感じられるのも特徴のひとつだ。こういうケーブル音色には、トラディショナルなゲルマ・ファズなどの歪みがよく似合う。また、古い整流管を使ったアンプのサグの中に、空間系のエフェクトを中和させたい場合にも良い橋渡しの役割を果たしてくれるだろう。

 通常のギター・シールドとしても申し分のない性能を発揮できるQAC-222Gは、2芯構造のケーブルであることを考えれば、様々な応用が考えられる。中でも、システムの先端にトゥルー・バイパスのエフェクターを置きたい場合に、そのすぐ後ろにこのパッチを繋いで、ハイ・インピーダンスとロー・インピーダンスの混合環境にも対応可能な広角な導電体として使うのが最も効果的だろう。また、個人的には、アンプ内部の線材としてもそのまま使ってみたいと考えてしまうほどに、このケーブルには独特の立体感と出足の鋭さが際立っていたことにも触れておきたい。Tip、Gndともに真鍮削り出しの一体構造を備えるオリジナル・プラグといい、ケーブルを構成するエレメントのひとつひとつが、長い歴史の中で積み上げてきた音への取り組みを物語っているように思えてならない。まさに洗練の極みとはこのことだ。こういうケーブルがシステムの一部にあるだけで、プレイヤーの“音楽”そのものが強く加速していくことだろう。
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[Arena Jr.]

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15 Montreux [Arena Jr.]

 楽器関連のアクセサリーやパーツの輸入業務とともに、質の高いオリジナル・プロダクトを展開するMontreux。その中でも、妥協のないプロ・クオリティと低価格で高い評価を受けるケーブル部門「Montreux Premium Cable」に属するラインナップに、同社のパッチ・ケーブルのシリーズArena Jr.はある。

 まず手に取って驚くのは、そのコンパクトさだろう。直径5mmを切る細さのケーブルがあの有名なロンドンはアビーロード・スタジオにも自社製品を卸している英国Van Damme社製なのにも驚かされるが、特に、それと組み合わされるMontreuxオリジナル・プラグの小ささは凄い。おそらく汎用パッチ・ケーブル用のプラグとしては、世界でも指折りの小ささに違いない。あの「たいやきプラグ」として有名な平型プラグSwitchcraft 228よりも、さらに軽量、省スペースであるだけでなく、ハウジング自体がブラス削り出しの1ピース構造を持つため、強度も228とは比べものにならないくらいハイ・レベルで、全てにおいて信頼性が高い。使用されているVan Dummeケーブルは、フラッグ・シップであるArenaシリーズと外皮の厚みが違うだけの同等品で、コンダクターには銀メッキOFCを含有した撚り線を用いるなどさすがの高品質だ。いずれにせよ、1mm単位のスペース確保がカギとなる現代のボード事情においては、どんな使い方をしてもこの上ない機動力を見せつけてくれるに違いない。

 音は、低域がクッキリと出るタイプながらレンジ同士の定位バランスに優れ、面に張り付く様な引き締まった音質を持つ。ピッキングに対する反応はどちらかと言えばタイトに聴こえるが、それはアタックの輪郭が破綻するほど大きく突出しないというだけで、ケーブル自体はまるで生きているかの様に隙間からこぼれ落ちそうな音も丁寧にすくい上げてくれる印象だ。特に歪ませるとわかるが、一度音を出すと倍音の裾野がずっと平行に広がっていて、遠くの帯域まで滑らかに連続しているのが良くわかる。ピュア過ぎもせずフラット過ぎもせず、ただひたすらにきめ細かく穏やか……そういう傾向に向かって音を作ることを得意とするケーブルのようだ。野太いロックンロールには少し使い辛さがあるかもしれないが、クリスタルなクリーンを多用するジャズなどでコーラスの艶やかさを見せつけるには最高のサウンドだろう。

 また、カウンター的に、コンプを効かせたアグレッシブなヘビィ・リフに対しても、巻き弦のクールなグラインドがハッキリと聴こえてきてイカツさが際立つ結果が得られた。欲しいものをきちんと選り分けて音にする力を持つ、省スペース・ケーブルの切り札、Arena Jr.。今後、合理的にシステムを成長させたいなら、この選択肢は常に頭の中に置いておくことをお勧めする。
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エピローグ

 今回の『パッチ・ケーブル』特集、いかがだっただろうか?

 なかなかそれ単体で詳しく評価されることのない製品ではあるが、調べてみるとメーカー既製品だけでもかなりの数があることがわかった。今回、リサーチはしたがリストに上げなかったものだけでも、HEXA、weed、EBS、The NUDE CABLE、KIKUTANI、Selva、CONQUEST、MXR、Silk Road……コンポーネントものやメーカー不明のバルク品なども合わせると、国内で手に入るものだけでも現行品で軽く50種類以上がひしめいている。今回はデジマートの在庫の関係で掲載を見送ったが、私もよく使うColossalのBrooklynパッチやLAVAのMini Coil、ORB J7なども非常に質の高いパッチ・ケーブルだ。高級シールドやギターの配線材などのビンテージ・ワイヤーに凝ったとしても、システム内のパッチひとつで求める音のピントがぶれてしまうことなどいくらでもある。どんなに良い靴を履いて出かけても、途中で泥水に足を突っ込んでしまえばその行く先々では歓迎されないということだ。

 また、今回メーカー品を調べてみて特に目を惹いたのは、プラグと線材を結びつける半田の材質の多様さについてである。さすがに量産品にビンテージ半田らしきものを大量に使っているところはなかったが、それでも、銀、胴を含有した半田などはかなりバリエーションが多彩だったし、鉛の入った半田も(おそらくわざとであろうが)まだまだ現役だったのには驚いた。本文では字数の関係であまり詳しくは触れなかったが、メーカー産のものはホットとグラウンドで半田の種類を分けているものも少なくなかったし、半田付けの手法そのものもかなり個性があって面白かった。強度や信頼性のことを考えるとまだまだソルダーレス・ケーブルには到達できない領域があり、半田の種類や付け方でケーブルの音そのもののチューニングにも何らかの影響があることは確実だろう。それがメーカーの個性にもなり、ひいては既製品パッチ・ケーブルの「付加価値」を生んでいることもまた事実である。ケーブル自作派ユーザーにとって、既製品のパッチ・ケーブルに使われている半田を研究することは、時間を割くだけの価値が十分にあるということはお伝えしておこう。数種類のパッチを同システム内で併用した効果や、特定のパッチを使う場所によって起こる音色の変化など……パッチ・ケーブル、まだまだ奥は深そうだ(室長が実験してくれないかな 笑)。

 それでは、次回5/11の『Dr.Dの機材ラビリンス』もお楽しみに。

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パッチケーブル

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プロフィール

今井 靖(いまい・やすし)
フリーライター。数々のスタジオや楽器店での勤務を経て、フロリダへ単身レコーディング・エンジニア修行を敢行。帰国後、ギター・システムの製作請負やスタジオ・プランナーとして従事する一方、自ら立ち上げた海外向けインディーズ・レーベルの代表に就任。上京後は、現場で培った楽器、機材全般の知識を生かして、プロ音楽ライターとして独立。徹底した現場主義、実践主義に基づいて書かれる文章の説得力は高い評価を受けている。

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