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- 2024/11/16
〜配線材実験〜
今回の地下実験室では、ギター内部の配線材を替えると音がどう変わるのか?を試していきます。今回はシンコーミュージック『THE EFFECTOR BOOK』さんなどへの寄稿でお馴染みのあのマニアの協力を得て、底なし沼の如くディープな内容となっております。前半は音の違いがわかりにくいかもしれませんが、後半にやう゛ぁい配線材が続々出てきますから、どうぞ覚悟してご覧ください。
ギター内部の配線材を替えると音が変わる──そんな話は、ずいぶん前から聞いていました。しかし実際に試す術もなく、放置していた案件だったのです。地下も26階まで潜ると、なかなか良きネタが見つかりません。うーん……唸るばかりで日々は過ぎていきました。そんな私を見るに見かねたデジマガ編集部のW氏が声をかけてくれました(いつもの鬼の編集長W氏とは別人です。こちらも、ある意味で鬼ではありますが違うタイプの鬼なので、便宜上、編集長W氏=赤鬼、もう一人のW氏=青鬼とさせていただきます)。
青鬼 「室長、ずいぶんお困りのようで……。ならば、あの方を紹介しますよ」
私 「(放心)……へ? あの方って?」
青鬼 「室長も聞いたことがあるでしょう? ホソカワさんです!」
ホソカワさんって、国内屈指のエフェクター愛好家として有名で、「ギター・マガジン」や「THE EFFECTOR BOOK」でも健筆を振るっている、あの細川 雄一郎さん? であれば面識はありませんが、もちろん知っていますよ。なにしろ年間3,000台以上(!!!!!)のエフェクターをチェックしているというお噂。恐ろしい……。お会いできるなら光栄ですが……とつぶやいた瞬間、私は赤鬼&青鬼に両腕を掴まれ、後ろ手に鎖を巻かれ面談の場に連れて行かれたのでした。
私 「は、初めまして。早速ですが、例えばトランジスタを交換して音質の差を確かめるなんてネタは、どうでしょうか?」
細川氏 「ああ、それはTHE EFFECTOR BOOK最新号でやっていますし、それより違いがはっきり出るのは、配線材ですね。あれははっきりと変わりますよ」
その瞬間、赤鬼が目を怪しく光らせました。
赤鬼 「交換作業は、かなり手間がかかるのでは?」
細川氏 「配線交換を楽にできる、チェック用のギターを用意できます。もちろん、面白い配線材もいろいろと用意できますよ!」
ぢっ、地獄に仏! 大きく頷く赤鬼&青鬼。決まりです。まさしくおんぶに抱っこな配線材実験、始めるよー!
使用機材
◎ギブソン・カスタム・ショップ・ヒストリック・コレクション1958レス・ポール(ギター)
◎フェンダー 68 Custom Deluxe Reverb(アンプ)
◎ヴェムラム・ジャンレイ(オーバードライブ)
◎ヴァンデンハル(ケーブル)
◎アーニーボール スーパースリンキー(弦)
◎フェンダー ティアドロップ ミディアム(ピック)
◎配線材各種
※セッティングなどについて
■配線材を替えている以外、アンプ、エフェクターなどのセッティングはすべて同じです。
■ギター内部の配線材は、最も距離があり音色の違いがわかりやすそうなトグル・スイッチ〜アウトプット・ジャック間の配線材を交換しています。
■配線材の長さは約35cmに統一しました。両端をワニ口クリップでつなぐだけで交換できるよう、レス・ポールを改造してあります。
■事前のチェックと検討の結果、違いがわかりやすいようフロント・ピックアップの音を選択し、ごく軽くペダルでクランチにしています。アンプのEQのセッティングはフラット(すべて12時方向)で固定しています。
■今回はルーパーが使えないので、手弾きです。極力同じように弾いていますが、多少の差異が出てしまうことをご了承ください。
■配線材の選定は、楽器店の店頭で買いやすいモノや、細川さん秘蔵品、さらには自作モノなど、雑多に集めてみました。
■今回も、大量の配線材が登場します。動画を一気に見ても、何が何だかわからないかもしれません。一時停止をしながら記事を観る、先に記事をひと通り読んでから興味のあるところを拾って観る、などが個人的にオススメです。
■本企画では、動画再生の際、モニター用ヘッドフォンの着用を推奨しています。
もともと付いている配線材をアップグレードするとどうなるか、市販品を中心に交換してみました。その前に、デフォルトの音、つまりギブソンが純正で採用している配線材の音を聴いてみましょう。はい、実にギブソンらしいまろやかな音です。この音は聴き慣れているせいか、私は好きです。この音が果たしてどう変化するのか? 早速、配線材を替えていきます。
定番のベルデンです。音を出してみると……おっ!? 下の膨らみが、すっきりしました! よく言えばタイトになった、悪く言えばローが出ないということでしょうか。1〜2弦あたりは明瞭度が増したように感じます。細川さん曰く「ギブソンのもとの配線材が良いことと、このベルデンは比較的スタンダードなものなので、大きな差は出にくいですね。ただ、ベルデンの傾向としてハイ寄りというか解像度は高い傾向にあると思います」。なるほどー。それにしても、この交換のしやすさ! 10秒もかからずに交換できるなんて、画期的です。次いってみましょう。
む? これはさらにすっきり? 動画の音でどこまでわかるか難しいですが、弾いた時にはパワーを感じました。当初、強く弾き過ぎたのか?と思って撮り直しをしています。収録されたのは2テイク目ですね。
「単線の傾向としては、ダイナミクスが出ます。特に高域の周波数帯がよく出るので、ピックの当たる音や指の擦れる音も出やすくなります。逆に低音はギターの場合それほど出ません」(細川さん談、以下同)
なるほどー、ダイナミクスね。だから最初、ピックを強く当て過ぎたと感じたのかぁ。納得です。では、次!
わかりにくいと思いますが、弾き手としてはほんの少し歪みのノリが良く、弾きやすい感じがしました。パッと弾いてもうまくまとまってくれるというか、PUで言えばダンカンのJB的というか……。サステインの減衰は、若干早いようです。
「素材はOFCという純度の高い銅で撚り線ですから、中域に集まる傾向ですね」
なるほど、中域が出ると気持ちよく弾けるもんなぁ。JBも中域寄りだし、私の感想もあながち間違っていないようだぞ。よし、次!
ソニック製品に使われている配線材ですね。なんだか飛び抜けた特徴(あるいはクセ)は感じませんが、パワフルなのにクリア、減衰も素直な感じの線材です。
「聴いている感じでは良かったですよ。ローもハイもしっかり出ています。比較的、ドンシャリの傾向があるのかもしれません」
こういう線材は、低〜中価格帯のギターに入れてやると“変わった!”という実感が持てるのかもしれません。
これは、クライオジェニック処理が施された配線材です。デフォルトのギブソン配線材に比べると、ロー〜ロー・ミッドがすっきりしていますね。にもかかわらず、レベルは高くなったような……。イメージではクライオ処理されると高音がカッキーンと出てきそうですが、特にそんな感じはしませんでした。
「これは、比較的ローファイな線をクライオ処理してバランスをとっている感じがします。低域がすっきりするというのは、その通りだと思います」
ふー、答え合わせをしているようなというか、試験を受けているような緊張感(笑)。概ね、低域がすっきりで正解ということでしょう。では、次。
うわー、これ、全部がクリアに出ますね。低域がしっかり出るのにダブつかない。高域もしっかりと突き抜けますし、倍音のノリもキレイ。これは違いがわかりやすいです。
「その通りだと思います。純銀ということもあるのですが、オヤイデさんの導体の表面の磨き方がいいんですよ。高周波は導体の表面を通るので、そこが荒れていると高域が落ちたりして、クリアにならないんですね」
弾いただけでは絶対にわからない情報ですね、さすが、ありがとうございます。でも、これだけクリアになるならなぜギター・メーカーはみんな、これを採用しないんでしょうか?
「価格が普通の線材の10倍くらいから、という感じになりますからね」
な、なるほど。それはお高い。でも、お高い音していました。ここまでで、最も違いがわかりやすい線材でした。ちなみに線径は0.5mm=約24AWGです。
ここでは、太さのみ異なる同じ配線材で、サウンドの違いを比べてみます。AWGというのはアメリカのワイヤー・ゲージの規格で、数値が小さくなるほど太くなります。ですから、細いものから太いものへ変えていき、音の変化をチェックします。
22AWGを日本の規格で言うと0.3SQということになるらしいのですが、余計にわからなくなるので、直径0.644mmと考えてください。ここではこの音を基準により太いものを比べていきますので、この配線材自体へのコメントは差し控えます。
18AWG、1.024mmです。低音のあたりでやっぱり音が太くなっていますね。
「線径が太くなると上も下も出やすくなるのですが、これはわかりやすくはっきりとローが出ていますね。配線材はより太いものを使うと、その特徴がさらにはっきりとします」
なるほど。それで、はっきりと違いが出るんですね、納得。
16AWG、1.291mmです。これは、太い! やはりさっきの18AWGの延長上で、さらに太くなったという感じですね。配線材は、太ければ太いほうがローは出る傾向にある。詳しい方は「当たり前、常識だ」と思うかもしれませんが、こうして動画で確認する機会はなかなかないので、私自身はいちいち「はぁ、なるほどねぇ」と独りごちる次第です。
マニアの間では評価の高い“ビンテージ配線材”ですが、その実力はどうなのでしょうか? これもチェックしてみましょう。
1950年代のベルデンだそうです。もともとは明るい傾向があるというベルデン、古いものはどうなのでしょう? ほう、音のバランスの良さはデフォルト線材に近く、そのまま少しパワーを無くしたような感じでしょうか。高域はなんというか、軽やかに響くんですけど粘りも感じられて、ビンテージ・ギターを弾く時の楽しさが少しあるような気がするのはプラシーボ効果でしょうか(このあたりの感覚は、比較用のフレーズ収録後に少し自由に弾いて感じたものです。動画のフレーズだけで皆さんが同様に感じるかはわかりません)。
「ビンテージだから違うというよりは、モノによって変わる部分のほうが大きいのですが、ビンテージ配線材の傾向を強いて言えば、高域がうるさくないというのはあります。ちゃんとハイは出ているのですが、うるさくないんですね。ベルデンはビンテージでも現行でも明るいのが特徴です。これもハイ・ミッドあたりにピークがある感じですね」
ちゃんとハイが出るのにうるさくないというのは、ギターとしては理想的ですね。他のビンテージ配線材も試してみましょう。
60年代のウエスタン・エレクトリックです。これ……個人的にすごく好きです! バランスが良く、高域がはっきりして艶が感じられます。ギブソンのフロントが好きで、でもこもった音ではなく高域がはっきりしていて欲しい私にはもってこいの配線材で、とにかく弾いていて気持ちいいです!
「ウエスタン・エレクトリックの線材は高域の周波数特性が良く、決してオーディオ・メーカーではありませんが、オーディオ寄りの音なんですね。さらにこのブラック・エナメルで絶縁してあるタイプは、艶が出やすい傾向です。それがないと、明るいだけになっちゃうのですが」
ほおお、そうなんですね。これはいいなぁ。
こちも同じウエスタン・エレクトリックですが、なんと1910年代のもの。100年前ですよ! もちろんこの世にまだエレクトリック・ギターはありません。いったいどんな音がするんでしょうか? ああ、思ったより、パワーがありますね。ローのもっこり感、全帯域の極太感、誤解を恐れずに言えば、リイシューの銀パネがツイード・アンプになったような感覚です。
「これはたぶん、大きなコイル、例えばトランスやモーターなんかを作るためのワイヤーだったんでしょうね。特徴は全然ロスがないこと。どこの帯域も減らないで全部出る、ただ、高域の痛いところだけが出ないという素晴らしいもので、実にビンテージ・オーディオ的です。現代のものと比べて遜色がないですね。私が所有している線材の中でも随一の音色です」
これは、音の太さではNo.1ではないでしょうか。ビンテージ線材、恐るべし!
配線材というものは、同じものを複数本撚ることでその傾向が強まるそうです。太い音のものを撚るだけではブーミーになってしまいますし、明るいものを撚ると、場合によっては高域がキツくなるかもしれません。そこで細川さんがビンテージ線材を選び抜き、バランスを考えて撚ったものがこれです。もう少し詳しく、この線材について聞いてみました。
「1930年代 General Electric(以下、GE)製のマグネット・ワイヤーを10本、1900年代 Western Electric(以下、WE)製マグネット・ワイヤーを2本、計12本を撚り合せて作った線材です。様々な撚り方を試した上で、最終的には2本ずつを時計回り方向にきつく撚って作った線材6本を軽く纏めるという、音色として良い結果を残した撚り方を採用しています。低域特性が良く、全帯域でフラットな特性を持つGE製の線材をメインに、高域に良い雰囲気の特性を持つWE製の線材を足すことで、素直でありながら楽器的な特性を持った線材に仕上がりました。そしてその音楽的な特性以上に、“100年以上も昔に作られた配線材”という、ロマンがある素材を使うことも重要視して作っています」
ぼーぜん。……もんの凄いこだわりです。しかしてそのサウンドは? あーーーー! これはすごい! 音の太さがあるのに、丸過ぎない! ニュアンスもはっきり出ます。パワフルだし色気もあるし、素晴らしい! もし発売されたら買いたいって人はいっぱいいると思います(私も買いますね、これは)。でも作るのは相当面倒そうですから、たぶん売らないでしょうね(笑)。いやー、本当に脱帽です。
オーディオ用線材は、ギター用とは桁違いに高価ですよね。それをギターに使うとどうなるのでしょうか?
日本が誇る金属加工メーカーもので、素材はプラチナと金と銀だそうです。た、宝物? もしウチにあったら、ドロボーがギターは盗まず配線材だけもっていくかもしれません。
「オーディオ用の線材は意外とローは出ないのですが、このオーグラインはローもはっきり出ます。なおかつ解像度が高いのが特徴ですから、アコースティック・ギター用の機材なんかに使ってもいいでしょうね」
確かに素晴らしい線材です。解像度も別格です。ただし、エロみでは細川さんの自作モノに一票という感じです。ちなみに線径は0.4mm=約26AWGでした。
いやー、素晴らしい配線材を堪能させていただきましたが、実は電気が通るものならなんでも配線材として使えるとか。へー! だったら、こんなものはどうでしょう?
これは、ただのギター弦です。3弦、0.17です。プレーン弦なので、単線ということでいいんでしょうか。そのサウンドは……あらら? これ……かなり良くないですか? 素晴らしい配線材をたくさん弾いた後なので、若干もたるというか、音のスピード感がない気もしますが、悪くないです。コードを弾いた時のレンジも若干狭いですが、このくらいまとまっていた方が録音の時は楽だったりして……。ちなみにこれはアーニーボール弦です。ぜひ皆さん、他社弦との比較を(笑)。
まぁ、これも単線……でいいんですよね。クリーニングに出したら付いてきたハンガーです。いやあノイズがすごい、音も決して良くない、でもなぜかパワーはすごくありました。音でかいです。もう少し、抜けがなぁ……なんてハンガーに言っても仕方がないのですが。これも、クリーニング店によって、音が違うのでしょうか? 全国に5名くらいいると思われる地下実験室好きの皆さん、ぜひクリーニング店ごとの比較をお願いします!
うーん、後半の配線材、すごかったですね。個人的に良かったのは、⑪〜⑭までの4本ですね。特に、弾いた時には「⑪、好きだ!」と思ったのですが、こうして聴くと、⑬が本当にすごいです。私の335には⑪が良さそうですが、シングルコイルのギターに⑬をつけた音を聴いたら、たぶん全員失禁しますね。⑫と⑭は、きっとハマるセッティングがあると思います。その時には、すごいことになりそうです。それから、デフォルトの配線材のギブソン感も、やはり素晴らしかったです。普段からそれをギブソンの音として認識しているからでしょうが、ギブソンのギターとのマッチングは素晴らしいです。元も子もありませんが、ギブソン好きは「替えない」という選択肢も大いにアリだと思いました。
いやー、それにしても今回、本当に一番凄かったのは……配線材ではなくて細川さんではないでしょうか。それでは、次回地下27階でお会いしましょう!
井戸沼尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジン・チャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。