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- 2024/11/16
Gibson Memphis & Nashville Dealer Tour 2016 Pt.6
2016年モデルは、メーカーとしての先進性を押し進めたハイ・パフォーマンス・シリーズと、伝統的なプレイアビリティを尊重したトラディショナル・シリーズの二軸で展開するギブソンUSA。同ディヴィジョンの生産体制/工場の規模感はここまでレポートしてきた同じくナッシュビルにあるギブソン・カスタムはもちろん、ESシリーズの生産拠点であるギブソン・メンフィスも凌ぐもので、まさしく圧倒的。1月よりお届けしてきたディーラー・ツアーの最終章は、1975年より40年以上に渡ってここナッシュビルからギブソン・ギターを全世界に届けてきたギブソンUSA工場について動画レポートします。
ミシガン州カラマズーで創業したギブソン社がテネシー州ナッシュビルへ軸足を移したのは1975年のこと。正確には1975〜1984年にかけて段階的に移ってきました。それ以降、多くのロック・レジェンドの腕にあった数々のレス・ポールもSGも、あの建国記念のファイヤーバードも、一時期はアコースティック・ギターや2000年まではESモデルたちも、このギブソンUSAファクトリーで作られてきました。
ファクトリーを案内いただいたギブソンUSAマスター・ルシアーのジム・デコーラ氏によれば、現在の従業員数は約450名、日産本数は450〜650本程度(※メンフィスが60本程度)と圧巻の規模感を誇ります。大型NCルーターやPLEKなどは効率面でもちろん導入しつつも、プレイアビリティに関わる面での手作業の割合やクラフトマンシップはカラマズー時代から変わることなく、さらにはハイ・パフォーマンス・シリーズに代表されるとおりここではブランドの“革新”も担ってきました。伝統と革新が同居するギブソンUSAの製造工程を部門ごとに追いましたので、ぜひお楽しみください!
こんにちは、ギブソンUSA総支配人のデヴィッド・ウィンターズです。2016年、ギブソンUSAのラインナップに長年のトラディショナルなスタイルを復活させました。加えてギターを通して最高のテクノロジーを体験していただけるハイ・パフォーマンス・ラインという選択肢を設けました。多くの皆様に満足いただけるシリーズをご用意できたと思っています。まずは日本の皆さん、どうぞ今回のギブソンUSAファクトリー・ツアー特集を楽しんでください。ここで働く素晴らしい従業員によるクラフトマンシップが、どのようにしてギターを生み出し、世界に届けていくのか、その流れがよくわかると思います。さあ、ツアーを始めましょう。
──ギブソンUSAナッシュビル工場は1975年に完成し、カラマズー工場が完全に閉鎖されたのは1984年のことと理解していますが、正しいでしょうか?
ええ、ナッシュビル工場は1975年から稼働しています。当時はカラマズーの工場も同時に稼働していました。ここでは主にレス・ポールを製造していましたが、それは工場の順調な立ち上げと従業員の訓練のためでもあったのです。時が経つにつれて製造モデルの種類も増え、80年代半ばにはほとんどすべてのモデルを製造するまでになりました。アコースティック・ギターから335のようなシンライン、ジャズ・ギターまで、ブランドを代表するモデルはすべてこの工場で製造していました。その頃はまだこの建物しかなくて、粗加工のための工場もありませんでした。その後、粗加工のための別棟を建て、さらには規模が拡大したカスタム部門のための工場も建てましたし、メンフィスのセミ・アコースティック部門やアコースティック部門も追加しました。もちろんこの工場だけでも規模は拡張しています。
──ギブソンUSAは、ブランドの革新を担っている部門ですね。2016年モデル、レス・ポールHPにはディップ・スイッチまで追加されました。
ギブソン社が常に重視してきたのは、革新性です。創業者のオーヴィル・ギブソンは、ギターやマンドリンを作るのにバイオリンの理論を応用していました。これは、当時の他の人たちとはまったく違う方法論でした。ですから、私たちは前進を続けることや、新しい技術を開発することに対して、常に情熱を傾けています。それに加えて、USAは他の部門とは異なり、よりユニークな製品を開発する特権を与えられています。過去には回路にプッシュ/プル・スイッチ付きのポットを採用しましたし、コイルタップやフェイズ・スイッチ、バイパス回路などの様々な機能を追加してきました。今年はそこにディップ・スイッチを追加したわけです。これによって、ギター内部で様々な機能が選択できます。ピックアップのタップやスプリット、組み合せ、トレブル・ブリード回路など使える機能があまりにも多いので、すべてギターの表面に出しても実用的ではないため、コントロール内部に隠してあります。トランジェント・サプレッション(※音の立ち上がりを抑える改造回路)は、DAWやデジタル・コンソールでレコーディングするギター・プレイヤーのための機能です。このように、私たちはユーザーの意見に耳を傾けて、現在の使用形態にふさわしく、しかし壁に飾った時には誰もがそれとわかる象徴的なレス・ポールを開発しているわけです。
──また近年のモデルではクライオジェニック処理が施されたフレット・ワイアーも興味深いところですが、作業の様子は工場内では見られませんでした。
ええ、クライオジェニック処理は外注なのですが、これはギブソンCEOのヘンリー・ジャスキヴィッツによるアイディアなんですよ。ヘンリーは工作機械の切削部分の多くがクライオジェニック処理されていて、それによって摩耗しにくくなっているのを知って、私たちにフレット・ワイアーでもこの処理を試すように提案しました。そこで私たちはひとつの指板に通常のフレットとクライオジェニック処理済みのフレットを打って、両方のフレットの上で弦を繰り返しベンドするようにプログラムしたマシンにかけてみたのです。それを毎日動かしっぱなしにしておきました。およそ50万回近く弦のベンドを繰り返したと思いますが、クライオジェニック処理を施したフレットでは摩耗が2/1000インチだったのに対して、未処理のフレットは8/1000インチでした。つまり、同じ状況でテストしたら摩耗の量が1/4だったということで、大きな効果があることがわかりました。ただし、フレットを華氏マイナス数百度という超低温に冷却することはここではできないので、処理は外注することにしたわけです。また今年からはフレット・ワイアーの超光沢艶出しや端末の丸み加工も行なっているので、とてもスムーズですし、指板が収縮してもフレットの端が引っかかりにくくなっています。これによって、より高い演奏性が得られます。
──演奏性と言えば、ファスト・アクセス・ヒールも新たに採用されましたね。
今年導入したファスト・アクセス・ヒールは、ジョイントのヒール部分を削り込むことで、ハイ・ポジションのフレットを弾きやすくするための加工です。もともとは、カスタム・ショップ部門が数年前に開発した加工法で、いくつかのアーティスト・モデルに採用されていました。それを今年からUSAのハイ・パフォーマンス・モデルにも採り入れたわけです。クライオジェニック・フレット・ワイアー、ファスト・アクセス・フレットボード、新設計のチタニウム製0フレット・アジャスタブル・ナットなど、新開発の機能をハイ・パフォーマンス・モデルに盛り込みました。イントネーションが向上したのに加え、最新のG FORCEはより速く正確なチューニングが可能です。皆さんも取扱店で実際に手にとって確かめていただければと思います。
──もうひとつ素敵なギフトがありますね。HPハイ・グロス・モデルに付属する、まるでRIMOWAのような素晴らしいアルミ・ケースです。
ああっ! ケースのことを忘れていました。表面にはブリーフ・ケースのようなプレス加工が施してあって、内部にはゴム製のガスケットを仕込んであるので、気候の変化にも影響を受けません。非常に耐久性の高いケースで、緩衝材もしっかりしていますし、内装も外装も美しく仕上がっています。マホガニー製のハンドルもここギブソンUSAで作っていますし、ラッカー塗装もここで行なっています。見た目にも素晴らしいケースなので、単体販売はしないのか?という問い合わせもいただいています。現時点では製品の付属品としてのみ供給する予定ですが、将来的には単体販売もできればと思っています(※ケース単体の販売の具体的な予定は現在のところありません)。
──ところで、2010年5月のカンバーランド川氾濫(※テネシー州を襲った大洪水でギブソンUSAファクトリーも大部分が浸水するなど大きな被害を受けた)の爪痕が工場内で散見されましたが、被災から立ち直ったいきさつについて教えていただけますか。
私たちは被災から4ヵ月経たないうちに、楽器の製造を再開できました。急速な復興の鍵を握っていたのは従業員です。私たちの従業員は素晴らしい集団で、非常に勤勉で忠誠心があり、仕事に対して情熱的です。ですから、原状復帰に対する彼らの努力と、それを援助する私たちのリーダーシップがなければ、これほどのスピードで操業を再開することはできなかったでしょう。ここではできない作業を他の工場に代行してもらったこともありました。工作機械の多くはここで修理して、再稼働させることができましたが、作業工程によっては、ギブソンUSAの工場が再稼働するまでは中断させ、カスタム・ショップなどの他の工場で代行しましたね。すべては助け合いで成り立ちました。そして日本の皆さんはいつも私たちを助けてくれます。ウィークリー・ギブソンのスタッフの皆さん、今回は取材していただいてありがとうございました。視聴者の皆様にはこのプログラムで、2016年ギブソンUSA製品に興味を持っていただけたら嬉しいです。そしてぜひご自身でチェックしてみてください。ありがとうございました。
1月から3ヵ月に渡ってお届けしてきた現地ディーラー訪問&ファクトリー・ツアー・レポート、いかがでしたか? 本記事では紹介していませんが、ここギブソンUSA工場でも日本ディーラーの皆さんは完成品を選定し、より良いモデルを日本に届けるようまさしく一意専心でした。日本ディーラーがお金と時間をかけて現地にまで足を運ぶ意義、そして現地のスタッフとの交感や協調から新たなモデルの開発を促していること、ギブソン・スタッフはその期待を上回るようなモデルを創意工夫の上、生み出していることが見えてきたと思います。そして取材を通じて感じた最も大事な点は、ギブソンが音楽の街に根ざしていること。彼らが生み出しているのは音楽の道具であり、同時にエンターテインメントそのものであること。それをしみじみと味わいました。気づくとディーラーの皆さんは、早くもこの3月に再び現地を訪れています。次のハンドセレクト・モデルの到着は5〜6月頃でしょうか(具体時期は各販売店にお問い合わせを)。それまで期待に胸を膨らませ、デジマートで在庫チェックを欠かさずどうぞ!
※次回の週刊ギブソン〜Weekly Gibsonは4月1日(金)を予定。今回特集したギブソンUSAのレス・ポール・スタンダードHPを紹介します!