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  • 週刊ギブソン Weekly Gibson〜第93回

動画レポート! ギブソン・カスタム工場ツアー

Gibson Nashville Dealer Tour 2016 Pt.5

  • 取材・撮影・編集:デジマート編集部 取材協力:ギブソン・ジャパン 翻訳:坂本信 一部音源提供:Hotel Congress

ギブソン社トップラインとなるトゥルー・ヒストリックやヒストリック・セレクトを生み出すギブソン・カスタムについては、第90回にてハンドセレクト作業のレポートを行ないましたが、今回はレス・ポールの製作工程のポイントを絞って動画レポートします。特にギブソン・カスタム・ファクトリーの内部にムービーカメラが入ることはなかなかありませんから、ぜひこの機会に動画&記事にてこだわり満載の各工程をお確かめください。

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Gibson Custom Factory Tour

※YouTubeの字幕掲出(日本語)をONにすると字幕が表れます

True Historic Les Paulの製作工程

 2014年までの人気シリーズ、ヒストリック・コレクションは、2015年にボディ・シェイプ/パーツを含むモデル自体のブラッシュアップと製作工程の見直しが行なわれ、かつてない次元でオリジナル・ビンテージを追求した新シリーズ、トゥルー・ヒストリックとして生まれ変わりました。毎年のようにマイナー・チェンジを経てきた“ヒストリック”シリーズですが、2015年から2016年にかけての見直しはなし。つまり、現段階で完成されたシリーズであると言って良いでしょう。ここではレス・ポールの製作工程を、ポイントを絞ってレポートしていきます。工場ツアーの最後には、ヒストリック・プログラム責任者であるエドウィン・ウィルソン氏のインタビューも行なったので併せてお楽しみください!

Double-Carved Top 〜CNCによる2ステップ加工

【ボディ・トップ成型】
 トゥルー・ヒストリックではボディ・トップ加工を2段階のCNCカービングに変更したことで、より正確で美しいカーブを描き出す

【ボディ・エッジ処理】
 ビンテージ・レス・ポールから得た3Dスキャン・データに基づき、サイド・エッジのくぼみも驚くべき滑らかさで仕上げる

【ネック成型】
 ネックもまたハンド・サンディングのプロセスが廃され、粗切削〜仕上げまでがビンテージ・データに基づくCNCで成型される

Hide Glue Construction 〜ニカワを用いた木部接着

【ボディ・ニカワ接着】
 ネック&ボディ、指板&ネックの接着とカスタムでは段階的にニカワを使用してきたが、現在はボディの貼り合わせにもニカワを使用

【ニカワの塗布】
 温度・硬化速度管理をしたニカワを使用することで木部同士をよりタイトに密着させ、音響伝達を促進、リタッチの際にも優位がある

【ボディ圧着】
 ニカワでメイプル/マホガニーを貼り合わせたボディは専用プレス・マシンにて4時間程度かけ圧着される

【指板/ネックのニカワ接着】
 指板とネックの接着にニカワが使用されるようになったのは2014年から、専用の刷毛でならすように素早くニカワを塗布する

【指板/ネック圧着】
 接着位置に狂いが生じないよう凹凸によって組み合わされた両者は、均一な圧をかけ45分程度で圧着される

【ネック・セット】
 ネック・セットにニカワを用いるようになったのは2013年から、ポケットとネック部分にニカワを塗布しセットする

Thinner Holy Peghead Veneer 〜薄いヘッド突板

【ヘッド突板】
 ヘッドの突板もビンテージのそれと同様にするべく、サンダーを用いてレギュラー・リイシューのものより薄く削られる

【突板の接着】
 ヘッド突板の接着にはタイト・ボンドが用いられる

【突板の圧着】
 専用のクランプにて10〜15分をかけて圧着する

Shape Inspection 〜各部のシェイプ計測

【ボディ・シェイプ計測1】
 専用の金属製治具を使って、CNCで削り出されたボディのトップ・カーブを計測する一幕

【ボディ・シェイプ計測2】
 ボディ上下部で形状が異なるため同様にチェック、これにより以前の手仕上げよりもシェイプは均一となっている

【ボディ・コーナー計測】
 ボディ裏のジョイント・カーブも専用治具にてラウンド具合を計測、均一な丸みに仕上げていく

Aniline Dye Finish 〜アニリンダイ仕上げ

【アニリンダイ・フィニッシュ1】
 目止め(フィラー)にアニリンという染料(ダイ)を添加し、ボディ・バックに塗布する伝統的な工法

【アニリンダイ・フィニッシュ2】
 ファクトリー内にはアニリンダイをアプライする専用ルームが設置され、隔離性と作業効率が高められている

【アニリンダイ・フィニッシュ3】
 鮮やかなチェリーが印象的だが、色味はトップ・フィニッシュと組み合わせて数パターンあり、時間の経過とともに変化してくる

Top Finish 〜サンバースト・フィニッシュ

【ペインティング1】
 まずは色味の下地となるイエローを吹き付けていく、カラーを入れることで杢が立体的に浮かび上がってくる

【ペインティング2】
 ボディ・リムに沿って、イエローの下地の上にブラウンを吹き付けることでサンバーストを表現していく

【塗装完成】
 トゥルー・ヒストリックでは硬度の高い塗膜となるラッカーに変更されたため、ビンテージ同様の極薄フィニッシュを実現

Stamps, Scraping & Final Check 〜こだわりの工程

【シリアル・スタンプ】
 ギターの“出生証明”と言えるシリアル・ナンバー、すべてのモデルがここでスタンプされ、時を刻み始める

【スクレイピング】
 トゥルー・ヒストリックのネック・バインドには繊細に削れるガラス製スクレイパーを用い、段差が出ないよう細心配慮

【最終チェック】
 ファイナル・セットアップも見直しが図られ、手間暇を惜しむことなく各部を点検、演奏性/サウンドがチェックされる

Aging 〜エイジング

【ボディ・エッジのエイジング】
 各部のクラック/ダメージを再現するエイジング手法はさまざま、ここではボディ・エッジを定規で削っている

【エイジング工具】
 エイジング処理に用いる工具類、ハンマー、バックル、鉄杭、ドライバー、シィパー、音叉、鍵束など多種多様

【エイジング完成】
 風格を備えたエイジング処理後のレス・ポール・ボディ、ビンテージと見紛う凄みを湛えた仕上がりだ

Murphy Burst Demonstration
マーフィー・バーストの魅力

 ギブソン・カスタム・ディヴィジョン立ち上げ当初のオリジナル・ペインターであり、エイジングのオリジネイターであるトム・マーフィー氏。ディーラー・ツアーの最終日にヒストリック・セレクトのハイライト・モデル “マーフィー・バースト”の実演が行なわれたので、レポートしたい。今回はグリーン・レモン系のカラー・フィニッシュをテーマに2本のレス・ポールが用意され、杢や材色の違いに対するアプローチを説明してくれました。

「2本のギターは材の性質が違うので、対応の仕方も異なります。どちらも見栄えは良いのですが、色が明るめの材の塗料にはグリーンを加えました。塗装する際には、それぞれの個体を見て、こうした微調整が必要かどうかを判断し、1本ずつ塗装します。基本的な作業は同じですが、目的の色に仕上げるために、別な色を加えて調節するわけです」

 以上のように個体特性を判断して塗料の調合を変え、最終的には同じ色合いを作っていくそう。“緑がかった色味”について、マーフィー氏は面白い見解も披露してくれました。


「ブラウンとイエローが混ざると、間違いなくグリーンがかった色になります。オリジナルのビンテージ・レス・ポールの色がグリーンに変化するのは、私の見解では、レッドがブラウンに変化して、残りのイエローと合わさるからだと考えています。例えば“アイスティー”と呼ばれる色は、レッドがまだ残っているので、グリーンに変色せず、ああいった色に見えるのでしょうね」

 フィニッシュ・ペインター/エイジング技術者としての確かな腕と目利きは、こうした経験と考察を背景にしていることがよくわかるか思います。

まずはイエローをフィニッシュする

霧状にグリーンを吹きかけて、グリーン・レモン・フィニッシュが完成

続いてグリーンを使用しないレモン・バーストを再現

INTERVIEW Edwin Wilson(Gibson Custom Historic Program Manager)
エドウィン・ウィルソンが語るヒストリック・セレクト

──2016年のトゥルー・ヒストリック・モデルについて、前年から変更された点はありますか?

 トゥルー・ヒストリック、及びヒストリック・セレクトのモデルについての変更予定はありません。これらのギターを現在の形にするまでに長い時間をかけてきました。ですから、2016年はこれらのギターの継続生産に集中していきます。

──スタンダード・ヒストリック・リイシューについて教えてください。

 これらのモデルは2014年のリイシュー・モデル(註:ヒストリック・コレクション)を基にしたもので、ハンドセレクトなどのオーダーに対応しています。

──リイシュー・モデルとしては完成形と言える、トゥルー・ヒストリック・モデルの魅力を改めて紹介いただけますか。

 ビンテージ・ギターが好きな方、単純にレス・ポールが好きな方、さまざまな皆様の期待に応えられるギターであることです。これは今日の市場において、インターネット経由で注文をいただいた際にも、あらゆる期待に対して完璧に応えられるギターを確実にお届けするということを意味します。私たちは現存する数多くのオールド・ギターに限りなく近い製品を作るよう努力しています。サウンドやルックス、プレイアビリティといった楽器のあらゆる面において、トゥルー・ヒストリックは満足いただけるギターだと自負しています。

──年4回ほど訪れる日本のディーラーについてはどのような感想をお持ちですか?

 時間を割いてギブソンのカスタム・ショップを訪れて、私たちが仕入れた材の中からトップ材やバック材、ネック材を選別し、お客様方の要望に応えようとする姿勢と努力は、他のどの国とも違います。我々は日本のディーラーの方々に心から敬意を払っています。

──あなたも年に2回、日本にいらしていますね。

 私の出張で最も重要なのが、日本訪問です。日本自体が大好きですし、日本の楽器店に行くのも大好きです。店員さんも歓迎してくださいますし、我々が気持ちを込めて製作したギターが実際に店頭に並び、吟味されている姿を見ることが、次なる意欲に繋がるのです。そして何より日本のお客様には感謝しかありません。トゥルー・ヒストリック/ヒストリック・セレクトという最高のリイシュー・モデルを作ることができ、私は今、1993年からずっとリイシュー・モデルの開発に関わってきたことを誇りに思っています。2016年はさらに良い年になります。なぜなら私たちも年を追うごとに成長しているからです。日本の皆さんには、私たちが皆さんのための楽器作りを楽しんでいるのと同じぐらい、私たちの楽器で楽しんでいただければ嬉しいですね。

ギブソン・カスタム“ヒストリック”レス・ポール製作の最前線に立つ3名。左から、岩撫安彦氏(Gibson Japan社長)、Tom Murphy(Vintage Expert)氏、Edwin Wilson(Gibson Custom Historic Program Manager)氏


※次回の週刊ギブソン〜Weekly Gibsonは3月18日(金)を予定。

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製品情報

Gibson Custom Shop / True Historic Les Paul

【問い合わせ】
ギブソン・ジャパン http://www.gibson.com/
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Gibson Custom Shop / Historic Select Les Paul

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