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  • Dr.Dの機材ラビリンス 第26回

アンプ・エミュレート・ペダル〜PEDAL JUSTICE

オーバードライブ/ディストーション/プリアンプ

近年、オーバードライブやディストーション、プリアンプ系のエフェクターに「アンプ・ライク」と表現されるペダルが増えてきた。その言葉どおり、アンプ的な操作感、サウンドの変化を持った歪み系ペダルを意味する。ただ、その中でも「フェンダー系」「マーシャル系」といった大づかみな括りではなく、「◯◯◯製/◯◯◯モデル」のトーンの再現に狙いを絞った、超ピンポイントなペダルが存在する。Dr.Dはそれを「アンプ・エミュレート・ペダル」と定義した。「LIKE(〜のような)」ではなく、「JUST」。エフェクト・ビルダー達が採算度外視になろうともどうしても作りたかったその“ジャスト”サウンドが得られる16機種を、じっくりと吟味し、味わって欲しい。

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プロローグ

 物を作ることは妥協の繰り返しである、とよく言われる。

 それは、高い志を持って挑むクリエイティブな行程に起こる“矛盾”がそういわしめるのである。しかし、これは製作者がプロフェッショナルか否かで、若干意味が異なってくる。とりわけ、アマチュアは「技術」で妥協し、プロは「普遍性」で折り合うというのが通説である。だが、技術で追いつかないものは、諦めるしか無い。そして、それでも諦められないならば、努力してそれらを身につければ良い。

 厄介なのはもう一方の方だ。普遍性──それは、より万人に対して優良でなければならないという販売供給のルールにおいて、“出来るのにやれない”という状況を作り出す。具体的に言えば、ある歪みペダルを作ったとして、その音が自分にとって100点、否120点であっても、他の100人の平均が50点しかつかない様な仕事ではプロの製品としては失格なのである。そこは、自分が85点であると感じても、他の100人も85点をつける様なペダルを目指さねばならない。より良い物を作れたとしても、ひとつしか売れない物よりも、80人、90人に売れる物を作った方がプロとしては正しいのだ。その選択を迫られた時、趣味の人はそのたったひとつの100%を大切に家の棚に置き毎日眺めて楽しみ、真のプロフェッショナルは、自分の中の「志」や「愛着」を魂と共に削り落としてより多くの人々の手に届くようにするのである。それは、筆舌に尽くし難い苦痛と悲しみの行程である……が、それが出来るかどうかが、人をプロか否かに分けるのである。

 もちろん、時には自分で100%のものが、人々にとっても100点に近い物だったりすることもある。そう、アイバニーズのTube ScreamerやクロンのCentaurがそうであったように。だが、それでも、諦めきれない場合はどうするのか──。プロとしては成功した。局地的ニーズでは利益が出ないことも知っている。しかし、自分の信じる、本当の100%で勝負したいと思う気持ちはどうするのだ? 永遠に夢のままで終わらせてしまうのか? そして……それが、訪れた時。

 やってしまうのである。プロが、一瞬、プロを忘れる瞬間が訪れるのである。

 それが可能な高い技術、そしてリスクを自ら背負える十分な蓄えと予測が出来るようになったプロだからこそ世に放てる“100%”がこの世には存在する。濁りの無い意志のパワー、純粋な野心の結晶が、そこにはある。それはいかにも独りよがりだが、確実に、何ものにもとらわれない一点にのみ力を注ぎ込んだ傑作に違いない。今まで培ったプライドと名声、時間と金、労力を注ぎ込み、まるで息が続く限り深海に潜って湖底の財宝に手を伸ばす様なそんな苦しみと共に、たったひとつの100%を作る。それはずっと背を向けてきた光に向かって心を解き放つ行為である。

 「LIKE(〜のような)」ではなく、「JUST」。

 濁り無く、焦点を合わせた職人の本気。たとえ一般向けではなくとも、そこにはその職人の最も大切にしている何かが必ず封じ込められている。言い訳は効かない。だが、それは同時に、自信の証しでもある。プロが自分の生命を糧に灯したわずかなサインを見逃してはいけない。そこには、世界で最も小さな“究極”が詰まっているのだから。

商品の選定・紹介にあたって

 今回は、実際に存在したアンプの名機、そのサウンドをアナログ回路で再現する『アンプ・エミュレート・ペダル』(アンプ・シミュレーター等で使用される「シミュレート」というバーチャル・ソフトウェア技術と区別するために、この場では便宜上“エミュレート”という言葉を使用することをお許しいただきたい)を特集する。アンプ・ライク(アンプの様な)ではない。エミュレートしているアンプ・メーカー名、そして、その先のモデル名まで公式に明言されている、もしくはそれに類するほど一貫した傾向の音を持つ特定のシリーズにフォーカスしている“ジャスト”なアンプ・サウンドを追求したペダルを集めてみた。当然、マーシャル系、フェンダー系といった曖昧な「それ系」ペダルは全て排除し、また「〜にブースターをかませて使いやすくした」とか「誰それが使用していたように○○なエフェクターと組み合わせた様な音」みたいに、アンプ以外のエッセンスが音に混じってしまっているモノも外してある。
 さらに、アンプ・メーカーが自社のアンプ・サウンドを再現しているもの(ボグナーやオレンジのように)も今回は見送り、あくまでサードパーティが独自にそのサウンドを研究し、製品化にこぎつけたもののみを採用している。いつも通り、ラインナップの選抜は、デジマート内に掲載されている在庫に準拠している。今回の括りでは種類が膨大なので、アンプの種類やエフェクター・メーカーがなるべくかぶらないように組み合わせてみた。あまりにもピンポイントな視点の製品であるため、中には限定品や短期間しか製造していないものも含まれるが、デジマートに在庫があるうちはまだそれらも手に入れることが出来る。ペダル職人が、そのエミュレートするアンプ名をぼかさず公表するのは、そのサウンドに揺るがぬ確信をもっているからだ。オリジナル・アンプを愛するがゆえに、ペダル職人達が採算度外視になろうともどうしても作りたかったその“ジャスト”サウンド……心行くまで味わって欲しい。

アンプ・エミュレート・ペダル

[JTM DRIVE]

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01 WEEHBO [JTM DRIVE]

 ロック・サウンドに最も影響を与えた機材のひとつとして、その名を歴史に刻む名機JTM45。マーシャル・アンプ最初の量産機であり、現代ではあらゆるブリティッシュ・ハイゲインの礎として君臨するイメージがあるJTM45ではあるが、そのサウンドの本質が、伸びやかでワイルドになり切らない、それでいて煙るように広がる太いナチュラル・クランチにあることはご存知の方も多いであろう。その考察に深い含蓄を発揮しているストンプ・エフェクターとして人気を博しているのが、ドイツはハノーバーを拠点とする新星ブランドWEEHBO EffekteのJTM DRIVEだ。

 かなり効きの良い3バンド・アクティブEQと、12時を越えてからややBカーブ気味に激しく歪み出し最終的にかなりのゲインを絞り出す“DRIVE”コントロール。それらの広角なトーン・ディレクションはかなり現代的な使い勝手を突き詰めてあり、特にJTMアンプのコントロール自体を意識した作りにはなってはいない。……が、その歪みの質自体は、かなり真に迫っていると感じた。特に“DRIVE”を11時よりロー・ゲイン側に設定した際にその傾向がぐっと強まる。匂い、というのか、鼻をスッ抜けるようなあのサステイン、そして、あの16Ω出力トランスのネガティブ・フィードバックを意識した様な、JTMアンプ特有のやや濁ったサチュレーションは、オリジナルの音を知っていれば思わず「おっ」と言わせるだけの十分な手応えがある。全体的にハイファイ傾向なので気付きにくいが、ギターのボリュームへの反応がかなり良い感じで、オールドスクールな歪みエフェクターのように急にストンとクリーンに落ちてしまうようなことはなく、目盛りを5ぐらいにしたあたりからスゥっと柔らかく歪み成分が抜けて行く所など、実にアンプらしい上質な反応で嬉しい。

 トーン・ロケートはややハイ上がりで、エフェクター的な抜け感を優先している点は否めないが、“DRIVE”を上げ過ぎさえしなければ、ある程度どんな設定からでもハイ・ミッドに熱を帯びたスマートな弾力が宿るので、JTMアンプの使いにくい部分はあえて求めないというユーザーにはピッタリだろう。当然、あのGZ34整流管由来のもっさりとした立ち上がりは採用されていないので、安心して欲しい。トータルの音質を考えると、このコンコンした鳴りはオフセット時代のものというよりは、64年前後のKT66管を搭載したJTM45 MK Ⅱあたりを意識したようなイメージだろうか。ちなみに、ミッド・フリーケンシーを3段階で切り替えられるミニ・スイッチ(左/2kHz、中/500Hz、右/1kHz)は、あえてオリジナルに近くしたいと言うならば真ん中のセッティングがオススメだ。どの設定にしても、そもそもEQのかかり方が違うのでアンプのコントロール・ニュアンスとは比べるべくもないが、一番雰囲気のある、むっちりと効く中域のコントロール領域をそれで得られるはずだ。その他はスピーカー等との相性によって切り替えて行くのが無難だろう。
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[1959 Double Decker]

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02 Gurus Amp [1959 Double Decker]

 ビンテージ・マーシャルのビッグ・トーンを象徴する1959。ロックの時代を彩る数々の重要なライブやレコーディングで用いられた、膨張力のある倍音の飽和と輝くエッジ、そして、強いフィードバック。その再現に正面から挑むのが、イタリア生まれの高機動型ドライブ・ユニットGurus Amp 1959 Double Deckerだ。本国ではモダンなアンプ・メーカーとしても知られるGurus Ampのペダルだけあって、12AX7(ECC83)プリ・チューブの実装、完全独立の2チャンネル仕様、単体ソロ・ボリューム、センド/リターン、D.I.へのダイレクト・アウト(選択できるキャビシミュはプレキシ1959定番のセレッションG12(Greenback)等ではなく、あえてハイ上がりでモダンなV30(Vintage 30)という興味深い設定)と、本物の1959を遥かに凌ぐ充実の機能性を誇るが、やはり気になるのは音の方であろう。

 まずピックを入れて最初に感じるのは、その確かなブライトさ。ややミドルが凹み気味で、バシャッと弾けるようにまとまった光沢が歯切れよく放たれる、実に豪奢な立体感のある音だ。低域にもメリハリがあり、強く弾けばしっかりズンといった厚みのある手応えが絶妙なスピードでピッキングに乗っかってくる。芯はある程度残っているのにハイ・ミッドにイヤな空洞感を残さない絶妙な引き締めがあり、それはまさに1959のニュアンスと言って良いだろう。アンプ系ドライバーの中でも間違いなく格段の弾き応えを持っており、まさにマーシャル系の「理想的」歪みだ。ただ、本物の、特に60年代後半〜70年代初期の1959と比べると、その歪み出しの速さはVr.7A基板以降(68年〜)の第2世代スーパー・リードのフルアップと考えてもやや「理想的過ぎる」かもしれない。プッシング・フォースが十分にドライブ成分に表われる歪みそのもののイメージのしやすさが、プレゼンスは振り切っているのに、プレキシ時代の1959のようなビシビシとした空間を震わす張りつめた内圧感や、100Wアンプ特有の広大なダイナミクスを宿したきらびやかなロード・ゲインを得にくくしているのだ。

 だが、それが1959のサウンドからかけ離れているかと言えばそんなこともなく、ギター側のボリュームを絞った時の、ちょっと沈み込んだ、それでいて曇りのないプレーンなナチュラル・ドライブは、さながらKT66管を持つVr.3A、3BあたりのJTM45/100時代のそれに近い。むしろ外部のコンプやフィルター、イコライザーのかけ方によっては、そこから様々な1959のサウンドを追い込んで行ける可能性を予感させるのである。つまり、1959 Double Deckerとは、歪みの使いやすさを最優先にしながらも、幅広い時代にまたがる1959のサウンドを作り込んで網羅することを可能にした、全く新しいスタイルを提唱するドライバーのように思える。そのための幅広い設定域を持つ内蔵アクティブEQ、そしてパラレルでも使えるセンド/リターンなのではなかろうか。ちょっと手を加えればたちまち自分の好きな本物の100Wスーパー・リードの音に迫れるその絶妙なサウンド・アプローチに、世界中のマーシャル・フリーク達が振り回される姿が今から目に浮かぶようだ。
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[Cacao] 写真:イシバシ楽器 デジマート店

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03 Blackberry JAM [Cacao]

 「マーシャルは50W」という言葉がある通り、100Wよりも少ない音量で適切な歪みを得られたJMP1987(多くのJTM50を含む)が、マーシャル亜流のトレンドを率いていた事実は否定できない。65年にJTM45MK Ⅱのリード・モデルとして45Wでスタートした1987は、発売後間もなくKT66管の供給不足問題からパワー管をEL34に変更。さらに、整流管を排しダイオードを採用し、トランスのスペック更新に伴う50Wを達成したことで、1959等のワイドなサウンドを持つ100Wモデルに対して、ピークの到達点が近く“締まった”サウンドを持つようになった製品である。

 この独特の密度のある歪みをターゲットにして再現しようと試みたのが、国産メーカーBlackberry JAMのCacaoだ。その印象的な直進性のある出音……エッジの先端に行くほど目が細かく、一見まとまりがあるサウンドに見えて、入力をある程度稼ぐと水面下から鋭い第2の牙がのぞくこの独特のフィーリング。間違いなく、巷の100Wプレキシ系エフェクターとは一線を画す、1987特有の高い応答性を持っている歪みペダルである。トータルのディレクションはやや低域がタイトで音の立ち上がりに優れたチューニングなので、同じ蛇の目基板モデルでも、60年代の「レイ・ダウン」タイプの出音というよりは、70年代初期のメタル・パネルの縦置きトランス・モデルのサウンドに近い印象だ。これはマーシャル・トーンを意識したペダルの中でも、素直に使いやすい、そして、新しい音だ。リアルなマーシャル・アンプのように335の様なホロウ・ギターで音が回ってしまうこともなく、その芯の残った強いサウンドを、フィードバックの効いた歪みの中で自由に活かすことが可能だ。コントロールに“Presence”があることも、レスポンスや質感に拘りたい往年のマーシャル・ファンの心理をよくわかっており、思わずニヤリとさせられる。

 ある程度ギターのボリュームに追従もするが、さすがに、ジム・マーシャルのお気に入りだった10インチx4のキャビネットと合わせたようなジャジィなトーンに向かないのはお察しいただきたい。ここはやはり、ジェフ・ベックやマイケル・シェンカーのような、王道50Wマーシャル・ドライブを目指すのが筋だろう。そして、特にストラトのフロントとの相性は素晴らしく、甘くとろける様な幽玄のリードは、他の歪みペダルでは生み出し得ない唯一無二のトーンとなるはずだ。エフェクターとしてのマーシャル・オマージュに更なる1ページを加えるこの均整のトーンを、ぜひ一度試してみることをお勧めしたい。
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[M-200]

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04 Manlay Sound [M-200]

 1959を越える大出力モデルへのニーズを満たすべく、67年に登場したマーシャルの200Wモデル、Major。中でも、厚みのあるゴツいボディに小さなコントロール・パネルを収納した初期のLeadモデル1967は、そのユニークな見た目から「The Pig」の愛称で呼ばれたことでも知られる。パワー管にKT88管を4本使用したことによる透き通るようなプッシュと広大なヘッドルーム、そして初期型「The Pig」にのみ見られる「アクティブ・トーン・サーキット(フィルターで高域と低域に分けたサウンドを再び任意の比率でミックスし、マスター・ボリュームヘ送る仕組み)」の組み合わせという他に類を見ないレイアウトから生まれるサウンドを目指したのが、このManlay Sound M-200である。

 数々のマーシャル・ラインナップの中でも際立った存在感を放つそのサウンドを例えるとすれば、「レンジの巨獣」という言葉がぴったりだろう。歪みにくいというのとは少し違い、きちんと飽和のステージを確保しているにも関わらず、ドライブが乗ってきてピークが反り返る瞬間に生じるあの喘ぐ様なコンプレッションがほとんど無いのである。余裕がある、というのか。M-200のレスポンスもそれと全く同じで、弦に触れると、1音1音に対して立体感を生む“枠(わく)”のようなものは確かに感じるのだが、それがあまりにも遠いところにあるのである。まるで、山に向かってアンプを鳴らしているように、音が何ものにも遮られることなく「全部出る」。これはとてつもないエフェクターだ。FETによるチューブ・エミュレーター的なトーン・スタックを持つという以前に、正しい1967サウンドの解釈がなければ決して達成し得ない領域のセンスである。

 「アクティブ・トーン・サーキット」の操作感も実物の「The Pig」そのもので、きちんと前段の“TREBLE”と“BASS”にそれぞれの増幅領域が割り振られているところなど、ただのパッシブなカット・ノブとは効き方も音質への影響もまるで違う。広義の意味での「アクティブ」な前段で呼び起こされたルート・ゲインがマスター・ボリュームでさらにプッシュされ、1967の慇懃なトーンにさらなる深みを与えているのがよくわかる。それは、後のマーシャルに現れたマスター・ボリューム・モデルとはまた別の意匠による、音質的バランスを得るためのオリジナルの機構だったのだろう。

 M-200では、そういったサウンド・ディレクションの目新しさゆえに、肝心の歪みそのもののコントロール域が扱いにくくなっていることを補うために、マスター・ボリュームで拾う歪みの量をあらかじめ設定できる“Bright”スイッチを装備している。これは、非常にこのペダルの使いやすさを向上させるアイディアとして的を射た仕様だ。決して歴史上で見逃してはいけない希少なマーシャル第4のサウンド……その真価に触れるのに、リアル・コントロールを追求しながらも優れた現代的なアドバンテージを兼ね備えたハイ・クオリティ・ペダルの存在意義は、今後も増していくことだろう。
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[GS103]

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05 Jetter Gear [GS103]

 「純然たる大音量」を持つ、ハイワット・アンプ。60年代、70年代のどのアンプよりも精緻に組まれ、その最上位機種“Custom100 DR103”の4本のEL34管から放たれる出力が想定される100Wを優に越えていたとされる、別格のモンスター・アンプだ。そもそも、真空管1本にかかるアイドリング・バイアスが25Wにも達するギター用アンプなど、他のどこを探してもあるはずもない。オーディオ並みに広帯域な信号を増幅させ鳴らし切ることのできるハイワット独自の設計がもたらしたそのサウンドは、ラウドにして静粛──「ローゲイン」や「トランスペアレント」の一言では片付けられない、圧倒的に空間を震わす巨大で濃密な“音量の壁”として時代に君臨した。

 音量はともかく、音の質感においてはオリジナルに迫ると言われているのが、このJetter GearのGS103である。エフェクターらしくシンプルな3ノブ・レイアウトながら、なるほど、その音は通常の歪みペダルのそれとはかなり異なっている。まず、歪み出しが低く、オープンな素地の中に、たっぷりと音にならない褐色のサチュレーションを封じ込めたハリハリとした音質があるのがわかる。さすがにパワー管が駆動するあのミリミリとした空間全域を絡め取るような得体の知れない押し上げこそ無いもの、ゲインを下げた状態でこの音というのは、本物のチューブを搭載したよほどハイグレードなラック・プリアンプでもなければなかなか味わえない音質だ。“Drive”を少しずつ上げていくと最初に硬質なサチュレーションがやってきて音に立体感が増すが、12時を越えるまではほとんど歪みらしい歪みには達しない。このレスポンスは、本物のハイワットのファン達もさすがに納得という感じだろう。12時を回るとさすがにギター・アンプらしい倍音の疾走感がニュアンスに加わってくるが、それでも、耳に届くサウンドは、オーディオ・アンプがオーバーロードした時の様な粗い歪みがローエンドに加わるだけ。そこからさらにドライブを伸ばしていくと、ようやく高域が乾いた音で歪み出し、最終的には低域の歪みが収束してミドルを突き上げるようになり、浅くパーカッシブなリード・トーンを呼び出すようになる。

 その最終段までは、ほとんど張りと艶を足していくだけの中域の構成であり、そこにピッキングの繊細なセンシティビティを絡ませていくことこそ、まさにハイワット音質の醍醐味だ。それをきちんと表現できるGS103はやはり並のペダルではない。また、その音質が一貫してハイファイになり過ぎずにもたらされる感触もまた素晴らしい。ステージ・アンプのクオリティを一段階高めるだけでなく、自分のピッキングから繰り出されるさらに奥底にある感性を解き放つためにも、ジャンルを問わず万人に手にして欲しいペダルだ。信じる歪みが決まっている人ならば、なおさらこの音質を自らのシステムに加える意義をはっきりと感じ取ることできるだろう。
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[Thirty Something]

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06 Wampler Pedals [Thirty Something]

 世界で最も輝きに満ちたサウンドを持つ生え抜きの英国アンプと言えば、やはりVOXのAC-30を外すことは出来ないだろう。カソード・バイアス式プッシュプル駆動によるクラスAサウンドの源流にして、現行の伝説でもあるその恍惚の音色を語り尽くすには、この場はあまりにも粗雑に過ぎるかもしれない。しかし、その開闢の響きを、小さなエフェクターの中だけで最大限表現しようと試みるメーカーがある。それが、様々なアンプ・エミュレーター・ペダルの世界で確固たる実績を残してきたWampler Pedalsだ。

 “Thirty Something(旧Ace Thirty)”は、VOXの名機AC-30およびAC-15の伝統的ブリティッシュ・ドライブを網羅すると言われるペダルのひとつで、実物を手にするとよりその作り手の哲学を実感できる。スイッチをオンにした瞬間から飛び出す、凛と張った豊潤な倍音の光沢と、その中心にある常に熱量の高い抑揚のひらめき……“音”というよりは、その“色”がかなり近いペダルだ。実際のアンプに比べればレンジを稼ぎきれない分、もちろん増幅段に必要なだけの浅いロード・プッシュを意図的に付加していることは否めないが、それでも、その出音から受ける印象があのトップ・ブーストと呼ばれる透過度の高い高域の突っ込みに肉薄していることは間違いない。

 現行のACシリーズと同じ“TREBLE”、“BASS”のレイアウトに、実機と全く同じと言って良いほどの正確な効きをみせる“TOP CUT(ACアンプでは”TONE CUT“にあたる。プレゼンス・コントロールに近い効きで、高域の明度を調節して音に絶妙な柔らかさと太さを加える)”という配置も心憎い。しかも、アンプのクラスA増幅を模したかなり静粛なクリーン・ブーストを前段に入れることが出来るので、エフェクター的な使い勝手を無視するならば、むしろ“GAIN”を控えてこちらのブーストを入れてやった方がAC-30の音に近いかもしれない。ただ、“HEADROOM”スイッチを「AC-15」側へ入れてやった時に、今ひとつAC-30とは違うAC-15特有の小回りの効くエッジ感や、逼迫したサチュレーションの切ない響きの様な「らしさ」が不足しているように感じたのは気のせいか。むしろ、そのやや細く、早い段階で歪む感じは、初期型JMI製のAC30/4に見られるような、EF86プリ管のサウンドの面影があると言えなくもないのではなかろうか。

 とはいえ、「最もエフェクターではデザインしにくいサウンド」と称されるVOXトーンに、微妙なニュアンスの違いこそあれ、使い勝手を含めこれほどのバランスに追い込んでいるペダルは他には無い。根本的なVOXの音を成す本質とは別に、現代のエフェクター技術による足し算の理論でその外堀を埋めていこうとするWampler Pedalsの探究精度と意識の高さには敬意を払いたい。新時代を切り開く天鵞絨(ビロード)の響き、VOXファンならずとも一度は手にしてみる価値はあるはずだ。
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[SB-57] 写真:山野楽器 ロックイン新宿 B館

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07 HAYASHI CRAFT [SB-57]

 フェンダー・ツイード期の最高傑作として名高い5F6-A型Bassmanアンプ……ではなく、それより前のサーキットである5E6型Bassmanの音を再現するエフェクターがある。それが、HAYASHI CRAFT SB-57(STOMPBACK 57)である。アンプ製作の技術面からすればただの通過点に過ぎなかったこの過渡期のモデルが、実はその前のものとも後のものとも全く異なる特異な音質を備えていたことは、マニアの間ではよく知られている。

 5E6型Bassmanは、プッシュプル駆動のパワー管を動作させるためのフェイズ・インバーター(位相反転回路)に、PK分割型(負荷分割型)と呼ばれる方式を採用し、トーン・スタックに真空管を使用するカソード・フォロワのEQを備えるようになったバージョンである。整流管は音量の安定化を図るために未だ5U4GA管を2本装備しており、5F6-A型では外されることになる1500Ωグリッド・ストッパー(超音波振動抑制)も付いたままであった。その特性が全て合わさった時奏でられる、ピークの先端がジリっとしたグリッジな歪みを持ちながらも低域の伸びがタイトに引き締まった、そして、5F6-A型のオープン・ストレートでパンチの効いたサウンドとは明らかに違う、やや頭を抑えられる様な褐色のBassmanサウンド──しかも、同じ5Eモデルでも多くの高名なミュージシャンを魅了したDELUXEやTWINではなく──に注目するとは、実に痛快である。そして、まさにSB-57では、「その通り」の音が出る。

 “GAIN”が低いうちは5F6型によく似た感触で、そこに、わずかにダークでこつこつとした感度の高いミドルが奔っており、やがて、2時を過ぎたあたりから急激に5E6的な滑らかに広がる様な独特の倍音構成を発揮してくる。本来のPK回路では6L6(5881)管の深く粘る特性を活かすにはロスが大きく、かなりの音量で歪ませないとその特性が出にくいのだが、エフェクター的なノブ操作ひとつでその操作感を体感できる所などは、かなりツボを心得た作りとなっているようだ。欲を言えば、“TONE”が5E6のレイアウトのようにトレブルとベース(ミドルは5F6型からなのでここには必要ない)に割れていれば、さらにマニア心に刺さったことだろう。かなり局地的な趣向の製品ではあるが、その音だけを比較すれば実に特徴のある高品位なトーンを持っており、特にシングルコイルのフロントなどと組み合わせると、パンと張ったドライブの中にほんの少し木を“しがむ”様なもどかしさを兼ね備えた極上のフィールを体感できる。名機の影に隠れた異端のBassmanサウンドの素晴らしさを肌で感じたいのならば、このペダルしか無い。
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[Formula No.5]

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08 Catalinbread [Formula No.5]

 まだストラトもテレキャスも無かった40年代より、フェンダー・アンプのラインナップにその名を連ねるDELUXE。「Woody」時代のModel 26から、TVフロント・ツイード、そして、ワイド・パネルからナロー・パネルへ……フェンダー・トーンの看板モデルとして歩んだそのサウンドは、50年代中期に現れた5E3型DELUXEにて最初の結実をむかえたことは、あまりにも有名な歴史である。ゆえに、そのクラシックで花開くように優美なリード・トーンをペダルに封じ込めようとするCatalinbreadのようなメーカーが出てきたとしても、それは何の不思議も無いことだ。

 Formula No.5こそ、まさにそんな5E3型DELUXEのサウンドを目指して作られた局地モデルだ。上記のBassmanの説明時にも述べた5E回路のPK分割型インバーターに象徴される特異な構成が、“DELUXE”の6V6GTプッシュプルのカソード・バイアスやネガティブ・フィードバックを持たないクリーンな出力段にバランスされた時、その出音が、中域に流れるように滑らかなコンプレッションをまとまったサウンドに昇華するフィーリングを、このペダルはよく捉えている。5E3型DELUXEの“DELUXE”足る由縁は、まさに、そのボリューム・ゲインによってもたらされる淡い熱量に象徴される。“GAIN”に反応して呼吸をするようにミッドに圧力が加算され、角が取れて丸いサウンドなのに、やたらに輪郭はきっちりと歪み成分に表われる。それが、マックスに近付くにつれて、ブルージーな目の詰まったオーセンティック・ドライブに揃っていく……なんとも爽快で、贅沢きわまりない響きだ。ブライトではあるもののきらびやか過ぎないところも、大人なサウンドとして完成している。本当にうっとりする様な出音である。

 一点気になるのは、アタックに常に表われる整流管によるサグを模した様な感触が、5E3型DELUXEの5Y3管的なしなやかな煽動ではなく、むしろ5U4やGZ34のように歪み出しがゆっくりでクリアな印象だということ。これほど上が抜けていなくても十分にDELUXE感は出ているので、理想的になり過ぎず、もっとリアルなアタックのズブさを持たせてくれても良かったように思う。ただ、そのおかげでモダンな速いピッキングにも対応できる音質になっているので、本来はDELUXEの音色に適さないテクニカルなプレイにも応用が利くという点では、功罪相半ばと言ったところか。今の世代に求められる反応を持たされたこの現代的解釈のDELUXEサウンドの登場が、どのように伝統のトーンと同折り合っていくのか、今後も目が離せない。
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[MK-1 Overdrive] 写真:山野楽器 GUITAR SPOT

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09 Shin’s Music [MK-1 Overdrive]

 1列に並んだ4つにも及ぶ増幅ステージと、そのさらに後方に置かれた独立したマスター・ボリューム。そのシンプルなアイディアで、人々をゲイン・アップとそれに伴う果てしない大音量への“矛盾”から開放したのが、メサ・ブギーのMARK Iアンプに搭載された「カスケード・ゲイン」だったことはもはや説明不要だろう。実用音量での全く新しいゲイン革命を呼び寄せたそのサウンドが、機能的アドバンテージに満足せず、確かな独自性を持っていたこともまた、今世紀に入っても尚Shin’s Music MK-1 Overdriveの様なエフェクターとして何度でも姿を現すことを躊躇わせない要因と言える。

 重心の低いマットなドライブに、粘りながらハイ・ミッドを駆け上がる柔らかな光沢が宿る。そして、サステインは空間を擦り上げるようにたっぷりとして強い伸び足をまとい、遠くに放たれた後もしっかりと歪んでいる。この小さな筐体から聴こえてくるのは、そうした“MARK I”サウンドに間違いない。さすがに低音の立体感や音圧という面では実機には及ばないものの、低域の発声だけに拘ってブーミーになったり輪郭が無くなってしまわないように、そこからあえてロック・テイストな抜け感だけをバランス良く拾ってまとめあげているチューニングは、さすが老舗ペダル・メーカーの仕事といったところだ。特にハイ寄りの感度はかなり良好で、まるで本物のアンプで弾く様な瑞々しいダイナミクスがあり、そこから生まれた自然なディケイは他のエフェクターとの絡みでも適切な奥行きを演出してくれる。そして、何よりもMARK I本来の音の野太さが、アンサンブルの中で埋もれない音質を常に維持してくれているのが嬉しい。

 システムの中で調和を果たすべく生まれたこのサウンドは、オリジナルのMARK Iサウンドを知らない世代でも十分に使い勝手がある音だと言える。さらにエフェクター的なソリッドさの緩和に役立つ“SHIFT”スイッチは、甘く太い音色から沸き上がる様なフィードバックを得たい……特に、ハウリング的な倍音の暴走で起こるピーキーな共振が苦手だというプレイヤーには、最適の機構だ。ただ、感度の良いペダルなだけに、このスイッチの効果を最大限に活かしたい場合は、アンプ側もやはり良質なチューブを搭載したものを選ぶ必要があることだけは付け加えておこう。
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[Zombie]

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10 Rocktron [Zombie]

 今や数多くのペダル・メーカーからエミュレートされるようになった、90年代を代表するメタル・ハイゲイン・アンプの雄、メサ・ブギーDual Rectifierの重低音サウンド。初段からラウドに割れ、粘りのあるギラついたエッジと地を這う様なローの剛性が、折り重なる峻厳の歪みの中で共存していく……そのニュアンスをペダルのレンジ内で再現することの難しさは、今世紀に入ってしばらくしても決定打となるストンプ・ユニットが現れなかったことからも人々の知るところである。

 だが、そういった風評を置き去りに、自ら「RECTIFIED DISTORTION」の看板を掲げ、独自のスタンスであのモンスター・ハイゲインに迫るサウンドを絞り出すペダルとして密かにロングセラーとなっている製品がある。それがRocktronのZombieだ。とにかく歪み過ぎなくらいよく歪む。確かに巷で言われる通り、アタックの立ち上がり方やピークのシャギり感はレクチに近いと言ってもかまわないが、スタックのマーシャルやJCでは、今ひとつハイ・ミッドにパンチが無く、あの金属質な響きをまとった底を打つ様な深みのある“呼び戻し”が完全に欠落しているように聴こえる。“STARE”ノブによるクリッピング対称/非対称の成分コントロールを用いたとしても、その歪みは、いかにも取って付けた様な変化しか望めないのが実状だ。

 そこで、レクチのイメージに近付けるべく、ディーゼル・アンプのスタック・セットをクリーンにセットしてからZombieをかましてみると、こちらはいきなりドンズバだった。平べったかったグリッジが急激に収束して“縦”のドライブに変化し、歪みの向こう側に出現したディープな奥行きを満たすように、沸き上がる獰猛な圧力がアタックに乗ってくる。ピッキング時の弦離れやミュートで押し込むドンというニュアンスも本物にそっくりだ。どうやら、この音の資質の差は、ディーゼルのキャビに乗っていたスピーカー、セレッションVintage 30が大きく関わっているようだ。オリジナルのレクチファイヤー・キャビネットと同じVintage 30というスピーカーのレイアウトこそが、このZombieのサウンドをあのレクチの噛み付く様な立体的な歪みに届かせるのである。

 さらに、アンプ側のクリーンはかなりクリスタルなイメージで作り込み、ピークに自然なコンプレッションがかかる高出力なハムバッカーを搭載したギターを使えば、その挙動はかなり真に迫ることだろう。「スピーカーからレクチ・サウンドを引き出すためのデバイス」だということをよく認識して使うことが、あの過激な歪みを使いこなすための分かれ道なのである。……ちなみに、JCにZombieを使った音が、音圧や倍音の感度こそ及ばないものの、25WのMini Rectifier Headをフルテンにした時のサウンドにかなり近いものがあったということは、個人的な感想として併記しておきたいと思う。
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[EVH5150 Overdrive]

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11 MXR [EVH5150 Overdrive]

 きらきらと降り注ぐ白刃のドライブに宿るその熱も、激しさも、あのエドワード・ヴァン・へイレンのプレイ無くしては生まれないと知りながらも、誰もがそのサウンドに憧れを抱かずにはいられない「ブラウン・サウンド」。数々のペダル業界の猛者達が挑み続けたこのレジェンド・トーンへの次なる刺客として手を挙げたのが、あの老舗MXRであったことは、嫌が応にも市場の期待値を高めたに違いない。

 EVH5150 Overdriveは、エディが商標を持つシグネチャー・アンプ、5150のモデル名を冠した、純血種の歪みペダルである。その音は、さすがにエディ本人が監修を手がけたとされる通り、まさに「正統派」のイメージを詰め込んだ高品位で実用的なディテールに収まっている。まず、何と言っても、この突き抜けるような推進力が違う。しっかりと歪み、耳に痛くないウォームなエッジの中に輝く倍音が乗ってくる。いかにもプレゼンスの怪物といった感触で、分離の良い端正なシナプスに鷹揚なロー・ミッドが主張する。“GAIN”が12時ぐらいだと予想以上に歪んでいるので、もうそれですでに現行のEVH 5150 Ⅲ並にガッツがある。そこから少し半時計回りに“GAIN”を落とし、全てのEQを少しずつ上げた程度で、90W降圧した1959のフルアップ、“TREBLE”と“BASS”を抑え目に調節してやるとピーヴィー時代の5150クランチといったところか。ほぼブースターが必要ないと言えるほどに、デフォルトで豪快にドライブし、EQを大胆に回してもほぼレスポンスが衰えることがない。“MID”のフリーケンシーは650Hzというのもポイントで、こういったハイ・ミッドが突出しているゲインの中でピッキングのフィールを鈍らせる不要な“中抜け感”を上手くカットしてくれる。さらに、内蔵された“GATE”(MXR Smart Gateのノウハウを踏襲したノイズ・リダクション)の効きとの相性も抜群で、よほど強い歪みでクローズ側に振り切って使用しない限り、致命的にサステインを奪うことはまず考えられない。

 ただ、さすがにこれだけ強い歪みだと、“GAIN”が2時を越えたあたりから低域のレイアウトが崩れがちになるので、“BASS”のコントロールだけは神経を使う必要がある。EVHフリークならずとも多くの人にとって素直にそのサウンドの良さを体感できるペダルであり、サウンド・メイクにいたってはまさに王道。完璧な汎用性と言って良い。とりたてて不満を述べるとするなら、ブースターがフット・スイッチでオン/オフ出来ないことと、この歪みをはたして「Overdrive」と呼んでいいのか、ということくらいなものだ(まあ、それこそがエディ・ファンのツボというところなのだろうが)。今後、他のエフェクター・メーカーが新たな「ブラウン・サウンド」を名乗ったペダルを出す時、このサウンドのクオリティを越えねばならないプレッシャーたるや、おそらく相当なものとなることだろう。それほどに完成度の高いペダルなのだ。
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[Solburner Distortion]

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12 Benado [Solburner Distortion]

 80年代の後半に凄腕のアンプ・モディファイヤーとして数々の実績を残したマイク・J・ソルダーノが、自身のブランドとしてはじめて量産化した高級アンプ、SLO-100(Super Lead Overdrive)。アメリカン・アンプとブリティッシュ・アンプの良いところだけを併せ持つと言われるその絢爛豪華な歪みを、プライベートなストンプ・サイズに余すところ無く凝縮したのが、このBenado Effects Solburner Distortionである。

 SLO-100のサウンドと言えば、あのマッシュな芯を封じ込めた燃え上がる様なリード・トーンを思い浮かべる方も多いと思うが、実は、ゲインをパスした切なくこぼれ落ちる様な美しいクランチもこのアンプを語る上では欠かせない。Solburner Distortionの素晴らしいところは、ディストーションと名乗ってはいても、実は“GAIN”を絞ればマットなクランチに、さらにギターのボリュームを下げれば熱いサチュレーションだけを残したほぼクリーンに近い状態にまで音を“均す”ことが出来る反応性を持ち合わせているところにある。しかも、ナローなサウンドにするほど6L6管らしい低域の粘っこい張りや、ダークでメロウなミドルがはっきりと伝わってくる。空間を軋み上げる様なクランチというのは、まさにこういったサウンドのことを言うのだろう。素晴らしい哀愁のトーンだ。

 そして、そこから“GAIN”を増せば、あっという間にブライトなロードに歪みが溢れ出し、胴の太い陰影が重なってくる。どんなにドライブさせてもピッキングへの感度は抜群で、超高密度なアタックが跳ね返る手応えがあるのに常にダイナミクスに余裕がある感じもまた、実にリアルだ。歪みが増した後は、中域に溜まったヘヴィなニュアンスとややコンプのかかった高域のピークがせめぎあうことも無く、広く強く流れ出るフィーリングは、SLO-100ヘッドをセレッション製スピーカーの4発キャビで鳴らした時よりも、むしろ200Wクラスのエレクトロ・ボイス製スピーカーを搭載した2発キャビで鳴らした感触に近いかもしれない。

 3バンドEQも、宣伝されている通りにかなり効きが良く、実機の効きを遥かに上回る広範囲なサウンド・チューニングをカバーしている点も見逃せない。マテリアルやスペック云々というよりは、この作者が、本物のSLO-100のトランスやコンデンサーのもたらす効果をしっかりとふまえた上で、アナログ回路に拘りながらひとつひとつ音の成分を積み上げていく丁寧な作業をしていることがその圧巻の出音に表われている。ちょっと面白い2イン2アウト(入力はどちらか一方のみ使用可能。出力は常にパラ・アウト)の構成といい、音はもちろん、その意匠全てに強い好感を持てる製品である。
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[Model G]

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13 BearFoot Guitar Effects [Model G]

 大家ギブソン社にとって、「レス・ポール」の名を冠した製品は何もギターだけではない。52年に発売された自社製アンプ、ギブソンGA-40──通称「レス・ポール・アンプ」もまた、偉大なるレス・ポールの名を持つ製品なのである。ソリッド・ギターの透き通った響きを活かすための機構として、当時アンプ製作で先行していたフェンダーやその他のメーカーに追いつくために独自の工夫を凝らして制作されたアンプ。その唯一無二のトーンに注目し、エフェクターでの再現を試みた天才がいる。それがMad Professorを率いるビヨン・ユール(BJF)である。

 BearFoot Guitar Effects Model Gは、ギブソンGA-40アンプや60年代のFalcon(GA-19RVT)アンプのトーンにインスパイアされたBJFが、かつてBJFEブランドとして限定発売した幻のストンプ・ペダルを復刻したものだ。中空に溶け出すシャラリとした上品なサチュレーション、そしてまるで指を丸めるようにやさしい弧を描いて朽ちる“いなたい”中折れ感。浅く、滑らかな響きの中に一瞬だけポッと灯がともるように明るいピークがかすめ、すぐにサステインに溶けてぷつぷつと波打ち、消える。あの5879五極管による、プリ増幅段の歪み出しのゆっくりとした丸いトーンが見事に再現されている。“N(Nature)”ノブはロー側のパス・フィルターっぽい効きだが、中域にも干渉してくるので、音の立体感補正に役に立つ。

 もうひとつの“C”コントロールの効きがかなり面白く、宣伝では「アッパー・ミッッド・レンジEQ」「うなり」「スピーカー・コンプレッション」を調整できる、とあるが、個人的には「歪みの感度」と「音の硬さ」といった感じで捉え直してみた。実機で例えるなら、サグの出方と、プリ管の違いによる歪みのスピード、スピーカーの振幅と言った具合だ。具体的には、右へ振れば、ほんの少しタイトで速い反応になり、キラキラとして抑揚のあるリッチなトーンに(まるで、プリ段が6EU7管のFalconに近いサウンドに)、そして逆にするとGA-40のような甘くて流れる様なトーンに変化する。かなり直感的な仕様だが、どんな設定にしても最高にジャジイなサウンドが味わえるのは間違いない。こういった高品位な歪みを喜べるようになれば、さぞやギターは楽しいことだろう……そう思わせるのに十分な、そして唯一無二のこのサウンド。腕に覚えがあるならぜひ飼いならしてみてはいかがだろうか。
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[TwinTwelve]

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14 JHS Pedals [TwinTwelve]

 シルバートーン1484 TwinTwelve(セットのキャビネットが、12インチ2発のモデルであったためそう呼ばれた)は、シアーズ・バロック社(現在のシアーズ)が60年代に扱っていたギター用アンプで、ロー・ゲインの下級モデルながら、後の世で著名なアーティストにその希有なトーンを見出され存在価値を高めたという異色の経歴を辿った製品である。その出音は、撫で付けた様な典型的なロー・パワー・ドライブで、ボリュームを実用レベルにまで上げるとザラっとした粗い歪みが柔らかいミッドの飽和に寄りかかる、レトロで、やや“バルク”な響きを持っていることでも知られる。さすがにオリジナルのアンプで得られる歪みは、現代的なニーズの中ではやや使いにくいのかもしれないが、そこはさすがの実力派ペダル・ブランドJHS──この“TwinTwelve”というペダルにおいては、その扱いにくさを上手く殺しながら、1484の古き良きサウンドに画期的な提案を与えている。

 まず、ゲイン。12時の段階で、すでに実機ではほとんど到達し得ない領域まで歪んでいる(といっても、ハイ・ゲインなモダン・アンプから見ればクランチ程度だが)。歪み自体はあまりコシがないパーカッシブなピークをまとまっており、中域より下はブーミーに淀んでしまっている。それでも“BASS”を下げるのを我慢して、“DRIVE”をさらに上げ目にしていくと、その割れていた低域がスッと引き締められ、やがてハイ・ミッドのクリアな立ち上がりが重なって太く大らかな歪みを生むようになる。その段階ですでにオリジナルでは未知の領域である。そして、さらにゲインを上げていくと、アタックの内側に、爪を畳んだような丸みを帯びた芯が宿るようになる。ファズほど無秩序に潰れたりせず、フォーカスがきちんとひとつのベクトルに向かって収束し、きちんとリードに適した「綱」のようにひとかたまりの歪みになっていくのだ。あれほど不細工だった最初の歪みが、ノブを振り切るハイゲインの中では嘘のようにかっちりと来る。これは面白い。

 そして、逆に、“DRIVE”を目一杯下げてやると、アンプとそっくりな柔らかくて鈍い光沢のある裾野の広い音色が顔を出す。これに深いコンプをかけてスライド・バーを走らせたらさぞや気持ちの良い音色を奏でることだろう。そして、そういったクリーンに近い状態のエフェクトとの相性でならば、このよく効くEQを使ってやる意味もさらに増すというものだ。エミュレートしたオリジナルの音の続きを正しく見せてくれるJHSのTwinTwelve。使っているだけでプレイヤーの音への欲求を増大させる、不思議なペダルだ。
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[M-24]

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15 Lumpy’s Tone Shop [M-24]

 そのアンプを「世界で最も美しいアンプ」と評する人々にとって、判断とする基準はなにも、それが鮮やかな赤やグレー、蒼(あお)のトーレックスをまとっていたからばかりでない。スプロMODEL 24──フェンダー・アンプが最初の全盛期を迎えつつあった60年代半ばのアメリカにおいて、ヴァルコ社がスプロに示したそのあまりにも型破りな仕様から生まれるトーンが、反骨を旨とするロッカー達の魂を魅了したことは確かだ。

 堅牢で容量の大きな6973パワー管を余裕を持って動作させることで生まれる、まったりとしたサチュレーション、そして、当時のアンプには珍しく、基板の各所にセラミック・コンデンサーを配したことによる骨太なレスポンスとバリっとした独特の音圧感は、あまりにも象徴的だ。歪みは荒めで、力強いアタックの切り返しとくぐもったような中域の感度によってその余韻にわずかな陰りを残す。Lumpy’s Tone Shop M-24は、それらの特徴を、FETを用いたほぼ同一の回路によって忠実に再現しているエフェクターだ。

 デフォルトで、思ったよりも低音が出ていて音が太い。これはどちらかと言えば、オリジナルのふたつあるチャンネルのうち「BASS」側の入力音質を元にしているのかもしれない。ゲインが上がると一気に枠が外れたようにこんもりとした荒っぽいフィールで鳴り、逆にクリーンに近付けると音にパンチが宿ってエモーショナルなサウンドに変化する。ユニティ・ゲインでもきちんと引き締まった押し出しがあり、か細さは微塵も無い。よく考えられているのが、このトグル・スイッチで入れられるブースターで、特に“DRIVE”を2時より先で使いたい場合に非常に重宝する。いわゆる本格的なクリーン・ブースターとはちょっと違った効きで、それ自体がリミッターを効かせた様な目の細かいクランチを発するアッパー・ブースター的な効きを持っており、ナローなクリーンにハーモニクスを追加して音を強化するというよりも、強く歪ませた時にだらしなく広がってしまいがちなピークの谷間を、それ自身の歪みで埋めるのにぴったりの音質を持っている。それはさながら暴風の様なサウンドで、当然のようにモダンながっちりとした歪みとはいかないものの、こもった引力を吹き払うように発声するそのエネルギッシュなドライブをリードに求めるプレイヤーもきっと多いことだろう。

 18Vで駆動すればさらにレンジの天井が高くなり、本物のスプロと見紛うほどの艶やかな輪郭がしっかりと歪みにも宿るようになる。ジミー・ペイジも愛したと言われるその磊落のトーン。近年復活した本家のサウンドが見守る中で、M-24の存在もまた伝説の一部となり得るのか……その問いが止むことは無い。
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[Ethos Overdrive] 写真:株式会社 楽器堂 オーパス本店

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16 Custom Tones [Ethos Overdrive]

 問答無用の高級ブティック・アンプであり、現存する全てがオーダー・メイドで作られたカスタム・プロダクトであるといわれるダンブル。その中でも、比較的サウンドの傾向が揃っていると言われるOverdrive Specialが究極のアンプ・サウンドなのかはいざ知らず、少なくとも今日まで、数多のアンプ/ペダル・ビルダーがそのサウンドの忠実なコピーを生み出そうと苦慮している事実を見過ごすことは出来ない。

 Custom Tones Ethos Overdriveは、そんな次から次へと市場に溢れるダンブル・クローンを自称するペダル群の中でも、機能、音質、共に最高峰の一角とされるハイエンド・プリアンプ/オーバードライブである。完全独立2チャンネルのフル・コントロールを装備し、ダンブルならではの3連トグル・スイッチ(“BRIGHT”、“MODERN/CLASSIC”……オリジナルでは“MID”もしくは“DEEP”だった……、“JAZZ/ROCK”)に寄せた機構を装備したルックスは、かなりファン心理を刺激することだろう。また、これら細部の音色制御やPRESENCEおよびEQ類のトーン・スタックがドライブ段の前方に集中しているのも、ツイード期よりも後のフェンダー・アンプにやや似た構造を持つと言われるオリジナルのダンブルの回路とそっくりである。ただ、唯一、ハイカット(HCT)だけは単独で歪みの後方に効くように設定されており、現場に合わせた音作りは実物以上の使いやすさかもしれない。

 ダンブル・サウンドを言葉で例えるのには様々な表現があるが、このEthos Overdriveの音色を評してみると、「歪んでいるのに、常に出音はクリーンに聴こえる」という、一見矛盾しているようで、それでいてオリジナル・ダンブルと同じ“ドライブ理論の理想”とも呼べる域の表現こそが最も適切だということを改めて思い知らされる。また、それは同様に「柔らかいのにハイファイ」、そして、「強靭なのに繊細」といった相反するフィーリングを同居させる、何かが達すべくして達せられた先の領域の音に、ほんの少しだが踏み込んでいるようにも思える。音の「速さ」という点では、正直に言えば実物のダンブル・アンプには届かない部分もあるにはあるが、それでも、通常の簡易なストンプ・ボックスで達し得る「速さ」の域を軽く超えるセンシティビティは十分に維持している。これがダンブルか? と言われれば、先にも話した通り1台1台個性の違う個体を揃えるオリジナル・ダンブルに比すべくも無いが、少なくとも“本物”が兼ね備えていたあのいくつかの『矛盾のエッセンス』を確実に保有しているペダルであることは間違いない。

 音色に関してわかることと言えば、このEthos Overdriveが70年代から80年代の6L6GCパワー管を搭載したモデルを基本にして作られた音を持っている、というくらいである。はてさて、“究極”と言われるアンプを模したペダルが、それもまた“究極”たるのは必然や否や。今、わかるのは、ダンブルの「価値」には及ばないかもしれないが、「哲学」を満たす何かがこのペダルには確実に宿っている、ということだけである。……“Ethos”シリーズには、クリーン専用のシングル・チャンネル・バージョン、センド/リターンやパワー・アンプを搭載したバージョン等も用意されている。高価なペダルではあるが、実利にあった選択をして、その機能と音を自らのシステムの中で最大限に活かす方法を探ってみて欲しい。
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エピローグ

 “ジャスト”サウンドを極めた『アンプ・エミュレート・ペダル』特集、いかがだっただろうか。

 リサーチをしていて常に感じたのは、最近の技術者達は「耳が良い」ということだ。どんなに技術者としての腕が優れていようと、オリジナル・アンプのトーンを正確に聴き取る“耳”が無くては、クオリティの高いエミュレーター・ペダルは作れない。もちろん、名機と呼ばれるアンプの音は昔から数々のアルバムで披露され耳に馴染んでいるものもあるにはあるのだろうが、実際に実物を生で聴いた時の印象は、やはりレコーディングされたそれとは次元の違う躍動感、リニア感があるものだ。今回選んだペダルの多くは、おそらく間違いなく本物のオリジナル・アンプを直に耳で聴いて作られたサウンドであろう。それぞれの音には、それだけの真実味がちゃんとあった。少なくとも今回選んだ物の中には、自分が知る本物の音からそう外れた物は無かったように思う。

 それと同時に、近年の職人達の“欲張らない”性格にも驚かされた。もちろん“ジャスト”な音を狙っているからというのもあるのだろうが、「ここをもうちょっといじれば素晴らしいサウンドになるのに」と外野の自分が見ても思う箇所が多々あったにも関わらず、不細工な部分はあえて不細工なまま残すといった趣旨が多く見られたところに、現代のニーズを垣間見た気がするのは思い過ごしだろうか。もちろんそれが、「ただ気がつかなかっただけ」という可能性もなきにしもあらずだが。

 今回はデジマートの在庫の関係で紹介しきれなかったが、最近多くのエミュレート・ペダルを出している国産のVEROCITY Effects Pedalsや台湾産のEGO Electronic等もなかなか良い仕事をしていた。デジタル系のアンプ・シミュレーターが一段落した今、このアナログ・ペダルによるエミュレーター市場はさらに拡大しそうな予感がある。今度はどんなマニアックなアンプを再現してくれるか楽しみなことだ。個人的な希望としては、とりあえず、ケン・フィッシャーのTrainwreckや、セルマーのTruvoiceシリーズのどれかあたりは早々にお願いしたいものである。

 それでは、次回4/13(水)の『Dr.Dの機材ラビリンス』もお楽しみに。

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製品情報

オーバードライブ(アンプライク)

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ディストーション(アンプライク)

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ブースター(アンプライク)

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プリアンプ(アンプライク)

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プロフィール

今井 靖(いまい・やすし)
フリーライター。数々のスタジオや楽器店での勤務を経て、フロリダへ単身レコーディング・エンジニア修行を敢行。帰国後、ギター・システムの製作請負やスタジオ・プランナーとして従事する一方、自ら立ち上げた海外向けインディーズ・レーベルの代表に就任。上京後は、現場で培った楽器、機材全般の知識を生かして、プロ音楽ライターとして独立。徹底した現場主義、実践主義に基づいて書かれる文章の説得力は高い評価を受けている。

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