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  • 木材〜トーンウッドの知られざる世界 第25回

嗚呼、哀愁のフィンガーボード(指板)〜華麗なる指さばきを私の上で……

楽器を構成する木製パーツの中で最も手(指)にする機会が多い部分、それは間違いなくフィンガーボードでしょう。“指板(しばん)”……見事と言う他ない直訳。ポジションマークや派手なインレイに覆われ、縁の下のパワーリフター的存在を長らく続けてきました。スムーズなフィンガリングをサポートし、なおかつ激しいビブラートやハンマリングにも耐え、暴れたがりのネックをなだめつつ、汗・熱・そして指垢の攻撃と日々格闘し最前線を守り続けるフィンガーボード材に、今回はスポットライトを当てたいと思います。

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 フィンガーボード材を選ぶ要件として、本質的な木材特性(比重、密度、耐摩耗性、耐衝撃性、耐水性など)や音響特性だけでなく、見た目のクールさにもこだわりたいのが木フェチの性。定番的なものから、次代を担う新興材までいつもの木フェチ目線からご紹介いたします。

ローズウッド類

ブラジリアン・ローズウッド

 フィンガーボード材の首領。その杢やカラー・バリエーションの豊かさからキング・オブ・ローズウッドとして君臨しているのがこのブラジリアン様です。特有の香りを有する油分は、個体差こそあれ例外なく芳醇なローズ香を放ちます。この楽器を弾いた後の指先を二度嗅ぎする経験はどなたにとってもあるあるじゃないでしょうか。エボニーと見紛うばかりのソリッド・ブラックから、オレンジの稲妻が雲の切れ目から突き刺すオレンジ・ストリーク、この罠にはまったら生きて戻れない蜘蛛の巣状のスパイダーウェブ、そして正統派の柾目ストライプなどなど、すべてが絶景です。

ブラジリアン・ローズウッド指板のギターを探す
ブラジリアン・ローズウッド指板のベースを探す
ブラジリアン・ローズウッド指板のアコギを探す

ブラジリアン・ローズウッド

マダガスカル・ローズウッド

 この名で呼ばれる木にはいくつかの系統・亜種的なものが存在しているようですが、指板には特徴的なストライプを持つタイプが好まれています。この手はブラジリアンと比較しても比重が同等ないしは高く、硬い質感を持った個体が多く存在します。もともと紫がかった色味は経時変化でさらに凄みを増し、迫力が出ます。動植物問わず固有種が多く存在するマダガスカル島は、アフリカ大陸ではなくインド大陸から分離した存在であることを考えながら、指板に指を踊らせてください。

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マダガスカル・ローズウッド

ココボロ

 油分の多さではローズ種の中でも一二を争う存在です。おかげで木肌の表面はオイル不要でしっとり感やなめらかさを保つことができます。表面色の変化が激しいのもこの種の特徴。製材したては黄味が強く、オレンジ、ブラッディ・オレンジ、茶褐色といった段階でさほど時間をかけずに変貌を遂げます。生真面目な地方公務員的柾目からムンクの叫び調板目、そして変態スパイダーウェブなどまで杢のバリエーションには事欠きません。

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ココボロ

インディアン・ローズウッド

 何年も前から“ローズ指板”と言えばこの種の独壇場でした。エレキ、アコギ問わずこの指板に触れたことのない方はいないのではないかと思います。近年は丸太サイズの輸入が困難となり現地製材されたものが多く流通しているようです。コストパフォーマンス比は高く、安定した演奏性を約束してくれます。現状はまだ入手しやすい材ですが、他のローズ種同様、今後は一切の予断を許しません。

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インディアン・ローズウッド

ホンジュラス・ローズウッド

 ローズ種の中ではココボロと並んでヘビー級の双璧をなす材です。ガラスや鉄板をコツいた時に近い硬質タップトーンを持っており、アコギのバック&サイド材として、一時期“ニューハカランダ”なる珍名でも流通していました。色はベビーピンクのような淡色から紫がかった褐色まで存在します。

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ホンジュラス・ローズウッド

アマゾン・ローズウッド  

 これもローズ種の中では重い材です。身の詰まった質感、滑らかな木肌は典型的なローズウッドと言えます。タップトーンは、やはり中南米ローズらしく硬質な響きを持っています。

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アマゾン・ローズウッド

インドネシアン・ローズウッド

 インドネシアにはインディアン・ローズウッドを植林したもの(ソノケリン)もありますが、これはインドネシア固有のローズウッドのようです。草色ベースに黄色やグリーン系の色が混ざり、中南米ローズとは趣が大きく異なります。何かの代替材というよりはまったく違った雰囲気が味わえる点で大穴レコメンドしておきます。

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インドネシアン・ローズウッド

カンボジアン・ローズウッド(S.E.ローズウッド)

 一見、中南米っぽい色や杢行きの個体が多いのですが、れっきとしたアジアンローズの雄です。アジアンローズ類は色がシックで、ややもすると「仏間」感が漂いますが、この種はそんな和の部分を感じさせないスマートな出で立ちです。

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カンボジアン・ローズウッド

エボニー類

アフリカン・エボニー

 かつてはマダガスカルやガボン、そして近年はカメルーン産のものが多く供給されています。産地により微妙に光沢や色度が異なりますが、いずれも“真黒(まぐろ)”と呼ばれている種類です。ソリッドな黒さを持つ個体もあれば、斑(まだら)が点在したり、縞が入るものもあります。真黒の名にこだわるあまり、材の色にこだわる方が多いのですが、年々黒々しい指板の入手は大変難しくなっています。

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マダガスカル・エボニー

セイロン・エボニー

 南インドからスリランカなどで生育する真黒です。国内で本黒檀と言えばこの種を指し、かつては仏具などに大量に消費されてきました。独特のマットな質感は、黒檀の中でも最高級と賞されます。知人木工家曰く、最近のアフリカン・エボニーは墨汁(ぼくじゅう=インスタント墨液)の色、このセイロンは硯で磨った墨色と、その違いを評しています。

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セイロン・エボニー

ブラック&ホワイト・エボニー

 東南アジア・ラオスあたりから産出される、別名・ペイルムーン・エボニーです。国内ではこれを黒柿の代替材として“クロガキ”として売られていることも多いようです。エレキング的(昭和の怪獣)白黒模様からフリーハンドの墨絵ストライプ調などに人気があります。木取りの角度によってまったく見た目が異なり、先の展開が読めない、“エボニー界のローラ”とも呼ばれています。

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ブラック&ホワイト・エボニー

マカッサル・エボニー  

 和名は縞黒檀ですが、“縞”がどうしても引っかかるため、略して黒檀と呼ばれることもあります。味のある木だとは思いますが、指板としての人気は低く、海外ではアコギのバック&サイドとして使うケースが増えています。上述の真黒達に比べて樹径の大きい木が多いのが特徴です。残念ながらこの木も産地では輸出制限が厳しく、安定的な流通が難しくなりつつあります。

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マカッサル・エボニー

カリマンタン・エボニー  

 その名のとおりインドネシア・カリマンタン島周辺から得られるエボニーです。乾いた土色の中に褐色の縞が入ったパターンが多いエボニーです。現状はマカッサルの代替材的な位置づけですが、今後は東南アジアン・エボニーの主流になっていくことを予感させる材です。

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カリマンタン・エボニー

メイプル類

バーズアイ・メイプル

 ネックにも使われることが多いバーズアイ・メイプル、この杢の特徴である鳥眼粒は樹皮側から髄(樹芯)に向かうに従い小さくなっていきます。くっきり見開いた眼を持つ丸太は突板に加工されることが多く、良杢のバーズアイ指板を得るには結構高額な出費を伴います。経年変化で飴色に輝くバーズアイは最高にクールで高級家具のような雰囲気を醸し出し、所有満足感を味わわせてくれます。

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バーズアイ・メイプル

ロースティッド・メイプル

 真空状態かつ高温下で処理されるロースト材。エイジングを加速度的に進行させる手法としてこのメイプルだけでなくアコギ・サウンドボード用のスプルース類などでも見かけるようになりました。材の寸法安定性向上だけでなく、新品時からビンテージ材のような枯れたサウンドを得られるというのがウリです。写真のようにチャラく色づいた日焼け具合は好みが分かれるところですが、そのおかげで甘いシロップ臭も味わえるため相殺ということでご容赦ください。

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ロースティッド・メイプル

アフリカ系

アフリカン・ブラックウッド  

 別名・アフリカ黒檀、木管楽器業界ではグラナディラ(※ややこしいですが「グラナディロ」とは別モノ)の名で知られています。黒さの中にも紫やブラウン・グレーに輝く色の深みがあり、かつ緻密でシルキーな木肌は指板に適しているのですが、重さの点で選択肢から外れることもあるかもしれません。軽い楽器を好む傾向が強い昨今、マッチョなプレイヤーさんにオススメの重厚材です。

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アフリカン・ブラックウッド

ウェンゲ(ウェンジ)  

 柾目の真っ直ぐ(よく見るとギザギザ)な木目が印象的な材です。この木目は家具や内装の化粧板でも多く見られます。ハンバーガーショップM某店の内装がこれで統一されていたのには驚きました。 幅広の柾目が比較的簡単に安価で入手できるので実に有難い存在です。 良質なローズやエボニーが少なくなる一方で、そられの代替材として虎視眈々とそのポジションを狙っています。

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ウェンゲ

国産材

小笠原桑  

 小笠原島固有の桑がこれです。一般的に本土の桑は燻したような茶系、島桑と呼ばれる御蔵島産などは金茶のイメージがありますが、この桑はほぼ闇色です。真っ黒ではなくコゲ茶がとことんコゲまくった感じの闇で、根っこ部分はほぼ神代化、つまり鉱物のような質感です。あいにく、伐採はおろか残存資源自体が乏しく、島の好事家により過去に採取された材がごくわずか存在する程度。まさに世界遺産クラスの希少材です。和材だけでギターを作りたい方、ぜひ25時間かけて探しに行ってみてください。

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小笠原桑

琉球黒檀(八重山黒木)  

 沖縄では家を建てると記念にこの木を植えるそうです。理由はお金持ちになるからとか。三線の棹素材にも使われますが、この素材自体を一般木材市場で見かけることはまずありません。もし見つけたとしても黒い心材部分はごく微量なものがほとんどで、それを価値ある黒檀とは言いがたいのが実情です。ぱっと見、内地の黒柿にも似た風貌ですが、持ってみるとはるかに重いのですぐにわかります。小笠原桑同様、エキゾチックな島木(シマッキ)には心惹かれる筆者でした。

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琉球黒檀

Fingerboard TOPIC!
G’CLUB TOKYO主催「プロジェクト・ハカランダ」

 国内ギブソン正規ディーラーとして最大規模を誇る御茶ノ水G'CLUB TOKYOでは萌えキュンな指板企画が展開されています。インディアン・ローズウッド指板のレス・ポールをブラジリアン・ローズウッドにカスタマイズするという豪腕企画です。カスタマイズ作業はすべて国内屈指のハイテク提携工房で行なっていますので品質もグレート。見て下さい、指板をチェンジするだけでここまで雰囲気が変わります。この企画に対応できるクオリティの指板材やバインディング材、ポジションマーク材の量は限られ、カスタマイズ作業にも大変時間がかかりますので、現物がすぐに購入できるのは奇跡的と言えます。

■ハカランダ指板モディファイ/ギブソン・カスタム1959レス・ポール・エイジド
■ハカランダ指板モディファイ/ギブソン・カスタム1959レス・ポール

左がオリジナルのインドローズ、右は改造後のブラジリアンローズ

 次回は3月29日(火)更新予定! 来月も木になる情報をお届けします。ご期待ください。

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プロフィール

森 芳樹(FINEWOOD)
1965年、京都府生まれ。趣味で木材を購入したのが運の尽き、すっかりその魅力に取り憑かれ、2009年にレア材のウェブ・ショップ、FINEWOODを始める。ウクレレ/アコースティック・ギター材を中心に、王道から逸れたレア・ウッドをセレクトすることから、“珍樹ハンター”との異名をとる。2012年からアマチュア・ウクレレ・ビルダーに向けた製作コンテスト“ウクレレ総選挙”を主催するなど、木材にまつわる仕掛け人としても知られる。

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