AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
エレクトリック・ギター(アクティブ・タイプ)
「アクティブ」と聞けば、多くのプレイヤーはEMGに代表されるバッテリー駆動のアクティブ・ピックアップを搭載したギターを思い浮かべるだろう。しかしここで取り上げる「アクティブ・ギター」はそれだけに留まらない。ピックアップはパッシブだが電池駆動のプリアンプ・サーキットを持つもの、ブースターやバッファー的なエフェクト回路に近いものを内蔵したもの。さらには、独自のサウンド・ギミックや、完全にデジタル制御されたサウンド・プリセットの制御、さらにはチューニング・システムに至るまで、その駆動様式に外部電力を必要とする要素はさまざまである。とかく「パッシブ」が良いとされがちなエレキ・ギターであるが、「アクティブ・ギター」でなければ持ち得ない多様なサウンド、機能性にもぜひ目を向けてみて欲しい。
エレキ・ギターの世界には、昔から、奇妙な“信仰”がある。
ある特定の条件下で、そのギター・サウンドは例えどんなに素晴らしいトーンだったとしても正当な評価の対象から外されてしまうことがあるのである。誰が決めたわけでもない。法を犯しているわけでもない。にもかかわらず、それを“良い音”だと公言することを阻もうとする力学が、エレキ・ギターの世界には確かに存在する。
はっきりしているのは、それが「アクティブ・サウンド」に対して放たれる、断固たる不条理であるということくらいだ。その批判の理由すら誰ひとりはっきりと語ろうとしないにもかかわらず、ギター・サウンドが議題になる時、残念なことに、アクティブ・サウンドのスタート地点は伝統的なパッシブ・サウンドの数歩後方に置かれてしまう。
そして、声にならない非難だけが浴びせられる。「アクティブなんだから音が良いのは当たり前」? ──笑わせてくれる。一体、そういった妄信を語る足下のボードには、電池で駆動するエフェクターがいくつ転がっていると思っているんだ。直列に繋がった電気信号の中で、ギターにあってダメで、エフェクターならば良いという理屈などありはしない。言うにこと欠いて「アクティブ臭い」だの、「邪道」だの、音で対等に勝負できない者達のボキャブラリーの何と貧困なことか。言っていて恥ずかしくないのか?
今ならばはっきりとわかる。それは“恐れ”なのだ。階段をひとつ飛ばしに上ってくるものに、なんとかハンディ・キャップをこじつけるための詭弁だ。自分が怖がっていることを認めたくないという狭量が生むジェラシー、自己陶酔の果ての醜い感傷でしかない。真っ当に育った新しい可能性をおとしめることでしか自身のサウンドを正当化できないなんて、空しくはないのだろうか。もはや、そういう偏見が生まれる土壌があるというだけで、エレキ・ギターの未来など知れている。自分で長い時間をかけて培ったサウンドがあるにも関わらず、権威や伝統に縛られたレッテルで自分の耳を塞いでしまうなど滑稽だ。
音の話は、“今、そこにある音”で語るしかないことを忘れてはいけない。眼鏡をかけて読んだ本より、裸眼で呼んだ本の方が優れているのか? 建ったビルの内装のネジを締めるのに電動ドリルを使ったら、その建物の価値が下がるのか? ……つまりは、そういうことだ。音を目の前で並べられないなら、若者が変な言葉を憶えてしまうから、そういうのは自宅の押し入れの中ででも好きにやってくれ。
アクティブ・サウンドが世に溢れる世界、それこそがまさに、現代エレキ・ギターのリアルだ。音が動き出す瞬間に寄り添うわずか9Vの微弱な電気の力が、ギターという楽器の可能性すら変えてしまう。だから、面白いんじゃないか。くだらない“信仰”によってこの痺れるような時代のうねりを見失うなど、それこそすでにひとりのギタリストとしてのバッテリー寿命が尽きてしまっているんじゃないかと疑いたくなる。
さあ、くだらない偏見を捨て去り、あらためて楽しい音比べを始めようではないか。50年代のレス・ポールも、あくた藻屑のビザールも、ピカピカのアクティブ・ギターも、みんなまとめて「よーい、ドン!」だ。
頭の中がアクティブ・モードじゃなきゃ、いつだって時代にはついていけない。音の世界とは、そういうものなのだ。
今回は、『アクティブ・ギター』を特集する。ギターで“アクティブ”と聞くと、ほとんどの人はEMGに代表されるアクティブ・ピックアップを搭載した製品を思い浮かべるかもしれないが、実はアクティブ・ギターの世界はそれだけには留まらない。ピックアップはパッシブなのに電池駆動のプリアンプ・サーキットを持つもの、ブースターやバッファー的なエフェクト回路に近いものを内蔵したもの。さらには、独自のサウンド・ギミックや、完全にデジタル制御されたサウンド・プリセットの制御、または、音色とは別のチューニング・システムに至るまで、その駆動様式に外部電力を必要とする要素はさまざまである。しかも、それをアナログ材で武装したギターという枠に適応させようとする時、そこには電子メカニズムを越えたサウンド・コントロールの駆け引きが生まれ、それがいつの間にか楽器の個性になっていたりもする。ギターの世界では後発とも言える“異分子”的テクノロジーを、どのように各メーカーが飼い均し、乗りこなすかで、各自の信じるトーン・デザインにプラスαの効果をもたらし得たのか……それを知ることは、また新たな角度からギターという楽器を見つめ直すきっかけになることだろう。
個体の選定にはいつも通りデジマートの在庫内から行ない、ギターはエレクトリック・ギターの括りに入れても良いものに限っている。さらに、アクティブ駆動の要素に関わるピックアップのレイアウトや、使用ジャンルの傾向がカブるものは極力避け、マテリアルの個性に特色のある個性的なモデルをなるべく集めるようにしてみた。今の時代、いざ自分のギターに“アクティブ”要素を追加しようとしても、完成されたギターであればあるほど電池ボックスひとつつけるにも莫大な労力が必要となる。この特集を見て、デフォルトの現行『アクティブ・ギター』達に、伝統的なパッシブ回路のギターでは決して届き得ない素晴らしいサウンドの素養を見出していただければ幸いである。
レス・ポール──そのギターが常に伝説であり、羨望のまなざしの中で輝きを失わずにいられたのは、伝統と革新の両方を備えるモデルが途切れること無くその時代に存在したからだ。レス・ポール・デラックスは、3ピース・ネックやパンケーキ・ボディといったマテリアル改変の嵐が吹き荒れた1969年に誕生したモデルであり、カスタムと共に70年代前半のギブソン・ハムバッカー・サウンドを語る上で無くてはならない存在であることはご存知の通りだ。その最大の特徴はP-90サイズのミニ・ハムバッカーによる、良い意味で角が取れた上で歯切れ良く聴かせてくれる、そのスマートなサウンドに尽きると言っても過言ではない。
2015年のデラックスでは、伝統の“ポールピース有り”のデラックス用ミニハムは新たに設計し直され、より洗練されたトーンに生まれ変わっている。音像はかなりブライト目にシフトし、ピーク部分の歪みはむしろタイトな印象を与えつつ底上げされたみりみりとした音圧がピッキングにしっかり乗ってくるフィールは、一聴すると歪み出しが鈍くなったようにも感じる。しかし、ナローなイメージは全く無く、倍音の多さが歪みに直結しないそのモダンな響きはそのままでも十分に美しく、搭載されたアクティブ・ブースターをオンにすることでさらにその真価を最大限に引き出すことができる。輪郭が膨らむこと無く、前に出る推進力を押し上げながらも抑揚を引き出せるのは、ハイ側がオープンになり過ぎず音量をキープできるアクティブ・ブースターがあっての音質だ。
標準装備されているチタン・サドルの中域に溜まる余韻もそのテイストによく合っている。ミニハムの滑らかな響きの中でもともとあるクリーンな倍音を効率的に歪みに転化するこの増幅回路(最大+15dB。キャビティ内部のトリムでブースト量は調整可能)のチューニングは、パッシブ・ハムと内蔵アクティブ・ブーストの新しい雛形となりそうだ。ただ、やはり、ブースト・オン状態ではかなり出力インピーダンスが下がるので、古いアンプほどスイッチ切り替え時のフィードバック・レンジのコントロールはシビアなものとなってくるはずだ。特に、ギターのボリュームをハーフの状態からブーストに入れる時にはアンプやエフェクター側の入力容量とS/Nの変化にも細心の注意をはかりたい。
そして、Gibsonの新しいアクティブ因子は出力サーキット以外にもある。あのロボット・ギター由来のオート・チューナー『G Force』もそのひとつだ。無論、この機能の標準搭載には異論のある方も多いだろうが、それも考え方次第だ。ギターという楽器の進化の過程で、何を優先し、何を“効果的”と考えるのか……新たな電子制御を音に転化するブースターとギタリスト的なオーソリティとして最も顕著なルーティーンであるチューニング作業において、どうやら、その精度と自己のアイデンティティのバランスを量るための問いかけをする時がやってきたようだ。少なくとも、この2015年のデラックスの仕様を見ているとひしひしとそれを感じる。時代の節目に現れ、必ず新しい試みでサウンドと使い勝手の最先端に挑むレス・ポール・デラックス。幅広ネックやチューン“オー”マティック・ブリッジ、ゼロ・フレットばかりじゃない、真に実践的な確信に基づいたマシーナリー・パワーが導き出すアクティブ要素からも、老舗が目指すしたたかな「融合」の意志を読み取っていきたいものだ。
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2012年に登場したスティーヴ・ルカサー・モデル、LIII。2013年にネックの仕様変更等はあったものの、すっかり王道のアクティブ・ギターとして定着した観のある現代の名器である。その出音の核となるのは、長年、EMGというプリアンプ一体型のアクティブ・ユニットをおおらかに歪ませることで音を作ってきた大御所のトーンを、「パッシブ・ピックアップ」と「ギター内蔵のアクティブ・サーキット」という二重構造の増幅段が構成する歪みへと移行させた、そのハードウェアのコンビネーションが生む絶妙なバランスだと語る者も少なくない。すなわち、Dimarzio製TransitionピックアップとMUSIC MANオリジナルのオンボード(インナー)プリアンプのことである。
TransitionはそもそもがLIII専用に開発されたピックアップであり、ルカサー御用達として知られるEMG 85とは違ってマグネットもアルニコではなくセラミックだ。サステインはあるものの、そのままの音はややフォーカスが甘く、中域にも割れた感じのエッジ感や押し込む様な密度が出ていて一筋縄では行かない。言い換えれば、現代のディマジオらしくフラットになり過ぎないように意図的にチューニングされており、「スムーズでは無いが抑揚はある」といった印象だ。これがLIIIのアクティブ回路に合わさると、キュッと音の目が引き締まったサウンドに変化する。それは、真ん中がもの凄く奥行きのあるサウンドで、特にハイ・ミッドは、かなり大胆に歪ませても下品な割れ方は一切しない。コシがあり、引っ張り込む様な粘りのあるドライブが心地良くうねり、しかも、ピッキングにダイレクトに追従してくる。いわゆるアクティブ臭さというフィーリングが一切無く、パッシブのピックアップを存分に遊ばせた上で、アクティブの硬質&クリアなフィルターで美味しいエッセンスだけを搾っていっている様な音色、とでも言おうか。個人的には、エフェクター、特に空間系の乗りや静粛性はEMGに一日の長があると感じたが、歪みの中での表現力、アタックのダイナミズムではこのLIIIによるDimarzioとオリジナル・アクティブ・サーキットのコンビに軍配を上げたい。特段、L.A.っぽい歪みが好みではなくとも、中域にピーキーな癖の無いパッシブ・ピックアップのトーンからナチュラルな歪みを引き出したい全てのユーザーに、このギターの仕様は有効と考えて良いだろう。
今回試した個体はHHレイアウトだったが、SSHのものもラインナップされている上、ピックアップ間の音量バランスやブースト(VOLUMEノブを引くとブーストする)量も内部トリムで任意に調整できるので、手持ちの機材にもかなり柔軟に対応できるはずだ。特に、古いTS系ドライブのブーミーなミドルとPAF系ピックアップの組み合わせでスウィート・スポットを見つけるのに苦慮しているユーザーにお勧めしたい。最近ではボディがバスウッド(LIIIはアルダー)になった廉価版LK100D(ブランドはSBMM:スターリン・バイ・ミュージックマン)も国内に入ってきて、このサーキットに触れる機会も増えたはずなので、より多くのプレイヤーにこの鮮やかな歪みを生む回路のポテンシャルを実感してもらいたいものだ。
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メガデスのフロントマン、デイヴ・ムスティンのVと言えばVMNTだが、このSTRADI VMNTは数ある歴代Vシェイプ・ギターの中でも抜きん出た個性を放つモデルとして知られている。バイオリンの名器ストラディバリウスにインスパイアされたというVシェイプ・セミ・ホロウにfホール、しかもトップのメイプルはアーチで、弦は裏通し……とくれば、さすがに見かけ倒しかと思いきや、意外や意外、生で鳴らしてみるとネックの根元にきっちりと音の返る感触がある。もちろん、トップはメイプルなので響き自体はコンコンとして頭打ちではあるものの、そのBlust Cultも真っ青の奇抜なデザインにしては中の音がきちんと共鳴しているのは驚きだった。
そして、そこに、VMNTではおなじみのSeymour Duncan製アクティブ・ピックアップLive Wire(Dave Mustaine Model/LW-Must Custom)が載る。ハイ・パワー且つ古典的なアクティブ・タイプのマイクであるLive Wireシリーズは、EMGほどの統制されたディレクションは無いものの、歪みを抑えたワイドなレンジ特性と滑らかで速いアタックを持ち、初期には18Vの高電圧駆動だったことも相まって名を知られた名物ピックアップであり、現行のBlackoutsの原型ともされるモデルだ。しかもこのVMNT用のものは、周波数特性をフロントはSH-2 Jazz、リアをSH-4 JBという同社のパッシブ・タイプと同じに揃えたタイプで、実際、その組み合わせがSTRADI VMNTにもたらした効果は予想以上だった。
その音は、しっかりと芯があり、歪みは明確で強い上に、沸き上がる様なホロウ独特の空気感もついてくる。EMGのようにきらびやかな倍音が無いのでマーシャル系のハイゲイン・アンプに入れてもハウりにくく、全体的にアコースティックな色づけにも関わらず、ミドルは乾いていて噛み付く様なエッジが沸き上がるところにきちんとメタルっぽい獰猛さがあって面白い。しかも、硬質なのはピックが弦から離れるまでで、一旦伸び上がった倍音は一瞬クワっとした飽和を見せた後、驚くほど美しく解けていく。さらに、そのサステインの減衰に入れ替わるように、アンビエンスを増幅した人工的な余韻が立ち上がり、最後には横に広がって薄くなっていき、消える。人工的と言えば人工的だが、そこにはコントラバスやチェロを押弦した時の様な「グン」という音にならない重い弾性が常につきまとっており、この音をあのか細いエレキ・ギターの弦で出すためには、もはやこのギターの仕様とピックアップの組み合わせでしか不可能ではないかと思わせるほど、それは奇跡的に空気の「力感」のみを強調するサウンドに仕上がっていた。
もし、ギタリストが「ソロイスト」であるならば、このSTRADI VMNTのサウンドは間違いなく武器になることだろう。条件さえ揃えば、本来ギターの領域ではないクラシック・サウンドさえも拾い上げることができるという、アクティブ・ピックアップの知られざる可能性を暴き出してしまったこの恐るべき迷器、STRADI VMNT。今後は、未だ“ただひとつ”のその音に対して、さらに幅広い使い手による検証が進むのを望むばかりである。
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xtSAはボストンのバークリー音楽院の実践カリキュラムで採用された、ギター・シンセ出力を併せ持つ多機能ギターだ。同種ラインナップ中ではいわゆるコストパフォーマンス・モデルとなるが、フラット・トップでピックアップがGodinオリジナルであることを除けば、機能的に上位機種に見劣りする部分は一切無い、機動性に特化した非常に優秀なモデルであることがよくわかる。
基本構造はHSHレイアウトのソリッド・スタイルなエレキであり、“Electric”専用アウトの音はカンと張った木の鳴りが味わえる、オーガニック・サウンド。デフォルトのピックアップGHN1(フロント)、GS1(センター)、GHB1(リア)はパッシブで、オープン目のチューニングながらあまりハイ上がりになり過ぎないように設定されている。歪みは細かくて力強いミドルが良好だが、クリーンで弾くと少し明るさが足らない印象だ。だが、そこでこのギターの特徴のひとつであるピエゾ・サウンドとのミックスを出せるMix or Acousticアウトであれば、きらびやかな高域の倍音を好きなだけそのマグネット・ピックアップ・サウンドにミックスすることができる。
ピエゾ音は、ブリッジ部分に仕込まれた弦ごとに完全に独立したGodinカスタムの「RMC」トランスデューサーによって拾われる仕組みで、分離が良く“ダマ”にならないサウンドをしっかりと形成してくれる。しかも、アコースティック・ラインのサウンドは、9V電池で駆動するアクティブ・プリアンプでメイキングされており、ローがダブついたり、エレキ・サウンドと混ぜた時に特定帯域の倍音だけが強調されたりしないようになっているので実に使い易い。ホロウ的な胴鳴りがほとんど無い分、むしろピエゾとマグネティック・ピックアップのサウンドを7:3ぐらいで大胆にミックスする方がこのギターの材の持つ特性を上手く引き出せる気がした。ただ、ピエゾの感度は予想以上に高く、ミュートでブリッジに手が当たる度にノイズを拾ってしまうので、結局、ミックスの割合はプレイ・スタイル次第ということになるだろう。
そして、もうひとつの機能であるギター・シンセ出力では、13ピンのコネクターのRolandのGK入力を持つインターフェイス(GI-20等)を介してPCへのダイレクト・レコーディングにも対応する他、フット・マルチ・タイプのギター・シンセ、GR-55を使えば、COSMテクノロジーの恩恵を活かしたエフェクト類で武装した音色を、エレキ、アコースティック、シンセの三つをいつでも好きなように切り替えながら完全にコントロールできるようになる。しかも、シンセ・モードでのレイテンシーも、実際にリサーチで使用したGR-55ではほとんど気にならないレベルだった。エレキ・ギターのサウンドの可能性を多角的に追求できるだけでなく、ギター・シンセの使い勝手を含めた全てが高い次元でGodinクオリティとして統合されたこのモデルは、価格、機能的に、特に作曲媒体の音楽家達のセンター・モデルとして今後も普及していくことになるだろう。
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トナカイの角を連想させるその奇抜なボディ・デザインと、ヘッドレス……現代最新鋭の人間工学ギターと言えば、このStrandbergだろう。国内でも、OEM生産の韓国製OSシリーズや、ようやく流通を開始したエボニー指板の国産J-Seriesの出来の良さから、店頭でも目にする機会が多くなったこのメーカーのBodenタイプだが、やはりその原点のサウンドにはUSA、そして現行のスウェーデン・カスタム・ショップ製品があることは言うまでもない。
初期からカスタム・ショップで極少数限定で生産されてきたココボロ・ネックとEMG 57/66ピックアップのコンビネーションからくり出されるサウンドは、OEMでは定番となったメイプル・ネックにLaceのAlumitoneやSeymour DuncanのPegasus/Sentientといった組み合わせとはひと味違った音質をもたらしてくれる。ココボロの巻き上がる様な独特の密集した倍音感とともに、歪みとクリーンで二極的なサウンドを聴かせるEMG 57/66のアクティブ特性がこの類を見ない形状のチャンバー構造ボディに干渉して、エッジ全体に絶妙なテンプテーションを解き放つ感触は、ちょっと身震いするほどに鮮烈だった。
特にクリーンは色味が強く、マットで、PAF系のトーンも出せるはずのフロントの57が、まるで高級なH.A(ヘッド・アンプ)に直挿ししたみたいに張りつめたクリスタル・トーンになる。それでも、わずかに薄い雪の膜に被われたようにふわりとPAFの輪郭も残しており、それをピッキングで突き崩しながら弾けば、ちりちりと飽和する倍音をしっかりと手元に感じることができるのである。それは、無慈悲に静謐ないつものEMGトーンとは根本的に音の深みが違う。相対的にジャジィなサウンドにシフトしているので、ラック系のリッチなコーラスやデチューン等とは抜群に相性が良いことも、この楽器を使う時に頭の片隅においてシステムを組むと良いだろう。
しかも、音だけでなくこの非対称の台形“エンデュラー・ネック”と、1弦側から6弦側に向かって扇状に広がるように打たれた“ファン・フレット”は、やはり何度弾いても不思議な倒錯に陥りそうになる。数分弾いているとギターのヘッド側が自然に立ち上がって、一番手に楽な角度に勝手に収まってくれる印象だ。弦を跨ぐ様なチョーキングには慣れも必要だが、あまりにも手首に負担がかからないので、筆者の場合はディミニッシュ系のロー弦に小指がいつの間にか自然にかかるようになっていた。そうやってコードで再生される音の増加が、さらにEMGの明瞭な分厚さに拍車をかけるといった相乗効果を生むことも、人によってはあることだろう。
一時代を築いたスタインバーガー等とは全く違うアプローチで進化した近代ヘッドレスの雄、Strandberg。その一番濃いエッセンスを受け継ぐEMGモデルのサウンドに、“型”にはまらないシンパシーの源を見ることができるだろう。
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アコースティック・ギターを極めたサンディエゴのメーカーが、独自に開発を進めたテクノロジーにより、操作性とサウンドの両面でエレクトリック・ギターの世界にアプローチを開始してからすでに十余年。その結晶とも言うべき完璧なホロウ・トーンを持った新世代の巧、T5が、更なる小型化を果たしたT5zに昇華されて尚、そのコンセプトは未だ他のメーカーによる追従を許さぬ勢いで進化を続けている。
T5zのサウンドは、弦と材に伝わる振動を最大限に捉える3つの集音機関「エクスプレッション・システム・ピックアップ」を、T5よりもさらに薄型コンパクトになったボディに格納し、より強い歪みを効率的に信号変換できるようになったのが最大の特徴だ。ブリッジ近くのトップ面に顔を出すリア・ピックアップ、指板の最終フレットの下あたりのネック・テノン先端に埋められたストリング・センサーを兼ねたフロント・ピックアップ、そして、ボディ・トップ裏には複雑な共鳴を感知するダイナミック・ボディ・センサーをリムのセレクターで選択しながら使うのだが、特にダイナミック・センサーは一般のコンタクト・ピエゾのように簡単にハウったりせず、空気感もあり、それをアクティブ・プリアンプで常に増幅していることから音量も十分という優れもの。このセンサーが、他の二つのマグネティック・ピックアップでは拾いきれないアコースティック・サウンド独特の高域飽和と、ゲインの高いピーキーなエレキ・サウンドの橋渡しをしているのである。T5ではやや電気的なドライブ・サウンドの中では持て余し気味だったその密集した倍音の出方も、この小さなボディならば「エクスプレッション・システム・ピックアップ」の能力は、よりエレキ・ギターに適性を発揮しながら非常にバランス良く働くようだ。
試しにT5zをMesa/BoogieのMark Vのヘッドに突っ込んでみたのだが、その出音はあのギラつくメサのドライブを、ホロウ特有のシャリンとした鳴りの中で完璧に歪ませてみせるほどだった。しかも、空洞の中で「回ってしまっている」ようなサウンドでなく、明確な直進性を持った熱量のあるチューブ・ドライブを聴かせてくれるとなれば、誰もがそのポテンシャルにワクワクせずにはいられなくなるだろう。デフォルトでエレキ弦を張るその薄いネック、ジャンボ・フレット、ラディアス指板……遅まきながら、製作者が“T5z”にどんな可能性を見ているのかその結果からはっきりと読み取れる気がした。これは、決してアコギ界からの敷居を下げた入門のアプローチなどではない。エレキ・ギターしか知らない人々をアコギで見せる可能性の虜にさせるための、アンプラグド製品の確信的「侵攻」なのだ。
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「北欧のルカサー」と異名を取るレディオアクティブのギタリスト、トミー・デナンダーのシグネチャー・モデル……その名も“Radioactive TD Special Pro”。深く歪ませながら、大胆かつ叙情的なフレーズ・ワークで知られるモダンなテクニシャンが持つに相応しく、そのハードは前衛的な近代仕様で固められたプレイアビリティの要塞といった趣だ。
やはり、なんといってもVGSのお家芸とも言うべき「エバーチューン」ブリッジの持つ機動力には目を見張るものがある。これは各弦の独立したバネ式テンション・サポートが一定のゾーン内でフローティング状態となり、弦の弛みや伸びに左右されずチューニングを維持するというもので、電動機を使わないメカ式チューニング・システムの革命と言われ、すでに業界に浸透しつつある機構である。その画期的な弦テンション維持機能に組み合わせ、このモデルにはさらにTrue Temperament社製「トゥルー・テンペラメント・システム」が導入されている。こちらは平たく言ってしまえば、直進するフレットで半音よりシャープしてしまうフレット間に対して補正がきかないのに対して、物理的にフレットの位置を弦ごとにずらしてやることで、コードによるノートのピッチ補正を適正にするもで、あの「バズ・フェイトン・チューニング・システム」の基礎にもなっているアイデアである。そのフレットを見るとあまりにジグザグになっているので、一瞬、ぎょっとするかもしれないが、一度コードを弾けば本当に狂いの無いコード・アクションというものがどれほど整然としたハーモニーを呼び起こすかを思い知ることだろう。
そして、その二つのモダン・チューニングの最先端システムで寸分の狂いも無く整えられた音を再生するのが、SSHにレイアウトされたEMG SLVとEMG 85という、いささか大っぴらなルカサー・コンビ。SAや81よりもさらにロー・ミッドに艶やかなパワーが伸びるそれらの音は、一切の物理的狂いの無い音程の中ではこれほど鮮烈に響くのか、と唖然とするほどの優等生ぶりだ。この音を聴くと、今まで歪みだと思っていたものの成分の内の2割近くが雑音と不協和音の産物でしかなかったことに気付かされる。もしこれがアクティブ・ピックアップで無かったとしたら、その差はさらに顕著になるに違いない。伝統のアクティブ・サウンドEMGからもさらに芯から透き通った歪みを取り出すことのできる究極のチューニング・マテリアル、Radioactive TD Special Pro。チューニングというメカニズムがアクティブ駆動による信号強化以上に音を変えてしまう時代は、もうすぐそこまで来ているようだ。
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名工ロジャー・サドウスキーが提示するコンポーネント・ギターの究極とは、材も、ハードウェアも、組み込みも、その全てがひとつのサウンドを目指して高められて、高次元にバランスされた先に生み出される個体を指していることは明白である。わずかな欠損や手抜きも許さない突き詰められた仕様を得るため、そのマテリアルの完成には一種の禅問答の様な相反する構成を同一素体に織り込もうとする姿勢が所々に見られるのもその特徴のひとつだ。
例えば、エレキ・ギターでありながら、そこに求める誰よりもアコースティックなトーン。そして、シングルコイル・ピックアップなのにハムバッカーよりもノイズの少ないサウンド。さらには、誰もが知っているスタイルの馴染みある使用感をなぞりながら、この世にひとつしか無い個体を目指すこと。それらは全て矛盾した問いであると知りながら、サドウスキーはそのひとつひとつに丁寧に答えを出し、独自のスタイルを我がものとすることに成功している。それは、Sadowsky NYC特有のホロウ・ボディとアクティブ・プリアンプの組み合わせであったり、スタック構造のハム・キャンセル・ピックアップであったり、さらには、STやディンキー・スタイルにハイグレードな材と前述の二つの要素を同時に搭載することで、「総合的」に完結するオリジナルの芸術によって達せられてきた。
いわずもがな、Sadowsky NYCのサウンドは、決定的に木の柔らかなトーンの底をロー・ノイズなアクティブ・サウンドが支え、シングルコイル・ピックアップは単体駆動時にも静穏である。だが、そのいかにも実践的に思える仕様の積み重ねが、そのギターの価値を予想以上に押し上げてしまったことは皆の知る所である。澱みなく貫かれた思想は、ただ一瞬の決着のために極限まで研ぎすまされた刃のごとくそのポテンシャルを隠されることとなり、その音を万人に届けたかったはずのサドウスキー本人の望みとは別に、今やそれは名実共に高級ギターになってしまったが故の新たなジレンマの中にある。一度音を出せばハッとさせられる。それは明らかに出し惜しみされるべきサウンドではない。内蔵電池が液漏れを起こすまでハードケースの肥やしにしておくものなんかじゃない。それに気付くためにも、Sadowsky NYCのギターを手に入れたら、その最大の象徴とも言うべきアクティブ・サーキットを一度オフってみて欲しい。それでもきちんとエレクトリック・ギターとして十分過ぎるほど素晴らしい鳴りを持っていることに気付かされるはずだ。
完成度を突き詰めた結果、遂に、どこかひとつを失っても成立してしまうほどの領域に行き着いた楽器……それがSadowsky NYCのギターだと知ることができるだろう。それを解放してやることは、今後、このギターに触れた全てのギタリストの義務になる。容赦ないほどに“覚悟”させられるギター、それがこれだ。
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他のエフェクター的ハードを一切用いずに、古今東西の代表的なエレキ、アコースティック、さらにはエスニック系のシタールやバンジョーの様なサウンドまでを1台で切り替えながら使えるギター・モデリングの究極形、新世代“Variax”ギター。その中でもこのJTV-89Fは、フロイド・ローズ搭載によって汎用性の高いプレイアビリティをカバーしつつ、ギター・デザイナー、ジェイムス・タイラーが全面監修する洗練されたハードウェアによって作り出される高度なセンシング媒体を兼ねたアナログ楽器としても非常に高い完成度を誇る。つまり、Variaxが持つHDテクノロジーのコアを有効に活かすために見つけた最高の法則は、正統派エレクトリック・ギターとしての使い勝手をしっかりと磨き上げることで「人に優しい」デジタル・ソリューションとして完成されることだったのである。
まず、ブリッジ・ピエゾを介して基本の音を拾うVariaxシステムにおいて、パッシブ状態でも完全動作するマグネティック・ピックアップの搭載は、第2世代に入って起こった最大の革命だった。いかにモデリング技術が進化しようと、ギター本来の生のサウンドと弾いた時の気持ち良さを置き去りにしては、プレイヤーとモデリング技術の距離が埋まらないことに気付いたのは、Line 6、そしてジェイムス・タイラーの偉大な功績と言える。実際、JTV-89Fに搭載されているアルニコ・マグネットのハムバッカーは、PAFライクでありながらも、しっかりと芯があって、中高域の美味しい部分をプッシュする教科書通りのバランスのとれたサウンドだ。結果、そのピックアップから得られる出音もVDI(Variax Digital interface)を介した機器上でミックスすることが可能で、Variax HDテクノロジーにとっては音色を増やすプラスの要素として大いに還元されている。
加えて、ピッチを変えることなく出力サウンド上のチューニングをつまみひとつで切り替えられる「バーチャル・カポ」機能の精度がもの凄く高いとなれば、これはもはや事件だろう。そして、これだけの機能を備えたパーツとバッテリーを搭載しながら、ギターの重量は全く取り回しに不自由しないレベルに留まっているから素晴らしい。アクティブ回路を支える電源が充電式であるというのには賛否もあろうが、それでもこのギターのトータルの利便性はあまりある。デジタルを活かすために究極のアナログ・スタイルを求めたLine 6 JVT、その発展の中で見せたアナログとデジタルの良好な融和を今後とも大切にしていって欲しいものだ。
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独自の技法で積み上げたプレイアビリティの高さ、そして「バーニング・ウォーター」やシュメア・フィニッシュ等の印象的なルックスで世界的に名を知られるJames Tylerのラインナップを国内で再現する、ファクトリー飛鳥&STR製James Tyler Japanモデル。一度音を出せばわかるその音の立ち上がりの速さ、オープンなミッド・レンジとコード・ストローク時のフォーカスのぴしりと合ったヌケの良さ、それでいて深く歪ませるとコシの強い褐色のトーンに変化する表情の豊かさ……どこを取ってみても、もはや本家に負けずとも劣らないクオリティに達していると判断せざるを得ない圧巻の仕上がりだ。
そのモデルに、本家James Tylerの真髄とも言うべきStudio Eliteが加わったことは手放しで喜ぶべきニュースだろう。そして、そのStudio Eliteの中でも、多彩な音色コントロールを実現する「リズム/リード・サーキット(ピックアップごとのシリーズ/スプリット/パラレル切り替え)」とアクティブな「ミッド・ブースト・プリアンプ」を搭載したフルスペック・オリジナル・モデルには、さすがブランド30年の歴史を背負ってきただけの独特のオーラがある。特にこのブースターは良く出来ており、オリジナル・ピックアップのできる前からあったとは到底信じ難いほどにこのギター特有の音色の輪郭をスマートに強めてくれる。倍音の出方などはちょっとピークの先端が丸く曇る様な味付けがされているので、真空管アンプの飽和したざらっとした歪みにも実に相性が良い。素の音がブライトで歯切れが良いのに、ブースターにあえてキャラクターを持たせるようなチューニングは、ブーストON状態ではアンプのプレゼンスとコンターを同時にアクセスする様な独特のフィールがある。
現代においてもなお斬新かつ合理的なそのアクティブ・トーンによるコーディングには、80年代から培われたひとりの職人の意地と、さらに未来のサウンドへ託す飽くなき理想が込められている様な気がしてならない。多彩かつハイファイな音色を持つデジタル・エフェクターと究極のアナログ増幅である真空管アンプの混在する、現代的システムの中でこそ力を発揮するギター……その大本命となり得る実力をこの国産“STUDIO ELITE”が持っていることは、どうやら間違いなさそうである。
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世の中に「完璧なサウンド」をうたったギターは数あれど、ここまでやられたらむしろ「可愛気が無い」という表現しか残されていないほど、このギターを語る言葉には苦労させられる……それが、このProvidence sD-102RSV、いわゆる「今剛モデル」の実状であろう。電気的にではなく、あくまで技術者の感覚の元で完成されたサウンドという意味で、現行のJ.M.Rolph 59LP PAF Style/TappedのセットとProvidenceによる線材のチョイスとワイヤリング、そしてデフォルトで内蔵されたVitalizer-G1によるロー・インピーダンス・サウンドのコンビネーションには一切の隙というものが無い。どこを弾いても「強い音」が出る。立ち上がりの潔さ、それと同時に現れる、はじける様なガッツ、そして、タイト過ぎない低域の質量……Deciver時代から時間をかけて成熟させてきたサウンドの均衡は、アマチュアが目指せる理想の域を遥かに凌駕してしまっている。
ギター自体の材のチョイスやパーツの選定によるプレイアビリティを並べてもその評価は決して変わることは無いに違いない。どんなにブン回してもその均衡が崩れない無慈悲さがアナログ楽器としては鼻につく所ではあるが、いざ“奏者を選ばない適応力”の広さを比べれば、そのサウンドに対抗できるギターは数えるほどしか無いであろう。細かな趣向で言えばピックアップが59LPにしてはやや暴れっぷりが足りないか? などと感じる部分もあるが、各分野の名匠達の力量が全て高い次元で噛み合ったからこそのこの堅牢な鳴りであるということだけは、短い時間弾いただけでもはっきりと伝わるものがあった。
今回のリサーチ中にひとつ気付いたのは、Vitalizer自体の音質についてである。かつてのVitalizerはもっとピッキングやポッドによって生じるインピーダンスの常時変化に対して振り幅の大きないくつものピーク・センシングを発揮していたように思う。今回弾いたそれは、ただ機械的にインピーダンスを下げるだけでなく自らシステムを経由した先の音に向かってチューニングを施す仕様にシフトしているように感じたのだ。シールドの距離特性による正確な計測はしていないが、その変化は、大規模なラック・ユニットを引き回していたかつての今剛氏が、今や、Fractal Audioを中心にシステムの縮小化を量ったことと決して無縁ではないように思えてならない。もちろんそれが悪いというわけではなく、時代の変化と位置づければむしろ正しい変化なのかも知れない。そして、その変化が浮き彫りになるほどに、このギターのサウンドもまたより洗練されたものであると言えるのだろう。
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国産オリジナルVギターの中でも最も先鋭的な仕様で人気のESP ARROWに、さらに用途を絞り込んだ硬派なノン・トレモロ・スタイルのARROW NTが加わった。見ただけでムンムンと伝わるその鋼鉄臭……ごつい固定式のTonePros T3BTブリッジに裏通し、ピック・セレクター以外にはコントロールはマスター・ボリュームひとつだけ、そして、お決まりのアクティブ・ピックアップには、このシリーズではもはや欠かすことのできないSeymour Duncanの高出力ハムバッカー・モデル、AHB-1 Blackoutsのセットを搭載とくれば、この手の潔い仕様が大好物なギタリストたちにとっては垂涎のモデルと言えそうだ。
ただ、その出音はさらにそうした趣向者達の予想も上回るポテンシャルを秘めているところがこのモデルの素晴らしい所だ。そのサウンドは、スルー・ネックらしい連なる様なサステインこそあるものの、むしろオープン気味に上に伸びる感じが顕著で、アクティブ特有のいちいちアタックにコンプがかかる様なタッチが目立たない。別の言い方をすれば、倍音は多いのに高域が不用意には歪まず、張りつめた空気感をしっかりと残したままワイドに広がっている感じが常につきまとっているのである。これは、間違いなく「木」の響きだ。もちろん、強く弾けばそれなりにシャギーなピークも現れるが、とにかく、従来のトレモロ式ARROWではほとんど感じられなかった「アコースティックな鳴り」がそのトーンの個性を彩っていることは間違いなさそうだ。弦を裏から通しただけでそれほどの違いが出るわけも無いが、もともとAHB-1に備わっているプリアンプへのバランス出力により位相のはっきりとしたハム・キャンセル性能が、この独特のボディの鳴り方で引き出されたと見るのが正しいだろう。その証拠に、リバース・ヘッド特有の6弦や5弦にもたらす暖かい音質はクリーン・トーンでもよく目立っている。
予想以上にゴージャスなそのサウンドだが、ひとたびモダンなハイゲイン・アンプに突っ込めばぎらりとしたエッジが沸き上がり、見事なまでにタイトに引き締まったモダンなハードロック・ドライブになる所もアクティブ・ピックアップの美味しい部分を外していない。試しに全ての弦を1音(全音)下げてみたが、その個性は全く揺るぎもしなかった。ソリッドVギターによるアクティブ・サウンドの可能性を正統に一段階押し広げるARROW NT。その誕生こそ、国産カスタム・ギターの雄ESPに、常に新しい血が注ぎ込まれ続けている証しに違いない。
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メタル系ギターの国内総本家的位置づけで掲げられたIbanezのIRON LABELシリーズの中に、やや趣のある彩りを添えているモデルがこのRGIT20FEだ。リア・ピックアップは、アクティブ・ピックアップの代表格EMG 81。きめの細かい歪みと右手のミュートに対して弾力のある低音を押し返す重低音マニア御用達の伝統的アイコンだ。確かにアンプをドンシャリにセッティングすれば、その出音はレゾナンスが振り切ったサウンドになるものの、今ひとつあの襞のように重なる密集した轟音にはほど遠い印象を受けた。
そこでスペックをよく見直してみると、ウォルナットとメイプルの「ナイトロ・ウィザード」7ピース・スルー・ネックは、そのまま70年代の『スピードウェイ・ネック』ではないか(ただし、ネック内にはKTSのチタン・バーが内蔵されており、強度は折り紙付き)。しかも、エボニー指板に、「ジブラルタル」と名付けられた一体型ブリッジ・システムとくれば、これは明らかにメタル仕様と言い切るには無理がある。当然そのテイストはアレンビック等の流れを汲む古い西海岸サウンドに近く、切れ味の良いフラクタルな出音もきっちりその個体の構成データに照らしてみれば何の不思議も無かった。決定的なのはフロントにEMG 85や89ではなく、シャリン!とした透明感のあるシングル・トーンにやや立体感を付け足した様なEMG 60を選択している点だ。ここまで条件が揃っていると、IRON LABELに共通してつけられているキル・スイッチですらノスタルジックな風体を助長するルックスに見えてくるから不思議だ。
しかし、そうして見れば、EMG 81も決してクリーンが不得意なわけではなく、むしろ色味の強いねっとりとしたコーラスやディレイと合わせて、響きのある荒涼としたアンビエントを演出するのには十分使えるサウンドを有している。メタル・サウンドの一周回った進化の果てがこのスタイルだったのか、それともIbanezの技術者の記憶がそうさせたのかは定かではないが、国産ギターの黎明期からの老舗が見せた、現代の歪みもどっしりと受け止められるアクティブ・サウンドの温故知新モデルとして、このデザインが目指す先を見届ける価値はありそうだ。
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復刻TEJシリーズの最上位機種、TEJ-DELUXE SUS。80年代に流行した元祖TEJを元に布袋寅泰モデルが作られたことはよく知られる所だが、今度はその布袋モデルを想起させるようなサスティナー搭載の仕様で、元祖タイプが再びTEJの名を冠してラインアップされたのは喜ばしい限りだ。しかし、21世紀版TEJが、当然、18V駆動ではなく9V仕様なのは布袋ファンに取ってはご愛嬌といった所か。
FERNANDES「サスティナー」システムを簡単に説明すると、ピックアップで拾った信号を専用のドライバーで増幅し、その磁気振動で人工的に弦を震わせ続けるサーキットのことだ。これはプリアンプやピックアップ自体で信号を強化する仕組みとは根本的に異なり、ピンポイント的な物理動作によって弦振動を加算するFERNANDES独自のアクティブ・ギミックである。その効果を使うことで、それを搭載しないモデルよりもロング・トーンにおいて格段に表現力の幅を広げることが出来る。このTEJのように枯れたサウンドを予想しがちなTLタイプのボディのリアから、とんでもなく倍音を加味されたロング・サステインが飛び出すのは、実際に体感するともの凄いインパクトがある。
TEJ-DELUXE SUSのリアには同社のVH-4ハムバッカーが装着されており、このアルダーのボディにそのややロー・ミッドをえぐったサウンドが実にハマる。ただ、サスティナーの「ハーモニクス・モード」ではやや高倍音のフィードバックがカブリ気味で歪みが抜けてこないので、アンプのセッティングでは中域に意識を集める様な音作りを心がければ、心地良くパワフルなバランスに収まってくれるだろう。例によってだが、フロントのサスティナー・ドライバーCD-100Fは一応OFFモード時には通常のシングルコイルのように動作はするが、さすがにその音にはあまり過剰な期待はしない方が良いだろう。
それ以外の所では、ネックに今流行りのKTSのチタン・フレーム“レインフォースメント・バー”が入っていたりと、正しくメイド・イン・ジャパンであることも手伝って、上位機種らしく細かい作り込みが非常に丁寧な点も見逃せない。王道の仕事をこなし復権を目論むFERNANDESの新世紀TEJが、どれほどの関心を持って次世代プレイヤー達に受け入れられるのか、今後もその興味は尽きない。
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輸出用ラインのハイ・コストパフォーマンス・モデルとして海外で展開していたFgN ILIAD(イリアド)。その中でもJIL-ASH-DE664-Mは、オールド・スタイルのアッシュ・ボディにバリトン・スケール664mmロング・ネックを採用した異様な出で立ちで圧倒的な存在感を放つモデルだ。出荷段階ですでにドロップCチューニング(6弦以外の弦は全て1音下げ)という仕様も凄いが、さらに興味深いのはこの機種の真価を問われるそのピックアップ構成にあると言えよう。フロント、リア共に定番のアクティブ・ピースであるEMGを採用しているのは良いとして……なんと、その構成は、フロントにEMG 81TW、そして、リアにEMG 85というレイアウトなのである!
確かに、単体で見ると、コイルタップできる81TWがフロント、ハム専用である85がリアなのは特段珍しくはないが、それが同時に組み合わされているとなれば話は別である。結論から言えば、その配置はEMGのセオリーから言えば“逆”なのである。まず、きらびやかなアルニコ・マグネットを持つ85はフロントでふくよかなサウンドを受け止め、反対に、セラミックの81系モデルはそのタイトできめ細やかな音質を活かして、歪ませたリアのサウンドを拾うように配置されるものである。もしリアが85なら、フロントは同じアルニコの89等を、81TWがフロントならばリアにはノーマルの81あたりがメーカー・デフォルトとなりそうなものであるが、そこをフジゲンのサウンド・デザインによりきっちり裏をかくように収まっているのは実に興味深い。だが、音を出して、その配置の妙にあらためて唸らされることになるとは思わなかった。どちらのピックアップも、このダウン・チューニングとロング・スケールの持つ独特の弦の振幅に対して、予想以上にピーク・エッジの捕まえ方がハマるのだ。うるさ過ぎず、非常に解像度が高いサウンドに仕上がる上、サステインの倍音感も瑞々しい。
さらに、センターに入れるとこれはもはや異次元のサウンドで、本来の配置ならば不自然に重なる帯域が上手く除外され、サラサラとした外側の輪郭とやや抑え目なバイト感を持つ太く硬質な柱の様なサウンドが表れるのである。これは長年EMGのサウンドに関わってきても気付くことの無かった目から鱗の新しい効果だ。その要因のひとつとして、フロントの81TWがノーマルの81よりもやや奥まったサウンドを持っていたことで、リアのアルニコ・トーンに融和性が高まったことも幸いしているのかもしれない。その容姿とチューニングの低さに騙されてはけない。音を聴けば、このモデルが、決してヘヴィ・トーンを歪ませるためだけの単純な意図で制作された個体ではないことは明白となるだろう。海の向こうでILIADを含むシリーズがそう呼ばれた様に──新時代の「J-Standard」として、そのギターに密かに込められた試みが完成された“形”として王道を歩む日を、待ち遠しく思う次第である。
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時代の趨勢とは一見無縁とも思える『アクティブ・ギター』特集、いかがだっただろうか?
予想以上に個性的なモデルが多く、すでにどのメーカーの仕様を見ても、アクティブ回路そのものが、ギターの材やハードウェアと同等のサウンド・メイキングの要になっていることがよくわかる。音色やアプローチ、それによってもたらされる新たなプレイアビリティも様々で、自分で始めた企画であるにも関わらず実際に弾いてみて驚かされることの連続だった。特にVariaxギターのバーチャル・カポは本当に凄い……いったいどんなアルゴリズムを組めば、あんなダイレクトなサウンドでチューニングをいじり回せるのか、全くの謎だ。とにかく、アンプから出てくるサウンドとギターの生音が、ほぼタイミングにズレの無いままピッチだけがどんどん開いていく感覚が面白過ぎて、リサーチした店で2時間も遊んでしまった。さぞや店には迷惑だったことだろう。もはやオモチャの領域は完全に脱している。超高性能なピッチ・エフェクトを買ったと思えば、あの実用性だけで十分に元は取れる気がした。Variaxは、他にも対応したPODなんかのマルチと組み合わせると、プリセットで音色だけでなく、ピックアップのポジションなんかもしっかり反映される所も地味に気に入った。ピックアップ自体はパッシブなのでこの効果は全くの予想外だった。我々が思う以上に、業界ではすでにギターのアナログ・メカニズムはハイテクなディレクションによって解析、反映することが可能となっているようだ。
そんなこんなで、今回の作業は、自分の持っている古いEMGやアレンビックを解体したサーキットなんかもノスタルジーに駆られて引っ張り出してきてしまったため、今、事務所がエライことになっている。そういえば、自分の最初のEMGは、ゴミ捨て場にあったネックの折れたメーカー不明のギターから抜き取ったものだったなー。あれ、どこにやったかな……。人にもアクティブ・ピックアップにも、歴史有りだ。
それでは、次回3/9(水)の『Dr.Dの機材ラビリンス』もお楽しみに。
今井 靖(いまい・やすし)
フリーライター。数々のスタジオや楽器店での勤務を経て、フロリダへ単身レコーディング・エンジニア修行を敢行。帰国後、ギター・システムの製作請負やスタジオ・プランナーとして従事する一方、自ら立ち上げた海外向けインディーズ・レーベルの代表に就任。上京後は、現場で培った楽器、機材全般の知識を生かして、プロ音楽ライターとして独立。徹底した現場主義、実践主義に基づいて書かれる文章の説得力は高い評価を受けている。