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  • ギター・マガジン2016年2月号連動 ケンタウルス・クローン特集

田渕ひさ子が検証! ケンタウルス系ペダルの知られざる世界

ケンタウルス系ペダル

オーバードライブの名機として名高いクロンのケンタウルス。あの極上のオーバードライブ・サウンドを欲するプレイヤーは生産が終了した現在でもあとを絶たず、他メーカーから多数のケンタウルス・オマージュのペダルが流通している。ここでは、ギター・マガジン2016年2月号の特集「ケンタウルス系ペダルの知られざる世界」と連動し、“ケンタウルス系ペダル”と評されるモデル8つを厳選して紹介していく。ナンバーガール時代からケンタウルスを愛用する田渕ひさ子からコメントもいただいているので、ぜひ読んでみてほしい。

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BONDI EFFECTS SICK AS OVERDRIVE MK2

BASSコントロールが実用的なハイエンド機

価格:29,500円

 米国ケンタッキー州発の“ミュージシャンが作ったミュージシャンのためのハイエンド・ペダル”をスローガンに揚げるブランド“ボンダイ・エフェクツ”による、ただいま人気上昇中のケンタウルス系ペダル。デュアル・ロータリー・ポットによるクリーン・ミックスや、内部昇圧によって広いヘッドルームと鋭い反応性を確保する、という構造はケンタウルスに酷似しているが、ドライブ周波数をよりナチュラルに保つように設計されており、さらに2バンドのアクティブEQを搭載したことで音作りの幅も広い。搭載されたミニ・スイッチは、ややコンプ感のある倍音の効いた歪み(上)と、ロー・ミッドが落ち着いたオープン・サウンド(下)という異なるフィルターを選択できるもの。

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HISAKO’S IMPRESSION
“適度にざっくりした感じ。BASSを単体で足せるのもすごくいい”。
 さっそくだけど、これすごく欲しい(笑)。ハイファイな感じはしなくて、わりとあたたかみのある音ですね。どっちかというと金のケンタウルス寄りな音なんですけど、もうちょい歪ませることもできます。ケンタウルスって、OUTPUTを絞るとけっこう低音が削れちゃうのが難点なんですよ。だから、BASSを単体で足せるのはすごくいいです。それから、GAINを上げた時の目の細かさみたいなところがすごくきれいなんですけど、フィードバックに多少雑味があって汚い音が混ざる感じも好き。ミニ・スイッチもかなり使えると思いますよ。スイッチを下にした音は、コードを弾いていて弦のタッチを強くしたい時とかにいいかも。このエフェクター、全体的に“適度にざっくりした感じ”で、自分みたいな弾き方には合うなぁ。ケースもこれくらいの大きさが、安心感があるかなと思います。

Specifications
●コントロール:レベル、ゲイン、ベース、トレブル、EQセレクション(ベース/トレブル)●入出力端子:インプット、アウトプット●電源:9Vアダプター●外形寸法:118(W)×95(D)×48(H)mm●重量:320g

・参考動画

CHELLEE GUITARS & EFFECTS PONY BOY

応用の効く実践的なプロダクト・デザインが光る1台

価格:20,000円

 フロリダのハイ・コスト・パフォーマンス・ブランドのモデル。いわゆる神話に出てくるケンタウルスとは逆の、上半身が馬、下半身が人というジョークなアイコンが目を惹く。手軽なサイズと価格、しかし音は一流という、見た目のお気楽な外観にはそぐわない実践的なプロダクト・デザインを達成したペダルである。数あるブティック系ハンドメイドのクローン・ペダルの中でもダントツの親しみやすさで、東海岸の目ざといスタジオ系ギタリストを中心に注目されるモデルだ。モダンで生々しいフィールが特徴で、2種類のボイシングの“左”ではさらにニュアンスをとらえる能力が高くなり、逆に“右”ではアタックをうまく整えながら中域をぎゅっと押し出した歪みを味わえる。

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HISAKO’S IMPRESSION
“「強い音」。一番下のローのレンジがぎゅっと締まってる”。
 表面に描かれた絵はおもしろいけど、なんでしょうか(笑)。このペダルはけっこうバリッとする系ですね。荒っぽい、“強い音”というか……なんか、どっちかっていうと(Xoticの)EP Boosterっぽい感じ。いい意味でがちゃがちゃしてるんです。一番下のロー・レンジがぎゅっと締まってて、ミッド・レンジがブーストされている印象ですね。“悪そう”なサウンドになるペダルって言ったらいいのかな。GAINを上げるとけっこうケンタウルスに似てくる気がするけど、本家とはまた違う個性も持っていますね。コードを弾くとゴツゴツしたテイストが出せて、単音で弾くと音がパキッと前に出てくるんですけど、自分的には後者の単音弾きでガンガン使いたいかな。ボイシング・スイッチは、曲ごとで変える、っていうより、ライブ・ハウスの音響とかキャビネットによって変えるといい気がしました。

Specifications
●コントロール:ゲイン、トレブル、アウトプット、ボイシング・スイッチ●入出力端子:インプット、アウトプット●電源:9Vアダプター、9V電池●外形寸法:66(W)×111(D)×54(H)mm●重量:240g

・参考動画

ELECTRO-HARMONIX SOUL FOOD

老舗が挑んだハイ・コスト・パフォーマンスのクローン

価格:15,000円

 老舗エフェクター・ブランドであるエレクトロ・ハーモニックスが、高騰するケンタウルスの価格へのアンチテーゼとして市場に送り込んだ、マス・プロダクション系クローン。クリップ部のダイオードにはケンタウルス系の定石であるゲルマニウムではなくシリコンを選択したことで、DRIVEを上げるとミドルに独特の質感を生む同社特有のサウンドへと昇華されている。内部昇圧により確保されるレスポンスとレンジ感はまさにケンタウルスに匹敵するほどのクオリティであり、ほかにも、内部基板上にバッファード/トゥルー・バイパス切り替えスイッチを搭載するなど、低価格ながら音質と現場での利便性を極限まで追求した仕様で人気のペダル。

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HISAKO’S IMPRESSION
“歪みが太い、というより深い。エレハモらしい極端な音も作れます”。
 これ、実は持ってるんですよ。やっぱり、なんかこう“エレハモ!”って感じの音がするんですよね。エレハモと言えば自分の中ではビッグ・マフなんですけど……そんなにおいも感じるんです。なんかこう、ミッドっていうよりは、けっこうハイのところがチリチリチリってなる音ですね。歪みの目が細かいっていうのとは少し違う感じで、ハイの音がとんがる感じがします。本家のケンタウルスよりも密度がギュッとしていて、歪みが太い、というか“深い”です。印象としてHot Cakeとかに似てると思うんですよ。アンプを近づけるとそれなりにフィードバックしますけど、そこまで豊かな雰囲気ではない感じ。この汚さが“らしさ”ですよね。TREBLEを上げていくと“ヒィィィィィン!”っていうエレハモらしい極端な音も作れる。オリジナルとそっくりそのまま似てるってわけじゃないんだけど、好きです。エレハモ。

Specifications
●コントロール:ボリューム、トレブル、ドライブ●入出力端子:インプット、アウトプット●電源:9Vアダプター、9V電池●外形寸法:72(W)×110(D)×50(H)mm●重量:200g

・参考動画

J.ROCKETT AUDIO DESIGNS ARCHER/ARCHER IKON

神獣の血統を引き継ぐ完全再現指向のモデル

左がARCHER、右はARCHER IKON。価格はともにオープン。

 Archerシリーズは、ケンタウルス系ペダルの正統嫡流ともいうべきクロン“KTR”をOEM生産していた、J.Rockett Audio Designsの主宰クリス・ヴァン・タッセンとJ.ロケットによってデザインされたペダルだ。ルックスを含め、そのトータル・コンセプトがオリジナル・ケンタウルスの再現を目指して作られたことを隠しておらず、コンパクトな筐体でありながら、あのオリジナル独特のオープンで密度のあるサウンドに限りなく肉迫。現行の高評価最右翼のクローン・ペダルとして注目を集めている。歪みを生むクリッピング・ダイオードの選別には、数百ある候補のうちオリジナルと同一のものをチョイス。特に米国PGS(Pro Guitar Shop)限定としてスタートしたArcher Ikonは、オリジナルの最初期ゴールド筐体のものと同一のダイオードを用いて製作されており、ノーマル版Archerとの違いについて、製作者のクリスは“ゴールド・ケースの「絵入り」ケンタウルスと後期のシルバー・ケースとの製造時期によるサウンド公差を表現したもの”とアナウンスしている。

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HISAKO’S IMPRESSION
“高級感や安心感を含めて、一番オリジナルに近い”。
 確かに、どちらもよく似てる。試した中では、一番オリジナルに近いかもしれないですね。高級感や安心感も含めて、ここまで似ていれば代用品としては完璧です。金と銀でやっぱり違いはあって、同じセッティングにしても同じ音は出ないですね。銀のArcherのほうがパリパリ感があります。元気があるっていうか、ハイがとんがってる。で、金のArcher Ikonのほうはまとまっていて、立体感がある感じですね。TREBLEを上げていっても銀のArcherほどの音の明るさにはならないというか。それで、すごく驚いたのは、今回は実際に本家のゴールドとシルバーを弾き比べてみたんですけど、その音の差がArcherとArcher Ikonの違いにすごく近かったってこと。そこまでちゃんと模して作ってあるんですね~。個人的には金のほうが好みかなぁ。自分はわりとまろやかというかリッチな音が好きなので。実際に自分が使ってるのは本家のシルバーのほうなんですけど(笑)。

Specifications(2台共通)
●コントロール:アウトプット、ゲイン、トレブル●入出力端子:インプット、アウトプット●電源:9Vアダプター、9V電池●外形寸法:58(W)×102(D)×49(H)mm●重量:390g

・参考動画(ARCHERARCHER IKON

RAWK WORKS LIGHT OVERDRIVE V2

繊細なレスポンスを生み出せる高品位オーバードライブ

価格:45,000円

 アメリカのエフェクト・ペダル・フォーラムで名の通った技術者、マイク・スキナーが運営するRawk Works。LIGHT Overdrive V2は、表のポップなアート・ワークとはイメージが異なる、透き通った中域のダイナミクスと極めて繊細なレスポンスを両立しており、玄人好みなサウンド特性を持つ高品位なオーバードライブだ。バージョン・アップにともない、クリッピング・ダイオードの切り替え(左:ゲルマニウム/右:シリコン)のスイッチがトップ面に移され、より実戦向きにレイアウトが変更された。また、TREBLE以外にも、単独でBASSをコントロールできるEQを装備するのも特徴。

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HISAKO’S IMPRESSION
“歌ものに最適な、玄人向きペダル”。
 このお上品感……なんて言ったらいいんだろう。ケンタウルスには確かにちょっと似ているかな? とは思いますけど、作った人はあまり寄せる気ないんじゃないかな。そんなに歪まないからフィードバックはすぐには来ないけど、かかり方はいい具合です。ローもちゃんと出ますね。このペダル、なんか歌ものに合いそう。曲中にちょっと盛り上がる時とかに、主張しない程度に良い音が出せそうというか。アルペジオもきれいに出ますね。ミニ・スイッチは左のほうがちょっとパリッとしますけど、すごく微弱ですね。まさに“玄人向き”っていうか……“プロのペダルボー道(本誌の連載)”に出てくるような、スタジオ系の上手な人が欲しがりそうな音ですね。オシャレなカフェに飾っていそうなこの外観といい(笑)、LEDが光る部分といい、作った人のこだわりとプライドが感じられるペダルです。

Specifications
●コントロール:ボリューム、ゲイン、ベース、トレブル、クリッピング・ダイオード切り替えスイッチ●入出力端子:インプット、アウトプット●電源:9Vアダプター●外形寸法:65(W)×124(D)×39(H)mm●重量:295g

・参考動画

WALRUS AUDIO VOYAGER

あらゆるセッティングで力を発揮できる懐の深い響き

価格:27,000円

 WALRUS AUDIOのフラッグシップ・モデルであるVOYAGERは、ブルース・ギタリストのジョー・ボナマッサが自身のフェンダー・ツイード・アンプにつないだ際、“アンプが地面から浮かび上がったみたいだ”と絶賛したというペダル。もともと、それほどダイレクトにケンタウルスを意識して作られた製品というわけではなく、浅く色付けされるロー・ゲイン・ドライブの中で音像のコントラストを強く浮かび上がらせる特性が、いつしかほかのクローン製品たちと比較されるようになったとされている。フェティッシュな印象をかもし出すトップのイラストは、ブランドと同じオクラホマ州に住居を構える芸術家によってデザインされたもの。

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HISAKO’S IMPRESSION
“甘くて柔らかい。こういう音は大好物なんです”。
 見た目だけのイメージだと、なんかすごくバリバリした派手な音が出そうですけど、実は、すっごく目が細かくてあたたかい音です。こんなにイラストはゴスっぽいのに……ちょっと意外でした(笑)。すごく好きな音ですね。甘くて柔らかい。自分はこういう音が大好物なんです。自分の今のセットにパッと混ぜても違和感なさそう。筐体に書いてある絵みたいな、“最新でモダン”なテイストのエフェクターという印象は全然ないです。昔ながらというか、オールド・スクールをふまえた上で現代味も加えてある、っていう感じがします。それでユニークなのが、ビックリするほど歪まないってこと。そこが本家に近いと言えばそうかも。音がパンパンに張ってなくて、“余裕のある音”っていうのかな。さりげなく使うのにも向いているだろうし、やさしくてキレイな音が欲しいならこれですね。

Specifications
●コントロール:ボリューム、トーン、ゲイン●入出力端子:インプット、アウトプット●電源:9Vアダプター、9V電池●外形寸法:68(W)×122(D)×55(H)mm●重量:250g

・参考動画

WAMPLER PEDALS TUMNUS

アンプ・ライクを知り尽くしたメーカーが作る現代的クローン

価格:35,000円

 フェンダーやマーシャルなどの名アンプ・サウンドをエフェクターで再現することに定評のあるWampler Pedalsによる、極小サイズのケンタウルス・クローン・ペダル。そのユニークなネーミングは、『ナルニア国物語』のMr.タムナス(角の生えた頭とヤギの足を持つ生き物)から取ったとのこと。オリジナル・ケンタウルスと同様にバッファード・バイパス方式を採用しているので、どんな現場のシステムに対しても “あの音”を気軽に追加したいユーザーには重宝するだろう。3ノブの配置で、真ん中にLEVELを持ってくるセンスもかなり独特。本国では、すでにアンプ直派用のステージ・ブースターとして熱い注目を集めている。

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HISAKO’S IMPRESSION
“自分のマーシャルがマッチレスになった(笑)!”
 なんかこれ、すごくブティック・アンプっぽい音になりますね! “音が近い”みたいな。“ハイファイ”とも違うんですけど、すごく現代っぽくて、なんか音がパキッとしっかりするっていうのかな。あまり歪んでないのに、グッと音が持ち上がる感じがするんですよ。いいですね。なんか、自分のマーシャルがマッチレスになった感じです(笑)。高級感があるというか。TREBLEを下げても、全然モコッとはならないですね。ゼロにしてみると……あ、自分的にはTREBLEはゼロでも十分使えちゃいますね。もしこれを実戦で使うとしたら、間奏とかサビで強めに歪ませて使いたいです。フィードバックもふわぁーっときれいに鳴ってくれますし。あと、やっぱりこのサイズはすごいですね。本家の1/4くらい? これでケーブルとかも細いのにすれば、機材って簡単に軽くなるんだなってしみじみ思います(笑)。

Specifications
●コントロール:ゲイン、レベル、トレブル●入出力端子:インプット、アウトプット●電源:9Vアダプター●外形寸法:47(W)×92(D)×49(H)mm●重量:250g

・参考動画


TOTAL IMPRESSION

はっきりとわかったのは、お金をはたいてわざわざオリジナルを買わなくていいってこと(笑)。

 すごく楽しかった(笑)! 今日は、本気で1台買うぞ、ぐらいの勢いで試奏させてもらいました。実際に自分のペダルボードに組み込んでみて、本物と弾き比べながらかなり本気でチェックしちゃいましたね(笑)。
当初はどれもケンタウルスを完全コピーしたものばかりなのか? と思ってましたけど、けっこう各々で違いがありました。私はすでに本物のケンタウルスを持っているので、その点では完全なクローンっていうより、なにか方向性の違うペダルのほうがおもしろ味を感じましたね。
 で、今回いろいろ弾きましたけど、はっきりとわかったのは、一ヵ月の給料みたいなお金をはたいてわざわざオリジナルを買わなくてもいいってこと(笑)。現場でガンガン使うんだったら、良いエフェクターはいっぱいあるんだってことですね。ケンタウルスって、自分にとっては決して神様みたいなペダルじゃないんです。ローが足せないとか不満な点もあるし。とはいえ、私がケンタウルスを使ってる理由って、どんな機材と組み合わせても平均点がすごく高いからなんですよ。そういう“使いやすさ”に価値があると思っています。
 ちなみに私のボードにおけるケンタウルスの役割は、“ブーストその1”。ノーマルな音から、1段階ブーストさせるために置いてます。“大”、“中”、“小”の音があるとしたら、ケンタウルスは“中”の位置にあるペダルで。その“中”の音は、曲のサビとか短めの間奏、控えめなギター・ソロの時とか、けっこう長いこと踏んでるんですよ。だからこそ、極力ブレがなくて“しっかりしていてほしい”んですよね。そういう意味で、個人的に良かったのはSick As Overdrive。すごく好みでした。BASSのツマミが付いてて、それを足したり引いたりできるってところも便利だし、本家よりももうちょっと歪むんですよ。私はケンタウルスをだいぶ歪ませて使うので、本当に私が好きなタイプのペダルでした。あとWALRUS AUDIOのVOYAGERも好きでしたね。ただ、これは完全に好みなので(笑)、みなさんもぜひ自分の好きなペダルを見つけてほしいですね。


国内屈指のエフェクター・ギークが答える! ケンタウルスの素朴なギモン

 本家ケンタウルスの出自や構造上の特徴、そしてクロンの現行モデル“KTR”の正体から、“なぜこんなに高いのか”といった素朴な疑問まで、国内有数のエフェクター・ギークに7つの質問をぶつけてみた!

回答者:細川雄一郎(池部楽器アンプステーション


Q ケンタウルスは誰がどこで作ったの?

A ケンタウルスはアメリカのボストンで1994年末頃に生まれたとされています。
 生みの親はボストン出身のビル・フィネガン。彼は自らのギター・サウンドを納得させるようなエフェクターを模索しますが、当時は理想を叶えるものがありませんでした。そこでケンタウルスの製作に踏み切ったのです。しかし、ビルはあくまでもギター・プレイヤーであり、電気技師などではなかったため、回路の設計には電気的知識のある彼の友人も携わったようです。その後、開発から約4年半を費やして完成したケンタウルスはまたたく間にアメリカを中心に話題となり、非常に多くのオーダーが舞い込んだようです。ただ、受注、製作、発送などといったすべての作業をひとりで行なっていたビルには到底手に負えない状態となってしまい、大いに彼を悩ませました。生産数の少なさから中古市場での価格は高騰し、変わらず新品のオーダーも殺到。そんな状況に限界を感じ、ビルは2009年にケンタウルスの生産を終了してしまいます。ビルは小さなアパートの安い折りたたみテーブルの上で約8,000台のケンタウルスを作ったと、のちのインタビューで述べています。


Q ケンタウルスは構造的にどんな特徴があるの?

A ケンタウルスの回路にはそれまでのオーバードライブとは大きく異なる点が複数存在します。
 まず第一に、9V駆動でありながら内部の電圧を18V前後まで昇圧している点があげられます。このことによってダイナミクス・レンジが広がり、ケンタウルスならではのハリのある音色を作り出しています。また、オーバードライブ・サウンドにクリーン・サウンドが混ざる回路であることも非常に大きな特徴です。ゲイン・コントロールは歪み量を増やすだけでなく、クリーン・サウンドのミックス量を変えるという役割も担っており、ゲインを下げてブースターとして使う際にはクリーン・サウンドがミックスされ、レンジ感を損なわずにアンプやほかの歪みエフェクターをブーストできるのです。
 また、ドライブ・サウンドの決め手となるパーツにはゲルマニウム・ダイオードが使われており、単体で歪ませた際の音色にもケンタウルスならではの個性があります。
 そして、エフェクトの音色だけでなく、バイパス時にも気を配られていることも見逃せません。ケンタウルスはトゥルー・バイパスではなくバッファード・バイパスであるため、トゥルー・バイパスと比べて圧倒的にスイッチング・ノイズが少ないのです。バイパス時の音色もケンタウルスならではの優れた質感と評価されています。


Q 時期によって違うみたいだけど、仕様の変遷を教えて!

A 金色のロング・テイル(FAX ONLY)→銀色のロング・テイル(FAX ONLY)→金色のロング・テイル→銀色のロング・テイル→金色のショート・テイル→銀色のショート・テイル→金色のNo Picture→銀色のNo Pictureという遍歴になります。
 まず生産最初期のケンタウルスは、モデル名ともなっているケンタウルスの絵がプリントされた金色の筐体を採用していました。裏蓋には“FAX ONLY”の文字とともにKLONのFAX番号と私書箱の住所が記されていましたが、その後に電話番号も追記されるようになったため、現在では“FAX ONLY”と呼ばれるものが最初期の個体の世界的な愛称となっています。
 ほどなくして筐体の色が金色から銀色へ変更されますが、その出荷数はわずかで、すぐに再び金色の筐体が出荷され始めます。
 その後、1999年頃には筐体にプリントされていたケンタウルスの絵にも変化が起こります。それまで長い尾を力強く振っていたケンタウルスですが、その尾が下がり、地面を強く蹴っていた後脚も折り畳まった絵柄へ変更されたのです。現在では前期の長い尾を振っている個体を“ロング・テイル”、後期の尾が下がった個体を“ショート・テイル”と呼ぶようになっています。
 このショート・テイル仕様のケンタウルスも金色ののちに銀色の仕様が登場しますが、ある時からケンタウルスの印刷が消えてしまいます。同時期、火事によってケンタウルスの絵を刷る版が焼失してしまったことが原因と言われており、この時期のケンタウルスの絵が印刷されていない個体は“No Picture”などと呼ばれています。“No Picture”仕様も金色の仕様ののちに銀色へ変わり、以降、生産完了まで同仕様が続きました。


Q ケンタウルスはどうしてそんなに高いの?

A 総じてハイコストなエフェクターであると言えるため、ある程度高価格になってしまうのはやむを得なかったのでしょう。
 まず、ケンタウルスの特徴的な回路を実現するためのパーツにコストがかかっているのが理由のひとつだと思われます。電源を昇圧するICやクリーンミックス機構を実現するための特注品であるCTS製のポットは、通常のパーツと比べて非常に高価です。
 それと、完全オリジナル形状であるダイキャスト筐体の開発、製造にも大きなコストがかかったでしょう。一説によると、ダイキャストの成形にもかなり細かな注文があったと言われています。回路に使う部品数も決して少なくないため、製作に時間や手間がかかったことは間違いありませんし、開発に4年半も費やされたことは異例です。


Q 生産時期によって音は違うの?

A 設計者であるビル・フィネガン曰く、ケンタウルスの回路に手を加えたのはたった1度だけ。それも1995年頃、生産初期のことです。その1度きりの変更以降はどの時期でも内部は同じであると、氏は述べています。
 “初期生産のロング・テイルのほうが音が良い”なんて噂されることも多いケンタウルスですが、内部に違いがない以上、時期によって音が違うというのはあまりないと思います。違いがあるとすれば、それは音色の個体差によるもの。ケンタウルスは、個体差の大きいエフェクターであると言ったほうが正しいでしょう。
 ちなみに1995年に施された回路の変更とはどんなものかというと、サージ電流に対する回路保護用の抵抗の追加、グラウンド(アース)の取り回しの変更、中低域のレスポンスを向上させるわずかな定数変更の3つだそうです。


Q 現行品の“KTR”ってどうなの?

A 生産完了となったケンタウルスは世界的に揺るぎない評価を得ていますが、後継機種であるKTRも負けていません。
 基本的な回路はケンタウルスとほとんど変わりませんが、内部基盤はICとダイオードを除くすべてのパーツを表面実装化(近年の楽器や電化製品などに見られる超小型パーツを基盤に一斉搭載する技術)し、耐久性の向上、品質の安定化、さらには筐体の小型化も実現しています。このことは量産にともなう安易なコストダウンと見られることもありますが、決してそうではありません。むしろ音色に影響の大きい部分のコンデンサーには実装パーツの中でも最高品位のものが選ばれており、このコンデンサーは過去のケンタウルスに使われているものよりもはるかに高額、高品位です。歪みのキャラクターを作る上で重要なダイオードも過去のケンタウルスと同様にゲルマニウム・ダイオードを採用し、基盤上でも“These are essential”と指し示されています。
 また、ケンタウルスは基盤部の修理が困難でしたが、KTRの基盤は修理、組み込みが容易に行なえるように秀逸な構造になっています。
 これらの要因により、それまでハンドメイド規模で作られていたケンタウルスを同等品質で量産し、結果として以前よりも低価格で世界中のプレイヤーに届けられるようになったのです。新たに追加されたトゥルー・バイパスとバッファード・バイパスを選ぶスイッチも有用です。


OTHER MODELS

最後に、今回紹介したモデル以外のケンタウルス系ペダル5モデルを紹介しよう。


MATTHEWS EFFECTS
THE ARCHITECT

価格:オープン

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ANASOUNDS
SAVAGE

価格:オープン

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FREDRIC EFFECTS
ZOMBIE KLONE

価格:オープン

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ARC EFFECTS
KLONE V3

価格:55,000円

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MOVALL AUDIO
MINOTAUR MM-09

価格:オープン

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ギター・マガジン2016年2月号で詳細をチェック!

本記事はリットーミュージック刊『ギター・マガジン2016年2月号』の中でも紹介されています。ここでは掲載されていないコメントや各製品の詳細な説明、回路写真なども紹介されているので興味のある人はぜひチェックしてみて下さい。

■ギター・マガジン2016年2月号の詳細はこちらから!

ギター・マガジン2016年3月号発売中!

ギター・マガジン2016年3月号2016年2月13日発売の『ギター・マガジン2016年3月号』は、「デレク・トラックスと10人のスライド・マスターたち」を大特集。デジマート地下実験室でもスライド実験を行ないましたが、本誌ではデレク&スーザンのインタビュー、彼が影響を受けたと語る10人のスライド・マスターの考察、過去に発売された作品を総まとめにしたディスク・ガイドなどを通し、今一度デレク・トラックスの正体に迫ります。

■ギター・マガジン2016年3月号の詳細はこちらから!

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製品情報

ケンタウルス系ペダル

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プロフィール

『THERM』 SPANK PAGE

田渕ひさ子
ギタリスト。ナンバーガールでの活動を中心に活躍し、同バンド解散以降はbloodthirsty butchers、自身がリーダーを務めるバンドtoddleなどに在籍。客演も多く、最近では仲手川裕介のソロ・プロジェクト、SPANK PAGEの最新作『THERM』(写真/Throw Records twr-372)に参加。本作では田渕に加えて中尾憲太郎(b)も参加し、70~80年代ルーツの多彩なポップ・ソングを収録している。

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