AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Gibson Memphis & Nashville Dealer Tour 2016 Pt.3
毎年1月、アメリカ・アナハイムで行なわれるThe NAMM Showに行ったことがある人なら、会場付近に停車するひときわデカイ、ギブソン・ギターがペイントされたバスを見たことがあるのでは? ギブソン社がミュージシャンやディーラーの送迎、楽器ショーへの機材運搬などに使っている“ギブソン・バス”です。今回はいつもと趣向を変えて、このギブソン・ファンなら一度は乗ってみたいと憧れるスペシャル・バスのレポートと、ギブソン工場で使われている伝統的な工作機器についてのレポートをお届けします!
この圧倒的な存在感! 噂のギブソン・バスにデジマガ編集部/週刊ギブソン取材班も乗ってきました。ギブソン・メンフィスからギブソン・カスタムとギブソンUSAの工場があるナッシュビルへ、実に3時間半の道のりをディーラーの皆さんと同乗。まさしくスペシャルなバスについてレポートします。
世界各国ギブソン・ディーラーの送迎や移動のサポートはもちろん、さまざまなミュージシャンや要人も乗せるというスペシャルなギブソン・バスは2004年に導入され、現在ナッシュビルに3台(黒、青、白)、ヨーロッパに1台の計4台で運用しているそう。これはギブソン社の根底に流れるエンターテインメント精神の象徴であり、同社へ訪れるお客さんには移動の時間を含めて目一杯楽しんでいただこうとする、境界南部と言われるテネシー州に拠点を置く同社らしい“Southern Hospitality(南部のおもてなし)”の表れとも言えそうです。
ご覧のとおり、20人程度の大所帯移動でも余裕あるスペースで、カウンターやキッチン、バスルームまで実装する豪華仕様。キッチンの各扉や隠し棚に地元テネシー産ウィスキーがびっしりセットされているさまは、まさしくロックといった感じ。運転手のブルース・ハムリン・ジュニア氏によれば、4台あるバスはそれぞれで内装が異なり、中には乗車中にギター&アンプが存分に弾けるようセッティングされたバスもあるとか。運転手の好みにアレンジしているそうで “このバスでも、アコースティック・ギターとエレクトリックのカスタム・モデルを注文していて、今後乗車中に弾いて楽しんでいただきたいですね”とブルース氏。
これまでにギブソン・バスへ乗車したミュージシャンは、スラッシュやザック・ワイルド、エース・フレーリー、ウォーレン・ヘインズという“シグネチャー・モデル組”はもちろん、忘れちゃいけない故レス・ポールさん、ポール・マッカートニー、ジェフ・ベック、はたまたジ・エッジやテイラー・スイフトなどそりゃもう錚々たる面々。しかも音楽業界のみにとどまらず、ジョージ・ルーカスやモーガン・フリーマン、ナタリー・ポートマン、ロバート・ダウニー・Jrなどハリウッド界隈のセレブも多数ライドオン。もはや走るVIPルームと呼んでも過言ではないでしょう。そして我らが日本代表、松本孝弘氏(B’z)と斉藤和義氏もシグネチャー・モデル製作の折に乗車、とっても喜んでいたそうです。
オレもいっちょギブソン・バスに乗ってみたい!と思ったあなた。方法はいくつかあります。気合い一発ミュージシャンとして登り詰めるか、ギブソン愛をもって楽器店員さんになるか、はたまたデジマガ(週刊ギブソンTシャツ貸与)で働くか、ぜひ夢を追いかけてください。
さて、メンフィスを出発したバスは北東へと進みます。ギブソン・メンフィス工場でのハンドセレクトを1日で終えたディーラー一行は、車内で長距離フライトの疲れを癒す人、DVD上映会に見入る人、休むことなく注文したモデルの情報を本社へ発信したり、午後から始まるナッシュビル工場でのプロダクト・ピックの予習をする人など、それぞれの時間を過ごしています。1時間強走らせたのち、バスはテネシー州ジャクソンにある老舗レストランOLD COUNTRY STOREに立ち寄りました。ブルース氏によれば“ジャクソンはカール・パーキンスの出身地、このOLD COUNTRY STOREは数々のミュージシャンが移動の折に立ち寄ったオアシス”なのだとか。そう、このメンフィスからナッシュビルを結ぶ40号線/212マイルの道のりは“ミュージック・ハイウェイ”と呼ばれているのです。
メンフィスには1950年より数々のソウル、R&B、ロック名盤を焼き付けてきたサン・スタジオに加え、ソウル・ミュージックの名門だったスタックス、ハイ、ゴールドワックスなどのレーベルもありました。“ブルースの父”と呼ばれる W.C.ハンディを端緒に著名ブルースマンの多くもこの街で鍛えられ、一方でエルヴィス・プレスリーの邸宅“グレイスランド”や今では定番観光地となったB.B.キングのクラブなど、枚挙に暇がないほど歴史的音楽スポットがあります。少し逸れますが、ダウンタウンのはずれにあるミシシッピ川博物館を内包するMud ISLANDでは、ミシシッピ流域に咲いた音楽文化がメンフィス中心にまとめられていたりします。
他方ナッシュビルは言わずと知れたカントリー・ミュージック発展の地で、音楽関連の博物館はそれこそ多数、カントリーを浸透させた公開放送“グランド・オール・オープリー”の会場となったライマン公会堂やオープリー・ハウスは有名ですし、ビンテージ・ギターのオーソリティであるジョージ・グルーンのショップ、Gruhn Guitarsもここナッシュビルにあります。また、ダウンタウンの中心から少し離れた “ミュージック・ロウ”と呼ばれる一角には大小さまざまな音楽スタジオが200近くあって、近年だとテイラー・スウィフトもここから頭角を表しました。ミシシッピ川水系の支流、カンバーランド川を臨むダウンタウン・ナッシュビルは日夜音楽に溢れ、ギターを志す者ならば一度は訪れて損なしの“ミュージック・シティ”です。ギブソン社はそんな音楽の街にあり、“伝統と革新”という同社の両輪は街が育んだ文化と同じくしているわけですね。
ギブソン社は1894年、オーヴィル・ヘンリー・ギブソンによってミシガン州カラマズーで創業され、ここナッシュビルへは1974〜1984年にかけて段階的に移っていきました。今でもカラマズー時代から使われてきたいくつかの大型工作機器は職人の手に引き継がれ、それらがギブソンの伝統を現代に伝えてくれています。ここでは“ナッシュビル編”の予告として、ギブソン・カスタムの一部モデルで使用している工作機器をご紹介。
前回も紹介しましたが、メンフィスではボディ・プレス・マシンがカラマズーから使われている機器でした。時を経ても変わらないESシリーズのフォルムは、こうした機器の賜と言ってもいいでしょう。同じようにギブソン・カスタムでは、一品モノやプロトタイプの製作部門にてアーチトップ・モデルのボディ切削用のカービング・マシン、サイド・ベンディング・マシンを見ることができました。
マスタールシアー/カーブトップ・スーパーバイザーのダグ・カルバーソン氏によれば、ボディのトップ&バックを削り出すカービング・マシンがカラマズー時代から長年運用しているもので、同部門では、ほとんどのアーチトップ・ギター製作に用いているそう。これは、マシンの向かって右側にモデル毎に用意された型枠(カービング・フォーム)をセット、ローラーが型枠のカーブに沿って動き、その動きとリニアに連動する向かって左側の回転刃が木材を削っていくという、実にアナログなもの。“CADでコントロールするよりも安上がりだし、早い、それに正確なんですよ”とダグ氏。
Super400やL-5、L-4などの型枠が、ボディ・トップの内側用/外側用、ボディ・バックの内側用/外側用と、1モデルを製作するのに4つも用意されています。ここで粗く削り出されたボディ材は、次いでハンド・サンディングによって各部の厚みを計測しながら仕上げられていきます。ボディ・サイドも伝統的なベンディング・アイロンが使われていて、サイド材をお湯につけたのち、熱したベンディング台に這わせて作るというまさしく古の製法、ギブソン・カスタムのこの一角はまるでタイムスリップしたような空間でした。
ギブソン・カスタムのトゥルー・ヒストリック・レス・ポールの製作工程については、また別途特集しますのでお楽しみに!
※次回の週刊ギブソン〜Weekly Gibsonは2月12日(金)を予定。