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- 2024/11/16
キーボード・バイヤーズ・ガイド2016 Part3
昨年も数多くの新製品がリリースされ、大きな盛り上がりを見せたキーボード・シーン。日進月歩の先端技術から恩恵を受けたこれら新製品は、音楽制作や演奏に新たな可能性を切り開く絶好のチャンスとなるだろう。この記事ではそんなキーボード・シーンの現在を一望するべく、『キーボード・マガジン2016年1月号 WINTER』で大特集された“Keyboard Buyers Guide 目的&スタイル別キーボード購入ガイド2016”と連動し、現代市場を牽引する話題の新製品を3部構成で紹介していく。Part3となるここでは、プロフェッショナルの要求にもたえるモデル5つを“プロフェッショナル・シンセサイザー”と題し、その機能や特徴の違いを詳らかにしていく。
ピアノ音源SGX-2を新規搭載し演奏表現を豊かにする機能も装備
今回紹介するKRONOSはコルグ・シンセサイザーのラインナップの頂点に位置するフラッグシップ機で、サイドパネルが木目調のKRONOSは三代目となる。
鍵盤奏者にとって鍵盤楽器に求めるものはなんだろうか? それは人によっては繊細で表現力豊かな“ピアノ”かもしれないし、ファンキーでワイルドな“オルガン”かもしれない。トリッキーで攻撃的な“アナログ・シンセ”の音を求める人もいるだろう。これらは一般に“鍵盤楽器”とひと括りにされているが、その発音にかかわる内部構造は全くの別物と言っていいほど異なっているので、当然必要とされるエディットのパラメーターも全く異なる。だから1つの楽器で全部をカバーしようとするのはなかなか難しいのだ。それに対してKRONOSでは、それぞれの楽器に最適化した専用の音源システムを9種類も搭載している。その中にはコルグが今まで発売してきたオルガンやシンセの専用機の音源を現代の技術でさらにパワーアップしたものも含まれる。そのためライブやレコーディングの現場でどのような音色が求められても専用機と遜色のない音のクオリティで答えることができる。この柔軟な対応力の高さが多くのプロの現場でKRONOSを見かける理由の1つだろう。
KRONOSの持つ9種類の音源システムのうち、今回新たに搭載されたのがSGX-2というピアノ音源だ。ベルリン・グランドと名付けられたピアノとストリング・レゾナンス機能、ウナ・コルダのサンプルが加わった。全鍵盤ステレオサンプリングのノンループ(鍵盤を押して音が消えるまですべてをサンプリング)という、以前から評価の高いピアノは、タッチに応じたベロシティ・スイッチが8段階から12段階に拡張され、弾いていてより気持ち良くタッチに追随してくる。ストリング・レゾナンスはピアノの弦の共鳴を再現する機能で、試しにこの機能をオフにして弾くと音にふくらみのない味気ない音になってしまう。弦の共鳴を再現する機能は“ピアノがそこで鳴っている”という臨場感を出す上でとても効果的な機能であることが分かる。
ウナ・コルダはいわゆるソフト・ペダルのこと。新たに加わったベルリン・グランドに用意されている。ソフト・ペダルを踏んだときはハンマーが弦に当たる位置が少しずれて、音量が小さくなるだけではなく音色も少し柔らかくなる。このサンプルを持たない機種では、通常のピアノ音色の音量を下げたり、音色をフィルタリングしてこもらせるような擬似的な方法でソフト・ペダルの音を作っているものもあるが、こちらはさすがに本物をサンプリングしているだけあって擬似的なものとは比較にならないリアルなソフト・ペダルの音がする。ベロシティ・スイッチの段階が細くなったこととあいまって、繊細な極小音からハードなタッチの力強い音まで、とても表現力豊かなピアノ音源となった。
膨大な音色の管理・変更をスムーズに行えるセット・リスト機能
残る8種類の音源システムについてもざっと紹介していこう。EP-1はエレピに特化した音源。ローズ4種類、ウーリッツァー2種類の計6タイプのエレピが用意されており、実機を模したグラフィックで操作できる。しかもKRONOSのタッチ・パネルはタッチ・ドラッグ操作対応になったので、例えばローズ実機のグラフィック上でトーン・コントロールのトレブルを触り、そのまま左右にスライドすることで高域の音色調整ができるようになった。普段使っているスマホやタブレットの操作と同じ感覚で音色のエディットができるのはとても直感的で分かりやすい。
CX-3はオルガンに特化した音源、古くからのコルグ・ユーザーにはエレクトリック・オルガンの名機としてお馴染みの名前だろう。単体のオルガンとして発売されていたころよりもレスリーのシミュレーションが大幅に見直されておりいち段と魅力的なオルガン音源となっている。今回KRONOSのプリセットには往年の名曲の音色を再現したものが数多く収録されているのだが、これが思わず笑ってしまうくらい、どれも素晴らしくソックリなのだ。当然ながらオルガンの名曲もたくさん収録されている。プリセットを選択すると画面上にオルガンのドローバー設定がグラフィック表示されるので、ドローバーのオルガンに触れたことのない人は“こんなセッティングだとこういう感じになるんだなぁ”と参考にするのもいいかもしれない。
MS-20EX、PolysixEX、AL-1の3つはアナログ・シンセに特化した音源。コルグ往年の名機であるMS-20、Polysixを再現した音源では、こちらも画面上に実機を模したグラフィックが出てくるのでタッチ・ドラッグ操作によって直感的な操作が可能。AL-1は膨大なパラメーターを持ちアナログ・モデリングの可能性を追求した音源。これ1つでアナログ・シンセにできることはほぼできてしまうんじゃないか?と思わされるほどパワフルな音源だ。
一方でMOD-7、STR-1、HD-1の3つはデジタル・シンセに特化した音源だ。MOD-7はVPM/FM音源、STR-1は打弦/撥弦系の物理モデル音源。両者とも音色プログラミングに自信のある人ほどディープな面白さを感じられるはず。HD-1はいわゆるPCM音源で、トラックメイクにKRONOSを活用するときには一番お世話になる音源だろう。高品位にサンプルされたドラムやブラス、ストリングスといった音色はどれも存在感抜群の説得力あるもの。さらに16トラックのMIDIシーケンサー+16トラックのオーディオ・レコーダーの計32トラックのシーケンサーを持っているため打ち込みやオケを流しながらのライブも余裕でこなせる。
そしてライブ・ステージの場ではセット・リストとSST(スムース・サウンド・トランジション)という2つの機能が素晴らしく役に立つ。セット・リストは、プログラムやコンビネーションなどのモードの違いを意識する必要なく、1画面に最大16個表示できるボタンに音色を登録しておけばワンタッチで切り替えられるようになる機能。リストは128個保存できるので複数のバンドをやっている人はバンドごとに保存しておけば管理もしやすい。ユーザーがボタンに色をつけられるようになったので、1曲目は赤、2曲目は青などと色分けすることで視認性もさらに高まった。SSTは音色を切り替えた時の音切れをなくす機能で、前に弾いていた音色の余韻を残したまま次の音色を呼び出せる。
以上、駆け足で見てきたが最後にもう1つ。KRONOSはシステムのアップデートで進化する楽器でもあり、最新のシステムを乗せることで初代や二代目のKRONOSも最新版に近い形へとアップデートすることができる。フラッグシップ機だけあって製品寿命が長く、きちんと対応していくメーカーの姿勢も素晴らしい。1台の楽器とじっくり腰を落ち着けて向かい合ってみたいという人にもお勧めできる機種だ。筆者も今後の進化に期待しています。
(高橋利光)
アナログ/デジタルを自在に組み合わせ唯一無二のサウンドを生成
ローランドのウェブ・ページを見ても分かるように、このJD-XAの内部は、アナログ回路とデジタル回路がはっきり分かれている。同社としては約30年ぶりとなるアナログ・シンセの復活、そして、INTEGRA-7、JUPITER-80などで好評を博しているSuperNATURAL音源の搭載という、アナログとデジタルの良さを兼ね備えたJD-XA は、現在最も話題になっているシンセの1つと言える。
まず注目すべきはその音。アナログの持つ太さや、デジタルの持つ煌びやかさなどをこの1台でカバーしている。完全に独立した4パートのアナログ・シンセ部は、最大4音ポリフォニックとして使うこともでき、そのサウンドは往年のローランドのアナログ・シンセを彷彿とさせるが、決してビンテージな雰囲気ではなく、より現代的なものとなっている。3タイプ用意されたフィルターはローランドのオリジナル4ポール・フィルター、ラダー・フィルター、マルチモード・フィルターで、それらによって個性的に音を変化させていくことができる。特にマルチモード・フィルターの3種類は過激に変化するため、今までにはない個性的なサウンドが得られ、筆者も大変気に入った。
次に、注目すべきはデジタル・パート。前述のとおりSuperNATURAL音源が搭載されている。SuperNATURALと言えば、リアルな生楽器のサウンドを再現する音源方式というイメージがあるが、JP-8000などで一世風靡したSuperSAWを使ったシンセ・サウンドも簡単に呼び出すことができ、エディットすることも可能。またデジタル・パートは最大64ポリフォニックと、発音には十分余裕がある。
そして、このJD-XAの最も優れている点は上記のアナログ部とデジタル部を、各パートでオンしたりミュートしながら、作りたい音に近付けられるということ。例えば、強烈なアナログのリード・サウンドを作ってから、そこに広がりのあるデジタルのパッド・サウンドを加えたりすることができるので、今まで複数台のシンセを必要としていたことが、このJD-XAだけで可能なのだ。何よりも、パネル上に並べられたツマミやスライダー類がとても扱いやすく、作りたい音色に素早くたどり着けるのは本機の大きな特徴である。
また、“アナログ/デジタル クロスオーバー・シンセサイザー”ならではの機能がアナログ・パートとデジタル・パートのルーティング。デジタル・パートのサウンドを、アナログ・フィルターを使って作り込んだり、デジタル・パートの波形をアナログのオシレーターにクロス・モジュレーションをさせるといった使い方ができる。単純にアナログとデジタル・サウンドをミックスするだけではないこの仕様は、複雑で凝った音作りを可能にしてくれる。シンセサイザーに関する知識のある人ほど、その奥深さに驚くことだろう。
外部機器との連携や多彩な機能であらゆる演奏、制作フローに対応
このようなタイプのシンセはプレーヤー寄りの設計思想に基づくものが多いが、JD-XAについてもさまざまなシチュエーションでの使用を想定して設計されているように感じた。まず驚いたのは、CV/GATE出力が2系統付いていること。昨今、ブームになってきているモジュラー・シンセはもとより、同社のAIRAシリーズのSYSTEM-1mや、これから発売されるSYSTEM-500などにも接続可能。近年シンセサイザーは、アナログ、デジタルの垣根を越えて使われる場面も多く、JD-XAならあらゆる演奏、制作フローに対応することができるだろう。
また、最大4小節(16ステップ×4)記憶できるパターン・シーケンサーは、ダンス・ミュージックなどを制作する際にはかなり役立つだろう。あえて“16ステップ×4”といったちょうど良いループ感を演出できるようになっているところにも好感が持てる。DAWが発達した今日、ユーザーに求められているシーケンサーはこういった仕様なのかもしれない。もちろん、外部機器との同期もでき、MIDIクロックを出力するDJミキサーなどと接続すれば、トラックとのシームレスなDJミックスも可能。パターン・シーケンサーは16チャンネルの仕様になっており、内部の8系統の音源はもちろん、CV/GATE、MIDIを介して外部の音源を最大8トラックまでコントロールできる。また、PCにUSBで接続すればDAW上のソフト・シンセの操作も行えるため、JD-XAを中心とした制作システム構築も可能だ。
筆者が個人的に気に入った機能としては、DAWと接続した際、たくさんのノブやスライダーがMIDIコントローラーになること。さらに、トリガー・モードにすると、設定したCCなどを16個のボタンに仕込むことができ、ソフト・シンセのパラメーターを一発で切り替えることもできる。アイディア次第で楽曲に面白い変化を付けられるのは、JD-XAの大きな魅力でもある。
JD-XAは、USB接続によりPCと16ビット/44.1kHzでデジタル・データを送受信することができる。PC内にデジタルで、音声信号を取り込めることはとても素晴らしいが、せっかくのアナログ・パートの音をもっと良い音質で取り込みたいと思う人もいるだろう。そういった場合は、ANALOG DRY OUT端子を利用することで、デジタル回路を介さずにアナログ・パートのみの信号が出力される。アナログの良さを最大限活かすために設計されたモデルであることが、ここからも感じられる。
そして、シンセサイザーにおいてエフェクトはとても重要な要素。本体付属のエフェクトは物足りないことも多々あるが、JD-XAはアナログ、デジタル各8パートに67種類のデジタル・エフェクトがかけられるMFX(マルチエフェクト)と、マスターにかけられる2系統のTFX(トータルエフェクト)29種類が用意され、内部で完全に完結できるエフェクト群を備える。使うエフェクトを探すのが大変なくらい、充実したラインナップだ。アナログ・パートに強烈なディストーションを、デジタル・パートのパッドにはローランドならではのコーラスをかけ、マスターで2系統のTFX、ディレイとリバーブを加えるといった複雑なエフェクト・パッチングが本機だけでできる。同じプリセットでも、エフェクトのかけ方でまったく違ったサウンドに変化するので、多彩な音作りが可能だ。このエフェクトの充実ぶりは、JD-XAの大変大きな魅力である。
ユニークなのがマイク入力機能。ボコーダー機能はもちろんのこと、入力したマイク信号で、アナログ・パートの特定のパラメーターにモジュレーションをかけられる。使用するにあたっては少し慣れが必要だが、この機能はアイディア次第でかなり面白いことができる可能性がありそうだ。
“アナログ/デジタル クロスオーバー・シンセサイザー”と銘打ちながらも、その出音が素晴らしいため、使っているうちにアナログ、デジタルを感じさせない仕組みになっていることに気が付いた。JD-XAは、ローランドのフラッグシップ・シンセサイザーに位置する上級モデルでもあると同時に、ノブやスライダーが直観的に操作できるので、ぜひシンセサイザー・ビギナーにも試していただき、その面白さを体感していただきたい。
(江夏正晃(FILTER KYODAI/marimoRECORDS))
高品位な音色とエフェクトを搭載
コスト・パフォーマンスに優れた1台
ヤマハ“MOXF”シリーズは、同社が誇るフラッグシップ・モデル“MOTIF XF”のサウンド・エンジンや拡張性を継承するだけでなく、シームレスな操作性など、細かい部分をブラッシュアップさせたワークステーションである。今回レビューする61鍵盤のMOXF6 と88鍵盤のMOXF8の2ラインナップから構成され、CubaseなどDAWとの一歩進んだ連携機能も優秀な出来映えとなっている。
以前筆者は本誌で、“MOX”シリーズ(生産終了品)のレビューを執筆したが、これはMOTIF XFの前機種であるMOTIF XSのサウンド・エンジンを積んだワークステーションだった。そしてここで紹介するMOXFシリーズは、そのモデル名から分かるように“MOTIF XFのMOX版”と言えるものである。“MO”というモデル名から、若干ごちゃまぜ感を招きやすいかもしれないが、忘れてはいけないのは、先のMOXも、今回紹介するMOXFも、“決してMOTIFの廉価版ではない”ということだ。MOTIFシリーズは、実は2010年発売のXF以来リリースがなく(ヤマハ・シンセ40周年記念モデルのホワイト・バージョンの発売はあったが)、メーカーのMOXFサイトに、“MOTIFシリーズ 10余年の歴史の結晶”とあるように、このMOXFが実質MOTIF XFの後継モデル、と言ってよいのではないだろうか。もちろん、モノクロ&小サイズの液晶パネル、スライダーなど操作子の簡素化など、MOTIF XFよりスペックで劣る部分はあるが、その分プライスを抑え(なんとMOTIF XFの半額以下!)、MOXF6の重量は約7kgとやはりMOTIF XF6の半分!と、非常にコスト・パフォーマンスに優れたモデルとなっている。
肝心な音についてだが、筆者は初代MOTIFから現行機種のMOTIF XFまで、さまざまなモデルを使い倒してきた“MOTIF使い(笑)”である。しかし、このMOXFを弾いた瞬間に、MOTIF XFとの違和感は全く感じなかった。MOTIFシリーズが、世界中のアーティストやキーボーディストに長年愛される理由の1つは“とにかく音が美味しい”ことにある。1枚膜の取れたような明瞭感があり、特にピアノやストリングス、ギターといった、生楽器系の音色のクオリティは今も追随を許さないもので、どんな現場でもどんな相手でも、邪魔をしない&すぐに仲良くなれる性格のサウンドである。そのワールド・クラスのリファレンス・サウンドが、この“MOXF”からもアウトプットされるわけだ。本機には、MOTIF XFと同等の膨大な音色が内蔵されている。パネル上には見やすく配置されたカテゴリー・サーチ・ボタンを装備しているので、お目当てのサウンドに素早くたどり着けるだろう。
気になる鍵盤(61鍵セミウェイテッド)は、MOTIF XF6に比較してやや軽い感じではあるが、押さえ込み&跳ね返りの独特なニュアンスは同質かつ、心地良いプレイアビリティを約束するもので、ベロシティはもちろん、細かいデュレーションのコントロールも実に爽快だ。
エフェクト構成もMOTIF XFと同等のものを搭載。ビンテージ・コンプ&EQのエミュレーション“VCM COMP 376”や“VCM EQ 501”など、ヤマハ独自のVCMテクノロジーが、往年のフェイザー、フランジャー、ワウ系エミュレーションで威力を発揮する。リバーブもREV-Xを搭載、プロ・スタジオ・クラスの華麗なサウンド・デザインが堪能できる
また、大容量フラッシュ・メモリー(最大1GB&別売)の拡張機能を持っており、初代MOTIFからXS、XFまでの厳選されたボイス群、また同社デジタル・ピアノのフラッグシップ・モデル“CP1”のグランド・ピアノ群、さらにサード・パーティによるEDM系プログラム、ビンテージ・アナログやドラム、エスニック系サウンドなど、さまざまなMOTIF&MOXF専用ライブラリーがフリー・ダウンロード可能(Yamaha Synthesizer Sound Librariesにて)。当然フラッシュ・メモリーなので電源を切ってもサウンドは保存される。
プレイヤー/クリエイターのパフォーマンスを向上させる新機能
本機には、新機能として“パフォーマンス・クリエーター”を搭載。従来のパフォーマンス・モードで、レイヤーやスプリットなどを設定する場合、一度エディット・モードの階層に入る必要があったが、MOXFではパネル上に“レイヤー” “スプリット” “ドラム・アサイン”ボタンが用意されており、必要なときにこれらのボタンを押し、好きなサウンドをセレクトするだけで瞬時にバンド・アンサンブルを構築することができる。これはかなり重宝するはず!
一方、“ADD INST TRACK”、“VSTi WINDOW”、“AUTOMATION”……といったDAWのメニューにあるコマンド類の名前が、本機中央のボタンの下にプリントされているが、これはPC側を触ることなく、本機のパネルからCubaseのさまざまなコマンドをコントロールできる“DAW REMOTE”モードを備えているためだ。特に本機のデータ・ダイヤル“AI KNOB”は、PCのマウス位置の数値のダイレクトな変更を実現。ソフト・シンセやプラグイン・エフェクトのパラメーターなどを、MOXFからスピーディにエディットできる。
MOXFにはCubase AIがバンドルされ、さらに4 IN/2 OUTのオーディオ・インターフェースも搭載しているので、買ったその日からDAWを併用したハイクオリティな音楽制作がスタートできる。MOXFエディター・ソフトもダウンロードできるので、本体液晶に頼らない音色管理も可能だ。また、新たに“DAW LEVEL”スライダーと専用LEDレベル・メーターも搭載され、DAWからの入力を独立してコントロール&認識できるようになっている。入出力のオーバーロードを防ぐ意味でも重要な新装備と言えるだろう。
さらに、OSのVer.1.10への最新アップデートにより、Lightning-USBコネクター経由で、iPhone&iPadとのCC(Class Compliant)接続が可能になった(iOS7以降)。iOSアプリ“Cloud Audio Recorder”などを併用すれば、思い付いたフレーズをiPhoneやiPadにデジタル・レコーディングすることができる。そのままSoundCloudへのアップロードも可能だ。今後も増え続けるミュージック・アプリとの連携も楽しみなところである。
ロープライス、ハイクオリティ&ハイ・モビリティ、そしてフレンドリーなMOXFシリーズ。プロ・ユーザーはもちろん、これから音楽制作を始める人たちの“マイ・ファースト・ワークステーション”としても、絶好の1台と言えるだろう。
(近藤昭雄)
最近のバーチャル・アナログ・シンセサイザーの音の良さには目を見張る素晴らしさがあるが、アナログ・シンセをライブで演奏したり複数のシンセと同時に演奏したりすると、“リアルなアナログ音源はやはり音の抜けがいいな……”と改めて思うことも多い。今回紹介するモーグSub 37は、これまで数々の賞を受賞したアナログ・シンセ、Sub Phattyの音源システムをさらに改良した、2ノート・パラフォニックのアナログ・シンセサイザーだ。パラフォニックという言葉はあまり聞き馴染みがないかもしれないが、モノと2音ポリを切り替えられるという意味で、内蔵されている2つのオシレーターを、演奏したいフレーズや音色に応じ、モノフォニックで2つを重ねて使用するか、別々に2和音で演奏するかを選択できる。
本体には37鍵ベロシティ、アフタータッチ付きキーボードと40個のノブ、74個のスイッチが効果的に配置されていて、アナログ・シンセの音作りに慣れている人なら説明書を見なくてもすぐに音作りできるだろう。鍵盤のすぐ上にはプリセット・ボタン16個とバンク・ボタンがあり、組み合わせることで256種類(16×16)の音色を呼び出せる。もちろん工場出荷時から使える音がたくさん用意されているので、アナログ・シンセが初めてで音作りできないという人でもすぐに活用できて安心だ。もちろん、そこからツマミを動かし自分好みに修正した音色も、メモリーを上書きすることで記憶しておける。また、背面はつや消しアルミ、サイドはウッドで構成されていて、見た目的にもシンセな気分(?)を満足させてくれるだろう。洒落たオマケ機能として、GLOBALメニューのLIGHT SHOWという機能を使うと、本体のLEDがいい感じで点滅してくれるので、友達を呼んでパーティーをする際の電飾としても最高だ(笑)。
実際に音を出してみると……モーグらしい力強いリードやベース、また弾きながらカットオフのツマミをいじっているだけで気持ちよく盛り上がれる、アルペジエーターやモジュレーションを駆使した音など、シンセ好きなら大満足な音色が盛りだくさんだ。もちろんアナログ・シンセに詳しい人も満足できる細かい機能も満載。まずオシレーターは最初に紹介した2つにプラスして、サブ・オシレーター(1オクターブ下の矩形波)も用意。さらにSub 37の出力をフィードバックさせる機能や、各オシレーターのアウトプットが5を超える辺りから歪み始めたりという特徴を使用することにより、オシレーター・セクションだけでもかなりの音作りができるほどだ。
フィルターはモーグ伝統のレゾナンス付きラダー・フィルターで、切れ味を決めるスロープは6/12/18/24から選ぶことができる。フィルター・セクションに内蔵されているマルチドライブは、オーバードライブ的な歪みからハードな歪みまで調整でき、レゾナンス効果等と上手く調整する事で温かくマイルドな音色から過激な音色まで自由自在だ。
そしてそれらをコントロールするためにEG2基とLFO2基が用意され、EGに関してはADSRだけでなく、EG全体をループさせることでLFOのような変化を出せたり、またLFOは0.1Hzから1,000Hzという幅広い周波数を出力できるので、変態的なモジュレーション(?)や金属的な音色も簡単に作ることができる。さらにアルペジエーターだけでなく、鍵盤を弾くことで入力したフレーズを再生させるステップ・シーケンサーも内蔵しているので、ライブなどでちょっと複雑なフレーズを演奏させるのにも便利だ。
と、駆け足で紹介してきたが、このSub 37は音の良さはもちろん、ツマミの回し心地や鍵盤の弾き心地など、さまざまな部分でシンセを演奏する楽しさを感じることができるシンセなのでぜひ実際に触ってみてほしい! Sub 37は初めてのハード・シンセとして、またデジタル・シンセをすでに持っている人が力強いリードやシンセ・ベースなどを強化したいときの2台目として、本当にお薦めできるいつまでも使い続けられるシンセだ!
(守尾崇)
デジタル・シンセ全盛の時代に、モーグMinimoogをラックマウント、MIDI対応にしたMidiminiや、SE-1などで当時のアナログ・シンセ・ブームの中心的メーカーだったスタジオ・エレクトロニクス社が、さまざまなタイプのアナログ・フィルターを搭載したテーブルトップ・タイプの音源シリーズBoomstarを発表した。今回はその中からヤマハのCS80タイプのフィルターを搭載したBoomstar SE80を紹介したい。
SE80は小さなボディに完全なアナログ回路で作り上げたテーブルトップのモノフォニック・シンセサイザーだ。ではその内容を見ていこう。まずはオシレーターが2つ。これはMinimoogをモデルにしたもので実に太いサウンド。レンジは32’〜2’とLFOとしても使用できるLo、波形としては、オシレーター1はTriangleとSawの切り替え、SineとSquareの切り替えの2組がミックスできる上、サブ・オシレーターも搭載されている。パルス・ワイズも用意されており、LFOやエンベロープ1でモジュレート可能になっている。オシレーター・シンクも用意。オシレーター2はTriangle/Saw/Squareの切り替えで、オシレーター1とのデチューンを作るためのTuneノブ、ENV1、2によるモジュレーション、モジュレーション・デプス、音程に対応させるかどうかのTrackスイッチなど、考えられる機能はすべて搭載されている。これらによって生成されたオシレーター1、2とそのリングモジュレーション・サウンド、さらにノイズや、荒々しいサウンドを作ることができるフィードバックの音などをパネルの右下にある小さなツマミのミキサーで行う仕様になっている。
フィルター部はCS80のフィルターを再現したマルチモード・フィルターで、ローパス・フィルターの各パラメーターがパネル中央部に、ハイパス・フィルターのカットオフとレゾナンスはパネル上部に小さな2つのツマミで用意されている。これは使用頻度を考えた上で、完全なアナログ回路で可能な限りパラメーターをつまみにするためのアイディアと言える。ローパス・フィルターでは、カットオフ・フリケンシー、レゾナンス、Trackスイッチ、エンベロープ・デプスなどに加え、VCO2/LFOスイッチでどちらかからモジュレートできるようになっている。実にクリアで滑らか、CS-80を思わせる心地いいフィルターという印象だ。
エンベロープ1はVCF用で、ADSRの4つのツマミに加え、逆相にするInvert、エンベロープをLFOのように扱えるLoopボタンが用意されている。エンベロープ2はVCA用でこちらはADSRツマミのほかにLFOによるトリガー・スイッチ、シングル/マルチ・トリガーの切り替えなどが用意されている。ほかにも非常に強烈なサウンドを作ることができるクロス・モジュレーションや、9種類の波形が選べるLFO、オーバードライブ・ボタンなど、これでもかというほど、魅力的な機能が小さなパネルに詰め込まれている。
もちろんMIDI IN/OUTにも対応しているが、CV/GATEでステップ・シーケンサーやユーロ・ラックのモジュールと組み合わせて使うのが楽しそうだ。また、Boomstarシリーズを複数台接続してのポリフォニック演奏も可能。パネルの上部にはCV IN、GATE IN、VCF FM、VCA AM、オシレーターOUTのジャックを装備。パネル右下にオシレーターの代わりとなる外部入力のジャックが用意されている。
小型のテーブルトップ・スタイルのシンセは、飛び道具的なものが多いのだが、このBoomstar SE80はアナログ・シンセとしての完成度がとても高く、リード・シンセやシンセ・ベースなどに最適のモノフォニック・シンセと言える。ボディも頑丈な金属パネルで高級感もあり、価値の下がらない、長く使える1台になることは間違いないだろう。ホンモノのアナログ・サウンドが欲しい方に絶対お薦めしたい。
(松前公高)
本記事はリットーミュージック刊『キーボード・マガジン 2016年1月号 WINTER』の中でより詳しく紹介されています。ここでは紹介できなかった藤澤涼架、森大輔のインタビュー記事、キーボード・ヒストリーやその他注目キーボードのカタログなども紹介されていますので、ぜひチェックしてみて下さい!
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