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  • Dr.Dの機材ラビリンス 第24回

ギター用スモール・スピーカー・キャビネット〜再生の楼閣

ギター用12インチ×1発キャビネット

あらゆるデバイスが小型化される現代において、どうしてもある程度の容量・重量を必要とするのがスピーカー・キャビネットだ。PC用の小型スピーカーでもヘッドフォン/イヤフォンでも良質なギター・サウンドが得られるようにはなったが、やはり「本物」のギター用キャビネットの出音には何者にも代えがたい説得力がある。ハードルとなるサイズと音質の最適な妥協点と言えるのが12インチ(30cm)1発のキャビネットだ。ライブ、レコーディング、そして自宅練習用にと幅広く活用できる18モデルをぜひ検討してみてほしい。

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プロローグ

 いつも不思議に思う──アンプ・ヘッドを買って、スピーカー・キャビネットを買わない人がいることを。

 気持ち悪くないのか。それは、納車されたばかりの車にタイヤがついていなくても許せる人の思考だ。まさか、タキシードを着て裸足で出かけるわけでもあるまい。エレキ・ギター奏者である以上、「ヘッドのみ」という状況は、まさにそれらと同義である。正気の沙汰ではない。

 エレキ・ギターの最終的な音色を決定する素養のうち、ギター、アンプ、キャビの比率はおおよそ1:4:5。この黄金律は、エレキ・ギターというものがこの世に誕生して以来、変わることの無い不動の原則だ。しかも、現場によってはさらにスピーカー・キャビネットへの依存度は大きくなる。どんな高級シールドを繋ごうが、何百万もするビンテージ・ギターを使おうが、こと純粋な『音』の世界においてその違いはもはや誤差の範囲だと言わざるを得ない。それほどに、ギターの音というものはキャビネットを通さずには何も約束されない質のものなのである。

 ただ、いくらその必要性を口酸っぱく説いても、耳を塞ぐ人がいるのも事実だ。現に、金銭面や音出し環境、否、もっと単純に設置スペースや美観による相違もそこにはあるだろう。だから、すぐにとは言わない。今は、その必要性を頭の中で知っておくだけで十分である。そして、心の片隅で組み上げたパーフェクトに完遂された理想のシステムの中に、憧れのスピーカー・キャビネットを置くことを忘れさえしなければそれで良い。そうすれば、生活の中でその必要性をいつしか自然に学ぶことだろう。

 スタジオで、ライブ・ハウスで常に呼び起こされる、音を出さないまでも火の入った高出力アンプに繋がれミリミリと空気を震わすあの圧倒的な“予兆”、その興奮。それをいつか手元に置くという贅沢な憧れと恍惚、共に我にあり、だ。そして、一旦音を出せば、全てのせせこましい悩みをぶっ飛ばす不可逆の推進力に身を任せる禁忌の稜線をその心が南海も越えていく。やがて、その分厚くて重い木の箱が夢想の中でもスタックされ続け、魂の天井に達した時、不意に「その日」は訪れるのである。築き上げたあらゆる価値が反転し、己の実生活のド真ん中に“彼奴”が雄々しくそびえ立つ「その日」が。そして、音楽に捧げる日々のすべてが変わる。

 自分のスピーカー・キャビネットを手に入れること……それは、刻印だ。居住空間を圧迫し、ご近所に白い目を向けられる代わりに手にするギタリストの証明。この先もずっと「音を出し続ける」ことを掲げたそれは契約の聖櫃、それとも、墓標か。

 かくて、世に新しいギター・サウンドは成るのである。スピーカー・キャビネットを手に入れることで初めて動き出す音の世界が見えるようになり、表現者には、その伝えるエネルギーに相応しい出口を求める権利が与えられる。だが、悲しいかな、ギタリストの感性はいつだって消耗品だ。それが失われないうちに、急ぐといい。出口の無いサウンドは、いつか澱となって魂の感度を鈍らせてしまうだろう。

 だから、いかなる手段を用いても手にしなければならない、解放の扉──スピーカー・キャビネットを。常に自分のサウンドを、まだ見ぬ未来の音に繋げておくために。

商品の選定・紹介にあたって

 今回は、ギタリストにとって重要な音の要、スピーカー・キャビネットを特集する。注目するのは、この国の環境に最適なスモール・キャビネット。中でも、ライブ、レコーディング、そして自宅練習用にと幅広い活用が期待できる12インチ・スピーカーを1基のみ搭載したシングル・キャビについて括ってみることにした。12インチ・スピーカーには低出力アンプの低音を補う力があり、また一方で、大容量の入力に対しては必要とされる耐久性能を発揮する、現代のギター・サウンドにおいて欠くべからざる最もスタンダードな規格である。このスピーカーと各キャビネットの組み合わせによる個性を見極め、メーカーの意図する音色に対して理想のサウンドを擦り合わせるための広い視野を養うのがこの特集の目的である。ギター用1発キャビはあまりにも種類が多いため、音色的に個性がわかりやすいモデル、または、よく知られたブランドの代表的なモデルの中から、デジマートの在庫に合わせて選抜してみた。ギタリストの音を決定する最後の「関門」スピーカー・キャビネット。終わりよければ、全てよし──ギター・サウンドにおける総括の聖域に今こそ注目し、何ものにも揺るがない自分だけのサウンドの完成のために役立ててもらえれば幸いである。

12インチ1発スピーカー・キャビネット

[1912]

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01 Marshall [1912]

 近代ハイゲイン・アンプの大家ジム・マーシャルの真の功績は、Fender Bassmanのアイデアを継承したJTM45を開発したことよりも、むしろ、それに合う12インチ・スピーカー・キャビネットを生み出したことにある──と人々は言う。それほどに、Marshallという抜きん出たゲイン・フィールを達成したアンプの豊かすぎる倍音を受け止めるエンクロージャーの設計は画期的であり、現代においてもなおハイ・ゲイン用キャビネットの基本思想となって受け継がれる、Marshallサウンドの根幹を成す要素なのである。

 1989年から発売された1912クローズド・キャビネット(現行品は2012年頃からの再生産品)は、70年代中期にあったオルガン兼用の「額縁」キャビである“20xx”シリーズや、80年代半ばから目立つようになったコンボの低音補正用エクステンション・キャビネットのブームを継承した、Marshall第3世代の1発キャビネットである。元々はJCM900(最初期型以外はゲイン目盛りが20まであるモア・ゲイン専用ヘッド)のコンボ用エクステンション・キャビネットとして想定されていた製品だったこともあり、1960等と同等の多層に張り合わせたどっしりとしたバーチ材で組まれた枠を用いることで、ブライトで安定したロー・ミッドを稼ぎ出す。ただ、キャビネット容量の違いから1960よりも内部反射が抑制されているため、従来のMarshallキャビのあのゴンゴンとした分厚いフィード・バックは無く、エンクロージャー自体の特性はストレートでタイトな印象だ。

 デフォルトのスピーカー・ユニットは150Wもの入力を持つCelestion G12B-150。ヘッドの出力に対して、キャビネット側に数倍の入力容量を設定することで低音を稼ぎ出す70年代以降のMarshallに見られるサウンド・ファクターを体現しつつ、1発の12インチ・セラミック・ユニットのみでその容量を稼ぎ出している所に、この個体のサウンドを決定付けている独自の構成を見ることができる。通常の4x12キャビのように複数のスピーカーで合計入力容量を稼ぐと、内部ハレーションと各スピーカーの発声タイミングの個体差により、分厚いウォーム・スクリームが引っ込んだ中域を上と下が包み込むようにカバーして丸いミッド・フィールを構成する。それに対して、スピーカーがシングルの場合には、ドンシャリ傾向がクッキリと浮き立つものの解像度は高く、音粒がより前にせり出してくる。その感触が1912独特の狭いエンクロージャー内で圧縮され、パンチのある音像を生んでいるようだ。

 ロー側の140Hzあたりに硬い瘤のようなパワーがあり、チューブ・アンプ特有の「サグ」も乗りやすい。Marshallキャビ特有の立ち上がりのもたつき感も少なく、極めて洗練されたモダンな低音キャビとして今でも重宝されるのが頷ける、実に頼もしいサウンドだ。近代的な1Wや5Wのミニ・ヘッドでも骨太のチューブ・トーンをしっかりと底上げしてくれるだけでなく、50WクラスのビンテージMarshallのヘッドをフル・アップすれば、伝統的なGreenbackやVintage30とは全く異なる“噛み応えのある”エッジによる全く新しいサウンドに出会うことができるだろう。ミッド・レンジのパワーを存分に活かしたいサブ・ユニットならば75W×1発のMXキャビも選択肢にあるMarshallだが、このブランドの持つサウンドの奥深さを知りたいならば、まずこの1912の出音を隅々まで乗りこなしてみることをお勧めしたい。
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[V112NT-G2]

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02 VOX [V112NT-G2]

 汎用性の高いフル・チューブ・スタックとして豊かなミッド・ドライブを内包したVOXのNight Trainシリーズが、G2にバージョン・アップ。それに伴い、その15Wヘッド専用の1発キャビであるV112NTもシェル(外装)をリサイズされて再登場を果たした。初期のタイプよりもやや奥行きを増したV112NT-G2は、相対的に重量も増え、わずかに低音も増強された印象だが、あの輝くようなレスポンスに濁りは一切無い。カッと一瞬で空間を焦がす灼熱のクラスAロードと、プチプチと弾けるトップ・エンドの泡末の倍音を持つ、「容赦のない」VOXサウンドをその小さな筐体でよく受け止めている。奥まったパワー感こそ無いが、高域にはクッキリとした張りがあり、早めに飽和するわりにはその後も伸び続ける特異なフィールは健在。

 スピーカーはG12M(Greenback)カスタムを装備し、25W×1発らしく、VOXの粘っこい中域のアタックやハイ側に重心のあるワイルドな突出は実に明瞭で、枠の外された伸びやかなサウンドを楽しめる。また、V112NT-G2の持つトータルのゲイン耐性が思いのほか高いことから、近年の北欧系ミニ・ヘッドとの相性もバッチリで、むしろ25Wギリギリの入力で使ってやる方が出音の個性がより生きてくる。低音の疾走感はさすがに大音量でないと厳しいが、オープン・バックのキャビとしては際立ってピーキーというわけでもなく、常にギターの音をごまかさずに引き出してくれるとても上質な鳴りと言えるだろう。

 さすがにBlueやVOX Bulldogほどの鮮やかさはないにせよ、このカスタム・スピーカーには確かにパワー・チューブのサチュレーションを絡めとるようなしっとりとした慇懃な響きがあり、激しいピッキングにも音質がうわずってこないので、Fender Champ等のクラスAアンプ用エクストラ・キャビネットとしても十分に活用できる素養がある。クリーン・トーンに対しても適応性が高く、手なりで強弱の表現が付けやすいので、ローファイなクリーンにもうひと味足したい時には実に有効なキャビだ。アンプが50W以下ならば、レコーディング・ミックス用にひとつ持っておくとあらゆる現場で重宝することだろう。
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[PPC112]

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03 ORANGE [PPC112]

 うわずったように突き抜ける中高域に特徴のあるORANGEのドライブ。それを受け止めるのに最適な、12インチ1発キャビネット、PPC112。18mmもの厚みを誇る13層バーチ合板による音の直進性は抜群で、バスレフ・ホールが無いことで、行き場を失った低域の回り込みがアタックに絡み粒の大きいピークを演出する。近代のモダン・キャビのようなダイレクトさには及ばないが、真空管のささくれた飽和とはまたひとつ違った濃い色彩を持った分厚い芯が独特の音質を生んでおり、サステインの末端で高域が急激に落ち込んでくる様はMarshallやVOXよりもギター・キャビネットとしての特徴が顕著に出ている製品だと言える。

 スピーカーには、もはや同社御用達とも言うべきCelestion Vintage30を搭載。現代ではモダン・サウンドの代表とも言うべきこのスピーカーだが、ORANGEにおいて使用される意図は少し当該ニーズとは異なっている。低音がタイトなのは共通するが、ハイ・ミッドの重心と高域のキラキラした倍音は、圧縮されて打ち出される号砲のようなORANGEキャビのややクドい特性を緩和し、音の透明度を回復させるのに寄与しているのは間違いない。同社のヘッドが持つ切迫したレンジ感はややもすると鋭いピークの立ち上がりを殺してしまいかねないが、Vintage30の持つ質量を感じさせながらも爽やかに歌い上げるあの力強いハイ・ミッドのフィールが、きちんとORANGEらしい飽和感を保ったまま目の詰まった力強いドライブへと仕上げてくれる感じも秀逸だ。ただし、それだけジューシーなドライブ特性を持つクローズド・キャビ故に、当然予想されるようにクリーンは苦手で、そのまま鳴らすとかなり籠った音になってしまう。プレイでクリーン・サウンドの比率が高い奏者は、上質なコンプの併用が必須になってくることだろう。

 また、Vintage30は特にORANGEのキャビで使う際にはエイジングが胆になると言われている。それは、ORANGEキャビ特有のミッド・レンジの減退するカーブを丁度補うように、使い込んだVintage30のマッシュなピークが上手くハマって美しく調和するとされているためだ。ビンテージのスピーカーを換装するのも良いが、せっかくなので何十年も使い込んで、接着剤や材そのものが乾いてくるのと合わせてスピーカーを育てるという楽しみをこのキャビネットで味わうのも一興だろう。ちなみに、1月後半にはイケベ楽器店オーダーのブラック・カラーのPPC112も市場にお目見えする予定となっている。これから買おうと思っている人には、Marshallなどのミニ・ヘッドとも合わせられるこのシブいカラーも検討してみると良いだろう。
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[HT METAL 112]

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04 Blackstar [HT METAL 112]

 真空管のスペシャリスト達がビンテージのサウンド・ロジックに大胆な最先端デジタル・テクノロジーの融合を試みたことで、今や英国ハイゲイン・ギター・アンプ界の最右翼とも呼ばれるようになったBlackstar。その中でもHT METALシリーズは、双3極増幅管(本来プリ管として使われる3極管がふたつ入った12AU7Aや12BH7)をプッシュ・プル型パワー・アンプ回路に見立てた、ロー・パワーなフル・チューブ・ヘッドをラインナップに持つことで知られる、真空管ギター・アンプ界の寵児だ。その、1W、もしくは5W用ヘッドに最適化されたのが、このHT-METAL 112スピーカー・キャビネットである。

 そのシェル自体に特段の厚みは感じないものの、内部の吸音材を最小限にして自然なアンビエンスを活かすような構造を持っており、ハイゲイン・アンプ対応用としては珍しいハーフ・オープンのバック・パネルを採用している。そのピークの透き通った優しい出力特性は、いかついメタル・グリルから想像されるような頑健なイメージとはほど遠く、キャビネットのみのキャラクターとしてはむしろビンテージ・テイストに近い。このキャビに適性のあるHTミニ・ヘッド・シリーズに見られる双極パワー管仕様の増幅は実は20世紀前半からある古典的な仕様なのだが、まだ当時のものはゲインを上げた時のクラリティ処理が未成熟で、キャビネットの遮蔽性能もプレゼンス領域が開きっ放しのバリバリとした歪みをまとめあげるのには適性を欠いていた。それを思えば、現代的トーン・スタックを持つBlackstarのコシの強い剛性感溢れる歪みを12インチ・スピーカーの懐の深い低音感に合わせるのに、あえてそういったクラシックな抜け感のあるオープン・バックのセンシティビティを用いてバランスしていくという、このメーカーの凡庸ならざる思想にも納得がいくというものだ。

 そのチューニングは、搭載されるカスタム・スピーカー、Blackbird 50の、あえて上下のレンジ感を犠牲にし直進性をシンプルに強調した音質とも実にマッチしている。MarshallやVOXのごとくアンプの性能を一段階押し上げるのではなく、すでにトータライズされたヘッドの推力に一定のベクトルを与える様な使い方ができる希有なセンスを有したマテリアルである。通常の市販キャビネットのキャラクターを軽々と押しのけてしまうような極端に硬質なモダン・アンプに対してさえ、音の緊張感を緩めること無く音楽的なフィジカルのみをもたらすことのできるこうしたエクステンション・キャビネットの存在意義は高い。アンプの表現力が上がり続ける限り、今後も益々その必要性が増すに違いない。
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[112 Cabinet] 写真:クロサワ楽器 デジマート店

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05 Hayden [112 Cabinet]

 英国Ashdownの系列下で、高性能なハンドワイアリング・アンプ製造を担当するHayden Amplification。バリンとしたオープンなブルース・リードからダークでアグレッシブなロック・ドライブまでを網羅した多彩な歪み、そして、煙る様な静謐なクリーンを併せ持つ同社のヘッドに用意されたのは、金色のコーナー・ガードを持つクラシックな雰囲気の12インチ、112 Cabinetだ。

 クローズド・バック特有のシルキーな音質だが、コンプ感は控えめで、英国製にしては嫌味の無い素直なダイナミクスを得やすい音といった印象だ。ゲインを抑えるほどミドルに美しい「溜め」が生まれ、ハイ上がりなHaydenヘッドのブライトな音質に対して適度に立体感を追加してくれる。面白いのは、スピーカーに、ブリティッシュ・アンプ伝統のCelestionではなく、レンジが広くややダークな味付けのあるEminenceのギター専用スピーカーEGTR-S1712-16を採用している点だ。

 このスピーカーはボイス・コイル・フォーマーにノーメックス(アラミド絶縁素材)を用いているのが特徴で、ドライバーがフェライト(セラミック)にも関わらず、ダンブル系ともひと味違った柔らかくまとまりのあるアタックが出やすい。出音は速く、厚みのある音質のわりには歪みの輪郭を抽出する性能が高く、ギターがシングルコイル系の場合は特に相性が良く感じた。耳のキンキンするタイプのシングル・エンド・アンプや、ビンテージのFenderアンプ等のサブ・モニターとして使えば、かなり香り高い奥行きを与えることもできそうだ。金属質な音質の80年代アンプに、あまり粘り気のあるタッチを加えずに音域の広がりだけを与えたい場合にはいっそう重宝することだろう。

 あらゆるミドル・クラス・アンプに適性が広く、12インチ・スピーカー1発でもクリーンで鳴らした時にきちんと音の「深さ」を感じられるキャビネットを探しているなら、まずこの製品を一度試してみて欲しい。確実に値段以上の価値の音質を見出せるはずだ。
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[GS-112]

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06 ALBION [GS-112]

 MarshallやVOXで製品開発に携わったデザイナー、スティーヴ・グリンドロッドが主宰する新ブランドALBION。設立当初より、流通大手による支配を避けるため、デザインその他品質管理を手がける英国メイン・オフィスと、製造拠点である中国等アジア圏のチームを合理的に統括する独自のビジネス・モデルを打ち出したり、業務用スピーカー設備の老舗Wharfedale Pro社との間に技術的パートナーシップ協定を締結したりと、もろもろ話題に事欠かないメーカーである。モットーに「価格に見合う価値のある製品」を掲げる通り、彼らの作品はどれも非常に高いコストパフォーマンスを維持している。

 スピーカー・キャビネット製作のノウハウに一日の長のある同社にとって、まさに本丸とも言うべきGS-112キャビネットは、控えめな容姿ながら、完全自社開発のスピーカー・ユニット、ALBION G1250-VSR-16を搭載する等、持ち得る音質のエッセンスを全て注ぎ込んだと言っても過言ではない逸品である。その音質は、“恐ろしくしっとりとした音”とでも言うのだろうか。ビンテージ・テイストには違いないが、とにかく、波立たない。ベルベットの様な光沢のある艶やかさではなく、表面張力によってギリギリに張りつめた水面の緊迫感と、立ちのぼる冷気の様な空間の堆積を、両方同時に感じることができる出音なのだ。超高級なピュア・オーディオの聴感にそれは似ているが、ギター・アンプ特有の高域の先折れ感もそこには確かに存在するのがスゴイ。しかも、ゲインを上げていくと、パワーがダイレクトに増すというよりは、ピッキングの深さに応じて、エッジ部分に遠心力でスイングするような押し引きのある抑揚が現れ、ミドルが凹みながら、上ではなく音の底がどんどん深まっていく。その、どこまで行っても底が見えない感覚は感動的ですらある。

 ALBIONのアンプではなく、よりハイゲインでスピーカーの許容ギリギリの50Wアンプを突っ込んでも全く同じ反応で、ほぼフル・アップにしてもピークこそ切なく悲鳴を上げるが音の芯はほとんど割れてこない。これがギター・アンプとして正しいかはいざ知らず、既存の「フルレンジ」とうたわれている有名メーカーのキャビネットよりも、よほど各レンジの再生能力は高そうであった。ロー・パワー・アンプでのカッティング等で、ピシビシと弦の“撓り”を聴かせたいプレイヤーには、かなり衝撃的な音質と言えるだろう。80年代のMarshallキャビを知り尽くしたスティーヴの耳とWharfedale Pro社のスピーカー製造の叡智が高次元で融合したこのサウンドに、今、業界の注目が熱い。
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[THIELE FRONT PORTED COMPACT CABINET]

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07 Mesa/Boogie [THIELE FRONT PORTED COMPACT CABINET]

 近年ではRect系を中心にスピーカーにVintage30を選択することも多くなったMesa/Boogieだが、やはり吸音材が必要な小口径キャビネットともなると、あの独特のロー・ミッドのスクリーム感と高域のジャリジャリとした倍音の再生には、どうしてもこの独特の音域を担保するメサ・カスタムによるワイド・レンジ・スピーカー、Celestion C90(Blackshadow)が最適ということになるだろう。

 THIELE FRONT PORTED COMPACT CABINETは、複数の厚みを持つマリン・バーチで固めたコンパクトなエンクロージャーに、バッフル板ごと前面からロードされたC90と、3段に分かれたフロント・ポートのバスレフ構造を搭載した汎用エクステンション・キャビネットだ。この特異なチューニングから練り出されるサウンドは、どんなヘッドの音も全て「メサの音」に変えてしまうと言われるほど強い個性を出力することで知られ、アンサンブルの中で一切埋もれることの無い図太く金属質な音場を形成する。キャビのシェルが小さくとも、しっかりとヘルムホルツ共鳴(同位相を作り出すバスレフによる共鳴運動)により効率良く増幅させた低音によって期待通りの地を這う轟音を吐き出すことはもちろん、バスレフを通った中高域の回折が生むチューブ・ドライブとは全く異なる割れ鐘の様な複雑な歪みも圧巻。この踏ん張りのきく強い音質は、やはりMesa/Boogie以外では体感できない。

 実際の音の大きさも度肝を抜かれるほどで、たった1発のこのキャビの音が、同ワットのヘッドで鳴らしたGreenbackの4発キャビの音量を上回ることもザラなほどだ。加えてこのキャビの凄い所は、極小音量でもキャビ特有の歪みの質を失わない所だ。もちろん低音域は目減りするが、それでもプライベート・ルームでのレコーディングにTrans AtlanticやMarkシリーズのミニ・ヘッドのドライブを十二分に活かすことができるのは重宝することこの上ない。近年では、クリーンが主体のフュージョン系プレイヤーにもステージ・ミックス用のキャビとして活用されていることから適応能力の高さを見て取ることもできるが、やはり個人的には、歯ぎしりする様なブルースで泥臭いリードを奏でる為にこのキャビを使って欲しいと思う次第だ。
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[CUBE]

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08 Bogner [CUBE]

 ラック・ユーザーの自宅要塞化に最も貢献したとされる小型キャビネット界の雄、Bogner CUBE──通称“豆キャビ”。2wayもしくは3way用としてハイファイな音質も安定的に再生でき、あらゆるジャンルにおいて艶やかでストレートな出音が人々を魅了する、人気、実力共に最高峰の12インチ1発キャビだ。高性能インシュレーターと吸音材によるタイトな反応性を備え、どんなスピーカーを載せても音源の距離が近く、歪みにも負けずセオリー通り「面」で鳴ってくれる。

 また、同サイズの製品の中では相当に奥行きがあり、クローズド機構にも関わらず立体感のあるダイナミクスがクリーンも余す所無く再生する上、マルチ・プライのエンクロージャーはドライバーを積んでいなくても15kgに達する重さで、非常に質感のあるロー・エンドを構築するのに寄与している。現行品では、基本的に前面下部の両サイドにバスレフ・ポートを備えたデュアル・ポーテッド仕様がデフォルトで、ワイド・レンジを失わない絶妙なダンパー制御が輪郭のある中高域を出力し、まるで4発入りの大型キャビネットのようなごつい“手応え”だけが忠実に手元に跳ね返ってくる。使用環境に応じて購入段階でG12H等いくつかのCelestion製12インチ・モデルの中から搭載ユニットを選択することも可能だが、推奨スピーカーのCelestion Vintage30を搭載したキャビならば、フィード・バック下でも作為的なプッシング・フィールを完璧に回避でき、鮮やかな高域の輝きのみを堪能することができる。

 一昔前に流行ったFRYETTE(旧VHT)のような高級プッシュ・プル・パワー・アンプとの組み合わせはさらに格別で、曇りのない余裕のトップ・エンドと深く明瞭なエッジ、そしてジャストでやってくる壁のごとき倍音の圧力をたっぷりと堪能できるだろう。ただ、あまりにもビビッドすぎて、スピーカー・ケーブルの差も如実に再生してしまうため、本来のサウンドを味わい尽くしたいならば、やはりColossalのスピーカー・ケーブルは必須か。とにかく、音の消える瞬間まで神経の通ったディレクションに拘りたいユーザーには、避けては通れない製品と言えるだろう。
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[DT25 112 Extension Cab] 写真:イシバシ楽器 デジマート店

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09 Line 6 [DT25 112 Extension Cab]

 Bognerの主宰ラインホルド・ボグナーによってデザインされた、Line 6のフル・チューブ・モデリング・アンプ、DTシリーズ。デジタル・テクノロジーにより、搭載されている本物のプリ/パワー及び整流管の駆動キャラクターやトーン・スタックを完璧に制御、組み替えることが可能で、あらゆるジャンル、仕様の枠を越えた無限なアンプ・キャラクターを生み出せるそのヘッドに対応するキャビネットには、当然、かつてないほどの多様な音質を受け止めるだけの柔軟な適応性能が求められる。しかも、ただ無難に音を発するだけではなく、全く音質の異なる高品質なリアル・チューブ・サウンドの表現力を余す所無く引き出す様な仕様でなければならない。デジタル因子でボイシングできる電気信号内のサウンドとは異なり、本物の「音」の世界をその理想にどれだけ近付けることができるのか……それは、真実を越える様な卓越したモデリング・アルゴリズムを生み出すことよりも遥かに困難な作業だったに違いない。

 今やデジタル・モデリング技術をサウンドに組み入れるアンプ・メーカーは少なくないが、モデリングが多彩且つリアルになればなるほど、そのサウンドをキャビネットひとつで表現することにやがて限界が訪れることは必定で、そのジレンマはアンプのモデリング数やキャラクター自体を制限するか、もしくはFractal AudioやKemperのようにヘッドの柔軟性を突き詰める代わりに特定の専用キャビネットを持つことを放棄してしまうかしかない。だが、そんな中で、Line 6だけは違っていた。その矛盾する課題に正面から取り組み、遂に、真にバーサタイルな音源を再生するためのギター・キャビネットの形に辿り着いたのである。そのひとつが、このDTシリーズの25Wヘッドに最適化された“DT25 Cab”である。

 12インチ単発キャビの中ではかなり大柄な部類に入り、特にその奥行きは最底辺部(正面パネルがスラントしているため)ではBognerの“CUBE”を越える381mmn達する。キャビネット自体の音質は非常に硬質で、高域に向かって音色に奥行きが生まれるタイプ。それを2箇所のバスレフと、搭載されたCelestion G12H90カスタム・スピーカーで全体的に厚みを足している印象だ。これほど多彩な音質を受け止めるキャビネットがフラットな特性を目指していないのは驚きだが、実際に音を出すとこの製品の懐の深さがよくわかる。どんな音で鳴らしても、レンジ全体を押し上げる様な力強い芯が沸き上がる感触があり、この「素」の音だけでも十分に素晴らしいと感じられる音になっている。

 しかも、レスポンスは常に一定というわけでなく、ピッキングにひたすら忠実で、なめるように弾けば簡単にとろりとエッジが溶け出して微睡むような音質に変化する。コンプ感も、音の回り込みも、ただ出音の邪魔をしないようにささやかで……全てが無理をしない、「自然」な出音なのだ。目立って補正臭い部分は歪みを強くした時にややアタックが揃うことくらいで、そのチューニングは、きちんとギターのオイシイ部分を残すために、あえて不器用な部分も出すようにしているようにさえ思えた。レンジ感も、音質によってきちんと広がったり狭まったりする。これは本当に恐ろしいキャビだ。唯一、デジタル系のパワー・アンプと合わせると少し底が抜けた様な物足りなさを感じることもあったが、それでも、既存の製品に繋ぎ直すよりも遥かに好印象だったのは間違いない。

 モデリング専用のキャビとしてだけではあまりにも突き抜けたその適性は、今後、複数のアンプを1台のキャビで鳴らしたり、エフェクト多用派の平均値を埋める役割だけには留まらないはずだ。所有アンプの本当に正しい出口に通した時の「基準の音」を知るための雛形──これは、その役割を果たし得る資質を持った数少ないキャビネットのうちのひとつであることは間違いない。ギター・キャビネット不遇の時代にあって、スピーカー単発モデルとはいえ、これほどのポテンシャルを秘める製品が現行製品であることに、惜しみない賞賛を送りたいものだ。
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[Suhr 1x12 Cabinet] 写真:イケベ楽器店 プレミアムギターズ

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10 Suhr Amps [Suhr 1x12 Cabinet]

 CAA(Custom Audio Amplifier)のキャビネット製作も一手に担うJS Technologies社のプライベート・ブランドSuhr。ギターからアンプ、さらにはエフェクターやアクセサリー類まで幅広く事業を展開する同社のギター用キャビネット製作のノウハウは、創業当時から西海岸のスタジオ・ミュージシャンを中心に常に高い評価を受け続けてきた。

 まず、ルックスが素晴らしい。コーナー・ガードの無いビンテージの風格を持つエンクロージャーに、ソルト&ペッパーを意識したグレイ・バスケットのグリル……この見た目で音が悪かろうはずが無い。キャビネットの特性は、とにかく揺るがない静粛な高域が素晴らしい。もたつく様なピークの抑え込み感も無く、バスレフから立ち上がるミドルの歪み成分もすっきりとしていて、アタックには独特のクリスピーな突出がある。おそらく定番のVintage30等を載せてもあまりギラついた感じは出ないに違いないが、ここでのチョイスはさらに4k〜5kHzあたりのグリッジがなだらかなWGS(WAREHOUSE GUITAR SPEAKERS)社製Veteran30。高域の倍音に艶があり、よく使い込まれた王道のブリティッシュ・トーンといった印象だが、総じてプレゼンス領域はワイドに過多で、ギター側のニュアンスはことのほか出やすい。

 こうして洗練されたクリアな1発キャビに載せて聴くと、市場ではよくCelestion Vintage30と比較されるWGS Veteran30の音も、どちらかと言えば「中域を限りなく上品に整えたG12H系」に近い出方をしている様な気もする。少なくともこのキャビで使う限りはロック向きではなく、完璧にジャズ、フュージョン・プレイヤーが好むサウンドだろう。ブーステッドなドライブよりも、空間系の微妙なアライメントを出口で完璧に操作したいプレイヤーには、強い味方となってくれることだろう。クリーンからクランチでBognerの豆キャビを使ってみて、そこまで強い低音域の主張が必要ないと感じたプレイヤーに一度試してもらいたい逸品だ。
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[String Driver 112 Cabinet] 写真:イケベ楽器店 プレミアムギターズ

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11 TWO-ROCK [String Driver 112 Cabinet]

 2005年にTWO-ROCK御用達として採用されて以来、もはや欠かすことのできないブティック系アンプの定番出口ユニットとして語られることも珍しくなくなったString Driverのカスタム・キャビネット。指向性よりもギターの表現力を重視し、アンプ・ドライブのディレクションをよりプレイヤー寄りに接近させるデバイスとして磨き上げられたその音楽的感度の高さは、アンプ・システムに「弾かされてきた」ミュージシャン達を、どれだけその縛りから解放したことだろうか。このString Driver 112 Cabinetも例外ではなく、特段珍しさを感じないバーチ材のエンクロージャーを持つセミ・オープンの軽量キャビネットなのにも関わらず、その音質にはどこか官能的で、そして得体の知れない奥深い透明感が常につきまとっている。

 聴覚上の“速い音”というのは、まさにこのキャビネットのためにある様な言葉で、とにかくギターの反応性を鈍らせる“カブり”の原因となる帯域を削ぎ落としつつ、それぞれ飛ぶ距離の異なる音が鼓膜に届く瞬間に綺麗に上から下までフラットに揃うこのチューニングには凄みすら感じるほどだ。老獪で清廉なスプール、そして、色濃くたゆたうミッド・レンジに、ピッキングによって違う色が差し込むたびに一瞬でその表情を変える劇的な音色のダイナミズム──それらが一切圧縮されることなく、乾いたサステインの後に広がって消える。Greenback×4発キャビネット由来の食らいつく様なコンプ感で慣らされてきた70年代、80年代の耳にとって、この鳴りは反則だ。

 それに加え、さらに搭載されるスピーカーは、Dumble系サウンドのバリッとした響きを再生するのには欠かせない伝説のElectro Voice EVM-12S(現在は生産終了)だというからヤバすぎる。この200Wの超弩級スピーカーによる巌の様な中低域と、甘く立ち上がってどこまでも高域に向かってぐいぐいと伸び上がるフィールは、現代の低ワット・スピーカーなど全く寄せ付けない安寧のパワーに満ち満ちている。ブライトさ、タイトさでは確かにVintage30のようなモデルの方が秀でているかもしれないが、それはすなわち音が「軽い」ということ……とりわけEVM-12Sのような懐の広いリアル・ドライブを一度聴いてしまうと、低ワット・スピーカーがいかに狭い帯域でしか音を再生していないかがあまりにもはっきりとわかってしまうから恐ろしい。スピーカー・キャビネットの重要性を知れば知るほど、CallahamだろうがOD-100だろうが楽々鳴らし切ってしまうこの1発キャビを手元に置く贅沢に憧れることだろう。
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[Special 6 Closed-Back Cabinet]

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12 VHT [Special 6 Closed-Back Cabinet]

 中国資本のAXL社がスティーヴン・フライエットからVHTの商標を取得して以来、すっかり小型アンプのイメージが定着した新VHTだが、その製品群は一概に大陸産とは侮れないクオリティの高さで新たな支持層を獲得し続けている。Special 6 Closed-Back Cabinetは、そんな彼らが手がける高性能なシングル・エンド・アンプ、Special 6シリーズのヘッド用セットとして開発されたシンプルな12インチ1発キャビネットであるにも関わらず、単体の性能の良さで何故かアンプとは別に評価されることの多い希有な個体である。

 縦長のスマートなシルエットから見てわかる通りかなりサイドのシェルがスピーカーに接近しているので、レゾナンス的には低域の減退があるはずなのだが、実際には意外なほどロー・エンドのパンチには存在感があった。しかも、ミッド寄りのドライブ特性にちょっとした高級ブティック・アンプを思わせる「溜め」があり、100Hz下の方が先に飛んで来て、後から立ち上がったミドルのシコシコした粘りのある鳴りが、大胆に音域を押し広げていく感じだった。それは思った以上に悪くない……どころか、優秀なサウンドだ。自社製のスピーカー、VHT ChromeBackの前のめりな音質もかなり効いているようで、圧縮されて先が潰される感じになるはずの「ころり」として垢抜けないピーク・レンジが、この角度の無い1発キャビという環境の中で上手く皮膜を剥がされてさらりとした芯の部分だけにシェイプされている。

 もちろん、レスポンスや音抜けといった面から言えばそこまでタイトに絞られてるとは言えないが、それでも、この価格帯では奇跡的なミッド・レンジの分厚さだ。容量も60Wあるので、下手なVintage30載せの1発キャビよりも、50Wマーシャル系にドンピシャな音に思えた。バスレフが無いにも関わらずこの均整のとれた低域の処理は、見事という他は無い。ソリッドな出音のキャビと割れ気味なラウド・スピーカーによる奇跡的なマッチングが生んだこのお値打ちサウンド、キャビネット初心者にも自信を持ってお勧めできる音質だ。
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[Tube Meister 112 Cabinet]

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13 Hughes&Kettner [Tube Meister 112 Cabinet]

 ヨーロピアン・ハイゲインの名門Hughes&Kettnerが誇るセンター・モデルにして、万能小型フル・チューブ・スタックTube Meisterシリーズ。その36W以下のヘッドに最適化された12インチ1発キャビネットであるTube Meister 112 Cabinetは、発売当初から、音質、サイズ、デザイン、価格のバランスに優れた名機として、コンシューマー層を中心に評価され続けてきた製品である。

 確かに、ちょっと音を出しただけでも、すぐにそのフォーカスの合ったサウンドに好感が湧く。スピーカーに中高域の再性能に優れるVintage30を搭載していながら、低域はタイトなだけでなく直進性の強い剛性感に満ち溢れていて、予想以上にアグレッシブな発声だった。高域は不必要にギラギラせず、しかも乾いているので、汎用性が売りのBognerやCAAのキャビが唯一苦手にしている熱風の様なテキサス・サウンドの再生にもバッチリだ。一方、中域から低域に向かってはやや凹んだ帯域があるものの軽い印象は全く無く、分離感のあるマットなトーンが現代的なオープン・プッシュのあるチューブ・ドライブによく食らいつき、コシの強い歪みを形成している。バスレフから回り込んでくる高域のエグ味も拡散しすぎず、とにかく、1発キャビにありがちな、どこか薄布を通して聴く様な「小さくまとまった感」が少しも無く、かなりワイルドな響きを持っていると感じた。

 エフェクターとの相性も良く、特にクリーン時のディレイが思いのほか深く再生できるのには驚いた。重量のあるプライ・シェルにありがちなビリビリとした周波数のカブリはほとんどなく、オープン・キャビと同等とまではいかなくとも、かなり理想的に音が抜けてくれる。ただ、その分、クローズド・バックとは思えないほどクリーン時には後方から大胆に低音が漏れている印象だったので、壁を背にして再生すると反射で音が濁ってしまうきらいがあるので注意したい。きっちりとこのキャビに性能分の仕事をさせたいならば、後方に十分な空間をとるか、部屋で使うならカーテン等を背にして使うと良いだろう。
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[MONO-KAI]

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14 Kammler [MONO-KAI]

 ドイツはハンブルグの工房でスピーカー以外の全てを自社生産し、世界中のプロ・ミュージシャンから熱い視線をそそがれている話題のハイエンド・キャビネット・ブランド、Kammler Cabinets。特許技術である「The Tunator」(チューネイター)──スピーカー・マグネット部を背後から掴む環状のフレームと縦横四方のシェルに固定されたテンション・バーによって、キャビネット内部の周波数振動とダンパー/エッジのシンクロ効率を向上させる機構──を活かした音響特性により、澄み切ったレンジ性能を得ることができる。

 キャビネット内で増幅された特定周波はバッフル板を介したバネ運動の中で位相を打ち消し合うのが普通だったが、このTunatorがスピーカーそのものの振動をキャビネット内の周波数バネに同調させるように働くため、同位相による再生域が増幅され、本来ロスしていた音の形状を鮮やかに回復することができるのだ。しかもテンション・バーの「張り」は、後から手動で自在に調整できるので、ヘッドの特性に合ったベストな設定を見つけてやることで、まるでスピーカーの数が増えたかのように情報量が一気に増し、音も密度も飛躍的に上がる感覚をその場で体感できることだろう。

 そして、さらにKammlerのキャビネットが素晴らしいのは、その色彩の強まった音像をフラットに“ならす”のではなく、さらにそれに独自のキャラクターを積極的に付加するようチューニングされている所だ。同社の12インチ1発キャビであるMONO-KAIも同様で、このキャビを通すと、みっしりとした300Hz付近から上をなだらかに持ち上げるのと同時に、ロー・エンドはコンコンと硬質な出音になる。あまりハイファイな音源だとそれほどでもないが、ビンテージMarshallやツイード・アンプのエクステンションとして用いると、そのあまりにクリアな押し出しに思わず唸らされるほどだ。キャビネット自体がかなり重く作られているため、オープン・バックでも歪みの中でしっかりとアタックが立ち、サステインも実に伸びやかで美しく出る。

 今回リサーチしたのはCelestion Vintage30が搭載された個体だったが、想像以上にパワフルかつ高域は滑らかで、今まで知っていたV30サウンドより、さらにもう一歩踏み込んだ領域のサウンドを引き出していた印象だった。MONO-KAIでは他にもAlnico Blue、Gold Bulldogや麻スピーカーで名高いTone Tubby等がメーカー・オプションで選択でき、自分のシステムに必要な音が明確なユーザーほど、そのキャビネットの魔性が紡ぎ出す他のスピーカーのサウンドが気になるはずだ。スピーカー・キャビネットがもたらす新たな自由と個性、そしてそれが掘り下げる既存のアンプやスピーカーの新たな領域をぜひ体感して欲しい。
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[C112 SMALL] 写真:イシバシ楽器 デジマート店

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15 DV Mark [C112 SMALL]

 イタリア生まれのこのキャビネットに出合ったならば、総重量7.6kgというその驚くべき「軽さ」に、きっと誰もがギター・キャビネットの新時代を予感せずにはいられないだろう。DV Markは、アナログな操作性と柔軟なデジタル・モデリング技術を組み合わせたMULTIAMPシリーズ等で欧州を中心にめきめきと頭角を現したアバンギャルド・アンプ・ブランドだ。このブランドのスピーカー・キャビネットは、エンクロージャーの作り自体もさることながら、同じイタリアの、オーディオ音響製品などでチタンやネオジム磁石のドライバーを使用することで有名なB&C社製のカスタム・スピーカーを搭載することで、圧倒的な軽量化を達成する。

 そもそもギター用スピーカー・キャビネットは、反響コントロールと物理振動による定位のズレを防ぐため、理想的な出力環境を構築するファクターとして最低限の筐体重量が必要というのがセオリーであったことは、すでにご承知の通りだ。だが、いかに小さく強力なネオジム・マグネットをドライバーにしていたとしても、このC112 SMALLの7.6kg(平均的な12インチ1発キャビの約半分)という恐るべき軽量と、多彩な音色を誇るモデリング・サウンドをカバーするだけの多彩な再性能を両立させることは、言うほど容易いことでは無かったはずだ。

 凛と張りつめたハイ・ミッドのせり出しと、それを受け止める広大なレンジ感がいかにもギターらしい表現力をもたらしているのがはっきりとわかる。さらに、ピッキングの粒立ちが非常に軽妙で、歪み成分に広角に割り込んでくるしなやかな弾力がハイゲインへの耐久性を保証する。一方で、うわずり気味にも思えるそのハイ・ミッドの音質も、リアルなチューブ・アンプを合わせてみるとそこまでハイファイではなくなり、特に6L6GC管や6V6管を搭載した機種ではしっかりとダークでジューシーなドライブを紡ぎ出してくれたのも嬉しい誤算だった。

 デジタル・アンプ以外だと低音の引き締め感がややあざといものの、音色的に実践で使うのに何の遜色も無い完成された統制力をどんな環境でも発揮できるように作られているのがよくわかる。近年再び流行りはじめている、キャビネット独自の個性を音に反映させるタイプではなく、100%の「受け」の音質を持ったキャビだ。軽量で可搬性に優れること、さらに150Wの大容量であることもあわせて、こういう個性も今の時代、十分な武器になってくれることだろう。……ちなみに、DV Markの主催者であるマルコ・デ・バージリスは、ベース・キャビネットにネオジム・ドライバーによる新基準を定着させた人物でもある。そのノウハウが、DV Markのサウンドにもきちんと受け継がれているというわけだ。
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[TSA112C]

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16 Ibanez [TSA112C]

 世界で最も有名なオーバードライブ・エフェクターのひとつ、Tube Screamerと同等の歪み回路を内蔵した真空管アンプ・ヘッドIbanez TSA15H──そして、それと対を成す、専用スピーカー・キャビネットTSA112Cこそ、国内に残された古き良き国産チューブ・スタックの伝統を総括する個体である。ダーティで、瘤のようにミッド・レンジを飽和させるTSドライバーはまさに20世紀チューブ・サウンドの王道であり、それを再生するために生まれたTSA112Cもまた正統派な再性能を外すことのない、実に堅実な音質のキャビネットだ。

 キャビネット本体の明度はブライト目に設定されており、歯切れの良いタッチに追従するようにハイ・ミッドの倍音が綺麗に抜けてくる。もっさりとなりがちなTS系クランチに押し負けること無く、アタックの色調をより華やかに再生するところも実に良く計算されており、グリッジな鳴りに削られていくサステインの先折れ感を暖かみのある低域が支える骨太なトーンもカッコいい。搭載されたCelestion Seventy80のど真ん中のレスポンスが奔(はし)る感触もオープン・バックのこのキャビの特性とよくマッチしており、バンと胴の張ったワイドなドライブを作るのに実に有効である。もう少しクリーン〜クランチ時の高域の繊細さが際立っても良い気もするが、1発キャビとしては奥行きの容積も深いのでこれ以上を求めるのはさすがに酷というものかもしれない。

 このセットであれば当然のことながら古いFenderやMesa/Boogieのようなアンプには特に相性が良く、ギターがシングルコイルの場合には上手く耳に痛い部分を中和してガッツのあるサウンドに変換してくれるので、万能型のエクステンション・キャビネットとして現場でもガンガン使っていけることだろう。ちなみに、試奏した時、たまたま近くにあったDivided By 13のRSA 31ヘッド(白)を合わせたら、これまた熱にうかされる様な極上のトーンを吐き出したということだけは付け加えておこう。
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[THRC112]

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17 YAMAHA [THRC112]

 ツボをついた玄人好みな濃密サウンドを、わずか4kg前後という超軽量なヘッドから絞り出すYAMAHA製デジタル・モデリング・アンプのフラッグ・シップ、THR100シリーズ。その専用キャビネットのTHRC 112は、実にYAMAHAらしい格式高い洗練された外観にも関わらず、豪奢な18mm合板にクローズド・バックという「ハイゲインもおまかせ」なモダン特性を匂わすあからさまなミスマッチ仕様に、その出音が気になって仕方がないという人も多いはず。さらに、JC-120等に最適なリプレイスメント・スピーカーとして今や定番となったEminence Legend1218をそこに装備しているとなれば、さらに激しくイメージをかき立てられているに違いない。

 だが、驚くなかれ。最初に、このスピーカー・キャビネットを鳴らした時の音の印象は、なんと「おとなしい」、だった。静か、というわけではなく、きちんと歪むし、高域もよどみなく伸び上がる上、音量も十分すぎるほどにあるのだが、とにかくあの近代的なBognerやLine 6のキャビで見られたような強引にぶん回すパワーがそこからは一切感じられないのである。アカデミックなドライブを持ったDiezelやSoldanoといったハイゲイン・アンプを、入力ギリギリの容量で鳴らしても、その印象はほとんど変わらなかった。そこで、ふと思い違いをしていたことに気がついたのである。キャビネットそのものの特性を引き出すためにとリサーチ用に用意していたチューブ・アンプ達を全てそこから退かし、そこに、本来「一番に試すべきだったアンプ」を乗せてコードをひとかきした瞬間、……ついに、求めていた音が出た。ギリギリと喉をかきむしるヒリつく様なロード・ゲインと、その先端をほんの少し丸くした倍音の濁流。クリーンは鮮やかで深い奥行きをたたえ、クランチは細い鉄製の管をまき散らす様にシャキシャキと歌い出した。そのヘッドこそYAMAHA THR100だった。そう、このキャビは、デジタル・アンプのパワー出力に完全に合わせてチューニングされたキャビだったということがその時になってようやく理解できた。

 思い立ってKemper(パワー・アンプ付き)を乗せてみるとこれも大当たりで、今回紹介した中では圧倒的に音が動き出すのがわかった。スピーカーを含め、デジタル・アンプをメインに鳴らすためのギター用キャビネット・コンディションというものが確かに存在することを、長年アンプに携わってきてこれほどはっきりと感じたことは今まで無かった。今の所、12インチ1発キャビという括りの中では、間違いなくこのキャビでしか出せない音がある。THRやKemperのようなデジタル・アンプのダイレクト再生を任せられる小型キャビにお悩みの方は、まず、このキャビネットを試してみることを強くお勧めしたい。
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[112 CB]

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18 KIGOSHI [112 CB]

 国産ハイエンド・キャビネット製作の寵児として、独自のアプローチが話題のKIGOSHI。合板を用いず、硬質な真樺やカーリー・メイプルといった加工の難しい高級材をタッピング・トーンの上で慎重に削り出し、徹底した密着性と剛性を追求した蟻組でエンクロージャーを整形するというまるで宮大工の様な職人芸に徹した組み上げは、まさに芸術の域に達する勢いだ。

 低域を潰してしまいがちな内部容量の少ない1発キャビにも関わらず、箱鳴りの反射をあえて活かすようにシェルが垂直に音を飛ばしているように感じる。ダンパーはあえて抑制せず、不必要な部分だけをバスレフで抜いていくチューニングで、音をもたつかせる低音の増幅は皆無と言って良い。ただ、その分、ミッドの定位は中心より下にあり、きちんと音がダイナミクスの底に流れ出てくる。これだけ共鳴の強いマテリアルを使用しているにも関わらず、音がよどみなくセンターに集まっている感覚があり、力強く鳴るというよりは、まるで水面をそのまま垂直に立てかけたように、複雑に細かく波打つフィールが「シャン」と唸る印象だ。この鳴りは、完全に今まで“良い音”と思っていたギターの美味しいトーンの、さらに外側からもたらされている素養だ。新しく、実に豊かで奥深い響きと言えるだろう。

 今回リサーチしたクローズド・バックの112CBにはCelestionのAlnico Goldがセレクトされていたが、この選択も抜群で、鼓膜を撫でるようなシルキーな中域と、少し出遅れてから追い抜いてくるささくれた高域が、整然としすぎていたハイ・ミッドにギターらしい歪みを上手く追加してくれる。トーレックスを貼らず、木材が呼吸しやすいオイル・フィニッシュにしてあるのも、その音質に寄与しているに違いない。ここまで突き詰めると、許容量ギリギリの50Wクラスを鳴らすのに、このマテリアルを使ったパッシブラジエーター・タイプのキャビが欲しくなってしまうのは贅沢な悩みだろうか……。ともかく、ひと言で“音楽的”と論じてしまうのもためらわれるこの「賢者のキャビ」、かませるアンプによってまだまだ使い勝手が広がりそうだ。強い音ばかりを欲していた自分に飽きたら、一度こういったキャビに手を伸ばしてみてはいかがだろうか。きっと後悔はしないはずだ。
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エピローグ

 時代に逆行する様なアナログの極みにしてギタリストの聖域、『スピーカー・キャビネット』特集、いかがだっただろうか?

 ひと昔前は「キャビで音作り」はギタリストの常識だったが、今やマイ・キャビを所有する人もめっきり減り、寂しい限りだ。それでも12インチのスモール・キャビネットは現代のギタリストにもそれほど衰えない人気を維持しているようだ。よくよく考えれば、自分も、Tone Tubby、SWANSON、Friedman……思いのほか様々な12インチ1発キャビを所有していたことを思い出す。そういえば、知り合いにもボロボロになったFender Super Champ ENCLOSUREのフレームでスピーカー・テスト用の壁埋め込み用のアイソレーション格納庫を自作していた輩がいた。このサイズ感、手軽さ、そしてドライバー・マグネットの大容量化とヘッドの小型ロー・パワー化……今までただのエクステンションとしてしか用途の無かったスモール・キャビネットが、ついに、ギター・システムの最前列に君臨する時代になってきたと言えるのではないだろうか。

 「キャビは成長する」という言葉を、昔、誰かから聞いたことがある。ギター・システムの中では、ギターと同等に自然のマテリアル(木材)による音質に依存し、アッセンブリーよりもむしろその組み上げで音の方向性が変わる木製スピーカー・キャビネット。しかも、音を出す部分として、ギターは「弦」、キャビは「スピーカー」といったように消耗交換パーツによって構成される点も似通っている。現に、ビンテージのキャビは材の質や、渇き、職人の技巧によって音の出方が現代のものと異なり、その時代特有の音に価値を求める人も増えているという。価格が高騰するのは困るが、そういった時間経過でまた新しい音の発見があるのだとしたら、スピーカー・キャビネットも今後はギターと同じように何十年も手元において音を育てていくような管理が主流になってくるかもしれない。しかも、スピーカー・ユニット自体にも、真空管と同じようにエイジングの楽しさがある。今はまだ少ないが、キャビの材やスピーカー・エイジングをトータルで管理する「キャビネット・ブリーダー(コンダクター)」は、将来かなりの専門技術職になっていくかもしれない。そういう視点から見ていくと、今後も、スピーカー・キャビネットに関わる楽しみは全く尽きることが無さそうだ。

 2016年のド頭から、またまたマニアックなネタでスタートを切った機材界のエスプレッソ的読み物コンテンツ「Dr.Dの機材ラビリンス」を、本年もどうぞよろしく。それでは、次回2/10(水)もお楽しみに。

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製品情報

ギター用12インチ×1スピーカー・キャビネット

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プロフィール

今井 靖(いまい・やすし)
フリーライター。数々のスタジオや楽器店での勤務を経て、フロリダへ単身レコーディング・エンジニア修行を敢行。帰国後、ギター・システムの製作請負やスタジオ・プランナーとして従事する一方、自ら立ち上げた海外向けインディーズ・レーベルの代表に就任。上京後は、現場で培った楽器、機材全般の知識を生かして、プロ音楽ライターとして独立。徹底した現場主義、実践主義に基づいて書かれる文章の説得力は高い評価を受けている。

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